そろそろコタツ出すか。でも机の上が超散らかってるから面倒だなぁ…。
凶星月
証の儀に合格したので、他のモノノフに面通しする事になった。と言っても、一人一人紹介される訳じゃないけど。鬼内の訓練所とサムライの拠点に顔を出し、新しくモノノフとして認められた、と言われたくらいだ。
ただ、お頭である西歌本人が俺達を案内しているので、それなり以上に目立ちはしたと思う。「新入りが、何をお頭の手を煩わせとるんじゃゴルァ」的な視線もあった。
本人としては、あっちから頼んで証の儀を受けてもらったんで、その筋を通した…つもりなのかもしれんが。
ただ、鬼内でも外様でもない、文字通りの余所者と知っても、排他的な視線はあまり無かったな。西歌が一緒に居たからかもしれないが、鬼内と外様の溝は、まだそこまで深い訳ではないのかもしれない。
…或いは、お互いの嫌悪感は互いにだけ向いていて、余所者なんぞどうでもよかったのか。
ま、新しくモノノフになったと言っても、どこの者とも知れない馬の骨。どれだけ使えるのかも分からないから、気にするだけ無駄だと思われたかね。
今日、顔出しして印象に残った相手は……なんか複雑な髪型をしている、鬼内の八雲。…他の鬼内は普通の髪型だったんで、個人の拘りだと思う。昔の公家みたいなやっちゃな。
鬼気迫る勢いで、延々と剣術修行をしていた神無。手合わせを所望されたが、また今度。おねーさんが居るらしい。手合わせはいいけど、勝ったら紹介してね。…と言ったら、物凄い目で睨みつけられた。…シスコンか? それにしちゃ度が過ぎてるような…いや度が過ぎてるからシスコンって言うんだけど。
それから、サムライの頭である刀也。話には聞いてたが、実際に会うのは初めてだな。…結構、人を斬ってるっぽい。相手が外道だったモノノフなのか、それとも他の何かなのかは分からんけど、太刀筋が他の連中とは明らかに違う。モノノフ連中は鬼を相手にする事を前提にした剣術だが、刀也のは人を相手にした剣術だ。
これくらいかな。この他にも、特に紹介しておきたい人が居るそうな。曰く、西歌さんと同じ三羽烏の、時継、雷蔵。それから西歌さんの弟子とも言える紅月。
紅月は何やら、修行だか任務だかで里を離れており、その帰還時に他の二人と合流してくる事になっているとか。
まぁ、別に紹介されるのも、よろしくするのも構わんのだが…会わせてどうするかとか、あんまり考えてなさそーだな。
さて、それはそれとして、博士から調べろと言われていた壁画床画の事だ。何とか日記からその記述を見つけ出し、ホロウと絵にしてたんだが…うーん、こんなんだったっけ? 大体あってるけど、どっか違うよーな。
チマチマと修正点を指摘して、絵を記憶にある物に近づけようとしてるんだが…その記憶自体が非常に曖昧だからな。
暫く続けた後、ホロウは沈黙して、今まで書いていた絵を一度消した。
「やり方を変えましょう。貴方が覚えている絵は、詳細はともかくこの構図ですか?」
…ああ、思い出せる限りでは。
「では、ここ…これが建物だと考えた理由は?」
理由って…四角い物が沢山並んでいて、その下部分に人らしい記号があったから?
「成程。先ほどの話と組み合わせると…このような具合でしょうか」
そうそう、そんな感じだった!
「では、その次の部分。建物が小さくなっていたと読み取った理由は?」
人の大きさはそのまま…だけど、同じような感じで書かれていた四角が小さくなってた。
「同時に衰退したと思ったと言う事は……書かれていた人の数が減っていたのですか?」
いや、それは同じくらいだったと思う。そうだ、確か……いや、衰退したんじゃなくて、同時に書かれていたモノが大きかったのかもしれない、と考えた!
