※この作品はR-18です。

ハイスクール転生アンド巻き込まれ   作:ミタライ

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第七十七話 明日のための転職(クラスチェンジ)、寮長との話

 

 

盗賊(シーフ)』には『空歩(ステップ)』というスキルがある。その通り、一歩だけ空中を足場とすることができるスキルだ。

 対して『盗賊(シーフ)』系第二段階職である『強盗(ローグ)』には『二歩(ダブルステップ)』というスキルがある。こちらもその字面通り、空中で二歩移動が可能なスキルである。

 そして、『強盗(ローグ)』となる者は絶対に第一段階職として『盗賊(シーフ)』も獲得している。つまり、『強盗(ローグ)』は『空歩(ステップ)』と『二歩(ダブルステップ)』の両方が使える。

 そのため、スキルの連続発動が使いこなせるようになれば、三歩空中を歩行できるようになる。さらに、『空歩(ステップ)』は『盗賊(シーフ)』のスキルでも初期スキルに属するため、比較的再使用制限時間(クールタイム)が短い。

 

 結果、『空歩(ステップ)』→『二歩(ダブルステップ)』→『空歩(ステップ)』の最大四歩の空中移動が可能なのである。

 

 

 

 

 地下第八層に続く『界門(ゲート)』を有する『界門(ゲート)』玄室。そこは、健太(けんた)がこれまで見てきた中でも図抜けて大きな玄室だった。

 広さは公式ルールのサッカー場が複数作れそうなほどに広く、天井は都庁ビルを建造してもまだ余裕がありそうなくらいに高い。

 その『界門(ゲート)』を守護する『界門守護者(ゲートキーパー)』は一羽の怪鳥である。

 

 翼を広げたその大きさは十メートルほどもあるだろうか。その両翼は鋭い両刃の(かま)となっており、両足の爪は曲がった短剣のごとく。長い尾は、(むち)の如きしなやかさを備えつつ、節々に鋭い刃を連ねたいわゆる蛇腹剣を彷彿させる。

 

 そんな怪鳥が、ばかげて広いこの玄室の空中を高速で自由自在に飛び回る脅威は、容易に想像がつくだろう。

 

 しかも、この怪鳥は質が悪いことに魔法に対して高い耐性を有している。通常の飛び道具が意味のなさないダンジョン空間において、遠距離攻撃の主流は魔法だ。その魔法に強い耐性を持つ、飛行モンスターなどパーティー構成によっては遭遇した時点で詰んでいる可能性すらある。

  

「トラー!」

 

 甲高い奇声を上げながら、怪鳥は燕のように、空中にいくつもの弧を描くような変則的な軌道で飛び続ける。

 

 下からそれを見上げる健太(けんた)は、柄を五メートルほどに伸ばした大剣(実質槍)を両手で構え、平坦な声で命令した。

 

「行け、ビッグジャイアント」

 

 健太(けんた)の言葉を受けて、側に立っていた『強化外装骨格(アームドゴーレム)』のビッグジャイアントははるか上空の怪鳥目掛け、駆け上がる。

 

盗賊(シーフ)』の『俊足(ファスト)』と『空歩(ステップ)』を同時発動させたまず一歩、

 

「パトッ!?」

 

 一直線に、自分以上の速度で駆け上がってきた鋼鉄の巨人に、怪鳥は驚きの声を上げ緊急旋回する。

 斜め上に弧を描くように旋回する怪鳥を追いかけるように、ビッグジャイアントは『瞬動(クイック)』と『二歩(ダブルステップ)』を発動、二歩目で斜め上に逃げた怪鳥の回避先へと回り込む。

 

 連続する三歩目の踏み込みで空中を踏みしめ、ビッグジャイアントは右ストレートパンチを繰り出す。

 

「アシー!」

 

 という気合の声と共に、怪鳥は下方に向って緊急旋回し、ビッグジャイアントの右ストレートを回避した。空中でパンチを繰り出したビッグジャイアントは次の動きが取れず、そのまま重力に引かれて落下し始める。だが、二連続の緊急旋回をした怪鳥も瞬時に動くことは難しいくらいに体勢が乱れている。

 

 その空中戦を下から見上げていた健太(けんた)は、いつも通りのトーンで左肩にとまっている召喚モンスターに短く命じた。

 

「トレミー《撃て》」

 

「パッ!?」

 

 崩れた体勢でも三度目の緊急旋回を試みた怪鳥だったが、『徹甲虫(ペネトレイトビートル)』であるトレミーの超高速突撃を完全に回避するのは不可能だった。

 

