ゴールデンウィーク二日目の朝。
本日は別の言い方をすれば、五月第一週の日曜日とも言える。月の第一週の日曜日は、月に一度のフリーマーケットが開催される日である。
出店は倶楽部単位での申請となっているので、一年は現時点では出店側には回れない。まだ入学一カ月の一年では、『銭』にも余裕がないので客としても力不足ではあるが、見て回るだけでも面白い。
大半の一年はまだ『既知』領域の一階か二階をウロウロしている段階だ。フリーマーケットに出展されている程度のマジックアイテムを冷やかすだけでも十分目新しく、楽しめる。
健太は基本、日曜午前を「パートナーとのデートの時間」に当てようと考えていたのが、次のデート相手である竹海の希望が「時間一杯鍛錬に付き合ってくれ」というものだったため、後日にずらさせてもらった。せっかくのフリーマーケットの時間に、いくら大切なパートナーの要望とはいえ、稽古場で時間を潰すのは少々勿体ない。
幸い、今はゴールデンウィーク中と言うこともあり、翌日でも翌々日でも時間を取ることは可能だ。
まあ、たとえ竹海の希望がフリーマーケットをぶらつくような普通のデートだったとしても、今日ばかりは別な日にずらしてもらっただろう。
ゴールデンウィーク二日目のフリーマーケット。
そこは、原作では非常に大きな出来事があるのだ。昨日のトレーニングジムでも健太の介入が必要なポイントがあった。ならば、このフリーマーケットでの出来事でも、健太が介入すべきポイントがあるかもしれない。
そう思って、今朝も昨日同様蘭と竹海を起こさないようにして一人で起床した。だが予想に反し、白鶴荘の食堂には叶馬の姿はなかった。誠一も、静香も、麻衣もいない。今夜は麻鷺荘に泊まったのだろうか?
だから、健太は一人で朝食を取り(正確に言えば、こんな好機を逃すはずがない寮生の先輩たちが、左右に座ってベタベタくっ付いてきたが)、そのまま一人でフリーマーケットを歩いていた。
広いグランドに、仮設テントやブルーシートを敷いたりした、各倶楽部の出店はどこもそれなりに賑わっており、中々興味を引かれる。
店頭に並ぶ一番多い商品は、ダンジョンでドロップしたアイテム類だ。一般的に使える装備は自分で使うし、自分では使えないくらいに跳びぬけて強い装備ならば、オークション行だ。
だから、このフリーマーケットに出展されているダンジョン産装備は、基本使えないと思った方が良い。
それなりの値段で、いかにも使えそうなうたい文句で売っている店舗は百パーセント詐欺。良心的なのは、「使えないけど面白い装備」を適当な価格で販売している店舗だ(十分使える装備を、飛び切り安い価格で販売している『匠工房』は例外中の例外である)。
刻一刻と色が変化し続ける盾、バニラの香りが漂う剣、忍び足をすると「ピンクパンサーのテーマ」が流れる靴など。
使えないを通り越して、一部ダンジョン探索に有害な機能が付いたマジックアイテムも販売されているが、悔しいが少し「欲しい」と思ってしまった健太である。
もちろん、販売しているのはダンジョンアイテムだけではない。アメリカンドッグやチョコバナナのようないかにも屋台といった飲食店を出している店舗もある。
その手の食材は『銭』でかなり安く購入できるらしく、エンジョイ勢倶楽部の中には、このフリーマーケットを最大の稼ぎ時としている倶楽部もあるらしい。
実際健太が購入したイカ焼き(醤油味の姿焼き)は、中々美味しかった。
そうして健太が歩いていると、健太の前の人混みが大きく開かれる。その時点で健太はもう覚悟を決めて『戦士の不動心』をオンにした。
ただ歩くだけで人混みを割る存在、予想通りそれは叶馬だった。
無表情ながらなにか切羽詰まった雰囲気を漂わせる叶馬が、早歩きでこちらに近づいてくる。
健太の前で止まった叶馬は、その場で大きく頭を下げると言った。
「すまん、健太。『銭』を貸してくれ」
いっそ潔い借金の申し込みに、『戦士の不動心』がオンになっている健太は冷静に答える。
「貸しても良いが、使い道を教えろ」
貸し借りに関しては、叶馬が誠実であることは知っている。現に昨日買ってやったトレーニングウェア代も、午後からのダンジョンダイブのあがりから昨日のうちに返してくれた。
