※この作品はR-18です。

ハイスクール転生アンド巻き込まれ   作:ミタライ

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第七十六話 ばれていた秘密、ばれていない秘密

 

 

 

 ――穿界迷宮『YGGDRASILL』、接続枝界『黄泉比良坂』――

 

 

 

 ――第『(さん)』階層、『既知外(きちがい)』領域――

 

 

 

 

 

 一人のダンジョンダイブならば、健太(けんた)は第八階層に繋がる『界門(ゲート)』玄室に挑むところなのだが、竹海(たけみ)が同行するならばそうはいかない。

 ダンジョンダイブで好きな階層、好きなポイントにログインできるのは『文官(オフィサー)』のみ。『文官(オフィサー)』の(クラス)も重ねている健太(けんた)は、好きなポイントにログインできるのだが、表向きは『戦士(ファイター)』系第二段階職である『騎士(ナイト)』を名乗っている。

 必然的に、午後のダイブは午前中にログアウトしたポイントを選ぶしかなかった。

 

 

 問題なく、第三階層の通路にログインした健太(けんた)竹海(たけみ)は、そのまま真っすぐ近くの玄室に入り、そこに屯していた十数匹のゴブリンを雑に狩る。

 

「《はっ!》 よし、良いぞ。手は落としていないから気を付けろ」

 

 

 健太(けんた)が大剣を横薙ぎに一閃すると、全てのゴブリンを纏めて胴から両断され、下半身を失ったゴブリンは揃って床に崩れ落ちた。時間があれば、戦闘経験を積むためにも出来るだけ自力で戦いたがる竹海(たけみ)だが、流石にこの午後のダイブは『横入り』なので雑に省かせてもらう。

 

「ありがとう、ご主人様。十分だよ。こんな時でも止めは譲ってくれるのだから、君は本当に優しい」

 

 竹海(たけみ)も慣れたものだ。下半身を切断されてもなお武器を手放さないゴブリンも中にはいたが、その武器の届く場所には決して立たず、丁寧に全てのゴブリンにとどめを刺していく。

 

 中のモンスターを全滅させた直後の玄室は原則安全地帯だ。もちろん、ここは『既知外(きちがい)』領域だから、『放浪する脅威(ワンダリングモンスター)』と化した『逸脱個体(オーバーボーダー)』が襲撃してくる可能性はあるが、入り口は一つしかないのである程度気を張っておけば、奇襲される恐れはない。

 健太(けんた)の場合、『戦士の不動心(マインドスイッチ)』をオンにしておけば、油断や集中力が切れるという状態は起こりえないので問題はほぼない。

 

「それでは、竹海(たけみ)先輩。お話を伺います」

 

 健太(けんた)は、玄室の横壁に背中を預け、そう切り出した。

 

 玄室の出入り口を見張ることが出来て、それでいていざという時竹海(たけみ)が玄室から出ていくのを妨げない立ち位置だ。つまり、女子を守るスタンスを見せながら、同時に女子を閉じ込める意思はないことを意味する。

 ダンジョン内で一対一での密談を持ちかけた女子に対して、ここまで心を配る男子は珍しい。密談を申し出るということは、「腹に一物あり」と言っているも同然なのだから。

 

 だから、竹海(たけみ)はニコニコとした表情を恐れず率直に切り出す。

 

「うん、ご主人様の意に沿うようにしたいから教えて欲しいんだけど、ご主人様はその『転職(クラスチェンジ)先を自由に選べる能力』を、どの程度隠すつもりでいるのかな?」

 

戦士の不動心(マインドスイッチ)』をオンにしていなかったら、今自分は驚愕のあまり跳びあがっていただろうな、と健太(けんた)は自分を客観視する。

 

「俺としては可能であれば、誰にも一切教えないつもりでいたのですが、そんなに分かりやすかったですか?」

 

 観念した健太(けんた)の答えに、竹海(たけみ)はクスリと笑うと、

 