「ほほう、と言う事は近くに何かが書かれていたのですね。それはどのような物ですか?」
待て、それは確か日記に書いてあったような…目、角、触手がある何か。これがイヅチカナタかもしれない、と考えたんだが。
「確かに、奴の特徴を端的に捉えています。では次へ。三つの棒が描かれていたと言う事ですが、塔と考えたのですね。と言う事は、これは長方形でしたか?」
いや、もう真っすぐの、一本の傍線。塔だと思ったのは…確か地面が書かれてて、その下に……。
…こんな感じで、ホロウが俺の記憶を引き出すようにして絵を描いていく。なんか誘導尋問受けてる気分だが、実際それで段々形になっていく。
意外とコミュニケーション力が高い。
そんなこんなで、出来上がった絵を博士に届けたんだが…眉を顰め、黙り込んでしまった。
僅かに聞こえた呟きは、「アレじゃないのか…?」だ。…アレって何だ?
問い詰めようとしたのだが、完全にスルー。意図的に無視しているのか、沈思黙考しているのか、何を言っても反応なしと来た。流石に家主に物理力を行使すると後が面倒だし、この場は諦めるしかないか。超力技で問答を断ち切られた気分だ。
仕方ないので、ホロウと二人で軽く酒盛りした後、夜の散歩。ホロウは残りのツマミを全部食うと言っていた。…食欲旺盛と言う程ではないが、まー使命使命じゃストレスも溜まるわ。飯でも何でも食って発散すればいい。
流石に真夜中ともなれば静かなもので、見張り以外に起きている気配はない。物騒な空気も感じなかった。
近くの崖に意味もなく腰を下ろして、もう一杯飲もうかなぁ…と考えていたら。
おい、博士の家の目の前に何で隠し通路があるんだよ。
普通の岸壁に見せかけられているが、奥の一際大きな岩が動かせる。そんで奥が続いている。タカの目にかかれば一発だ。
…少なくともここ十年以上、使われた形跡は無いな。恐らく、どっかの屋敷からの脱出用…なんだと思うが、既に存在を忘れ去られて久しいだろう。つまり…中に入ってみても、家の人に見つからなければまずバレない。バレたとしても、酔った時に偶然見つけた通路を進んでみたらそこに出た、という理由で誤魔化せる。
と、酔っぱらってた俺は思った訳だ。冷静に考えれば、そもそもからして秘密の通路やら脱出路があるのは、お偉いさんの屋敷だとすぐ分かるだろう。この里でそういう屋敷に住んでるのなんて、それこそお頭か、里に一人は居る神垣の巫女か。
そんなトコに、モノノフになったばかり・外来人・信用度ゼロの俺が入っていけば、万一見つかった日にゃ即お縄である。
見つからなければいい? 上記のようなマトモな判断が出来る頭なら、まだそれも通じたかもしれないな。
そーだよ、見つかったんだよ。進んだ突き当りに扉…多分隠し扉があってね、そこをそーっと開けて、中を覗き見たら……布団に横になって、今から寝ようとしていたらしきょぅι゛ょと、ばっちり目が合いました。
騒がれなかったのは本当に幸運だった…。去り際に告げた、「夢ですから~」の一言が良かったのかもしれない。
…どうすっかな…シラを斬り通すか? 一瞬だったし、隠し扉をほんのちょっとだけ開けて、その隙間から目が合っただけだし、顔とか分からないと思う。
隠し通路は念の為に、開かないよう固定してきたし。調べられても大丈夫だとは思うが………どうしよう。
久々に酒で失敗したよ…。
凶星月
この里の次代神垣の巫女は将来有望だなオイ…。
どうやら昨晩忍び込んだ先に居たよぅι゛ょだが、橘花と同じ神垣の巫女だったらしい。ただし、まだまだ修行中のようだが。
昨晩の後始末は起きて酒が抜けてから考えよう、なんて思ってたら……先を越された。俺の機先を制するとは、末恐ろしいお子様よのー。