 鎌のような翼を撃ち抜かれた怪鳥は、途端に動きに精彩を欠く。すぐさま墜落とまではいかないが、先ほどまでの目で追うのも難しい空中機動は見る影もない。落下しない様にバタバタともがくことで、しばし空中で停止状態になる。

 そこに、自由落下中のビッグジャイアントが次のアクションを起こす。

 再使用制限時間(クールタイム)が終わった『空歩(ステップ)』と『俊足(ファスト)』を同時使用。空中で上下逆さになり、天井を蹴る様に『空歩(ステップ)』を踏み、ホバリング中の怪鳥目掛け超高速で落下していく。右腕を頭上にまっすぐ伸ばし、大きな右拳を固く握って。

 

 結果、

 

「アシャ!?」

 

 高速落下する鋼鉄の巨人の全体重が乗った右拳を、細い胴体で受け止めることになった怪鳥は空中で真っ二つに引きちぎられたのだった。

 

 

 

 

 撃破した怪鳥は地上に落ちる前に瘴気へと返り、床に落ちてきたのは大ぶりなクリスタルと、蛇腹剣のような形状の怪鳥の尾だった。

 

「これも『匠工房(アデプトワーカーズ)』行だな」

 

怪鳥の尾を拾い上げた健太(けんた)は、そう呟く。『黄金鎧の欠片』、『象牙』とすでに二つ加工不納品を預けているので、さらにプレシャーをかけるようでちょっと申し訳ない気はするが、なんとなくこの『怪鳥の尾』はそこまで加工が難しい素材ではない気がする。

 こういう面白素材は『鍛冶士(ブラックスミス)』の蜜柑より、『錬金術師(アルケミスト)』の智絵理(ちえり)と『機関士(エンジニア)』の柿音(かきね)のマッドコンビが張り切りそうなところが面白そうでもあり、怖くもある。

 

「ビッグジャイアント《戻れ》。トレミー《戻れ》」

 

 ひとまず健太(けんた)は、逆さ向きで床に肩まで右腕が埋まってジタバタしてた『強化外装骨格(アームドゴーレム)』のビッグジャイアントと、一発芸の超高速突撃を使い果たしてヘロヘロ状態で飛んでいた『徹甲虫(ペネトレイトビートル)』のトレミーの具象化を解除する。

 

 今回は当初竹海(たけみ)が同行していた関係上、ゴブリン『槍騎士(ランスナイト)』のジュゲムと、コボルト『強盗(ローグ)』のボンドの武器を持ち込むことが出来たなかったので、この二体は途中からほとんど戦わせていない。まあ、この二体は現状レベルが上限に引っかかっているらしく成長しなくなっているので、経験値効率を考えれば、現状でも成長の余地がある『徹甲虫(ペネトレイトビートル)』のトレミーと、『赤梟頭熊(レッドヘッドオウルベア)』のエロールを優先するのが正解だろう。

 

 モンスターカードではなく、『職人(クラフター)』のスキルである『強化外装骨格(アームドゴーレム)』のビッグジャイアントは戦わせても経験値は得られないのだが、健太(けんた)が覚えたスキルの一部をそのまま使える。使いこなせば強くなるので、そう言う意味での『経験』を積ませるために、今回は活躍させた。

 

 第八階層に繋がる『界門(ゲート)』を前に、健太(けんた)は『脳外記憶領域(クラウドストレージ)』の時計データで時間を確認する。現在の時刻は午後四時半の少し前。『羅城門(らしょうもん)』閉門の五時まで後三十分強しかない。

 

「見積もりが甘かったか。『周回レベル上げ(タイムターナー)』の使うならば、残り時間が五十分は欲しかったのだが」

 

 竹海(たけみ)と別れてから健太(けんた)は、真っすぐ第七階層を目指し、そこで『周回レベル上げ(タイムターナー)』を使い、『大身槍士(オオミヤリツカイ)』のレベルを最大にし、『強盗(ローグ)』に転職していた。その後、『強盗(ローグ)』もある程度レベルが上がったところで、一旦『周回レベル上げ(タイムターナー)』を切り、本来の時間軸に戻って第八階層に繋がる『界門(ゲート)』玄室に挑戦したのだ。

 

 だから、今いるのは本来の時間軸。そこで『界門守護者(ゲートキーパー)』である怪鳥を倒したので、次のソロダイブでは第八階層からアタックを開始できる。

強盗(ローグ)』の(クラス)を得て、第八階層に繋がる『界門(ゲート)』を解放した。これで最低限の目的は達成している。しかし、欲を言えばこの後第八階層で『周回レベル上げ(タイムターナー)』を使ってレベル上げ、(クラス)獲得を続けたかったのだが、残り時間が三十分強しかないのでは少し(せわ)しない。