「正直、隠す気あるのかなあ? と思ったこともあるよ。この時期に一年生男子三人が揃って第二段階戦闘職はやりすぎだって」

 

 そう指摘する竹海(たけみ)健太(けんた)は、一応反論する。

 

「それに関しては、ほとんど誤解ですよ。尚典(なおふみ)の『陰陽師(オンミョウジ)』はノータッチですし、霊王(れお)の『怪盗(ファントム)』も多分俺が介入しなくてもそうなっていました。そう言う意味では俺が介入したのは、俺自身だけです」

 

 そう考えてみれば、男子四人中二人が戦闘系のスキップ転職(クラスチェンジ)組ということになる。素のポテンシャルでも学年のトップ層を走れそうなメンツだ。

 そんな健太(けんた)の答えに、竹海(たけみ)は虚を突かれたように何度か瞬きをした。

 

「あれ? そうなんだ。それは凄いね。でも、私が言った三人は尚典(なおふみ)君、霊王(れお)君、ご主人様じゃなくて、尚典(なおふみ)君、霊王(れお)君、来斗(らいと)君の三人だよ」

 

来斗(らいと)はスキップ転職(クラスチェンジ)ではありませんよ。第一段階職の『殴打士(ビーター)』を経て第二段階職の『重殴士(ヘヴィビーター)』になっています」

 

 それを言えば健太(けんた)も『戦士(ファイター)』を経由しての『騎士(ナイト)』なのだが、対外的にはスキップ転職(クラスチェンジ)ということにしてある。健太(けんた)の場合、ノービス→『戦士(ファイター)』→『騎士(ナイト)』の転職が早すぎて、「スキップ転職(クラスチェンジ)だった」と言った方がまだ自然なのだ。

 だから、健太(けんた)は「一年男子三人が揃って第二段階戦闘職」と言われた時、尚典(なおふみ)霊王(れお)、自分だと思ったのだ。

 それに対し、竹海(たけみ)は笑いながら答える。

 

「もちろんそれは知ってるよ。だから問題は、スキップ転職(クラスチェンジ)だけじゃないよ。いくら第一段階職だと言っても『殴打士(ビーダー)』なんて使えるレア戦闘職な時点で運が良いんだよ。来斗(らいと)君の性格やそれまでの過ごし方と照れし合わせると、「らしくない」とさえ言える。もちろん、それぞれ一人ずつならそう言うこともあるって程度だけど、三人揃ってしまったからね」

 

 そこは確かに竹海(たけみ)の言う通りだ。実際、健太(けんた)が『職業選択の自由(プリースト・オブ・ダーマ)』を使わなけば、来斗(らいと)が『殴打士(ビーダー)』になることはなかった。『聖堂(カテドラル)』の自動転職(クラスチェンジ)では『遊び人(ニート)』になるはずだったのだ。

 だが、そうなると自分が省かれたことに疑問を覚える健太(けんた)である。

 

「俺自身もスキップ転職(クラスチェンジ)での『騎士(ナイト)』なのですが、俺は数に入らないのですか?」

 

 そう問いを投げかける健太(けんた)に、竹海(たけみ)はより一層目を丸くする。

 

「え?……あの、ひょっとしてご主人様。その「自称『騎士(ナイト)』」も本気で誤魔化せているつもりだったのかい? というか隠してる気があったのがびっくりだよ」

 

「どこかおかしかったですか?」

 

 真顔で尋ね返す健太(けんた)に、竹海(たけみ)は分かりやすく大きくため息をつく。

 

「一番わかりやすい例を挙げるよ。ご主人様が幸子(さちこ)をゲットした時の学生決闘(メンズ―ア)の相手。あの中には『戦闘士(グラディエーター)』が混ざっていたのだよ」

 

 幸子(さちこ)の一件に関して、後日情報収集していた竹海(たけみ)は、そう淡々と事実を突きつけた。

 

「…………」

 

