武道館は豊葦原学園の設備の中で、最も大きく最も充実している設備の一つに数えられる。
ゴールデンウィーク初日に、健太は叶馬とともにこそこのトレーニングジムでウェイトトレーニングを行ったので、よく分かっている。
もちろん、武道館の施設はトレーニングジムだけではない。
畳張り、板張りの道場はもちろん、砂場、砂利、アスファルトなど多様な足場で戦闘訓練ができるようになっている。
その中の一つ。グラウンドのような土の道場を借り切って、健太は約束通り、竹海と『デート』を繰り広げていた。
「はあ!」
気合の声と共に、竹海は左手に持つ洋刀で、健太の左肩めがけ振り下ろす。
「……」
学園の『戦士』系でも、スキルを使わなければこれほど洗練された斬撃を繰り出せない者も珍しくはない、それくらいに良く練られた一撃だったが、健太は眉一つ動かすことなく、その一撃を左腕に装着している方形盾で受け流す。
「はっ!」
だが、それは竹海にとっても想定通り。健太が方形盾を装着した左腕を上にあげた隙を狙い、連続して右手に持つ赤黒い曲刀――『探鉱者の栄光』で健太の左腹部を横薙ぎに狙う。
しかし、
「……」
健太はその二撃目も、左腕の方形盾で丁寧に受け流した。
竹海が両手で一本ずつ持っている武器で二連撃を繰り出したのに、健太はその両方を左腕の方形盾で綺麗に受け流すことが出来た。
これは、純粋に意識下の速度が勝負にならないくらいに離れている証拠でもある。
だから、武器を持つ両方の手が即座に立て直せないくらいに体勢を崩れた竹海の長い首筋に、健太が右手に持つ小剣をピタリと据えた時、
「はい、私の負け」
竹海は素直に武器を捨てて両手を上げるしかできないのだった。
「いったん休憩しましょう、竹海先輩」
健太のその声を受けて、竹海は二本の曲刀を両腰の鞘に戻すとすぐさま剣帯を外し、その場に腰を下ろす。
「うー、分かっていたけど、全然歯がたたないなあ、あー、悔しい!」
そう言って、竹海は地面の上で思い切り伸びをした。
「竹海先輩、汚れますよ」
健太はそう言って、持ってきていたスポーツドリンクのペットボトルと大きめのタオルを竹海に手渡す。
「ん、ありがとう。まあ、どのみちこれだけ汗をかいたのだから、ウェアは洗わないといけないし、私だってシャワーを浴びる必要があるからね。今更だよ」
そう言って、竹海はグランドのような土の上で寝そべることに頓着しない。
「まあ、それはそうですが」
一方健太は、そんな竹海を止めようとはしないものの、自分は真似しようとはしない。
健太は土でも、アスファルトでも、何だったら木の床でも、本来土足で歩く場所に腰を下ろすことに抵抗がある人間だ。もちろん、立っているのもおっくなくらいに疲労している時は別だが。
そう言う意味では、健太と竹海の姿勢はそのまま両者の疲労度を表しているという面もある。
小剣こそ腰の鞘に戻したが、左腕の小方形盾を装着したまま、いつも通り立っている健太と、剣帯ごと武器を外し、座るどころから地面に手足を投げ出す様にして寝っ転がる竹海。
健太は額に少し汗を滲ませている程度なのに対し、竹海は全身に水を浴びたような汗をかいている。
今日のトレーニングでは、剣や盾は普段愛用している物を使用しているが(健太の小剣は『金狼木霊剣』ではなく購買品)は、防具は付けていない。健太はゴールデンウィーク初日に購入したトレーニングウェアだし、竹海も同様だ。
ただし、健太のトレーニングウェアがジャージ生地の実用性一点張りの物であるのに対し、竹海のトレーニングウェアは、色合いこそ落ち着いた黒だが、下は膝までのハーフパンツ、上はノースリーブヘソ出しのどちらも体にぴったりとフィットする肌の露出も多ければ、露出していない部分も体のラインは丸見えな代物だ。
ましてやそれを着ているのは、長身巨乳の竹海である。