それでも、何に使うのか聞かなければ、怖くて『銭』を貸すことができない。健太が貸すことで叶馬がトンチキな物を購入したら、後で静香が怖い。
「あれが欲しい」
そう言って叶馬が指さす先には『ヒゲメガネ』があった。
言われて健太も気づく。今の叶馬が『ヒゲメガネ』を付けていないことに。それが大問題であると、原作を知る健太だけが知っている。
「あの手のジョークグッズはさほど高くないはずだが、そこまでないのか?」
健太の指摘に、叶馬は素直に首肯する。
「うむ。昨日トレーニングウェアを買っていなければ、どうにか足りたのだが」
(俺か。むしろ、俺がズラしてしまったのか)
昨日の筋トレでトレーニングウェアを立て替えて、ダンジョンダイブの後返してもらった健太は、「今『戦士の不動心』がオンになってなかったら、絶叫を発していたな」と確信する。
欲しいものが『ヒゲメガネ』ならば、健太に貸さないという選択肢は存在しない。
「分かった。いくらだ?」
健太は懐から、『銭』用のプリペイドカードを取り出した。
『ヒゲメガネ』。その名の通り、見た目は口髭と眼鏡が一体化したパーティーグッズのようなマジックアイテムで、その効果は「つけるとタップダンスが踊れる」という振り込みで売りに出されている。だが、その真価は全く別にある。
冗談のような話だが、叶馬の手にその『ヒゲメガネ』なければ、この先世界は詰む可能性が高い。先日の「礼治副会長と出会えない」とか以前の「沙姫が仲間にならない」と比べても、圧倒的にこっちの方が大問題だと断言できるほどだ。
これまでのズレで、『ヒゲメガネ』より切実だったのは、最初の「ダンジョンショップの位置」くらいだろう。
『ヒゲメガネ』の真の力。それは「強力な認識阻害能力」である。強力という表現では足りないかもしれない。
なにせ、叶馬がこの『ヒゲメガネ』を付けてやらかしたことは、一切正体がバレないのである。直接視認するのはもちろんのこと撮影されて、動画、静止画に強力な看破系アイテムを使用しても無理。コンピューターの解析もはじく。
さらに言えば、人間の思考すら阻害していると可能性も高い。
大雑把と言うべきか、杜撰と言うべきか、叶馬は『ヒゲメガネ』で変装しただけでかなり好き勝手に暴れまわるのだが、異様なほどに誰も『ヒゲメガネ』の正体が一年丙組の叶馬である、とたどり着けないのだ。
自重という言葉を本人は理解しているつもりだが、はたから見ると全く実行できていない叶馬が、問題なく学園生活を送っていくには必要不可欠なアイテムであると言える。
顔は無表情ながら、やけに軽い足取りで戻ってくる叶馬に、健太は声をかける。
「買えたか」
「うむ、この通りだ」
そう言って叶馬が見せるのは、その手に持つ『ヒゲメガネ』と『ハゲヅラ』である。
「……『ヒゲメガネ』だけじゃなかったのか?」
「セットになっている。セットだと少しお得なのだ」
胸を張って「良い買い物が出来た」と言っている叶馬に、健太は(そういえば、そんな描写もあったか)と原作をおぼろげに思い出していた。
どうやら、健太というスポンサーを見つけた叶馬は、これ幸いと『ヒゲメガネ』単体の値段ではなく、『ヒゲメガネ』『ハゲヅラ』セット分の『銭』を借りたらしい。
これも原作とのズレと言えばズレだが、悪いことではないだろう。
「買えて良かったな。そう言えば、お前は今日も一人なのか?」
確認のためにそう問う健太に、叶馬は嬉しそうに『ヒゲメガネ』を装備しながら答える。
「いや。今日は蜜柑先輩のお手伝いだ。頑張っておられる先輩達に差し入れをしたいのだが」
「良いんじゃないか。半分は俺から出しておく」
「助かる」
『ヒゲメガネ』『ハゲヅラ』セットを購入したことで、十分な差し入れを購入するにも事欠く残高となっていた叶馬は、短く健太に礼を言った。
『ヒゲメガネ』を付けた叶馬がアメリカンドッグを山盛りにした紙皿と、チョコバナナを山盛りにした紙皿を両手に一つずつ持ち、歩み進む。必然的に『ハゲヅラ』は、一時的に健太が預かっている。叶馬が向かっているのは『匠工房』が出店している場所だ。
原作で、ゴールデンウィーク中のフリーマーケットで起こる出来事を覚えている健太は、この先叶馬についていけばその騒動に巻き込まれるだろうと予想がつく。
