※この作品はR-18です。

ハイスクール転生アンド巻き込まれ   作:ミタライ

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第六十八話 尚典(なおふみ)の進展、烏琉羽(うるは)の助言

 

 

 

 

 全くの予想外に増えてしまった新パートナー、幸子(さちこ)。その存在は冷静にプラスとマイナスだけで考えれば、健太(けんた)にとっても決してマイナスではない。

 健太(けんた)のパートナーならば、健太(けんた)の倶楽部メンバーに加えることに支障はない。現状健太(けんた)の認識では、健太(けんた)の倶楽部入りが決まっているのは、健太(けんた)尚典(なおふみ)来斗(らいと)(らん)竹海(たけみ)実咲(みさ)の六人のみ。

 倶楽部設立に必要な十人にまだ達していないのだ。たとえ倶楽部戦力の足しにならない人材でも、現状は頭数が増えるだけで歓迎できる。

 さすがに倶楽部に害をもたらすような特殊な事情持ちや、図抜けた我が儘、生粋のサークルクラッシャー等であれば話は別だが、このオドオドビクビクとした態度を見る限り、幸子(さちこ)の場合は性格や性根で倶楽部にダメージを与えることは無さそうだ。

 特殊な事情持ちといえば、まさにその通りだが、そこは健太(けんた)が勝手に『学生決闘(メンズ―ア)』をやったのであり、幸子(さちこ)は純然たる被害者である。

 

 何はともあれ、こんな問題は健太(けんた)が一人でどうにか出来る問題でないし、できたとしてもしてよい問題でもない。

 

「すみません、幸子(さちこ)先輩。いきなりで困惑していると思いますが、これから一緒に白鶴(はくつる)荘に来ていただけますか。そこで、俺のパートナーと顔合わせをしてもらいたいのですが」

 

「はい、分かりました」

 

 健太(けんた)の申し出に幸子(さちこ)は、オドオドとした様子で答えた。

 

 突然増えたパートナーを連れて、現パートナー二人の元を突然訪れて、「この人どうすればいい?」と相談する。健太(けんた)の価値観で言えば、かなり気まずい話だ。せめて、事前に一報入れておきたいところだが、豊葦原(とよあしはら)学園は無線が死んでいる空間だ。事前に連絡を入れる手段がない。

 

 

 

 

 

 

 サプライズで新パートナーを連れてきた健太(けんた)を、(らん)竹海(たけみ)は驚きこそ露わにしたものの、健太(けんた)が予想していたような怒りや不快感を示すことはなかった。

 そう言えば、流れでついここまで被ってきてしまったが、『ハゲヅラ』は叶馬(とうま)の所有物である。今度立て替えた『銭』を返してもらう時に、『ハゲヅラ』を返そうと考えながら、健太(けんた)は数時間ぶりにハゲヅラを外し、(らん)の部屋に置かせてもらう。

 最近はもっぱら(らん)の部屋で目覚めることが多い。碧鷺(へきさぎ)荘の自室に保管しておくと、二度手間になり返し損ねることになりそうだ。

 

 丁度、もうすぐ昼食の時間だったこともあり、健太(けんた)(らん)竹海(たけみ)幸子(さちこ)の四人は白鶴(はくつる)荘の食堂で昼食を取りながら、互いに自己紹介を済ませ、以後同じ男子のパートナーとしてやっていくことを互いに了承した(幸子(さちこ)はひたすら、「はい、すみません。ありがとうございます」と言っているだけだったが)。

 

 一応健太(けんた)の目には、(らん)竹海(たけみ)幸子(さちこ)の存在を受け入れて、特に(わだかま)りを抱いてはいないように見える。もっとも、人間関係に関してはとりわけ節穴である健太(けんた)に見抜ける(わだかま)りなど、意図的に表に出している物だけだろうが。

 本格的な「今後、どのようにやっていくか?」という話は流石に衆目がある寮の食堂ではできない。

 可能ならばこのまま(らん)の部屋(今は一時的に竹海(たけみ)の部屋でもある)で、詳しい話し合いを持ちたいところだが、あいにくと今日は日曜日。健太(けんた)には碧鷺(へきさぎ)荘での罰当番がある。