 

周回レベル上げ(タイムターナー)』は厳密に言えば、純粋な過去に戻るのではなく、過去と極めて近い並行世界に移動しているのだが(稀にだが、玄室にいるモンスターの数が多少上下していたり、過去にいた場所に『放浪する脅威(ワンダリングモンスター)』がいなかったりすることがある)、流石に『界門守護者(ゲートキーパー)』が変化することはまずない。

 

 つまり、今から第八下層にダイブして、強制ログアウト前に『周回レベル上げ(タイムターナー)』で戻る時間を長くとりすぎると、地下第七層に戻ってしまったり、最悪『界門守護者(ゲートキーパー)』戦の真っただ中に戻ってきてしまったりするのだ。

 

 無論、『戦士の不動心(マインドスイッチ)』をオンにしている健太(けんた)にうっかり忘れるということはないし、『脳外記憶領域(クラウドストレージ)』に落した記憶と突き合わせれば、間違って『界門守護者(ゲートキーパー)』戦の時間に戻ってしまうというリスクもまず避けられる。

 

 だが、前にも後ろにも時間の余裕がないことには変わりはない。

 健太(けんた)は第八階層に足を踏み入れるのはこれが初めてだ。

 

「初めての階層のアタックは、もう少し余裕のある時にするべきだな」

 

 そう結論付けた健太(けんた)は、『界門(ゲート)』を潜り、第八階層に降りた。その後健太(けんた)は、すぐさま『周回レベル上げ(タイムターナー)』を使用する。

 

「《時間軸逆走、九十分》」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第七階層の『界門守護者(ゲートキーパー)』戦より前の時間まで戻った健太(けんた)は、第七階層で主にオークの群れを相手に戦闘を繰り返す。

 玄室一つにつき、数十のオークがひしめき合っているのだ。経験値効率はかなり良い。『モンスターカード』も含めてドロップ品も大量に落ちるが、あいにく『周回レベル上げ(タイムターナー)』中の物は持ち出せない。良いものがあっても、未練になるだけなので確認せずに、次の玄室へと向かう。

 

 そうして、いくつかの玄室をクリアしたところで、健太(けんた)の脳裏にお馴染みの文字列が浮かびあがる。

 

 

 

 

 

義賊(ソーシャルバンデッド)R』

 

 

 

格闘士(グラップラー)』『拳闘士(ボクサー)R』『大剣士(グレートソーズマン)R』『槍騎士(ランスナイト)R』『(サムライ)』『盾騎士(シールドナイト)R』『術騎士(マギナイト)SR』

 

山賊頭(バンデッドヘッド)R』

 

魔術士(ウィザード)』『呪詛師(カースキャスター)R』『方士(ファンシィ)R』『浄魔士(ゴーストイレイザー)SR』『火精霊使い(フレイムシャーマン)R』『土精霊使い(アースシャーマン)R』『風精霊使い(ウィンドシャーマン)R』『水精霊使い(アクアシャーマン)R』 

 

司祭(プリースト)SR』『神官戦士(プリーストファイター)SR』

 

鍛冶士(ブラックスミス)』『彫金士(ホワイトスミス)』『素材製造士(マテリアルメーカー)SR』

 

書記(レコーダー)』『案内人(パスフェンダー)』『使役者(テイマー)SR』蒐集家(コレクター)

 

引き籠り(パラサイト)』『一人上手(オナニスト)SR』『独りよがり(オナルシスト)SR』

 

 

 に転職可能。

 

 

 

 ※お客様のご契約、ご利用状況では、以下の職クラスは選択できません。

 

 

 

聖賢見習い(リシサン)GR』『石猿見習い(メイホウサン)GR』『伝承の英雄(スクリーンヒーロー)GR』

 

 

 

 

 

 目立つ変化は、転職(クラスチェンジ)先に『文官(オフィサー)』系の『蒐集家(コレクター)』が加わったことだ。

 これは多少意外だったが、さほど驚くほどのことでもない。『蒐集家(コレクター)』は『モンスターカード』に関するスキルが豊富な『文官(オフィサー)』系の中では戦闘力の高い(クラス)で、一般的に「一定数以上の種類の『モンスターカード』を所有すること」が条件だと言われている。

