※この作品はR-18です。

ハイスクール転生アンド巻き込まれ   作:ミタライ

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第七十話 武道館でのデート、シャワールームでの交渉

 

 

 

 武道館は豊葦原学園の設備の中で、最も大きく最も充実している設備の一つに数えられる。

 ゴールデンウィーク初日に、健太(けんた)叶馬(とうま)とともにこそこのトレーニングジムでウェイトトレーニングを行ったので、よく分かっている。

 もちろん、武道館の施設はトレーニングジムだけではない。

 畳張り、板張りの道場はもちろん、砂場、砂利、アスファルトなど多様な足場で戦闘訓練ができるようになっている。

 その中の一つ。グラウンドのような土の道場を借り切って、健太(けんた)は約束通り、竹海(たけみ)と『デート』を繰り広げていた。

 

 

 

 

 

 

「はあ!」

 

 気合の声と共に、竹海(たけみ)は左手に持つ洋刀(サーベル)で、健太(けんた)の左肩めがけ振り下ろす。

 

「……」

 

 学園の『戦士(ファイター)』系でも、スキルを使わなければこれほど洗練された斬撃を繰り出せない者も珍しくはない、それくらいに良く練られた一撃だったが、健太(けんた)は眉一つ動かすことなく、その一撃を左腕に装着している方形盾で受け流す。

 

「はっ!」

 

 だが、それは竹海(たけみ)にとっても想定通り。健太(けんた)が方形盾を装着した左腕を上にあげた隙を狙い、連続して右手に持つ赤黒い曲刀――『探鉱者の栄光(ピュアディリジェンスギア)』で健太(けんた)の左腹部を横薙ぎに狙う。

 しかし、

 

「……」

 

 健太(けんた)はその二撃目も、左腕の方形盾で丁寧に受け流した。

 竹海(たけみ)が両手で一本ずつ持っている武器で二連撃を繰り出したのに、健太(けんた)はその両方を左腕の方形盾で綺麗に受け流すことが出来た。

 これは、純粋に意識下の速度が勝負にならないくらいに離れている証拠でもある。

 だから、武器を持つ両方の手が即座に立て直せないくらいに体勢を崩れた竹海(たけみ)の長い首筋に、健太(けんた)が右手に持つ小剣をピタリと据えた時、

 

「はい、私の負け」

 

 竹海(たけみ)は素直に武器を捨てて両手を上げるしかできないのだった。

 

 

 

 

「いったん休憩しましょう、竹海(たけみ)先輩」

 

 健太(けんた)のその声を受けて、竹海(たけみ)は二本の曲刀を両腰の鞘に戻すとすぐさま剣帯を外し、その場に腰を下ろす。

 

「うー、分かっていたけど、全然歯がたたないなあ、あー、悔しい!」

 

 そう言って、竹海(たけみ)は地面の上で思い切り伸びをした。

 

竹海(たけみ)先輩、汚れますよ」

 

 健太(けんた)はそう言って、持ってきていたスポーツドリンクのペットボトルと大きめのタオルを竹海(たけみ)に手渡す。

 

「ん、ありがとう。まあ、どのみちこれだけ汗をかいたのだから、ウェアは洗わないといけないし、私だってシャワーを浴びる必要があるからね。今更だよ」

 

 そう言って、竹海(たけみ)はグランドのような土の上で寝そべることに頓着しない。

 

「まあ、それはそうですが」

 

 一方健太(けんた)は、そんな竹海(たけみ)を止めようとはしないものの、自分は真似しようとはしない。

 健太(けんた)は土でも、アスファルトでも、何だったら木の床でも、本来土足で歩く場所に腰を下ろすことに抵抗がある人間だ。もちろん、立っているのもおっくなくらいに疲労している時は別だが。

 そう言う意味では、健太(けんた)竹海(たけみ)の姿勢はそのまま両者の疲労度を表しているという面もある。

 小剣こそ腰の鞘に戻したが、左腕の小方形盾を装着したまま、いつも通り立っている健太(けんた)と、剣帯ごと武器を外し、座るどころから地面に手足を投げ出す様にして寝っ転がる竹海(たけみ)