しかし、今の流れで健太だけ、『匠工房』のところに顔を出さないというのは少々不自然だ。
それに、今日も叶馬が『銭』が足りず、危うく『ヒゲメガネ』を購入できないところだったというズレがあった(原因はある意味健太自身だが)。これからさらに何らかのズレが生じるとはあまり思えないが、見届けた方が安心できることも確かだ。
そうして健太が叶馬の背中を追いかけるようにして歩いていると、聞き覚えのある女子の大きな悲鳴じみた声が耳に届く。
「やめて! 倶楽部の皆には手を出さないで!」
『匠工房』副部長、凛子の悲痛な叫びを聞いた健太は、『ヒゲメガネ』と同じ「認識阻害能力」をあることを期待して、『ハゲヅラ』を被るのだった。
健太が叶馬と共に『匠工房』の出店場所までやって来ると、そこはほぼ健太が原作で知っている通りの状況になっていった。
凛子に狐顔の男子が絡んでいる。耳だけでなく、唇にもピアスを付けているその男子は、全身で「俺はチンピラです」と主張している。その後ろでニヤニヤしている数人の男子も、仲間というか同類と言うか、とにかくよく似たファッションセンスをしている。恐らくはファッションセンスだけでなく、価値観も似ているのだろう。
そんな質の悪いチンピラそのものな集団が、蜜柑、凛子を中心とした『匠工房』の皆を逃がさないようにぐるりと取り囲んでいる。『匠工房』の面々は一様に怯えて、中にはすでに目に涙をためている者もいる。
『餓狼戦団』。それが、彼らの倶楽部名だ。
現二年生の男子が中心となって作られた倶楽部で、ランクはB。一応は、ダンジョン勢に分類される。
だが、実際には『自称』ダンジョン勢、というのが正確な評価になるだろう。なにせ、つい最近まで『職人』の必要性に気が付かず、最近になって「そう言えば、以前捨てたパートナーの女(凛子)が『職人』だったな」と思い出し、無理矢理自分の倶楽部に引き込もうとしているのだから。
そのやり方や女を物のように捨てたり拾ったりする価値観はひとまず置いておいても、『職人』の必要性を実感したのがつい最近と言うのが、もうすべてを物語っている。
『羅生門』ダンジョンはそれほど甘いところではない。ある程度深くまでダイブすれば、武器は消耗するし、専用装備が無ければ詰むレベルの極悪環境の階層が立ちはだかる。
つまり彼ら『餓狼戦団』はつい最近まで、そうした厳しい階層に到達していなかったことを意味する。
それでも、その戦闘力と暴力性である程度知れ渡っているのだろう。グラウンドにいる他の生徒たちは皆、遠巻きに見ているだけで、誰も近づいてこようとしない。
「帰って! 私たちの邪魔をしないで!」
大きいが怒りよりも恐怖を滲ませる凛子の声は、質の悪いチンピラ倶楽部を喜ばせることはあっても、制止する力にはなりえない。
「ああ? 人聞き悪りいな。お前らがゴミ装備売って一年詐欺ろうとしてっから、先輩として注意してやってんじゃねえか」
「ゴミ装備じゃないもん!」
と、異議を唱える蜜柑がその小さな体で凛子を守らんと、凛子と狐顔の男子の間に割って入る。
「っせえな。邪魔だ、チビ」
「きゃっ!?」
と、狐顔の男子がうるさげに、蜜柑の小さな体を突き飛ばした。
「…………」
その時点で、叶馬の『ヒゲメガネ』の奥の双眼に物騒な決意が宿るのを、健太は見た。どうやら、心配するまでもなく、ここの流れは原作通りになるらしい。
「みんなには手を出さないでって言ってるでしょ!」
「あ? 命令すんじゃねえよ、てめえごときが。お前、立場分かってんのか?」
そう言って、狐顔の男子は口を開いて、舌を突き出して見せる。その舌先には、ピアスのように『ピンバッチ』がつけられている。
学園公式パートナーであることを示す『ピンバッチ』だ。付けていないが、全く同じものを凛子も所有しているはずだ。
パートナー契約は、男子が女子を所有する契約。学園の校則では、狐顔の男子の言っていることが全面的に正しい。どのようなものであれ、凛子にはパートナーである彼に逆らう権利はない。
たとえそのパートナー契約が強姦の末、力づくで無理矢理サインさせたものであったとしても。
