「すみませんでした!」
その日の夕方。白鶴荘の
「嘘……ご主人様が補習?」
「…………」
「学生手帳が壊れていたことを忘れていた、か……なるほど?」
「健くんのあほー! ぼけー! なにやってんだー! 三連休が台無しじゃんかー!」
呆然とする
「あ、うん。そうなんだ。うん、わかったわ。そ、それなら準備、準備は出来てるのかしら? 補習レイドは長期間、レイド空間に拘束されるから準備が大事よ」
「お待ちしております、御主人様」
無理に微笑んで理解を示そうとする
「本当にすみませんでした、
「気にしなくていいのよ、
「そうです、御主人様。すべては御主人様のなさりたいように」
頑張って微笑む
「
そう言って
「健くん。今回のこと、悪いと思ってるんだね?」
「はい」
きっちり非難してくれる
「うん、よろしい。それじゃ、今回のお詫びとして三日にもう一日利子を付けて、四日。四日、私達とデートする事。もちろん、いつもの日曜のあれとは別にだよ。平日の午後を私たちに使って」
「
「
学園の男女関係の常識で判断すれば、あまりに図々しい注文を付ける
「はい。分かりました!」
分かりやすい具体的な形で「お詫び」の仕方を提示された
平日の午後は、ダンジョンダイブとトレーニングジムと図書館で大体予定が埋まっている
「決まったね。
「それが分かってるなら、
詫びが終わったことで正座を崩す
「そこまで親切にしてあげる気にはなれなかったね。ご主人様の『うっかり』に、私もそれなりにショックは受けているんだよ」
そう言って笑いながら、圧をかけるように床に座る
「すみません」
再び恐縮する
「うん、ごめんなさいはその辺にしておこう。キリがないから。ご主人様が補習を受けなければならない事実は私達には変えようがないのだから、補習を無事に終えられるように動くべきだ。
ご主人様は、補習の内容は理解してるかな?」
「はい。レイドに突っ込まれるんですよね。それもクリア不能状態の高難易度レイドに」
豊葦原学園のダンジョンダイブでは、『レイド』という言葉に複数の意味があるので少々ややこしいのだが、ここで
『レイド領域』とは簡単に言えば、ダンジョン内で発見されるダンジョンだ。
階層を移動する『
その中は、完全な異世界だ。レイド領域と通常のダンジョンの最大の違いは、「死に戻りで出られない」ことがあげられるだろう。
通常のダンジョン内で死ねば、ダンジョンの外に「死に戻り」するが、レイド領域では「死に戻り」で戻るのはレイド領域内なのだ。
そして、通常通り二、三、四の『常世門』を使ってのダイブの延長でそのまま突っ込んだ場合、死の戻りで記憶を失うのも変わらない。
しかも、通常のダンジョンダイブならば『羅城門』の閉門時に強制的にログアウトさせられるのに、レイド領域に入っているとそのレイドをクリアするまで内部に捕らわれたままになってしまう。
それがどんな結果を招くは言うまでもないだろう。死に戻るたびに死に戻ったことすら忘れて、『レイド領域』のスタート地点からやり直すのだ。やり直している自覚もないのだから、同じように進めて大体の場合はまた同じように死ぬ。戻る。また、死ぬ。
そうして、擦り切れた者は『レイド領域』に捕らわれて、もう戻ってこられない。
死に戻りの際、0.02%の確率で起こると言われている『人間のカード化』と同じくらい発生している『ロスト』の主要原因の一つだ。
その危険を防ぐため、一般的に『レイド領域』へのダイブは、第五門『極界門』を使用することが推奨されている。
『極界門』からのダイブでは、死に戻りによる記憶の喪失が起こらない。そのため、レイド内で死に戻っても自分が死んだことも、どのようにして死んだのか記憶しているため、行動の修正が出来る。
ただし、それはイコール「死ぬときの苦痛もすべて覚えている」ということでもあるのだが。補習レイドを含めたレイドクエストが大多数の女子に死ぬほど恐れられている理由である。
さらに、『極界門』はダイブ前に、内部に滞在する時間を一日単位で設定ことができる。その日数を過ぎれば、強制的にログアウトされるのだ。
