※この作品はR-18です。

ハイスクール転生アンド巻き込まれ   作:ミタライ

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第六十一話 初めての三人ダイブ、正統な進化

 

 

 

 

――穿界迷宮『YGGDRASILL』、接続枝界『黄泉比良坂』――

 

 

 

 ――第『(さん)』階層、『既知外(きちがい)』領域――

 

 

 

 ゴールデンウィーク直前の日の午後。

 健太(けんた)は約束通り、尚典(なおふみ)来斗(らいと)の二人と共にダンジョンダイブを行っていた。

 ダイブするのは『既知外(きちがい)』領域第三階層。

 

周回レベル上げ(タイムターナー)』によるくり返し時間も加味すれば、健太(けんた)にとっては碧鷺(へきさぎ)荘の自室よりも、白鶴(はくつる)荘の(らん)の部屋よりも長時間その身を置いている『既知外(きちがい)』領域第三層。

 

 その第三階層の『界門(ゲート)』玄室の一つで、健太(けんた)は『界門守護者(ゲートキーパー)』とパーティーメンバーの戦闘を見守っていた。

 

「ガアア!」

 

「《うわああ》!」

 

界門守護者(ゲートキーパー)』――ゴブリンキングが片手で振り下ろす長柄三日月斧(バルディッシュ)来斗(らいと)が振り下ろす両手持ちの『金砕棒(かなさいぼう)』が激突する。

 大重量の金属同士がぶつかり合う轟音の後、一歩後ろに下がったのはゴブリンキングだった。

 

 多少太めだが身長はむしろ平均よりわずかに低い来斗(らいと)が、身長二メートル越え、体重百数十キロと思われるゴブリンキングを正面から力で押し返したのは、賞賛に値するだろう。

 

 たとえ開幕早々、健太(けんた)がゴブリンキングの左腕を斬り飛ばした影響で、本来両手で扱うべき長柄三日月斧(バルディッシュ)を片手で振りまわしているとしても。

 

 ゴブリンキングが一歩後ろにたたらを踏んだ瞬間、男としては高い少年の声が響き渡る。

 

「《急急如律令(きゅうきゅうにょりつれい)》!」

 

 次の瞬間、石造りの床から唐突に黒みを帯びた緑の茨のような植物が生えてきた。それはちょうど一歩後ろにたたらを踏んだゴブリンキングの足元だ。

急急如律令(きゅうきゅうにょりつれい)』は『陰陽師(オンミョウジ)』のスキルである。これ自体は、攻撃のスキルではない。

急急如律令(きゅうきゅうにょりつれい)』とは、「急ぎ定められた律令(りつれい)(法)に従い実行せよ」の意味であり、これはまだ発動していないスキルを緊急発動させるスキルである。

 

 尚典(なおふみ)は、来斗(らいと)とゴブリンキングが戦っている間に、自動では発動しない攻撃スキルを床に複数布陣しておいた。そして、そのポイントにゴブリンキングが足を踏み入れた瞬間「急急如律令(きゅうきゅうにょりつれい)」のスキルで発動させたのである。

 

陰陽師(オンミョウジ)』は出来ることの幅が非常に広い反面、単純な威力では他の『術士(マギ)』系に劣る傾向にある。

 尚典(なおふみ)はその欠点を補うため、「じっくり時間をかけて高威力のスキルを布陣」して「タイミングを合わせて発動」することで補っていた。

 

「ギャア!?」

 

 茨のような植物に片足を締め付けられたゴブリンキングは野太い悲鳴を上げる。茨のような蔦は、ギリギリとゴブリンキングの太い足を締め付け、その棘で出血を強いる。

 しかもその蔦はゴブリンキングの力でも容易くは振りほどけないくらいの強度があるらしく、ゴブリンキングの右足は地面に釘付けだ。

 

「よし、上手くいった。来斗(らいと)!」

 

「うん! 《はあ》!」

 

 最初に健太(けんた)に左腕を斬り飛ばされ、今尚典(なおふみ)のスキルで右足を封じされたゴブリンキングに、来斗(らいと)は再度『強撃(スマッシュ)』を叩き込む。

 