 早めに罰当番を終わらせて、戻って来ると約束した健太(けんた)は、最後に(らん)竹海(たけみ)からある意味「そっくりそのままお返し」されたような新情報を伝えられ、白鶴荘を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、来た。早めに済ませちゃおう、健太(けんた)

 

 罰当番のためだけに碧鷺荘に戻ってきた健太(けんた)を、尚典(なおふみ)は当然のようにそう言って出迎えた。

 

「今日も手伝ってくれるのか?」

 

 驚きに目を丸くする健太(けんた)尚典(なおふみ)はさも当然のように笑うと、

 

「うん、二人でやった方が早いし、もしかしたら僕にとっても他人事じゃなくなるかもしれないしね」

 

 そう答える。

「他人事ではなくなる」。さほど鋭くない健太(けんた)でも、その意味は流石に理解できる。

「自分も近い将来、女子寮に泊まり込むことになって、健太(けんた)同様の罰当番を受ける」可能性が高いと言っているのだ。

 

 靴を脱いで玄関に上がり、掃除の用意を整えながら、健太(けんた)はつい好奇心を優先して尚典(なおふみ)に聞いてしまう。

 

「他人事じゃなくなるって、尚典(なおふみ)も女子寮に泊まり込むことになるってことか? それって麻鷺(あささぎ)荘?」

 

 健太(けんた)の問いに、尚典(なおふみ)は細くて白い首筋を桜色に染めながら、小さく首肯した。

 

「……うん。空亜(あくあ)先輩が僕のパートナーになりたいって、言ってくれたんだ。あ、健太(けんた)の倶楽部のこともちゃんと伝えたよ。その上で、なってくれるって」

 

 恥ずかしそうに俯く尚典(なおふみ)の表情からは、その先輩――空亜(あくあ)に対する好意が見て取れる。

 空亜(あくあ)という二年生女子についてある程度(らん)から聞かされていた健太(けんた)は、廊下の掃除を始めた手を止めないまま首を傾げる。

 

「あれ? (らん)先輩が言うのには、空亜(あくあ)先輩はなんというか、無気力で何事にもあんまり積極的じゃない感じの人らしいけど」

 

 その分、顔とスタイルは良いし、大概のプレイは拒まないから精力発散には良い。という触れ込みだったはずなのだが、今の尚典(なおふみ)の言葉では、しっかりと尚典(なおふみ)のことを「可愛がってくれた」ようにしか聞こえない。

 

 そんな健太(けんた)の説明に、尚典(なおふみ)は柔らかな前髪をサラリと流す様に小さく首を傾げながら、

 

「え? すごく良くしてくれたよ? 三人とも良くしてくれたけど、その中でも一番良くしてくれたのが空亜(あくあ)先輩だったよ」

 

 と、ツッコミどころが複数ある返事を返す。

 

「待って、ちょっと待って? 三人?」

 

 健太(けんた)は、そんな話は聞いていない。尚典(なおふみ)の様子から見るに、悪い扱いではなかったようだが、何か想定外の出来事があったことは確かだ。

 

「う、うん。三人。制服を、というか服を着てなかったから学年は分からないけど、たぶん先輩だったと思う」

 

 入学してまだ一カ月。流石に、呼ばれてもいないのに好んで乱入する有望な一年女子は早々いないだろう。

 

「名前とか、分かるか? その空亜(あくあ)先輩以外の女子の」

 

 健太(けんた)の問いに尚典(なおふみ)は、少し考えると、

 

「ええと……確か、朱音(あかね)紫苑(しおん)って言ってたと思う」

 

 そう、健太(けんた)にとって聞き覚え、というか原作で見た覚えのある名前を告げる。

 

麻鷺(あさぎ)荘『姉妹(ソロリティ)』の『娼婦(ニンフ)』コンビィ!)

