――穿界迷宮『YGGDRASILL』、接続枝界『黄泉比良坂』――
――第『拾』階層、『既知外』領域――
その竜は大きかった。ただひたすら大きかった。四足歩行で首の長い恐竜タイプの竜だが、全高――地面から頭頂部までの距離――は五十七メートルくらいはありそうだ。全長――鼻先から尾の先端までの距離――ならば余裕で百メートルを超えている。
体重も五百五十トンどころではない。一千トンの大台を超えて居そうな威容である。
その巨竜に両手剣を構えた健太は、単身立ち向かっていた。柄は数十メートルほども伸ばして、刀身にもSPを大量に注いで『鋭刃』を強く発動させている。
健太の大剣の刀身は、普段は灰色の岩のような鈍く大きく分厚い刃だが、SPを注いで『鋭刃』を発動させることで、その刀身は黒く、薄く小さく、それでいてなぜか重くなっていく。
現在、その刀身は僅かに灰色がかった黒、厚さは通常の槍の穂先程度、大きさはギリギリ一尺(約三十センチ)強。健太が獲得している侍系SR職『大身槍士』は装備が「大身槍であること」という制限がある。
大身槍とは、穂先が一尺以上ある槍のことだ。そのため小さくし過ぎると『大身槍士』のスキルが使えなくなるのだ。
「《せい》!」
健太は数十メートルも伸ばした大剣――大身槍を巧みに振るい、巨竜の長い首を切り裂き、突き穿つ。巨竜の外皮は天然の鎧だ。並みの武器ではダメージが通らない。しかし、侍系の攻撃スキルには意図的にクリティカルを起こせるものがある。クリティカルは大半の防御を無視してダメージを通す。事実、健太の攻撃で巨竜の表皮には切り傷が生まれ、そこから鮮血が滲んでいる。
しかし、巨竜はその見た目通り、外皮の防御力以上に巨体ゆえの生命力が尋常ではない。
「グラララ!」
遥か上空で雷鳴にも似た鳴き声を上げる巨竜はおもむろに右前足を持ち上げる。
「ッ! 《はっ》!」
その動きを察知した瞬間、健太は『強盗』のスキル『俊動』を発動させ、一気に距離を取る。
確かに、巨竜の脚は太い。その足の裏だけでちょっとした一軒家がすっぽり踏みつぶせそうなほどだ。だが、健太が回避した距離はそれを考慮してもあまりに大げさだ。
健太の大げさなまでの回避距離の理由は次の瞬間に判明した。
巨竜の右前足が地面に振り下ろされた瞬間、轟音を立てて大地は揺れ、同時にその足の周囲から黄金色の雷撃が周囲に迸ったのである。
「ッ。これだけ離れてもダメージが来る、か。『雷震竜』とはそう言う意味ではないだろう」
理不尽な広域攻撃に『戦士の不動心』がオンになっているのも関わらず、健太の口から愚痴めいた言葉が漏れる。
ブロントサウルスのブロントは古代ギリシャ語の雷(ブロントス)に由来する。だがそれは「足音が雷鳴の如く響きそうな巨体」だからであって、「実際に一歩ごとに周囲に雷撃を迸らせる」というわけではなかったはずだ。
まあ、ここはあくまでダンジョンでこのモンスターもブロントサウルスを連想させる姿かたちというだけで、実際のブロントサウルスではない(そもそも実際のブロントサウルスはここまで大きくない)。
だが、ここまで理不尽な全方位攻撃を連発されると、多少は愚痴も出てしまうのだろう。
『司祭』や『増強術士』の防御スキルを大量に付与している健太だが、『雷震竜』の雷撃は、余波でもその守りを貫き、健太にダメージを与えていた。
とはいえ馬鹿のように職を重ねている分、生命力も上がっている健太にとっては無視できる程度のダメージだし、それらはすぐに『遊び人』のスキル『自慰』をかけているので、あっという間に回復する。
