翌朝からゴールデンウィークが始まる。
ここ
また、午前の座学はサボってもそこまで大きな影響はないし、午後のダンジョンダイブも最低週一回ダイブしていていれば許される。
逆に、休日でも午前、午後と二回『
つまり、一般的な普通科生徒にとって、ゴールデンウィークになってもそこまで大きな違いは生じない。だが、それでも「サボっても良い授業」があるのと「そもそも授業がない」のとでは、心理的には結構な違いがあるものだ。
そんな無形の解放感に包まれるゴールデンウィーク初日を、
どうにかパートナー二人を起こさずにベッドから抜け出すことに成功した
女子寮での寝起きが多くなった
すれ違う女子に「貴方、何堂々と歩いてるの、ここは女子寮よ!」と問い詰められたら反射的に「すみません、すぐ出ていきます」と答えてしまいそうだ。
実際には、すれ違う寮生達はごく当たり前に「おはよう」「珍しいね、今朝は一人?」「これから朝食? 一緒に食べる?」「なんなら私も食べる?」などと声をかけてくるくらいに、
そもそも、この学園の女子寮では、どこでも我が物顔で闊歩する男子が存在する。
ここ白鶴荘に限っても、それは
「うむ、おはよう」
「おう、
女子寮である白鶴荘の食堂に足を運ぶとそこには、あまりに自然に朝食を取っている
女子寮の一角を占める男三人だけの席。
白鶴荘の食事は主に洋食だが、その盛も最初から寮生の一,五倍から二倍に盛られているあたり、白鶴荘全体がすでに彼ら三人の存在を受け入れていることが見て取れる。
「ここでお前が一人は珍しいな。パートナーはどうした?」
「
「ああ、パートナー増えたのか。しかし、
少し不思議そうに
この学園ではセックス三昧の日々が一般的だが、そのセックスは女子の負担が大きい。大概は男子の方がレベルが高く体力ある上、隷属していると快感が深すぎて、女子の体力消耗が激しいのだ。
質の悪い倶楽部の部室や男子寮に泊りがけで連れ込まれる女子などは、
もっとも、
「では、
「今日は特に予定は入れていないな。ゴールデンウィーク初日だから様子見だ」
実際には、少し違う。予定を入れていないのは事実だが、理由は
原作通りであれば、ゴールデンウィーク初日に
その警戒心はこの場合正解だったと言えるだろう。
「ならば、付き合え。お前にも有益だ」
「流石にそれだけじゃ分からん。何処に付き合えと言っているんんだ?」
原作知識から叶馬が何に誘っているのか理解している
「独学の自重トレーニングでは効率が悪い。幸いこの学園の施設は器具が充実しているらしい。どうせやるならば、より効率的にやるべきだ」
相変わらずその言葉だけでは要領を得ない
少し驚いたのは、最初の「独学の自重トレーニング」ということだ。
「分かるのか?」
この世界に来てから定期的に自室(最近は
だが、ウェイトトレーニングには一言ある
「当然だ。一か月前とでは体つきが違う。だが、自重トレーニングでは限界がある。
どうやら、
この誘いがただの
「確かに俺は入学以来筋トレは続けている。機械を使ったトレーニングの方が効率が良いとは聞いているけど、あれは正しいフォームを知らなければ害が大きいだろう」
だから、
表向きは『
尚典のパソコンを借りて筋トレの動画を検索したのだが(この学園でも有線でのインターネットは一応不可能ではない。フィルタリングがガチガチに入っていて恐ろしく使いづらいが)、動画で見ても今一正しいフォームというのが理解できなかった。
そんな
「任せろ。正しいフォームは俺が教えてやる。お前の認識は正しい。すべては正しいフォームから始まる。フォームが崩れているとトレーニング効率が悪いし、怪我に繋がる。最高効率を求めるならば、重量もギリギリまで攻めるべきだが、それも危険だ。重量が限界に近いほど、僅かなフォームの崩れが怪我に直結しやすくなる。正しいフォームが固まるまでは、安全マージンを取って最高効率の六十%程度の重量でやるべきだろう。
その場合、成果が出ずらいので継続には強い意志が必要だ。自分に言い聞かせろ、「俺は続ける。俺は理想の俺になる」と」
「よし、分かった。詳しいやり方は現地で教えてくれ。
「いや、俺は様子見だ。使えそうだったら教えてくれ」
そう言ってヒラヒラと手を振った。
その後、昨晩は
「独立したトレーニングジムがあるのかと思ったのだが、武道館の中にあるのか」
「武道館はこの学園でも特に充実してる施設だからな。この大きさだし、トレーニング施設も期待できるだろう」
そう答える
考えてみれば、