 

 健太(けんた)は額に少し汗を滲ませている程度なのに対し、竹海(たけみ)は全身に水を浴びたような汗をかいている。

 今日のトレーニングでは、剣や盾は普段愛用している物を使用しているが(健太の小剣は『金狼木霊剣』ではなく購買品)は、防具は付けていない。健太(けんた)はゴールデンウィーク初日に購入したトレーニングウェアだし、竹海(たけみ)も同様だ。

 ただし、健太(けんた)のトレーニングウェアがジャージ生地の実用性一点張りの物であるのに対し、竹海(たけみ)のトレーニングウェアは、色合いこそ落ち着いた黒だが、下は膝までのハーフパンツ、上はノースリーブヘソ出しのどちらも体にぴったりとフィットする肌の露出も多ければ、露出していない部分も体のラインは丸見えな代物だ。

 ましてやそれを着ているのは、長身巨乳の竹海(たけみ)である。

 

 トレーニングウェアや体に土が付くことを気にもせず、寝そべったままスポーツドリンクのペットボトルに口を付けている竹海(たけみ)肢体(したい)を、健太(けんた)は今更ながら盗み見る。

 

 竹海(たけみ)肢体(からだ)は『モデルの骨格』の上に、『アスリートの筋肉』が乗り、さらにその上に『グラビモデルの脂肪』の乗っていると言えばかなり正解に近いだろう。

 仰向けに寝そべっていても「大きい」と一目でわかる程の巨乳。「細い」のではなく「引き締まっている」という表現が相応しいウェスト。女子としては重めの体で素早い動きや人並み以上の跳躍を可能としている大きな尻と太めの太腿。

 汗で濡れたショートボブの黒髪が張りつくシャープな美貌も相まって、チラチラ盗み見ているつもりが、いつの間にか視線を奪われて外せなくなるほどに、蠱惑的だ。

 

 もちろん、そんなあからさまな視線に、学園女子である竹海(たけみ)が気づかないはずがない。

 

「ふふ、ご主人様。手を貸してもらえるかな?」

 

 下から見上げる竹海(たけみ)はその肢体(からだ)にも勝る蠱惑的な笑みを浮かべると、健太(けんた)に向って両手を伸ばす。

 

「あ、はい」

 

 と素直に健太(けんた)が屈み、竹海(たけみ)を立ち上がらせる補助としてその手を取ろうとするが、竹海(たけみ)はそれをスルーして素早く両手を健太(けんた)の背中に回し、逆に健太(けんた)を引きこもうとする。

 もちろん、今の健太(けんた)の反射神経と身体能力をもってすれば、それに抗うことなど容易い。だが、極めて魅力的なパートナー女子が自分を引き込もうとしているのに、抗う理由は健太(けんた)にはなかった。

 

「あ、ええと……竹海(たけみ)、先輩?」

 

 竹海(たけみ)の全てが大きく弾力に満ちた体の上に倒れこんだ健太(けんた)は戸惑ったような、だが非常にうれしそうな声を上げる。

 身長、体重、手足の長さ、すべてにおいて健太(けんた)より一回り上の竹海(たけみ)だ。こうすれば、健太(けんた)はすっぽり竹海(たけみ)の上に乗っかってしまう。

 竹海(たけみ)は、その長い両手両足で、下から健太(けんた)を絡み取り、健太(けんた)の首筋に顔を埋めてしきりに頬ずりをする。

 

「ああ、良いね。これが私のご主人様だ。手も足も出ないくらいに強くて、そのくせどこまでも甘やかしてくれる」

 

「そ、それはどうでしょう。ていうか、これは俺が甘やかされてるのでは?」

 

 健太(けんた)の主張は健太(けんた)の主観ではその通りだが、学園の常識で言えば間違いなく竹海(たけみ)の主張が正しい。

 隷属させた自分のパートナーにこれほど好き勝手させている男子は、少ない。

 