 今日『強盗(ローグ)』になった時にはすでにトレミーは『具象化(リアライズ)』していたのだが、その時は表示されなかった。ただ、「持っている」「『具象化(リアライズ)』したことがある」だけでなく、ある程度使いこなしていることが条件なのかもしれない。

 

 だから、普通科には『蒐集家(コレクター)』の(クラス)についている者は非常に少ない。健太(けんた)叶馬(とうま)を見ていると感覚がマヒするが、一般的には『モンスターカード』は滅多にドロップしない超レアアイテムなのだ。しかも『モンスターカード』を強くするにはその『モンスターカード』でモンスターを倒してレベルを上げる必要がる。

 

周回レベル上げ(タイムターナー)』がある健太(けんた)と違い、普通の生徒にとって獲得できる経験値は有限だ。そのため、複数のモンスターカードを中途半端にレベル上げするよりも、これと決めた『モンスターカード』を集中してレベル上げするほうが主流となっているという理由もある。

 

蒐集家(コレクター)』は『同調(レゾナンス)』『寵愛(フェイバリット)』『保全(コンサベーション)』といった便利なスキルがあるので、いずれは習得したいところだが、今はそれより優先する(クラス)が多数ある。

 

「『強盗(ローグ)』のレベルを上げたら明確に速度が上がったからな。明日の手合わせの前に『山賊頭(バンデッドヘッド)』も取っておくか? だが、『山賊頭(バンデッドヘッド)』は『盗賊(シーフ)』系の中ではパワーよりだから、スピードアップはそこまで望めないか。となると、『盾騎士(シールドナイト)』で防御力を上げる方が良いか?」

 

戦士の不動心(マインドスイッチ)』は心が揺れなくなる効果はあっても、判断力を上げる効果はない。だから、健太(けんた)はしばし悩む。

周回レベル上げ(タイムターナー)』を使えば、事実上獲得経験値は無限大の健太(けんた)だが、『周回レベル上げ(タイムターナー)』の連続使用が心身にどのような影響を与えるのかが未知数のため、連続使用回数は少しずつ伸ばしている状況だ。

 幸い今のところ、悪影響は見つかっていない。

 

 その自分で決めている連続使用回数と、そこで得られる経験値を大雑把に計算すれば、今日中に第二段階職を後二つはレベル30にできそうだ。

 

「多少効率は落ちても、まずは速度アップを優先すべきか」

 

 そう結論を出した健太(けんた)は、ひとまず『山賊頭(バンデッドヘッド)』を選択した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 予定通り、複数の第二段階職を獲得した健太(けんた)は、その晩も白鶴荘の(らん)の部屋で、(らん)竹海(たけみ)幸子(さちこ)の三人のパートナーを相手に、充実した肉欲の時間を過ごしていた。

 胸と尻の肉付きが豊かな(らん)。並みの男子より長身でありながら、(らん)と同じくらい豊満な体つきを誇る竹海(たけみ)。そして、細身の体に乳房だけ大きな幸子(さちこ)

 三人とも健太(けんた)好みの巨乳美女で、それでありながらそれぞれ異なる個性の魅力を持っている。こんな美女と毎晩セックスが出来るという現状に、現実味が感じられないほどだ。

 

(上級生には、同じ女子ばっかり抱いてると飽きて捨てる奴や、セックスそのものに飽きて惰性でやってるだけの奴がいるって原作で描写されてたけど、正直信じられん。なんでこれに高々数年で飽きるんだ?)

 

 とそんな感想を抱きつつ、健太(けんた)は静かな寝息を立てる(らん)の裸体を抱き寄せる。無論、健太(けんた)も裸だ。抱き寄せれば、(らん)の体は乳房だけでなくどこもかしも柔らかく、ずっと密着していたくなるような多幸感に襲われる。

 

「最近(らん)先輩には、甘えちゃってるからな。何とか埋め合わせしないと」

 

 健太(けんた)の口からそんな反省の言葉が漏れる。

 それは健太(けんた)の主観では間違いなく事実だった。新たにパートナーとなった幸子(さちこ)が非常にメンタルが不安定なため、どうしても幸子(さちこ)に気を割く割合が増えてしまうし、今晩は竹海(たけみ)が一気にレベルが上がったせいで性欲が爆発しかけており、竹海(たけみ)の相手をする時間が長くなってしまった。

 

 物わかりが良くて我が儘を言わない人間に割を食わせるのは、短期的かつ表面的には人間関係を上手くいかせることになるが、長期的、本質的には絶対やってはいけない類の対応である。

 良い子にしていると割を食う。そんな意識を全員が共有すれば、一部の聖人以外は全員我が儘に振る舞うに決まっているのだから。

 

