既に投稿予約は11月半ばまでしてますが。
凶星月
ガチで死ぬかと思った。こいつ、飯食うのが好きだったのは知ってるが、こんな腹ペコキャラだったか? 銃使いなのにセイバーか。まぁ剣を使うアーチャーも居るから今更だが。
サンバ鴉は揃ってグロッキー、今日はお休み状態。俺と鬼子母神(この世界じゃシャレにならんよ色んな意味で)との連戦は流石にキツかったらしい。
あの時、後頭部に内臓破壊弾ゼロ距離射撃が入らなかったらどうなっていた事か。おかげで丁度いい塩梅に記憶を失ったらしい。
クソ、今度飯が絡んだこいつとやり合う時には、速攻でアラガミ化すっからな。
まー若干煤けて屋敷の一部が更に壊れたが、全員無事。西歌のお頭が修繕費をどうしようか悩んでいるのを横目に、時継・雷蔵共にさっさと逃げてきた。巻き込まれるのは御免じゃ。
とりあえず、二人はこれから訓練だそうだ。3対1で負けたままじゃいられん、との事。
そんなら、ついでだから正式な鬼千切・極を覚えていけ。複数人の力を結集するまでは同じ…ああ、これは3人じゃなくて2人でもできるが…だけど、その先が違う。さっきの技は、高めた力を3方向から叩き込むけど、正式版の奴は一人に集め、武器に合ったやり方で放出するんだ。
確か、霊山の古書にもコレについての記述があった筈だぞ。二人とも、また霊山に戻ったら調べてみれば?
「……まぁ、参考にはさせてもらう」
「同じく。ああ、俺は暫く霊山にはいかないけどな」
あれ、そうなん? 雷蔵さんは禁軍で霊山所属だし、時継もあっちで暴れまわってたんじゃないのん?
「そうだったんだが、ちと思うところが出来てな。このまま戦い続けて名を上げようと思ってたんだが、お前さんにゃ負けるし、それを除いても鬼疾風だの鬼千切・極だの、知らなかった強力な技があっちこっちに埋もれてやがる。各地を転戦して、そういうのを見つけたり広めたりしてみっかな、って思ったんだよ」
「…お前にしちゃ考えてるな。確かに、先の二つの技だけでも、戦況を覆す切り札に成り得るが…」
「大した考えじゃねぇよ。勇者ってのは先陣切るもんだぜ? 当然、相応の実力がなければ集中砲火を喰らって終わりだ。だからもっと強くならねぇとな」
…まぁ、いい傾向…なのかな? 俺としても、技が知れ渡るのに問題は無いし。多分ホロウも大丈夫だろ。元々、モノノフに伝わってた筈の技らしいし。
「へぇ…なんでそいつを、こんな嬢ちゃんが知ってるのかね。さっきの暴れっぷりを見ると、嬢ちゃん呼ばわりしたくはないが」
まだ気絶しているままのホロウ。
…こいつ、このまま起きるとまた暴れだすかもしれねーな。久音さんのトコに行って、飯の準備でもしておこうか。そういや博士のエs…もとい朝飯は…まぁ、待たせとけばいいか。一応作り置きはあるし。
「ところで雷蔵、お前はいつまで里に残る?」
「八雲をもうちっと鍛えてやらなきゃならんからな。禁軍の監査って事にしても…あと2、3か月くらいか」
そんじゃ、お先に失礼~。
…ホロウは久音さんの料理の匂いで目を覚ましました。
そして久音さんが悟りを得ました。
…何がどうなったかって? 風が吹いたら定食屋が儲かったんだよ。具体的には風が料理の匂いを運んで、この飯に興味津々の腹ペコ娘が目を覚ましーの、一言言いーの、したら久音さんの目がクワッと開かれーの…。
…まぁ、アレだ。天啓って何気ないところから湧いてくるもんかもね。
事の始まりは、生姜焼きの匂いでホロウが跳ね起きた事。その時にホロウが言ったんだよ。
「匂いのお陰で目が覚めました。ご飯を所望します」
で、それを聞いてた久音さんが「匂いのおかげで…おかげで……ご飯のおかげで……? そう言えば、紅月の料理も腹痛や吐き気を齎す…ご飯のおかげでそうなる………つまり…食べたら特別な効果のある料理!」
…何事ぞ? と思ったが、要は料理に付属効果を持たせるって事か? いわゆる猫飯?
