今度は強者の道…と彼岸の逢瀬か。
この時点では武器レベルは150までしか上げられないのかな?
というか、これってチャットできないんだろうか…。
稀人になってみたんですが、相手が何を求めているのかわからない。
クリア優先なのか、道がわからないから先導してほしいのか、血刀塚で色々ゲットしたいのか。
海鳴りふたたびを何度も稀人プレイしたんですが、遅鈍符とか使うか迷ってる間に、相手プレイヤーが軒並み全滅。
稀人召喚な時点で、未クリアなんだろうけども、その割にはみんなして血刀塚一直線なんだよな…。
俺も未だに道具無しじゃ倒せないし、初プレイ時は散々死んだからよくわかるけど、だったら猶更、意思確認とかアドバイスとかの為にチャットつけてほしかった…。
寂滅月
新しい月に突入。
それはいいんだが、マホロバの里に戻った紅月から手紙が届いた。
…あっちはかなり厄介な事になっているようだ。
まず、西歌のお頭の事だ。呪われて意識不明、と言う事だったが……それは表向きの話だった。状況的には、もっと厄介だ。
…呪いの内容は、鬼化。西歌のお頭は、虚海のように鬼の体になりつつあるのだ。
呪った鬼…呪詛(カシリ)と名付けられたその鬼は、その爪や息に呪毒が含まれており、これを受けた者は徐々に鬼へと変わってしまう。
…受けちまったんだよ、右肩に。
まだ鬼化しているのは右肩のみだが、徐々に侵蝕は進んでいる。幸いにして、侵蝕の速度は非常に緩々としているが、治す手立ても見つからず、利き腕が上手く動かせない為にモノノフとしても事実上の引退。
結界内に居ると、鬼の瘴気が里の中で振りまかれてしまう上、姿を見られるのを防ぐ為に里の近くにも居られない。 今は里から少し離れた、人の近寄らない場所に小屋を建て、そこで呪いに抗いながら過ごしているのだそうだ。
こんな話、公開はできんわな。よりにもよって里長が鬼になる上、その鬼と戦ったのはサムライ・鬼討との合同での戦だった。
どんな風に戦ったのかは知らないが、また諍いの種になりかねない。
この事を知っているのは、紅月と、八雲と刀也、そして西歌のお頭の世話役として任命されたお付きの人2名のみ。
それ以外の人達は、鬼から受けた呪いで目を覚まさず、ずっと屋敷の奥で眠り続けている…と教えられている。
西歌のお頭はそんな状態だが、里の状態はもっとややこしい事になっていた。
改革の途中で、音頭を取っていた西歌のお頭が人前に出られなくなっちまったからな…。元々、改革だって全面的な同意を得られていた訳じゃない。だからこそ、反対勢力を黙らせるため、俺に大暴れさせたんだ。
急遽、里長代理と言う事で紅月が里を纏めているが、このまま改革を進められる筈もない。紅月がどれだけ頑張っても、恐らく現状維持止まりだろう。それでも、以前よりはよくなっている…とは紅月からの手紙の弁だが。
…にしても………やっぱあの時の、朝飯の為に討伐しなかった大物鬼か…!
言い出したらキリがないとはわかっているが、あの時に一戦交えておけば…せめてどんな鬼が居るのか、情報だけでも持ち帰ってりゃ、対抗策の一つも備えておいただろうに。
ああああ、こんな後悔久しぶりだ…イヅチに因果を喰われてるからか、シリアスな後悔自体殆どした事ないんだよな…。
こんな後悔を抱く事自体、自分の力に依って立っているモノノフに対する侮辱だとはわかってる。戦ったのも決断したも、相手がどうあれ力量が足りてなかったのも、結局は西歌のお頭の責任だ。
だけど、なぁ……朝飯と鬼を天秤にかけた結果がコレだぜ。よりにもよって朝飯、ブレックファスト。そりゃ飯は大事だけどもうちょっと別のコトだったらここまで妙な気分にはならなかった気がする。
はぁ……ん?
