夢か現か幻か! 美人妻の肉体を弄べる痺悦
①空き家貸します
このような何の変哲もない山里に、短期間だけでも空き家を借りて住みたい人がいるなどとは、思いもよらぬことだった。
つい先日のことだが、村役場の村おこしを担当している課長が訪ねてきて、
「太田さん、あなたの所の離れの件なのですが・・・、現在は空き家になっていますよね。貸してみる気はありませんか? 空き家を借りて10日ほど静かな農村の暮らしがしたいと言う人からの問い合わせがありましてね・・・・・・それならば太田さんの離れが空いていると、村民の人から耳にしたので、お願いに上がったわけです」
こんな相談を受けたとき、あまり気が進まなかったのだ。なぜならば、何かと面倒なことが起きそうな予感がし、何事にも巻き込まれるのは迷惑。
課長の話では、静かで空気のいい田舎に都会の人があこがれて、夏とか冬の休暇を利用して短期間を過ごすのが世間では流行っているという。
民宿とは違って、食事の世話や布団の出し入れなどの必要はなく、ただ寝泊りをする場所の提供だけでよいからだと言う。
村としては、過疎化などで人口の50パーセント以上が65歳以上の高齢者である 限界集落 を脱するために、【故郷はあなたを待っています】などと、都会の人々やこの村から出て行った人たちに呼びかけて、村おこしを始めたのだと課長は説明する。
このほか畑を貸すなどして農業指導を行ったり、廃屋をリフォームして住みたい人には住居として売ったり貸したりもしたいと、考えているのだそうである。
今回の場合は、短期間だけ住みたい人がいて、その要請に村役場でも応えたいとのことなのだ。
「太田さんは独り身だし、失礼なことかもしれませんが、離れを貸せば寂しさも紛れますよ。それに何の世話を焼く必要もないのに、わずかですが収入にもなるし、こんないい条件はないでしょう」
課長は熱心に進めるのだった。
あまり気は進まないものの、わずかでも村の活性化に役立てばと思い渋々承知した。
「家族で来るのかね?」
「いえ、お独りだそうです」
「ほう、画家とか作家などといった芸術家ではないのかね?」
「そんな感じではありませんでした」
「若いのかね?」
「電話でのお申込みでしたから、はっきりした年齢は分かりませんが、声は若い感じの女性でしたね。
父親がこの太田村の出身だとかで、早くお亡くなり、子供のころは何度か墓参りでこの村へは来たことがあるそうです」
「父親の名は?」
「ご本人は中川とか言ってましたが・・・・・・」
「中川はその女性が嫁いだ先の名だろう。この村には無い苗字だ」
この村から出て行ったものは少なくなかった。
遠い昔は村の住人は皆一族で、なんらかの関係があり、戦後間もないころまでは冠婚葬祭などのときは、村中が一緒になって祝ったり喪に服すなどしたものだった。
「ところで、借りたい人は何日くらい滞在するつもりなのかね?」
「旧盆に入る前の8月12日から10日間ほどの滞在だそうで、ご先祖さまの墓参りをしたいとも言っておられましたよ」
「墓参りがしたいとは、今どき感心な娘だね。そんなことなら、その話はお引き受けすることにしよう」
「宜しくお願いします」
課長は安堵したような様子で帰った。
空き家になっている離れは、都会に住んでいる息子夫婦が夏休みなどに孫を連れてやって来たが、最近は贅沢にも海外旅行へ行くことが多くなり、近年は住むことがない離れは埃だらけになっている。
―掃除をしておかねばなるまい。こんな時にあいつが居てくれたなら・・・・・・―
4年前に亡くなった妻はきれい好きな女で、普段は使っていない離れでも毎日掃除を欠かさなかった。
私一人になってからは、自分が住んでいる母屋すらめったに掃除をすることは無い。
60代の終わりころまでは、田んぼや畑でもせっせと農作業に精を出していたものだが、73歳となった今では、体を動かすのが億劫になり、休み休みしながら離れの掃除を始めた。
課長の話では、ここへやってくる女性は若い声だったという。