 

 ルームメイトを勝手に捕食した原作登場人物に、健太(けんた)は廊下で(うずくま)る様にして頭の中でツッコミを入れていた。

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、あの二人は本来予定になかったんだ?」

 

(らん)先輩に聞かないと断言はできないけど、十中八九はそのはずだ。気を付けろよ、尚典(なおふみ)。この学園、性欲と精力が増してるのは男子に限らないからな」

 

「うん。ただ、その点に関しては、健太(けんた)に言われるのはちょっと不本意だけど。健太(けんた)こそ、本当に大丈夫なの? その幸子(さちこ)先輩っていう新しいパートナーの人?」

 

「……その辺りは、(らん)先輩と竹海(たけみ)先輩頼りかな。後は烏琉羽(うるは)先輩にも助言が欲しい」

 

 廊下の掃除を終えた健太(けんた)尚典(なおふみ)は、浴室の床にモップをかけながらそんな会話を交わす。二人とも裸足で、ズボンを膝まで巻くっての作業だ。

 その会話の内容からも分かる通り、尚典(なおふみ)から麻鷺荘での出来事を聞かされた後、健太(けんた)は今日の午前中に行った『学生決闘(メンズ―ア)』についてすでに説明している。

 念のため「こんなこと言うと己惚(うぬぼ)れてるみたいだけど、俺と叶馬(とうま)はちょっと例外だから、尚典(なおふみ)は上級生相手の『学生決闘(メンズ―ア)』は出来だけ避けた方が良いよ」という健太(けんた)の忠告に、尚典(なおふみ)は苦笑しながら「やるわけないよ」と答えていた。

 

 だが、そこから連想したのか、尚典(なおふみ)はふと呟く。

 

「でも、実際今の僕ってどのあたりの強さなんだろ?」

 

 この学園で生活している限り、自分の強さに興味を持たずにはいられない。開き直って男子に身を投げ出す覚悟を決めた女子ならばともかく、男子は強さがイコール学園生活の快適度だと言っても過言ではない。

 健太(けんた)は周囲を見渡して、浴室内には自分と尚典(なおふみ)しかいないことを確認してから、声を絞って答える。

 

「少なくとも、一年の上位一割であることは間違いない。トップ層の一%にも入っていてもおかしくはない」

 

 一学年は男女合わせて約千人だから、一割で上位百位以内、一%で上位十位以内だ。五月が始まったばかりの時点で尚典(なおふみ)はすでに第二段階職の『陰陽師(オンミョウジ)』。それも、この間来斗(らいと)を『重殴士(ヘヴィビーター)』にする時に一緒にパワーレベリングをしたので、最低でもレベル10は超えている。

 単純なレベルだけでいれば、トップ百は確実、トップテンでもおかしくないという健太(けんた)の評価はそう大きくずれてはない。

 確実に上と言えるのは、誠一(せいいち)静香(しずか)麻衣(まい)沙姫(さき)の四人と健太(けんた)くらいだろう。ちなみに叶馬(とうま)はノービス10+『雷神見習い(ライジングサン)』10+『雷神(ライジン)』一桁レベルなので、通算レベルだけで言えば確実に尚典(なおふみ)よりも下である。

 

 健太(けんた)の評価は、さほど自己評価とずれていなかったのだろう。尚典(なおふみ)は頷きながら答える。

 

「やっぱりそれくらいになるよね。先輩たちの話とか、クラスメイトの言葉から平均を見るとそうだと思うんだ。健太(けんた)といるとその辺の感覚狂うけど」

 

 尚典(なおふみ)来斗(らいと)と手を組んでも勝てるかどうかわからないレベルのモンスターを、健太(けんた)は普通に達磨にして経験値として並べて見せる。これでは「自分は学年のトップランナーだ」という意識が育たないのも無理はない。

 

 健太(けんた)は苦笑しながら、

 

「まあ、自分でいうのもなんだけど、俺はちょっと例外だから。それに、対人戦は単純なレベルだけじゃなくて、相性とか装備によって勝敗が覆るらしいぞ」

 

 そう、謙遜しようのない事実を告げる。

 

「ああ、先輩たちが言ってた三すくみってやつだね。そこで言えば僕も例外に入るみたいだけど」

 

 三すくみとは一般的な戦闘系の三職、『戦士(ファイター)』、『盗賊(シーフ)』、『術士(マギ)』の相性のことだ。戦士は盗賊に強く、盗賊は術士に強く、術士は戦士に強い。

 ただし、それが当てはまるのは基本職の話であり、レア職が加わると相性は簡単に覆る。尚典(なおふみ)が言う通り、尚典(なおふみ)の就いている『陰陽師(オンミョウジ)』もその例外の一つだ。術士系でありながら、武器戦闘にも対応している『陰陽師(オンミョウジ)』は特別盗賊系を苦手としてない。