…そういや博士はどうしてるんだ? あいつでも呪いを解くには至らないんだろうか。
いや、そもそも寝込んでるんだと思って…でも「何かある」って気付くよな。気付かなくても、呪いを解こうとする…か?
里人からは魔女と呼ばれてあんまりウケは良くないが、それでも医者なんだし、診察くらいさせると思うが…。
…確か、鬼の手って元は異界を浄化しようって考えで作ったものだったな。攻撃と移動にしか使ってなかったが…こいつでどうにかできないもんかな。
ま、返信に書くだけ書いておこう。
さて、マホロバの事は一旦置いといて。
…なんつぅか、その、ホロウがちょっとヤバい気がする。具体的には、虚海に手ェ出したのがバレた気がする。
そりゃね…何度か乱交に巻き込んだしね…。まぁ、そこは虚海自身がもう受け入れたと言うか染まったからいいんだけど。
ホロウには性的行為に忌避感は無いらしいが、それでも妹分に不埒な事をされた、と言うのは受け入れられる筈もない。まだ確信には至ってないようだが…。
…これ、仮にバレたとして…デスワープしたら無かった事になるかな? ホロウって時間跳躍してイヅチを追ってるんだし、案外繰り返しに影響されないかも。
下手すると……次のループでホロウと会った時、いきなり顔面を射抜きにくるとか?
あ、実際に初対面の時に発砲しやがったわアイツ。
うーむ、自分からやらかしといて何だが、今後も長い付き合いになるかもしれない相手に、悪感情を抱かれるのは良くない。
…ホロウも引き摺り込むか? 虚海を嗾ければ、割とアッサリ引っ張り込めるような気もするし。
性交を拒んでいるのも、必要が無いから・何より妊娠したら戦えなくなるから、という実も蓋もない理由だ。
ヤっちゃうべきかなぁ…。
まぁ、俺が狙撃されるかホロウが懐柔されるかは本題じゃないんだ。問題なのは別の事。
そもそも、コレは初穂が持ち込んできた噂話なんだが、妙な夢が流行っているらしい。夢が流行るというのもおかしなものだが、実際に流行っているんだから仕方ない。
色々な人が、皆揃って同じような夢を見ているのだ。夢なんざ見ても覚えている方が珍しいモンだが、「こんな夢を見たんだ」「ああ、そういえば似たような夢を見たような」「言われてみれば私も」「ごめん、夢精してたから多分いい夢みてたと思う」「こっちくんな」等の会話が頻繁に交わされ、それを聞いた人も…これが原因なのかは分からんが…同じような夢を見始める。
ちなみに、夢の内容は単純。真っ暗な穴の中に、ゆっくりゆっくり落ちていくだけ。その先がどうなっているのかはまるで分からない。そもそも、周りも真っ暗だから、自分がどんな風に落ちているのかも分からない。ていうか、そもそも『穴』ってのも、何がどう穴なのか分からない。夢で作り出されたシチュエーションだから、意味不明なのは仕方ないが。
単なる夢だろ…とは言えないなぁ。夢を操る鬼も居るし、予知夢とか見るモノノフも居るし、そもそも皆で同じような夢を、しかも毎晩一斉に見るとか、明らかに何かのフラグである。
これについて調査を進めてはいるが、手がかりが少なすぎて正直どうしようもない。夢の内容だって、「まっくら」「落ちる」の二言だけで説明できるんだもんなぁ…。せめて誰かの声がするとか、アクションがあれば…。
それと、術や鬼に詳しい頭のいい連中が、これらの夢を見ていないのも痛い。分析しようにも、ただでさえ朧な夢を、伝聞で聞いてるだけじゃな。
…そう悩んでいたら、樒さん・ホロウ・虚海の3人で、何やら話し込んでいた。何か心当たりでもあるんだろうか? あるなら早めに教えてほしいものだ。…え? 何? 諸事情により、俺にだけは教えられない?
…何でいきなりハブられてんの?