「猫飯? 味噌汁かけご飯の事でしょうか?」
いやそーじゃなくて…もう異界に沈んでしまった場所での事だけど、戦いに行くモノノフの為に渡す、不思議弁当。食べると力が沸いてきて、文字通り筋力が一時的に上がったり、体力がついたり、モノによってはスキル…横文字は分からんか。ミタマが持っているような特性が発動する。
「ムグムグつまりモグモグご飯を食べた後にズズーもう一回ご飯を食べられるゴックン訳ですね」
ちげぇよ。本格的に腹ペコキャラになりつつあるな、こいつ。
「それは素晴らしい! それです、私が作りたかったのは! どのようにして作るのですか!?」
ごめん、俺も知らない。作ってもらった事はあるし、自分でやってみた事もあるけど、何処をどうすりゃあんな効果が出るのかさっぱり分からん。
それに、知ってたとしても多分再現できないぞ。ここにはない食材ばっかり使ってたから。
「そうですか…いえ、ここは落ち込むべきではありませんね。最初から答えが出ては意味がありません。探求のし甲斐があります。…ですが、もう少しだけ参考にお話を」
参考に、と言われてもな………。とりあえず作ってたのは人間じゃない。
「人ではない?」
全身ケムクジャラだから、衛生管理とかどうなってたのか非常に気になるな…。
後は…その地独特の食材を使う事が多い。モノによっちゃ、手に入れるだけでもとんでもない苦労する奴もある。
肉、魚は当たり前として、酒にマツタケ、海老に虫……極めつけは龍頭とかリュウノテールか。飯一食の為に、モンスター……ここに合わせて言えば大型の鬼に挑むんだからなぁ。まぁ、尻尾だけ斬って逃げるなら、そこまで難易度高くないけど。逆鱗とか紅玉とか出す方が難しいけど。
「…そう、鬼を喰らう? 何故そのような危険な事を…。いえ、そうです、特殊な効果を出す為には、食材も特殊な物にしなければ。毒と薬は紙一重。それは食についても同じ事。ならば、より一層効果を発揮する為にも…」
…なんかブツブツとつぶやき始めた。うん、まぁ…やっちまった感あるけど、まぁいいか。少なくとも久音さんは納得してるようだし。料理上手な人だから、食材だって無駄にしないだろう…ゲテモノだとしても。
凶星月
今更ですが、と前置きして、ホロウは言う。
俺がイヅチカナタに付き纏われている理由を確信したそうな。まぁ、どんな理由であれアイツは許さんが、何かの切っ掛けで遠い何処かに逃げられてしまっても困る。一応聞いてみる事にした。
「貴方と会った夜にも言いましたが、イヅチカナタは因果を喰らう鬼であり、その本能に従って動いています。人間の三大欲求が鬼に通じるかは不明ですが、少なくとも食欲はあります」
うんうん。
「これも以前に言った事ですが、貴方を植物に例えた場合、急速な勢いで成長し、収穫した果実が手入れも必要無く再度実る。この為にイヅチカナタに目を付けられているのだと考えています。ですが、一方で疑問もありました。イヅチカナタの食欲は非常に強い。大きな歴史の変わり目に飛来し、その因果を喰らい尽す…。だと言うのに、貴方一人に付き纏って、その食欲を満たす事が出来るのでしょうか? 何かしら、他の理由があるのでは…。そう考えた私は、ここに来て以来、貴方を観察していたのです」
まぁ、観察されてたのは知ってるけどさ。と言うか直に言ったし。
んで、結論は?
「この里に来て以来、貴方は急速に他者との関わり…つまり因果を持ちました。私が把握しているだけでも、博士、西歌のお頭、時継、雷蔵、紅月、八雲、そして昨日の久音。これらに貴方が与えた影響は、計り知れません」
…そう…か? いや、研究の成果を先取りしちまった博士とか、妙な料理に目覚めさせてしまった久音さんは分かるが。
「貴方が思っている以上に、貴方はこの里で注目されているようです。短期間の間に、これ程の因果因縁を結べる人間は他に居ないでしょう」
……いや、んな事ぁねーと思うが。俺なんぞまだ軽い方だろうに。
で? 結論、俺がアレに付き纏われている理由は?
「…博士が、説明を途中で遮られると不機嫌になる理由が分かった気がします…。ともあれ。あなたは…」
俺は?
「揉め事を引き寄せます」
うん、それで?