一方『雷震竜』は、外皮の防御力と巨体ゆえの生命力は絶大だが、目に見えるような回復力は有していないようだ。だから、削り合いの持久戦ならば最終的に勝利は転がり込んでくる。
健太としては持久戦上等なのだが、ダンジョン内では同じ場所に一時間以上とどまり続ければ『天敵者』が出没するという問題が付きまとう。
なるほど、学園の戦闘職の大半が攻撃偏重になるわけだ。
そんな納得を今更ながら感じた健太は、すぐに思考を切り替える。
「《はっ》《ふっはっ》」
『盗賊』のスキル『空歩』と『強盗』の『二歩』の連続発動で健太は、六十メートル近い『雷震竜』の頭上より高く、駆け上がる。
「グラ?」
強さのほぼすべてが大きさに由来するのか、あまり頭の良くない『雷震竜』は飛び上がる健太を見上げるように、呑気に上を向く。
その視線の先で健太は両手で持つ大剣の切っ先を向けていた。
「《尖れ》《伸びろ》」
先ほど同様、大剣の二つの能力『鋭刃』と『伸縮自裁』を発動させる。ただし、込めるSPは先ほどの比ではない。穂先は一寸(約三十センチ)未満どころか三センチほどまで圧縮され、厚さはさながら単分子刃の如き。
その十数メートルまで伸ばした槍を健太は空中で構えると、ちょうど再使用制限時間が終わった『空歩』で空を天井裏のように蹴り、こちらを見上げる『雷震竜』の顔めがけて超高速で落下する。
そして、
「《はっ》!」
最善のタイミングで『闘士』のスキル『豪撃』を乗せて、槍と化した大剣で突きを放つ。
「グララ!?」
大剣は健太の思惑通り『雷震竜』の長い鼻面を上あごと下あごを縫い付けるように貫いた。
『雷震竜』の巨体を比べれば、健太の大剣など針どころか髪の毛のような細さだ。ダメージとしては大したものではないだろう。しかし、どれだけ細くとも口を縫い付けるように貫かれれば、不快感は激増する。
「グ、グウ、グラララアア!」
『雷震竜』はイヤイヤをするように長い首をブンブン振りまわし、四本の野太い足で地団太を踏む。その一歩ごとに大地に黄金色の雷撃が放射状に広がるので、地上はさながら輝く黄金の大地だ。
今、地上にいたらさしもの健太でも、結構シャレにならないダメージを負っていただろう。しかし、健太は『雷震竜』がどれほど激しく首を振っても、両手でしっかりと大剣の柄を掴んでいた。
両手がふさがっていても健太には、攻撃手段が残っている。どれだけ激しく振られても、この状態からならばその攻撃を目標に当てるのはたやすい。
「《岩石射出》《岩石射出》《岩石射出》《岩石射出》《岩石射出》」
健太は振り回されてもずっと視界に移っている『雷震竜』の頭部目掛け、連続して『岩投槍』を放つ。『岩投槍』は、『精霊使い』の攻撃スキルだ。その名の通り、岩でできた長い槍のような弾を高速で打ち出す魔法である。『術士』の『石弾』の上位攻撃魔法とも言える。
ただの『精霊使い』でも『岩投槍』は使えるが、健太の場合はそれに重ねて『土精霊使い』でもある。
元々健太は地水火風の四属性では、土が一番相性が良い。そのおかげもあり、竜種は魔法に対する抵抗力も極めて強いのだが、健太の『岩投槍』しっかりと『雷震竜』の頭部に突き刺さっていた。
「グラアア!!」
「《岩石射出》《岩石射出》《岩石射出》《岩石射出》《岩石射出》《岩石射出》《岩石射出》…………」
狂ったように頭を振ります『雷震竜』だが、『戦士の不動心』がオンになっている健太は全く動じず、淡々と『岩投槍』を打ち続ける。
