※この作品はR-18です。

ハイスクール転生アンド巻き込まれ   作:ミタライ

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第七話 生還の実感、精強の体感

 気が付くと健太(けんた)は、『羅城門(らじょうもん)』の正面に立っていた。

 能舞台のような広場には、健太だけでなく一年(ひのえ)組の全員がそろっている。ほとんど生徒が不思議そうに立ち尽くし、キョロキョロを周囲を見渡しているのを見た健太は、『戦士の不動心(マインドスイッチ)』をオフにし、周囲に溶け込むよう自分もキョロキョロ周囲を見渡す。

 死に戻りをした生徒――つまり健太と叶馬(とうま)以外の全員――は、ダンジョン内の記憶を失っている。彼らの主観では、始界門を潜ったと思ったら、この『羅城門(らじょうもん)』から少し離れた舞台に瞬間移動させられていた感覚なのだ。

 

 大多数が普通に立ったままキョロキョロしている中、顔色を悪くして床にへたり込んでいる女子生徒も数人いる。死に戻りは、ダンジョン内の記憶は完全に失われるが、そこで生じた感情や精神的な衝撃が完全に失われるわけではない。運悪く簡単に殺されず、ゴブリンに捕まってさんざん輪姦された女子は、そのストレスが完全には失われず、体調を崩しているのだ。

 とはいっても、記憶はないし残ったストレスも一回だけではそこまで深刻ではないため、彼女たちもすぐに立ち上がる。

 

 周りに同調してキョロキョロしていた健太は少し離れところに、叶馬(とうま)誠一(せいいち)静香(しずか)麻衣(まい)の主人公パーティーが揃って立っているのを見つける。

 ここからでは距離があって会話の内容までは聞き取れない。しかし、最初は笑顔や苦笑いで言葉を交わしていたのに、やおら叶馬が隣に立つ静香を強く抱きしめたのが見えた。誠一と麻衣は驚きに目を丸くしている。

 驚きと嫌悪感から最初は何とか叶馬の腕を振りほどこうとしていた静香だったが、叶馬が静香の耳元で何かを言った後、大人しく叶馬にその身をゆだねる。

 

 はたから見ると叶馬の行動は訳が分からないが、原作の知識があり、叶馬がファーストダイブを生き残っていることも知っている健太には、叶馬の心境が理解できる。

 叶馬は、静香、誠一、麻衣の三人が目の前で殺されたのを覚えているのだ。守り切れなかった彼女たちが生きているのを見て感情が爆発してしまったのだろう。それでも顔は人でも殺しそうな強面の無表情のままのため、衝動的に静香を抱きしめて逃がさないその行動は、「クラスメイトの前で、いきなり女を襲おうとしている」ようにしか見えないのだが。

 実際、記憶を失っていても殺されたストレスが残っていて、それが性衝動として噴出するケースは珍しくないため、ある程度事情を知っている人間には、叶馬もそうだと勘違いされている。

 叶馬達の会話そのものは聞こえないが、その様子から察するに、どうやら大筋において原作通りの展開になっているようだ。

 恐らく今夜、叶馬と誠一の部屋に静香が訪れ、静香と麻衣の部屋に誠一が訪れる。男子寮の一室で叶馬と静香が一夜を過ごし、女子寮の一室で誠一と麻衣が一夜を共にするのだ。豊葦原学園では珍しくもない風景だが、入学翌日の新入生としては随分早い行動とも言える。

 

「本日の授業はこれで終了です。一度教室に戻って解散ですが、女子はそのまま教室に待機していてください。連絡事項があります」

 

 (みどり)先生の言葉に、健太はどうにか無事、最大の死亡フラグであるファーストダイブを生き延びたという実感を覚えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜。

 碧鷺(へきさぎ)寮の自室に戻った健太は、約束通りルームメイトの尚典(なおふみ)に、初めてのダンジョンダイブで得た情報を教えていた。

 

「へー。本当になんも覚えてないんだ。話で聞いてもどんな感じなんだか、全然わからないや」

 

 健太から、一通り『羅城門(らじょうもん)』ダンジョンのファーストダイブの話を聞かされた尚典は、感心したようにそう声を上げた。

 

「本当、説明が難しいくらい、なんも覚えてないんだよ。夢見が悪かった時みたいな「覚えてないけど怖い夢を見ていた気がする」といった感じも全くない。本当に、自分の体感では二重丸の魔法陣みたいなのに乗ったと思ったら、次の瞬間少し離れた木造の舞台の上に立ってた、て感じ。

 でも、二重丸に立った時には腕時計が午前九時を指してたのに、舞台に立ってた時は午後三時になってた。だからすげえ時間を無駄にした気分だったな」

 

 死に戻りしたと嘘をついている健太は、本当に死に戻りを体験した丙組のクラスメイト達が洩らしてた会話を繋ぎ合わせて、それらしい話をする。幸い、死に戻りした場合と、生還した場合の違いは、ダンジョン内の記憶があるかないかだけだ。矛盾するような嘘をつかずにすむ。

 

「へー。それなら、そんなに怖がることはないのかな?」

 

 希望を見出す尚典に、健太は同意しつつも、一つ付け加える。

 

「そうだな。多分、ダンジョンの中では怖い思いも痛い思いもしているんだろうけど、どのみち覚えてないんだから、ないのと一緒だ。ただ、全く影響ないわけじゃないから、そこはちょっと覚悟しておいた方が良いかも」

 

「覚悟って?」

 

 一転、また不安げな顔をするルームメイトに、健太は努めてなんでもない風に告げる。

 

