魔禍月
うん、そこそこ。仕留め損なったのは残念だった…時間制限があると知ってりゃ、部位破壊に拘らずにさっさと仕留めに行ったものを。
金髪ちゃん…グウェンを追いかけてみて、遭遇したのは白い龍…と言うかドラゴンだった。
今更、単なる龍ではテンションは上がらんな。MH世界で何度竜種とやりあってきた事か。戦闘能力としては、中の上か。タマハミ状態になって全力を出せば、もうちょっと化けるかもしれないが。
持ってる能力も、見た事があるヤツばっかりだったし。閃光はゲリョス、炎と飛行能力はリオ夫妻。その程度の話だ。
が、霊山の結界の外とは言え、いきなり現れたのには驚いたな。オオナヅチみたいに姿を消していた訳じゃない。どっちかと言うとワープの類だ。
鬼は時空間に干渉できるらしいので、出来る奴が居てもおかしくない…と言うか、虚空から出現するだけなら、大型鬼なら大体できる。でも異界の中でもなく前触れもほぼ無い状態で、と言うのは初めてだ。
グウェンと名乗った……アメリカ人? フランス辺り? 外国人の見分けなんぞつかん……を連れて帰って話を聞いてみる。紅月がすっごい微妙な顔してたけどな。
何でって?
白炎と呼ばれているらしいあの鬼をフルボッコにしたら、その後でグウェンに思いっきり抱き着かれたからじゃね?
お嬢ちゃん、メッチャはしゃいで紅月にも抱き着いてた。言ってる言葉は分からなかったが、多分「スゴイ、スゴイぞ!」とかじゃなかろーか。
とりあえず落ち着かせて、話を聞いてみたところ、ガチの外国人だった。イギリスの貴族らしい。…いや貴族とか言われても分からんよ。
まぁそれは置いといて、何でもあの鬼に何度も何度も襲われているらしい。その理由は、彼女が持っている盾剣・ネイリングにある。
大昔に滅んだ旧文明の遺産で、どういう理屈か白炎を呼び出す力があるらしい。ただし、それは持ち主であるグウェンにも制御が出来ず、呼び出した白炎は制御を受け付けずに暴れまくる…特にグウェンを狙って。自分を呼び出したヤツで、支配できる力を持ってるやつだってわかるのかね? 尤も、白炎を支配する機能が無事だという保証はないが。
幼い頃に、このネイリングを誤って起動させてしまい、彼女を育ててくれていたナンタラ侯爵は死亡。その遺言に従い、日本に居るという知人に助けを求めてやってきたはいいものの、横浜の外国人居留地に居た時にオオマガトキに巻き込まれる。
それから暫くさまよっていたものの、霊山の特務部隊に拾われる。
知人とやらの行方が分からない事もあり、白炎に対抗する術を身に着ける為にモノノフ修行をして過ごしていると。
…端的に言うが…不運にも程があるだろ。
「言わないでくれ…。自分がヤクビョーガミだと言う自覚はある」
「そこまでは言っていません。あの白炎という鬼も、手練のモノノフであれば十分対処できます。…むしろ、今まで襲われて生きているのが素直に驚きです」
だな。話を聞く分だと、モノノフの能力もない、それどころかガキの頃から何度も何度も襲われたんだろう? よく無事だったもんだ…。
「それは自分でもそう思う。思えば、私を殺すのではなく何か別の目的があったのかもしれない…。日本に来る為の船旅が、一番危険だったなぁ…。あの時、ネイリングが起動していたらどうなっていた事か。一度発動すると暫くは動かないようだから、10日くらい人気のない場所で生活して、襲撃を凌いだらすぐに船に乗ったっけ…」
起動してたら、確実に船ごと海の藻屑だろうな。いやはや、よく頑張った…。
で、あの白炎っての、一度倒したらもう出てこないと思うか?
「…分からない。倒そうにも、今まで一番ダメージを与えられたのは、角を一本折っただけだ。その角も、次に出てきた時には元通りだった」
「モノノフを集め、対抗する事は?」
「考えはしたんだが…仮に倒せたとしても、また別の白炎が出てくるかもしれない事を考えると、せめて私一人で世間を渡っていく力が付くまで辞めた方がいいと言われた。…度々鬼を呼び込む性質があると知られたら、ここにも居られなくなってしまいそうだし」
……それこそ、実際倒してから検証すればいいと思うが…。まぁ、一理あると言えばある…か?