トレーニングウェアや体に土が付くことを気にもせず、寝そべったままスポーツドリンクのペットボトルに口を付けている竹海の肢体を、健太は今更ながら盗み見る。
竹海の肢体は『モデルの骨格』の上に、『アスリートの筋肉』が乗り、さらにその上に『グラビモデルの脂肪』の乗っていると言えばかなり正解に近いだろう。
仰向けに寝そべっていても「大きい」と一目でわかる程の巨乳。「細い」のではなく「引き締まっている」という表現が相応しいウェスト。女子としては重めの体で素早い動きや人並み以上の跳躍を可能としている大きな尻と太めの太腿。
汗で濡れたショートボブの黒髪が張りつくシャープな美貌も相まって、チラチラ盗み見ているつもりが、いつの間にか視線を奪われて外せなくなるほどに、蠱惑的だ。
もちろん、そんなあからさまな視線に、学園女子である竹海が気づかないはずがない。
「ふふ、ご主人様。手を貸してもらえるかな?」
下から見上げる竹海はその肢体にも勝る蠱惑的な笑みを浮かべると、健太に向って両手を伸ばす。
「あ、はい」
と素直に健太が屈み、竹海を立ち上がらせる補助としてその手を取ろうとするが、竹海はそれをスルーして素早く両手を健太の背中に回し、逆に健太を引きこもうとする。
もちろん、今の健太の反射神経と身体能力をもってすれば、それに抗うことなど容易い。だが、極めて魅力的なパートナー女子が自分を引き込もうとしているのに、抗う理由は健太にはなかった。
「あ、ええと……竹海、先輩?」
竹海の全てが大きく弾力に満ちた体の上に倒れこんだ健太は戸惑ったような、だが非常にうれしそうな声を上げる。
身長、体重、手足の長さ、すべてにおいて健太より一回り上の竹海だ。こうすれば、健太はすっぽり竹海の上に乗っかってしまう。
竹海は、その長い両手両足で、下から健太を絡み取り、健太の首筋に顔を埋めてしきりに頬ずりをする。
「ああ、良いね。これが私のご主人様だ。手も足も出ないくらいに強くて、そのくせどこまでも甘やかしてくれる」
「そ、それはどうでしょう。ていうか、これは俺が甘やかされてるのでは?」
健太の主張は健太の主観ではその通りだが、学園の常識で言えば間違いなく竹海の主張が正しい。
隷属させた自分のパートナーにこれほど好き勝手させている男子は、少ない。
本日のデートとして、思う存分手合わせをした竹海だが、その結果は今竹海が言った通り、「そもそも勝負になっていない」だった。
現在の竹海は『遊び人』系第二段階レア職『良い踊り子』だ。
身体能力だけで言えば、下手な『戦士』系、『盗賊』系の第二段階職に負けてない。その上で、二刀を振るう竹海の技量も十分なものだった。
だが、そんな竹海の攻撃は、ことごとく健太の盾に阻まれた。二刀で連続攻撃を加えても、健太は一つの盾でその全ての攻撃を受け流した。
どんな攻撃も通じない。速度を上げても、力を込めても、連撃で裏を取ろうとしても、何もかもが無駄。
竹海からすると、それは『歓喜』以外の何物でもなかった。
鍛錬相手としては、最善と言っても良いくらいだ。
一つ、難点を上げるとすれば「この人は絶対に自分を傷つけない」という確信があるため、若干緊張感にかけることくらいか。
「おや、甘やかした方が良いのかい? それなら、こうしようか」
下から抱き着く竹海の声色と体の密着させ方が、明確に艶を帯びたところで健太は慌てて否定する。
「いえ、今はいいです。ここだと汚いですから。そういうのは、夜に寮に帰ってからで」
健太の拒絶が格好つけではなく、本心からであることが察せられたのだろう。竹海は素直にご主人様の言うことに従う。
「分かったよ。うちのご主人様は、潔癖症だね。この学園の女子はどこで犯っても問題はないのだがね」