目を覚まし、博士の家から出て狩りにでも行こうかと思ったら…昨晩俺が見つけた通路を、どうにかしてこじ開けようとするお子様が居た。
ちなみに俺を見つけた時の第一声は、「あっ、昨晩の!」だ。即座に隠し通路の先に連れ込んだ。ょぅι゛ょ誘拐犯になる日がくるとは。
真っ暗な通路の中、適当に明かりを点けて何とか言いくるめようとしたんだが…いやもうそういう次元の問題じゃないわこのガキ。
次の神垣の巫女、かぐや…と名乗った時も驚いたが、俺がどうこう言う前に、「この通路を私にも使わせてくれ!」だ。警戒心ってものが無いのかこいつ。
まぁ、こっちは弱みを握られているようなものだから、話を聞くしかなかったけどさ。
何でも、昨晩一目会った後、騒ぐような事もせずに、俺が顔を出した壁近辺を調べ周ったんだそうな。しかし、そこに通路があるっぽいと言うのは分かっても、開ける事は出来ず(まぁ細工しといたし)、会ったのが誰なのかもわからない。
そこで、かぐやは目下修行中の、千里眼の術を使ったそうな。そういやあったね、そんな能力。橘花が使ったのも見た事あるわ。
で、見事成功させ、俺の痕跡を辿って博士の家の前に隠し通路があるのを発見。俺に害意が無さそうだった事もあり、騒ぎ立ててこの通路を塞がれるより、自分も活用した方がいいと判断したそうだ。そして文字通りの朝一、飯も食わずに起床と同時にダッシュでここまで来て、通路を開こうと踏ん張っていたとかなんとか。
……スゲェ、楽観論で行動しているとはいえ、この年でここまで冷静に損得勘定できるのか。
しかし、何だってこんな通路を使いたがる? 秘密の通路という響きが非常に魅力的なのはよく分かるが。
…ほほう、とにかく日常が退屈と。しかももうすぐ神垣の巫女としての修行が一層厳しくなる時期であり、迂闊に外出もできなくなる。
そういや、神垣の巫女って普通はそういう扱いらしいね。ウタカタだと、護衛付とはいえ普通に出歩いてたから忘れてたわ。
…ん? ああ、俺? 一か月くらいマホロバに滞在する事になった余所者だよ。他の里にも何度か訪れた事はある。
他の里の神垣の巫女? …俺が知ってるのは一人だけだが、見た目と違って活動的な奴だぞ。色々教えたらあっという間に馴染んだし、中でも気に入っている遊びは木登りだった。一番気に入ってる遊びは別にあったけど、それは人に言うような事じゃないから秘密な。
はいはい、木登りでも駆けっこでも教えてやるし、この通路も使っていい…かぐやでも開けられるようにしておくから、今日はもう帰りな。そろそろ朝飯の時間だぞ。通路の事がバレたら、使うどころか一層修行やら何やらが厳しくなっちまうからな。
…やれやれ、行ったか。全く、末恐ろしい神垣の巫女だこと。まぁ見ていて面白そうな子ではあるが。
朝飯が食えなくなるとばかりに、再度ダッシュしていったかぐやを見送った俺。それを、博士の工房から顔を出したホロウが首を傾げて見ていた。
さて、それはそれとして、散歩ついでの狩りから戻ってきた訳だが、途中でカラクリ石を拾った。あんまり大きくない奴なんで、博士にも要らないと言われてしまった。むう、どう見ても単なる石だしなぁ。売っても買ってくれそうにない。
コレが人のイメージを具現化する、ねぇ…。
確かに、霊力を流し込むと妙な反応がある。それなりの力を注ぎ込んでも、手の中で虫がジタバタ暴れている程度の感触しかないが。この石がもっと大きくなれば、もっとちゃんとした形でイメージが具現化できるんだろうか。
その辺、ちょっと博士に聞いてみた。んだが、妙な目で見られた。何ぞ?