と言うか、その剣捨てられないのか。
「捨てても戻ってくるんだ。目が覚めたら枕元にあるなんてまだいい方で、気付かない内に腰に戻っていたり、下手な捨て方をしたら刃を向けて飛んできたり…」
「…意思があるんじゃないですか?」
「だとしたら絶対に敵だ。何で何度も何度も白炎を呼び込むんだ…」
逆に、その意思が白炎召喚を抑えているから、今の頻度なのかもしれんがな。
ところで、さっきの言い方だと、少なくとも一人はその剣と白炎の事を知っているヤツが居るようだが?
「ああ、彷徨っていた私を引き受け、モノノフの訓練兵にしてくれた人だ。……それで…その、頼みたい事があるんだ」
白炎の討伐?
「そうだ! 霊山に来てから色々なモノノフに会ったが、貴方達程強いモノノフは見た事がない。白炎を、たった二人でああまで追い詰めるなんて…。貴方達が居れば、きっと勝てる! 対価も無しに、なんて事は言わない。…で、出来る事には、限りがあるけれど…」
「私は構いません。鬼討つ鬼の使命でもありますし、霊山に鬼が侵入する危険を見過ごす訳には…いえ、貴方がどうこうという意味ではなく」
ま、俺も問題はないな。あの程度ならどうとでも出来る。
「…そう言われると、幼い頃からの私の苦労は何だったのかと言いたくなるが…」
報酬に関しては、また別の機会に考えよーか。カラダネタは隣に女性が居る状況で言うもんじゃないし。
「よくわからないけど、わかった。出来る事、欲しい物があればいつでも言ってくれ。出来る限りの事をする。…そうだ、続けざまに悪いのだけど、私を保護してくれた人に会ってくれないか? さっき言った、ネイリングの事を知っているのもその人なんだ」
「貴方を訓練兵にして、更に霊山の特務部隊を率いている…と言う事は、かなり高位の地位にある人ですね。会っておいて損はないと思いますよ。白炎と戦うにしても、場所は用意しなければいけませんし、事前に話をしておかないと「本当に倒したのか?」という話にもなりかねません」
そーだな。んじゃ、いつ顔を出せばいい? 悪いが、俺もあまり長くここに滞在する訳じゃないぞ。
「あの人も忙しいから…今日の帰りに話を通して、明日の昼には何時頃来れるか知らせに来る。すまないが、今日はこれで失礼する」
はいよー、お疲れ。
…はぁ、随分と急展開な話だこと。で、寝たふりしているホロウよ、実際どうなん? ネイリングとかいうの、何か心当たりはあるか?
「いえさっぱりです。ですが、私のようなのが居るのですから、鬼を操ろうとした事はあるのだろうな、と思っていましたが」
「…寝たふりが上手ですね、ホロウさん」
「それ程でも。あくまで推論ですが、その白炎とやらを倒してしまえば、もう現れる事はないと思います。同類が繁殖しているかに関しては、責任を持てませんが」
その根拠は?
「毎回別の鬼を呼び出しているのだとしたら、別の種類の鬼が出てこない理由が分かりません。鬼にも個体差はありますし、最悪の事を考えると同時に複数体が呼び出される事も考えられます」
ナルホド。ただ、今呼び出している白炎が倒れたら、ネイリングが新しい白炎を探す可能性もある…か。
実際は、倒してみないと何とも言えないか。一度起動すると10日以上は発動しないって言ってたから、次の起動があるとしても多分俺達は居ないな。
「グウェンを連れて行く、という手もあります。これから向かう先では、怨敵イヅチカナタを初めとし、幾多の激戦が予想されます。戦力は大いに越した事はありません。あなたの言う繰り返しが事実であれば、猶更」
事実であればって…いや、疑ってないのは分かるけどさ。
…ああ紅月、悪いが『繰り返し』に関しては口を挟まないでくれ。こっちも色々と複雑でな…あまり人に話す事はできん。
「…私を里から連れ出しておいてその対応、と言うのは少々心に来るものがありますが、分かりました。ですが、話から類推するに、ウタカタで大きな戦があると考えているのですね? …それならば、連れて行って揉め事の種を作ってしまう事も考えられますが」
…それもそうか。結局、一度は白炎を張り倒してみんと分からんのだな。しかし、今日発動してしまったから、次に現れるのは10日後以降か…。
ゆっくり進めば、ウタカタ到着前に発動するかな。いや、10日期間で起きるとは限らないのか。
…どうするにせよ、もうちょっと情報が欲しいな。
「でしたら、彼女の後見人に話を聞いてみてはどうですか? どの道、会ってくれと頼まれているのですし」
…現状ではそれが限界か。
さて、色々考えて腹が減ったな。…そういや清磨はどうした? 飯の当番はアイツだった筈だが。
「貴方達が帰ってこないので、その分も食べようとしたら邪魔してきたので、寝かしつけました」
