――穿界迷宮『YGGDRASILL』、接続枝界『黄泉比良坂』――
――第『陸』階層、『既知外』領域――
午前は竹海とのデート(という名目の鍛錬)で汗を流した健太は、午後は『羅城門』にダイブしていた。
「ネシャー!」
「ホホウ!」
ここは第七階層に繋がる『界門』のある玄室。
象頭の大熊と、赤梟頭の大熊ががっぷり組み合っていた。
象頭の大熊はここの『界門守護者』、赤梟頭の大熊は言うまでもなく健太の召喚モンスター『赤梟頭熊』のエロールだ。
どちらも全長十メートルを超える巨体のぶつかり合いは、ノービスならば余波だけで消し飛びそうな衝撃である。
そのぶつかり合いに勝利したのは残念ながら象頭だった。
エロールは梟頭のくちばしが天井を向くくらいに思い切り後ろにのけ反らせられる。そこに畳み掛けられたら大ダメージだろう。しかし、『界門守護者』の象頭大熊は一体だが、エロールは違う。
「ワウ!」
まるで先回りをするように象頭大熊の後頭部に丁度跳びあがっていた犬頭の小柄な影が、その手に持つ短剣を突き立てる。
象頭大熊の巨体と比べれば、犬頭――コボルト『強盗』のボンドが持つ短剣など木のササクレ程度の大きさだろう。
しかし、
「ガネッ!?」
その一刺しは確かにダメージを与えたらしく、象頭大熊は悲鳴を上げて動きを止める。その隙にエロールは体勢を立て直す。
「ホウ!」
主である健太が命ずる通り、エロールはその巨体でターゲットにしがみ付き、相手の動きを阻害する。
全長十メートルを超えるエロールの抱き着きは、並みの相手ならばそれだけで必殺の攻撃だ。だが、相手も同じ十メートルクラスの象頭大熊だ。しかも、象頭大熊は、「ちっとはダイエットしろ」と言いたくなるくらいの肥満体型。ぼよんと突き出た太鼓腹を見れば分かる通り、体重においてはエロールを大きく上回る。
しかも、象頭の牙が最初から片方欠けているという間の抜けた顔にも似合わず、その動きは俊敏だ。まともにやり合えば、エロールに勝ち目はない。
「ネシャー!」
ボンドが隙を作ってくれたおかげで今はエロールが有利な体勢で組付けたが、それでも有利は長く持たない。象頭大熊が急速に体勢を立て直していく。地力が違うのだ。
だが、その間に、健太の用意が整った。
通常、『精霊使い』のスキルである『属性付与』は一つの対象に重ね掛けは出来ない。
だが、健太の使う『金狼木霊剣』は少々勝手が違う。『金狼木霊剣』は五行の『木』と『金』の二重属性武器だ。
そのため『土属性付与』は、五行相生『土生金』の法則にしたがい、付与した土属性が消費され、金属性が増強される。だから、少し時間を置けば、何度でも『土属性付与』をかけることができる。
そうして、『土属性付与』という餌を何度も与えて『金』属性を爆発的に増強した『金狼木霊剣』は、本来の木とも金属ともつかない不思議な素材の刀身から、金色に輝く金属製の刀身が二メートル近くまで伸びていた。
「《はっ》《ふっ》!」
『盗賊』のスキル『俊足』で高速ジャンプ、象頭大熊の首の高さまで跳躍した健太は『闘士』のスキル『豪撃』を使用し、『金狼木霊剣』を横薙ぎに一閃する。
結果、
「シャー……!」
巨大な象頭は見事、大熊の胴体から切り離された。
象頭大熊な『界門守護者』は、特大のクリスタルと折れた象牙を一本残し、瘴気へと返っていく。
象牙の長さは、二メートル弱と言ったところか。十メートル級の化け物の象牙にしては随分と短めだが、良い素材にはなりそうだ。
「金の鎧片は蜜柑 先輩でも「加工はちょっと無理」と言われたからな。これもそうだと良いのだが」
『戦士の不動心』がオンになっている健太はそう呟く。
『匠工房』部長の蜜柑 は、天才と言うしかない才能を有する『職人』だが、そのレベルはまだ『職人』系第二段階職『鍛冶師』の一桁前半といったところだ。