「うぜえな。黙ってついてこいや。それでも、お友達の前で再調教してやろうか?」
「……みんなには手を出さないで」
「駄目! リンゴちゃん!」
凛子が折れ、蜜柑が悲痛な声を上げたあたりが、叶馬の我慢の限界だったようだ。
「遅れました。差し入れです」
いつもと全く変わらない抑揚のない声でをそう言うと、叶馬は当たり前のようにアメリカンドッグとチョコバナナの乗った二つの紙皿を、身を寄せ合って震えている『匠工房』の皆に手渡す。
「誰だてめえ……あ? いや、マジで誰だお前?」
突然乱入してきた男子を威圧しようとした狐顔の男子は、『ヒゲメガネ』を付けた叶馬を見て後半真顔になる。
まあ、確かに「誰だ?」と聞きたくなるくらいに、訳の分からない見た目である。
叶馬は『匠工房』の先輩に渡した紙皿の上から、アメリカンドッグを一本頂戴するとそれをかじりながら、当たり前のように告げる。
「お前を処刑する者だ」
「…………あ?」
何を言われたのか、理解できない狐顔の男子に、叶馬はもう一度丁寧に宣告する。
「お前たちを、この場で、処刑する者だ」
叶馬がどういうつもりで割って入って来たのか、それを理解した後ろに控える大柄な角刈り男子が大声で笑う。
「アハハ! お前、一年坊主が、俺達『餓狼戦団』に喧嘩売るってか! 正気か、坊主?」
その言葉に叶馬の言っている内容を理解した他の『餓狼戦団』の面々も揃って小ばかにした笑い声をあげる。『ヒゲメガネ』を付けていても、制服を着ていれば襟章で学年は一目瞭然だ。
この時期の一年が、上級生のそれも一応はBランク倶楽部の戦闘職に勝てるはずがない。普通は。
その笑い声が気に入らなかったのか。それとも、単純に自分の言葉がまだ届いていないと思ったのか(恐らくは後者だ)。叶馬は、今一度丁寧に分かりやすく、誤解の余地がないように告げる。
「お前達全員を、今、この場で、処刑する者だ。まだ理解できないか、害虫ども?」
重なる叶馬の言葉に、狐顔の男子を始めとした『餓狼戦団』の面々は、笑いを収めた凶悪な顔で叶馬を睨む。
「……もう取り消せねえぞ、一年坊主」
「駄目よ、やめなさいっ!」
蒼い顔で凛子が止めようとするが、その声をかき消すように『餓狼戦団』の一人が叫ぶ。
「学生決闘だ!」
次の瞬間、叶馬と『餓狼戦団』の周りに、「白い頭巾」で顔を隠し、『決闘委員会』という腕章を填めた者達が数人集まって来る。
「『学生決闘』宣言、確かに聞きました。久しぶりの『学生決闘』、我々『決闘委員会』にとっても仕事があって喜ばしいことです」
青を通り越して白い顔でへたり込んでいる凛子を始めとした『匠工房』の面々を置き去りに、『決闘委員会』の代表は丁寧に叶馬に『学生決闘』について説明する。
『学生決闘』とは、簡単に言えばこの豊葦原学園の全生徒が有する自力救済の権利だという。
基本的に成立には挑む者と挑まれる者の合意が必要であり、格上が格下に対して挑んだ場合には、格下は断る権利がある。逆に、格下が格上に挑んだ場合、もしくは同格に挑んだ場合には、断る権利はない。この場合の格とは、学園の公式記録の職とレベルによって決まる。
今回は、叶馬が挑んだ側になるため、『餓狼戦団』側に断る権利はない。
この時期の一年は、自ら申請していない限り、全員『ノービス1』になっているのだ。帯電体質で壊してしまった生徒手帳を机の引き出しに放り込んだままの叶馬は、当然『ノービス1』である。
決闘のルールは、受けた側だけに決定権がある。ただし、それは最低でも双方に勝ち目があるルールでなければならない。
例えば今回、叶馬一人に対し、『餓狼戦団』は五人以上いる。
だから、叶馬一人と『餓狼戦団』全員の勝ち抜き戦は、有だ。叶馬が全員勝ち抜けば叶馬に勝ち目があるからこれは成立する。
一方、代表五人対五人の点取り方式は成立しない。叶馬一人ではどんなに頑張っても上げられる白星は一勝だけ。残り四つが不戦勝で絶対に勝ち目がないからだ。
「駄目! ダメだよ、決闘なんて駄目!」
「やめなさい、君には関係ないんだから!」
蜜柑と凛子は必死に叶馬を止めようとしているが、逆に凛子は決闘委員会の面々に拘束されてしまう。
凛子は今回の決闘の当事者、はっきり言えば『景品』なので干渉はご法度らしい。
