――穿界迷宮『YGGDRASILL』、接続枝界『黄泉比良坂』――
――第『参』階層、『既知外』領域――
「…………だいぶ落ち着いたようだな。返事が出来るならしてくれ、幸子」
「は、はい、御主人様…………」
ダンジョンの通路上で、健太に抱きしめられた幸子は震える声で、そう返事をする。
体も声もまだ小さく震えているし、接触面積を少しでも増やそうとしているか、両手両足を健太に絡めている。とてもではないが、「落ち着いた」と言える状況には見えないが、これでも当初と比べるとかなり落ち着いたのだ。
ダンジョンダイブ直後などは、『既知外』領域の瘴気圧に声も出ないを通り越して、呼吸すら困難な状態だった。
それを、健太は辛抱強く抱きしめ、「大丈夫だ」「安心しろ」「俺がいるから」と声をかけ続けること五分弱。
やっと、どうにか意味のある言葉を発して、自分の足で歩けるところまで回復したのである。
「ああ《落ち着いた》な。これなら大丈夫だろう」
念のため、健太は『増強術士』のスキルである『精神増強』をかける。自力である程度精神を立て直したタイミングだから、さほど不自然には感じられないはず、と『戦士の不動心』がオンになっている健太は判断する。
「蘭、竹海、風音。護衛と見張り、ありがとう」
健太はそう言って、幸子が最低限落ち着くまで、周囲の警戒を続けてくれた同行者三人を労う。
「勿体ないお言葉です。何なりとお申し付けください、ご主人様」
細い小剣を構えたコボルト――コボルト『遊撃兵』に見張りをさせていた蘭はうっとりとした表情でそう答え、
「どういたしまして、ご主人様」
長さの違う曲刀を両手に一本ずつ抜いて立っていた竹海がそう続く。
「終わり? あー、ドキドキした。モンスター来たらどうしようかと思った」
最後に、明らかに緊張した様子で左手に盾、右手に片手槍を構えていた風音がそう言って、肩の力を抜く。
その様子を見ていた健太は、幸子を抱きしめるために通路の壁に立てかけていた大剣を手に取ると、
「では、移動するぞ。ダイブ前に言った通り、今回の目的は皆のレベルアップだ。まず幸子、次に風音を優先するが、蘭や竹海にもちゃんと経験値を割り振る。ついてこい」
二年女子四人を先導するように歩き出すのだった。
『既知外』領域の瘴気圧に対しては、一年並みに不甲斐ないところを見せた幸子だが、流石にモンスターに対する態度は一年並みということはなかった。
「よし、幸子。とどめを刺せ。無力化しているが、油断はするな」
「は、はい」
玄室内にいた十数匹のゴブリンは全て、健太によって四肢を切り落とされて無力化されている。ゴブリン達が抵抗どころか悲鳴を上げるより早くそれをやり遂げたのだ。
それも使い慣れた腰の小剣ではなく、細かな作業には向かなそうな大剣でだ。
正確に言えば、今のそれは大剣ではなく槍と呼ぶべきだ。大剣の柄に宿る能力『伸縮自在』で柄を二メートルほどに伸ばしているそれは、大剣ではなく槍――大身槍に分類される。
『大身槍士』の職を会得した今の健太は、その柄二メートル刃渡り一メートル六十という異形の槍を軽々と振るい、身長一メートル前後しかないゴブリン十数匹を殺さず、四肢だけを切り落として無力化することに成功したのである。
『大身槍槍士』とは、乱暴に言えば「槍に特化した侍」である。
『侍』が武装を刀に限定されるように、『大身槍槍士』は武装を大身槍――穂先が一寸(約三十センチ)以上ある槍に限定される。
差し専門のランス系はもちろん、穂先が小さなタイプの槍も駄目だ。武器の入手難易度が上がりすぎるので人気薄の職だが、武器さえ手に入れば強力だ。
なにせ、槍の射程で『侍』の刀と同じことが出来るのだ。
『侍』は『戦士』系では素早さに偏った、クリティカル攻撃の専門家だ。
通常、ダンジョンのモンスターや職を獲得した人間はSP(ソルポイント)を無意識のうちに体に纏い防御している。レベルが上がればその分纏っているSPガードも上がり、打たれ強くなっていく。