 竹海(たけみ)の指摘に、健太(けんた)は何も言い訳が思い浮かばない。

戦闘士(グラディエーター)』はれっきとした『戦士(ファイター)』系第三段階職である。普通は、同じ『戦士(ファイター)』系の第二段階職である『騎士(ナイト)』が勝てる相手ではない。

 

「一応ね、第二段階職が第三段階職を倒すというのも、あり得ない話ではないよ。相手も第三段階職になりたての低レベルだったみたいだしね。

 でもね、それは快挙なんだ。いくつかの条件が重なった上でたまに起こりうる現象だ」

 

 例えば、第三段階職の者が油断しきっていた。例えば、相性が圧倒的に第二段階職に有利だった。例えば、第三段階職の者がパワーレベリングで実力が伴っていなかった。例えば、第二段階職の者が化け物じみた天才だった。

 

「ちなみにご主人様は、『学生決闘(メンズ―ア)』で『戦闘士(グラディエーター)』が何番目の相手だったか分かるかな?」

 

「…………」

 

 沈黙を保つことが、この上なく明確な答えになっている。

 分からない。健太(けんた)はほぼ全員を同じパターン――先手を譲って向こうの攻撃を短剣の護拳(ナックルガード)ではじき返して、脇腹にワンパンで終わりだったのだ。

 

 つまり、健太(けんた)はなり立ての低レベルとはいえ第三段階職と、第二段階職の区別がつかないくらいの、圧倒的強者ということになる。

 そんな『騎士(ナイト)』――『戦士(ファイター)』系第二段階職がいるはずがない。

 

「確かにパートナーになってくださった皆さんや倶楽部員には、何時までも隠しきれるとは思っていませんでしたけど、思ってたよりずっと早かったですね」

 

 健太(けんた)の言葉に、竹海(たけみ)は苦笑を隠せない。

 竹海(たけみ)から見れば、健太(けんた)のやりようは「隠す気あったんだ?」と言いたくなるほどだ。

 それくらい、竹海(たけみ)にはあからさまに見えた。ただし、健太(けんた)の言う「パートナーや部員には隠し切れないと思っていた」という言葉にはある程度納得は出来る。

 内部の人間にはあからさまだが、外からは確かに一目で「あいつらおかしい」と指摘されるほどではない。

 

 健太(けんた)自身の強さを除けば。

 

 健太(けんた)は、叶馬(とうま)達と日常的に接し、特異点とも言うべき一年(ひのえ)組に籍を置いているせいで強さを計る物差しが若干大雑把になっている。

 

「確認させてもらうよ。ご主人様は、転職(クラスチェンジ)先を自由に選ぶことができる。これは間違いない?」

 

「正確に言えば、ある程度自由に、ですね。誰でも何でも好きな(クラス)にできるわけではありません」

 

 手を伸ばせば抱き寄せられるくらいに距離を詰めて小声で尋ねる竹海(たけみ)に、健太(けんた)はそう訂正する。

 ここまで知られた以上、下手に嘘をつくのは悪手だ。全ての秘密を明かす必要はないが、知られている範囲についてはむしろ正しく教えておいた方が良い。

 

「うん、そうだと思った。じゃないとお優しいご主人様が私を『良い踊り子(ナイスダンサー)』にするわけがないからね。だとしても、破格の能力であることに変わりはない。絶対に人に知られないようにした方が良い能力だけど、隠すつもりはあるんだよね?」

 

 これはかなり失礼なことを言われているな、と思いながらも健太(けんた)は素直に首肯する。

 

「はい。最初に言った通り、可能なら誰にも知らせないつもりでした。この能力を使う相手、俺の倶楽部のメンバーにいずれバレるのは許容範囲内ですが、それ以外は拙いと思っています。有力倶楽部に知られるのは絶対に避ける、学園運営サイドに知られるのは論外ですね」

 

 思っていたより健太(けんた)に危機感があったことに、竹海(たけみ)は内心ほっとする。

 

「うん、その意識は重要だね」

 

