※この作品はR-18です。

ハイスクール転生アンド巻き込まれ   作:ミタライ

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第六十五話 沙姫の脅威、宝箱と宝箱

 

 

「私も負けません!」

 

 次の玄室では、叶馬(とうま)健太(けんた)の活躍に触発された沙姫(さき)が大張り切りを見せる。

鎧犀(アーマーライノセラス)』はその巨体で繰り出す突進が確かに脅威だが、馬鹿の一つ覚えでそれしかやってこない。

 

「クオオオン!」

 

「ギャピイイ!」

 

「ギャオオオ!」

 

 ほぼ横一直線に並んだ三匹の『鎧犀(アーマーライノセラス)』を遠くに睨み、沙姫(さき)は左手で腰に下げた刀――『水虎王刀』の鞘を掴み、右手をそっと柄にそえる。色も木目模様も木製そのものなのに金属のような光沢をもつその鞘から抜き放たれたのは、深く澄んだ湖底を連想させる鮮やかな青い刀身。

 

「ちぇい!」

 

 と沙姫(さき)が気合の声を上げて、刀を抜き放つ。

 次の瞬間、まだ数十メートル先にいる三匹の『鎧犀(アーマーライノセラス)』は、ズルリと体が斜めにずれ落ちた。

 

「おい、今の見えたか?」

 

 引きつった顔でそう言う誠一(せいいち)叶馬(とうま)も無表情で首を横に振る。

 

「なにも」

 

 それはそうだろう。こっそり『視力強化(エンハンス・ヴィジョン)』を使っていた健太(けんた)でも、辛うじて青い線が三度、空間を走ったのが見えただけだ。

 そう。三匹の体のずれ落ち方が不規則だったことからも分かる通り、今沙姫(さき)は三匹まとめて一閃で薙ぎ払ったのではない。あの一瞬で三匹それぞれに一太刀ずつお見舞いしたのだ。

 

「凄いな、沙姫(さき)さん。今のは、『剣豪(ソードマスター)』のスキル?」

 

「いえ、この刀の力です! 凄いんですよ、この刀。この鞘に納めておくとグオオオってなって、抜くとシュパッてなるんです!」

 

 健太(けんた)の問いに、沙姫(さき)は新しいおもちゃを自慢する子供のように目を光らせて、『水虎王刀』について語る。

 擬音だらけでわかりづらい沙姫(さき)の説明を要約すると、ようはこの世界線の『水虎王刀』は刀そのものは原作と違わない。ただ、その鞘が健太(けんた)の提供した『鉄擬態木(アイアンエント)』のドロップ品を主として作られている。

『水虎王刀』は極めて強力な『(アクア)』属性の刀だ。一方、『鉄擬態木(アイアンエント)』の木片は『(メタル)』と『(ウッド)』の二重属性。

 鞘に収まった『水虎王刀』は、五行相生『金生水』が発生し、『水虎王刀』の『(アクア)』属性が強大化する。一定以上『(アクア)』属性が高まると、今度は『水虎王刀』から鞘に対し五行相生『水生木』が発生し、鞘の木属性が強化されるので、『水虎王刀』が鞘を破壊する懸念もない。

 

「姫ちん、私より射程が長いんですけど」

 

 叶馬(とうま)パーティーの遠距離広範囲攻撃を担当している麻衣(まい)は口を尖らせる。今まで開幕の一撃は麻衣(まい)が後方から魔法をぶっ放すか、沙姫(さき)が切り込むかだったのだが、これで沙姫(さき)がその場から水の超長刀身で斬りかかるという選択肢も加わった。

 ちゃんと話し合っておかなければ、パーティー内の経験値が偏りかねない。

 

「お前はまだ良いだろ。俺なんて、ガチで獲物取り合ったら多分一匹も倒せねえぞ、これ」

 

「全部姫ちんに食われる」と呆れた表情で誠一(せいいち)は首を横に振る。

盗賊(シーフ)』系はスピードが売りで、誠一(せいいち)の就いている第二段階職『忍者(ニンジャ)』はその中でも戦闘力が高い(クラス)なのだが、これは相手が悪い。

 通常、『盗賊(シーフ)』系と『戦士(ファイター)』系を比較すれば、スピードは『盗賊(シーフ)』系、パワーは『戦士(ファイター)』系に軍配が上がる。

 だが、沙姫(さき)は『戦士(ファイター)』系第二段階レア職『剣豪(ソードマスター)』だ。

剣豪(ソードマスター)』はスピードと斬撃に特化した(クラス)であり、端的に言えば沙姫(さき)誠一(せいいち)より速い。その上、攻撃力は誠一(せいいち)の比ではない。

 

 そんな誠一(せいいち)の肩を叶馬(とうま)が後ろからポンと叩く。

 