そんなSPで守られているモンスターや人間にダメージを与えるには、こちらもSPを込めた攻撃でSPガードをブチ破るのが常道だ。だから、極端にレベルに差があると、渾身の一撃でも相手のSPガードを破れないという絶望的な状況に陥ることがある。
それに対してクリティカルとは、そのSPガードをすり抜ける攻撃だ。クリティカルヒット自体は、相手の虚を突けば誰にでも起こせる行為だが(極端な話、相手を眠らせるもしくは気絶させて攻撃すれば高確率でクリティカルになる)、『侍』系は正面から相対した敵に対し、速さと技でクリティカルを意図的に起こすことができる。
『侍』系のレア職である『剣豪』になっている沙姫など、健太が知る限り全ての攻撃がクリティカルになっているほどだ。まあ、沙姫は天才中の天才のため、流石に例外だが。
だが天才でなくとも、職を何十も重ねた圧倒的身体能力を有する健太が、ゴブリン程度を相手にするならば、全ての攻撃をSPガード無効攻撃とすることは難しくはなかった。
「はあ……終わりました、御主人様」
四肢を落とされて転がっている十数匹のゴブリンに、上から槍を振り下ろして止めを刺して回った幸子は、それだけで少し息を弾ませていた。
幸子がとどめに使っている槍は、健太からの支給品だ。先日オークの集団を殲滅した時にドロップした武器のうちの一つを、『適合』で人間サイズに縮小して確保しておいたのだ。
ジュゲム用の短槍よりずいぶん長いが、重量は半分にも満たない。それでも、十キロは優に超えているだろう。低レベルの『遊び人』に過ぎない幸子に武器として振りまわすことが可能な重さではない。
だが、第一段階職になっているということは最低でもノービスのレベル10はあるということだ。
十キロ越えの槍を武器として振りまわすことは出来なくとも、持ち歩いて無力化したモンスターにとどめを刺すくらいは出来る。
「よくやった、幸子。偉いぞ」
『戦士の不動心』がオンになっている健太はそう言いながら幸子に近づくと、幸子の頭を丁寧に撫でた。
それは他のパートナー女子に対する労い方とは一線を画する。むしろジュゲムやボンドといった『モンスターカード』に対する扱いに近い。今の幸子にはそうした扱いが正解だと、健太は判断した。
「ふわあ……」
事実、その良くて配下、悪ければペットに対する扱いに思える褒め方に、幸子は目を細めて嬉しそうにしていた。
健太の『職業選択の自由』は叶馬の『情報閲覧』と違い、転職に特化したスキルだ。だから、転職可能状態になるまで相手が何レベルなのか、自己申告の現職は本当に正しいのかわからない。
だが、転職可能状態が分かるだけでも大きなアドバンテージだ。
特に今回のような、複数人のレベ上げ、転職を目的としている時は。
風音
『槍士R』『盗賊』『遊び人』
『闘士』『盾槍闘士R』『槍騎士R』『娼婦』
に転職可能。
健太が四肢を斬り落とした大きなゴブリン(推定ゴブリンキング)に風音が頑張って止めを刺したところ、健太の脳裏にそんな文字列が浮かび上がった。
どうやら、風音は無事『戦士』レベル20に達したらしい。
「よし、次に行くか。風音。大物を倒したから、次からしばらくは幸子を優先する。良いな?」
この場で転職させる気がない以上、今の風音にこれ以上経験値を稼がせるのはただの無駄だ。
だから、そんな言葉で風音への経験値優遇停止を告げる。
「うん、分かった」
風音は、軽く息を弾ませながら頬を紅潮させた顔で小さく頷く。『逸脱個体』である推定ゴブリンキングは、無力化した状態から止めを刺すだけでも、風音にとっては結構な重労働だったのだろう。付け加えれば、『戦士』20レベルになってもなおあまりある経験値が流れ込んできた影響で、性欲が過剰増加しているという点もある。
(風音先輩も近い将来俺のパートナーになってくれると言っているが、現時点では俺のパートナーではない。それどころか、別な倶楽部に籍を置いたままだ。俺が相手をして良いのか?)
