NTD3DS月
ミキが一度実家に帰ると聞いて、彼女の猟団で一悶着あったようだ。俺の意見は、この際関与しない。まぁ、手を貸すと言っておきながら、結局マキにミキの事がバレしまったからな。信用も失うってもんだろう。
…その最大の原因である、ミミとサヲリとやらは石抱き正座のオシオキを喰らっていたようだが。病人の薬を勝手に持っていっちゃったよーなもんだからな…。そりゃシャレにならんわ。
結局、必ず戻ってくるという約束で、里帰りは納得されたようだった。
俺の方は特に問題なし。誰か一緒についてくるか、という話で揉めに揉めたようだが、結局誰も友をつけない事になった。出発日が間近だった為、皆スケジュールが調整できなかったからだ。
とりあえず、戻ってくるまで長くて一週間くらいだと思うんで、その間モンモンとしないように、色々満足させておきました。
具体的には、クロエの自慰を皆で鑑賞しつつ、途中でリアに襲わせたり、前から後ろから密着して触ったり舐めたり抉ったりと、いつもの乱交を。部屋の掃除が大変だろうけど、暫くこっちの仕事は無いんだからトッツイ頑張ってくれ。
さて、実際に領地へ行く訳だが…馬車での移動時間にして、約1日程度。もうちょっと早く動けない事もないが、二人は先に色々話しておいた方がいいだろう。
今後の事もそうだし、フロンティアであった事を話すのもいい。特にマキは、ミキがハンターやってたって事も実感が薄いだろう。
まぁ、ゆっくり話してくれたまえ。俺は昼寝する。ああ、周囲の警戒は昼寝しながらでも出来るから心配なく。
…一昨日の、フラウとミーシャのコンビネーションを夢に見てウヘヘと笑ってたら、蹴っ飛ばされたようだった。どっちがやったのかは分からんが、そんなにイラッとしたか。
それはともかくとして。
リオレイア襲来。
ホイ、ホイ、ホイッときて
「えいっ!」
そして撃退。特に盛り上がりも何もなく終わってしまった。だって、フロンティア個体でもない特異個体でもない、単なる上位程度のモンスターだったもの。
しかし、それでもマキにとっては大きなショックになったようだ。
「これが…G級ハンターの狩りか…」
「あー、お姉ちゃん、あの人は確かにG級ハンターだけど、これってフロンティアでは普通に下位個体相手の狩りだよ? 実際、私でも充分戦えたし」
と言うか、G級の狩りを見た事なかったのか? 代々ハンターを支援する事を目的としている、なんて言ってたからてっきり。
「えっと、私もフロンティアに来て麻痺してましたけど、G級ハンターってそんなに居ませんよ? ギルドの秘密兵器扱いされるくらいですし、数が少ないからこそ重宝されてる訳で」
む…言われてみれば確かに。俺も、フロンティアに来るまでG級ハンターには全然会った事なかったっけ。明確に言われてはないけど、それくらいの力がありそうな人達ならちょくちょく遭遇してたが。
「あぁ……その通りだ。恥ずかしながら、私が今まで会った事のあるハンターは、上位まででな…。しかし、たった2撃で、まさか尻尾を斬り飛ばしてしまうなんて…。本当に、ハンターやってたんだな。得体の知れない力の為とは言え」
「あ、あはは……前に戦った時、尻尾の断面が美味しそうだな、って思っちゃって…つい…」
ミキが腹ペコキャラになりつつある。アラガミ化の為か、元々なのか。
まーリュウノテールとして扱われている食材でもあるから、美味そうなのは確かだが。
個人的には、最近は尻尾よりも羽に興味が出てきた。手羽先的な意味で。
「手羽先だったら、リオレイアよりもよく飛ぶリオレウスの方が…」
む、確かに。ミキも中々いいセンスしてるなぁ。食料の事じゃなくて、狩りのセンスの事だけど。
太刀使いで、ちょっと積極性が足りないようにも思えるが、懐に入り込んでの気刃斬りが妙に上手い。
特に初太刀の迫力は凄かった。構えた瞬間、『ミキ・ウェストライブが太刀をかついだ。ウェストライブ流の必勝の構えである』なんて地の文が浮かんだもの。
「ウチにそのような構えは伝わってないんだが…」
「あの攻撃、猟団の皆にも評判がいいんですよ。決まると、何だか元気が出るって」
気刃大回転斬りの強化が、皆にも普及してるのかな? 何と言うSP狩り技モドキ。
ただ、訓練所で習う正式な使い方とはちょっと違うようだが…。
「あ……はい…」
ん? いや悪い訳じゃないよ? 俺だって、習った事をアレンジして自分用の動きに変えてるんだし。ハンターの体も素質も千差万別なんだから、自分に合ったやり方を探すのは正解だ。
ただ、基本はキッチリ理解しておけよ。下手な所を崩すと、そこから動きが一気にバラバラになるからな。
「…だったら、何処が悪いか見てもらう事は…」
出来るけど、正直言って霊力習得を優先したいな。と言うか、指摘する程悪い所があったら、今までの訓練の間に一言二言くらいは伝えてるって。
まぁ、体の事がどうにかなってから考えようか。
ん? どうした、マキ。そんなに頬を膨らませて。
「…………そうしていると、まるで家族のようだな。私がお姉ちゃんなのに。お姉ちゃんなのに」
「そりゃお姉ちゃんはお姉ちゃんだけど」
親戚のお兄ちゃんポジ、と言うのは以前に言われた事があるが…よし、ならば一歩踏み込んでパッパと呼んでみるのはどうだ?
