※この作品はR-18です。

ハイスクール転生アンド巻き込まれ   作:ミタライ

66 / 142
第六十二話 今夜の割り振り、麻鷺荘への案内人

 

 

 

 無事、来斗(らいと)を『戦士(ファイター)』系第二段階レア職『重殴士(ヘヴィビーター)』に転職(クラスチェンジ)させることに成功した健太(けんた)達は、真っすぐエントリークラス女子寮である白鶴(はくつる)荘へとやってきていた。

 普段の健太(けんた)ならば、一度自分の寮である碧鷺(へきさぎ)荘に戻り、シャワーとオーラルケアを済ませてから白鶴(はくつる)荘に来るのだが、今日はその余裕がない。

 と言っても余裕がないのは、健太(けんた)ではない。来斗(らいと)である。

 

「はあ、はあ、はあ……」

 

 ダンジョンダイブ中は緊張感が、『聖堂(カテドラル)』では転職(クラスチェンジ)に対する期待感とその後の歓喜から気が逸れていた性欲と精力の増強を自覚してしまったのである。

 物理的にも精神的にも来斗(らいと)の「頭を押さえられる」健太(けんた)が側にいなければ、万が一が怖い。

 スキップ転職(クラスチェンジ)を果たした尚典(なおふみ)の時よりはまだマシだろうが、『陰陽師(オンミョウジ)』という『術士(マギ)』系の尚典(なおふみ)と違い、来斗(らいと)転職(クラスチェンジ)したのは『重殴士(ヘヴィビーター)』である。

 力に優れる『戦士(ファイター)』系の中でも特に力と攻撃力に特化した第二段階レア職だ。暴走した時、抑えられる人間はそう多くない。

 今の来斗(らいと)はそこまで我慢弱くないし、少し我慢すれば実咲(みさ)という「性行為に同意が成立している相手」がいることも理解しているのでまず大丈夫多とは思うが、用心に越したことはない。

 少なくとも、健太(けんた)の入浴やオーラルケアが優先されることではない。

 

「大丈夫? 来斗(らいと)?」

 

「大丈夫……」

 

 小柄な尚典(なおふみ)が下からのぞき込むようにして心配の声をかける。来斗(らいと)の反応は、その言葉ほど大丈夫そうではない。ただ、すぐさま暴走しそうなほどでもない。これならば、問題は起こさないだろう。

 ただ、言うまでもなく白鶴(はくつる)荘はそれなりの規模の女子寮ある以上、他の女子も住んでいる。当然、パートナーのいる女子もいるし、大半はどこかの倶楽部に籍を置いている。暴走して手を出してしまえば、もめる可能性もないではない。自分のパートナーが襲われた程度で目くじらを立てる男子が少数派な、色々狂った空間でもあるのだが。

 

 

 

 

 

 

 白鶴荘の食堂で、健太(けんた)尚典(なおふみ)来斗(らいと)の男子三人と、(らん)竹海(たけみ)烏琉羽(うるは)、そして実咲(みさ)の女子四人が一緒に夕食を取りながら、今日の報告と今夜の予定を話し合う。

 

「すみません、健太(けんた)さん。私も今夜は来斗(らいと)さんのところに行きたいのですが、よろしいでしょうか?」

 

 そんな中、珍しく少し真面目な顔でそう言ってきたのは、烏琉羽(うるは)だった。

 

「それは構いませんが、理由をお伺いしても?」

 

 理由もなくそんなことを言う烏琉羽(うるは)であることも知っている健太(けんた)だが、表情から多分何らかの事情があると思い、そう尋ねる。

 烏琉羽(うるは)の隣に座る実咲(みさ)が「え? 私は?」と焦りの表情を浮かべていることに気づいたのだろう。

 

 烏琉羽(うるは)実咲(みさ)に苦笑を向けて、

 

「『私も』と言ったでしょう。もちろん、実咲(みさ)さんもです。というか、あくまでメインは実咲(みさ)さんです。ですが、今夜は私がフォローにつきたいのです」

 

 そこまで言った後、健太(けんた)たちに聞こえるギリギリまで声を絞り、付け加える。

 

