入滅月
識とやらの事はこの際後回しにするとして、さしあたり問題は虚海である。
本人にはああ言ったものの、俺の言葉一つで本当に受け入れられるかは別の話だ。虚海の心を癒そうと思ったら、取引や表面上ではなく本心から人に受け入れられる必要があるだろうし。
戦力半減の今ならば、虚海を受け入れる可能性は低くない。死線を共にするモノノフ達であれば、自然と虚海の事を本当に受け入れるかもしれないが、幾らお人好し揃いとは言えウタカタの一般人はな…。
「で、その所どう考えているのですか? 随分とやさぐれましたが、私の妹分です。粗悪な扱いにするつもりなら、私の得物が火を噴きますが」
銃が吹くのは火ではなく鉛の玉だ。いや確かに火薬も使うから火も吹くが。
で、虚海の事だが、正直大した事は考えてない。大和のお頭辺りなら、利害と俺との関係を計算した上で、警戒しつつおも受け入れるだろ。大和のお頭がそう言えば、モノノフ連中は何とかなる。
問題は一般人の方だが……俺とホロウでいつも通りに扱ってりゃ、虐待キャ…弄られ役になるだろ。
「微妙に聞き逃せない単語が聞こえましたが、言葉通りではなく別の意味で言っているのは察したので許容範囲とします。ただし、しくじったら貴方の腰に貼り付けた擲弾が突如破裂するので覚悟しておくように」
擲弾って時間で爆発しなかったっけか? …まぁ、多少の爆弾でどうこうなる体じゃないからいいけどさ。大樽G喰らっても平然としてるハンターだし。
さて、そんな訳で里まで連れて帰る訳ですが、虚海にはとりあえず外套を被せる。流石に、正面から堂々と連れて帰っちゃ、モノノフはともかく一般人の驚きがデカそうだ。千歳の時はそれでもどうにかなったが。
大和のお頭にエース級、そして樒さんやタタラさん、ついでに清磨等、主だったメンツを集めてもらう。
………おい、おい虚海。お前なんか震えてないか?
…いや、無理もないかもしれん。幾らこいつがヤサグレてると言っても、人の悪意は何度受けても嫌なものだ。切っ掛けはどうあれ、俺の提案を受けてここで暮らそうとしているのに、拒絶の意を受けたらと思うと、体が震えだすのも無理はないか。やっぱ根が素直過ぎるんだなぁ、こいつ…。
「あ…いや、その……私は…」
「…厠ですか? それともぽんぽん痛くなりましたか? 話しは早く済ませた方がよさそうですね」
そだな。
と言う訳で、集まってくださった事に、まずふんぞり返って礼を言います。態度と言葉が別物? 気にするな。
えー、知っての通り、現在里の戦力は半減している。異界も同様に鬼達の姿が少なくなっているからいいものの、元より鬼と人間じゃ、鬼の方が増える勢いも、傷が治る速さも段違いだ。正直言って、このままだと非常に危険だ。
なので、俺とホロウの古い知り合いを呼んできた。
名前は虚海。
性格にもその他にも問題があるヤツなんだが、腕は確かだ。大型鬼の集団を、一人で片づけた事もある。結界、呪詛についても詳しい。
「ほう…それならば、今の里には是非ともほしい人材だな」
「だが、面を隠す奴とは背中を合わせる気にならねぇな」
「おいおい、ここにも顔を隠してる奴は居るぜ」
「速鳥は目が見えてるからいいんだよ!」
「…拙者を信頼しろとは、口が裂けても言えぬ性だが…基準が分からぬ」
「それで? 儂らを呼んで、どうしようってんだ。術者だろうが、モノノフが増える事に問題はねぇだろう。儂ぁ、儂の仕事をするだけよ」
ああ、タタラさんはそういう人だよな。
だが、さっきも言ったように、こいつには若干問題がある。性格はこの際流すが、体の方にな。
害が無いのは俺とホロウで保証する。万が一何かをやらかすようなら、俺達が責任もってケツを持つさ。いやケツを拭くのかな。
「……この人がそう言うとなると…女性ですね」
「いや紅月、その基準はどうかと。でも女性ね」
初穂、紅月、黙ってなさい。
とにかく、変身した俺を見ても動揺程度で済んだ皆なら大丈夫だと思うが……ホロウ。
「はい。……千歳?」
「千歳? 虚海って名前じゃ……!?」
労わるように虚海に触れながら、ホロウは外套の頭を捲った。
露わになるのは、無表情そのものの少女の顔と、そして表情が全く読めない異形の半身。