モンスターは瘴気が固まってできた存在だが、形を取っている間はその形の生命に引きずられてしまう。すなわち、動物の形を取るモンスターは動物の急所がそのまま急所として働く。それは、竜種とはいえ恐竜に原型を求めるこの『雷震竜』も同様だ。
連続する岩槍に外皮が抉られ、頭蓋骨が破られ、ついに何十投目かの岩槍が、巨体からは想像もつかないくらいに小さな脳に達した時、『雷震竜』の命脈は尽きたのだった。
ほどなくして、『雷震竜』の巨体が瘴気へと返り、空中に放り出されたけた健太は空中で体勢を立て直して、『魔術士』のスキル『落下制御』で落下速度を緩めて、問題なく着陸に成功する。
健太が下りた大地は、元々豊かな草木が生い茂っていたのだが、『雷震竜』の足踏みでずたずたに耕され、雷撃に焼きはらわれてしまっていた。
「当たり前だが、『界門』は無事か」
健太は『雷震竜』が守っていた第十一階層に続く『界門』が無事存在しているのを見て、そう呟く。
大地は深いところで十メートル以上陥没し、今も雷撃で焼き払われた草木の焦げる臭いが立ち込めている。そんな地獄のような周囲の風景とは裏腹に、『界門』はなんの影響もうけていない。
「第十一階層『砂漠草原』。ジュゲムの騎獣を探すならそこだな」
第十階層は原則竜種しか出没しない階層だ。竜種は強力なモンスターだが、騎獣にするには『竜騎兵』のようなそれ専用の職についている必要がある。ゴブリン『槍獣騎士』であるジュゲムの騎獣となるモノは見つからない。
「しばらくは、第十一階層を広く探索するか」
そんなことを呟きながら、健太は第十一階層に繋がる『界門』の前まで足を運び、ふと手の中にある今回の戦利品に目を落とす。
名称:『雷震竜』
種族:竜
属性:雷
階位:1
能力:『竜因子』 『雷獣』 『無限成長』『物質主義』
存在強度:☆☆☆☆
【齢を重ねる度に肥大化を続ける竜。大きく、どこまでも大きく】
「いや、どうしろと?」
健太は『戦士の不動心』がオンになっているにも関わらず、困惑の声を上げる。
全高五十七メートル、全長百数十メートル、体重千数百トン。背中に余裕で学園の体育館が乗るサイズのモンスターの使い道は、簡単には思いつかなかった。
第十一階層、通称『砂漠草原』。健太が降り立った場所はその中でも砂漠のイメージが強い場所だった。
乾燥してひび割れた大地に、強力に降り注ぐ太陽。これでも自然領域の中では優しい環境だというのだから、なるほど十階層より下はただ戦闘力があるだけではクリアできないというのも納得だ。
「ジュゲム、ボンド。周囲を警戒してくれ《地図帳》」
「ブイ」
「オン!」
重短槍を構えるゴブリン『槍獣騎士』のジュゲムと、韋駄天の短剣を構えるコボルト『無法者』のボンドが守りを固める中、健太は『地図帳』のスキルで周囲の情報を集める。
『地図帳』は『文官』系の上級職『案内人』のスキルだ。効果は「広範囲の詳細な地形情報の把握」だ。『文官』のスキル『位置』の上位互換と言っても良い。
健太は脳裏に映る広大且つ詳細な地図を半ば自動的に『脳外記憶領域』に落しながら、方針を決定する。
「水場があるな。ひとまずはそっちを目指すか。エロール、トレミー、モモノスケ《来い》」
健太は、ジュゲムとボンドだけでなく、『赤梟頭熊』のエロール、『徹甲虫』のトレミー、そして『応龍』のモモノスケを召喚する。
『応龍』のモモノスケは、全長十メートル近い東洋龍だ。細長い胴体は鱗に覆われ、顔には神秘的な長い髭。短い四本の脚にはそれぞれ五本の爪が生えている。