 

「うん。聞いた話では、尚典(なおふみ)の職は対人戦でも結構強めみたいだな」

 

 そもそも『術士(マギ)』系オンリーの『東方三賢人(メイガス)』がAランク倶楽部として君臨してるのだから、相性など大雑把な目安でしかないのだろう。

 そんな話をしていると、浴室の入り口が開き、一組の男女が入って来る。

 

「おう、掃除中か。わりいけど、シャワー使わせてくれ」

 

 と言ってきたのは、見覚えのある上級生男子だ。この碧鷺荘の寮生で噂では『強盗(ローグ)』らしい。今は堂々と全裸になっているが、その職のイメージを外さない、小柄で細身だがしっかりと筋肉のついたいかにも俊敏そうな体つきをしている。

 

「構いませんが、シャワールームは?」

 

 そう尋ねる健太(けんた)に、その上級生男子は小さく肩をすくめると、

 

「ちょうど全部使用中だ。今年も一年の大半は元気で馬鹿だな。お前らみたいなのは例外だよ」

 

 そう言うと、一生懸命自分の後ろに隠れようとしていた少女(もちろん全裸)を強引に引っ張ってくると、シャワーの前の椅子に座らせる。

 恥ずかしそうに両腕で秘所と胸元を隠して俯いてるその様から、彼女が一年であることはまず間違いあるまい。

 

「ほら、男物だけどないよりはマシだろ。使え」

 

「は、はい」

 

 少女は上級生が差し出すボディタオル、ボディソープ、シャンプー(コンディショナー入り)、洗顔フォームなどを受け取ると、観念したのか体を隠していた両手で体を洗い始める。

 

「おう、ここは後で俺が掃除しとくから、お前らはもう行っていいぞ」

 

「分かりました」

 

「失礼します」

 

 健太(けんた)尚典(なおふみ)は、先輩男子と一年女子を残し、浴室を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 ズボンのすそを戻して、浴室清掃道具を所定の位置に片づけた健太(けんた)尚典(なおふみ)は、廊下を歩きながら先ほど見た内容について言葉を交わす。

 

「さっきの先輩が連れてた女子って多分あれだよな? 一年の寮生が無断で連れ込んだ女子の徴発」

 

 健太(けんた)の言葉に、尚典(なおふみ)は苦笑しながら同意する。

 

「多分ね。それも、シャワールームが全部埋まってるって言ってたから、他にも最低四人はいると思って良いんじゃないかな」

 

 この碧鷺(へきさぎ)荘も浴室とは別にシャワールームが設けされている。そこは最大四人が同時に使用可能だ。それが全部埋まっているということは、先客が四人いたということを意味する。こんな昼食を少し過ぎたくらいの時間帯に、一人でシャワーを浴びている男子などこの豊葦原学園にはいないと言い切っても良い。

 

「ああ、それにしても全員大体同じ時間に見つかるって不自然だよな。もしかして、先輩たちが申し合わせた?」

 

 健太(けんた)の予想に尚典(なおふみ)は首肯して、説明する。

 

「多分そう。以前に波留(はる)寮長が言ってたんだけど、無断で女子を連れ込んでもほぼバレるらしいよ。上級生には何人も『盗賊(シーフ)』系がいるから」

 

 普通科の生徒は通常空間ではスキルは使えないが、(クラス)の能力はきちんと身についている。『娼婦(ニンフ)』『男娼(エルフ)』がスキルに頼らずともセックスが上手いのと同じように、『盗賊(シーフ)』系は聞き耳を立てたり、人の気配を察知する感覚が鋭くなっている。

 大半がノービス、精々なり立ての第一段階職の一年が息をひそめていても、存在はバレバレだ。波留(はる)寮長自身が『盗賊(シーフ)』系第三段階職『馬賊包頭(ギャングライダー・ヘッド)』なのだ。

 

「わざわざ、今になって一定摘発ってことは、今まで泳がせていたのか」

 

 健太(けんた)が言う通り、それならば泳がせていたと思わなけば、つじつまが合わない。今はゴールデンウィーク二日目の昼過ぎだ。最低でも、一晩は彼女たちは見逃された計算になる。

 