「挑戦者が求めるのは、『第弐学年生丙組所属の凛子』のパートナー権利だ。受諾者は挑戦者に何を要求する?」
学園が把握している叶馬の個人データが『決闘委員』の手に持つタブレットに表示されているらしく、それを覗きむ狐顔の男子はペロリと舌なめずりをする。
「お、一年坊主が生意気にもパートナーを四人も持ってんのかよ。よし、これ全部寄越せや」
「それは成立しない。受諾者のパートナー一名に対し、挑戦者パートナー二名が妥当だ」
数が不均衡なのは、叶馬が挑戦する側だからか。それとも凛子が曲がりなりにも二年で第二段階職の『鑑定士』なのに対し、叶馬のパートナー四人は「学園のデータ上」ではまだ全員ノービス1だからか。
いずれにせよ、少し疑問を覚えた健太はそこで沈黙を破り、『決闘委員』の元へ歩み寄る。
「すみません、一つ確認しても良いですか? 彼が要求しているパートナーの権利を所有するのはこちらの一人だけだと思うのですが、『学生決闘』には他の人も参加されるのですか?」
この時点では部外者と言っても過言ではない(しかも『ハゲヅラ』を被った)健太の問いに、白頭巾をかぶった『決闘委員』は丁寧に答えてくれる。
「当事者は一人だが、仲間が助力するのはありだ。それもまた、力の一つであると判断される」
「それは、受領者側だけですか?」
だとしたら、『学生決闘』などほぼ成立しないだろう、と思いながら健太は確認する。挑まれた側だけがいくらでも人数を集められるのだとすれば、挑む側に勝ち目などない。そんな挑む側が絶対不利な勝負を挑む者などいない。
『決闘委員』の答えは、健太の予想通りだった。
「いや。そこは挑戦者側も同様だ。君は、挑戦者の助力者に立候補する意思があるのか?」
『決闘委員』の言葉に『戦士の不動心』がオンになっている健太は、全く気負わず首肯する。
「はい、挑戦者の助力者として、申請します」
「バカー!」
「やめて!」
『匠工房』の先輩たちが悲痛な声で心配してくれているが、この場面に最初からいて参戦しない方が、後で人間関係が面倒になる。
少なくとも、叶馬の『対等な友人』という肩書や、『匠工房』の面々に対する距離感は、今までのままではいられまい。
「よろしい。承認する」
健太というもう一人の一年生の参戦に、『餓狼戦団』の面々はドンドン足を踏み鳴らし、指笛を鳴らして揶揄う。
彼らの感覚では、嬲って遊べるオモチャが一体増えただけだ。
そうして一時的に皆の視線が健太に集まっている間に、叶馬はいつの間にか右手に二メートルの大剣、左手に一メートルの長剣を握っていた。どちらも鍔の部分に黄金の獅子が象嵌された、豪華なマジックアイテムである。
一目でわかるくらいに、強い魔力を立ち上らせている。
「おい、そっちは俺のだろう」
「すまん」
健太の言葉を受けて、叶馬は左手に持つ長剣を健太に渡す。
それを見た狐顔の男子が、狡そうに笑うと、
「へえ、良いマジックアイテムだな。よし、どっちもそれで受けてやるぜ」
「不均衡だ。このレベルのマジックアイテム二本では、パートナー一人では釣り合わない。どちらか一本を選びたまえ」
「チッ」
『学生決闘』のルールを理解していない叶馬達をハメようとしていた狐顔の男子は、目論見が半分外れて舌打ちをする。
その意図を察した、大柄な角刈りの男子が後ろから口を出す。
「あ、それならこっちも増やせばいいんだろ」
その提案にはルール上は妥当だったらしく、『決闘委員』は何も言わずに白頭巾をかぶった顔を叶馬の側に向ける。
叶馬としては、パートナーの女子に迷惑をかけず、別段いらないマジックアイテムですむのならば、それに越したことはない。問題は、二本のうち一本は自分に所有権が無いことだ。
叶馬に視線を向けられた健太は、端的に答えた。
「俺はかまわんぞ」
健太の答えを受けて、叶馬は答えた。
「それで良い」
その間、凛子は必死に「駄目、それは駄目!」と伝えようとしているが、他の『決闘委員』達に口を塞がれていて、必死の助言も意味のある言葉にはならない。『景品』にどちらに肩入れする権利はないのだ。
「条件はすべて決定した。これより、『学生決闘』を執り行う!」
『決闘委員』の宣言に、いつの間にか集まっていた野次馬たちが、一斉に歓声を上げた。