「デッドリフトは目的筋肉が多数存在する。広背筋、中背筋、僧帽筋の背中。腸肋筋、最長筋、棘筋の脊柱。大臀筋、中臀筋、小臀筋の尻。太腿二頭筋、半腱様筋、半膜様筋の
前腕筋は
さらに、握力――ホールド力は、そのまま持続可能戦闘時間だと思っても良い。
どの筋肉を重点目標とするかで、フォームは微妙に異なるのだが、君はまだその段階にはない。まずは基礎のフォームを固めることだけに集中すべきだな」
眼鏡男子こと豊葦原学園前会長にして、現副会長である
使用するバーベルの重さは六十キロ。
「……十四、十五」
「よし、そこまで!」
「今の感覚がオールアウトだ。覚えておきたまえ。そこまではやってよい。それ以上はオーバーワークだ。君のような初心者は半年は、スクワット、デッドリフト、ベンチプレスの三種目で十分だ。それを週二回、やりたまえ。重量も固定だ。余裕が出来てきたら、まずは回数を増やすべきだな」
「
「重量を増やした方が、筋肉が付きやすいことは確かだ。筋力もそちらの方が上がる。だが、そのやり方は常にけがの危険が付きまとう。回数を増やすのは、筋力アップという意味では遠回りだが、筋持久力が上がりやすいというメリットもある。長時間にわたるダンジョンダイブに適応することを考慮すれば、むしろ筋持久力の方が重要とすら言えるだろう」
「なるほど。ご教授ありがとうございます」
バーベルの組み方、ばらし方はそう難しいことではないので、見よう見まねで出来なくもないのだが、怪我や事故を防ぐための正しい手順というものは定まっている。
今回のように熟練者が常に側にいてくれるわけではないだのだ。次からは自分で組めるようにならなければならない。
指導された通りに後片付けを済ませ、Tシャツとトレーニングウェアを着こんだ
「
「今後も、ここでお会いできることを願っています」
『
穏やかな湖面を通り越して、凍てついた氷面という表現が相応しい一年男子二人の言葉に、生徒会のナンバーツーである
「フン、私が仕事があるからな。確約は出来ん。行ってよし」
「失礼します」
「はっ」
「何者なのでしょうか、あの二人は?」
「さて? どちらもただの普通科の一年ではないだろうが、気にするほどのこともあるまいよ。所詮は普通科だ」
タンクトップを着込んだ
豊葦原学園の普通科は、その大半がただの生贄であり、そこを五年間生き延びた僅かな例外も、所詮は学園のコントロール下にあることに変わりはない。
学園の経営、運営に携わるのは、特級科の卒業生のみだ。
普通科の最エリートコースが学園に残留できるがそれはあくまで講師として。現場の教官でしかない。
「あの
「事前に知っていたのだろうな。生徒会の名前は、電子生徒手帳に記されている」
「ですが、手帳のデータには顔写真はありません」
電子手帳に記されている生徒会の情報は、名前と学年と性別くらいだ。
それらの情報を頭にインプットしてあったとして、あの短時間で「副会長と呼ばれた男子が
わざわざ「
「入学一カ月の一年がオールアウトを出来る時点で異常だ」
「はい」
筋トレでいうところのオールアウトとは、簡単に言えば「全力を出し切って一時的にその部位がもうこれ以上何もできなくなった状態」を言う。
これを、豊葦原学園の生徒が行うのは凄く難しい。彼らにはSPがあるからだ。オールアウトまで追い込む筋トレは、とてつもない苦痛が伴う。人間には苦痛から逃れようとする本能がある。つまり、無意識のうちにSPを活性化させてしまうことが多い。
それを避けるには、本能的な衝動を理性で抑えて、あえて苦痛な状態を維持し続ける強い意志が必要となる。
入学一カ月の一年生で、それだけ強く理性でSPの発動を抑えられる者はまずいない。
「その上で、私と君の素性を知っていた。となると、単純に考えればどこぞの『草』だろうな」
『草』とは、特級科に子息を送り込んでいる名家が、普通科に忍び込ませている家の息のかかった生徒のことだ。
例えば、現生徒会長である
「わざわざ向こうからアピールしてきたということは、狙いは『鞍替え』でしょうか?」
「その可能性は高い。その路線で考えれば、今の飼い主は『三善』か『五条』あたりか」
特級科に子息を送り込む名家と一言でいっても、そこには明確な上下がある。
生徒会会長の座を狙うような名門中の名門から、そうした名門に尻尾を振るためにロスト前提で自分の娘を送り込む、末端名家まで。
上にせよ、下にせよ立ち位置が定まっている家はある意味平和なのだが、大変なのは今現在浮いたり沈んだりしている家だ。
この学園で大きいのは『ロスト』、つまりダンジョンダイブで死に戻りを経験している否かだ。