名前に反して鱗の色合いは桃色ではなく、灰色がかった青。強い水の属性を持ちながら空が飛べて、火も吹けるという非常に万能で強力なモンスターだ。
健太が召喚したモンスター五匹の中では一番新参者でレベルもまだ1のままだが、間違いなく一番強力なモンスターだろう。
エロールの巨体と浮遊するモモノスケは非常に目立つが、元からこの『砂漠草原』は、身を隠すところがほとんどない平坦な地形だ。開き直って最大戦力で進むのが正解だと、健太は判断を下す。
「行くぞ。ボンドは先頭で索敵、ジュゲムはボンドの護り。エロールは俺の後ろ。トレミーは俺の右肩の上。モモノスケは俺の頭上を浮遊してついてこい」
健太と五匹のモンスターは、地平線の向こうにある水場目掛け、ゆっくりと歩きだした。
『既知外』領域は、上の階層に繋がる『界門』周辺の安全地帯を抜ければ、モンスターラッシュが待っている。それは、ここ第十一階層『砂漠草原』でも変わらない。
健太が『地図帳』で発見した水場にたどり着くまでのさほど長くない道中、健太一行は何度もモンスターの大群を駆逐していた。
最初は『大牛羚羊』百数十頭の群れ。次に、『蛇尾山羊獅子』数十頭。砂砂漠地帯に入ると、地中から無数の『砂蚯蚓』が大口を開けて、健太たちを飲み込もうとしてきた。
だが、いずれも今の健太たちの敵ではない。『大牛羚羊』の群れはモモノスケの火炎吐息でほとんどが健太たちに到達する前に消し炭になったし、『蛇尾山羊獅子』の群れはエロールのぶちかまし一発で半壊した。
『砂蚯蚓』の地中からの奇襲はどこからやって来るか分からない厄介な代物だが、事前に察知したボンドがそちらに短剣を向けて示してくれるので、楽勝だった。
そうして、水場が見えてきたところで、健太は第十一階層での戦闘を振り返る。
「数は多いが、強さはさほどでもないな。経験値やドロップ品のおいしさでも格段に下がる。単純にレベルアップだけを考えれば、第十階層で竜種相手に連戦する方が良い」
今健太は安全のため五枚のモンスターカードを『具象化』しているため、入って来る経験値は基本的には六分の一になっている。だが、それを加味しても、第十階層ならばこれくらいの時間戦闘を繰り返していれば、とっくに今ついている職もカンスト出来ていたはずだ。
「多様なモンスターが売りな第十一階層だから、騎獣候補には期待してるんだが。『砂着馬』も『粘土馬』も全く見当たらん。『既知外』領域の弊害だな」
『既知』領域では大手を振って歩いているモンスターが『既知外』領域では絶滅しているというのはこれまでの階層でも多々あった。
『砂着馬』と『粘土馬』はどちらも第十一階層の『既知』領域でよく見られるモンスターだ。攻撃力が低いし騎獣としての移動速度もさほどでもないが、タフで扱いやすいので『騎士』系ならばひとまず騎獣候補に数える。
だが、それ以上に人気なのは、馬型モンスターの多分に漏れず、どちらのモンスターもモンスターカードになった場合確定で『馬蹄』のスキルが付いていることである。
『馬蹄』は使い勝手の良い移動系スキルだ。主に靴系の装備に『合成』すれば、鈍足の職の底上げになる。
健太としては、自分の騎獣用としても、来斗の装備の『合成』用としても是非確保したいところだったのだが、本気で狙うならばもっと『既知』領域に近づく必要があるだろう。
そんなことを考えながら歩いていると、先頭を任せていたボンドが警戒の声を上げる。
「オン!」