……紅月、どっか飲みに行こう。何なら夜通しで。
「……あ、あさがえり…!?」
魔禍月
紅月があっという間に潰れてしまった。緊張しすぎて、ペースが崩れまくったらしい。
…初体験が泥酔で記憶の無いままってのもなんだから、背負って帰る時に感触を堪能するに留めました。……ごめん、寝かしつける時にちょこちょこ触って堪能しました。
だってこの1か月ちょっと、女2人と同居してもナニもないし、全然発散できなかったんだもの…。
…まぁ、今後は正面から正々堂々揉んだり吸ったり合意の上でセクハラするとして、グウェンの事だ。彼女の後見人とやらは、お偉いさんの割にはフットワークが軽いらしい。
「今から来いと言っていたぞ!」と、満面の笑みでグウェンが朝っぱらから押しかけてきた。…いや、別にいいけどよ…。
外人さんはテンションたけーな。…あれ、でもこういうハイテンションってどっちかっつーとアメリカ人っぽい…まぁ個人差か。
こっちとしてもエロ本漁り以外には目立った予定がある訳でもなし。お偉いさんと顔を合わせるんだから、上等な飯にもありつけるかもしれない、という期待もあったんで、素直に会いに行きました。ただし紅月はまだ寝ています。
…あの、なんか見覚えのあるオッサンだったんですけど。横浜で戦った時に協力した…九葉、だったっけ?
あっちも一目で(神機を見て。…清磨が触ろうとするから持ち歩いてるんだよ)思い出したらしい。
ちょっと微妙な空気が流れてグウェンが戸惑ったが、それは置いといて。
…このオッサンがグウェンの後見人か…。いや、それがアカンとは言うてないよ? 横浜で戦った時の記憶しかないが、少なくとも頭はキレるし度胸も度量もあるし。
ただ、善意だけで動くオッサンじゃないと思うんだよなぁ…。別に悪人面だから疑ってるんじゃないよ? 現状を見ても、私利私欲に溺れている様子は無い。
でもこのオッサン、必要と判断したら外道な方法も平然と取りそうだからな…。悪行を『自分なら許される』と思ってやるのではなく、悪行と思わないのでもなく、悪行と知って罰を受ける事まで覚悟している珍しいタイプだ。多分。内面観察術を使っても、珍しい人すぎてイマイチ分からん。
とりあえず、以前に会った時の事は後回しにして、白炎について話を聞いてみた。しかし、このオッサンにもアレがどうなっているのか、倒したら次のが出てくるのか等はイマイチ分からないらしい。
ただ、恐らく次の白炎が出てくる事は無いだろう、との事。根拠としては、「あのねいりんぐ、という剣を使って呼び出しただけでは、制御ができる筈もない。恐らくあの個体に、何かしらの細工がしてある」との事。
ナルホド、確かに呼び出す機能だけじゃ欠陥品だからな。ネイリングと対になるような、白炎をコントロールする為の道具がどこかにあるか、あの個体にコントロールの為の『何か』が埋め込まれている可能性が高い。
と言う事は、叩き潰してしまえば一応は安心か。
それを聞いて、英語で気炎を上げているグウェン。じい様とやらの仇を討てるからか、それとも勝てばもう襲われなくなるという希望からか。
んで、九葉のオッサンの勧めで、グウェンを連れて行く事になった。オッサンが用意した、暴れても問題ない場所で白炎と決戦。その後、共にウタカタに向かうように、との事。
まぁ、連れていくのは構わないし、もう一度召喚が起こった時の備えにもなるからいいけど……わざわざ保護したグウェンを、あっさり放り出すな。何か考えてるんだろうか…。
グウェンがこれからどうするかの話をした後、少しだけ時間が余ったので、互いの情報を交換した。
と言っても、あっちは立場上言えない事も多いだろうし、俺は世間に疎いし…横浜での遭遇の後にどうなったのか、何故ウタカタに向かったのかを話した程度だ。
横浜で、俺が空のクサレイヅチに向かっていった後は、特筆すべきことは無かったようだ。いや、オオマガトキが起こってもうムッチャクチャだから、特筆だらけだったのが正確かな。少なくとも、あの時にイヅチが何かやらかしたって事はないようだ。…少し言い淀んでいたのが気になるが。
ま、あの時の協力で、多少なりとも犠牲が減った…と思いたい。
あの時横浜に居た俺が何故霊山に居て、しかもイツクサの英雄(紅月の事らしい)と一緒に居るのかと聞かれたが…成り行きとしか言いようがない。
空の鬼に向かっていった後、気付いたら一か月前のマホロバ近辺に居た。これ以上の情報は無かった。
鬼の為に時間を飛び越えた、という例が何件かあるのは九葉のオッサンも知っていて、割と簡単に信じてもらえたのは助かったな。
んで、今後の事だが、あんまり深いところを話すとややこしくなりそうなんで、あの時の鬼がウタカタに出現しそうだから、とだけ話しておいた。