「先ほどのお話からして、来斗(らいと)さんは『前に進んだ』のでしょう?」

 

 直前とはいえ、ゴールデンウィーク前に一年生が第二段階職に至ったというのは、軽々に口に出来ることではない。健太(けんた)たちの報告も明言を避けた形だったが、そのニュアンスとなにより来斗(らいと)の異常なくらいに性欲と精力の高まり具合から、烏琉羽(うるは)はその事実を確信していた。

 

「はい、そうですね」

 

 健太(けんた)の答えに烏琉羽(うるは)は、ほうと感心なのか唖然なのか分からないため息を漏らした後、先ほど同様の声量で告げる。

 

「現状、来斗(らいと)さんの腕力と実咲(みさ)さんの体の強度のつり合いが全く取れていません。まあ、この学園の上級生男子なら珍しくもないのですが、彼らは慣れています。ですが、来斗(らいと)さんは全く慣れていません。ですから、私がガイド役を務めたいと思います」

 

 来斗(らいと)は基本六職の中でも一番力が上がる『戦士(ファイター)』系のさらに力に特化した第二段階レア職『重殴士(ヘヴィビーター)』だ。

 一方実咲(みさ)は電子生徒手帳の表記を信じるならノービス2。電子生徒手帳はズレに定評があるからまだノービス1――ただの一般人の可能性すらある。

 

「あ、そう言えば昨日の晩も思ったんだよね。来斗(らいと)って力強いなあって」

 

 昨晩は一晩中来斗(らいと)に抱かれていた実咲(みさ)は思い出しながら、あっけらかんとした口調でそう言う。その表情からは、現状の深刻さを理解していないことは間違いない。

 昨晩の時点でも来斗(らいと)は、『戦士(ファイター)』系第一段階レア職『殴打士(ビーター)』の(推定)レベル15だったのだ。ほぼ一般人な今の実咲(みさ)では一切抵抗できないくらいの力があった。

 その力が今日の転職(クラスチェンジ)で跳ね上がっているのだという。

 

「昨晩の来斗(らいと)さんがゴリラだとすれば、今の来斗(らいと)さんはインド象くらいになってますね」

 

「うげ」

 

 烏琉羽(うるは)の説明でやっと事態を理解した実咲(みさ)は顔を引きつらせる。

 つまり、現状で来斗(らいと)実咲(みさ)がセックスをするというのは、「性欲と精力が暴走しかけているインド象と人間」がセックスをするようなものだ。

 色々と覚悟は決まっているし、昨晩一晩でかなり来斗(らいと)に『堕ち』かけている実咲(みさ)でもちょっと、たじろぐ情報である。

 

「あの、それは烏琉羽(うるは)先輩も大丈夫なのですか?」

 

 細くてサラサラの前髪を流す様に小首を傾げる尚典(なおふみ)の言葉に、烏琉羽(うるは)は大きくはないがとても形の良い胸を張って答える。

 

「ご心配なく。伊達に『娼婦(ニンフ)』はやっていません。(とぎ)の場でしたら、第二段階職の方だけでなく、第三段階職の方でも問題なく対応できますよ。極めて稀に例外(れいがい)もいますけど」

 

 そもそも『娼婦(ニンフ)』は『遊び人(ニート)』系の第二段階職だ。戦闘職には流石に劣るが、それでもその身体能力はとっくに常人の域を超えている。

 

「なるほど、それもそうですね」

 

 感心したように頷く健太(れいがい)に少し苦笑しながら烏琉羽(うるは)は、そのまま話を進める。

 

「ええ。ですから、安全の為に今夜は私が来斗(らいと)さんと実咲(みさ)さんの補助に回りたいと思うのですが、よろしいでしょうか?」

 

 そう確認を取る烏琉羽(うるは)に、もちろん健太(けんた)にも否はない。

 

「そう言うことでしたら、むしろこちらからお願いしたいです。実咲(みさ)さんと来斗(らいと)もそれでいいか?」

 

「うん、まあそう言うことなら」

 

 同じ一年でも入学まで童貞だった男子三人と違い、実咲(みさ)は入学前にもそれなりに経験がある。さらに言えば男一人対女複数のセックスなど、新人狩りに捕まっていた頃の、男多数対女自分独りの経験と比べればどうというほどでもない。