ボンドの視線の先を追うように視界を動かすと、健太にもすぐそれが見えた。
水場からこちら向って飛来するモンスターの群れ。
「なるほど。あの水場は『蜻蛉河馬』の縄張りだったか」
健太の言葉通り、それは『蜻蛉河馬』の群れだった。『蜻蛉河馬』はその名の通り、トンボのような四枚の羽をはやしたカバである。
大きさは通常のカバを一回り大きくした程度だが、トンボのような薄い四枚の羽で理不尽にもかなり高速で飛ぶことができる。現実のカバがそうであるように、『蜻蛉河馬』も非常に縄張り意識が強く、縄張りに入って来るよそ者には極めて高い攻撃性を示すことで知られている。
瞬く間に、頭上の青空が『蜻蛉河馬』の大群で陰る。並みのパーティーはもちろんのこと、Aランクの下位倶楽部のパーティーでも全滅を覚悟するほど状況だ。だが、『戦士の不動心』がオンになっている健太は冷静に、戦闘を選択する。
「よし、落すか。モモノスケ、乗せてくれ。ジュゲム、ボンド、エロールは落ちて来た敵を叩け。トレミーは指示があるまで肩に止まってろ」
健太は素早く指示を出すと、地面すれすれまで高度を下げた『応龍』のモモノスケの背中に飛び乗る。
『騎士』系だけでも複数の職についている健太の騎乗適性は劇的に上がっている。それは、騎乗難易度が高い飛行系騎獣であっても十分なほどだ。『文官』の『具象化』で召喚しているモンスターは、『騎士』系の職として契約を結んだ騎獣ほどではないが、召喚者の指示通りに動いてくれる。
「《伸びろ》《はあ》《せい》」
密集して飛来する『蜻蛉河馬』の群れに飛び込んだ健太は、モモノスケに跨ったまま右手一本で長大に柄を伸ばした大剣を振りまわし、同時に左手からその大剣に負けないほどに長い火炎を放ち、こちらも無造作に振りまわす。
「ガア!」「ギッ!?」「バッ!」「ヤッベ!」「ゴバッ!?」
『蜻蛉河馬』は、健太が右手の大剣を振るたびに数匹、左手の火炎を振りまわすたびに数匹と、まるで殺虫剤に撒かれた虫のようにバタバタと地上に落ちていく。
『火炎放射』は『魔術士』の攻撃スキルだが、それを騎乗状態で武器攻撃と同時に行使しているのは、『術騎士』のパッシブスキル『騎乗術適性』の効果だ。
『術騎士』は、第一段階職である『術士』と同程度の魔法攻撃を、武器攻撃と並行して操ることができる。他の騎士に比べれば一段落ちるが、それでも騎士である以上防御力も高いし、『挑発』などで味方を守るスキルも使える。
そのため『術騎士』のさらなる上級職になれば、攻撃、防御、魔法を全く同時に繰り出すことが出来るとも言われている。
ひとまず、今の健太にとっては空飛ぶモンスターに乗ったまま、自在に武器と魔法を操ることが出来るだけで、十分に使える職だ。
「よし、次々落すぞ。《はあ》!《召喚・風》」
健太は右手一本で振るう大剣で『豪撃』を放ちながら、飛行能力を有する風の下級精霊も次々と召喚し、『蜻蛉河馬』にけしかけていく。風の下級精霊の操る程度の風では致命傷には程遠いが、上手く羽を傷つけることが出来れば地上に不時着させることができる。
ちらりと見たところ、地上に落してしまえば、ジュゲム、ボンド、エロール達の敵ではないようだ。
ほどなくして、百匹を超える『蜻蛉河馬』の群れは、全て健太たちの成長の糧になったのだった。
無事、『蜻蛉河馬』の群れを撃太はした健太だったが、その後少し予定外の出来事に遭遇していた。
「ジュゲム、本当にそいつで良いのか?」
「グウ」
