P3G月
珍しいモン見た。いやそれ程彼女の事を知ってる訳じゃないんだが。
今日の朝、狩りに行く前にちょっと散歩していた時の事。バッタリ会ったルーディに、抱かれてもいいから霊力の使い方を教えろと迫られていた時の事だ。
もうさっさとヤッちゃおうかな、この人なら多少中毒っぽくなっても多分気合でねじ伏せるか、楽しみが一つ増えた程度にしか思わないよなー…とまじめに考えていると、見覚えのあるちっちゃい背中を発見した。しかも3つ。
人間よりも明らかに小さいその背中は、3匹がトーテムポールみたいに重なっている。
…おうそこのアイル-トリオ、何やってんねん。
「ニ、ニャ……おお、久しぶり…ニャ…重いニャ…」
「静かに! 歌姫様に見つか、お、おお、トッツイ動くんじゃニャいニャ…」
「お前もニャ、バッシ。全く、アイルー一人すら持ち上げられないニャんて、鍛え方が足りないニャ」
「ワタクシは頭脳労働担当なのニャ! 大体、トッツイが一番下なのはいいとして、何でワタクシがモービンを持ち上げニャきゃいけないのニャ!」
「静かにしろよぅ。歌姫様も頑張ってるニャ」
「うぐぐぐぐ…!」
アイルーって大樽爆弾も普通に持ち上げるから、アイルー一匹分くらいの重さくらい余裕だろうに…。
「…誰だ?」
ああ、歌姫…って知ってたっけ? とにかく、メゼポルタ広場に滞在しているお姫さんのおつきのアイルーだ。
「姫? そんなものがフロンティアに来ていたとは初耳だ。興味もないし」
ああ、アンタ戦い以外に興味なさそうだもんね。
つーか、歌姫サンって実際のとこ、公的な立場とか後ろ盾とかあんのか?
「故郷を古龍に滅ぼされて落ち延びたオレ達に、そんな物ある訳ニャいニャ。歌姫って呼ばれてたのも俗称だし」
ま、野生の王族がその辺にいても困るしな。特に何処ぞの国の第三王女みたいなのが。…あれ、トッツイも負けず劣らず鬼畜な理由で依頼出してたような気もするよ? まぁ、そこは手打ちにしたからいいけど、今後もなんかやらかしそうな気はするんだよなぁ…。
で、お前らこんなトコで、3匹そろって何やってんの? 何かに牙を剥く気なの?
「そんな筈ニャいニャ。オイラ達は無害なアイルーだニャ。…いやその、コーヅイさんを初めとしたハンター達に迷惑かけたニャが、今は反省しているという事で一つ」
…まぁ、ギリギリセーフって事にしよう。あの後はやらかしてないみたいだし。
で、結局どうした?
「ワタクシ達が揃ってニャにをするかと言えば、歌姫様のお世話に決まっていますニャ。ほら」
バッシに指さされて見てみると、そこには………歌姫サン? だよな? 髪型も違うし、服もいつものドレスだか舞台衣装だかわからないものじゃなくて、もっと動きやすいジャージに見えるんだが。
で、何をやっているのかと思えば……息を切らしながらもゆっくり走って……腰に下げている鞄から、貸家の前のポストに紙を………って、新聞配達かい!
「牛乳配達とどっちにするかで迷ったけど、こっちならコケても割れたりしないからニャ」
あ、コケるのは確定事項なのね。…よく見たらジャージに土ついてるし。
というか、本当に何やってんだ一体。
…あのルーディさん、一応知人の事なんで、「どうでもいいし興味もないから、早よ教えろ」は後にしてください。片手間でもできる訓練を教えるから、ちょっと黙ってて。
とりあえず、どんな力を使いたいのか、具体的に考えなさい。最初は単なる妄想でもいい、「こんな能力があったらいい」と想像して欲するだけでもいい。それをどんどん具体的にしていってくれ。
…さて、厄介なのもとりあえず静かになったし、ありゃ何だ?