竹海(たけみ)先輩が気づいたということは、他の人たちも気づいた可能性がありますよね。(らん)先輩達にも他言無用と言明しておくべきでしょうか?」

 

 健太(けんた)の問いに竹海(たけみ)は首を横に振る。

 

「現状、あえて念を押す必要はないかな。他言無用と伝えるためには、ご主人様側から真相を明かすことになる。気づいていなかった場合は藪蛇になりかねない。知らないことが一番の防衛だからね。気づいているけど、あえて何も言ってこないなら、それはどのみち誰にも言わないだろうし」

 

 特に二年女子はそうだ。一年この学園で過ごした女子ならば、健太(けんた)の側より快適な空間など、この学園には存在しないことを理解している。その健太(けんた)を自ら裏切る行動を取るとは考えがたい。

 怖いのは女子が質の悪い男子に拉致されて、隷属の上書をされてしまった場合だが、その時は健太(けんた)も容赦なく動く。

 

 ルール無用の本気でつぶす気で動けば、AランクだろうがSランクだろうが今の健太(けんた)の敵ではない。わざわざ公式の学生決闘(メンズ―ア)を申し込んだり、あえてダンジョン内で戦闘を仕掛けたりしない限り、向こうは一切のスキルが使えず、こちらだけが全てのスキルを使えるのだから。

 本気で相手を潰すのならば、通常空間という絶対的なアドバンデージのある空間で襲えば良い。

 

 逆に、現状手の打ちようがない、絶対に知られてはいけないのは、学園運営サイドだろう。

 

「しかし、こう言っては何ですが竹海(たけみ)先輩も良く確信が持てましたね。自分でいうのもなんですが、俺の能力は都合がよすぎで逆に現実味がない類だと思うのですが」

 

 健太(けんた)の言葉もそれなりに筋は通っている。

 学園の常識では、普通科の生徒はダンジョン外では原則スキルは使えないとされている。例外は魔眼系のようなSPを消費しない一部のスキルだけ。たとえスキルが使えたとしても、(クラス)を自由に選べるなとどいう破格の能力は、なかなか想像しづらいはずだ。

 それこそ全ての転職(クラスチェンジ)が「運の良い偶然」と思う方が、現実的なくらいだ。

 

 そんな健太(けんた)の言葉に、竹海(たけみ)は小さく肩をすくめる。

 

「一年もこの学園にいると聞こえてくるんだよ。入学前からスキルのような不思議な能力を使える者がいるとか。そうした能力はダンジョン外でも使えるとか、ね。ちょっと特殊な生まれの子とかは、毎年チラホラいるみたいだ」

 

 主に特級科――華組の話だが、先祖代々豊葦原学園の卒業生の者は、入学前から異能を有していることがある。特級科ではなくとも、海春(みはる)夏海(なつみ)の双子は、入学前から精神感応系の異能を有している。他にもそうした異能の持ち主はいるらしい。健太のチート能力と違い、もっとささやかなモノらしいが。

 

「なるほど」

 

「と前提の話が終わったところで、本命の話を始めて良いかな?」

 

「? 構いません」

 

 すっかり今の話が本命だと思っていた健太(けんた)は意表を突かれたが、断る理由はない。

 竹海(たけみ)は両手を健太(けんた)の首に回すと(ささや)くように告げる。

 

「この間の『デート』の時、ご主人様は言ったよね。「強くなれる上に、ご主人様が生涯面倒見てくれるプランがある」って」

 

「そんなことは言っていません。俺は「もし、強くなれる代わりに今後もずっと俺と今の関係を続けなければならないとしたらどうするか?」と聞いたんです。ひょっとして、この質問がヒントになっていましたか?」

 

「うん、ヒントというかほぼ確になったね、あれで。今日の午前、実咲(みさ)ちゃん、霊王(れお)君、珠貴(たまき)ちゃんが揃って希望通りの(クラス)になったことで完全に確信した。まあ、それは今は良いんだ。

