ゴールデンウィークが明けて数日たてば日曜日になる。
豊葦原学園でも、日曜は当然のように休日だ。休日でも午前、午後の二回『羅城門』ダンジョンは開閉しているが、健太は特別な用事がない限り、日曜日はパートナーと過ごす日と決めている。
最初は蘭、翌週は竹海。パートナーとなった順番で言えば今日は幸子の番なのだが、女子の間の話し合いで本日は風音、来週日曜日に幸子という運びになった。
一対一のデート。さらに、女子同士の話し合いの結果が反映される関係。世間の常識で言えば、四股男、それもほぼ毎晩四人同時にセックスをしているという、女の敵扱いされる健太だが、ここ豊葦原学園では女子がこれより上の扱いを求めるのは非現実的、と言われるくらいに恵まれた関係である。
とはいえ、これは別段健太がパートナーへのサービスのため行っている行為というわけでもない。四人のパートナーと毎晩のようにセックスをするようになっても、価値観が童貞の頃からあまり変化していない健太にとって、昼間のデートは夜のセックスに勝るとも劣らない憧れのイベントなのである。
豊葦原学園は陸の孤島だ。そのため、たとえ休日でも出歩くことが出来るのが学園内か、学園から『中野駅』までの真っすぐな道の左右に広がる商店街――学生街だけだ。
学園の学食はメニューが豊富だし、購買はちょっとしたデパートの規模があるので生活必需品はすべて揃う。
だが、せっかくのデートなのだから、毛色の違う場所に向かうべきだろう。
そんな思考から、健太のデートは大体学生街がメインとなるのだった。
多少毛色が違うと言っても所詮は、小さな学生街。デートで使える店舗は限られる。とはいえ先々週、蘭と行ったデートコースほぼそのままもう一度なぞろうとしているのは、健太の女性経験とデート適正の貧困さを表している。
半月前、別な彼女と行ったデートコースに別な彼女を連れていく。
そんな普通なら、バレた瞬間引っぱたかれて破談になるのが当たり前な対応でも、全く問題ないどころか「女子の扱いが良い男子」に分類されるのだから、この学園はつくづく、一部の男子にとって(表面上は)都合の良い箱庭であると言えるだろう。
「うわ、これ可愛い! ねえ、健太くんこれ可愛くない? 今の私可愛くない?」
学生街で唯一の女子向け一般衣装を専門に取り扱うブティックで着替えた風音はテンション高めに、くるりと回って見せる。
「え、はい、か、可愛いです、風音先輩」
答える健太はテレを隠せず、視線を微妙に泳がせている。
風音が健太のパートナーとなって数日。毎晩セックスをして、とっくに風音も健太に隷属している。当然、風音の裸体は何度も見ているし、触っている。
だがこうして昼日中、きっちり化粧をしてオシャレをする彼女に「可愛い?」と聞かれて見るのは、また違った恥ずかしさがある。
下はデニム生地のハーフパンツで上はへそ出し肩だしの黒いシャツ。その上から青みを帯びたシースルー素材のシャツを重ね着している。シースルーシャツは前のボタンを一切止めていない。
かなり大胆なファッションだが、学園外でも都心の繁華街ならば普通に街に溶け込める程度の大胆さだ。学園の基準で言えば、特に大胆でもない可愛いファッションでしかない。
「んー……うん! じゃ、これにする! ありがとうね、ご主人様!」
健太の反応がお世辞ではないことを確信した風音は、勢いよく健太に抱き着いた。
「くっふー! あー、久しぶりにちゃんと休日してるわー!」
風音は食べていたアイスクリームクレープの包み紙をゴミ箱に投げ込むと、思い切り伸びをする。
事実、今の風音は学園の門をくぐってから最もストレスの少ない時間を過ごしていた。
学園普通科の女子にとって、主だったストレス原因は日々の男女関係、ダンジョンダイブのノルマ、『銭』の枯渇、そして補習レイドの回避。
天候に恵まれた日曜の午前ということもあり、学生街には多くの男子、女子が歩いている。学生街を歩いている女子達もその大半は、笑顔で休日を楽しんでいる、ように見える。