「そうみたいだね。これも噂なんだけど、ちゃんと『お世話』をしていれば、ある程度お目こぼしももらえるみたいだよ、この寮では」

 

 尚典(なおふみ)も流石に正確な条件までは知らないようだが、その噂は事実だった。

 碧鷺(へきさぎ)荘では正式なルールでは、「二人部屋の男子は、原則女子の連れ込み禁止」「女子を連れ込むときは、出来るだけみんなにも輪姦(まわ)すこと」となっているが、実際にはまだ二人部屋の男子がこっそり女子を連れ込むのも、一定の条件のもと見逃されていた。

 

 その条件とは、

 定期的に女子にトイレを使わせてやること。

 ペットボトルの水と弁当でも良いから、ちゃんと女子の食事を用意すること。

 女子に最低限の睡眠時間を確保してやること。

 蒸しタオル、お湯とタオルなど、女子の身だしなみを整える用意をしてやること。

 

 以上である。

 

 上級生が気を配って入れば、一年が隠していてもこの辺りは簡単に見破ることができる。

 一年の男女がどれだけこっそりしているつもりでも、トイレを使おうと廊下に出れば、すぐに分かる。

 この時期の一年に『銭』の余裕などあるはずがないから、弁当を持ち込むとすれば購入先は一番安く用意してくれる寮の食堂だ。上級生が食堂のおばちゃんに聞けばその辺りは正直に教えてもらえる。

 本人たちは息を殺しているつもりでも、セックスをしていればその気配や音は、廊下どころか違う階にいても、集中すれば察知は可能だ。その気配から、一晩中女子が寝る間もなくヤラレ続けていたら、元気がなくなるのでこれもちゃんと分かる。

 身だしなみを整える用意は、日頃から部屋に常備している場合もあるので分からない可能性もあるが、ここまで気を付けている男子はたいていほかの三っつも気を付けていることが多いので、おまけのようなものだ。

 

 これらの執行猶予が翌日の昼となっている。タイムリミットまでにちゃんとした対応をしていなかった部屋に、『兄弟(ファタニティ)』の幹部たちが合鍵で踏み込んで、連れ込まれていた女子を没収するのだ。

 没収した女子は本人の希望に沿って食堂での食事、トイレでの排泄を済ませた後、シャワールームに連れ込まれて洗われる。

 その後は、無断侵入罪として上級生の部屋で一晩罰則セックス。

 翌朝には「ゴールデンウィーク中は碧鷺(へきさぎ)荘は立ち入り禁止」と言い渡されて、解放される手はずとなっている。

 

 この扱いで碧鷺(へきさぎ)荘はエントリークラスの男子寮では、「指折りの行儀が良い寮」とされているのだから、この学園が風紀レベルが分かるというものだ。

 

 

 

 

 

 

 無事に罰当番を済ませた健太(けんた)は、寮長室の波留(はる)寮長に終了の報告を入れると、真っすぐ白鶴(はくつる)荘に戻ってきた。

 籍を置いている男子寮から女子寮に来ることを「戻る」と表現するのは間違っているはずだが、身を置いている時間の比率で考えれば戻るという表現は決して間違っていないだろう。

 いつの間にか、白鶴荘の玄関の下駄箱に『健太(けんた)』という名札が付いた場所があるようになったのは、良くも悪くも健太(けんた)が白鶴荘に受け入れられてきた証拠だろう。

 ちなみに、叶馬(とうま)誠一(せいいち)の下駄箱は今のところない。叶馬(とうま)誠一(せいいち)は、最近ここ白鶴荘より麻鷺荘に泊まることが増えたからだろうか。

 

 そんな健太(けんた)を玄関で迎えたのは、少し予想というか、期待していた相手だった。

 艶やかな長い黒髪が印象的な楚々たる美女――烏琉羽(うるは)がいつも通りの透明感のある笑顔で迎える。

 

「お帰りなさいませ、健太(けんた)さん。健太(けんた)さんのパートナーは三人とも、(らん)の部屋で健太(けんた)さんをお待ちです。ですが、少しお伝えしたいことがございます。その前に、私の部屋に寄ってくれませんか?」

 