寂滅月
奇妙な夢は相変わらず、どんどん広がっているようだ。しかし、肝心のリアクションは一切ない。夢の内容も全く同じで、相変わらず落ちていくばかり。
人によっては、「空中浮遊している気分」と楽しんですらいるようだ。やっぱり、夢を見るだけとあっては、鬼の仕業だとか、危険があるかもしれない…だとか、実感しにくいのかな。いや、それにしたって危機感が妙に薄いような…。
現状、危険らしい危険が無いから、触鬼の殲滅に集中する、という理屈も分からんではない。
今現在で危険なのは、どう考えたって無限に増殖する鬼達だし、夢の調査となるとそこから更に人手を捻出しなければならないだろう。はっきり言って、手が回らない。
潜在的な危険という意味では、明らかにこの夢の方がヤバいと思うんだけどな。何せ、既に里人の6割以上がこの夢を見るようになっているのだ。その全てが同じものかは分からないが、毎晩同じような夢を見ているのは事実。
万が一、これが百日夢のように、ある日突然目覚めなくなるような現象に発展したら……それだけで里の機能はマヒしてしまうだろう。
それが分からない大和のお頭じゃないんだが……やっぱ物理的な限界はあるよな。
文句を言っても始まらないし、俺達だけでも異変の調査をしておきますか。
なんて言ってたら、もう答えが出てたよ…。
何だよ、昼寝して起きたらこの光景って…。
あっちこっちから、光が立ち上っている。見ている分には綺麗なんだろうが、俺としてはのんびり見惚れる気にはなれない。今まで、何度この光景を見ただろうか。俺が覚えていない光景もあるだろう。
イヅチカナタの因果略奪能力…。来やがったな。
今までは分からなかったが、色々言われてきた為か、はっきりと分かる。俺から何らかの因果…感情とか記憶とか、そういった見えないモノが引きはがされていく感覚。こうしている間にも、因果を奪われているんだろう。その為に、怒りや憎悪が軽減されて、ブチ切れ状態にならずに冷静に行動できている…というのは皮肉なもんだ。
と言ってもなぁ…どうしたもんだろうか。舞い上がっていく光が向かう先に、イヅチカナタは居るんだろうが………空の上だしなぁ。鬼の手使っても、まだ届きそうにないくらいの上空。雲の上。
そこに、大きな丸くて暗い穴が開いている。
空に穴が開いている。世直しは始まらないだろうけどな。ヒーローも絢爛舞踏も来てくれそうにない。
何せ、あそこの先に居るのはクソイヅチだ。
真っ暗な穴に落ちる夢、か。夢じゃなかった訳だ。
里人が見ていた夢は、因果をゆっくりと引きはがされ、あの空の穴に吸い込まれていく自分の姿だったんだ。
「そうだ。あの先が、イヅチカナタの寝床よ」
…虚海!? なんでお前無事…ホロウも?
「私達だけではありません。樒も無事です。…と言うより、私が無事なのはともかく虚海が平静でいられるのは、樒のおかげです。基礎理論は私達から提唱したとはいえ、この短期間でイヅチカナタの能力を防ぐ結界を張る…。いい腕です。本当に…。それとは関係なしに、貴方は無事のようですが」
ああ…そういや、マホロバの久音さんからも、すごい術者だって言われてたっけな。
いやそれはどうでもいいけど。
いや、それよりも皆はどうしてる!?
「…記憶の消失、人格の混濁を認めます。残念ですが、状況は最悪…の一歩手前です」
…んっとにあのクサレイヅチはよぉ…!
「落ち着け。事ここに至っては、私も協力を惜しむつもりはない。イヅチカナタには、私としても因縁があるのでな…。それまで食われるのは御免被る」
因縁?