 そうでなくても、健太(けんた)にとって(らん)は特別な存在だ。童貞で彼女いない歴イコール年齢の男子が初めての女、それも顔も肢体も理想の上位互換のような女に心を奪われないはずがない。まあ顔や肢体に関しては、タイプは違えど竹海(たけみ)幸子(さちこ)(らん)に負けていないので、単に「早い者勝ちだった」と言えばその通りなのかもしれない。

 

 健太(けんた)は薄暗い部屋の中、同衾している(らん)を起こさないように細心の注意を払い、ベッドから起き上がる。

 もう一つのベッドで寝ている竹海(たけみ)幸子(さちこ)も熟睡状態のようだ。元々、学園の女子でも手に余る健太(けんた)の精力だったが、さらに多数の(クラス)を重ねることでそちらも強大化し続けている。

 今では、三対一でも普通に女子三人が途中でダウンしてしまう。本日、『界門守護者(ゲートキーパー)』二体のとどめを譲ってもらった竹海(たけみ)は、一気に『良い踊り子(ナイスダンサー)』のレベルが上がり、性欲、精力、体力揃って急上昇していたのだが、それも健太(けんた)の上昇率と比べればほとんど誤差の範囲内だった。

 

 現に、三人のパートナーを()り潰した今も、健太(けんた)の股間は固く天を向いたままだ。

 薄暗い中、パートナー達の裸の寝姿を見ていると、また性欲が湧いてくる。健太(けんた)は視線をその魅力的な光景から引きはがすと、音を立てないようにして服を着こむ。寮の外まで出るわけではないので、下はパンツとズボン、上はTシャツで十分だ。

 寝ているパートナー達の体を清めるためのお湯を貰いに行くのである。

 

 叶馬(とうま)が言うに静香(しずか)などは、そうして気を失っている間に叶馬(とうま)の手で体を清められることを「頼むからやめてください」というくらいに恥ずかしがっているらしいが、幸か不幸か、健太(けんた)のパートナーである二年生女子三人からは、恥ずかしがったり恐縮したりはされても「やめてくれ」とは言われていない。

 それ以上に汚している寝具の洗濯の手伝いを申し出た時は、流石に(らん)に笑顔できっぱりと断られたが。

 

 

 

 

 

 今は真夜中と言っても良い時間帯だ。静かに白鶴荘の廊下に出た健太(けんた)は、他の寮生の迷惑にならない様、出来るだけ足音を殺して階段を下りる。

 健太(けんた)が階段を降りると、そこには見覚えのある人物が待っていた。

 

 長く艶やかな黒髪が印象的な女子生徒は、笑顔で健太(けんた)に囁く。

 

「お疲れ様です、健太(けんた)さん。寮長が健太(けんた)さんと話がしたいというのですが、少しお時間を頂けますか? (らん)たちの世話は私がしておきますから」

 

 黒髪の女子生徒――烏琉羽(うるは)はそう言って、食堂の方に視線を向ける。

 白鶴層の寮長が自分に話がある。その言葉に、健太(けんた)は「来るべきものが来たか」と顔を引きつらせる。

 

 この学園では、男子寮に監禁される女子も、女子寮に入り浸る男子も珍しい存在ではない。とはいえ、そこには一定の不文律もあるし、程度問題というのも存在する。

 公式のパートナーの部屋に泊まるくらいは本来お目こぼしを貰える範囲なのだが、この白鶴荘の寮生ではない竹海(たけみ)幸子(さちこ)を引き込んで、毎晩ハーレムプレイを繰り広げているのは、「限度を超えている」と言われれば、「はい、仰る通りでです」としか答えられない健太(けんた)である。

 

「分かりました。後はお願いします」

 

「はい、お任せください。御武運をお祈りいたします」

 

 その悲壮な決意の滲む無表情から、健太(けんた)が勘違いしていることを察した烏琉羽(うるは)だったが、悪戯っぽい笑みを隠したすまし顔で、食堂に向かう健太(けんた)を見送った。

 

 

 

 

 白鶴荘の寮長は三年生で、『盗賊(シーフ)』系の第二段階職とも第三段階職とも言われている。

 ミドルクラスの寮に転寮しようと思えばできるくらいの実績なのだが、こうしてエントリークラスの寮である白鶴層で寮長をやっている。そういう資格はあるがあえてエントリークラスの寮にいる生徒は、そこまで珍しくない。

 住んでいる間に、寮に愛着を持つ者もいるだろうし、そもそも豪華なミドル、ハイランクの寮が「性に合わない」者だっている。

 