竹海の言う通り、この学園では性風俗が乱れに乱れ、乱交、青姦、輪姦が当たり前になっているが、それが理由で性病や伝染病になった者は存在しない。場所もグランドの土の上、校舎の中、中庭の草むらの中、しまいには不文律で決められた便所の中などで、衛生など気にも留めずにやっているはずなのに、だ。
それどころか、学園の女子にニキビや乾燥肌、オイル肌といった肌トラブルに見舞われている者もほとんど存在しない。
ダンジョンである程度レベルが上がれば「体は健常な状態を取り戻す」とされ、入学時には眼鏡やコンタクトが欠かせない近眼の者も、半年後には全員眼鏡いらずになっているのとおそらくは同じ恩恵だろう。
そう考えると、「セックスはあくまで寝具の上で。その前後は出来るだけシャワーを浴びよう」という健太の常識は、学園の常識と比べると確かに潔癖症と言えるのかもしれない。
「その辺は、俺に合わせてください」
そう言って健太は、竹海の大柄で豊満な体を抱き上げながら、立ち上がる。
「もちろん、ご主人様の仰せのままに」
竹海は健太の首っ玉にぶら下がる様にして起き上がると、芝居じみた口調でそう答ええた。
武道館には、汚れや汗を流すためのシャワールームが複数存在しており、それらの中には個室になっているものも少なくない。そうしたシャワールームは一応表向き『男子用』『女子用』と表記されているが、どちらにも男子も女子もいるのはまあ、ここが豊葦原学園なのだからごく当たり前の話だ。
『男子用』シャワールームに連れ込まれる女子、『女子用』シャワールームに乱入する男子は引きも切らない。
それと比べれば、最初から男女一組で使うのが半ば不文律になっている個室シャワールームは、まだ平和だ。
汗と土で体を汚してしまった竹海が「シャワーを浴びていきたい」と言うのはごく当然の要求だったし、たとえ女子用シャワールームでも個室型シャワールームでも、女子が一人で使うのはあまりに危険な行為である。
そんな竹海の言葉に反論が思いつかなかった健太は、竹海の思惑通り二人で一つの個室シャワールームを使用していた。
「ちょっと両腕を上げてくれるかな? そうそう、後はこうして」
「あ、ぐっ……!」
白鶴荘で何度か経験しているパートナーと一緒に浴びるシャワーだが、健太はまだまだ全然慣れない。
自分より頭半分背が背高い竹海がその大きく弾力のある乳房、尻、太腿を駆使して健太の体を洗うのだ。興奮しないはずがない。
竹海が言うには「トレーニングに付き合ってもらったお礼」らしいのだが、これは健太としてはデートのつもりだから、お礼をされる話ではない。
その旨を伝えると竹海は「では、返礼としてご主人様が私の体を洗ってくれたまえ」と言われた。
本来一人用の狭いシャワールームで、身体を密着させての洗いっこ。
先ほどまでの稽古とは真逆に、今度は健太の方が息を荒くしている。愛するご主人様と密着している竹海もその実健太に負けずに発情しているのだが、その辺りを誤魔化すポーカーフェイスは健太の何倍も上手だ。
女子に体を洗われるのはもちろんだが、女子の体を(素手で)洗うというのも非常に欲情する行為だ。しかも相手は、胸も尻も抜群の肉付きをしている竹海。最初は恐る恐るだった健太の手も、竹海の「もっと上も」「あ……そこを丁寧に」「んん……いいよ……もっと強く揉んで」などと囁き声で誘導されるに従い、体を洗うというより泡立った女子の体を弄り、堪能するだけになっていた。
そこまでやっても、そのままセックスには至らないのは健太がよほど理性が強いのか、はたまた物凄くヘタレなのか。まあ、後者だろう。
必要以上に長い時間をかけて体を洗い合った健太と竹海は、温かいシャワーを浴びて泡を流しながら、言葉を交わす。
「……ふう。ところで、私の剣技はどうだったかな? おためごかし無しの素直な感想を聞かせて欲しいのだけど」
思い切り性欲を刺激されていた健太が、そう問う竹海の声と表情が真剣みを帯びていることに気づき、しっかりとした答えを返す。