「…いや、今言って自覚させても面倒だ。ホロウもこれに関しては何も言うな。それより、その霊力を流し込んだ実験と言うのを直に見せてみろ」
別にいいけど…。どうせなら、もっと大きな石でやらないか? この前取ってきた奴で。
「あれはもう別の実験に使っている最中だ。大きなカラクリ石があるならそれで構わんが、あちこち探し回ってようやく見つけたのがあの一つだ。どうやら、大きな物は基本的に遺跡にしかないようでな」
「妙な話です。遺跡の動力源となっている為、遺跡の中にあるのは分かりますが…何故、この近辺に散らばっているのでしょうか。遺跡が壊れて転げ出た訳でもないようです」
「ひょっとしたら、カラクリ石自体はただの石で、何らかの経緯でそれらに力が伝わった…のかもしれん。ふむ、もしそうだとするなら…小さな石から力を集め、大きな石を作る事もできるか? 明らかに人為的に作られた石だし、そういう製造法があってもおかしくないか」
…もし、大きな石を見つけたら、一つもらっていいか? 勿論、実験に必要な数と大きさのものは優先的に渡すが。
「物によるが、構わん。何だ、心当たりでもあるのか」
まーね。森を散歩している途中、地脈の力が沸いてるところを見つけたんだ。普通、あんな風に目に見えるような形で力が沸く事はない。あそこにカラクリ石があって、それが地脈の力を具現化してんじゃないかと思ってな。
「それは私も調査した事があるが、残念ながら外れだ。仮にあるとしても、相当な地下深くか…地脈の流れの何処かだろうな」
ダウジングでもしてみますかね。とりあえず、依頼をこなしがてら、グレートピッケル持って行ってくるわ。
「ぐれーと…?」
「ぐれいと?」
…高級鶴橋持って行ってくる。
「朝ご飯は用意してありますね? ならば結構。お昼には戻ってきてください。新しいモノノフとして、神垣の巫女に面通しがあるそうです。言うまでもなく博士は不参加なので、貴方は遅れないようにしてください」
あいよー。
と言う訳で、地脈の場所にやってきたのだ。MH世界にあったようなバカデカい地脈ならともかく、これくらいの流れを読み取るのは苦労するなぁ。しかも、石があるとすればこの流れのどこかの、更に地下。博士が非効率的と考えるのも無理はない。
だが俺の場合は、鬼の目と鷹の目の合わせ技がある。これによって追いかけていくと……。ああ、やっぱり遺跡の方から流れてきてるな。安の領域か……この領域の分け方はモノノフ共通なんだろうか?
流れを追いかけていって……ミフチ邪魔。む、瘴気が濃くなってきた。これは…耐性がある俺は平気だけど、普通のモノノフじゃ耐えられんな。多分、博士もここに潜った事はないだろう。念のため、毒耐性のピアスをつけておくか。
場所は…地図によると、根の国。……根の国って死者の世界の事じゃねーか。何、この辺にヨモツシコメが出てくる穴でもあんの? この瘴気なら、そう言いたくなるのも分からなくはないが。
ともあれ、この先にカラクリ石があると言うなら是非も無し。
瘴気がエライ濃いので用心しながら進む。鬼の気配が紛れて分かりづらい。
…これ程の瘴気の吹き溜まりが、自然に出来るものだろうか? 霧状の毒と言うだけあって、風に乗って流され、空気の吹き溜まりに入り込んでしまう事は結構あるらしい。だが、それだけでこれ程…。
自然というのは妙な所で凝り性になるから、天然のトラップみたいな場所が出来てもおかしくはないが。
気配を殺し、久しぶりに徹底したガチ隠密スタイルで進む事暫し。
…やっぱり居るな、結構な大物が。空気の流れで瘴気溜まりが出来上がって、更にその後こいつが瘴気を上乗せし続けたんだろうか?