学園の常識で考えれば全く問題ない。学園内ではパートナー制度を始めとしたいくつかの校則が、性的行為を抑止しているがダンジョン内はそれすら意味をなさない完全な治外法権だ。
特に今回のように、高レベルの男子が低レベルの女子のレベリングを手伝ってやるとき、ダンジョンセックスはマストと言っても過言ではない。
風音自身はもちろん、風音が今籍を置いている倶楽部の男子が知っても「そりゃそうなるだろ」としか思わないだろう。
同時に健太は考える。
(風音先輩の転職先はかなり順当だな。『聖堂』の自動割り振りでもほぼ問題ないレベルだろう)
とはいえ、万が一『娼婦』になられたら勿体ない。念のため、『聖堂』まで付いていき、健太が『職業選択の自由』で選んでやるべきだろう。
幸い、『娼婦』以外の第二段階職は『闘士』『盾槍闘士』『槍騎士』と全て『戦士』系の第二段階職だ。
これならば健太の『職業選択の自由』で転職させても問題はない。『聖堂』の転職では同じ段階の職を取り直した場合前の職がロストするが、健太の『職業選択の自由』では職が重なるという違いがある。
だが、『戦士』から『戦士』系第二段階職への転職ならばどちらでも違いは生じない。
(問題はこっちだな)
健太は、自分の左下側に視線を向ける。
「ん、んん、ああ……ご主人様……」
そこでは幸子が健太の体に肢体を押し付け、健太の太腿を両足で挟み、擦り付けていた。普段はビクビクオドオドしている幸子の堀の浅い顔が、性欲で蕩けている。薄い唇は半開きになり、だらしなく舌がはみ出ている始末だ。
当然と言えば当然ではある。健太の目算では、幸子は今日だけで『遊び人』のレベルを3から20以上まで上げている。急激なレベルアップは急激な精力、性欲の増強をもたらす。
精神力が強ければある程度抑えも聞くのだが、幸子はお世辞にも精神が強靭なタイプではない。それでも、健太が「やめろ、離れろ」と言えば恐怖が性欲を上回り、離れるのだろうが『戦士の不動心』がオンになっている今でも、そんなことを言う健太ではない。
深く隷属している、つまり強い情愛の対象であり、最高の快楽を授けてくれる相手がすぐ隣にいて、自分がやることを一切咎めず受け入れてくれるのだから、幸子の発情が止まる道理はなかった。
(だが、まあ良い兆候ではあるか)
『戦士の不動心』がオンになっている健太は、幸子の行動を助けてやるように、左腕を幸子の細い腰に回し、ガッチリと抱きしめてやりながら、そんなことを考える。
健太に抱き着き(もしくは絡みつき)、その大きな胸や股間を擦り付けている幸子の現状は、健太が「こっちに来い」と言ったわけではない。レベルアップによる発情が我慢できなくなった幸子の自主的な行動だ。男子に対する恐怖心が勝って言えれば、どれほど発情しても向こうから抱き着いてくることはなかったはずだ。
多少なりとも「今度の御主人様は大丈夫」と思い始めている証、と考えるのは少し楽観的すぎるだろうか。
「ふう……ふう……はあ……」
首元に熱い吐息を感じながら、健太は幸子について考える。
(幸子先輩は現状『遊び人』。だが『遊び人』系の第二段階職はあまり良いのがないからな。たとえ第一段階でも他に良い職が候補に挙がっていれば、そっちにしたいのだが)
問題はその場合、『遊び人』がロストしないことである。
この学園の常識では、ロストしているはずの『遊び人』のスキルを使えることに幸子が気づいたら、多少面倒なことになるかもしれない。
(幸子先輩が今後、俺がいないところでダンジョンダイブする可能性は低いからまず大丈夫だとは思うが)
現状、幸子は健太の言いなりだ。週一か二で今日のようにダンジョンに連れていってやった上で、「それ以外はダンジョンダイブ禁止」と言えば本人が自主的に破ることはないだろう。他の男子のちょっかいを警戒する必要は当然あるが。