そうか、とだけ呟いて沈思黙考。…よくわからん人だな、ホントに。
ただ、退室する時に「駒が一つ、盤から落ちたか」と呟いたのが聞こえたから、やっぱりグウェンを使って何かしようとしていたのは確かだと思う。
…探るか? …でも流石に時間がない。あのオッサン、部下にも徹底した秘密主義の上で統率してるか、秘密を知ってても文字通り死んでも吐かないように教育してるっぽいしなぁ…。
…今回は放置しとくか。グウェンはこれからウタカタに行く事になるんだし、影響力は少なくなるだろう。遠距離との連絡を取り合うのも、この世界では一苦労だし…不自然な動きがないかだけ、気を付けておけばいい。
追記 九葉のオッサンへの直接連絡ルートを手に入れた。と言っても、メールとかがある訳じゃないんで、あちこちに潜んでいる、所謂『草』って奴への接触方法なんだが。
魔禍月
グウェンを連れて行く事になった、と知った紅月は、やっぱり微妙な顔をした。…紅月がこうまで表情を崩すって、マホロバではちょっと無かったよなぁ。
俺との関係がどうの、というのを差し引いても、妙に衝動的になっている。
…やっぱり、マホロバの次期頭領という立場から、一時的にとは言え離れたからだろうか?
ま、そうだとしても、グウェンの手助けをする事自体には異論はないようだ。確かに、放っておいていい問題じゃない。グウェンだけじゃなく、周囲にまで被害が行く可能性だってあるんだし。それが霊山のド真ん中で、万が一にも霊山君辺りに被害が行ったら、それこそどうなる事か。グウェンだって、追放だけじゃ済まないかもしれない。
…霊山君とか言われても、ピンと来ないけどね。
九葉のオッサンと相談して、決戦場(と言う程でもない気がする)はウタカタの近く…ナルカミ平原と言う場所だ。名前の割には、あんまり雷とか落ちないらしい。
そこで白炎を叩き潰して、そのままウタカタへ向かう。ウタカタに助力を要請する、と言う話も出たのだが、前ループ通りならウタカタも自衛で一杯一杯。それに、もしも初穂辺りが来たら、逆に足手纏いになりかねない。一皮むければ、相当に強くなるんだけどな、あいつも…。あの時と違って千歳が居ないから、どうやってパワーアップさせればいいやら。
そんな訳なんで、あと5日ほど霊山に滞在する事になった。ネイリングの起動を待つ為だ。
つまるところ、それって紅月と一緒にエロ本を探す時間が伸びたって事なんだが。
実際の所、紅月はエロ本探しをどう思っているんだろーか? 仮にも女性(喪とまでは言わんが)を伴ってする事じゃねーが、嫌悪感を露わにする訳でも、文句を言う訳でもない。
……内面観察術を使ってみても、怒りを覚えている訳でもなかった。エロい事に興味は…まぁ、そこそこ程度にあるようだが、少なくとも白昼堂々、艶本をガン見する程ではない。従って、自分の為に本を探しているのでもなさそうだ。
いや、別に紅月とそれしかやってない訳じゃないよ? せっかく霊山に来てるんだから、名所案内とかもしてもらったり、茶店を喰い歩いたり、道場で稽古に付き合ったり。……デカい禊場があったんで、一緒に浸かってみたり。流石に、透けないような服を着ていたが。
……あれ? 省みて思うと、禊場で混浴するのはともかくとして、これって普通にKENZENなデートじゃね? 例えその行動の殆どが、紅月に飯を作らせない為であっても。
…特に問題はないな。紅月が、益々嫁入り状態になりそうな気がするが、それこそ今更である。後先考えず、関係を持ってしまうなんぞいつもの事だ。…そこから二股三又になるのも。
さて、話は変わるが、グウェンである。訓練場に居た事からも分かるように、グウェンはまだモノノフとしては半人前だ。その状態で白炎の襲撃から度々生き残ってきたのだから、素質とては目を見張る物があると思うが。
彼女をウタカタに連れて行くと言う事は、あそこでの戦いに巻き込んでしまうと言う事でもある。イヅチカナタを除くとしても、ダイマエンやらゴウエンマやらトコヨノオウやら、鬼の中でも割と強力な連中がワラワラ出てくるだろう。そこへ初穂以下のグウェンを放り込んでも、死んでしまうのがオチである。
白炎との対決にしたって、グウェンを狙ってくる傾向がある以上、召喚だけしてさっさと逃げる、と言う事も出来そうにない。
つまるところ、即席ではあるが、グウェンを半人前以上にしなければいけない訳だ。
見た所、グウェンの体は結構出来上がっているし、良くも悪くも実戦経験者らしい度胸もある。ただ、神仏英霊から力を借りる、という感覚が今一つ分かっていないようである。…お国柄と言うか、宗教的な感覚が違うからだろうか?