戦って勝てないとは…思いたくないが、正直ここでは不利だ。何せ、洞窟という密閉空間。そこを住処としている以上、地の利は鬼にあるだろう。
相手がどれくらいの大きさか分からないから、小道に逃げ込めば追いかけてこないかもしれないが…あまり無謀な賭けはするものではない。…説得力無いけど。
加えて、多分侵入者の存在に気付いてるな。…隠密してたんだけど、どうやら瘴気の乱れとかで察知されてしまったらしい。事実上、この洞窟は奥に居る奴の結界みたいなものだな。
最近、迂闊な言動で色々やらかしてるから…今回はちょっと慎重になりますか。
最後にちょっとだけ欲張って、近場にあった岩…と言うか、MH的に言えば採掘ポイント…でトンテンカンテンやって退散。
お昼には間に合いました。博士への報告は…長くなりそうだから後回しだな。
さて、ホロウと俺で(博士はお察し)神垣の巫女に面通しなんだが…あれ、かぐやじゃないな。
…ああ、そういやまだ訓練中なんだっけ。かぐやは次代で、今はこの人…か。うーむ………うん、よく分からん。
俺が知ってる神垣の巫女って、かぐやの他には橘花だけだもんなぁ…。しかも清楚だったのは最初の頃だけで、俺が色々教え込んでいくうちにまぁハッチャけるハッチャける…。あれが何処まで本人の素質で、どこまで抑圧された結果…ああ、そうか。
この神垣の巫女、抑圧されたままなんだ。しかもそれを自覚していない。神垣の巫女ってそういう扱いだったよな、そう言えば。
思春期とかの色恋やらは、特に精神的な安定を掻き乱し、里の結界の強度の直結するからって、その手の知識を徹底的に遠ざけ、触れ合う者は全て事務的に。
…こうしてみると、ウタカタの里が神垣の巫女をあんな風に扱ってるのって、正気の沙汰には見えないんだろうな。里を巻き込んだ自殺と言われても仕方ないくらいに。
とは言え、今のマホロバの里の巫女に関しては、出来る事はなさそうだ。色事を抜きにしても、色々遊びを教えてやる…のもいいんだが、それ以前にもうすぐ『足抜け』なんだそうだ。
要するに、年齢的か体力(霊力?)的に限界が近づいている為、次代の神垣の巫女…かぐやが仕上がり次第、彼女は神垣の巫女ではなくなる。幼い子供に神垣の巫女なんぞという重責を強いるのは断腸の思いだが、代案も出せず、無理して続けようにも結界も殆ど張れなくなりつつある。
…それが彼女にとってどういう事になるかは、俺には分からない。何年間その生き方を強制されてきたのか、それがなくなったら本当に自由になれるのか、或いは生きる指標が無くなって、無気力になってしまうのか…。
…この辺は、里の制度や本人の考えがどうなってるか次第かな。
そんな事を考えていると、どういう流れなのか、「ついでだから」なんて理由で次代神垣の巫女の紹介をされた。
ぶっちゃけ知ってますが。でも「おお、今朝ぶりじゃの」なんて言わんでいい。
…鬼内の、そんないきなり殺気立つなよ。朝の散歩に出ていたこの子にバッタリ会って、少し話し込んだだけだ。何もおかしな事はしてねーって。
「八雲、やめろ」
「お頭……クッ…」
八雲と呼ばれた……なんかこう、髪型がややこしい公家みたいな青年は、渋々引き下がった。本当に何もしてねぇんだけどなぁ……いや、話の内容が内容だから、知られたら面倒くさい事になるから、おくびにも出さんけど。かぐやも見事なポーカーフェイス。…本当に末恐ろしいな。
かぐやは修行の途中だったらしく、現在の巫女さんと一緒に出て行った。これにて会見は終了って事ね。ま、長々と話すような事もないしな。
帰って博士に土産でも渡すか…と思っていたところ、西歌さんからの依頼が来た。
マホロバの里のモノノフになったんだから、依頼をこなすのは義務でもある。…依頼っつーか狩りのノルマっつーか。まぁ、報酬が出るならいいけどさ。
それはいいんだが、何をさせるのん?