「…空を見い。あの穴が見えるじゃろう。因果を吸い込む、あの忌まわしい穴が。……私はな、あの穴に落ちたのさ。真っ暗で上も下も分からず、何をしているのかされているのかも自覚できない。ただ只管に流れるだけのあの空間で、どれだけの時を過ごしたか分からん。ホロウと共に戦ったあの時は、空ではなく地に空いた穴だったか。あの先は、『あちら側』…鬼の住む世界よ。人が入ってはならぬ領域よ。呑み込まれる前に、この状況を打開する」
はっ、ヘタレの分際で仕切るじゃないか。だが異論はない。
里の皆の魂を喰われるなんざ御免だぜ。例え繰り返しすれば全て無かった事に出来るとしてもだ。
とは言え、あの空の上の穴までどうやって行ったものか…。
「それは簡単です。危険な方法ですが、確実でもあります。自分から、あの穴に落ちようとすればいいんです」
「幽体離脱、と言えば分かりやすいかの。出来ぬのであれば、我々が助力しよう。体はここに留まるが、精神と魂はあの穴間近にまで行ける。そこであれば、捕らえられている因果を幾分か解放できよう。無論、それだけ因果略奪の力に晒される危険は高まる。…それを押し退けて成し遂げる事ができるのは、おんしと、ホロウと、私のみ」
イヅチカナタの能力に、多少なりとも抵抗力があるから…か?
ホロウはそう設計されてるんだろうし、虚海は…呪われてその力を宿したから。俺は……何だろ。
「それだけ揉め事に多く巻き込まれ、良くも悪くも強い結びつきを得たと言う事ではないか? …まぁ、なんじゃな。初穂と那木とグウェンは、夜毎の遊びを今からでもやってやれば、戻ってくるんじゃないかの」
…理屈で言えば、割と通ってるから困る。オカルト版真言立川流万能説。いや、むしろ俺の手法がそこまで高まったと思えばいいのか? ……中伝の囁きの術に手を焼いてる程度じゃ、高まるも何もありゃせんな。俺はまだまだ未熟者。単にエロが万能なだけだ。
とは言え、今からお遊びするには時間が足りんな。怨敵を目の前にして、腰振ってる気分にもならないし。
よし、そんじゃ行動開始ですな。各々準備は?
「問題ありません。…ですが、短時間で何度もあの穴に近づくのは危険です。交代で出撃するべきです」
一度に全員を引っ張ってこられるかも分からんしな。となると、最初に行くのは…。
「私とホロウだ。おんしがあの穴に近づけば、それこそイヅチカナタがこれ幸いとやってきかねん」
…近付けないやん、俺。
戦力の逐次投入は愚策だが、交代で戦うのにも一理はある。大抵の鬼なら、俺にせよホロウにせよ虚海にせよ、一人で叩き潰せるからな。逐次投入もアカンが、戦力を過剰投入して息切れするのも愚策だ。
…ちっと気になる事もあるしな。
「では、樒の元に行きましょう。祭祀堂からあの穴に飛びます。…まぁ、一見すると寝ているようにしか見えないのが難点ですが」
幽体離脱だからね。仕方ないね。
さて、そんな訳で祭祀堂までやってきたのだ。樒さんは相変わらず、大麻を左右に振っている。…タイマと読んではいけません。
普段と違うのは、いつも眠たげな顔つきが、非常に真剣なモノに代わっている事。それだけ自体が逼迫いしてるって事だ。
…で、その延々と大麻を振り続ける樒さんの前で、横になって目を閉じている二人。幽体離脱して戦っているらしいんだが……言っちゃなんだが、死体にしか見えん。そして、樒さんの大麻振りも何かの儀式にしか見えなくなってきた。
なんだ、死者蘇生かゾンビ作成でもする気か。いや死んでない、今まさに戦ってるんだけど。
…さて、それはそれとして、気のせいかと思ってたんだが…里で誰か動き回っている。動くだけなら、意識の混濁した人達が、妙な幻相手に戯れているんだが、そういう動き方じゃない。明らかに意思を持って、目の前の現状を理解して歩いている。
ついさっき、視線を感じて確信した。誰かが居る。
…そこ。
祭祀堂の隣の茶屋から爪楊枝を一本失敬し、視線の元に向かって投げつけた。
「ほぉう……これは驚いた。本当にこの中で動けるのか」
そう言って家の影から現れたのは……識? 相変わらず悪人顔のオッサンだ。
いや、それよりもこいつ何で…。
イヅチカナタの力を弾けるのか?