実際には、彼女たちの大半は本気で楽しんでいるわけではない。極めて近い(場合によっては明日から)の暗い未来から、全力で目を逸らして休日を楽しむふりをすることで、どうにか精神の摩耗を抑えている。そんな女子が多数派だ。
一方、今の風音は差し迫った問題がなにもない。週一のダンジョンダイブには頼もしいご主人様が連れて行ってくれるし、そこで獲得した『銭』はどんな場合でも頭割りなので、懐は温かい。その上で、こうしたデートの費用は丸ごとご主人様が持ってくれる。
もちろん、もっと視点を遠くに向ければ、「今のままで無事卒業できるのか?」とか「卒業したあとの身の振り方はどうするのか?」といくらでも問題はあるのだが、そんな遠い視点を風音は元から持ち合わせていない。
むしろ、学園入学前を含めても今が人生で一番恵まれている状態と言えるくらいだ。
「けーんくん!」
風音は年下のパートナーの頼もしさを確認するように、隣を歩く健太の腕に抱き着き、両足を地面から離す。
女子の中でも小柄な部類に入る風音の全体重など、職を馬鹿みたいに重ねている今の健太にとっては、負担とすら感じられない。
「はい、風音先輩」
「えへへ」
抱き着く自分を自然に受け入れて微動だにしない、健太の優しさと頼もしさを再確認した風音はだらしのない、だが魅力的な笑みを浮かべるのだった。
単純な男女の相性という意味で言えば、実のところ健太の現パートナー四人の中で風音が一番良い。
それは、健太が自分に自信がない(というより前世の経験から「自分は異性に好かれないと結論を出している」)男子のため、女子に対してはいつまでたっても臆病な反応になるからだ。「好かれる」ことより「嫌われない」ことを優先な言動を取る。
そして、好かれるための行動は安直に「相手の望みをかなえる。相手のいうことをきく」という方向ばかりになる。
歯に衣着せぬ言い方をすれば、恋愛市場における最下層の思考と言える。いわゆる「頂き女子にとって格好のカモ」と言えば、分かりやすいかもしれない。
この辺りが、健太に捨てられることを文字通り死ぬほど恐れている蘭や幸子とは、相性が悪い理由だ。男女双方が相手に遠慮するのでは、その関係は色々ともどかしいことが多発してしまう。
対して風音は、ある意味学園普通科女子の典型とも言える、男に依存する――言い換えれば男に寄生することに躊躇いも罪悪感も抱かない質だ。
むしろ健太のようなタイプは適度におねだりをして、くれたモノやったくれたことに対して、ちゃんと喜びを表す方が良いという判断が下せる人間である。
だから、本日午前のデートが大成功に終わったのも、その夜のセックスが非常に盛り上がったのも、意外なことではないのだった。
ベッド上、裸で仰向けに寝る風音の両太腿を割って、同じく裸の健太が上から覆いかぶさっている。当然のように熱く固くなった健太のペニスは、熱く潤う風音の膣に入っており、覆いかぶさる健太が腰を動かすたびに、激しく出入りを繰り返している。
正常位の体勢だ。
「あ、ん、い、いい!」
上から覆いかぶさる健太の背中に、風音は下から両腕を回し、積極的に嬌声を上げる。
「もっと、もっとギュッてして」
うるんだ瞳で見上げる風音の要求にこたえ、健太は覆いかぶさった体勢から両腕をベッドと風音の背中の間に差し込み、風音の華奢な体を強く抱きしめる。
もちろん、十分に加減した上での強く、だ。
日本人男子のほぼ平均な健太が、日本人女子の中でも小柄な部類に入る風音の上から覆いかぶされば、ほとんどすっぽり隠れてしまう。健太にとっては新鮮な感覚だ。
中肉中背の幸子はともかく、蘭でも健太の下に収まるサイズではないし、竹海に至っては「健太が竹海の体にしがみ付いている」ようなビジュアルになってしまう。
蘭や竹海のような豊満な体つきが健太の好みなのは間違いないが、こうして小柄で華奢な女子をすっぽり「自分の手の中に収める」感覚は、それとはまた違った達成感がある。
「んんー、チュッ、ン、ンチュッ」
上から覆いかぶさられて抱きしめられた正常位で突かれながら、風音は積極的にキスを強請り、口内で舌を絡め合う。上と下で粘膜結合し、身体も密着し合う体勢は、隷属状態の女子にとっては至福の快楽だ。