「し、失礼します」

 

 小声で学食に入った健太(けんた)を待っていたのは、ショートボブの明るい茶色の髪をした女子だった。よく見ると瞳も同色の茶色なので、髪色も地毛なのかもしれない。身長は女子としても小柄な部類だろう。残念ながら、胸はあまりない。

 夜の寮内ということで、下はハーフパンツ、上は半そでのゆったりとした赤いルームウェア姿なのだが、その服装でもないことが分かるくらいに体の凹凸に乏しい。

 ショートボブに切りそろえられた髪型も相まってなるほど「女盗賊」というイメージを抱かせる。

 彼女が白鶴荘の現寮長、四葉(よつば)だ。

 

「いらっしゃい、健太(けんた)君。ごめんね、こんな夜中に呼びつけて」

 

「あ、いえ。大丈夫です」

 

 覚悟をすかされるくらいに友好的な四葉(よつば)の態度に戸惑いを隠せない健太(けんた)は、そう言って四葉(よつば)の対面の椅子に腰を下ろす。

 

「飲み物はお茶で良いかな?」

 

「え、いえ、お構いなく。はい、頂きます」

 

 慌てて恐縮る健太(けんた)をしり目に、四葉(よつば)は手ずから食堂備え付けの湯飲みにお茶を入れて、自分と健太(けんた)の前に並べる。

 自分のお茶を一口飲んだ後、四葉(よつば)は静かに口を開く。

 

健太(けんた)君は、すっかり白鶴荘に馴染んできたね」

 

「は、はい、すみません」

 

 四葉(よつば)の表情を見れば、それが言葉通りの意味であると分かるのだが、今の健太(けんた)にはただの嫌みにしか聞こえない。

 恐縮してカチコチになっている健太(けんた)なのだが、実は健太(けんた)以上に緊張している寮長の四葉(よつば)健太(けんた)の状態に気づかない。

 四葉(よつば)にとってはこの交渉に、愛着ある白鶴荘の浮沈がかかっていると認識しているのだから、無理もない。

 

(らん)のパートナーになってからはほとんど自分の寮に帰らずに、ここで寝泊まりをしているよね。うちの寮生じゃない竹海(たけみ)幸子(さちこ)も引っ張り込んで」

 

「すみません! ご迷惑をおかけしています。俺は、まだ一年なので自分の寮にパートナーを招くと、守り切るのが大変なんです。白鶴荘にはご迷惑をおかけしない様気を付けますから、今後もこちらに泊まることを許可してください」

 

 そう言って座ったままテーブルに額が付きそうなくらいに頭を下げる健太(けんた)を、四葉(よつば)はその明るい茶色の瞳を何度も瞬かせてしばし見ていた。

 その間に、自分の言動が健太(けんた)にどう取られていたか、理解したのだろう。

 肩の力が抜けた拍子にこみ上げてきた笑いを、四葉(よつば)はこらえきれない。

 

「ク、ク、クフフ……うん、そうか。いや、ゴメン。別段嫌みや非難のつもりはなかったんだ。安心して。私個人はもちろん、白鶴荘の姉妹(ソロリティ)メンバー全員健太(けんた)君には好意的だよ」

 

「そう、なんですか?」

 

 てっきり、女子寮に入り浸って、他寮の女子まで引き込んで肉欲に浸る日々に釘を刺されるのだと思っていた健太(けんた)は、驚きを隠せない。

 

「うん。正式なパートナーである(らん)が喜んで引き込んでいる以上、外野がとやかく言う問題じゃないよ。しいて言えば、どうせなら優梨愛(ゆりあ)も一緒に可愛がってやって欲しいってくらいかな」

 

 寮長はそう言って、笑い返す。優梨愛(ゆりあ)というのが、(らん)のルームメイトであることは健太(けんた)の記憶にもある。しかし、色々とタイミングが悪いのか、今のところ健太(けんた)はまだ彼女とまともに顔を合わせていない。

 

「いや、それは、ご本人の意思が一番大事ですから。それにパートナーとして責任が持てない人に手を出すのはちょっと抵抗があるというか。まあ、烏琉羽(うるは)先輩のお世話になっているのに、こんなことを言っても説得力がないとは思いますけど、努力目標というか、出来るだけそうしたいというか」

 

「…………」

 