 本日のデートとして、思う存分手合わせをした竹海(たけみ)だが、その結果は今竹海(たけみ)が言った通り、「そもそも勝負になっていない」だった。

 現在の竹海(たけみ)は『遊び人(ニート)』系第二段階レア職『良い踊り子(ナイスダンサー)』だ。

 身体能力だけで言えば、下手な『戦士(ファイター)』系、『盗賊(シーフ)』系の第二段階職に負けてない。その上で、二刀を振るう竹海(たけみ)の技量も十分なものだった。

 だが、そんな竹海(たけみ)の攻撃は、ことごとく健太(けんた)の盾に阻まれた。二刀で連続攻撃を加えても、健太(けんた)は一つの盾でその全ての攻撃を受け流した。

 どんな攻撃も通じない。速度を上げても、力を込めても、連撃で裏を取ろうとしても、何もかもが無駄。

 竹海(たけみ)からすると、それは『歓喜』以外の何物でもなかった。

 鍛錬相手としては、最善と言っても良いくらいだ。

 

 一つ、難点を上げるとすれば「この人は絶対に自分を傷つけない」という確信があるため、若干緊張感にかけることくらいか。

 

「おや、甘やかした方が良いのかい? それなら、こうしようか」

 

 下から抱き着く竹海(たけみ)の声色と体の密着させ方が、明確に艶を帯びたところで健太(けんた)は慌てて否定する。

 

「いえ、今はいいです。ここだと汚いですから。そういうのは、夜に寮に帰ってからで」

 

 健太(けんた)の拒絶が格好つけではなく、本心からであることが察せられたのだろう。竹海(たけみ)は素直にご主人様の言うことに従う。

 

「分かったよ。うちのご主人様は、潔癖症だね。この学園の女子はどこで()っても問題はないのだがね」

 

 竹海(たけみ)の言う通り、この学園では性風俗が乱れに乱れ、乱交、青姦、輪姦が当たり前になっているが、それが理由で性病や伝染病になった者は存在しない。場所もグランドの土の上、校舎の中、中庭の草むらの中、しまいには不文律で決められた便所の中などで、衛生など気にも留めずにやっているはずなのに、だ。

 それどころか、学園の女子にニキビや乾燥肌、オイル肌といった肌トラブルに見舞われている者もほとんど存在しない。

 ダンジョンである程度レベルが上がれば「体は健常な状態を取り戻す」とされ、入学時には眼鏡やコンタクトが欠かせない近眼の者も、半年後には全員眼鏡いらずになっているのとおそらくは同じ恩恵だろう。

 

 そう考えると、「セックスはあくまで寝具の上で。その前後は出来るだけシャワーを浴びよう」という健太(けんた)の常識は、学園の常識と比べると確かに潔癖症と言えるのかもしれない。

 

「その辺は、俺に合わせてください」

 

 そう言って健太(けんた)は、竹海(たけみ)の大柄で豊満な体を抱き上げながら、立ち上がる。

 

「もちろん、ご主人様の仰せのままに」

 

 竹海(たけみ)健太(けんた)の首っ玉にぶら下がる様にして起き上がると、芝居じみた口調でそう答ええた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 武道館には、汚れや汗を流すためのシャワールームが複数存在しており、それらの中には個室になっているものも少なくない。そうしたシャワールームは一応表向き『男子用』『女子用』と表記されているが、どちらにも男子も女子もいるのはまあ、ここが豊葦原学園なのだからごく当たり前の話だ。

『男子用』シャワールームに連れ込まれる女子、『女子用』シャワールームに乱入する男子は引きも切らない。

 それと比べれば、最初から男女一組で使うのが半ば不文律になっている個室シャワールームは、まだ平和だ。

 汗と土で体を汚してしまった竹海が「シャワーを浴びていきたい」と言うのはごく当然の要求だったし、たとえ女子用シャワールームでも個室型シャワールームでも、女子が一人で使うのはあまりに危険な行為である。

 そんな竹海の言葉に反論が思いつかなかった健太は、竹海の思惑通り二人で一つの個室シャワールームを使用していた。

 

「ちょっと両腕を上げてくれるかな? そうそう、後はこうして」

 