隷属状態のセックスは嫌悪しているチンピラ男子にやられても抵抗できないくらいの快楽なのに、理性的にも感情的にも全面的に健太を受け入れている風音の場合、何の不安も不満もなくただ強い快楽と深い安心感にどっぷりと浸かってしまう。
乳房の大きさは平均以下の風音が仰向けになると、胸はないに等しい。だが、触れあう女子の肌の柔らかさはそれだけで心地よい。
健太は覆いかぶさった体勢で、風音の小柄な体を抱きしめ、口づけを交わしたまま激しく腰を振りまくる。その必死さは、とても四人の上級生女子を隷属させている強者男子には見えない。
ほどなくして健太は限界を迎える。
「っすみません、風音先輩、出ます」
ずっと舌を絡めていた口を離してそういう健太に、
「出して、いっぱい、出して!」
風音は媚と依存で完全に染まった甘い声で中出しを強請る。
「あ……あああ!」
中に健太の熱い体液を感じた瞬間、脳が焼き切れるほどの快楽を覚えた風音は、快楽と幸福に包まれたまま意識を失うのだった。
正常位で一回、後背位で一回、そして途中まで騎乗位(途中から対面座位)で一回。
その度に快楽で意識を飛ばしていた風音は、三度目の目覚めの後「ごめん、今日はもう限界」とギブアップの声を上げた。
「分かりました。じゃあ、これで終わりにしましょう」
ギブアップをした女子をさらに攻める趣味などない健太は、あっさりとそう答える。股間はまだ全く萎えていないのだが、我慢できないほどではない。
そもそも、今夜の相手が風音一人だけなのは、健太から言い出した我が儘だ。
「出来ればデートの日は、夜もデートした相手と一対一でしたい」
複数相手のハーレムセックスはもちろん大興奮ものだが、それはそれとして普通のデートからの普通のセックスにやけに高い価値と幻想を抱いているのは、モテない男ならば珍しくない価値観だろう。
これまでは、白鶴荘でセックスが出来る部屋は蘭(と優梨愛)の部屋だけだったのでそんな我が儘も言い出せなかったが、幸子と風音が白鶴荘に転寮してきて二人部屋に入った今ならば、そんな我が儘もきく。
蘭、竹海、幸子の三人は、今夜は蘭の部屋で就寝しているはずだ。久しぶりにご主人様と別の部屋でちゃんと眠れているかは分からない。
ご主人様を感じられない夜に不満はあるだろうが、裏を返せば四週間に一度は「ご主人様を独占できる夜」があるということだ。
現在、その特権を風音は満喫していた。
「ふふーん、健太くーん。ゴロゴロ」
裸で寝そべる健太の胸に頬を摺り寄せ、風音は裸の華奢な体を目いっぱい健太に押し付ける。
「…………」
健太はされるがままに受け入れて、風音の背中に回した左手で風音の行為を肯定するように、軽く抱き寄せる。
何をしても受け入れられる。好意には絶対に好意が返って来る。そして、自分とご主人様のじゃれ合いの邪魔をする者は誰もいない。隷属した女子にとっては夢のような時間だ。
健太にとっても風音と過ごした今日の時間は、午前のデートも夜の閨も精神をリフレッシュさせてくれる効果を感じていた。
隷属していながら物おじせず、「あれが欲しい、こうして欲しい」と要求を言葉にしてくれる風音の相手は、健太のような男女の機微や駆け引きに疎い男子にとってはありがたい。
蘭は遠慮しがちだし、幸子に至っては「どうして欲しい?」と聞くことすら難しいので、表情や態度から推測し、対応を決めなければならない。竹海はどちらかというと風音よりだが、その口にする要求が少々変則的だ。
風音との関係は分かりやすく、ホッとする。
健太がそんなことを考えていると、ふと何かを思い出した風音はベッドの上に置いてあるデジタル式の置時計を手探りで掴むと、現在時刻を確認する。
「あ? 健太くん、大変大変。もう、0時過ぎてるよ。お風呂行こ」
にんまり笑う風音の言葉に、健太も横から風音が持つ時計を覗き込む。確かに、時計は0時を少し過ぎた時間を示していた。
「あ、いえ。俺はもう少しゆっくりしてから、シャワーでも」
一応抵抗を試みる健太が、それが無駄な抵抗であることはこの数日で明らかだ。