 健太(けんた)が新パートナーとなった幸子(さちこ)を連れてきたときには烏琉羽(うるは)はいなかったはずだが、その後合流して話を聞いたのだろう。

 今回の突発性新パートナー誕生問題について、烏琉羽(うるは)から助言がもらえるのならば、それはとても心強い。

 

「分かりました」

 

 だから健太(けんた)に否はなかった。

 

 

 

 

 来斗(らいと)が『重殴士(ヘヴィビーター)』となった夜。無事、実咲(みさ)来斗(らいと)に隷属した。これでひとまずは問題なしと言うことで、現状烏琉羽(うるは)の部屋を来斗(らいと)実咲(みさ)に貸し出すのは、一時停止している。

 だから、健太(けんた)が招かれた烏琉羽(うるは)の部屋は、以前入った時の印象のままだった。

 

「そこまで長い話にはならないと思いますが、座ってください」

 

「はい」

 

 健太(けんた)烏琉羽(うるは)に促されるまま、ベッドに腰を下ろす。一人部屋とはいえ、白鶴荘は所詮エントリークラスの女子寮だ。大した広さはないので、座る場所と言えばベッドしかない。しかし、こうしてベッドに腰を下ろすとどうしても、烏琉羽(うるは)と過ごした濃厚な性行為が思い出されてしまう。

 それを見抜いているのか、烏琉羽(うるは)はなにか可愛らしいものを見るように目を細めて、クスリと笑う。

 

「どうぞ、ペットボトルのままですが」

 

「ありがとうございます」

 

 健太(けんた)烏琉羽(うるは)から手渡しで、お茶のペットボトルを受け取る。運が良いことに、それは市販されているお茶の中で健太(けんた)が一番好んでいるお茶だった。

 健太(けんた)がペットボトルの口を開け、一口飲んで口と潤している間に、烏琉羽(うるは)は当然のように健太(けんた)の隣に腰を下ろす。その身に纏うコットンのワンピース型ルームウェアよりもなお柔らかく肌触りの良い烏琉羽(うるは)の太腿が、ピッタリと健太(けんた)の太腿にくっ付くほどの至近距離だ。

 

「あ、あの……」

 

 このまま流れで、今夜は烏琉羽(うるは)の部屋に泊まることになってしまうのではないか。そんな危機感を抱く健太(けんた)だったが、烏琉羽(うるは)はちゃんと会話するようだった。ピッタリと体を寄せて、耳元でささやくような体勢で、だが。

 

幸子(さちこ)さんとお会いしました」

 

 健太(けんた)の体がビクリと震える。

 

「結論から申し上げます。幸子(さちこ)さんに、選択肢を与えないでください。健太(けんた)さんの問いはいつも、パートナーや倶楽部メンバーの意思を尊重するための優しさであることは存じております。ですが、今の幸子(さちこ)さんにとってそれは毒にしかなりません」

 

「それは……」

 

 健太(けんた)は二重の驚きに、息を呑む。

 驚きの一つは、自分がやろうとしていたことを烏琉羽(うるは)に言い当てられたこと。

 健太(けんた)は、幸子(さちこ)に尋ねるつもりだったのだ。「貴女はどうしたいですか?」と。幸子(さちこ)からしてみれば、自分があずかり知らぬところで勝手にパートナーが変わるという理不尽があったのだ。健太(けんた)としても巻き込んでしまったという罪悪感がある。

 だから、せめてもの償いに以後の身の振り方は、出来るだけ幸子(さちこ)の意に沿った形にしてやろうと思っていたのだ。

 

 それが駄目だ。毒になる。と言い切られたのがもう一つの驚きである。

 烏琉羽(うるは)はピッタリと体を寄せたまま、優しく囁き続ける。

 

「『餓狼戦団(ヴォルフリッター)』は私も噂は聞き及んでいます。いろいろと問題の多い倶楽部ですね。ああ、実力はそれなりですが、勝てない相手には簡単に尻尾を巻きますので、健太(けんた)さんがご心配するようなことはないかと。

 幸子(さちこ)さんはその『餓狼戦団(ヴォルフリッター)』で長い間飼われていましたからね。殿方の問いに答える、希望を述べるという行為に強い恐怖心を抱いているようです。恐らくは、何を答えても罰を受ける。希望を述べたら逆をやられる、ということを繰り返しやられたのでしょう」

 

「…………」

 