「ヒギッ!?」

 

 来斗(らいと)金砕棒(かなさいぼう)で右肩を砕かれたゴブリンキングは、たまらず右手一本で持っていた長柄三日月斧(バルディッシュ)を落とした。

 

「うわあ! はあ! げああ!」

 

 その機を逃さず、来斗(らいと)金砕棒(かなさいぼう)でゴブリンキングを乱打する。その表情や発している汚い声は、追い詰められて反撃するいじめられっ子のごとくだが、攻撃自体は意外なくらいにちゃんとしている。

 乱打はその数こそそう多くはないが、一撃一撃が異常に重い。狙いは大雑把だが、元々打撃武器と言うのは精密な狙いを必要とされる武器ではない。

 

「《招来、猿鬼(えんき)》」

 

 そうしている間に、尚典(なおふみ)が猿型の式神を召喚する。日本には『猿鬼(さるおに)』という強力な妖怪の伝説があるが、今尚典(なおふみ)が召喚したのは普通の日本猿を模った式神である。それでも、両手が使える式神というだけで使い勝手が良い。

 

陰陽師(オンミョウジ)』のスキルである『式神(シキガミ)』は、大きく分けて『思念(しねん)』『形代(かたしろ)』『調伏(ちょうぶく)』の三種類がある。今尚典(なおふみ)が操っているこの猿式神は、『形代(かたしろ)』型だ。

 

 猿式神は、尚典(なおふみ)の命令に従い、ゴブリンキングが来斗(らいと)に滅多打ちにあっている足元にそっと忍び寄り、ゴブリンキングが落とした長柄三日月斧(バルディッシュ)の柄を両手で掴むと、床に引きずりながらズリズリとゴブリンキングから遠ざけていく。

 

 武器を拾われなければ、ここからの逆転はない。

 

 元々基本六職の中でももっとも力が上がりやすい『戦士(ファイター)』系だが、そのレア職である『殴打士(ビーター)』はさらに力、攻撃力に特化している。

 

「ひい! おお! ごばああ!」

 

「ギ……ヒギイ!」

 

 使用している金砕棒(かなさいぼう)の威力も相まって、スキルを使わずとも十分な破壊力だ。

 

「グウウ……!」

 

 ほどなくしてゴブリンキングは、クリスタルと長柄三日月斧(バルディッシュ)を残し、瘴気へと返った。

 

 

 

 

「ふう、思ったよりやれたかな?」

 

「だね、ほとんど苦戦しなかった」

 

 戦闘が終わりひと息ついたところで、来斗(らいと)尚典(なおふみ)は今の戦闘についてそう自己評価を下した。

 最初の一撃以外、見守るにとどまっていた健太(けんた)も同じ意見だ。

 

「同感だな。今の来斗(らいと)尚典(なおふみ)なら、両腕があっても普通に勝てただろう」

 

 健太(けんた)のお墨付きに、来斗(らいと)尚典(なおふみ)は嬉しそうに笑いながらも、ほぼ同時に拒絶の言葉を発する。

 

「多分勝てるけど、その場合は俺が負傷する可能性が高いから、もうしばらくは勘弁してください」

 

「うん、僕らは上級生の上位パーティーと違って「念のため」ポーションを購入しておけるほど、『銭』の余裕がないからね。負傷の可能性は避けられるだけ避けるべきだよ」

 

 来斗(らいと)尚典(なおふみ)の言葉は、こちらも正しかった。

 この学園のダンジョンダイブは、多くの部分においてRPGゲームのそれに近いが、大きな違いの一つに回復手段の乏しさがある。

 ゲームのパーティーならばほぼ必須な回復職がとてつもなく希少で、回復アイテムであるポーションは地上ではすぐに効果を失う。一応、購買では買い取ったポーションをまだ効果が残っている状態で売っているが、今尚典(なおふみ)が言った通り一年生が「念のため」として購入できる価格ではない。

 その上『死に戻り』した場合には、その日のダイブで稼いだ経験値もドロップアイテムも記憶すら失われる。

 結果として、経験値稼ぎには経験値の多い強敵に挑むより、無傷で勝てる弱敵を多数倒す方が効率が良い。

 