「…その体は…」
問題ってのは、要するにコレの事だ。精神は間違いなく人間だ。この姿による迫害やら何やらで、純真だったのがえらい捻くれてしまってるが、中身は問題ない。(と言う事にしておく)
ただ、やっぱ人間って目で見て判断するからな。いきなり虚海が里にやってきたら、そりゃ面倒な事になる。
具体的には、里の中で俺が変身して暴れ出すくらい厄介だろう。
「いやそこまでではないと思うぞ。先日の戦いでの大暴れは、見ているだけで肝が冷えた…」
「貴方は千歳を危険物扱いしたいのですか? あと2回の失言で、腰が爆破されると思いなさい。なお、失言する度に爆破箇所が増えていきます」
まぁ、比較対象がよー分からんから、適当に言っただけだから気にするな。
とにかく、皆を…里の重鎮と言える人達を集めて、こいつを紹介したのはこの為だ。会っていきなりコイツ自信を信用しろとは言わん。
ただ、余計な揉め事が降りかかった時、庇ってやってほしい。…と言うのが、俺とホロウの意見だ。
「……ふむ」
腕を組んで考え込む大和のお頭。虚海にも目をやって、観察しているようだ。
…いきなり信用しろとは言ってないが、俺とホロウ…自分達で言うのもなんだが、里の主力級二人が連れてきた人物を、いくら怪しくても無下にはできないと思っているのだろう。
「一ついいか」
「なんだ」
大和のお頭の問いかけに、不愛想を通り越して冷徹とすら言える声で返す虚海。…こいつ、本当にここで暮らす気あるのかな、と思う程度には態度が悪い。まぁ、半ば俺が引き摺り込んできたようなものだから、無理もないっちゃ無理もないんだが…。
そんな事を考えていたら、大和のお頭は予想外の事を言い出した。
「この里で暮らすのも、お前に危害を加えない事も保証するから、もう少し緊張を解いたらどうだ?」
…は? 緊張?
「…私も先程気づきましたが……千歳は、知らない大勢の人間に囲まれて、一杯一杯になっているようです。この無表情は、単にどんな顔をすればいいのか分からないのです」
脇でも突いて笑わせてやればいいんじゃねぇの、初対面的に考えて。
ちゅーか虚海、お前なんでそんなに緊張してんの。
「……敵でもない知らない相手に囲まれるのは、久しぶりで…」
敵ならいいんかい。いや、敵なら人じゃなくてナスビとでも思っとけばいいってのは分からんでもないが。
「考えてもみれば、こうなるのも当然だったかもしれません…。天真爛漫でお人好し、人見知りとは正反対に位置していたような千歳ですが、この体になって以来、このように性格が真反対になるまで迫害され続けてきたと聞いています。まともに人間と話した事など、何年ぶりでしょう」
「…そこまで独りっきりの生活しとらんわ」
じゃあ敵以外の3人以上で同時に話した事は。ああ、俺とホロウで話した時は除くぞ。「ホロウお姉ちゃん」は特別だろうしな。
「………き、記憶にはある!」
集会所が涙で濡れた。よく見たら、奥の方で秋水もちょっと泣いていた。……いや、あれは笑いを堪えて出た涙だな…。
「…よくぞ来てくれた。戦力云々を抜きにしても、ウタカタはお前を歓迎する」
「私をお姉ちゃんと思いなさい。私は貴方の味方だから、ちゃんと話ができるようになるわ。…話すだけなら、敵と思ってた方がいいんだっけ?」
「お嬢さんが増えるのは、俺としちゃ大歓迎だぜ。今はまだ戦線復帰できてないが、肩を並べて戦おう」
「私も、君の力に頼らせてもらおう。一刻も早く体を治さねば」
「姉様、焦ってはいけません。さしあたって虚海さん、私と友達になってください」
「嬢ちゃんの事は、先に触れ回っておくか。おい清磨、お前も手を貸せ」
「ああ、客になりそうな者に手を貸すのも、鍛冶師の務めだ。しかし、何と言えば角が立たぬかな」
「…大和のお頭の一言……で、足りるわ…」
「噂話を好意的な方向へ持っていくくらいなら、多少心得があるでキュイ」
「速鳥、天狐の真似はいい」
「何でしたら、私が里の皆様へ、虚海様が良い方である事を全力で説明すれば」
「それは止めろ。…いやだが、徹底的にやれば効果はあるか…?」
「あの、それ洗脳では…」
洗脳で何か問題でも?