 とにかく、ご主人様の()で私を戦闘職につけることができるんだよね? でも、その(クラス)には暴走の危険がある。それこそ、誰かにガッチリ隷属していざという時、強い命令権を押させておかなければ危険なくらいに」

 

「まあ、そんな感じですね」

 

 そこまでバレバレだったのか、と健太(けんた)は自己評価を一段下げながら、素直に答える。ここまでくれば、健太(けんた)にも竹海(たけみ)が次に言ってくる内容は想像がつく。

 

「その(クラス)にして欲しい」

 

 その予想は全く外れていなかった。それでも、健太(けんた)は念を押す。

 

「その(クラス)を具体的に聞かなくて良いのですか?」

 

 元々、能力バレが無ければ勝手に転職(クラスチェンジ)するつもりだったのだが、バレた以上は本人の意思確認を取りたい。だから、竹海(たけみ)からそう言いだしてくれたのは、手間が省けたとも言えた。

 

「一応聞いておこうかな。優しくてパートナー思いの御主人様が一度は避けたくらいだから、ヤバめの(クラス)であることは想像がつくけど」

 

「『踊る勇者(ダンシングブレーヴ)』。『勇者(ブレイバー)』系ですね」

 

「……わお。私、思ってたよりヤバかった」

 

 さしもの竹海(たけみ)も軽口を叩けるようになるまで、かなりのタイムラグが存在した。

 

 

 

 

 

 

 

 それでも結局は「信頼してるよ、ご主人様」と言って、『踊る勇者(ダンシングブレーヴ)』への転職(クラスチェンジ)を希望した竹海(たけみ)は、この学園基準でも「外れている」部類に余裕で入るだろう。

 話が終わった時点で竹海(たけみ)は、『遊び人(ニート)』のスキルである『脱出(エクソダス)』でログアウトするつもりだったが、そこは健太(けんた)が一旦引き留めた。

踊る勇者(ダンシングブレーヴ)』に転職(クラスチェンジ)してもらうことを打ち明けた以上、多少はレベルアップの手伝ってやらなければなるまい。『勇者(ブレイバー)』系は、強力な代わりにレベルアップに要する経験値が多いのだ。一刻も早く『良い踊り子(ナイスダンサー)』をレベル30にして『踊る勇者(ダンシングブレーヴ)』に転職(クラスチェンジ)させておくべきだ。

 もちろん、今日一日だけで転職(クラスチェンジ)まで漕ぎつけるのは無理があるが。

 

 その後、健太(けんた)は真っすぐ第四階層に繋がる『界門(ゲート)』玄室に殴り込みをかけ、『界門守護者(ゲートキーパー)』である身の丈三メートルを超えるゴブリンロードを一瞬で達磨にして、竹海(たけみ)に提供した。

 

「うん、たかが『勇者(ブレイバー)』ごとき、片手で組み伏せてくれそうなご主人様だね」

 

 去年、先代の『勇者(ブレイバー)』の戦闘を倶楽部対抗戦で見たことのある竹海(たけみ)は確信をもって、苦笑を漏らした。

 

 さらに、『界門(ゲート)』を一緒に潜って第四階層に到着。玄室から出てこないモンスターは無視して、通路をうろつくブラックドックやオウルベアをなで斬りにしながら、第五階層に繋がる『界門(ゲート)』玄室に直行。

 そこを守る『界門守護者(ゲートキーパー)』の黒瑪瑙犬(オニキスドッグ)の四本脚をパリンと破壊。足をすべて失ってもなお暴れる水牛ほどもある黒い宝石の外皮を持つ犬の首根っこを掴み、安全を確保して、竹海(たけみ)にとどめを刺させてやった(黒瑪瑙犬(オニキスドッグ)の外皮はかなり強固なのだが、竹海(たけみ)の曲刀『探鉱者の栄光(ピュアディリジェンスギア)』は、まるで使いこなせていない現状でも攻撃力は十分だ)。

 