普通科では秘密にされている、「一度でも死ねば、生殖能力を失い、寿命も激減する。一度も死んでいなければ、ダンジョン外でもスキルが発動する」という事実は、特級科ならば当然のように知られている。
そのため、ダンジョンダイブで一度でも死んでしまった者は、その時点で特級科内カーストの最下層に移行する。これは、どれほど名家の子息でも変わらない。
生殖能力を失い、寿命が極端に縮んだ者など、家を継ぐ者としてはすでに死んだも同然だ。
もちろん普通科と違い、特級科のダンジョンダイブは、手続きをすれば学園の教師やS、Aランク倶楽部の精鋭をガードにつけることが出来るのだが、それには家の格と学園に対する献金が求められる(『銭』ではない)。
さらに、そこまでやっても事故はゼロには出来ない。最初からロストすること前提の下層女子生徒や、最低限のガードしか付けられない下層男子生徒はもちろん、しっかりガードを付けたはずの上層生徒からも『ロスト』は発生する。
今、
「彼らの立場も理解は出来ますが、裏切りなど」
「上がそれにふさわしい能力を維持できなければ、下が離脱するのは当たり前のことだ。私もそれを学んだ」
今年度から生徒会長から副会長に格下げされ、自分の『
「あれは
それが今日まで『ロスト』を免れ、庶務という一番下の存在とはいえ生徒会に名を連ねることが出来ているのは、
そんな
「それでも、だ。奴らが見る目がない愚か者であったことは事実だ。事実であると私が証明してやる。だが、それでも私が自省しなければならない事実は覆らない。
私は人の上に立つ者として、そんな見る目がない愚か者の目にも一目瞭然な、絶対強者としての力を見せつけるべきなのだ。去年までの私はそれが足りなかった」
「ご立派なお考えです」
人に厳しく、自分にはもっと厳しい。
――穿界迷宮『YGGDRASILL』、接続枝界『黄泉比良坂』――
――第『
筋トレの効果を最大限にするには、筋トレの後には出来るだけ筋肉を使わずゆっくり休める休養も重要とされる。
特に、オールアウトの後は、下手な運動は即オーバーワークに繋がり、怪我に直結する。
そして、ダンジョンダイブではどれだけ中で体が汚れても、怪我をしてもログアウトした時には、ログインする前の体に戻る。
つまり、筋トレの後にダンジョンダイブは、体を休めるのに最適だ。
そんな
具体的には、
「キュイイイイ!」
第五階層の広い玄室で、『
その前に立ちふさがるのは、ごつい鎧を纏った
「はっ!」
その直前、
「ふっ!」
「むん!」
超速度の落下、纏っている鎧――『
「
パンチ一発で前と後ろに引きちぎられた『
「理不尽な」
戦闘とは、見た目を意識して行えるものではない。ただ、敵を倒すための最善を尽くすのみ。という
「でも、あんな状態で回収したら、取り出したとき蜜柑ちゃん先輩泣いちゃうよ」
「むう」
本来モンスターを倒しても、クリスタルとドロップ品以外は、瘴気に返ってしまうのだが
そうして持ち帰った死体から蜜柑を始めとした『
難点は、この裏技で死体を丸ごと持ち帰ると、モンスターを倒しても経験値は全く増えないことだ。 だから、必要なだけ集めたら、あとは普通に倒す必要がある。
ただし、これまでのゴブリンやブラックドック、『
『モンスターカード』で戦力が上がっている
「しっかし、お前今の何よ? いつから空飛べるようになった? いや、あのヘンテコ雲で飛べるのは知ってたけどよ」
呆れたような誠一の問いに、叶馬は真面目に答える。
「ヘンテコではないが、あの雲の応用だ。こうして、足の裏に小さく発生せて、空中を蹴っている」
そう言って見せる叶馬の足の裏には、以前半裸雷様ごっこをしたときの雲の超小型版が張り付いていた。
叶馬がGPを消費して作り出すこの雲は雷を落とす、空中に留まる、ゆっくりと動くなどいくつかの能力がある。
そのうちの一つ、「空中に留まる」という性質を利用し、叶馬は「空中を蹴って」飛び回る立体起動を確立させたのだ。
「このように、空中機動が可能となる」
「非常識な……」
呆れが過ぎて消耗ぎみの声を漏らす誠一の頭上を、『
「クオオオオン!」
次の玄室。突っ込んでくる『
小剣サイズの主武器『金狼木霊剣』は腰に下げたまま、両手で大剣を構える。
「《伸びろ》《尖れ》《はっ》!」
柄が長大に伸びているため、手元は数センチ動かすだけで刀身は数メートル横に動く。
「ピギイ!?」
見事、横薙ぎに払った
足を失った『
「はっ、ふっ!」
そこに滑るような足取りで距離を詰めた
『
「
なぜか近づいてこない三人の代わりに、深いため息をつきながら、ツッコミの言葉を入れたのは
「健くん、「ゴア禁止だからリョナにしました」って、そんなトンチは誰も求めてないよ?」