灯りの消えた
最大の死亡フラグである最初のダンジョンダイブを無事クリアしたことで、健太はいくつか気づいたことがある。その情報をもとに一つの仮説も立っている。
健太が立てた仮説。
それは、「この世界がどのような世界で、健太を異世界転生させた上位存在が、健太に何を期待しているか」、という設問に対する仮説だ。
(ファーストダイブで、
健太をこの世界に異世界転生させた上位存在。その能力をもってすれば、ダンジョン内で健太と叶馬を『偶然』遭遇させることも不可能ではないだろう。
動機についても、健太は一つ心当たりがある。それは、叶馬の状態と、ダンジョンショップの位置からの推測だ。
健太の記憶が正しければ、原作では叶馬は辛うじて自我を残した状態でダンジョンショップにたどり着き、そこでダンジョンショップの店主に『
それに対して、この世界の叶馬は、健太と会った時点ですでに自我が失われていたように見えた。さらに、原作で叶馬がたどり着いたダンジョンショップと、この世界で叶馬と健太が訪れたダンジョンショップは位置が違っていたように思える。
この世界のダンジョンショップは、『通路の突き当り』に存在していた。流石にはっきりとは覚えていないが、原作の描写ではあの場所ではなかった気がする。ダンジョンショップはダンジョン内を漂流する存在。世界線ごとにダンジョンショップの位置が微妙にずれていても、不思議はない。
(この世界では、ダンジョンショップの位置がずれていて、叶馬はダンジョンショップにたどり着くことができないはずだった。そこに俺という異分子を投入。逃げる俺を追いかけることで、叶馬がダンジョンショップにたどり着くという正しい流れ、というか望ましい流れに誘導した、と考えると辻褄は合うな)
今頃、叶馬は男子寮の自室に
あっという間に襲われて、静香は輪姦される。「気前の良い」先輩なら、他の一年にも使わせてやるだろう。それが豊葦原学園の当たり前なのだ。
だが、原作ではそうはならなかった。叶馬に『
原作で、「叶馬が『空間収納』スキルを有していない世界線」が少し描かれていたが、さしもの叶馬もダンジョンダイブ一日の状態で、上級生に抗えるはずもなく、全身全霊の抵抗も全く無意味で、叶馬の目の前で静香は寮の上級生たちに良いだけ輪姦され続けていた。原作での描写はそこで終わっていたが、己の無力さに歯を食いしばっていた叶馬が、その後どうなったかを考えれば、ろくな未来になっていないことは確定と言い切っても良い。
(この世界も本来そうなるはずだった。それを俺が、というか俺という異分子を差し込んだ上位存在の介入で正した、のか?)
その仮説は、上位存在の言っていた「世界に生じている問題と、転生者の性質を照らし合わせて、高確率で良い方向に進む人選がされている」という言葉とも符合する。
この推測通りだった場合、未来には楽観的な予想と、悲観的な予想が同時に立つ。
楽観的な予想。それは、「叶馬に無事『
この場合、健太の今後の学園生活はごく普通のものが期待できる。残念ながら、あくまで豊葦原学園基準の普通だが。
素の健太はともかく、三つのチート能力と、一つのアイテムショップ産スキルを有する今の健太ならば、死に戻りを回避して五年間生き抜くことは、そこまでの難事ではないだろう。
だから、こちらの予想が当たっていることを、健太は願わずにはいられない。
対して、悲観的な予想というのは「この世界が原作から悪い方向にずれるのは、これ一回だけではない」という予想だ。こちらの予想が当たっていた場合、「世界に生じている問題と、転生者の性質を照らし合わせて、高確率で良い方向に進む人選がされている」という言葉にも、別の意味が生じる。それは転生者(健太)の性質とは、「高確率で、主人公である叶馬達に巻き込まれる運命の持ち主」という意味になるのではないか、という予想だ。
これは結構な恐怖だ。『
(今後も叶馬の滅茶苦茶に巻き込まれるって冗談じゃない。怖すぎる)
こちらの予想が当たっていた場合、上手く叶馬の起こす事件に巻き込まれなかったとしても、その場合「健太がいなかったせいで詰む」可能性があるのだ。叶馬達主人公パーティーに、積極的に絡んでいく必要まではないにせよ、明らかに巻き込まれた場合には諦めて、協力する方がよいのかもしれない。
(こっちの予想が当たっていて、今度も叶馬達に巻き込まれるのなら……レベル上げも
一般的に豊葦原学園では、一年で第一段階、二年で第二段階、三年以降で第三段階に達していれば「落ちこぼれではない」という評価になっている。第四段階に就けば、普通科のエリートコースだ。
その基準で考えれば、ファーストダイブですでに『
だが、本当に今後も、頻繁に叶馬達主人公パーティーに巻き込まれるのならば、そんな悠長な成長は許されない。
最初から『
学園の平均ペースどころか、トップ層のペースと比べても「あり得ない」としか言いようのハイペースである。