 

「お、俺も問題ないよ」

 

 もちろん、来斗(らいと)に拒否する理由などありもしない。押しかけパートナーでベッタリと甘えてくる実咲(みさ)にはすでに(ほだ)されているし、烏琉羽(うるは)肢体(からだ)には嵌っている来斗(らいと)である。

 今夜は二人一緒と聞いただけで、すでに実咲(みさ)烏琉羽(うるは)に向ける視線が露骨なものになっている。

 

 童貞に毛が生えたような男が女二人を同時に相手するのはかなり難易度が高いのだが、そこは烏琉羽(うるは)がどうとでもするだろう。この学園なら「緊張で勃起しない」という問題は起こりえないから気楽なものだ。

 

「そうなると、こっちは私と(らん)の二人だけか。これは私も頑張らないとね」

 

 竹海(たけみ)はそう言って斜め前に座る健太(けんた)に微笑みかける。すでに部屋着に着替えている竹海(たけみ)は、短パンとタンクトップ姿だ。ラフでボーイッシュな服装、ではない。竹海(たけみ)のような乳房と尻が豊かな女子が着れば強烈なセックスアピール衣装である。言うまでもなく竹海(たけみ)は分かった上で着ている。

 

「あ、はい。よろしくお願いします」

 

 まだ照れが隠せない健太(けんた)を正面に座る(らん)は愛おし気に見つめ、

 

「はい、よろしくお願いします。健太(けんた)君と来斗(らいと)君はそれで良いのだけれど、尚典(なおふみ)君が少し問題なの」

 

 と少しすまなそうに言う。ただ、その問題については先に知らされていたため、健太(けんた)尚典(なおふみ)も特に驚いてはない。

 

「ああ、やっぱり無理でしたか、部屋の確保」

 

「いえ、こっちが無理を言っている立場ですから」

 

 健太(けんた)尚典(なおふみ)が言う通り、問題は白鶴(はくつる)荘での「ヤリ部屋の確保」であった。

 この学園では、男子寮に女子が引っ張り込まれることも、女子寮に男子が泊まり込むことも全く珍しくないただの日常である。

 しかし、健太(けんた)たちが「学園の普通」と少し違うのは、男子同士同じ部屋でセックスをすることに抵抗があるというところだ。そのため普通の学園男子ならば一部屋で良いところが、男子三人の為に三部屋必要になる。

 (らん)竹海(たけみ)烏琉羽(うるは)実咲(みさ)とこの場に女子は四人いるが、白鶴荘の寮生は(らん)烏琉羽(うるは)のみ。そのため、自動で確保できる部屋は二つだけ。

 あと一部屋は他の寮生と交渉して部屋を借りるしかない。それが上手くいかなかったのだ。

 正確に言えば「空き部屋が確保できなかった」というのが正しい。「私の部屋においで。私もいるけど」という返答は非常に多かったらしい。

 

「ええ、ごめんなさい。だから、尚典(なおふみ)君には麻鷺(あさぎ)荘の空亜(あくあ)の部屋に行って欲しいのだけれど」

 

 空亜(あくあ)とは、(らん)が今回尚典(なおふみ)の相手を頼んだ女子の名前である。

 元々(らん)と同じBランク倶楽部に所属していた者であり、(らん)と同じタイミングで首を斬られた三人の女子の一人である。

 Bランク倶楽部に飼われていたことでも分かる通り、容姿はかなり整っているらしい。しかし、セックスに忌避感はないが、積極性はもっとなかったため、首を切られることになった。

 なんとか倶楽部に残れるように泣いたり縋ったりしたもう一人と違い、空亜(あくあ)は「ふーん、そう」ぐらいの感覚だったらしい。

 そんな彼女だから、尚典(なおふみ)に入れ込む恐れもなく、短期の相手としては安心して紹介できたのだが、向こうに積極性がない分こちらが全部お膳立てする必要がある。

 

「分かりました。麻鷺(あさぎ)荘に行けば話は通っているんですよね?」

 