「見ての通り、新聞配達ニャ。歌姫様が自分からやると言い出したニャ」
「この前の喧嘩が原因だろうニャぁ。いや、お前さんが上手い事焚きつけてくれたニャ」
あー…そういや色々言ったなぁ。で、せめて自分の生活費くらいは稼ごうと、新聞配達ってか。
「それもありますが、多分言われっ放しが悔しかったのニャ。歌姫様は、あれでかなりの負けず嫌いですニャ」
「お金を稼げて、運動にもなる仕事を! って言われた時には、どうしたものかと思ったニャ」
「ま、歌姫様の体力を考えると、これでもキツすぎるくらいニャ。どれだけ引き籠って出不精してたか…」
デブ症? 豚? というお決まりの反応は置いといて、真面目に大丈夫か? 新聞配達にせよ牛乳配達にせよ、冗談抜きでハードだぞ。しかも乗り物さえ使わず、自力で走ってるし。
「今日で三日目ニャ。初日は試用期間で少な目だったノルマを、先輩に手伝ってもらいながらヒィヒィ言いながらやり遂げて、帰ってくるなりブッ倒れたニャ。二日目は筋肉痛に悩みながら、時間を大幅にオーバーしながらやりきったニャ。今日は定時より3時間早く初めて、もうちょっとで配り終わるニャ」
…マジか。装備やノルマ、配る範囲によっては下手な狩りよりキツイって聞いたぞ。命の危険がないだけマシだが…というか、夜中からずっと配ってんのか。そしてお前らはそれを見てるのか。
「悪党はどこにでも居るからニャ。何かあった時の為、途中で倒れた時の為、こうして草葉の影から見守っているのニャ」
それお前らが死んでるって表現だからな。
「? 狩場で草木に隠れるように、と言ってるだけニャ。ともかく…まだ吹っ切れた訳ではニャいけど、歌姫様がああやって外で動いているだけでも良かったニャ」
これからも続くと思うか?
「きっと続きますニャ。火が付いた歌姫様は、ヒジョーに情熱的な方ですニャ。…それに、自分でも体力が落ちすぎている、と驚いていましたしニャぁ。以前ニャら、新聞配達も牛乳配達も同時にこなせるくらいの体力はありましたニャ」
マジで? てっきり、箸より重いものを持ったことの無い箱入り娘だと…。
「チッチッチ。あれで歌姫様は、トキシを探すための旅にも普通についてこれたんだニャ。小さなころはヤンチャだったし、舐めちゃいけないニャ。結構体力派なのニャ。他のスペックも、かなり高いニャ」
そういやそうか。歌を歌うのにも体力は要るしな。
……あれ、そういや呪いを解くための儀式とやらはどうなった?
「あー……その…申し訳ニャいですニャ。もう試してみてしまったニャ…。是非とも呪いが解ける瞬間に立ち会ってほしい、なんて言っておきながら…」
いやそれはいいよ。…言っちゃ悪いが、それで呪いが解けるとは、正直思っていなかったしな。…で、実際解けなかった訳だ。
「ニャぁ……。ワタクシの面目、丸つぶれですニャ…。歌姫様がお元気になられるなら、そのようニャものは些事ですが…。よもやあの大悪と……ンンッ、トキシと歌姫様が恋仲だったとは、見抜けませんでしたニャ…このバッシの目をもってしても」
その言い方はよぉ…いや世が世ながら傑物なんだろうけどね。相手が世紀末覇者と救世主相手じゃ、真っ当な戦術論なんぞ通じないのも当たり前だわ。ところで、一体何処が『海の』なのか未だにわからない。
で、それはいいとして、これからどうする気だ? 呪いじゃなくて色恋沙汰の拗れ、しかも当事者がMIAと来たら手の打ちようがないだろ。
「それニャんですが…暫く歌姫様を静観しよう、ということになりましたニャ。見ての通り、歌姫様は今、閉じこもっていた部屋から出て、何かをしようとしている最中ですニャ。これだけでも大きな進歩ですニャ………家計的にも」
うんそうねゴクツブシのニートがバイトするようになっただけでも大きな進歩ですもんね。下手な事せんと、様子見するのはアリだと思う。せめて経済的に安定するまでは。
うぅむ……豚になる、の一言が効いたか?
「ああ、オンナに対してこれ以上の劇薬は無いニャ。…あの後、自分の体を触って顔を引き攣らせていたのは、見なかった事にするニャ」
まじめな話、もうちょっと肉つけた方が健康的だとは思うけどな。それも贅肉じゃよろしくないか。
ま、どこまでやれるか、見せてもらおうかね。んじゃ、悪いが俺はもう行くぞ。あんだけ暴言吐いた手前、いきなり顔を合わせても、あっちも気分悪かろう。
「気を使ってもらってすまないニャ。今度、旅の途中で手に入れた上等な酒でも持っていくニャ」
マタタビ酒なら、サムネ夫妻にやってくれ。そんじゃ……「狩りに行くぞ」……あの、ルーディさんなんすか。
何? イメージトレーニングはもう終わった? むしろ日常から夢の中までオールタイム?
いやアンタがそういうなら、間違いなくそうなんだろうけど、それだけで使える訳じゃないぞ。………はぁ、朝起きて体操して牛乳飲んだら狩りに行って、戻って飯食ったらまた狩りに行くのが日課? 霊力については、一狩りしてスッキリしてからまた考える?