単純にレベルが足りないせいで手が出せない素材というのは、存在する。
現状健太は今の装備に問題を感じていない。ならば、将来の装備候補と考えれば、今は蜜柑 が手出しできないくらいの高レベル素材である方が望ましい。
すでに、『匠工房』副部長凛子をめぐる『学生決闘』騒動は無事にクリアしたのだ。『匠工房』が解散して、蜜柑 たち全メンバーが叶馬の倶楽部『神匠騎士団』に入る流れはほぼ間違いない。そうなれば、彼女たちのレベルは急速に上がっていく。
素材の加工はそれからでも遅くはない。
ともあれドロップ品を回収した健太は、自分の召喚モンスターを労う。
「エロールよくやった。圧倒的格上に今の戦いぶりは上等だ。偉いぞ」
『赤梟頭熊』のエロールが四つ足になり、さらに顎が床につくまで下げた梟頭を、健太は背伸びをして思い切り腕を伸ばし、撫でてやる。
「ホホウ!」
「少し休んでろ。《戻れ》」
エロールをカードに戻した健太は、続いてコボルト『強盗』のボンドに目を向ける。
「ボンドも良くやった。良いアシストだったぞ。短剣も良く使いこなせている」
全長十メートルのエロールから一転、今度は全高一メートルほどのボンドと目線を合わせるため健太は片膝をついて、柔らかな毛でおおわれているボンドの頭部を撫でる。
「オン!」
「お前もちょっと休め。《戻れ》」
ボンドがカードに返った後には、一振りの短剣が残された。
健太はその短剣を拾い上げ、そっと鞘から抜く。
「……やはり、梵字が薄まっているな。使用回数制限があるのは素材が悪いのか、俺の刻み方が悪いのか、それともどうやってもそういう仕様なのか」
その短剣は、健太が購買で購入して代物である。その刀身部分に『クー』の梵字を刻み込んだ。
『クー』は韋駄天を意味する。韋駄天は、インド神話における軍神スカンダが仏教に取り入れられた姿だとされている。
そのためか、『クー』の梵字は当初韋駄天の効果――『移動速度が速くなる効果』だけだと思っていたのだが、ある程度の戦闘力強化の効果もあったようだ。そうでなければ、ボンドが象頭大熊にわずかなりともダメージを与えられるはずがない。
健太は『文字魔術士』をレベル30にしたことで、魔術として成立する文字やその文字の効果は直感的に分かるようになったが、すべてが理解できたわけではない。
学園の公式資料を見る限り、過去『文字魔術士』になった者はいないらしい。そのため、直接手助けになるような資料は学園の図書館にも存在しないので、試行錯誤は続いている。一方、間接的に手助けとなる資料は膨大だ。膨大過ぎて、逆に困るほどである。
当然と言えば当然だが、この学年の図書館には魔術に関する資料は古今東西問わず大量に保管されている。『文字魔術士』をカンストした今の健太がそれらを開いて見れば直感的に「この文字は文字魔術に使える」と分かるのだ。
そうして健太が直感的に「これは正しく刻めば文字魔術が発動する」と確信できた文字は多かった。
健太が以前から発動に成功している梵字を皮切りに、ルーン文字、ウルク文字、象形文字、甲骨文字、ヘブル文字、バベッジ式機械語等々。
だが、それはあくまで『文字魔術士』として「直感」が反応したに過ぎず、現時点で実際に文字魔術として発動に成功しているのは、梵字とルーン文字だけだ。
むしろ、今回大きな成果と言えるのは、『補助文字』の発見だろう。
『補助文字』とは、その名の通り『魔術文字』の補助としての効果を持つ文字のことである。
梵字にはブラーフミーン文字。ルーン文字には古代ラテン文字。ウルク文字には楔形文字。象形文字には神官文字と民衆文字。
今ボンドに使わせていた短剣を例に取れば、短剣の刀身に韋駄天の『クー』の梵字を刻み、その周囲に『補助文字』であるブラーフミーン文字で「この短剣を握る者に加護あり」と記す。さらに鞘の方には同じくブラーフミーン文字で『鞘にある時機能停止』と記す。