 しどろもどろになる健太(けんた)の言い訳に、四葉(よつば)は微笑ましいものを見るように目を細める。

 実際、学園の価値観に染まった女子の目には、健太(けんた)の言動は微笑ましいものに映る。話半分に聞いても学年のトップ層は間違いないと思われる実力を示しながら、まだこれだけ誠実な価値観を残していることに、つい尊いものを見るような目をしてしまう。

 

「まあ、そこは君の自主性に任せるよ。優梨愛(ゆりあ)も今はちょっと微妙な立場だから、触れないというのも間違った判断じゃないしね。

 とにかく、こちらとしては今の君に要望や苦情はないから安心して。

 

 実は、静香(しずか)麻衣(まい)がこの寮を出て別な寮に移る意思があることを聞かされてね。健太(けんた)君もその話は聞いてるかな?」

 

 静香(しずか)麻衣(まい)の転寮。それは倶楽部『匠工房(アデプトオーダーズ)』のメンバーが、エントリークラスの女子寮、麻鷺荘に集結する流れが始まったということなのだろう。

 静香(しずか)たちから直接聞いていたわけではないが、原作知識としてその流れは知っていた健太(けんた)は嘘はつかずに答える。

 

「直接、静香(しずか)さんや麻衣(まい)さんから聞かされたわけではないですけど、そんな話があることは耳にしていました」

 

 健太(けんた)の答えに四葉(よつば)は一つ頷くと、

 

「そうなんだ。うん、姉妹(ソロリティ)は寮の運営組織だけど、出ていこうとする寮生を引き留める権利はないからね。本人たちが退寮したいと言えば、引き留めようがない。そうなると必然的に、叶馬(とうま)君と誠一(せいいち)君もここ白鶴荘には立ち寄らなくなるよね」

 

 白鶴荘は今年度に入ってから、叶馬(とうま)という規格外の化け物にかき回されてきた。

 寮長である四葉(よつば)は、最初に静香(しずか)叶馬(とうま)を白鶴荘に引き入れた時「あ、終わった」と虚無顔になったものである。

 

 ヤバい男子に目を付けられた女子寮は、だいたい悲劇の舞台になる。寮は男子寮も女子寮も原則治外法権、自立自衛がモットーだ。明確な校則違反をやられた時、公式に学園に訴え出れば、学園の治安維持部隊が嬉々として参戦してくれるが、それも正式に訴え出ることが出来た場合に限られる。

 公式パートナーが招けば、男子が女子寮に泊まることも黙認されているように、不文律として成立してしまっている範囲では、学園の治安維持部隊も動いてはくれない。そして、質の悪い男子はその隙間をついて女子寮に上がり込み、隙を見つけては仲間(同類)の男子を呼び込み、一気に全女子を隷属させて訴え出ることも出来なくする。

 そうした遊びが、一部の(学園基準でも)質の悪い男子の間では結構頻繁に行われていた。

 

 三年生である四葉(よつば)から見ても、叶馬(とうま)は一目でわかる『ヤバい存在』だ。並みの男子なら力づくで叩きだせる彼女でも、抵抗の意思を持てないほどに。姉妹(ソロリティ)で叩きだすという意見が全く出てこないくらいに。ただじっと息を殺して見守ることしかできないくらいに。

 

 そうして見守ること一カ月。予想は大きく外れ、白鶴荘で叶馬(とうま)に無体なことをされた寮生はいなかった。正確に言えば静香(しずか)が毎晩叶馬(とうま)と睦あっていたがそれは、正式なパートナーである以上当然のことで、防音性の欠片もない白鶴荘の壁越しに聞こえてくる静香(しずか)の嬌声は、快楽に喘ぎながらもどこまでも幸せそうだった。食堂で一緒に食事取っている時の様も、幸せそのものな様子だ。

 

 そうなると話は変わって来る。

 毎年十人以上獣に村人が食い殺される村にとって、毎年一人生贄を捧げれば獣から村を守ってくれる妖怪はむしろ守り神であるように、叶馬(とうま)の存在が多少寮内に緊張をもたらすのだとしても、他のろくでもない男子をけん制してくれるのならば、むしろいてくれた方が良い。

 と、叶馬(とうま)(と誠一(せいいち))の存在を歓迎する方向に寮内の空気が変わり始めたところの、静香(しずか)麻衣(まい)の転寮の話である。

 四月の初期ならば大歓迎されただろうが、今ではむしろ「当てが外れた」という意見が多数派を占めるだろう。

 

健太(けんた)君は、叶馬(とうま)君達と仲良しでしょ? 彼らが白鶴荘に足を運ばなくなったら君はどうする? あ、もちろんこちらとしては健太(けんた)君が今まで通り白鶴荘にいてくれることを全面的に歓迎するよ」