……なんだろう、本気で逆らえる気がしない。というか、この行動…かつてのGE世界での俺を思い出すような…。
ああわかったわかった、一狩り付き合いますよ。でもちゃんとギルドの依頼内容は守れよ!? 「あっちにモンスターが居るぞ!」とか言いながらG級領域に 突っ込んでいくような真似をするな…………あれ、物凄く身に覚えがあるよ? ……ま、いいか。それはそれ、これはこれ。他人がやるのは悪いが、自分がやるのは良し、というのは万人共通心理だしな。
狩場に行くまでに、どんな能力を考えたのか教えてくれい。…まぁ、考えたからってそれが実現できるとは限らないけども。
…狩ってきました。意外や意外、どこまでもモンスターを狩りつくしそうだったルーディだが、意外と狩りの量自体は普通だった。いや十分多いし、遷悠種を6体くらい見つけて狩ったんだけど。アレについては、むしろ生態系に妙な乱れを起こさない為の処置と言えなくもない。
腕前は流石の一言………と、言えればよかったんだけどねぇ。
いや強いし上手いんだよ? でも上手すぎて参考にならないタイプだアレ。動きや戦術論が独特すぎて誰にもできん。判断基準がさっぱり分からん。気が付けばベストな位置、ベストなタイミング、意味不明なチャンスを確実にモノにする。
そんでもって、彼女が欲した能力は二つ。より高く飛び上がる能力と、爆弾をそこまで持っていく能力。
そういや、ミーシャも『飛び上がってからの奇襲に定評がある』って言ってたっけな。それを強化するつもりか。
それはいいんだが……出来るかなぁ。原理的には、そこまで難しくないんだ。飛び上がる方法一つにしたって、身体強化による跳躍から、鬼の手みたいなのを使って引っ張り上げる、足場を作る、壁を走る、モンスターの体を駆け上がる、高いところから滑空する等、方法は幾らでもある。
問題なのは、必要としている能力の高さだ。飛び上がる能力にしたって、速度は遅くてもいいからリオレウス以上の滞空時間と高度がほしいって言ってるし。爆破に至っては、一撃でモンスターを部位破壊できるくらいがいいそうだ。一撃で仕留める、と言わないだけマシなんだろうか。
どうすっかなぁ…。どっちか一方なら、特化して鍛えていけば何とかなるかもしれないが。後者に関しては、回数制限やチャージ時間が非常に厳しくなりそうだし。
せめてどっちか一方に出来ないのか、人間は同時に何かを鍛えられる程器用ではない……と伝えたところ。
「だったら、お前が一方を担えばいいじゃないか」
………こっちの都合ガン無視なのはともかくとして…2人で一つの能力…いや、この場合は二人で能力を組み合わせるのか。うん、その発想はなかったわ。役割分担は狩りの基本なのにな。
アイデアとして、二人係での能力ってのも…鬼千切・極みたいなものだと思えば、練度はともかくそう難しくもなさそうだし。
でもなぁ……ルーディの相棒か…。いつも同行できる訳じゃないってのもあるが、ものすごーく振り回されて苦労しそうだな。特に川のある狩場には要注意だ。なんか水中からガノトトスに足を引っ張られたり、水ブレスで狙撃されて沈みそうな気がする。………あ、俺って水中でも呼吸できたっけ。
…なぜだろう、自分がやってきた事が全部ブーメランで戻ってきている気がしてならない。いや何故も何も、わかっちゃいるんだけども。
まぁ、何にせよ……ルーディの言葉でアイデアが出たからって、それに気を取られたのは失策だった。言葉に詰まったのを見逃さなかったルーディに、一気に押し切られた。
「その沈黙は出来るということだな?」と突っ込まれ、あれよあれよという間に……。
ベッドに連れ込まれてしまいました。しゃーないやん。コレが一番手っ取り早く、霊力を実感させる方法であるのは確かなんだし。断ろうったって、この人に逆らえる気がせーへんねん。
しかも外堀も埋められてるしよぉ…。ミーシャとマオとの関係がある事は知っていて、更にその二人から許可も出ていて、本人は未経験ではあるが「急降下爆撃の強化と完成の為には、純潔くらい安いもの」と言い切ったし。
ベッドの上の事に関しては…すまないが、あまり語る気はない。なんつーか、とてもとても畏れ多い方と睦んだような、世界的に有名なスーパーモデルと寝た思い出ができたような、そんな気分だ。
まぁ、容赦なく乱れさせた訳ですが。体力や精神力は桁外れだったが、流石に素人にコッチで負けはしない。オンナ関係で何度も破滅した俺が玄人なんぞ、鼻で笑われそうだが。
締りとかテクとかはともかくとして、特筆すべきはやはり精神力か。コトが終わった後は、何事もなかったかのようにケロっとしており、「うむ…なるほど、これが霊力か。早速試さなければ!」とそのまま狩りに行ってしまった程だ。後始末くらいしろよ。急降下爆撃に、股から漏れた白いのが混じってたら、モンスターが哀れすぎるわ。