「それが全てです」
ヲイ。
「これだけで不満なら、自分から揉め事に飛び込む、巻き起こすというのも付けましょう。結論が3倍に増えました。お得ですね」
延々と観察してそれだけかい。揉め事が何かと降りかかってくる運勢してるなんて、とっくに自覚しとるわい。少なくとも、この繰り返しの中に放り込まれた序盤頃には。
「ですが、これが最も根本的な要因です。貴方は揉め事に首を突っ込む度に、何かしらの縁を結びます。その頻度と速度が異常です。私は人と人の間の機微には疎いですが、他者の一生に多大な影響を与えるという事が、非常に稀な事だと言うのは分かります。あなたはその稀な事を、里に来てから少なくとも2度行いました」
博士と久音さん?
…そういや、かぐやにも抜け道の使い方を教えたな…。
いやしかし、それが本当に一生に影響を与えるかなんて、俺達には分からないだろう。
「そうなる可能性がある、というだけで因果因縁には十分です。…実際のところ、イヅチカナタが食っている因果因縁がどのような物なのか、詳細は分からないので、とにかく人と人の繋がり、並びにそこからの発展の可能性と考えましょう」
うぬぬぬ…分かり切った結論が出ただけで、真面目に話に付き合った意味がないではないか。
「そうでもありません。もしこの推論が正しいのであれば、貴方が隠遁、或いは他人との繋がりを断ってどこかに引きこもれ……れば、イヅチカナタは去っていき、貴方に平穏が訪れるかもしれません」
平穏とかそういうの、もういいから。千歳とシオを喰いやがったあのイヅチを叩き切るまで、平穏とか二の次でいいから。いや、別に自分から波風立てるつもりはないけども。
あと、口籠ったのは何でよ。
「隠遁したところで、揉め事が追いかけてくるのではないかと思っただけです」
…まぁ、確かに世捨て人気取って山籠りハンターやってた時も、何だかんだで人と関わっちゃったけどさ…。
「逆を言えば、延々と揉め事に関わり続ける限り、イヅチカナタは貴方を置いて何処かに行く事はないでしょう。この推測が当たっていれば、ですが」
…揉め事が何処に居ても降りかかってくる + 揉め事にかかわってりゃイヅチに付き纏われる = ?
「今と何も変わりませんね。これからも何かと巻き込まれ、誰かと縁を結び、それをイヅチカナタに奪われるでしょう」
…やっぱ真面目に聞いて損した。いや、改めてフツフツと怒りが再燃してきたから、それだけはよかったかな。
凶星月
凶星月も中盤を過ぎた。そろそろウタカタに出発せにゃならんのだが、鬼の手の進展具合は如何なものか。
博士曰く、もう大分形は出来上がっており、調整と実験と検証と着脱機能を省けば、すぐにでも使えるらしい。…それ絶対省いちゃいかん奴だろ。しかも着脱機能を省くってなんだ。
…体に接続する事で想像を直接受け取るものだから、安全に着脱するのが非常に難しい? 何度も着脱を繰り返していると、体に異変が出る可能性がある?
…まぁ、理屈は分かるけど。注射を短期間で何度も繰り返すようなものか。あと無理に外すと爆発する?
……改良しろよ…まぁ、俺には関係ないけどさ。
「私は別に構いません。付けたままでも、生活にも銭湯にも支障はありませんし、それだけの価値があります」
「ほう、ホロウはよくわかっているな。栄えある鬼の手の最初の使い手にしてやろう」
「お断りします」
「………お前の冗談は分かりにくいんだよ。無表情のまま手を出すな。…手袋のように、普通に着ければいい」
「そうですか」
…真顔のままだな、こいつ。と言うか、調整と実験と検証がまだなのはいいんかい。
「どの道、誰かが使って実験しなければいけません。その調整も、出来れば私用に念入りに合わせてほしいのですが」
「ああ、実験の危険を背負ってもらうのだ。その程度の礼はするさ」
「では、まず具現化してみましょう。外でやった方がいいですね」
…そういう事になったのだ。随分なリスクを背負うなぁ。