白鶴荘の寮長である四葉から健太が「大浴場の使用許可」が出ていることは、寮生ならば誰もが知るところだ。
それを知った蘭たちは案の定、健太との入浴を希望していた。
すでに蘭たちに押し切られて、大浴場を使用した経験がある健太だが、女子寮の大浴場に男子が一人で混ざる経験というのは、率直に目の保養であるし、ものすごく興奮する。間違っても悪いものではない。
だが、身の置き所がなくて入浴本来の醍醐味である、まったり感やさっぱり感は全く味わえない。
だから、出来れば遠慮したいという健太だったが蘭や幸子ならばともかく、風音が健太の口先だけの拒絶で意思を曲げるはずもない。
「えー、やーだー、お風呂ー。健太君と一緒にお風呂入るのー。シャワーだけじゃヤー、湯船につかりたーいー」
そう言って健太の裸の肩にアムアムと甘噛みを繰り返す。
「わかった、分かりましたから」
結局健太は、簡単に風音のおねだりに押し切られる。
「やった。んじゃ、いこ」
早めにギブアップしていた風音はすでに体力が戻っているらしく、小柄な裸体をベッドの上で弾ませるようにして床に降りる。そして、薄いピンク色のバスタオルを探し出すと、慣れた手つきで体に巻き付けて、洗面道具一式を手に持つ。
「準備オッケー」
「ち、ちょっと待ってください」
どうせ女子寮の中だ、とバスタオル一枚巻いただけで大浴場に向かうつもりの風音に対し、健太は慌ててウェットタオルで股間を吹き、トランクスとズボンをはき、Tシャツを着こむ。
いくら寮長直々の許可が出ているといっても、そこには守るべき分別というものがある。その一線を守っているから、自分は女子寮に寝泊まりすることを許されているのだ、と健太は考えていた。
健太に『白鶴荘の大浴場使用許可』が下りたことが寮生全員に周知されてしまったとき、ある程度観念した健太は一つの声明を出した。
それは「自分は深夜の0時から1時の間しか大浴場を使用しない」というものである。
蘭たちパートナーに押し切られて大浴場を使うことになるのはもはや避けられないにしても、白鶴荘の寮生達に迷惑をかけるのは忍びない。まだすれていない一年女子を中心に、男子と一緒の入浴に拒絶反応を示す女子もいるだろう。
そうでなくとも、この学園では女子が男がらみでひどい目にあうことは日常茶飯事だ。普段ならば気にしない女子でも、昼間に男子に滅茶苦茶に輪姦された日の夜などは、ゆっくり体を綺麗にしたいと考えるのが普通だ。
それなのに、本来男子禁制の女子寮のその中でももっとも男子の立ち入りが制限される大浴場に男子がいつ入って来るか分からないとなれば、彼女たちの穏やかな入浴時間を奪うことになってしまう。
だから、男子と一緒の入浴が嫌な者は避けられるように、時間を区切ったのだ。それも、比較的使用する人間が少ないはずの深夜0時から1時という時間に。
それは、確かに健太との混浴に忌避感を覚える一部の寮生からは歓迎された。健太の意図したとおりである。
問題は、それ以外の大多数の寮生だ。
彼女たちは大歓迎した。0時から1時の間ならば健太と混浴が出来る、と健太自ら白状してくれたのだから。
「あ、来た来た!」
「やったー、今夜も粘った甲斐があった」
「まだ前タオルで隠してる。かわいー」
「健太くーん、こっちこっち。こっち空いてるよ」
「いや、こっちだよ。空いてないから、私の膝の上どうぞ」
脱衣所で服を脱いでいる時からすでに分かっていたことだが、白鶴荘の大浴場は深夜という時間にもかかわらず、二十人近い寮生達がひしめき合っていた。
当たり前だがいずれも全裸で、健太を見ても腕やタオルで体を隠すそぶりも見せず、歓声と嬌声を上げている。
「すみません、通してください」
エントリークラスの女子寮に過ぎない白鶴荘の大浴場はそこまで広く作られていない。これだけの人数が同時に入ると、先客と触れあわずに空いている洗い場までたどり着くのも困難なくらいだ。
「はーい、踊り子さんには手を触れないように」