「あ、ぐっ……!」

 

 白鶴荘で何度か経験しているパートナーと一緒に浴びるシャワーだが、健太(けんた)はまだまだ全然慣れない。

 自分より頭半分背が背高い竹海(たけみ)がその大きく弾力のある乳房、尻、太腿を駆使して健太(けんた)の体を洗うのだ。興奮しないはずがない。

 

 竹海(たけみ)が言うには「トレーニングに付き合ってもらったお礼」らしいのだが、これは健太(けんた)としてはデートのつもりだから、お礼をされる話ではない。

 その旨を伝えると竹海(たけみ)は「では、返礼としてご主人様が私の体を洗ってくれたまえ」と言われた。

 

 本来一人用の狭いシャワールームで、身体を密着させての洗いっこ。

 先ほどまでの稽古とは真逆に、今度は健太(けんた)の方が息を荒くしている。愛するご主人様と密着している竹海(たけみ)もその実健太に負けずに発情しているのだが、その辺りを誤魔化すポーカーフェイスは健太の何倍も上手だ。

 

 女子に体を洗われるのはもちろんだが、女子の体を(素手で)洗うというのも非常に欲情する行為だ。しかも相手は、胸も尻も抜群の肉付きをしている竹海(たけみ)。最初は恐る恐るだった健太(けんた)の手も、竹海(たけみ)の「もっと上も」「あ……そこを丁寧に」「んん……いいよ……もっと強く揉んで」などと囁き声で誘導されるに従い、体を洗うというより泡立った女子の体を(まさぐ)り、堪能するだけになっていた。

 

 そこまでやっても、そのままセックスには至らないのは健太(けんた)がよほど理性が強いのか、はたまた物凄くヘタレなのか。まあ、後者だろう。

 

 必要以上に長い時間をかけて体を洗い合った健太(けんた)竹海(たけみ)は、温かいシャワーを浴びて泡を流しながら、言葉を交わす。

 

「……ふう。ところで、私の剣技はどうだったかな? おためごかし無しの素直な感想を聞かせて欲しいのだけど」

 

 思い切り性欲を刺激されていた健太(けんた)が、そう問う竹海(たけみ)の声と表情が真剣みを帯びていることに気づき、しっかりとした答えを返す。

 

「ええと、右手の曲刀に振りまわされています。右手も以前使っていた洋刀(サーベル)に戻したほうが強いのではないですか?」

 

 健太(けんた)の率直なダメ出しに、竹海(たけみ)は苦笑しながら首を横に振る。

 

「やっぱりか。自覚はあるけど私は本当にまだまだだね。修行が足りない」

 

 健太(けんた)としては、右手の武器――『探鉱者の栄光(ピュアディリジェンスギア)』を諦めてはどうかと思うのだが、どうやら竹海(たけみ)にはそんな考えは毛ほどもないようだった。

 現状竹海(たけみ)は、『探鉱者の栄光(ピュアディリジェンスギア)』を覚醒(アギト)させられていない。その上、今健太(けんた)が言った通り、普通の武器として使うのにも、その長さと重さを持て余してバランスを崩している。

 今この時の強さだけを求めるのなら、左手に持っているのと同じ洋刀(サーベル)に戻した方が良い。だが、竹海(たけみ)は完全に『探鉱者の栄光(ピュアディリジェンスギア)』に執着している。

 

 健太(けんた)はしっかりと竹海(たけみ)の目を見上げながら、問う。

 

竹海(たけみ)先輩。先輩はなぜ、そこまで強くなりたいのですか?」

 

 言うまでもなく竹海(たけみ)は、この学園でもかなり異質だ。学園の女子の多くは、自らの力でダンジョンダイブを進めることを諦めて、男子に体を開き、媚びる道を選ぶ。そこまで思い切れない者は仕方がない現実として諦観を抱き、ただ現状に流される。

 一部の例外の女子が、男子と肩を並べて自らの力でダンジョンダイブを進めているが、彼女たちは戦闘職について最初から台頭している者達だ。竹海(たけみ)のように、非戦闘職につきながら自ら前線で戦うことを選ぶ者は、皆無に等しい。