「大丈夫だ、誠一(せいいち)。お前にしかできない大切な役割がある」

 

 そう言って叶馬(とうま)が視線を向けるのは、海春(みはる)夏海(なつみ)の双子コンビだ。

 

「はい、『検索案内(ナビゲート)』……『宝箱(ジャックポット)』発見です」

 

「あっちです」

 

 海春(みはる)が『癒し手(ヒーラー)』系第二段階職『司祭(プリースト』)』、夏海(なつみ)が『文官(オフィサー)』系第二段階職『案内人(パスフェンダー)』なのだが、この双子はお互いのスキルを共有している。

 

「マジか……」

 

宝箱(ジャックポット)』発見の報告に、誠一(せいいち)は天井を仰ぎ見る。一般的に『宝箱(ジャックポット)』に鍵も罠も仕掛けられていないのは、地下二階までとされている。

 ここは、『既知外(きちがい)』領域地下第五層。『宝箱(ジャックポット)』にはもれなく鍵と罠が付いている。

 

雷神(ライジン)』の叶馬(とうま)。『忍者(ニンジャ)』の誠一(せいいち)。『巫女(ミコ)』の静香(しずか)。『魔術士(ウィザード)』の麻衣(まい)。『剣豪(ソードマスター)』の沙姫(さき)。『司祭(プリースト)』と『案内人(パスフェンダー)』の海春(みはる)と、夏海(なつみ)。そこに(自称)『騎士(ナイト)』の健太(けんた)を加えても、鍵開け、罠解除は誠一(せいいち)以外出来る『人間』はいない。

 

「せーいち、ふぁいとー」

 

 恋人である麻衣(まい)の言葉に背中を押され、誠一(せいいち)はため息を漏らしながら、案内する双子の後ろを重い足取りで歩き出した。

 

 

 

 

 

 

宝箱(ジャックポット)』がある玄室にも、もちろんモンスターはいる。

 ただし、ここにいるモンスターは、『堅牢犰狳(ソリッドアルマジロ)』が数匹いるだけだ。

堅牢犰狳(ソリッドアルマジロ)』は「お前、やる気あるのか?」と突っ込みたくなるモンスターだ。

 敵を発見するとその場で丸まり、防御態勢を取るのだ。直径一メートルほどのその球体は非常に硬い外皮で覆われており、その防御力は理不尽なくらいに高い。その代わりに、攻撃手段はゼロであり、移動はゴロゴロゆっくり転がるだけ。

 ようは、脅威度は果てしなくゼロに近いモンスターなのである。

 火炎攻撃用の装備を用意して、じっくり火で炙れば誰でも倒せるらしいが、耐火、耐熱防御も高いらしく倒し終えるまで時間がかかるため、無視するのが常道とされている。

 

 しかし、ここには理不尽に高い『堅牢犰狳(ソリッドアルマジロ)』の防御力を上回る、理不尽な攻撃力を誇る者がいた。

 

「むん!」

 

 一匹の『堅牢犰狳(ソリッドアルマジロ)』を抱き上げた叶馬(とうま)が、グッと両腕に力を籠めると、水風船を潰したような音を立てて、『堅牢(ソリッドアルマジロ)』は消失する。

 

叶馬(とうま)君、ゴア禁止って言ったよね?」

 

「……むう、締め落そうとしたのだが、加減が難しい」

 

 怒る麻衣(まい)に、その身に纏う『重圧の甲冑(ストレッサーアーマー)』を一時的に血と肉片で汚した叶馬(とうま)は、無表情のまま首を傾げる。

 

健太(けんた)? 何をやっている?」

 

 全身に浴びた『堅牢犰狳(ソリッドアルマジロ)』の液体が瘴気に返ったところで、叶馬(とうま)健太(けんた)が何やら不思議なことをやっていることに気づく。

 健太(けんた)は、球体化している『堅牢犰狳(ソリッドアルマジロ)』の上に大剣の刃を立たせるようにして載せていた。

 

「『堅牢犰狳(ソリッドアルマジロ)』の強度を計っている。この大剣の刀身は、『鋭刃(シャープネス)』の能力があるんだ。こうしてSPを注ぐと、刀身が圧縮されてその分刃が鋭くなり、同時になぜか重量が増す」

 

「ほほう」

 

 

 健太(けんた)の説明に、叶馬(とうま)は無表情ながら興味を引かれたような声を上げる。その説明が事実であることを示す様に、灰色の岩のような大剣の刀身部分は、徐々に縮まっていく。色も白に近い灰色から、黒に近い灰色へと徐々に変わっていく。

 最初は岩を粗雑に削って作りだしたような原始的な刃だった刀身が、黒曜石を精密に磨き上げて作り上げたような洗練された刃へと変貌を遂げる。

 