「ええと、右手の曲刀に振りまわされています。右手も以前使っていた洋刀に戻したほうが強いのではないですか?」
健太の率直なダメ出しに、竹海は苦笑しながら首を横に振る。
「やっぱりか。自覚はあるけど私は本当にまだまだだね。修行が足りない」
健太としては、右手の武器――『探鉱者の栄光』を諦めてはどうかと思うのだが、どうやら竹海にはそんな考えは毛ほどもないようだった。
現状竹海は、『探鉱者の栄光』を覚醒させられていない。その上、今健太が言った通り、普通の武器として使うのにも、その長さと重さを持て余してバランスを崩している。
今この時の強さだけを求めるのなら、左手に持っているのと同じ洋刀に戻した方が良い。だが、竹海は完全に『探鉱者の栄光』に執着している。
健太はしっかりと竹海の目を見上げながら、問う。
「竹海先輩。先輩はなぜ、そこまで強くなりたいのですか?」
言うまでもなく竹海は、この学園でもかなり異質だ。学園の女子の多くは、自らの力でダンジョンダイブを進めることを諦めて、男子に体を開き、媚びる道を選ぶ。そこまで思い切れない者は仕方がない現実として諦観を抱き、ただ現状に流される。
一部の例外の女子が、男子と肩を並べて自らの力でダンジョンダイブを進めているが、彼女たちは戦闘職について最初から台頭している者達だ。竹海のように、非戦闘職につきながら自ら前線で戦うことを選ぶ者は、皆無に等しい。
健太の問いに、竹海はちょっと目を瞠った後、いつも通りの大きく口を左右に広げる笑みを浮かべて答える。
「特に理由はないよ。しいて言えば、私がそうしたいから、かな。せっかくこんな刺激的でやりがいのある学園に入ることが出来たんだ。やりたいようにやらなければ嘘だろう」
その堂々とした答えには、誰が見ても嘘や強がりなど一欠けらも混ざっていないことが分かる。
(これは、もう定まってるか)
竹海の態度から、健太はそう悟らざるを得なかった。
竹海の『探鉱者の栄光』に対する執着。それなのにいっこうに覚醒に成功しない『探鉱者の栄光』。
竹海がGR職『踊る勇者』となることが自然である証左だろう。
ひょっとすると、竹海が普通に武器として振るうのにも今一『探鉱者の栄光』を使いこなせていないのも、職が影響しているのかもしれない。
考えてみれば、女子ではあっても健太よりも背が高く、筋肉も十分についていて、一年近く二刀流の修練を積んできた竹海がここまで持て余しているも不自然と言えば不自然だ。
「竹海先輩。例えばですけど、もし強くなれる代わりに、今後もずっと俺と今の関係を続けなければならないとしたら、先輩はどうしますか?」
もし勇者系GR職に転職させるのであれば、健太は竹海を御し続けなければならない。幸い健太は男で、竹海は女だ。隷属を深めておけば、万が一の時も抑えは効くだろう。
だから、つい口から出た健太の最終確認の問いだったが、それは無意味で無価値な言葉だ。隷属している女子が、ご主人様に「隷属状態を続ける」と言われても、冷静な答えを返せるはずがない。
「強くなれるうえに、ご主人様の元にずっといられるなんて、ご褒美が二重なだけだよ?」
竹海の言葉は「今の竹海」の本心であることは間違いない。だが、隷属していない状態の竹海が何と答えるのか、それは分からないままだ。
今の問いと答えに意味があるとすれば、健太の無意味な罪悪感をわずかに薄れさせる程度の価値しかなかった。
詳細は分からないが、可愛い愛しいご主人様が、自分の願いである「強くなる」をかなえてくれようとしていることは分かったのだろう。
竹海は、その長い両腕を健太の首に巻き付けると、上から健太の耳元で囁くように告げる。
「私を強くしてくれるのかい? それなら、この後のダンジョンダイブにも連れて行ってくれるのかな?」
健太の本日午後の予定は、ソロでのダンジョンダイブだ。