油断するととんでもないことになる。油断しなくてもとんでもないことになるだろうが、だからこそ心構えが必要だ。『
「確かに、な。では、入るとするか。たのもう」
学園でも有数の巨大施設である武道館を入り口前で見上げていた
武道館の中身は、期待を裏切らない充実ぶりだった。
剣道を行うような板張りの道場、柔道を行うような畳張りの道場は当然のように存在する。さらに、アスファルトと小さなビルが数軒立ち並ぶ市街地のような空間や、
他にも、ボルダリング用の高い壁などもあり、単純に武道だけでなく、
館内地図によると、お目当てあるトレーニングジムは二階にあるようだった。
「二階か」
「ああ」
武道館の施設は、トレーニングのための空間だけはない。途中で休むための休憩室、着替えをしまうロッカールーム、帰る前に汗を流すシャワールーム、怪我を負ったときのためのメディカルルームといった施設も完備されている。
ある意味至れり尽くせりなのだが、問題は休憩室を始めとした個室はどこも中からギシギシアンアンという擬音が聞こえてくるということだ。
「マンネリ防止のために、環境を変えているのだろうか」
「単にパートナーとトレーニングに来て、性欲が我慢できなくなっただけなのでは?」
やはり、ここは豊葦原学園なのだと実感させられるBGMを聞きながら、ロッカールームでトレーニングウェアに着替えた
体のラインが出やすいトレーニングウェアに着替えると、
『
「これはかなり揃っているな」
「よくわからんが、随分種類があることは確かだ」
ジム内部を見渡して感心したように呟く
実際、トレーニングジムの設備は充実していた。
常時トレーニングフォームのセルフチェックが可能なように、壁の大半は鏡張り。広さはちょっとした体育館ほどあり、そこに多彩なトレーニング器具が十分な間隔を持って配置されている。
ランニングマシンやエアロバイクといった人気のある器具は複数台用意されており、遠目には分からないがそれぞれ負荷のレベルが異なっている。もちろん、負荷を変えることもできる。
ダンベルやベンチプレスも、プロのボディビルダーの使用にも耐えられるような、超重量まで増量できるタイプもある。
「器具を使ったトレーニングならば、まずは上半身だ。下半身は自重トレーニングでも比較的に鍛えられるが上半身は難しい。特に腕はな」
そう言うと
素人目にはどこが「緩んでしまった」のか分からないシックスパックの筋骨隆々とした体つきが露わになる。
「服を脱ぐのも意味があるのか?」
トレーニング前に腕を振ったり、肩を回したりと動的ストレッチをしている
「効率を上げるためだ。筋トレでは今自分がどの筋肉に負荷をかけようとしているか、明確に意識することが大事だ。服を脱ぎ、筋肉の動きが視界に入ればそれが意識できる。さらに服を着ていると、服が擦れる感触で目的筋肉に負荷がかかっているかどうかを自覚しづらくなる。初心者ほど、筋トレは脱いでやることをお勧めする」
「なるほど」
日頃もこれだけ理解しやすい筋の通った言動を取ってくれればなあ、と思うくらいにはっきりとした答えが返っていた。
これが下半身と言うならばまた話も別だが、上半身ならば特に躊躇う理由もない。
「そう言うことならば、俺も付き合うか」
念のため、周囲に
使用するダンベルは、当然個人ごとに重さが異なる。
「俺のようにオールアウトの目指すなら、今のお前でも七キロか八キロは必要だが、初心者がギリギリまで攻めると怪我に繋がりやすい。まずはフォームを固めて、正しいやり方を覚えることが先決だ」
五キロのダンベルを使ってダンベルカール、ダンベルプレス、サイドレイズ、フロントレイズ、ダンベルドローイングといったメニューを全て十回を三セットずつ終えた頃、
SPを切って完全生身の状態になった
同じメニューだが、三十キロのダンベルでやっていた
「ふう…………よし、これでひとまずは終了だ。流石だな、
「はあ、はあ、はあ……そうか。褒められるほどのことはやってないと思うんだが?」
「いや、初心者がこれだけのメニューをフォームを崩さずにやり切るのは十分大したことだ。普通初心者は、楽に逃げようとしてフォームが崩れる」
部活や体育の時間などでやる筋トレではよくある話である。強い目的意識を持たないまま、強制や惰性だけで行う筋トレは、「いかにしてノルマをこなすか」という方向に思考が進んでしまい、「出来るだけ楽な体勢」の「筋トレもどき」やるようになる。
『
「そうか。ならば素直に受け取っておこう。今日はこれで終わりか?」