『蜻蛉河馬』に跨ったジュゲムは、満足そうな顔で頷き返す。地上に落ちた『蜻蛉河馬』を倒して回っていたゴブリン『槍獣騎士』のジュゲムは、『蜻蛉河馬』の一匹を騎獣としていた。
『蜻蛉河馬』の羽は正確にはトンボというよりイトトンボに近い。現在ジュゲムを乗せて地上に降りている『蜻蛉河馬』の羽は、地面に伏せるように下ろされるのではなく、身体の左右に沿うように閉じられている。
現在のジュゲムは百七十センチの七十キロ強はあるのだが、並みのカバより一回り大きな『蜻蛉河馬』は、完全武装のジュゲムを乗せても全く問題ない。恐らくは、走行、飛行の速度もほとんど落ちないだろう。
『蜻蛉河馬』は地上を走るのも苦手としてない。速度も持久力もなかなかのものだ。その上、分厚い皮膚に覆われている体は防御力も高いし、大口による噛みつきの攻撃も脅威。
騎獣としては、バランスの取れた結構なハイスペックと言えるだろう。問題は、見た目がとても悪いことだけなのだが、厳ついゴブリンのジュゲムが騎乗する分には、これくらいの方がつり合いが取れているのかもしれない。
正直、真っ白な天馬や金色の鷲獅子にゴブリンのジュゲムが騎乗するより、似合っていることは間違いない。
「分かった。お前が良いなら問題ない」
幸い、騎獣は後から乗り換えることも可能だ。そうでなければ、強力な騎獣の選択肢が少ない第二段階職の『騎士』は、更なる転職まで騎獣を我慢しなければならなくなる。
ジュゲムの騎獣の話が終わったところで、健太は脳裏に映る文字列に意識を向ける。
『義賊R』
『大剣士R』『槍騎士R』『侍』
『詠唱術士』『方士R』『火精霊使いR』『風精霊使いR』『水精霊使いR』
『神官戦士SR』
『鍛冶士』『金細工士R』『合成士SR』
『書記』『使役者SR』『測量士』『創札士SR』
『独りよがりSR』
『戦闘士』『襲闘士』『剛拳士R』『重装騎士』『堅牢盾士R』『鏡盾騎士R』『魔法騎士SR』『竜騎兵R』『馬上槍武者SR』『浪漫闘士SR』『小妖精騎士SR』
『略奪者』『山賊団長R』
『魔女男』『咒法師』『退神師SR』『精霊契約者』『土精霊契約者R』『拡大術士R』『紋章魔術士SR』
『司教SR』
『牢名主』『一人達者SR』
に転職可能。
※お客様のご契約、ご利用状況では、以下の職クラスは選択できません。
『聖賢見習いGR』『石猿見習いGR』『伝承の英雄GR』『称号獲得者GR』
追加された職には、予想外のものも混ざっている。
「ひとまずは、水場まで行くか。『蜻蛉河馬』は排他的なモンスターだから今の水場はモンスターの空白地帯になっているはずだ」
そこで一休みしながら、可能であれば補習レイド用の装備を整えたい。『文字魔術士』だけでなく、『職人』系の『彫金士』と『素材製造士』をとった今の健太は、出来ることが格段に増えているのだ。
レイドクエストを円滑に進めるためのマジックアイテムを自作する。そのためのアイディアはいくつかある。
「水の確保は文字魔術でどうにかなる目途がついた。食料は流石にレイドのモンスターや植物を狩るしかないとして。問題は住居だな。最初から蜜柑先輩達と合流できればいいが、出来なかったらとしても学園が用意している『ベースポイント』は断固拒否だからな」
そこには他の補習受講者が集まっているのだ。当然、女子だけではなく男子も。当然のように『ベースキャンプ』の中では補習レイドの間中、大乱交が続く。そんなところに泊まるくらいならば、野宿する方がよほどましだ。
「よし、行くぞ」
健太は次の職決めをいったん棚上げにして、水場に向って歩き出すのだった。