大きく弾力に満ちた双乳を押し付けるようにして発する竹海のおねだりに、健太はしばし葛藤したのち、どうにか首を横に振る。
「……だ、駄目です。今日は予定があるので」
叶馬達とのダイブ。尚典たち倶楽部内定者とのダイブ。蘭たちパートナーとのダイブ。それらのダイブも重要だが、健太にとって最重要なのはソロでのダイブである。レベルを上げるのも、新しい職を重ねるのも、階層を進めるのも、未知のスキルを試すのも、既知のスキルを習熟するのも、基本はソロダイブでだ。
「先輩達とのダイブは、後で予定を入れてるでしょう?」
そんな健太の説得に竹海は、わざと小さく頬を膨らませて反論する。
「それは、先輩達――蘭も風音も、多分幸子も一緒のやつじゃないか。私はご主人様と二人きり、水入らずのダイブがしたいのだよ」
「なぜでしょう?」
二人きり、水入らず。言葉は色っぽくロマンチックだが、強請っているのはダンジョンダイブだ。ダンジョンセックスを行っていない健太たちにとってそこは、デートコースとしては適当ではない。
事実、竹海の答えは色気やロマンの欠片もないものだった。
「だって、皆と一緒では経験値が頭割りじゃないか。ご主人様と二人きりなら、私の独り占めさ」
と、ある意味意地汚いことを平気で言う。
竹海は強くなることにどん欲だ。そのためならば、パワーレベリングも全く忌避しない。嬉々としてやらせてもらうタイプだ。もちろん、ダンジョンダイブ外で己のフィジカルや技術を磨くことも疎かにはしない。
「そんなあからさまな依怙贔屓は出来ません」
そう答えつつ、健太は頭の中で「本当に竹海を『踊る勇者』に転職させるなら、多少は多めにダンジョンに連れて行かなければならない」とも考えていた。GR系の中でも勇者系は特に、レベルアップに必要な経験値が他より多いのだ。流石に叶馬のような神系ほどではないが。
「むう、それなら代わりに一つお願いを聞いてくれるかい?」
「……内容次第です」
その柔らかい体を押し付けるのと同じくらい、グイグイ来る竹海の攻勢に、理性を総動員して健太はひとまずそう答える。
「倶楽部対抗戦のメンバーに、私も入れて欲しい」
「それは……」
ある意味、予想できていた竹海のお願いに、健太は即答できない。
「もちろん無条件で、とは言わないさ。倶楽部対抗戦のメンバーを決める時点で、私の強さが倶楽部内で上から五番目以内なら、だよ」
つまり竹海は、男子を優先するのではなく、実力で自分を選んで欲しい、と言っているのだ。
だが、つい先ほど竹海を『踊る勇者』に転職させることを決意した健太からしてみれば、それは半ば確定した未来だ。
もちろん、今の竹海は『遊び人』系第二段階職『良い踊り子』で、その第二段階職をレベル30まで上げなければ次の転職は出来ない。
原作の誠一や麻衣なども一学期の倶楽部対抗戦――水無月杯では、第二段階職のままだった。それを考えれば、竹海も最初の倶楽部対抗戦には間に合わないかもしれない。
だが、二学期の倶楽部対抗戦――霜月杯ではほぼ間違いなく転職しているはずだ。
『踊る勇者』が『勇者』並みのポテンシャルがあるのだとすれば、並みの男子部員ではかなうまい。下手をすれば健太に次ぐ倶楽部内ナンバーツーになっている可能性すらある。
原作の女子キャラクターが対抗戦で敗北した時の描写を思い返せば、正直竹海の申し出はあまり歓迎できない。だが、それが竹海のためではなく、竹海がそんなひどい目にあうのを見たくない自分のためであることは、健太も自覚している。
ならば答えは一つしかない。
「分かりました。たとえ、俺の倶楽部の男子が五人以上いたとしても、竹海先輩が実力で上回っていたら、対抗戦のメンバーになってもらいます」
「さっすがご主人様、話が分かる!」
竹海は狭いシャワールームの中で跳びあがる様にして、健太に上から抱き着いた。