まぁ、結論から言えば、鬼の手の具現化は成功した。ホロウの実力なのか、それとも専用の器具を使っているからなのか、俺の鬼の手より強く、無駄なく具現化できているようだ。ちょっと悔しい。
ホロウと博士が何やら詳細を語っているようだが、俺は飯の準備をしていた。
しかし、どーすっかなぁ。鬼の手が完成したなら、マホロバに留まる理由は無い。ウタカタに向けて出発したい。ついでに霊山にも寄っていきたい。
サムライと鬼内との確執は気になるが、流れ者の俺が首を突っ込む義理もなかった。土地の問題に余所者が口を挟んでもロクな事にならないってゆーしな。
…ん? 鬼の手、まだ完成してない? 調整はともかく、着脱機能はどーとでもなるわ。
着けるまで黙ってりゃいいんだし。言う前に喜び勇んで装着しそうなのが居るし。具体的には初穂。
問題は無い。ゴッドイーターだって、一生右手に腕輪着けてんだぞ。俺は外しても問題ないけど。
調整は終わったそうだが、問題がもう一つ残っていた。
素材が足りない。良質のカラクリ石が必要なのだが、これが中々見つからない。こればっかりは、万能の石モドキじゃできないらしい。
大体、仮にカラクリ石が見つかったとしても、どれだけ作れるやら。先日…俺達が会った時に発見した石は、かなりの大きさだったらしいが、それでも出来上がったのは一つだけ。…実験で色々消費したらしいが、同じ大きさじゃ2~3個作れればいい方なんじゃないかな…。
…マカ壺にでも入れておけば、謎の反応を起こして増殖したりしねーかな…。
博士とホロウが本格的に調整に入り、暇になったんで、西歌のお頭を訪ねてみた。主計さんも居なかったので、「用もないのに余所者がお頭に会ってどうする」みたいな顔をされたが、西歌のお頭本人が出迎えてくれた。
「先日は迷惑をかけたからな」って言ってたが…やっぱり3対1は自分でもどうかと思ってたようだ。と言うか、どっちかと言うと迷惑かけたのは大暴れしたホロウだったような気がする。
ま、実際の所、大した用事も無かったので、西歌のお頭の愚痴を聞く事になってしまったが。
やはり、自分で受け入れを決めたものの、サムライと鬼内の確執に悩んでいるようだ。人間関係はややこしいからなぁ…。拗れると面倒臭さが加速度的に増えていくし。
「うむ、分かってはいるんだ。幸いと言うべきなのか、まだ溝は埋められない程に深い訳ではない。鬼内には、自分達と直接関わりが無いとは言え、同じモノノフが彼らを奴隷扱いしていたという負い目がある。サムライ達も、怒りは鬼内ではなく、もっと漠然とした…モノノフという存在そのものへの不信感になっている。切っ先を突きつけ合うまで、まだ暫く猶予がある」
その猶予も、西歌のお頭が居てこそ…なんだろうな。サムライが大人しくしてるのは、お頭への恩義があるからだって本人達も言ってたし。
「嬉しくもあり、悩ましくもあり…か。個人に寄って立つ平和など、砂上の楼閣も同じだ」
そりゃ神垣の巫女の事言ってんのか?
「それもある。…このまま放置すれば、私が抑えていたとしても、仮に紅月が私以上の采配を持って里を守ったとしても、遠からず限界がくる。爆発する」
何かしらの手を打つなら、互いの感情がそこまで高まってない今のうち…と言う訳だ。でもどうするか、って話だよな…。
ホロウとも前に話したが、結界内部の建物を増築すれば、住居の問題は解決できると思うんだけど。
「ああ、私もそれは考えた。だが大きな博打だ。しかも分が悪い。嫌い合っている者同士が寝食を共にしても、相互理解は深まらない。むしろ、やる事為す事を悪い方悪い方に解釈して、遂には想像の中でさえも罵り始める」
嫌いな相手を好きになる事程、面倒な事は無い…か。
まだ、「あいつらは嫌いだが、利用価値がある」という考えを持たせた方が我慢が効くだろうな。
「そういう損得を超えて人を行動させるのが感情だ。やれやれ…お頭と言うのは面倒なものだ」
憂いを含んだ横顔…だったが、饅頭頬張りながらじゃ色気は無いな。自棄食いしたくなるのも無理はないが。
…意味があるかはともかくとして……共通の敵を作るのはどうだ?