 そのセオリーに従って、健太(けんた)たちのダンジョンダイブも、ノーマルゴブリンの群れは尚典(なおふみ)来斗(らいと)だけで対応し、『逸脱個体(オーバーボーダー)』は健太(けんた)が参戦、という形を取っていた。

 

 今日一日の戦闘で、尚典(なおふみ)来斗(らいと)のコンビネーションはかなり良いところまできていた。

 前線で足を止めてぶん殴るしかできない来斗(らいと)と、後方から攻撃、補助の手数が豊富な尚典(なおふみ)が能力的に相性が良いのはもちろんのこと、どちらも性格的に強くものを言う人間ではないことも良かったのだろう。

 お互いを尊重し、意見をすりわせることが出来ている。

 

 ちなみに、健太(けんた)を含めた三人によるパーティー戦での評価は今のところ保留だ。

 健太(けんた)が攻撃に回ると尚典(なおふみ)来斗(らいと)の出番がなく、健太(けんた)が『挑発(プロヴォーク)』を使用して防御に専念すると、尚典(なおふみ)来斗(らいと)は「こちらに視線もくれない(まと)」を一方的に攻撃するだけになってしまう。

 これでは、三人のコンビネーションがどうとかいう話にならない。

 

「そもそも地力が違い過ぎて、健太(けんた)が一人じゃ危ないモンスターって、ぶっちゃけ今の僕らじゃただの足手まといだよね」

 

 という尚典(なおふみ)の意見に、来斗(らいと)健太(けんた)自身も同意したため、健太(けんた)を含めた三人でのコンビネーションの確認は後回しになっている。

 現状優先されるのは、来斗(らいと)個人のレベル上げ。その次が、来斗(らいと)尚典(なおふみ)の戦闘のすり合わせであった。

 

 そのため、本日の健太(けんた)の役割は、「尚典(なおふみ)来斗(らいと)では危険な敵の排除」に限定されており、その分ドロップ品を拾い集める役目を自分に課していた。

 ゴブリンキングの大ぶりなクリスタルを袋に放り込み、全長三メートル超える長柄三日月斧(バルディッシュ)を片手で軽々と拾い上げた健太(けんた)は、念のため二人に確認する。

 

「これ、使う奴いるか?」

 

「俺は刃のついた武器は使えないから」

 

「重くて無理」

 

 二人の答えは予想通りだった。

 

 『殴打士(ビーター)』の来斗(らいと)は、武装が打撃武器に限られている。今使っている健太(けんた)から譲ってもらった両手持ちの金砕棒(かなさいぼう)は、『無銘(ノーネーム)』だがれっきとしたマジックアイテムだ。長柄三日月斧(バルディッシュ)に乗り換える理由がない。

 

 尚典(なおふみ)は単純に腕力不足だ。尚典(なおふみ)の『陰陽師(オンミョウジ)』という(クラス)は『術士(マギ)』系でありながら、武器戦闘にも対応できるマルチクラスのため、他の『術士(マギ)』系と比べると力が成長しやすい。だが、それでも三メートルを超える長大な武器を扱えるほどではない。

 大きさは『職人(クラフター)』に『適合(アジャスト)』のスキルを使ってもらえば縮めることは出来るが、重量は変わらないのだ。

 

「では、これは購買で『銭』に変える」

 

「そうなるよね」

 

「うん、それで良いと思うよ」

 

 健太(けんた)とのダイブでは、武器も『モンスターカード』もボロボロドロップすることに、いい加減慣れてきた来斗(らいと)尚典(なおふみ)は、同意を示す。

 

 ダンジョンダイブにおける『銭』やドロップ品の分け方については、事前に取り決めてある。

 『銭』はどんな時も三等分。ドロップ品は、『使う者』が貰う。ただし、ドロップ品の偏りが激しい時は、月に一度の話し合いで相談。という形に落とし込んだ。

 この辺りは、三人ともゲーム、アニメ、漫画をたしなむオタクであることがプラスに働いた。

「活躍した奴ほど取り分が増える」とか「キャリーされている間は取り分が減る」とかをやりだすと、各々の思っている基準のすり合わせが難しくて大変であることを、理解しているからだ。