それは時には「あとちょっとでクリアできるところだったのに!」という事態を生むことにもなるが、「レイド領域に捕らわれる」という最悪は高確率で防ぐことができる(その規定日数内で死に戻りしまくった場合は間に合わないことがあるので、絶対ではない)。
「まあ、その辺は理解してるか」
それは先ほど
それに、
「見せてもらっても良いかな?」
「もちろんです。というか、先輩たちのアドバイスを頂きたくて持ってきました。皆さんで見て、忌憚ない意見をお願いします」
心構えは一カ月前からしていたし、それとなく情報収集をして必要な物リストは、『
だが、
「うわ、スゴイ。水の『
「
爪の先ほどの大きさで、水十リットルほどを生むという、水を小さく、軽くして持ち込める夢のようなアイテムである。
水と食料。何はなくとも、この二つが無ければどうにもならない。
補習レイドクエストは、現実時間では三日だが、ダンジョン内は時間が歪んでいる。学園では『時空圧差』と名付けている現状だ。
通常の『
レイド領域は、その難易度ごとに『時空圧差』が変わる。下から順に初級で二倍、中級で四倍、上級で六倍、超級で八倍、極級で十倍だ。
補習レイドクエストの目的はクリア不能状態のレイドに人を入れることで一時的に鎮静化させることのため、使われるレイドは超級以上。原作通り、『轟天の石榴山』レイドに入るのならば九倍になる。
九倍。補習期間は現実で三日間。つまり体感的には二十七日、レイド領域に閉じ込められることになる。
補習に使われるレイドは一つではない。直前まで、今回の補習レイドで用意されるのがどのレイドクエストかは分からない。そのため、水と食料の持ち込みは必須と言えた。
ただし、
「
「あ、あの御主人様。トイレットペーパーはいくら持って行っても全然足りません。その……肌触りが良くて、洗って使えるいらない布をある程度の枚数持ち込むしかないかと思います」
原作ではそうした細かな描写はないし、そもそも原作の主人公である
「塩、砂糖、胡椒、カレー粉。調味料も随分たくさん持ってるね。
食事は現地調達可能なレイド領域であるならば、現地調達したほうが良い。その際、塩のあるなしで食事の豊かさがまったく変わる。砂糖は、純粋にカロリー源としても心強い。胡椒、カレー粉はまあ、どちらかというと贅沢品だろう。
食べられるモンスターは意外と食べやすい肉質のものが多く、「カレー粉を使わなければ食べられたものではない肉」というのは、少ないらしい。
「荷物を全部一つにまとめてしまうのもリスクです。つけたままでも戦闘に支障がないくらいの小さなウェストポーチに最低限の食べ物とお水を入れておいたほうが」
ゆったりとしたグレーのスウェットの上下を着た幸子は、そう自分の言葉がご主人様の間違いを指摘しているともとれることに気づいたのか、ビクリと体を震わせる。
だが、幸子の言っている内容は間違いなく、有益なものだ。
数日にわたるレイド領域での生活で、巨大なバックパックをずっと背負いっぱなしにできない。そうである以上、荷物を絶対にロストしないという保証はない。戦闘中に下ろしてそのままどこかに落してしまうこともあるだろうし、キャンプ地を勝ち目のないモンスターに襲われれば、荷物を捨てて逃げなければならない。
さらに、補習レイドの場合、気を付けなければならないのが、自分以外の補習参加者だ。
「なるほど、参考になります。ありがとう、
弱者の視点からアドバイスをくれる
一通りの荷物チェックが終わったところで、これまであまり口を挟まずにいた竹海が不意を突くように、健太に問いかける。
「ところで、ご主人様。食事と睡眠の用意は随分贅沢に
意味深な竹海の言葉は、鈍い部類の健太にも理解できる。
ダンジョン内に満ちる瘴気圧は、人間の生物としての本能を増幅させる、とされている。それは、五感や第六感という戦闘系の能力もそうだが、ここで竹海が指摘しているのはそちらではない。性欲、精力の増強だ。
ただでさえレベルアップで増強されている性欲、精力が超級もしくは極級レイドという極めて瘴気圧の高い空間に長時間閉じ込められることで、さらに増幅される。その性欲は我慢できるものではない。しかし、
「それは、その、あまり考えていませんでした。最悪は、我慢すれば良いだけの話ですから」