 

 健太(けんた)の問いに、竹海(たけみ)はちょっと目を瞠った後、いつも通りの大きく口を左右に広げる笑みを浮かべて答える。

 

「特に理由はないよ。しいて言えば、私がそうしたいから、かな。せっかくこんな刺激的でやりがいのある学園に入ることが出来たんだ。やりたいようにやらなければ嘘だろう」

 

 その堂々とした答えには、誰が見ても嘘や強がりなど一欠けらも混ざっていないことが分かる。

 

(これは、もう定まってるか)

 

 竹海(たけみ)の態度から、健太(けんた)はそう悟らざるを得なかった。

 竹海(たけみ)の『探鉱者の栄光(ピュアディリジェンスギア)』に対する執着。それなのにいっこうに覚醒(アギト)に成功しない『探鉱者の栄光(ピュアディリジェンスギア)』。

 竹海(たけみ)がGR職『踊る勇者(ダンシングブレーヴ)』となることが自然である証左だろう。

 ひょっとすると、竹海(たけみ)が普通に武器として振るうのにも今一『探鉱者の栄光(ピュアディリジェンスギア)』を使いこなせていないのも、職が影響しているのかもしれない。

 考えてみれば、女子ではあっても健太(けんた)よりも背が高く、筋肉も十分についていて、一年近く二刀流の修練を積んできた竹海(たけみ)がここまで持て余しているも不自然と言えば不自然だ。

 

竹海(たけみ)先輩。例えばですけど、もし強くなれる代わりに、今後もずっと俺と今の関係を続けなければならないとしたら、先輩はどうしますか?」

 

 もし勇者系GR職に転職(クラスチェンジ)させるのであれば、健太(けんた)竹海(たけみ)を御し続けなければならない。幸い健太(けんた)は男で、竹海(たけみ)は女だ。隷属を深めておけば、万が一の時も抑えは効くだろう。

 だから、つい口から出た健太(けんた)の最終確認の問いだったが、それは無意味で無価値な言葉だ。隷属している女子が、ご主人様に「隷属状態を続ける」と言われても、冷静な答えを返せるはずがない。

 

「強くなれるうえに、ご主人様の元にずっといられるなんて、ご褒美が二重なだけだよ?」

 

 竹海(たけみ)の言葉は「今の竹海(たけみ)」の本心であることは間違いない。だが、隷属していない状態の竹海(たけみ)が何と答えるのか、それは分からないままだ。

 今の問いと答えに意味があるとすれば、健太(けんた)の無意味な罪悪感をわずかに薄れさせる程度の価値しかなかった。

 

 詳細は分からないが、可愛い愛しいご主人様が、自分の願いである「強くなる」をかなえてくれようとしていることは分かったのだろう。

 竹海(たけみ)は、その長い両腕を健太(けんた)の首に巻き付けると、上から健太(けんた)の耳元で囁くように告げる。

 

「私を強くしてくれるのかい? それなら、この後のダンジョンダイブにも連れて行ってくれるのかな?」

 

 健太(けんた)の本日午後の予定は、ソロでのダンジョンダイブだ。

 大きく弾力に満ちた双乳を押し付けるようにして発する竹海(たけみ)のおねだりに、健太(けんた)はしばし葛藤したのち、どうにか首を横に振る。

 

「……だ、駄目です。今日は予定があるので」

 

 叶馬(とうま)達とのダイブ。尚典(なおふみ)たち倶楽部内定者とのダイブ。(らん)たちパートナーとのダイブ。それらのダイブも重要だが、健太(けんた)にとって最重要なのはソロでのダイブである。レベルを上げるのも、新しい(クラス)を重ねるのも、階層を進めるのも、未知のスキルを試すのも、既知のスキルを習熟するのも、基本はソロダイブでだ。

 

「先輩達とのダイブは、後で予定を入れてるでしょう?」

 

 そんな健太(けんた)の説得に竹海(たけみ)は、わざと小さく頬を膨らませて反論する。

 