「いいや、残念ながらそれは私にも出来ん。現に、私がなぜこの里に居るのか、お前が誰なのか…大方この里のモノノフなのだろうが、その名前も思い出せん。ただ、少々因果を吸われた程度で、私は何も変わらないというだけさ」
…なんだこいつ。ホロウに妙に絡む事もあり、アレな性癖の人か、それとも妙な特技を持ってしまった変態スレスレの超人かと思ってたが、そういう次元じゃないぞ多分。
因果を奪われながらも、イヅチカナタと戦う事なら出来た。俺だけじゃない、以前の千歳も短時間ではあるがやっていた。しかし、抗うでもなくその効果を受けながら、平然としているなんて…。
因果を取られているという状況にも気づいていて、一部とはいえ記憶が失われ(本人申告でしかないが)ているのに、この冷静さ……いや、他人事のような目付きはなんだ。
…内面観察術を使うが、どうにも上手く読み取れない。辛うじて読み取れたのは………失望? 何に?
識は横たわって動かないホロウと虚海に目をやり、次いで俺、俺の後ろで大麻を振り続ける樒さんに目をやった。
「ふむ…これがイヅチカナタの因果を奪う力。かつては一国、或いは世界一つを滅ぼした力。確かに強力ではあるし、脅威でもあるが…足らんな」
…足らない? 何に?
「何、気にしたところでどうしようもない事だ。知りたいのであれば、この状況を何とかして見せる事だ。それではな」
ハァ!? おいおい、アンタ霊山の軍師だろ! 鬼を討つ鬼を率いる軍師だろ!
と言うかイヅチカナタの事まで知ってんのに、放置してどっか行く気かよ!?
「生憎、この状況では私に出来る事など何もないのでな。無駄な犠牲を出さない為に、さっさと退かせてもらおう。何、もののついでだ。一人二人くらいは連れて逃げよう。ではな」
一方的に言い捨てて、識は姿を消した。立ち去ったのではなく、瞬間移動的な感じで。…懐の赤い玉に触れたのが見えたが……なんか引っ掛かるな。
引っ掛かるっつーかこの状況が明らかにおかしいんだが。何者だありゃ…。妙な技術を持っているとは聞いていたが…。
…いや、今考えるべきはそこじゃないな。識の事を探らにゃならんし、それ以前にこの状況を見捨ててとっとと逃げた事について霊山を通して抗議させてもらうが、イヅチをどうにかしない事にはどうにもならない。
もしもこのままデスワープしちまったら、識の敵前逃亡の事だって無くなってしまう。報いをくれてやる為にも、とりあえず生きる。
「…行ったわね」
樒さん? 集中しきって気付いてないかと思ってた。
「そう演じていただけよ。…あの男、相変わらずのようね」
知り合いだったのか?
「随分前、修行中に少しだけ。あちらは覚えてないでしょうね。…当時から全く姿が変わっていなかったから、私は分かったけど」
姿が変わってない…。虚海のように鬼に呪われでもしてるんだろうか。
陰陽方とも繋がりがあるようだし、そっち系統の術を持っていてもおかしくない。
「……ん」
! ホロウ! おお、虚海も起きたか。首尾はどうだ?
「…ああ、問題ないよ。いつぞや見た、あの真っ暗な穴をもう一度見る嵌めになるとは思ってもみなかったが」
ああ…虚海にとっては、地獄の始まりにもなった穴だもんな。そりゃトラウマにもなるわ。
「虎馬とは揚げ物にしてみたくなる名前ですね。ともあれ、まずは木綿、那木、橘花を連れ戻しました。今頃、それぞれの場所で正気に戻っているでしょう」
人選の理由は?