 そうして、二匹の『界門守護者(ゲートキーパー)』にとどめを刺したところで、竹海(たけみ)は今度こそ本当に『脱出(エクソダス)』のスキルでログアウトしていった。

 

「じゃあね、ご主人様。ベッドで待ってるよ」

 

 急速なレベルアップで発情したらしく、潤んだ目でそんな言葉を残して。今夜が楽しみなような怖いような健太(けんた)である。

 

 ともあれ、これで予定通り一人になった健太(けんた)は、腕時計で時間を確認する。

 現在時刻は、午後二時半過ぎ。午後の『羅城門(らしょうもん)』の閉門は午後五時。時間はまだ十分にある。『周回レベル上げ(タイムターナー)』がある健太(けんた)は、一時間もあればその時間を何度も巻き戻せば、事実上獲得経験値の上限は存在しない。

 とはいえ、効率よく経験を稼げるに越したことはない。

 

「単純な経験値の効率では、やはりオークがねらい目か」

 

 健太(けんた)は自分の考えをまとめるため、あえてそう口に出す。

 

 羅城門ダンジョンは、第五層までは一階層降りるだけで如実にモンスターのレベルが上がり、必然的に(倒せる力があれば)獲得できる経験値も激増するのだが、六階層からはその上昇が緩やかになる。

 健太(けんた)の最高記録は現状第七階層だが、確かに第六階層と第七階層にそこまで大きな違いは感じられなかった。

 だが、一匹当たりの経験値がそれなりに多いのに、群れを成して出没する経験値的に「美味しい」オークは第七階層の方が多く出没する。

 

 現在、健太(けんた)がいるのは第五階層。時間はまだ、二時間以上残っている。第六階層、第七階層に繋がる『界門(ゲート)』までのマップは『文官(オフィサー)』のスキルである『位置(ロケーション)』を使うまでもなく、『脳外記憶領域(クラウドストレージ)』に落してある。

 

「ひとまず、第七階層を目指す。残り時間が三十分以上残っている状態で第七階層に到達出来たら、そこで『周回レベル上げ(タイムターナー)』を使ってレレベル上げだな」

 

 健太(けんた)はそう、方針を固める。最低でも今日中に『大身槍士(オオミヤリツカイ)』は30にして、次の第二段階職を獲得したい。

 明日には、沙姫(さき)との手合わせがあるのだ。現状でも負けることはないと思うが、相手は原作でも何度も「天才」と明言されている沙姫(さき)だ。油断は禁物である。

 

(『大身槍士(オオミヤリツカイ)』の後は何を取るか。戦士系は随分重ねたし、まずは『強盗(ローグ)』かな。素のスピードアップには『盗賊(シーフ)』系が一番良い。後は、『山賊頭(バンデッドヘッド)』にも手を伸ばすか、『盾騎士(シールドナイト)』で守り固めるか。補習レイド前までには、『案内人(パスフェンダー)』と『素材製造士(マテリアルメーカー)』は使い(こな)せるようになっておきたいんだが)

 

 色々思いつくが、ソロダイブであまり思考をよそに割くのも考え物だ。

 

「よし、行くか。ジュゲム、ボンド、トレミー。《来い》」

 

 健太(けんた)は、『モンスターカード』から、ゴブリン『槍騎士(ランスナイト)』のジュゲム、コボルト『強盗(ローグ)』のボンド。そして、徹甲虫(ペネトレイトビートル)のトレミーを召喚する。

 

 竹海(たけみ)を同行させた関係上、ジュゲムの新装備である短槍は持ち込めなかったので、ジュゲムはカードに一体化している元の槍のままだ。

 

「ボンドは前で偵察、警戒。ジュゲムはその後ろでボンドの護衛。トレミーは俺の左肩に止れ」

 

「ギギ」

 

「バウ」

 

「……」

 

 三体のモンスターが自分の指示通りのフォーメーションを取ったことを確認した健太(けんた)は、いつものダンジョンダイブより早足で動き出すのだった。

 

 

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