「鬼…の事ではないな。新たな共通の敵とやらが現れれば、一致団結するとでも?」
できぬ。
何が大きか危機ば迫ったからちうて、恨みば忘れち判りあえるなんど、幻しん過ぎん。人は受けち恨みば絶対に忘れん。一度与えち恨みん恐怖は絶対に忘れん。舎利ばなるまで消えやせん。
「何弁だ」
ヒラコー節だ。まー、いきなり遺恨を捨てる事は出来ないだろうさ。もっと段階を踏めば、何とか和解に持ち込めるかどうかってとこだ。
すぐ近くのすぐ戦う必要がある敵、すぐ近くに居るけどまだ戦わない敵、敵だけど積極的に戦う必要のない敵、敵だけど利用価値のある奴、利用価値があっても我慢できない奴。
そこから更に、棲み分け、共存、利用し合う関係、信用、信頼…と続いていく。
「敵ばっかりだな。さもしいと言うか、悲しい話だ」
人間だからな。
ま、それは置いといて…考えてる事ぁ単純だ。これらの敵の前に、もう一つ置く。つまり、近くには居ないけど、最優先で倒さにゃならん怨敵を。
そうすりゃ、目先の敵からは暫く目を逸らす事が出来る。それだけ重要視されなきゃいかんが。
「…具体案があるようだな?」
子供の考えだけどね。サムライも鬼内も、寄る辺は同じだ。そいつを叩き折るってだけの話だ。
「……? ……! …また分の悪い博打を言い出す。確かに、君なら出来るかもしれない。私達、三羽鴉でようやく互角の君なら。だが、人は思った通りに動かないぞ?」
思ったようには動かなくても、動く方向を誘導するくらいならできる。
何より、ああいった武力集団や、血気盛んな年代は…それに限らず俺もだけど、戦闘能力を過剰に評価する。実力以上に強く考えるんじゃなく、強い弱いが必要以上に重要な事だと考える。腕っぷしで出来る事なんぞ、目の前にノコノコ出てきてくれた親切な敵を地面に叩きつけるだけだってのにな。
「それは仕方ない。誰だって、自分にとって重要な物を物差しにして世界を見るものさ。大事な事を伝えるのに、どうでもいい物を使って伝える人は居ない。言葉が特別重要だと思う人間は、言葉で、話し合いで物事を伝えようとする。金が重要だと思うなら金で、誠意が大切だと思うのなら誠意で。戦う事を特別視しているのなら、戦う姿やぶつけ合う刃で伝えようとするだろう。私達にとって何より重要なのは、戦う力だからな。それがモノノフがモノノフである証なのだから」
スポーツマンガの主人公が、やたらと自分のスポーツを持ち上げたり、特別楽しいんだって主張するようなもんですな。
「すぽぉつ?」
あー、遊戯ですかね。主に体を使った。……うん? そういやカタカナ…いやでもモノノフは…あれ、でもカタカナ自体は古事記の時代だったかもーちょっと後だったかからあったような…でも外来語…一部とはいえ…。
「ふむ…すぽぉつ云々はともかくとして、流石にすぐにその話に乗る訳にはいかないな。可能かどうかの検討も、その後の誘導の準備も進めなければ。仮に実行して成功したとしても、その後は君が里に居辛くなってしまうだろう。確か、ウタカタの里へ立つのだったか? やるとしたらその少し前くらいか」
さよけ。まぁ、こんな話にホイホイ乗るようじゃ、里長やってられんわな。
ま、出発前には声かけるから、そっちもその気になったら教えてーな。
…ああ、そうだ。博士が研究してる鬼の手なんだけども、完成したらかなりの戦力になりそうなんだ。
ただ、現状では量産どころか、2つ目を作る事すら難しい。研究を援助してもらえないかな。
「…残念ながら、現状では無理だな。彼女が言っていた、異界を浄化する方法は何が何でも完成させねばならない。だが、一方で博士はまだ目に見える成果を出していないし、言動のせいもあって里人からはあまり信用されていない。加えて、サムライ達を受け入れた事で、里の財政も限界に近い。これ以上は…」
なら、目に見える成果を出したらどうなんだ? 異界の浄化とまではいかないまでも、明らかに鬼との闘いに貢献できる新戦力とか。
「物によるが…研究を支援するというよりは、その成果を買い取るという事になるだろうな。鬼の手とやらがどれ程使える物なのかで、買い取り価格も変わるだろう。…あまり高価になると、今度は逆に手が出せなくなるが」
…博士が研究に使っているのは、カラクリ石だ。出来るだけ大きく、純度が高いモノがいいらしい。
モノノフにとっては、たいして価値のない物だと思う。それを融通するのに加えて、生活の援助に…。
「ああ、待て待て。君は話を進めているが、どうにも博士の発案だとは思えん。恐らく、君かホロウが考えた取引だろう? 博士に許可は取ってあるのか?」
む…。
「まずはそちらに話を通してからにするんだ。博士にとっても利のある取引だと思うが、それは助手である君の権限と道理を大きく超える。家主に無断で、私物を売り払う取引をするのは、窃盗と変わりないぞ」
………ああ、そうだな…。いい案だと思ったけど、提案する前に考えるべきだった…。
「…この場で思いついて、この場で口に出したのか? 私もお頭としてどうなんだ、とよく言われるが、君もだな」
…耳が痛いよ。