どんな女だろうかと、いい年こいて興味がわいてきた。
この村は高齢者が人口の大半を占め、若い女性なんて居なくなってしまい、みんな婆さんばかりである。
若い女性であれば、特に美人でなくてもよいから目の保養をしたかった。
そんなわけで、いつもより元気に体が動いて、思ったより早く掃除を終えることができた。
男というものは、年齢に関係なくいくつになっても若い女性への興味が失せないものらしい。
課長の手前もあって、うれしそうな素振りすら見せなかったが、本当のところは大喜びしていた。
②来客は衝撃の美女
8月12日。課長の案内で、離れを借りたいという女性が自家用車でやってきた。
麦わら帽子を手に持ち、夏らしく白をベースとしたワンピース姿で、素足のままサンダルを履いていた。
「こちらが暫く太田さんの離れの方をご利用いただく中川様です」
まるでホテルのフロントマンのように、課長が丁重な口調でこう紹介した。
私は百合の花のように立つ彼女を見て、暫く言葉をなくした。
それは、想像していたよりもはるかに彼女が美しかったからである。
絶世の美女とは、彼女みたいな美女を形容するのだろう。
美貌に瞬きもせずに見とれていたので、課長が、
「元村長で大家の太田さんです」
と、私に代わって彼女へ紹介した。
10年くらい前まで、私はこの村の村長を勤めていた。
「中川由美子です。このたびはお世話になります。実は私も結婚する前の娘時代は、太田姓を名乗っていたのですよ。父がこの村の出身でしたから・・・・・・」
女性は丁寧にこのように自己紹介しながら深々と頭を下げた。
容貌が綺麗なだけでなく、育ちも良さそうだし教養もありそうだった。
「そうでしたか。お父上がこの村のご出身でしたら、昔をたどれば私どもとは親戚なのでしょうね。太田一族は関ヶ原の合戦で西軍に加わっていたのですが、戦に敗れた後にこの山間地に身を隠したと伝えられていますから・・・・・・」
郷土史の研究に熱心な私は、こんなことを語っていた。
「私の父も生前、そのようなことを話していたそうです。多分に昔は村長さんとも親戚だったのでしょうね。課長さんから聞いたところによれば、村長さんの太田家がこの村のご本家だそうで、いつの時代かに私のご先祖が分家したのでしょう」
「そうでしょう。貴女も歴史がお好きみたいですね」
「はい。大学で史学科でした」
「なるほど。私も歴史が好きでこの村の郷土史の研究をしていますよ。なんだか話が合いそうですね」
それまで緊張していた私だが、彼女が分家の一員であることや歴史が好きとあって他人とは思えなくなってくるのだった。
年のころなら30代の前半だろうか、スラリと背が高く、小顔で肌が卵の白みのように白く、髪も染めずに黒髪で、まるで日本人形のような美しさなのである。
ゆったりとしたワンピースの胸元からは豊かなバストを想像することができた。
「宜しくお願いします」
「こちらこそ・・・・・・。私にできることなら何でも、遠慮なく申し出てくださいよ」
お互いに挨拶を交わすと、いつもの私とはまるで違い、あたかも20代の青年に戻ったように、元気な足取りで先に立って離れへと案内した。
車のトランクから、荷物を運ぶのを手伝おうとしたが、まるで彼女は日帰りの旅行者のように身軽で、旅行カバンが一つだけでしかなかった。
観光地などのホテルでは、独りだけの旅行者を受けつけない場合も珍しくないという。自殺者を警戒するからだ。
だが、彼女に限ってそのような心配はなさそうに思えた。
これだけの美人であれば、きっと世の中はハッピーなことばかりで、悩みやストレスなどはないだろうと思えた。
「なにか御用でもありましたら、いつでも遠慮なくお申し付けください」
ペコリと宿屋の番頭のように頭を下げていた。
いくつになっても美人には弱い男である。
まだ妻が元気だったころ、離れの庭先に植えた夏の薔薇が小ぶりながら、真っ赤な花弁をつけ今年も咲いていた。
つづく