 念のため尚典(なおふみ)がそう念を押す。転職(クラスチェンジ)した来斗(らいと)ほどではないが、急激にレベルが上がった尚典(なおふみ)も正直結構性欲と精力が高まっている。絶対我慢できないというほどではないが、我慢せずに済むのならば初訪問の女子寮にヤりにいくことも躊躇る理由にはならないくらいには高ぶっている。

 そう考えると、流石の尚典(なおふみ)も多少はこの学園の価値観に染まってきているのだろう。

 

「ええ。空亜(あくあ)尚典(なおふみ)君を招く形で、麻鷺荘に入る許可を取ってあるわ。それに麻鷺荘は遠くてちょっと分かりづらいところにあるから、寮生の子に案内を頼んであるの。彼女が口添えをしてくれるはずだから、大丈夫よ」

 

「案内ですか?」

 

 尚典(なおふみ)は首を傾げるが、健太(けんた)は何人か心当たりがある。白鶴(はくつる)荘に出入りしている、麻鷺(あさぎ)荘の寮生。

 健太(けんた)が少し嫌な予感を感じていると、(らん)が視線を食堂の入口へと向ける。

 

「あ、ちょうど来たみたい。沙姫(さき)さん」

 

(らん)先輩!」

 

 声を上げて手を振る(らん)に、食堂の入り口から入ってきた長身スレンダーな美少女――沙姫(さき)は、満面の笑みでこちらに近づいてきた。

 

 

 

 

 

 沙姫(さき)。原作主人公である叶馬(とうま)パーティーの切り込み隊長。理不尽の権化である主人公叶馬(とうま)を別格とすれば、間違いなく主人公パーティー最強戦力である天才剣士。

 初対面の者もいるため、麻鷺荘に向う前に簡単に自己紹介をする。

 簡単な自己紹介を終えた後、すでに色々辛抱たまらなくなっていた来斗(らいと)は、烏琉羽(うるは)実咲(みさ)に両脇を固められて一足先にその場を後にする。

 

 残った面々はそこまで急ぐ用事もないため、しばし沙姫(さき)も席について会話を交わす。

 特に話が合ったのが、竹海(たけみ)だ。

 

「そうか、君は『戦士(ファイター)』系なのか。随分と腕が立つようだ」

 

 学園では少数派な武闘派女子として、竹海(たけみ)は多少の羨望が混ざった同好の士を見る視線を向ける。

 頭は良くないが感覚は鋭い沙姫(さき)は、竹海(たけみ)がかなり自分に近い人間であることを感じ取り、テンションを上げる。

 

「いえ、まだまだ修行あるのみです! 竹海(たけみ)先輩こそ、戦闘職じゃないのに、前線に立ち続けるの凄いです。尊敬します!」

 

 バリバリの戦闘職の沙姫(さき)が言えば嫌みにも聞こえそうだが、純朴な沙姫(さき)の笑顔を見ればただ思ったままの言葉であることが分かる。

 

「『遊び人(ニート)』系は身体能力の伸びは悪くないからね。スキルはなくとも(わざ)を磨くことができる。キミたち『戦士(ファイター)』系の者でも、雑魚敵相手に一々戦闘スキルを使ってはいないだろ? なら、私も全てのモンスターをそれと同じ扱いが出来るところまで己を高めれば良いだけの話さ」

 

「ほわああ……」

 

 さらりと地獄のようなプランを立てる竹海(たけみ)を、沙姫(さき)は純粋な尊敬の目で見ている。

 健太(けんた)は内心「ちょっとまずい」と思い始めていた。元々、沙姫(さき)竹海(たけみ)が相性が良いことは想像がついていた。だが、これは相性がよすぎるかもしれない。お互いに影響を与え合うというのは通常は良いことなのだが、沙姫(さき)竹海(たけみ)も元から強さを追求することにはストイックなまでに全力な人間だ。

 これ以上の加速は過剰だ。暴走になる恐れがある。

 

竹海(たけみ)先輩、明日からのゴールデンウィーク、予定は空いてますか?」

 

「ああ、もちろんすべてではないが……」

 

沙姫(さき)さん、竹海(たけみ)先輩。立ち合いなら許可しませんからね」

 