「死んだ記憶は失われても、ダンジョン内で死ぬまで、もしくは死んだ際に生じたストレスは、ゼロにはならないらしいんだよな。そのストレスが、眩暈や立ち眩み、後は性欲の上昇という形で現れることも珍しくないんだと」

 

「せ、性欲の上昇……」

 

 と、顔を赤らめる尚典は、まだ豊葦原学園の常識に全く染まっていない。

 知識として、この学園内の常識が外のそれとはまったく異なっていることを知らされているのだろうが、自分の常識を書き換える段階に達していないのだろう。

 寮の新入生歓迎会では、一部の上級生はこっそり自分の女を呼んで、目をかけた新入生に犯らせてやったりしているのだが、幸か不幸か健太も尚典も、その手の宴会じみた場は苦手なタイプだ。そのため、早々に切り上げて自室に引きこもっていたため、まだ身も心も童貞のままである。

 

「ぶっちゃけ、俺もなった。というか現在進行形でなってる」

 

 と打ち明ける健太の言葉の半分は、嘘だ。健太の性欲が高まっているのは事実だが、そもそも健太は死に戻りを経験していない。健太の性欲が高まっているのは、急激なレベルアップと転職(クラスチェンジ)の影響である。レベルアップと転職に伴う性欲、精力の増強は、死に戻りのストレスなど比較にならない。

 

「だから、実体験として教えとくけど、これはヤバい。ガチでヤバい。尚典も覚悟しておいた方が良い。先輩たちの言葉は、ある程度本当だった。これを我慢しきることは不可能だ」

 

 豊葦原学園で生きていく限り、レベルアップと転職は、避けようのない未来だ。つまり性欲、精力の高ぶりも、早い遅いの差はあれど、全員に襲い掛かる問題と言える。避けて通れない問題ならば、どう対処するか考えておく必要がある。

 健太の言葉に、尚典は照れながら困ったように眉をしかめる。

 

「確かに、寮の先輩たちもそんなようなこと言ってたけど。健太はどうするの? その……先輩の『お世話』になるつもり?」

 

 面倒見の良い先輩のうち何人かは、「童貞は早めに切っておいた方が良いぞ。年上に抵抗がないなら担任に頼め。担任が嫌なら、俺のオナホ女貸してやっても良いぞ」と言ってくれている。

 その先輩の言葉通り、豊葦原学園の担任教師は例外なく女で、担任教師の仕事には男子生徒の精処理も含まれている。

 そして、その言葉の後ろの部分「俺のオナホ女を貸してやる」という部分も、恐らくは嘘や冗談ではない。

 新入生が割り振られるエントリークラスの寮に残っている上級生など、学園全体で見ればトップ層ではないのだが、それでも寮の運営組織――男子寮なら『兄弟(ファタニティ)』、女子寮なら『姉妹(ソロリティ)』――の幹部クラスは、一定以上の強者だ。そういう男は、ほぼ例外なく、『好きに使える女』の一人や二人は確保している。

 

 そんな尚典の言葉に、健太は首を横に振る。

 

「いや、今の時点では駄目だ。我慢する」

 

「我慢できるの?」

 

 我慢しきることは不可能と言ったのは、お前ではないか。そんな不審げな尚典の視線に健太は、

 

「永遠に我慢しきることは無理だ。でも、今は我慢するしかない。最低でも、『聖堂(カテドラル)』で『転職(クラスチェンジ)』に成功するまでは、どうにか我慢し続けたい」

 

 と、今日一番告げたかったことを告げる。

 

「転職するまでって、結構先でしょ。四月中に転職出来たら、エリートコースって先輩が言ってたよ。エリートコースでも一カ月弱先ということだよ。そんなに我慢できるの? そもそも、なんで転職するまで?」

 

「先輩から教えてもらったんだけど、転職、特に最初の転職は、それまでやってきたことが反映されるんだと。本人の生まれ持っての資質みたいなのにも左右されるから、絶対とは言えないらしいけど。だから、転職前にセックスに嵌ってたら、高確率で『遊び人(ニート)』から『男娼(エルフ)』コース、最悪『絶倫王(ドンファン)』なんかになるらしい」

 

「うわっ……」

 

 健太の言葉に、尚典は露骨に顔をひきつらせた。

 入学から何日もたっていないとはいっても、ある程度勤勉に情報収集に勤しむものならば、この学園で生きていく上でやるべきこと、避けるべきことは、理解している。

 原作の知識を持っている健太はもちろん、真面目で臆病な質の尚典も、情報収集には力を入れている。

 

「確か、『遊び人(ニート)』は、意外とアーキタイプ六職の中では弱い方じゃないけど、その第二段階職の『男娼(エルフ)』は戦闘用のスキルがほとんどないんだっけ。『絶倫王(ドンファン)』はあれでしょ? SSR職」

 

「そう。俗にワナ職って言われてるやつ。なったら終わり。それを避けるためなら、我慢できる範囲は我慢するつもりだ」

 

 と、健太はさも自分のことのような口調で、尚典に情報を渡し、誘導する。

 健太自身は『職業選択の自由(プリースト・オブ・ダーマ)』があるので、転職(クラスチェンジ)で望まない職業(クラス)になってしまう恐れはない。それなのに、健太自身が、気の良い先輩のところに「お願いします」と頭を下げに行かないのは、今のところ性欲が、初めての性行為(セックス)に対する羞恥心や恐怖心に負けているからというのが、主だった理由だ。

 

「うーん、そうか。為になったよ。ありがとう、健太」

 

「いや、大したことじゃないって」

 

 今のところ健太の性欲は、笑顔で礼を言うルームメイトに「こいつ、可愛いな」と思う程度で収まっていた。 

 

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