 この手の取り決めは、シンプルで異なる解釈の余地がないに越したことはない。

 

 最初は、ドロップ品も全て『銭』に換算して現物が欲しい者はそこから買い取る、という提案もあったが、ドロップ品の価格の上下差の激しさにその提案も断念した。

 使えるユニーク個体の『モンスターカード』や、『固有武装(オリジンギア)』の武具などの評価金額は平気で数千万『銭』となるのだ。それでは場合によっては購入した者がその後しばらく借金生活に喘ぐ羽目になる。

 

 だから、ドロップ品に関しては『使う者』がもらえる制度にした。運の偏りが生じた場合には、『匠工房(アデプトワーカーズ)』案件だ。

 ドロップ品に欲しい装備が出なかった者が欲しい装備を『匠工房(アデプトワーカーズ)』に依頼して、作成に必要とされる素材を三人で取って来ると決めている。

 

「希望がぶつかる可能性があるのは、俺と来斗(らいと)の鎧くらいだな。ひとまず、俺は今のつけている胸部鎧(ブレストアーマー)があるから鎧がドロップしたら原則来斗(らいと)が優先だ」

 

「はい、ありがとう」

 

 健太(けんた)の言葉に、来斗(らいと)は真面目に礼を言う。

 足を止めての戦闘を得意とするという点に関しては健太(けんた)来斗(らいと)は似ているが、メインが小剣と片手盾による守備の固い戦い方の健太(けんた)と、両手持ちの金砕棒(かなさいぼう)を振りまわす来斗(らいと)では、鎧の重要度は来斗(らいと)が上だ。

 健太(けんた)から譲り受けた両手持ちの金砕棒(かなさいぼう)は、『匠工房(アデプトワーカーズ)』で『適合(アジャスト)』してもらってもなお、二メートル近い長さがあるので、普通のゴブリン相手ならば向こうの攻撃が届かない遠間からこちらが先に初撃を叩き込めるが、モンスターはそのような可愛らしいサイズのモノばかりではない。

 今さっき倒したゴブリンキングのように、来斗(らいと)金砕棒(かなさいぼう)より長大な長柄の武器(ポールウェポン)を使う敵もいるし、巨人種や竜種ならばその体格だけで来斗(らいと)金砕棒(かなさいぼう)以上のリーチを誇る。

 そう考えると、『この三人で』これより先に進むには来斗(らいと)の防御力向上は必須項目と言えるだろう。

 健太(けんた)には、今も装備している白黒虎革製の『胸部鎧(ブレストアーマー)』があるという理由もある。

 

(ひとまず来斗(らいと)には、ノーマルの鎧犀(アーマーライノセラス)の突撃程度は正面から受け止められるようになってもらうべきだな)

 

 来斗(らいと)の回避能力で鎧犀(アーマーライノセラス)突撃(チャージ)を回避できるとは思えない。ならば、受け止められるようになってもらうしかあるまい。

 

「え、ええと、なにか?」

 

 なんとなく健太(けんた)の視線に不吉なものを感じた来斗(らいと)が恐る恐るそう尋ねるが、健太(けんた)はこの場では首を横に振る。

 

「いや、何でもない。ひとまず、来斗(らいと)の鎧の次は尚典(なおふみ)の槍か」

 

 そう言って健太(けんた)は、尚典(なおふみ)が持つ槍に視線を向ける。尚典(なおふみ)が持つ槍はゴブリンのドロップ品を『匠工房(アデプトワーカーズ)』で研ぎ直してもらった代物だ。

 元の素材と価格からみれば破格の性能をしているが、これからも使い続けられる性能かと言われると、胸を張って「そうだ」とは言いづらい。

 だが、健太(けんた)の提案に尚典(なおふみ)は首を横に振る。

 

「いや、僕は後回しだよ。僕の主武器は健太(けんた)がくれたこっちだから」

 