 美少女と美女の瞳がキラキラからギラギラに変わったのを確信した健太(けんた)は、先回りをしてそう封じる。

 

「むう……」

 

 珍しく不満そうに頬を膨らませる竹海(たけみ)が可愛い。日頃はその体つき同様大人びた美女の雰囲気の竹海(たけみ)だが、こうして感情を露わにすると彼女もまだ女子高生なのだと思い出される。

 一方、日頃からくるくると表情を変える沙姫(さき)はもっと強く抗議する。

 

「ちょっと、健太(けんた)さん。何の権利があって私と竹海(たけみ)先輩の楽しみを奪うんですか!?」

 

竹海(たけみ)先輩のパートナーとしての権利です」

 

 そういう健太(けんた)の言葉は、驚いたことにれっきとした事実である。パートナー契約を結んだ男子は、女子に対してこの程度の強制力は当たり前に持つ。

 特に性的な要求に関しては、ほぼ無制限と思ってよいのが学園のパートナー契約だ。男子が女子を所有する契約、と言われているのは伊達ではないのだ。

 健太(けんた)が、パートナーの強権を行使するのは実はこれが初めてだ。

 だが、強権を発動しなければ竹海(たけみ)が止まらないことを健太(けんた)は確信していた。そして、ここで止めなければとんでもない結果になる可能性が無視できないことも。

 現状、沙姫(さき)竹海(たけみ)では全く勝負にならない。竹海(たけみ)沙姫(さき)が自分より強いことは分かっているだろう。だが沙姫(さき)竹海(たけみ)が思っているよりはるかに強い。

 勝ち目がない、というレベルではない。文字通り勝負にならない、のだ。

 自分より年下の女子、それもダンジョンダイブを始めて一カ月ほどの女子に手も足も出ず負けるというのはそれくらいショックのはずだ。

 一年間この学園で生活しても全く折れず曲がらずの竹海(たけみ)だから、十中八九大丈夫だとは思うが、それでも折れるのが怖い。

 その場面を想像してみて、健太は首を傾げる。

 

(……あれ? なんだろう。逆にギラギラ目を光らせて、沙姫(さき)さんに挑み続ける竹海(たけみ)先輩しか思い浮かばないんだけど)

 

 だが、それはそれで望ましくない未来である。どちらにせよ、この二人をぶつけ合うのは無しだ。

 

「そういうことだから、悪いが我慢してくれ、沙姫(さき)。うちのご主人様は基本「理解ある彼君」なんだが、少々過保護なところが玉に瑕でね」

 

 そう言って竹海(たけみ)健太(けんた)の方を見ると、小さく苦笑する。

 

「すみません、竹海(たけみ)先輩」

 

 こちらの意図が伝わってしまったことを察した健太(けんた)は、恐縮して謝る。

 竹海(たけみ)(クラス)は『良い踊り子(ナイスダンサー)』という非戦闘系であったとしても、本人の気質はバリバリの武闘派だ。そんな竹海(たけみ)に「お前じゃ絶対勝てないからやらせねえよ」と言ったようなものなのだ。

 

「良いさ、それだけ愛されていると思っておくよ。それに、埋め合わせはご主人様がしてくれるんだろう?」

 

「それは、はい」

 

 竹海(たけみ)の言葉を肯定しつつ、健太(けんた)は内心冷や汗をかく。スイッチをオンにしてしまった時限爆弾を見るような気持ちで、ちらりと沙姫(さき)の方を見ている。

 

 ちなみに(らん)は「健太(けんた)君」、烏琉羽(うるは)は「健太(けんた)さん」と呼ぶのに、竹海(たけみ)は「ご主人様」呼びが非常に多い。

 これは、(らん)烏琉羽(うるは)は「健太(けんた)がどのような呼ばれ方を望んでいるか」を汲んでくれているのに対し、竹海(たけみ)だけは「呼び方くらいは好きにさせてくれよ」と健太(けんた)の提案をあっさり一蹴したからである。

 どこだろうと遠慮なく健太(けんた)のことを「ご主人様」呼ばわりしている竹海(たけみ)を、(らん)はあからさまに、烏琉羽(うるは)は密かに羨まし気な視線を向けている。

 