まぁそれはそれとして、虚海が優しさだか憐れみだか哀しみだかにに溺れているな。具体的には、一斉に話しかけられてテンパった挙句、立ったまま気絶した。最後の一瞬、「フヒッ」って笑ったような気がした。
…おーいお前ら。お人好しで助かるけど、虚海的に現在一番助かるのは、独りにしてやる事だと思うぞ。
…にしても、こいつここまでポンコツだったかなぁ…。確かに、以前に一緒に行動した時は、一緒に居たのは俺と千歳くらいだったし。…ああでも、あいつに殺された(屈辱!)時は大勢に囲まれても術は平然と……ああ、あの時の俺達は敵だったから、人間としてカウントされてないのかな。
「雀百まで踊り忘れず、とはよく言ったものですね」
うん、ホロウ? どういう意味だ。あとそれ悪い意味で使う言葉だぞ。
「昔から、予想外の事が起こったり、意識的に弄り回すと混乱するのは変わってないと言う事です。…何です、その顔は。おちょくってやれば、すぐに馴染むだろうと言うのは貴方の策ではないですか」
…ああうん、俺酷い事言ってたのね。すまんかった、虚海。結果が良かったから許せ。
入滅月
さて、経過はどうあれ、虚海は里で暮らす事になった。…が、予想以上のポンコツっぷりの為、ホロウと一緒に里の外れの小屋に住む事になる。
…紅月が、今居る家(ゲームで言えば主人公が住んでた家だな)を虚海に任せて、俺の家に入り浸ろうと計画していたようだが、それはまぁいい。成功したとしても、夜毎の遊びが3Pになるだけだ。
虚海は大人しいもので、特に何か企む様子も、ホロウに恨み言を吐いたりする様子もない。代わりに、俺の話の真偽を見極めようとしたり、クサレイヅチが近くにいるらしいってのに何か準備するつもりもないようだ。
うーむ、本当に無気力状態になってるな、コレ。
と言うか、異界を歩き回る時や、鬼に襲撃されれそうになる時以外、ホロウの家に引き籠って出てこないようだ。多分、人見知りと無気力症でで動くに動けない状態になってるんだと思う。
人里に連れてきたら引き籠りになるとは…だから貴様は虚海なのだ! 冗談はともかくとして、ホロウが甘やかしてっから、他の人と関わり合いにならないんだよなぁ…。ホロウも普段はセメントの癖しやがって、妙なホトケ心を出すなっつーの。
ただ、そんなポンコツの癖して、戦闘や術に関しては流石の一言。一人で鬼の前に放り出しても自力で撃退してくるし、鬼に見つかりにくい結界やら、小さいながらも瘴気を弾く効果を持った結界など、その恩恵は多岐に渡る。戦闘中、ちょっとやそっとじゃ壊されない安全地帯が出来た、と思えばイメージしやすいだろうか?
里の結界にしたって、虚海のおかげで更に頑丈になった。カッチカチやぞ。しかもただ頑丈なだけではなく、鬼の手を用いた効率的な術の使い方まで開発し、橘花の負担が更に小さくなり、更には仮に結界が破られてもすぐに修復できるようなオマケ付きだ。何年も生きてきた知識の蓄積の賜物か…。
これについては、詳細を聞いて博士に情報を送っておかねばなるまい。
うーむ…冷静になってみると、ハイスペックなヤツではあるんだな。コミュ力がブッチギリでアウトかつ、思想的に色々拗らせて、更には性根と考え方が根本的にズレているから色々空回りしているだけで。普通に致命的だな。よく生きてこられたもんだ。
…で。
何? 俺と虚海の関係?
「ええ…。扱いの悪さも親愛の結果だとは思っているのですが、そうなるとどのような付き合いなのかな、と思いまして」
どうって言われてもなぁ…。まぁ、こうして睦み合ってる最中に、他の女の事を語るのもどうかと思うが。一戦終えて、ゆっくり語り合うのもいいなって雰囲気だろうに。
「睦み合っている私がいいと言ってるんですから」
そう言いながら、隣に寝そべっていた紅月は体を寄せてきた。女体のスバラシイ感触が半身に感じられる。更にはご機嫌取でもするように、右手が俺のに纏わりついてくる。特にエレクトさせるつもりはなかったのに、あっという間にムクムクと。
いつもなら、このままどんどんヒートアップして第二ラウンドに突入するんだけど、紅月の手は撫で回す以上の行為に進む様子は無い。…ひょっとして、焦らして聞き出そうとしてんのかな。まぁ、堪らなくなった俺が襲い掛かってもそれはそれで、と考えてるっぽいが。
「深く考えずに答えてくださればいいですよ? それでどうこうするつもりはありません。浮気に関しては、正直今更ですし」
ごめんなさいね、愚息の節操がなくて。
「貴方でしょう。逞しくて素敵な息子さんだと思います。それにその、大勢で見たり見られたり弄りあったり纏めて蹂躙されたりというのも、これで中々楽しゅうございますし(ちょっと早口)」