「木綿はモノノフとしての力もなく、生命力も一般人並です。最も危険であると判断した為、最優先で連れ戻しました。那木は傷を負った際の治療役の確保。橘花は神垣の巫女である為です。結界を再稼働させねば、現在のウタカタはまるで無防備です」
「休んでいる暇は無いぞ。他の者達も連れ戻さねばならん。今度はおんしとホロウで行け。私は、正気に戻った者達を集めてこよう」
ああ、頼む。んじゃ樒さん、術をかけてくれ。頼むぜ。
「…貴方に術は効きにくいのだけどね…。無数のミタマが、訳が分からない程に群がっているから」
…あー…そういやのっぺら連中がそんな状態だったな。あんなの英霊じゃない、カボチャだとでも思っとけ。
「煩い南瓜ね。まぁいいわ…。虚海、さっき識がうろついていたわ。目的は分からないし、撤退したようだけど、気を付けなさい」
「あの男が? ……分かった」
歩いていく虚海を見送り、ホロウと並んで横になる。樒さんの術が干渉してきたのが分かったので、相変わらずワチャワチャと好き勝手やっているのっぺら共を静かに……静かにしろよ! ここんとこずっと放置状態だったけど、嫌になる程相変わらずだ!
…とにかく、何とか樒さんの術に乗り、幽体離脱。……考えてみれば、これって魂が肉体から抜けている訳で……死んでるって事にならないか? デスワープしなくて良かったわ…。
それはいいんだが、霊体になったのは初めてだな。モノノフの訓練で、霊力をより強め、扱う為に訓練の一環とされているのは聞いていたが…。
…これ使えば、MH世界やGE世界なら諜報活動し放題だよなぁ…いや覗きするって言ってんじゃないよ。俺、触れられるモノが一番って考えだから。見るだけだとむしろ欲求不満が溜まるのよね。
さて、そんな訳で空に浮いた穴に向かって進み、突入。穴がある高さから考えて、音より早く上昇したって事になるが、霊体に物理法則は(あんまり)関係ないからモーマンタイ。
穴の中は真っ暗で、何も見えやしない。シルバーコード的なナニカ……シルバーコード=魂と肉体の因果と考えれば、割と的を得ている気がする…を辿って進むと、その先に小さな足場が見えた。
そこに着地すると、ホロウも続いて降り立ち、すぐに戦闘準備に入る。……うん、居るな。
ホロウ、ここに居る人と鬼はなんぞ?
「初穂、大和のお頭、タタラさんです。鬼は…先ほどはクエヤマでしたが、今回はダイマエンのようですね」
ダイマエンはウザい文明。破壊する。
…ん? 今、声が聞こえたような………初穂の声?
「因果を奪われ、記憶が混濁した状態で、魂ごとこちらに取り込まれているんです。…見てください、あの穴を。以前の戦いで、千歳が落ちた穴があれです。…初穂は、一度時を飛び越えたと聞きます。恐らく、初穂も知らない間にあの穴を潜り抜けてしまったのでしょう」
………あの穴が…………なぁ、ホロウ。あの穴から何が出てるように見えるか?
「? いえ、穴には何も出入りしていないようですが。時代を飛び越える者など、そうそう居ませんし」
…そうか………。
俺には、のっぺらがあの穴から出てきて、どんどん俺に流れ込んでるように見えるんだけどな。空を覆いつくすのっぺら……はっきり言うけど、色々放り出してもう帰りたくなっている。
…いや待て、ホロウには見えてないのっぺらの事も気になるが、記憶が混濁した状態って事は…。
確か、GE世界で持っていたレコーダーがここに…あ、でも今霊体だしな…。まぁ記録できれば儲けものか。
さて、クサレイヅチが乱入してくる事もなく、無事にダイマエンを撃退。その後、ホロウが虚空に話しかけて「貴方の大切な物は何ですか?」と聞いていた。
それに応じるように、初穂達が戻って…きたのか? 幽霊が現れるみたいに、ボヤけたモヤが出て、それが実像を結んだと思ったら初穂達。で、それがまたスーッと何処かに流れて行った。
…あれで良かったのか?