学園の常識からは遠く離れている健太の楽観極まる予定だが、健太としてはしっかりと目算があっての言葉だ。
相手をしてくれる女子がいなければ、久しぶりに自分で処理すればよい。レベルアップや瘴気圧で高まる性欲、精力は本来自慰ではほとんど解消されないのだが、そのための『
『
『
『
だが、そんな健太の事情を知らないパートナー一同は揃って健太の楽観を咎める。
「健太君、それは駄目」
「御主人様無理です、それは無理」
「健くん、考え甘すぎ」
その中で、質問を投げかけた竹海だけは、少し健太の答えを予想していたらしく、
「うん、やっぱりその辺は不器用なままか。それなら、ある意味好都合かもね」
とにんまりと人の悪い笑みを浮かべる。
「好都合、ですか?」
と首を傾げる健太に竹海は、
「そう、好都合。ご主人様は、そのいかにもバックパックを背負って白鶴荘の玄関や廊下を通って来たんだよね? その姿を誰にも見られなかった、ということはないね? ところで、ご主人様。白鶴荘はエントリークラスの女子寮の中でも、どちらかというと下に分類される寮なんだ。最下層とまではいかないけどね。
そんな女子寮に、補習受講者が一人もいない、なんてことがあると思うかい?」
「あ……」
竹海の言わんとしていることを理解した健太は、間の抜けた声を発する。
明日からテスト休みの三連休という日に、バックパックの大荷物を背負っていれば、「俺、明日から補習です」と宣言しているようなものだ。
「健太が補習レイドに参加する」。その情報が健太の強さと性格を知る白鶴荘の補習レイド参加組にとって、地獄に垂れて来た蜘蛛の糸に等しいことは、自己評価が低い健太でも想像が付く。
「ええと、蘭先輩」
許可を求めるような健太の揺れる視線を受けて蘭は、にっこり笑うと、
「うん。助けてあげて。そして、助けてもらうと良いよ」
そう、健太にアドバイスを送るのだった。
アドバイスを受けた
もちろんメインは
新しい下着、可愛い柄のタオル、新発売のお菓子、高めのコンビニコスメ等。
そうして思いつく限りの買い物を済ませた後、
明日から三日、離れ離れになることが決まっている男女の夜の過ごし方など、決まり切っていた。
ベッドの上、裸の
「ン、チュ、ジュルッ」
「ジュル、ンン……グッ」
その足元に裸の女子が二人寝そべり、固くソリ立つ
特別息があっているというほどの話ではない。この学園の女子ならば、一人の男子に複数の女子が奉仕するやり方は、大半が身についている。
「ン……アアア!」
愛するご主人様との結合はそれだけで、
「ア、アン……クッ……フウン!」
だが
「御主人様……」
一方、
フェラチオからの騎乗位。毎晩行われている
それは、どちらかというと
現にこの前まで隣のベッドで
その影響で
それなのに
「ア、ンンン……ア。ご、ご主人様……」
補習レイドに
それは、言っては何だが
補習レイドは確かに高難易度だが、ただ時間切れまで生き延びるのはそう難しくない。
誰も逃げられない閉鎖空間で過ごす時間は、弱者女子にとっては地獄そのものだが、強者男子にとっては最高に楽しい空間にもなりうる。
補習レイド領域では、男子が女子を支配するのと同時に、男子同士のいざこざも多い。
だが、
結果、
それは、
その場合、
一つ、救いがあるとすれば、補習レイドに参加する人間は男子同様、女子も学園の下層だということだ。
ある程度男子に気に入られている女子は、多少の庇護欲、独占欲、所有欲を刺激して、補習レイドに参加させるのは「もったいねえ」と思われるくらいにはなっている。
つまり、補習レイドに参加している女子というのは、その大半は女子の魅力という意味でも、下層集団なのである(無論、例外は混ざっている)。
それならば、自分達にも勝ち目はある。と、
そんな思いからの、大ご奉仕の一夜だったのだが、ここまでレベル差があれば、体力的にも隷属の深さ的にも、二人でどうにかなる話ではなく。
「はあ、はあ、はあ……」
「すう…………」
全く無抵抗の
それでも無意識のうちに、二人は左右から
「
裸の
「すみません。お詫びは帰って来てからちゃんとしますから」
聞こえていない二人に、