「それは、先輩達――(らん)風音(かざね)も、多分幸子(さちこ)も一緒のやつじゃないか。私はご主人様と二人きり、水入らずのダイブがしたいのだよ」

 

「なぜでしょう?」

 

 二人きり、水入らず。言葉は色っぽくロマンチックだが、強請っているのはダンジョンダイブだ。ダンジョンセックスを行っていない健太(けんた)たちにとってそこは、デートコースとしては適当ではない。

 事実、竹海(たけみ)の答えは色気やロマンの欠片もないものだった。

 

「だって、皆と一緒では経験値が頭割りじゃないか。ご主人様と二人きりなら、私の独り占めさ」

 

 と、ある意味意地汚いことを平気で言う。

 竹海(たけみ)は強くなることにどん欲だ。そのためならば、パワーレベリングも全く忌避しない。嬉々としてやらせてもらうタイプだ。もちろん、ダンジョンダイブ外で己のフィジカルや技術を磨くことも疎かにはしない。

 

「そんなあからさまな依怙贔屓は出来ません」

 

 そう答えつつ、健太(けんた)は頭の中で「本当に竹海(たけみ)を『踊る勇者(ダンシングブレーヴ)』に転職(クラスチェンジ)させるなら、多少は多めにダンジョンに連れて行かなければならない」とも考えていた。GR系の中でも勇者系は特に、レベルアップに必要な経験値が他より多いのだ。流石に叶馬(とうま)のような神系ほどではないが。

 

「むう、それなら代わりに一つお願いを聞いてくれるかい?」

 

「……内容次第です」

 

 その柔らかい体を押し付けるのと同じくらい、グイグイ来る竹海(たけみ)の攻勢に、理性を総動員して健太(けんた)はひとまずそう答える。

 

「倶楽部対抗戦のメンバーに、私も入れて欲しい」

 

「それは……」

 

 ある意味、予想できていた竹海(たけみ)のお願いに、健太(けんた)は即答できない。

 

「もちろん無条件で、とは言わないさ。倶楽部対抗戦のメンバーを決める時点で、私の強さが倶楽部内で上から五番目以内なら、だよ」

 

 つまり竹海(たけみ)は、男子を優先するのではなく、実力で自分を選んで欲しい、と言っているのだ。

 だが、つい先ほど竹海(たけみ)を『踊る勇者(ダンシングブレーヴ)』に転職(クラスチェンジ)させることを決意した健太(けんた)からしてみれば、それは半ば確定した未来だ。

 もちろん、今の竹海(たけみ)は『遊び人(ニート)』系第二段階職『良い踊り子(ナイスダンサー)』で、その第二段階職をレベル30まで上げなければ次の転職(クラスチェンジ)は出来ない。

 原作の誠一(せいいち)麻衣(まい)なども一学期の倶楽部対抗戦――水無月杯では、第二段階職のままだった。それを考えれば、竹海(たけみ)も最初の倶楽部対抗戦には間に合わないかもしれない。

 だが、二学期の倶楽部対抗戦――霜月杯ではほぼ間違いなく転職(クラスチェンジ)しているはずだ。

踊る勇者(ダンシングブレーヴ)』が『勇者(ブレイバー)』並みのポテンシャルがあるのだとすれば、並みの男子部員ではかなうまい。下手をすれば健太(けんた)に次ぐ倶楽部内ナンバーツーになっている可能性すらある。

 

 原作の女子キャラクターが対抗戦で敗北した時の描写を思い返せば、正直竹海(たけみ)の申し出はあまり歓迎できない。だが、それが竹海(たけみ)のためではなく、竹海(たけみ)がそんなひどい目にあうのを見たくない自分のためであることは、健太(けんた)も自覚している。

 ならば答えは一つしかない。

 

「分かりました。たとえ、俺の倶楽部の男子が五人以上いたとしても、竹海(たけみ)先輩が実力で上回っていたら、対抗戦のメンバーになってもらいます」

 

「さっすがご主人様、話が分かる!」

 

 竹海(たけみ)は狭いシャワールームの中で跳びあがる様にして、健太(けんた)に上から抱き着いた。

 

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