 

 健太(けんた)の遠慮深さを理解した四葉(よつば)は、はっきりと歓迎の意を示した上でそう問いかける。

 そこまで言ってもらえれば、健太(けんた)も素直に希望を口にすることが出来る。

 

「確かに叶馬(とうま)達とは仲良くやっていますけど、俺が白鶴荘にお邪魔しているのは、(らん)先輩がいるからですから。(らん)先輩がいる以上、変わりません。もちろん、白鶴荘の皆さんが許して下さるのでしたら、ですが」

 

 健太(けんた)の答えに、白鶴荘の寮長はホッと肩の力が抜けるのを実感した。

 

「うん、そうか。それは良かった。もちろん、こちらとしては大歓迎だよ。君のような将来有望で行儀がい良い男子を歓迎しない理由はない。これだけ連日泊まっているのにシャワーだけでは大変でしょ。これからは、大浴場も使ってくれて構わないよ」

 

 ある意味最良の結果が出たことで、四葉(よつば)は饒舌になる。

 予想外に行儀がよかったとはいえ、それでも恐怖の対象であることは間違いない叶馬(とうま)が出ていき、強いのに温厚で誠実な健太(けんた)が残ってくれるのならば、それに越したことはない。

 

「いえ、流石に俺一人の為に、大浴場を貸し切りにするのは他の皆さんにご迷惑ですから」

 

「貸し切り? しないよ? 一緒に入ろう。なんなら私が洗ってあげちゃう」

 

「結構です!」

 

 一年以外の学園女子ならば、今更男子に裸を見られるくらいでガタガタ言う者は少数派だ。四葉(よつば)の答えをある程度予想していた健太(けんた)だが、それでもつい羞恥心から声のトーンが高くなる。

 

「新鮮な反応だね。まあ、無理強いはしないよ。ただ、白鶴(はくつる)姉妹(ソロリティ)は君の大浴場の使用を認めるから、覚えておいてね」

 

「はい。あの、それ、(らん)先輩には言わないで欲しいんですけど」

 

 (らん)が聞けば、そのうち大浴場での混浴を提案されそうだ。(らん)や他のパートナーとの混浴は魅力的だが、そこに他の寮生がいるのは気まずい。向こうは気にしないかもしれないが、健太(けんた)は気にする。

 そんな健太(けんた)の願いは残念ながら叶わなかった。

 

「ごめん。すでに(らん)、というか全寮生に通達してある」

 

 健太(けんた)は思わず顔を引きつらせる。(らん)も問題だが、他の上級生の寮生達がさらに厄介だ。これまでも健太(けんた)がシャワーを使っていたら、嬉々として入ってきたからかう者が多数いたのだ。大浴場の入浴権利などが知られれば、絶対楽し気に引っ張り込もうとする者がいるに違いない。

 

 健太(けんた)の反応に、四葉(よつば)は驚きを通り越して感心する。

 

「君は本当に変わっているね。この学園の男子なら、女子寮の大浴場に入れるとなれば、毎日入り浸るよ。一年でもこの時期ならほぼみんなそっちに染まってると思ったんだけど。まあ、いいや。これがお礼にならないなら、そうだね。

 健太(けんた)君に対する直接的なお礼ではないけど、静香(しずか)麻衣(まい)が寮を出たら二人部屋が一つ空く。そこを私が寮長権限で確保しておくよ。健太(けんた)君には(らん)以外のパートナーがいるでしょ? 良かったら彼女たちをそこに入居させるとよい」

 

 それは、確かに健太(けんた)にとっても魅力的な提案だった。

 現状、健太(けんた)がパートナーとのセックスに使えるのは(らん)の部屋だけ。それもルームメイトの優梨愛(ゆりあ)に多大な迷惑をかけている状態だ。

 この白鶴荘に、健太(けんた)のパートナー同士が同室になっている部屋があれば、色々やりやすくなることは確かだ。

 

「それは、本人たちに確認を取ってからになりますが、そうしていただけるとありがたいです」

 

 そこまで優遇してもらっては、健太(けんた)としては恐縮するばかりだ。

 

「気にしない気にしない。こっちにとっては健太(けんた)君が入り浸ってくれること自体がメリットだからね。まあ、今後とも末永くよろしく頼むよ」

 

「はい」

 

 笑顔の裏で達成感に酔いしれる四葉(よつば)の内心など知る由もない健太(けんた)は、怒られる覚悟の呼び出しで予想外の良い話が聞けて明るい表情を浮かべていた。

 

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