 そう言って左手の甲を見せる尚典(なおふみ)の左中指には、銀色の指輪は填めれらていた。

 銀のストレートラインのアームで、中央に小粒の透明な宝石が埋め込まれたファッションリングだ。

 一見すると白金(プラチナ)金剛石 (ダイヤ)指輪(リング)に見えるが、ダンジョンの『宝箱(ジャックポット)』から出たものなので厳密には違うのかもしれない。

 さほど強くはないがれっきとしたマジックアイテムである。効果は「『術士(マギ)』系のスキルの発動を助ける」というもの。

 購買で販売している『術短杖(マジックワンド)』『術杖(マジックロッド)』『術長杖(マジックスタッフ)』と同系統の機能だ。

 

 ただし、その効果は購買で販売されている杖とは一線を画する。

 

 基本的にスキルは『声』を放たなければ発動しない。それが『戦士(ファイター)』系や『盗賊(シーフ)』系の初期スキルならば「はあ!」とか「ほっ」といった意味のない気合の声でも発動可能だが、それよりはるかに複雑な『術士(マギ)』系の魔法(スキル)は、「意味ある言葉」を正確に紡ぐ――『言霊による補助』が不可欠とされている。

 だが、この指輪を起点にすればそれこそ第一段階職である『術士(マギ)』の魔法(スキル)ならば、「はっ!」の一言で発動可能だ。

 

 強力というより便利なマジックアイテムと言えるだろう。

 

 指輪型というのも、尚典(なおふみ)にとっては良い。『陰陽師(オンミョウジ)』は『術士(マギ)』系の中では武器戦闘にも対応したクラスだ。尚典(なおふみ)自身、ノービス時代は槍でコボルトやゴブリンを屠っていたこともあり、槍も多少は戦力の足しになる。

 杖と槍を同時の装備するのは難しいが、指輪と槍ならば装備するだけなら問題ない。

 それでもモンスターと相対しながら、「この距離は魔法だ」「ここまで迫られたなら槍だ」と正しい判断を下すのは、決して簡単なことではないが。

 

「まあ、尚典(なおふみ)の槍は確かに必須装備ではないか。そう考えると、来斗(らいと)の鎧以外はそこまで急ぐものではないな。では、今一番足りていないものを優先して獲得するか」

 

 そう言って健太(けんた)は、部屋の隅にある『界門(ゲート)』を指さす。

 

「一番足りてないもの?」

 

「それって」

 

 首を傾げる尚典(なおふみ)来斗(らいと)健太(けんた)は淡々とした口調で告げる。

 

「レベルだ。レベリングするぞ」

 

 

 

 

 

 その後、尚典(なおふみ)来斗(らいと)は『既知外(きちがい)』領域第四階層にて、健太(けんた)が無力化したモンスターをただひたすら殺しまくった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 無事、初めての男子三人でのダンジョンダイブを終えた健太(けんた)来斗(らいと)尚典(なおふみ)の三人はそのまま真っすぐ夕暮れの『聖堂(カテドラル)』にいた。

 言うまでもなく『聖堂(カテドラル)』の中にいるのは、来斗(らいと)だ。

 尚典(なおふみ)はすでに第二段階職の『陰陽師(オンミョウジ)』のため、今日一日のダンジョンダイブで転職(クラスチェンジ)可能になったりしない(しかも第三段階職に転職(クラスチェンジ)するには、第十階層に到達している必要がある)。

 健太(けんた)に至っては、自前の『職業選択の自由(プリースト・オブ・ダーマ)』があるのだから、『聖堂(カテドラル)』に用はない。そもそも、健太(けんた)は昨日『闘士(ウォーリア)』に転職(クラスチェンジ)したばかりだ。今日は出来るだけ来斗(らいと)尚典(なおふみ)(特に来斗(らいと))に経験値が行くように努めたのだ。今日一日で転職(クラスチェンジ)にこぎつけるはずもない。

 

 

 

 

 

 来斗(らいと)

 

 

 

戦士(ファイター)』『文官(オフィサー)』『遊び人(ニート)

 

闘士(ウォーリア)騎士(ナイト)重殴士R(ヘヴィビーター)

 

 

 

 に転職可能。

 

 