こうすることで、この短剣は鞘に収まっている時は効果を発動せず、鞘から抜いて手に持っている時だけ、韋駄天の加護を授かるマジックアイテムとなった。
なお補助文字はあくまで補助であり、主となる魔術文字に干渉する能力はあってもそれ単体では力を発揮しない。補助文字だけで「この剣を振ると炎弾が出る」と書いても何も起きないのだ。
だが、魔術文字の発動、停止を条件付けするような、一定の方向性を持たせられるのが非常にありがたい。まだ作成していないが、以前にやっていたような水天の『バ』の梵字を刻んだ魔術文字なども何らかのスイッチを施すことで「水を出す、止める」という機能を持たせることも可能だろう。
この調子でいけば、長期間にわたるレイドクエストにもある程度一人で備えることが出来そうだ。
「叶馬の『空間収納』のような反則スキルはないからな。文字魔術で作成するマジックアイテムで生活環境や補給を自弁できるようになれば良いのだが」
そんなことを呟きながら、健太は『既知外』領域第七階層へ繋がる『界門』を潜った。
『既知外』領域、第七階層。
自然領域となるのは地下第十階層からなので、そこはまだ地下迷宮型だ。しかし、玄室の広さはもはや運動場を通り越して合戦場と呼べるくらいのものがゴロゴロしている。
それらの玄室に巣くうのは、主にオークだ。第六階層でもチラホラ出没していたが、ここではメインと言っても良いくらいに出没する。
もちろん、単体ではない。群れを成している。『既知』領域ならばせいぜいノーマルのオークが数匹から多くて十数匹。率いるのはオークリーダーか稀にオーク『騎士』と言ったところだが、ここ『既知外』領域は次元が違う。
数十匹のオーク『騎士』が密集方陣を形成し、その後方、もしくは中央でオークロードが指揮を執っている。
原作では、二年のダンジョン勢である乙葉が「自分のパーティーでもオーク『騎士』の部隊を相手には苦戦するし、オークロードがいたら死に戻りを覚悟する」と表現している。
しかもそれは『既知』領域で出会うようなせいぜい十数匹の群れの話。
ここ『既知外』領域のオークは部隊というより軍団だ。十数匹ではなく数十匹。その大半がオーク『騎士』。まばらにはオーク『遊撃兵』やオーク『格闘士』なども混ざり、率いるのは当然のようにオークロード。
そんなオークの軍勢が、上空から全周囲を大量の『火精霊』に取り囲まれ、身を縮ませていた。
「《撃ち続けろ》」
健太の言葉を受けて、数百の『火精霊』は、オークの軍団に向って『火弾』を撃ち続ける。
健太が『精霊使い』のスキルで召喚した『火精霊』はふよふよと浮遊する火の玉のような外見をした、最下級の精霊である。そのため、出来るのは己の属性の弾を撃ち出すことだけで、それも数発も放てばSPが枯渇して限界を迎える。
一匹だけならそこまでの脅威ではなくとも、その数が百を超えればそれは炎の集中豪雨だ。
主の命令通り限界まで『火弾』を撃ち続けた『火精霊』はすべて消え失せ、千近い『火弾』の集中豪雨を受けたオークの軍団も消え失せていた。
「ブ……ビィ……!」
「《フン》」
ただ一匹、生き残っていたオークロードは、健太が柄を伸ばした大剣を振り下ろし、一刀両断にする。
後には何十というクリスタルと、多くのドロップアイテム、そして結構な数のモンスターカードが残される。
「《来い》ボンド、頼む」
「オン」
最近は戦利品の収集を自分の役目と自負し始めているボンドは、健太に手渡された袋にザクザクとクリスタルとモンスターカードをしまっていく。ドロップアイテムはどうやっても全部は持ちきれないので、一通り見てよほどピンとくるもの以外は放置だ。
『銭』はクリスタルだけでも十分だろう。
「しかし、『精霊使い』の『精霊召喚』と、俺の『職業選択の自由』はシナジーが高いな」