(どちらにせよ、転職に漕ぎつけてからの話だな。現状では無駄な心配になる可能性も十分にある)
幸子の転職先が、『遊び人』系しかない可能性も十分にあり得る。
「よし。次の玄室に行くぞ」
健太はそう考えて、ひとまず意識を切り替えた。
無事、午前のダンジョンダイブを終えた健太、蘭、竹海、風音、幸子の五人はその足で真っすぐ『聖堂』へとやってきていた。
『聖堂』に入っていた風音が出て来る。『職業選択の自由』で転職させた健太じゃなくても、その弾むような足取りと満面の笑みを見れば、結果は予想できるだろう。
「転職出来た。それも『盾槍闘士』だって」
ゴールデンウィーク中ということもあり、『聖堂』周辺には人がいないため、風音は言葉に出してそう言う。大声で言うほど不用心ではないところは、学園で一年以上生きてきた上級生だからだろう。
「おめでとうございます、風音先輩。大体希望通りってことですか?」
知らないふりをしてそう尋ねる健太に、風音は赤いサイドテールを弾ませるように何度も頷くと、
「もう、希望通りというか希望以上だよっ。『闘士』だったらまあよし。『槍騎士』とか『槍闘士』とかなら槍に補正が付くから最高、って思ってたら『盾槍闘士』だからね。槍にも盾にも補正が付く。めっちゃ最高!」
そう言って健太に抱き着く。健太は空いている右腕で風音の小柄な体を抱きとめる。
「それは良かったですね、風音先輩」
すでに『戦士の不動心』をオフにしている健太は、内心安堵の息を漏らす。
以前、風音から聞いた希望転職先は、「『槍騎士』か『槍闘士』」と聞いていたのだ。
そして、『職業選択の自由』には、『槍闘士』こそなかったが『槍騎士』はあった。それなのに、あえて『盾槍闘士』を選択したのは、風音が「槍闘士」か『槍騎士』」を希望したのは、「槍が使い慣れてるから」という理由だった。
風音の戦闘スタイルは、右手に槍、左手に盾である。ならば、槍だけでなく盾にも補正がある『盾槍闘士』が最善なのではないか、という健太の予想は幸いにも当たっていたようだ。
一般的に職はノーマル程性能が平均的で、R(レア)、SR(スーパーレア)になる程性能が尖っていくとされている。
だから、基本的にはノーマルの『闘士』や『騎士』が、レアの『槍騎士』や『槍闘士』より強いということはない。
『闘士』ならば、剣、刀、薙刀、十手、槍、斧、斧槍、こん棒、槌矛、メリケンサック、トンファー等、何を持ってもおよそ全てのスキルが使用可能なのに対し、『槍闘士』は槍を持たなければほとんどのスキルが発動しない。その代わりに、どちらも槍を持った時には『闘士』より『槍闘士』が勝る。
だから、風音のように「私の戦闘スタイルはこれ」と決めてしまっている者にとっては、レア職の方が望ましい。
逆に、戦闘センスに恵まれて、どのような武器でも自在に操れる者からすれば、武器の制限が少ないノーマル職が良いらしい。ダンジョンでは階層ごとに出没するモンスターはある程度決まっているため、モンスターに合わせて有利な武器に持ち替えられるし、強いマジックアイテム装備がドロップすれば、剣だろうが斧だろうが装備できる。
『匠工房』の蜜柑たちを見ていると感覚が狂うが、ダンジョンドロップ品と同等もしくはそれ以上の武器を幅広く制作できる『職人』はものすごく珍しいのだ。
「うん、これも健太君のおかげだよ。今晩はちょっと無理だけど、正式に健太君のモノになったら、一杯お礼するね」
抱き着いた風音は、健太の耳元でそう囁く。体型こそ健太の好みから外れるが、風音とてこの学園で一年以上過ごして適応した学園の女子だ。その声に含まれる艶に、『戦士の不動心』がオフになっている今の健太は無反応ではいられない。
「っ、幸子先輩。次は幸子先輩の番ですからっ!」
いい加減慣れろとツッコミを入れたくなるくらいに動揺する健太はそう言うが、それは完全に墓穴だった。幸子の存在を意識したとたん、健太のズボンの前はもっと固く熱く滾る。