 前回から追加されたのは、『戦士(ファイター)』系の第二段階職が三つだけだ。

 どうやら、来斗(らいと)は正当かつ順当に経験を積んでいるらしい。

 若干面白みがないとは思うが、『遊び人(ニート)』系の非戦闘職や男用SSR職などが開いていないのは好材料だ。

 健太(けんた)尚典(なおふみ)と共に『聖堂(カテドラル)』の前で待っていると、健太(けんた)の脳裏に映る文字列に変化が訪れる。

 

 

 

 

来斗(らいと)は『重殴士(ヘヴィビーター)』に転職(クラスチェンジ)しようとしています。よろしいですか?

 

 

 

 

 

 

 

 はい

 

 

 

 

 

 

 

 いいえ】

 

 

 

 一瞬考えた後、健太(けんた)は素直に【はい】を選択する。

重殴士(ヘヴィビーター)』は来斗(らいと)が今ついている『殴打士(ビーター)』の正当進化版だ。来斗(らいと)は今の戦闘スタイルで固まりつつあるのだから、そのまま行くのが無難だ。

戦士(ファイター)』の正当進化版の『闘士(ウォーリア)』、守備型進化版の『騎士(ナイト)』の方が武器の制限もないので戦闘の幅が広がるのは確かだが、普段は打撃武器、ある時は剣、ある時は槍と使い分けられるほど来斗(らいと)は器用ではあるまい。

 実際、来斗(らいと)は武器戦闘の講義も打撃武器の講義しか受講していないと言っていた。

 

重殴士(ヘヴィビーター)』は、『騎士(ナイト)』より鈍重なのに『騎士(ナイト)』系と違って騎獣(パトリオット)に騎乗することも出来ない。

 

(その辺りはマジックアイテムで補うしかないな)

 

 確か『馬蹄(ホースシュー)』というスキルがエンチャントされた防具を装備すれば、移動速度が騎獣に準ずるところまで上がると聞いたことがある。

馬蹄(ホースシュー)』のスキルは馬型のモンスターならばほとんどが所有しているスキルだ。ただし、どのモンスターも他にも二つ三つスキルを有しているので、『モンスターカード』の『合成(エンチャント)』で『馬蹄(ホースシュー)』付装備を作ろうと思うとどうしても、「お祈り」の世界に入ってしまうのがネックだ。

 複数のスキルを有する『モンスターカード』を装備に『合成(エンチャント)』すると、「ランダムでどれか一つだけ」スキルが永続付与される仕組みになっている。

 

 

馬型のモンスターが多いのは第十一階層『砂漠草原(デザートサバンナ)』だ。第三段階職に至るレベルキャップを外すには第十階層をクリアする必要があるし、一度ソロで下を目指しても良いかもしれない。

羅城門(らしょうもん)』ダンジョンは第六階層まではモンスターのレベルが十ずつ上昇していくがそこから先は、レベルの上昇が緩やかになり、第十階層より先は必ずしも下ほどモンスターが強いとは限らなくなる。

 最初の自然領域(ネイチャーフィールド)である第十階層『密林竜園(ドラゴンガーデン)』とその下の第十一階層『砂漠草原(デザートサバンナ)』では、明確に第十階層『密林竜園(ドラゴンガーデン)』の方が、出没するモンスターは強い。

 その分、第十一階層『砂漠草原(デザートサバンナ)』のモンスターは大量に群れる種が多いので、容易いということはないのだが。

 

(ジュゲムとボンドのレベルキャップも外してやりたいし、一度ソロダイブで下まで潜ってみるか)

 

 そう言えば、『周回レベル上げ(タイムターナー)』で巻き戻している時間軸でだけ、第十階層に足を踏み入れた場合、健太(けんた)健太(けんた)の『モンスターカード』のレベルキャップは外れるのだろうか?

 健太(けんた)がそんなことを考えていると、転職(クラスチェンジ)を無事に終えた来斗(らいと)が満面の笑みで『聖堂(カテドラル)』から出て来る。

 

 将来の倶楽部員を出迎えるため、健太(けんた)はそこで思考を打ち切った。

 

 

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