健太は今自分がやった成果を思い返し、そんな感想を漏らす。
『精霊使い』の『精霊召喚』とは、簡単に言えば自分のSPを削って精霊を召喚するスキルだ。
『職人』の『強化外装骨格』の場合は自分のSPの枠そのものを分けているため、『強化外装骨格』を召喚し続けている間は、その分のSPは回復しないが、『精霊使い』の『精霊召喚』はそのようなことはない。
あくまでSPを消費して召喚しているだけなので、召喚で消費されたSPは本人のSP回復能力通りに回復していく。
ただし、『精霊召喚』は出している間、維持費とでも言うべきか、少量ずつだが召喚者のSPが消費されていく。その維持費は極小なため、SP回復能力が高い『術士』系の『精霊使い』にとって一体や二体程度ならば、維持費<SP回復量となるのであまり問題はない。
だが、召喚する数を増やせばいずれ維持費>SP回復量になってしまうのは自明の理だ。
そのため、『精霊使い』が精霊を大量召喚する時は「短期決戦を覚悟した時」なのだが、健太にはこの法則が全く当てはまらない。
健太はチートスキル『職業選択の自由』の効果で複数の職を重ねている。単純な足し算でこそないものの、その分身体能力が向上しているのと同様、SP総量も自然SP回復量もけた違いに高い。
その結果が今やった数百体の精霊の召喚維持である。数百体を同時に召喚すると、流石に一気にSPが減りすぎて危険のため、十体召喚して維持、SPが回復するまで待ってまた十体召喚、といった形をしばらく繰り返した。
「何百もは流石に召喚するのにも時間がかかるしSP回復速度が遅くなりすぎて、実用性に欠けるな。だが、四十体ぐらいなら問題はない。ソロダイブの時は四属性の精霊を十体ずつ召喚しておくのも手か」
健太は現状の自分をそう分析する。無論、それは現状の健太に過ぎない。健太はこれからもどんどん職を重ねていくつもりだ。今日も最低でも『闘士』をカンストさせる予定でいる。
第二段階職を、特に『術士』系の第二段階職を重ねていけばSP回復速度は上がっていくはずだ。
「オン!」
そんなことを考えている間に、戦利品を拾い終えたボンドが膨らんだ袋と、いくつかの武器やオークの内臓らしき物体を一か所に集め、一声鳴いて健太を呼ぶ。
「よし、よくやった、ボンド。先輩たちが「勝てるならオークは美味しい相手」と言っていたが、これは確かにそうだな」
健太はボンド元に歩み寄り、その小さな犬頭を撫でてやりながらそう呟く。
オークは多少の個体差はあるが、大半が身長二メートル、体重二百キロほどの肥満体だ。
それは身長一メートル前後のコボルト、ゴブリンや逆に身長数メートルに及ぶオーガーやトロールと比べると、使用する武器、防具が人間サイズに近いことを意味する。もちろん、それでも快適に使うには『職人』に『適合』のスキルを使ってもらうべきだが、『適合』では重量は変わらないので元から人間サイズに近いに越したことはないのだ。
使える武装を多くドロップするオークは、確かに美味しい相手と言える。
健太の場合は全部は持ち帰れないが、自分達の装備に良いものがあれば確保したい。
「盾は……マジックアイテムは無さそうだな。そうだ《来い》ジュゲム」
物色していた途中で、ふと思い出した健太はモンスターカードからゴブリン『槍騎士』の召喚する。
「どうだ、ジュゲム。お前の眼鏡にかなう槍はあるか?」
「グウ」
健太の言葉を受けて、ジュゲムは真面目にドロップアイテムを物色する。
率直に言えば今ジュゲムは、現状健太のソロパーティーで置いてけぼりを食らいかけている。
ゴブリン『槍騎士』をカンストしているジュゲムは、このあたりのオーク『騎士』にも勝利できる。だが、それはあくまで一対一の話だ。