堅牢犰狳(ソリッドアルマジロ)』からすれば、自分の上に刃を立てているギロチンが徐々に鋭く、重くなっていっているようなものだ。

 

 それでも、流石は防御力(だけ)には定評のある『堅牢(ソリッドアルマジロ)』だ。健太(けんた)の大剣が厚みも大きさも元の半分以下、色はほぼ漆黒まで染まっても、なおその刃は自重だけでは外皮を貫けない。

 

 これはもう少し、SPを多めに注ぐべきか。

 と、健太(けんた)が注ぐSP量を増やしたその時だった。

 

 まるで手品のように、漆黒の刃は『堅牢犰狳(ソリッドアルマジロ)』の体をすり抜け、カツンと玄室の床にぶつかった。

 

 後には真っ二つになった『堅牢犰狳(ソリッドアルマジロ)』の死体が残る。瘴気に返るまでの数秒、綺麗な断面図をこの場にいる皆に見せつけてくれる。

 

「健くん、なにか言うことある?」

 

「……加減が難しい」

 

 半眼でこちらを睨む麻衣(まい)に、健太(けんた)はそんな言い訳を残した。

 

 

 

 

 

 

 

 ともあれ、『堅牢犰狳(ソリッドアルマジロ)』は叶馬(とうま)パーティー+健太(けんた)にとっては全く敵ではない。

 大した緊張感もなく、玄室にいた全ての『堅牢犰狳(ソリッドアルマジロ)』を倒し終えた後は、お楽しみの『宝箱(ジャックポット)』である。

 

「……なあ、俺の目の錯覚か? 『宝箱(ジャックポット)』が二つ(・・)見えるんだが?」

 

 乾いた笑いを浮かべる誠一(せいいち)の言葉に、答えたのは真面目に授業を受講している静香(しずか)だった。

 

「『宝箱(ジャックポット)』の出現は大きく分けて二種類あります。一つは最初から玄室に存在しているもの。『検索案内(ナビゲート)』のスキルで発見できるのはこちらです。もう一つは、玄室内のモンスターを倒すことがトリガーとなり出没するもの。こちらはモンスターを倒すまで存在していないので、『検索案内(ナビゲート)』でも発見できません。

 最初から『宝箱(ジャックポット)』がある玄室でモンスターを倒すと、『宝箱(ジャックポット)』がもう一つ出現するケースも過去にごくまれな例として確認されているそうです」

 

「おー、ちょーラッキーじゃん」

 

 嬉しそうに目を輝かせる麻衣(まい)の言葉に、誠一(せいいち)は泣き言を漏らす。

 

「……なあ、せめて、どっちか一つにしねえ? 今の俺ら、装備も『銭』もそんなに困ってねえだろ」

 

「あ? 何バカ言ってるの? 死ぬの?」

 

「死にくねえから、やりたくねえんだよ」

 

 凄い形相で睨む麻衣(まい)に、誠一(せいいち)は最後まで泣き言を漏らしながら、それでも覚悟を決めたのか、一つ目の『宝箱(ジャックポット)』に挑む。

 

「……よし、これで良い、はず」

 

 しばらく『宝箱(ジャックポット)』を弄っていた誠一(せいいち)は、覚悟を決めてそっとその蓋を開ける。

 すると次の瞬間、宝箱は勢いよく開かれ、同時に赤黒い霧のような物を吐き出した。

 

「ッ!? あっぶねえ!」

 

 間一髪、素晴らしい反射神経で後退した誠一(せいいち)は、ギリギリ赤黒い霧の外側で、荒い息をつく。

 あの霧を浴びていたら、毒か、石化か、死か、とにかく何らかのバッドステータスにかかった可能性が高い。

 

「わーい、あいたー。中身はなに?」

 

「これは、剣だな」

 

「うわあ、なんで宝箱よりずっと長い剣が出て来るんでしょう?」

 

「ダンジョンに常識を求めて求めても仕方がないでしょう」

 

 皆で開いた『宝箱(ジャックポット)』から二メートルを超える大剣を取り出し、ああだこうだと盛り上がるパーティーメンバーに、誠一(せいいち)は一人静かに離れている健太(けんた)に救いを求める。

 

「なあ、健太(けんた)。お前、自分の倶楽部メンバー集めてんだろ? その中に、『盗賊(シーフ)』いねえか? いたら、たまに貸してくれや」

 

 誠一(せいいち)の言葉に、健太(けんた)は無情に首を横に振る。

 

「いないな。男子は、『戦士(ファイター)』系と『術士(マギ)』系で、女子は『文官(オフィサー)』系と『遊び人(ニート)』系と、あと一人はまだノービスだ」

 