タオルで前を隠す健太とは裏腹に、堂々と裸体を晒した風音がそう言って道を開けるように指示するが、皆大きく下がってはくれない。通ろうと思えば通れるが、体と体が触れ合ってしまうくらいの距離を維持している。
覚悟を決めた健太がその狭い女体トンネルをくぐると、
「あん!」
「ふふっ、オッパイ触られちゃった」
「私はお尻」
「きゃっ!?」
もう声だけで何が無事ではすまなかったことが分かる声が上がる。ちなみに最後の悲鳴はものすごいわざとらしい。ソープで足を滑らせた、ということらしいのだが、健太の方に倒れこむように転ぶのはどう考えてもわざとだろう。
だからといって健太が避ければ、固い浴室の床に体を打つことも間違いないので、健太としては避けることも出来ない。
「大丈夫ですか、詩織先輩」
ため息をつきながら、裸の女子を裸で受け止めた健太に、その女子はさらにわざとらしく目を潤ませて、
「ありがとうございます、貴方は命の恩人です。お礼は私のこの体で」
と言って、流石に風音にストップをかけられている。
「こーら、それはやりすぎ。ほら、健太君の邪魔しないの」
白鶴荘の大浴場を利用するのはまだ片手で数えられるほどだが、その少ない経験で健太は一つのことを学んだ。
それは、「人間は顔と頭を洗うときは、どうしようもなく無防備になる」という事実である。
特にこだわりがあるわけではないが、健太は習慣で最初に頭、次に顔。それから体という順番で洗う癖がついている。だが、白鶴荘の大浴場では自分で体を洗ったことがない。
目を瞑って頭と顔を洗っている間に、いつの間にか全身が泡だらけになるのだ。主犯は一緒に大浴場に来るパートナー(今夜なら風音)だが、多くの職を重ねて感覚が鋭敏になっている健太には、目を瞑っていてもわかる。
自分の体を泡立てたボディソープで弄る腕は、絶対に二本以下ではなかった、と。
「ふう、ふう、ふう……」
どうにか今夜は射精せずに耐えきった健太は、頭からシャワーを浴びて自分で洗った頭のシャンプーと、いつの間にか全身に塗付されたボディーソープを洗い流す。
「大丈夫、健太君? ほんとにいやだったらこいつら吹っ飛ばしても良いんだよ?」
全く抵抗せずにおもちゃにされている健太に、流石にちょっと心配になった風音が小首を傾げるようにしてそう言う。
「いえ、大丈夫です」
万が一が怖い健太としては、そう答えるしかない。裸の女子など健太が少し力加減を間違えただけで怪我をさせてしまうのだ。とてもではないが、実力行使に出ることなど、出来るはずもない。
それに、学園女子は全員美女、美少女だ。裸の女子に全身を弄られて、羞恥心や困惑はあるが、嬉しさや気持ちよさがないと言えば嘘になる。
「まあ、健太君が良いなら良いけど。でも、今夜は私が優先。でしょ?」
「はい。それはもちろんです。風音先輩」
「なら、よろし」
健太の答えに、風音は日頃はサイドテールに結んでいる赤い長髪から水しぶきが飛ぶほどに、強く頷いた。
どうにか頭、顔、体を洗い終えれば、湯船につかることになる。
大浴場の醍醐味は、やはりこの広い湯船だろう。思い切り足を延ばして湯につかるのは、リラックス効果が非常に高い。
湯船の中では、寮生たちもあまり過激ないたずらはしてこない。初日に(かなり上手に)股間をいじられた健太が、珍しく「ここではやめてください」とかなり強めの声を出したからだ。
流石に、湯船の中で『暴発』しては、羞恥心と申し訳なさで死にたくなる。その結果が、洗い場でのいたずらに全力を向けられる現状になったのだが。
「ふー」
思わず気持ちの良さが声に出てしまった健太に、隣でくっつくようにして湯船を使っていた風音が体を摺り寄せて来る。
「ふふ、健太くーん。チュッ」
最近少しずつ筋肉が発達してきた健太の胸に横から抱き着くようにして、風音は健太の頬に口づけをする。お互い裸なのに、風音のその行為には不思議と性的な接触を目的とした雰囲気がない。ただ、素直に好意を行動で表しているだけ。
そんな風音の気持ちが伝わったのか、健太は半ば無意識のうちに右腕を風音の肩に回す。
「ん、ふふ。ふふふ」
健太の行動に、風音は目を細めてご機嫌な声を上げるのだった。