ジュゲムの『槍騎士』とオークの『騎士』は、どちらも第二段階職。『既知外』領域のモンスターは大概レベルをカンストさせているから、ジュゲムとオーク『騎士』はほぼ同レベルだと考えて良い。
ゴブリンとオークは本来同じレベル帯ならば、勝負にならないくらいにオークが強いという事実を鑑みれば、ジュゲムは大健闘していると言える。
しかし、この辺りではそのオーク『騎士』がダース単位で出没する。健太の戦闘についていくには流石に少々力が足りなくなっているのは紛れもない事実だ。
ボンドは戦闘力こそジュゲム以下でも、偵察、鍵開け、牽制と果たせる役割が多い。ジュゲムは良くも悪くも、純粋な戦闘用の「モンスターカード」である。
「そう考えると、やはり『既知外』領域を突き進むのは、本来無謀なんだろうな」
健太はそんな感想を漏らす。第十階層に到達しなければ、第三段階職に至れない。それなのに『既知外』領域では、第七階層で第二段階の戦闘職カンストと互角の敵が数十匹まとめて出て来るのだから、どう考えても本来進められるルートではない。
そうしている間に、ジュゲムは一本の槍を選び出していた。
「ゴウ」
「ん、それで良いのか? 重さは問題ないか? 分かった。ちょっと待ってろ」
ジュゲムが持ってきたのは、長さ五メートルを超える槍だ。穂先は細い両刃。極めてシンプルな短槍だ。
短槍である。使用していたのが通常のオークの三倍――身長六メートルほどもあるオークロードなのだから、短槍だろう。だから柄の太さがとんでもない。身長百六十センチ強のジュゲムはもちろんのこと、健太でも握って中指と親指がくっつかないほどだ。
とてもではないが『適合』してもらわなければ、まともに使えるものではない。
「悪いが俺は、このまま縮小しかできないからな。ジュゲム、その槍とお前が今使ってる槍、両方貸してくれ」
健太は念のため、『匠工房』製の防呪手袋でその槍に触れて、問題ないことを確認してから素手で持ち直す。
槍全体から魔力が立ち上っているのでマジックアイテムであることは間違いない。恐らくは『無銘』だろう。
「グルウ」
「よし、行くぞ。《縮小》」
健太は右手でオークロードの短槍、左手でジュゲムの現在愛用している『匠工房』製の槍を握り、『適合』のスキルを発動させる。短槍を『適合』のスキルで縮小して、二本の槍の太さをそろえるのだ。
これが『匠工房』の面々が、学園の工作室でやれば太さはジュゲムの手に合わせながら、長さは(ジュゲムにとって)長槍並みにとどめることもできるだろうが、この場で健太が出来るのは単純なサイズの縮小くらいだ。
(モンスターカードを使っていることを秘密にしていると、ジュゲム達の装備を蜜柑先輩達に頼みづらいのがネックだな)
「これくらいか。持ってみろ、ジュゲム」
「……ギィ」
新しい槍を手に取り、何度から振りまわしたジュゲムは、満足げに頷いた。どうやら、ジュゲムのお眼鏡にかなったらしい。
それまで使っていた『匠工房』製の槍と比べるとかなり短いが、重量と威力は遥かに増している。使いこなすには多少の慣れが必要だろうが、使いこなせれば大幅な戦力アップが見込める。
「良いみたいだな。しばらくは慣らすために、ジュゲムは積極的に戦闘に参加させるか」
よく使いこめば、ジュゲムが次の職にクラスチェンジした時、こちらの槍がカードに取り込まれるようになる。そうなれば、持ち運びが便利になるという利点もある。
「ガアア」
健太の言葉に、ジュゲムはやる気を示す様に短く吠える。
(ジュゲムはボンドと違って梵字の恩恵も受けてないからな。これで戦力が上がってくれると良いんだが)
今日、最初はジュゲムにも、金剛力士を意味する『ウーン』を刻んだ首から下げるタイプのお守りを作り、装備させていた。