健太(けんた)さんが埋め合わせってどういうことですか?」

 

 健太(けんた)の内心の願いもむなしく、沙姫(さき)は勢いよく食いついてくる。特に口止めもしていなかったため、竹海(たけみ)はあっさりと白状する。

 

「なに、優しい私たちのご主人様はね、デートをしてくださるんだ。デートコースは基本こちらの提案通りでね。こんな好機、他にないだろう? というわけで、私のデートは訓練場で武器を持って時間一杯相手をしてもらうことなったのさ」

 

 そう言いながら、こちらに視線を向けてにんまり笑う。

 

 先週の日曜日、午前を全部使って(らん)と学生街デートをしたように、健太(けんた)は基本的にパートナーとなった女子とはセックス以外のお付き合いの時間も設けたいと考えていた。

 彼女がいたことのない陰キャオタクな健太(けんた)は、もちろん性行為にも強い興味があるが、男女交際そのものにも強い幻想を抱いている。そのためのパートナーとのデートの提案だったのだが、それに対する竹海(たけみ)の答えが「訓練に付き合って」だった。

 

 思っているのとはずいぶん違った形になってしまうが、愛しいパートナーの提案に否という返事を健太(けんた)は用意していない。

 問題はその事実を、よりにもよって沙姫(さき)に聞かれてしまったことである。

 

「ずるい、ずるいです、健太(けんた)さん! 私との手合わせはいっつも断るのに、竹海(たけみ)先輩は何で!?」

 

「いや、なんでって竹海(たけみ)先輩は俺のパートナーでパーティーメンバーだから」

 

「じゃあ、私は何なんですか!?」

 

「なにって友達」

 

 沙姫(さき)はいかにも不満げに頬を膨らませているが、健太(けんた)にとって沙姫(さき)は最大限よく言って友達以外の言葉は出てこない。

 これで沙姫(さき)は気を許した一部の人間以外には、冷たくそっけない態度を取るのだが、健太(けんた)の前ではいつもこんな感じだ。その懐き方は人懐っこい大型犬を彷彿させる一見ほほえましいものなのだが、その実態は実剣での手合わせを強請(ねだ)る狂犬である。懐かれてもあまり嬉しくない。もちろん、沙姫(さき)ほどの美少女に懐かれて、全く嬉しくないと言えば嘘になるが。

 

「友達ならたまには遊んでくださいよ!」

 

「その友達って『ボールは友達』の友達だよね?」

 

 正直ボールの方がましである。ボールは蹴られるだけで済むが、こっちは友達を斬ろうとしている。

 

「あの、健太(けんた)。盛り上がってるとこ悪いんだけど、そろそろ……」

 

 と申し訳なさそうに口を挟んできたのは、隣に座っている尚典(なおふみ)だ。

 尚典(なおふみ)も今日は随分レベルを上げている。転職(クラスチェンジ)を果たした来斗(らいと)ほどではないが、色々と我慢が辛いところまで来ているのだろう。

 

「ああ、ゴメン、尚典(なおふみ)。じゃ、沙姫(さき)さん。尚典(なおふみ)を麻鷺荘まで案内してあげて」

 

「それは良いですけど……」

 

 椅子から腰を浮かせながらも、尚未練がましい視線を向ける沙姫(さき)の粘りに、健太(けんた)は根負けする。

 

「……分かった。ゴールデンウィーク中、一回だけ。一回だけ付き合うよ」

 

 途端に、沙姫(さき)の顔にパアと笑顔が浮かぶ。まるで、子供が親に念願のオモチャを買ってもらったときのような笑顔だ。

 

「やったー!」

 

「ただし、『水虎王刀』はなしね。こっちも、『金狼木霊剣』は使わない。購買製の刀と剣で。それでだめなら、絶対受けない」

 

「ええ、はい。分かりました! では、尚典(なおふみ)さんは責任もって送り届けるのでっ、失礼します! さあ、行きましょう、尚典(なおふみ)さん!」

 

「はい、よろしくお願いします、沙姫(さき)さん」

 

 沙姫(さき)は自分より背の低い尚典(なおふみ)を半ば抱えるようにして、スキップに近い軽い足取りで出ていくのだった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。