「後はゴールデンタイム中にプロテインを飲んで終了、と思っていたのだが、
ゴールデンタイムとは「筋トレから三十分以内にたんぱく質を摂取することで、筋肉の成長に最高の効率を生む」という考えだ。最近は否定する者も多いが、
そんな
「しいて言えば、デッドリフトか。自力で調べた範囲では、あれが一番よくわからなかった」
デッドリフトとは、簡単に言えば床に置いたバーベルを両手で掴んで立ち上がる運動である。
「ああ、確かにあれは素人が見よう見まねで正確なやり方を探るのは難しいな。よし、任せろ。俺もそこまで詳しくはないが、仮にも筋トレ三大種目ぐらいは教えられる」
ちなみに筋トレ三大種目とは「スクワット」「デッドリフト」「ベンチプレス」の三つらしい。
デッドリフト用のバーベルとマットが設置された場所にやってきた
「ほう、見事」
先客の姿を見た
「
そう言う
「やらん、お前もやるなよ」
原作通りならば、この時点で
ボディラインが全て露わになっている、セパレートのトレーニングウェア姿の美女が一心不乱にデッドリフトで汗を流しているところを動画撮影するというのは、この学園の外ならば問答無用の痴漢行為だろう。
この学園ならば、良くも悪くも本来そこまで問題視される行為ではないが(薄着の筋トレどころか、全裸の乱交現場を撮影している奴がごまんといる)、今回ばかりは少々相手が悪い。絶対にやめておくべきだ。
そんな
「なんですか、貴方達は?」
予定していた回数を終えた美女は、バーベルと足元に置くと、胸元を隠すように両手を胸の前で組みながら、そう言ってこちらを睨んでくる。
一人でいる薄着の女子に近づく、男子二人。これで警戒心を抱かない女子は、この学園にはいない。
だが、そんなことに頓着する
「失礼、眼福物のお体でしたので、つい見惚れてしまいました」
言葉は過去形だが、今もリアルタイムに
トレーニングウェアの上下の間から覗かせる、シックスパックの腹筋。形よく盛り上がった肩。俊敏さと頑強さを兼ね備えていることが一目で見て取れる、うっすら割れた太腿。
女性らしさを残しつつ、理想的に鍛えられた筋肉美女である。
流石にこれはフォローが必要か。
と、
「なにかあったのか?」
と、女子の後ろから一人の男子生徒がこちらに近づいてくる。
「副会長」
その人物の登場に、筋肉美女の表情が一瞬で穏やかになる。
筋肉美女に副会長と呼ばれたその男子は、筋肉美女の隣までやってくるとその足を止めた。
学校支給のジャージではない、明らかにブランドものの高級そうなジャージの上下を着たその男子は、まるで今日美容室に行ってきたばかりと言わんばかりに整ったツーブロックヘアスタイルで、オーダーメイドの眼鏡をかけている。
筋肉美女が呼んだ「副会長」という肩書が実に似合う容姿だ。
その眼鏡男子は、
「どちらも普通科か。フン、珍しいな、こんなところで」
と明確に見下す目線で鼻を鳴らした。
その蔑みの視線を受けても、『
問題は
上半身裸の
「むん!」
同時に白い歯を見せる笑顔も忘れない。見事なサイドチェストポーズである。
なぜ、このタイミングで筋肉アピールなのか。世間一般では全く意味不明だが、原作によれば
だが、『
それだけで
おもむろに眼鏡男子はジャージの上を脱ぎ、続いてその下に纏っていたタンクトップも脱ぎ捨てた(脱いだジャージとタンクトップは阿吽の呼吸で筋肉美女が後ろで受け取っていた)。
上半身裸になった眼鏡男子は、両拳を握り、腹の前で重ねると、少し前かがみになって全身に力を入れる。
「ふっ!」
見事なモストンマスキュラーに、
「エスクイジット、己の体を恥じるばかりです」
「フッ、どうやら正しい目と道理を理解できる頭を持ち合わせているようだな。会話をする価値があると認めよう」
「恐縮です」
不思議と通じ合う眼鏡男子と
(なるほど。この世界線では、この出会いがなかったはずなのか)
だが、この世界では筋肉美女がやっていたのは、「ベンチプレス」ではなく「デッドリフト」だった。
もし、
その流れを修正したのが、
あくまで筋肉談義を通して、
「それで彼は? 見ればほぼ素人。その割には、今日は随分追い込んでいるようだが」
これは、自分が返答するよりも、一旦
「彼は
「普通科一年
その態度は、眼鏡男子にとっても合格点だったらしく、
「特級科三年、
そう
「特級科三年、
眼鏡男子――
「何とお呼びすれば良いでしょうか?」
「好きに呼びたまえ。普通科の者にそこまでの礼儀は求めない」
「では、
「……ほう」