「ええ、問題ありません。因果を奪われ、消えかけていた自我が戻り、体との結びつきも戻りました。魂が体に引っ張られて戻っていったのです」
ナルホド。分からん。いやイメージ的には分かったけど、何となく言いたくなっただけだ。
で、俺達はここからどうするんだ?
「戻ります。イヅチカナタも、まだこの辺りには居ないようです。居るとすれば、恐らく…」
あの穴の中、か。……やっぱり、あの穴から出てくる大量ののっぺらはホロウには見えてないようだ。この連中が飛び交う空間の中でイヅチとやりあうとか、普通にイヤだなぁ…。
…そういやGE世界でネット空間に潜った時、似たような事があったな。ネット空間に空いた『穴』の先から、大量ののっぺらが入り込んできてたっけ。と言う事は、あの穴はねっと空間の穴と同じだと? いやでもネット空間っつっても、物理的に存在している訳じゃないよな。
まぁ、もう何でもいいか。のっぺら共が鬱陶しすぎて、考え事もできやしない。俺らも一旦帰るぞ。
「ええ。次の戦いは、正気に戻った那木、初穂、虚海ですね。大和のお頭は、もう戦えませんし」
どうせ幽体離脱状態になるんなら、思い込みでどうにかならんもんかね…。
そんな事を考えながら、元の空間に戻っていく。上も下も分からない異空間だけど、何と言うか、「俺の体はこの先にある」って分かるんだよ。それに従って飛んでいくと、いつの間にかウタカタ上空。…無事に戻ってこれたか。
体に戻る前に里をざっと巡ってみると、あちこちで奇行に走っている人が沢山いる。これだけイヅチに因果を取られてるって事だよな…。これ全員助ける為に、延々と繰り返すのか?
どうなん、ホロウ?
「いえ、こうやって助け出すのは、戦力になるモノノフと、戦闘準備に必要な人材のみです。里の皆さんまでは手が回りません。一人一人助けていく間に、まだ因果を奪われて助けに行っての繰り返しです。阻止する術は一つだけ。可能な限りの戦力を集め、元凶を断つのです」
死人を出したくなけりゃ、さっさと仕留めろって事か…。結構キツい話だな。
………? ホロウ、どうした?
「…以前、貴方と博士に話した事ですが…私の中には、人の魂を燃料として動く機関があります。かつて。千歳やオビトと共にイヅチカナタを追い詰めた時、私はそれを使う事を躊躇いました。イヅチカナタにも大きな傷を与えていましたが、味方も壊滅寸前。二度とないかもしれない好機でした。戦術的に考えれば、使うべきです。死んだ味方の魂も、イヅチカナタに喰われるくらいなら私が…と、そう考えていました。…なのに、その時になって私は躊躇ったのです。理由は分かりませんでした。…その躊躇いの隙を突かれ、オビトは死に、千歳はあの穴に落ちていき、イヅチカナタには逃げられました。もしも、同じ事があれば今度は…と思っていたのですが…」
ホロウは視線を下に向けた。そこでは正気に戻った木綿ちゃんを、虚海が祭祀堂に向けて連れて行く姿がある。
「…必要ないようですね。オビト達と共に戦った時以上の布陣です。今度こそ、イヅチカナタを仕留めます」
ホロウ…。
今度は躊躇わないようにって事は、まだ俺をちょびっと齧ってみようとか思ってたな?
…おい、目を逸らすな。
「…このままイヅチカナタを倒せばいいのです。自分でも無数のミタマの集合体と認識しているのですから、ちょっとくらい削れても大丈夫です」
おい待てコラ! あっ、肉体に戻りやがった! …くそ、絶対後で問い詰めてやる。
…いや、問い詰める前に、どっか行きやがった識の事も話しておかなきゃならんな。