ちなみに、コトの感想はというと……「今までで受けた中で、最高のマッサージだった。また頼む」だそうな。かなり乱れてたんだけどな…。それであの反応だもの。うむ、俺もまだまだ精進が足りん。
というか、霊力の存在を感知した瞬間から、ある程度操作できるようになってたが……流石にまだ具体的な能力は発現できてないよなぁ…。
P3G月
今度はジェリーが来た。ルーディにやったんだから、自分もいいじゃないか、という理屈だ。
何かと速度に拘る彼女としては、自分よりも先にルーディが霊力を会得した、というだけでも気になるらしい。まぁ、そのルーディは速度に興味がない…『遅くてもいいから』なんて言うくらいだし…為、ジェリーもそこまで焦ってないが。
で、例によってミーシャからの許可も得ているらしい。マオはノーコメントだった……先日の言動を考えると、消極的黙認? むぅ……なんつーか、本人は覚悟してると言ってるが、影で泣かせてるみたいでちょっと居心地悪いです。
「大丈夫だと思うけどなぁ。思いつめた顔なんかしてなかったぜ」
…そりゃ、ジェリー本人にそういう顔は見せないだろうけども。
「いや、あの人かなり顔に出るから。…まーアレだ、そんな事言うなら、未来の家族のサービスにでも行ってやったらどうなんだ? 旅行とかさ。あの二人だって、喜んでついてくると思うけど
旅行…旅行かぁ。いい提案だとは思うし、そういう関係の男女が(複数だけど)一緒に行くのも常識的だと思う。猟団の維持も、2~3日程度なら開けても問題ないだろう。
「なら決まりだろ。釣った魚に餌をやらない男は最低だぞ。フロンティアにだって、観光地は結構あるんだ。大体モンスターに喰われる危険と隣り合わせだけど」
…言いたい事は分かる。それ普通の狩りと変わらないだろ、ってツッコミも呑み込もう。
ただ、マジな話なぁ…。俺がどっか出かけて帰ってきたら、メゼポルタ広場が超巨大モンスターとかに襲われて壊滅してそうな気がするんだよ。
「…なんだそりゃ? 自分が居ないと、モンスターに勝てないとでも?」
いや、そんな事はない。いくらG級になったとは言え、フロンティアの中じゃ高く見積もっても中の下ってトコだ。俺が居ても居なくても、襲撃してきたモンスターは返り討ちにできるだろう。
…ただ、そんな事が昔何度かあってな。
確かあの時は……用事があって他所の土地に出かけて、戻ってきたらラオシャンロンが迫っていた。元カノと一緒に旅行に行って戻って来たら、今度はシェンガオレンが遊びに来た。更にもう一回出張して戻ってきたら、ルコディオラに襲われて壊滅状態、元カノとも…。
「あー…すまん、悪い事聞いてしまったな。しかし、それだけとんでもないモンスターが連続で襲ってきた土地なんてあったか? 特にルコディオラなんて、つい最近確認された超希少な古龍じゃなかったか」
あんまり知られてない土地だったから、記録に残ってないんじゃないか? 下手すると、村の存在自体、公式記録に残っているかが怪しい(と言う事にしておこう)。
そういや、その後ハンターになるまで色々あったけどやっぱり他所に出掛けて戻ってみたらエライ騒ぎになってた事が何度かあったな。ったく支部長め、俺を騙して妙な土地に送り届けやがって…走って戻って来たけど。
とにかく、そういうジンクスがあって…なるべく遠出したくないんだよ。
「考えすぎだと思うけどね。大体、大抵のモンスターならここの戦力で跳ね返せるんだしさ」
…襲ってくるのがモンスターならいいんだけどな…。いや、大したことじゃない。大地震とかの可能性もあるってだけで。……それが俺の行動で引き起こされると思うのが、既に自意識過剰? 反論のしようもないな。
まーアレだ、教えるにしても日を改めてくれ。もうちょっとで作りたい装備が完成するから、今日は狩りにいくつもりなんだよ。
「なんだ、それなら手伝うから代わりに……って、アンタそういやG級だったっけ。それじゃ、今のアタシじゃ無理だなぁ…。仕方ない、出直しますか」
悪いね。個人的な欲望を言えば、是非ともお相手願いたいんだけども。失礼を承知で言うけど、ジェリーは後腐れとかドロドロした部分は…少なそうだしな。
「褒められてるのかね…。そんじゃ、今日は帰るよ」
……うーむ、いつでもオッケー状態とは言え、もったいないなぁ…。プライドに傷をつけたんじゃないかって心配もあるし。
カラッとして大雑把……もとい明け透けに見えるけど、そういう人種こそ…ってのも考えられる。いや、根っから能天気な奴だと思うんだけど。
…考えても仕方ないか。とりあえず狩りに行こう。
…甘く見てた。フロンティアの女は肉食系が多いなぁ…。