叶馬パーティーのイベントに巻き込まれるのならば、『最低でも』これと同等のペースでのレベルアップが必要だ。
(となると、下手な奴とパーティー組めないな。俺のチート能力全開にする必要があるし)
健太が貰った『三つ目のチート能力』。それを有効活用すれば、主人公パーティーに追いつけ、追い越せの勢いでレベルアップすることは可能、と健太は睨んでいる。ただし、それにはリスクが伴うため、やらなくても良いのならやらないつもりだった。少なくとも、全力全開でレベルアップに勤しむつもりは全くなかった。
だが、叶馬のやることに、今後も巻き込まれる可能性があると考えれば、レベルアップの手を抜くなど論外である。
(やるしかない、か。問題は、レベルアップに伴う精力、性欲の上昇だな。これは、ちょっと想定外だ)
開き直ることで将来への不安を薄れさせると、瞬く間に性欲がこみ上げてくる。
原作でも、
(マジでギンギンだ。ヤバい。これ、いつまでも我慢できるもんじゃないぞ)
原作知識で、「レベルが上がると精力と性欲が増す」という情報は知っていたが、はっきり言えば健太は舐めていた。
三大欲求とは言っても、食欲、睡眠欲と比べれば、性欲は圧倒的に我慢が効く。無論、健太もごく普通に性欲のある人間だ(そうでなければ、そもそも前世でハイスクールハックアンドスラッシュを読んでいない)。だから、性欲というものを理解していたつもりだった。
だが、この高まり、高ぶりは並みの精神力で我慢、自重が出来るものではない。健太は前世でも童貞だったから、まだ我慢できた。経験のある人間なら、我慢できなかっただろう。
(ヤバい。日常的には出来るだけ使わないつもりだったんだけど、今は頼るしかないか)
健太は、そっと『
(一晩たてば、少しは収まるか? 日常生活で『
と、『
通常の健太と、『
かといって怪しまれないために、常時『
(となると、性行為に関してはこの学園の流儀を受け入れるしかないのか。興味はある。嬉しくないと言えば嘘になる。だが、抵抗があるのも確かだ)
そもそも前世の健太は、原作ハイスクールハックアンドスラッシュの愛読者だったのだから、豊葦原学園の乱れた性行為に興奮しないか、と聞かれれば興奮するに決まっている。だが、それは別次元の存在として読むだけの関係だから良いのであって、そのまま我が身で味わいたいか、と聞かれれば、現時点では「断じて否」である。
原作では、男複数、女複数の乱交が頻繁に行われていたが、その際男たちは、すでにほかの男に中出しされた女の
別段健太は処女厨ではないので、他の男を知っている女に忌避感はないが、流石に股座から他の男の臭い(物理)をさせている女を抱くのは抵抗がある。
(理想は、女子の誰かにパートナーになってもらうことだけど、俺に口説けるか? ……無理っぽいな)
『
豊葦原学園でモテる基準は、何はさておいても強いことだ。だから、ファーストダイブを生き残り、すでに第一段階についている自分がモテてもおかしくないことは、健太も理屈としては理解している。
だが、健太には前世、彼女いない歴年齢の人生を貫いた経験がある。とてもではないが、自分から「俺のパートナーになってくれ」と言い出す勇気があるとは思えない。
豊葦原学園の「パートナー」は、一般的な学生の彼氏彼女とはわけが違う。パートナーとなったイコールセックスだし、その制度は男尊女卑も良いところだ。ほとんど、男が女を自由に使える所有物とする契約に近い。
(万が一、提案できるとしても、ものすごく気持ちの悪い言動になるだろうな)
なまじ『
「ね、ねえ。良かったら、俺のパートナーになってくれない? いや、もちろん、嫌だったらいいんだけど。ぐ、グフフ……」
そんな無駄に下手に出ることが優しさだと勘違いしているような、気持ちの悪い口説き文句を言う自分が明確に想像できる。
(…………寝るか)
これ以上考えても妙案は出ないと自分に見切りをつけた健太は、『
「おはよう、健太。先に顔洗いに行ってるよ」
「……ああ、おはよう、
翌朝。目を覚ました健太は、『
「これは、よほどのことがない限り、『
眠気が残る頭を振りながら、健太はそう呟く。
この世界には、睡眠系のバッドステータスも存在するため、ひょっとすると『
ただし、その睡眠は、極めて浅い。何か異変があれば、即座に目が覚める程度の眠りだ。なるほど「戦闘に適した精神状態」の一種だ。もちろん、そんな浅い眠りで、凡人で一般人な健太の睡眠欲求が満足できるはずもなく、現状健太は、普通に一晩寝たはずなのに、寝不足に苛まれている。
不幸中の幸いは、一晩寝たことで、異常に高ぶっていた性欲もかなり落ち着いたことだ。ただし、精力は上がったままだし、性欲も昨日よりはマシ、というだけでレベルアップ前より増加していることに変わりはない。
「まじで、我慢の限界が来る前に、なんとかしないと」
着替えながらそう呟く健太だったが、結局のところ、本人が開き直らない限り解決しない問題である。