経文唱にしたって、よく見ると文字が崩れている。…エゲレス人に漢字は難しいか? いっそ、キリスト教の聖書でも唱えてみた方がいいんじゃなかろうか。
そもそも、ミタマは宿ってるのだろうか? 何のミタマかは聞かないが…。
…ほう、宿っていると。ネイリングを触っていた頃、いつの間にやら宿っていた?
…それ、混乱しなかったか? モノノフならミタマについて知識もあるが、そうでない人間からしてみれば、頭の中に突然見ず知らずの人間が居座り始めたようなものだろう。
…へぇ、死んだ爺さんがモノノフと知り合いだったんだ。そういや、人を訪ねて日本まで来たって言ってたな。その知り合いに、手紙か何かでミタマの事を尋ねようとした矢先に、ネイリングが起動して…か。悪い、無神経な事聞いた。
ミタマが宿ってるとなれば、後は慣れと言うか、自分に合った力の引き出し方を自覚できるかの問題だ。とりあえず、それで半人前にはなれる。そこから先は、実際に鬼と戦って、動きや呼吸や間合いを覚えて…って感じだな。
しかし、自分にあったやり方ってのはなぁ…。俺は何かしらんけど、ミタマの存在を認識したら普通にできるようになったし…。紅月は?
「私も特には…。ですが、モノノフ訓練生の中には、時々躓く人が居ましたね。解決方法は様々でしたが…そうですね、一つずつ試してみましょう。まずは…」
…初手から催眠術モドキってレベル高いな。いや、上手くかからなかったようだけども。
その他にも、自分の衝動(欲望とも言う)を高らかに宣言するとか、ただ只管にお茶を飲んで精神を落ち着けていたら突然閃いたとか、部屋に怪しげな像を置いて延々とそれを称え続けたら「汝、迷える衆生よ。武器を捨てて海老を取れ」と言う声が聞こえ、通称「えびぞり」の弓で戦う時だけタマフリが使えるようになったのも居るとかナントカ。…きりたん棒でないだけマシかな。
…それ、効果あるのか…?
真面目に試してみているグウェンの生真面目さが泣ける。エゲレス人ってこんな真面目な性格なのか?
そして最後に。
「他には……ミタマの生前の生き方をよく調べ、その場面を強く意識する事で力を奮えるようになった、という話もありましたっけ」
…それ最初に教えてやれよ。テヘペロしてるって事は確信犯だな?
まぁ、その方法でも結局うまく行かなかった訳ですが。やり方に問題があった訳ではなく、グウェンのミタマについての知識が殆ど無かった為だ。
何せ、グウェンに宿っているのは異国のミタマ。確かに霊山には多大な資料があるが、やっぱ島国の日本で活動していた組織だからなぁ。鎖国していた日本で、外国の伝承の本を手に入れろってのには無理がある。グウェン自身も、ミタマの名前が分かってから爺さんに色々と聞かされたそうなのだが、何年も前の話だし、当時は幼かったのでそもそも理解もできなかった。
せめて、日本に来た事がある人物のミタマであれば、まだ話は違っただろうに…。
結局、ミタマの使い方は地道に覚えさせていくしかなさそうだ…。