「ふわあ……ご主人様?」
幸子はとろんとした目で小首を傾げる。その拍子に幸子のワンレングスのストレートヘアが健太の制服の肩にかかる。
今まで必死に意識を逸らしていたが、幸子はダンジョンからログアウトしても、ずっと発情状態が収まらず、先ほどから健太の左腕にへばりついたままなのだ。
健太の左腕はずっと細身の体には不釣り合いに大きな幸子の双乳で挟まれ、左手は素足の太腿に挟まれている。大好きな巨乳の感触はもちろん、素肌で感じられる太腿の感触も、気持ちいい。
ただ、触れているだけで性感を高めるような魔力が、幸子にはあった。
振りほどいて幸子に『聖堂』に入るよう促さなければならないのだが、健太はとっさに動きが止まってしまう。
(幸子先輩は俺に依存してるから、ここで振りほどいたら、拒絶されたと勘違いして危険かも)
という思考はもちろんただの言い訳だ。端に健太がその心地よい感触を引きはがしたくないだけである。
「幸子先輩。『聖堂』に入ってください。転職を試しましょう」
それでも、そう言って幸子の両乳、両太腿から左腕を抜いたのは、流石の健太も多少は女慣れして来たからだろうか。
発情状態で頭が蕩けている幸子だが、だからこそ「愛しの御主人様」の言葉は絶対だ。
「はい、分かりました」
幸子がフラフラとおぼつかない足取りで、『聖堂』の中へ入っていくと、健太の脳裏に浮かんでいた文字列に変化が訪れる。
【幸子は『娼婦』に転職しようとしています。よろしいですか?
はい
いいえ】
予想されたことだが、幸子はすでに、『娼婦』コースに乗ってしまっていたようだ。この学園で女子が生きていくだけならば、『娼婦』も悪い選択ではないのだが、他に選べる道がある上であえて選ぶものではない。
入学前からその性根が『娼婦』向きならばともかく、幸子の場合は入学以来のセックス漬けでそちらの道に修正されただけだろう。
健太は軽く念じて、幸子の転職可能一覧を呼び出す。
幸子
『槍士R』『術士』『文官』
『呪詛師R』『幻想使い』『娼婦』『遍歴詩人R』
『性隷姫SSR』『人形姫SSR』
に転職可能。
この一覧を見れば、幸子本来の資質が『術士』系であることが分かるだろう。
現在の幸子が『遊び人』で、転職可能になっている第一段階職は『槍士』『術士』『文官』。
対して転職可能な第二段階職は『呪詛師』『幻想使い』『娼婦』『遍歴詩人』の四つ。
『呪詛師』と『幻想使い』は『術士』系の第二段階職で、『娼婦』と『遍歴詩人』は『遊び人』系の第二段階職だ。
現在の幸子は『遊び人』なのだから、『遊び人』系の第二段階職が出るのは今日までの学園生活による経験が導いた結果と言えるが、『術士』系の第二段階職が候補に浮かぶのは、純粋に本人の資質だと推測できる。
その証拠に、『戦士』系レア第一段階職の『槍士』と『文官』はあっても、『戦士』系、『文官』系の第二段階職は候補に挙がっていない。
経験だけで言えば、武器戦闘の方がよっぽど経験しているだろうにだ。
(やっぱり、『術士』系の第二段階職か。でも『遍歴詩人』なら『職業選択の自由』を使っても齟齬が発生しないんだよな。それなりに強いらしいし)
健太は、少し悩む。
『遍歴詩人』は『遊び人』系の中ではダンジョンダイブで「使える職」とされている。『鼓舞』『誇張』『再演』といった、戦闘向きのスキルがあるのだ。
ダンジョン内で幸子が『遊び人』レベル20になってから今までずっと考えてきたのだが、まだちょっと悩んでいる。とはいえ、すでに幸子は『聖堂』に入っているのだから、これ以上迷っている時間はない。
(仕方がない。度胸を決めるか)
健太は、脳内のカーソルを『幻想使い』に合わせる。
【幸子は『幻想使い』に転職しようとしています。よろしいですか?
はい
いいえ】
健太は脳内で【はい】をクリックした。