 烏琉羽(うるは)の言葉に、健太(けんた)は言葉を失った。だが、原作を思い返してみれば、ありうる話だ。

 女子を抱き心地が良くて、良く鳴くオモチャ、ぐらいにした思っていない男子がこの学園には一定数存在する。少なくとも、女子に良心的な対応を心掛けている男子よりは圧倒的に多数派だ。

 こっちから聞いておいて、正直に答えれば、「生意気だ」と言って罰を与える。「それだけはやめて」と言ったことをあえてやる。「せめて、こうして欲しい」と言ったことはやらない。そうやって、泣く、怒る、慟哭する女子を見てゲラゲラ笑う。

 そういうことをやりそうな、この学園の中でも特にろくでなしのチンピラ倶楽部の一つとして、『餓狼戦団(ヴォルフリッター)』は描かれていた印象がある。

 

「では、どうすれば。パートナーを解消するのは駄目、ですよね?」

 

 念のため尋ねる健太(けんた)に、烏琉羽(うるは)ちょっと困ったように笑う。

 

「いいえ。健太(けんた)さんが特に幸子(さちこ)さんに興味がないのでしたら、むしろ、そうするのが一番ですね。それが健太(けんた)さんにとって一番面倒が少ない対応です。ただ、健太(けんた)さんが幸子(さちこ)さんを出来るだけ良いようにしてあげたい、と考えてらっしゃるのでしたら、決して良い結果にはならないかと」

 

「ですよね」

 

 健太(けんた)は、大きくため息をつく。

 原作知識とこの一カ月で学んだ学園の価値観を統合すれば、健太(けんた)にもその程度のことは予測がつく。

 最低最悪の男子でもパートナーがいる方が、いないよりはまだマシなのがこの学園の一般的な女子の立場だ。

 幸子(さちこ)は曲がりなりにも、Bランク倶楽部で正式にパートナーとして飼われていただけあり、学園基準でも顔は良い方だ。体つきは流石に制服の上からでははっきりとは分からないが、基本細身でスレンダーな体型だと思われる。

 健太(けんた)の好みから外れるが、男の人気を集める顔つき、体つきなのは間違いない。

 

 そんな健太の思考を表情から読み乗ったのか。

 

幸子(さちこ)さん、脱ぐと結構凄いですよ。この倍くらいはあります」

 

「!?」

 

 烏琉羽(うるは)はそう囁くと、健太(けんた)の左手を取ってワンピースの中へと導いた。今日はブラジャーを付けていないらしい。大きくはないが形が良く、とても柔らかい烏琉羽(うるは)の乳房の感触と、「この倍くらいある」という情報に、健太(けんた)の股間は固く熱くなる。

 

 烏琉羽(うるは)の乳房は決して大きくはないが、小さくもない。その倍くらいあるのならば、幸子(さちこ)は隠れ巨乳ということだろう。烏琉羽(うるは)の倍程度では、(らん)竹海(たけみ)にはまるで及ばないだろうが、世間の基準では立派な巨乳になる。

 

 健太(けんた)幸子(さちこ)に対する興味が激増したのを確信した烏琉羽(うるは)は、笑いを含んだ声で助言する。

 

「もし、幸子(さちこ)さんを正式に健太(けんた)さんのパートナーとされるのでしたら、その上で出来るだけ幸子(さちこ)さんに良いようにしてあげたいと考えているのでしたら、全て健太(けんた)さんがしたいようにしてあげてください」

 

「したいようにって。流石にそれは」

 

 たじろぐ健太(けんた)烏琉羽(うるは)は説明を付け加える。

 

「今の幸子(さちこ)さんにとって一番安心できる状況は、パートナーとなった殿方の言われた通りにすることです」

 

「好きにしろ」とか「自分で考えろ」と言われる方がストレスとなる人種は、学園に限らず一般社会にも一定数存在する。たとえ、その命令がどれほど厳しいものだったとしても、だ。

 

 健太(けんた)が欲望を言葉や行動で示さなければ、幸子(さちこ)は必死に健太(けんた)の顔色を窺うことになる。それならば、ストレートに欲望をぶつけてやる方が幸子(さちこ)には安心につながる。

 そのような精神状態になっている女子は、この学園ではそこまで珍しくなかった。

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