 答えながら、健太(けんた)も自分の集めているメンバーに足りない(クラス)があることを自覚する。健太(けんた)自身、自分本来のダイブはソロで、倶楽部は倶楽部対抗戦で叶馬(とうま)を満足させつつ、幾人かの女子を守れれば良いとしか考えていなかったため、気にしていなかった。

 

「ノービスの女子って一年か。そいつ『盗賊(シーフ)』系に育成しねえ? 『怪盗(ファントム)』とかそっち系で」

 

怪盗(ファントム)』は、『盗賊(シーフ)』系第二段階職で鍵開けや罠外し、忍び足、影潜みといった非戦闘系のスキルに傾倒した職である。

 その分戦闘力は劣るが、真面目にダンジョンを攻略するのならば一人はいて欲しい人材である。

 

 誠一(せいいち)の切実な説得だが、健太(けんた)は無情に首を横に振る。

 

「駄目だ、本人の意思が最優先だ。それにそもそも叶馬(とうま)の『あれ』でも、候補になかったら選びようがないだろう」

 

 叶馬(とうま)の『情報閲覧(インターフェース)』にせよ、健太(けんた)の『職業選択の自由(プリースト・オブ・ダーマ)』にせよ、「転職(クラスチェンジ)時に選択肢として挙がった(クラス)の中から好きな(クラス)を選べる」だけで、誰でも好きな(クラス)に付けられるわけではない。

 もちろん、それでも反則級に有益なスキルなのだが。

 

「くそ。そいつでも新メンバーでも、『盗賊(シーフ)』系がいたら紹介してくれ、マジで」

 

「分かった」

 

 そんな言葉を残し、誠一(せいいち)はトボトボと二つ目の『宝箱(ジャックポット)』に向かう。

 将来はともかく、現状では自分がやるしかない。それを理解して、身を危険にさらして最善を尽くす。表面上の軽く悪ぶっている見た目とは異なる、誠一(せいいち)の真面目で責任感の強い性根がそんなところに現れていた。

 

 

 

 

 

 幸い二つ目の『宝箱(ジャックポット)』は、問題なく解錠された。

 

「どっちも剣かあ。外れね」

 

 二メートルを超える大剣と、一メートルちょっとの長剣を見た麻衣(まい)は、途端に興味を失う。

 

「いや、剣つったら大当たりの部類だからな」

 

 という誠一(せいいち)の言葉は、学園全体では事実だが、麻衣(まい)の言葉もこの場に限れば間違っていない。

 学園全体では一番人気な武器である剣も、叶馬(とうま)パーティーでは使い手がいない。

 以前も、『宝箱(ジャックポット)』から出た強力なマジックアイテムの剣――『ブルーソード』をわざわざ『匠工房(アデプトワーカーズ)』で刀――『水虎王刀』に打ち直してもらったくらいだ。

 

「どっちも獅子です」

 

「お揃いです」

 

 海春(みはる)夏海(なつみ)が言う通り、その大剣と長剣は、大きさ以外は非常に似た作りをしていた。

 刀身は真っすぐな両刃で、鍔の部分には黄金の獅子の象嵌されている。銀色に輝く肉厚な刀身には、何やら神秘性を感じさせる文字が刻み込まれている。

 健太(けんた)にはそれがヘブル文字で、大剣に『知恵(コクマ)』、長剣に『知識(ダアト)』と書かれていることが読み取れた。

 

「ダンジョンでドロップするアイテムは、時代ごとの流行(はやり)が反映されるらしいぜ」

 

 本人も今一信じていない口調でそう言う誠一(せいいち)の言葉に、健太(けんた)は一定の理解を示す。

 

「確かに、ゲームやアニメで出てきそうな剣だな」

 

「そういや、大剣はともかく長剣の方なら健太(けんた)が使えるか。いるか?」

 

 誠一(せいいち)の言葉に、健太(けんた)は少し考える。

 

「俺の主武器は小剣だからな。これはちょっと長すぎる。使って使えなくはないが」

 

 健太(けんた)が今腰に下げている『金狼木霊剣』も、その前まで使っていた小剣も、五十センチ未満だ。それに対しこの長剣は、柄も含めれば一メートルを優に超えている。

 健太(けんた)の腕力ならば片手でも使えるだろうが、正直「使いこなせる」とは言い難い。ただでさえ、今は雑魚チラシ専門とはいえ大剣にも手を伸ばしているのだ。

 とはいえ、強力な武器であることは離れて見ていても明らかだ。

 

「そうだな。他に欲しい者がいないなら、長剣の方は貰っておこうか。ただ、すぐに使う予定はないし、あまり人目にさらしたくないからな。叶馬(とうま)が預かっておいてくれるか?」

 

「分かった」

 

 叶馬(とうま)は短く答えると、大剣も長剣もまとめて『空間収納(アイテムボックス)』にしまい込んだ。

 

 

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