金剛力士は、怪力、守護、鋼の体などを司るのでジュゲムには向いていると思ったのだが、ジュゲム自身はあまり好んでいなかった。意図した通り、力と体の頑健さは上がっていたようなのだが、どうもジュゲムの態度からするとそうした外付けで能力が上がっている状態が「気持ち悪い」らしい。
健太には、強い武器や防具を装備するのは良くて、身体能力を上げるお守りは「気持ち悪い」というジュゲムの感覚が分からないが、その辺は感性の問題なのだろう。こうした価値観は、人間同様モンスターにも個性が出る。
特にコボルトやゴブリンのような人型である程度以上の知能を有するモンスターの場合、個体ごとの個性が顕著である。
「よし、ではいくか。ジュゲム、そっちの槍は俺が持つ。お前はいつでも戦えるようにして、ついてこい」
「ゴアッ!」
新しい槍を手に持つジュゲムは、健太の背中を追うように歩き出した。
第七階層で一番多いのはオークの集団だが、三階層のゴブリンと違い、ここは他のモンスターも出没する。
小型トラックほどもある『巨大蜥蜴』。群れをなして炎を吐く大型犬、『地獄犬』。そして、騎士殺しとして名高い『徹甲虫』
『徹甲虫』は、手の平サイズのテントウムシ型のモンスターだ。『徹甲虫』は極めて強固が外骨格と生体ジェット噴射機関を有し、遥か遠方から超高速で突撃してくる。
その速度は第二段階職程度の前衛ならばとっさに反応できないほどに速く、その威力は前衛の鎧を容易く貫通して一撃で致命傷を与えるほどに高い。
しかも、質の悪いことに玄室に潜んでいることもあるが、通路にいることも多いのだ。
そのため、気を抜いているところに不意打ちで襲われることが多く、多くの戦闘職を撃退している厄介なモンスターなのだ。
だが、『戦士の不動心』がオンになっている健太には気を抜いているタイミングというのは存在せず、『盗賊』と『山賊』を重ねている健太の危険察知能力は十分に高く、『敏捷増強』を自分にかけているため、防御が間に合わないということはない。
「はっ!」
結果、『徹甲虫』は健太が左腕に装着している方形盾で、ハエ叩きのように叩き潰される。突撃速度が速い分ダメージが高い。悪い言い方をすれば自爆に近い。
「モンスターカードがドロップしたな。……待てよ? 一発芸に近いが、これも一種の遠距離攻撃か?」
そんなことを呟きながら、健太はドロップした『徹甲虫』の「モンスターカード」を拾い上げる。
今健太が一番増やしたいのは、ソロダイブ中に後ろから援護してくれる後衛型のモンスターだ。オークのユニーク個体であるオーク『術士』を狙っているのだが、すでに複数のオークの軍団を殲滅しているのだが、まだ一匹も出会えていない。
それに比べると『徹甲虫』は正しい意味での後衛ではないが、その超高速体当たり攻撃は遠距離攻撃の代用品にはなるかもしれない。
その後、健太は『既知外』領域第七階層で、何度も『周回レベル上げ』を使い、レベルアップと探索に勤しんだ。
一応、下の階層――第八階層に繋がる『界門』玄室は発見したのだが、発見した時はすでに『周回レベル上げ』を使った後だったため、正確な場所を『脳外記憶領域』に落すにとどめ、中には足を踏み入れていない。
そうして、モンスター退治を続けることしばし。
健太の脳裏に、見慣れた文字列が表記される。
『義賊R』
『格闘士』『拳闘士R』『大剣士R』『槍騎士R』『侍』『大身槍士SR』『盾騎士R』『術騎士SR』
『強盗』『山賊頭R』
『魔術士』『呪詛師R』『方士R』『浄魔士SR』『火精霊使いR』『土精霊使いR』『風精霊使いR』『水精霊使いR』
『司祭SR』『神官戦士SR』
『鍛冶士』『彫金士』『素材製造士SR』
『書記』『案内人』『使役者SR』
『引き籠り』『一人上手SR』『独りよがりSR』
に転職可能。
※お客様のご契約、ご利用状況では、以下の職クラスは選択できません。
『聖賢見習いGR』『石猿見習いGR』『伝承の英雄GR』
「どうなってる?」
健太は首を傾げた。