ありがとう。…しかし、それはそれとして関係なぁ…。ホロウの古馴染みで……俺との関係なぁ…。
正直な話、俺が一方的に虚海を知ってたとしか言いようがないんだよ。虚海にしてみりゃ、初対面から一週間も経ってないんだぞ。
「それであの扱いですか…」
根っこがMだから問題ない。いやMと言うか、ちょっと強引に攫われたり、今の自分をぶっ壊してほしいと望んでいると言うか。
「えむと言うのはよく分かりませんが、自分を壊してほしい、と言うのなら心当たりがありますね。…あの目は諦観の目です。彼女の性が人であれ鬼であれ、全てを諦めた目をしていました」
だからこそ、暴れるつもりも里に害を加えるつもりもない、と確信できるってのは皮肉だな。
まぁ、どんどん関わって、無気力な虚海を壊してやってくれ。
「ええ、勿論。…つきましては、もう少し詳しく彼女との事を話してほしいのですが。ちゃんと話すと、このようなご褒美がありますよ」
おおう、太腿ズリ…。ぬ、しかも先端を指先でクニクニするとは、やるようになったものよ。
愚息がムクムクを通り越してビキビキしてきたので、この辺で第二ラウンドに突入してもいいのだが、それで話を誤魔化したと思われるのも何だな。責められるのも嫌いじゃないし、もうちょっと付き合おう。
あー……あいつは覚えてないだろうけど、昔のあいつに会った事があって……イテッ、爪は止めろって。分かったよ、もっと具体的にな。
あいつがあの体になって、心が折れそうになってた頃…まだ千歳と名乗っていた頃に、一緒に行動した事があるんだよ。俺はホラ、変身なんて事ができるし、同類って事で気を許してくれてな。
でも、一緒に居られた時間は長くなかった。俺とホロウが追っている鬼、イヅチカナタってんだけど…そもそも、こいつが虚海をあんな体にしたんだが、こいつは因果を奪う……と言うと分かりにくいか。人の記憶を奪う力を持っている、と思えばいい。
こいつにやられて、虚海は俺の事を忘れちまった。だから、俺は一方的に知ってるけど、あいつにとっては初対面って訳だ。
あっ、手を止めないで、止めるならもうちょっと足を密着させて。
「嘘は言っていないようですけど、誤魔化してるみたいですからお仕置きです。ほら、これも好きでしょう? でも足りないでしょう? もうちょっと続けてほしいでしょう?」
カリ首に、紅月の爪が這う。痛くは無いけど、気持ちいいと言える程でもない、痛くすぐったいとでも言うんだろうか。このムズムズ感が、棒に溜まっていく感触が何とも…!
体を起こして、紅月が圧し掛かってくる。器用に片足で棒を挟んだまま、後ろ手に手を伸ばしてフェザータッチで弄り回す。
上半身は上半身で、豊満な胸が俺の胸板に押し付けられた。あ、乳首同士で当たってる。
囁きの術のお返しとばかりに、耳元でエロい声を聞かせる紅月。荒くなり始めた呼吸の音が聞こえてゾクゾクする。
ぬっ、ミミナメ来た! だが甘い! いや俺の耳垢の事じゃなくて。囁きの術の真似でやってるんだろうが、まだまだ。囁きプレイなら、MH世界の竜人族の双子が最高峰だったよ。抵抗? する訳ないじゃないの。
で、何処まで話したっけ?
「虚海さんと、どのような事をしたのかです」
そんな話題だったっけなぁ…。つーても、アイツのコンプレックス……えーと、気にしている部分とか願望を引っ張り出して、それを多少解消してやっただけだぞ。尚、その内容は流石に秘密。
「仕方ありませんね…。人の恥部を暴こうとするのは、恥ずべき事ですから」
(そこで引く辺り、まだまだ甘いのー。ご褒美をチラつかせて、白状するようにしないと)
ま、仮に言ったところで、どうしようもないと思うけどな。さっきも言ったが、イヅチカナタに因果を奪われて、もう虚海はその事を覚えてない。他に覚えてる奴、知ってる奴も居ないだろうさ。
「…本当に、そのような鬼が」
疑わしいなら、ホロウに聞いてみろ。あいつはあいつで色々訳アリだが、それを隠す理由は持ってないヤツだ。質問すれば答えてくれると思うぞ。
……いや、俺に隠し事があるのは否定できんけど、それは後ろめたい事があるからじゃn…いや無いとはとても言えんけど…。
「……虚海さんとの関係はともかく……一つ、やる事ができたようです。今まで関係を持った人たちにした事、私にも全てしてもらいます!」
ほほう……。うっ!
「……私の手足ではなく、想像して射精しましたね? 私との睦み合いなのに……覚悟してくだ
紅月? 気絶したよ。この分だと、年単位で一つずつヤらなきゃあかんな。