「八雲、お前も一緒に行ってこい。…意味は分かるな? 先程の無礼の詫びも兼ねろよ」
「はっ、承りました」
…なんでそのにーちゃんと一緒なん?
「道案内だ。やってもらう事は、至極単純。もうすぐ紅月と時継と雷蔵が里に戻ってくるのでな。その出迎えに行ってくれ。時継も雷蔵も、この辺りの地形はまだ慣れてないからな」
「迎えに行くのは構いませんが、その紅月と言う方が居るのでは?」
「何、君達が出迎えに行く事に意味があるのさ」
…にーちゃん、八雲って言ったっけ? 意味分かるかね?
「……ああ」
あっそ。やれやれ、面倒臭い話だこと。ま、要件は承った。落ち合う場所と時間はもう決まってるのか?
「到着は明日の未の刻。南にある『雅』の領域の出口だ。領域から里まで、直通の道がある。…あの辺りも、最近急速に異界化が進んでいてな…。もうすぐ道も閉ざされてしまいそうだ」
「博士が言っていた事が実現されていますね。こうしている間にも、異界は徐々に進行し、人が住める地が無くなっていく。異界を浄化する方法を見つけないと、どんなに鬼を倒してもいずれ人は滅ぶ…と」
「…もうそこまで考えているのか。やはり、里に欲しい人材だな…」
「…………」
一歩下がって控えている八雲のにーちゃんが、渋い顔をしている。そーいう顔すっから、俺達が迎えに行くハメになるんだよ。鬼内以外を余所者と見なして、無暗に排他的になってっから。
これから迎えに行く相手は、里のお頭である西歌さんの同期、盟友。サンバ鴉なんて、陽気に踊る鳥類みたいな渾名を付けられていたグループだ。当然、相応に実力もあり、里への直接的な影響力は無くても、西歌さんへの繋がりは大きいだろう。
また、立場的に言えばオオマガトキ前からのモノノフ…サムライから見れば『鬼内』である。しかも極めて強力な。
明確ではないとは言え、対立がある鬼内が強力になるのを、黙ってみていられようか?
ではこれを、例えばサムライが迎えに行ったとしよう。サムライもモノノフには違いないから、依頼を受ける資格もあるし、それで生計を立てる人も居るようだし。
こうなると今度は鬼内に不満が出る。余所者に重要人物の迎えを任せる事もそうだし、サムライが妙な事を吹き込むのではないか?と邪推する者も出るだろう。
これらの理由は半ば以上、コジツケでしかないのだが…『そういうコジツケを吹き込まれて、それを一瞬でも真に受けてしまう』ような悪感情が秘められている。
だから俺達を迎えに行かせる訳だ。外様でも鬼内でもない俺とホロウを。八雲のにーちゃんが一緒なのは、かぐやと話してた時の殺気の詫びと、文字通りの道案内、それから途中で妙な真似をしないかの監視も兼ねてる…かな。
行き当たりばったりな印象があるけど、考えてはいるんだな、西歌さん。
さて、西歌さんが仕事に戻って、俺、ホロウ、八雲のにーちゃんが残ったんだが…微妙に刺々しいな。明らかにケンカ売ってきてるんじゃないが、こう…余所者は引っ込んでいろ、マホロバの里は我らが守る…的な?
これは…アレかな。霊山に行った時にも似たようなのと遭遇したな。一般人…マホロバ風に言うなら外様を、何の力もない人間と見下しながら、だからこそ戦って守るのは自分達の役目だと思っている的な?
どーも名家の類の生まれらしいし、西歌さんや、かぐやとも話をする機会が多いようだし…責任感を持ったエリートさん、かな。
「…出発は正午だ。特に必要な物はない。遅れず、足を引っ張らなければそれでいい」
それだけ言って、八雲のにーちゃんは去っていった。もうちょっと社交性を持とうぜ。俺に言われるようじゃオシマイだよ。