「……いいんですか?」
応よ! …ちょっとリアクションが予想外だけど、別に問題ねーよな?
(…問題ある…と思うが…何だこれは…。一体どうすればいいのだ…。君は一体、ミキに何をしたんだ…。これはセーフなのか…?)
「………ぱ」
「……パパ…」
気が付けば、安らかに眠るミキを膝枕して馬車に乗っていました。隣には、無表情なままで鼻から赤い筋を垂らしたマキが。
無言でサムズアップした。
しかし、何でこの子はこんなに父性を求めてるんだろうか。俺がお父さん役になってるのは、アラガミ化を止めたり、現状では唯一の同胞だからだったり、ウカムトルムとカチ合って絶体絶命の時に助けに入ったりと、心当たりはあるんだが…。やっぱり家庭環境に問題があったのかなぁ…。
NTD3DS月
ぬわあああああああああああああああん疲れたもおおおおおおおおん! 何だこの一族ぅぅぅ! 特にシキさん! アンタそれでも母親か! いや母親なんだろうけど、なんだアレ! 初対面はダースベイダーのテーマが流れそうな人だったのに、いざ蓋開けてみればやる気のないダースベイダーのテーマしか聞こえなかったよ! 天満鎮守府でもないのに! あ、でも怪物は飽きる程居るな。あそこほどヤバいのも………うん、世界のどこかには居るね。
はぁ、はぁ、はぁ………ああ、なんつぅかアホらしい…。日記なのに息切れを書いても全く不自然に思わないくらいにアホらしい…。
いや、本人達にしてみりゃ重要な問題だったんだろうけどよぉ…。
とりあえず、俺は領主の館の一室で日記を書いている。一ハンターには過剰なくらいに豪華な客室(G級に対する対応と思えば安いもの、と言っていたが)だが、気圧されされるとか気後れすると言う事は全く無い。むしろ気が抜けて、装飾の殆どがコケ脅しに見えてくるくらいだ。
まぁ、家族間の問題が解決したのはいい事だと思っておこう…。代わりに別の問題が発生したような気もするが。
はー、しかし到着してたった一日で話が片付くとは…。まぁその一日が無駄に濃かったんだけどさ…。話が誤解からやたらと拗れて、二転三転して…ああもう、思い出すのも面倒クセェ。面倒クセェけど日記に書いちゃうこの習慣。
とりあえず、ウェストライブ家に到着。マキが前もって、ミキを連れて帰るという連絡をしていたらしく、領主のシキさん……さん付けするのもアホらしい、シキでいいや……にはすぐ面会する事ができた。
ただし、客間に通されるのではなく、家の門の前で、だ。わざわざ馬車を止められてそこで待たされた。
…なぁ、これどういう事だ? 俺の事は知らせてなかったとしても、ウェストライブ家には娘を家の外で出迎える風習でもあるのか?
(そんな訳がないだろう。どうやらお母様が、私達が帰ってきたらここで待たせろと命令していたようだが…)
…まるで、家に帰るのを許さない、とでも言いたげな対応だな?
(いやそんな筈は…。もしそうだとするなら、こうやって待たせるような事もせず、すぐに放逐すると断言しそうだ。とりあえず…すまんが、ミキの手を握っておいてやってくれ。悔しいが、君の方が安心するようだし)
パッパだからな。ミキと、手を握る俺を後目に、マキは領主が出てくるであろう、馬車が通れる程度にはデカい扉に向き合った。
…ん? 今何か視線が…。
む、扉が開く。金属が軋む音が、何かの悲鳴のようだ。…威圧目的で音を出しているのかな。事実、扉の向こうに居る人物から威圧感が漂ってくる。モンスターの圧力じゃない。人を威圧し、制する為に作り上げた気迫。
しかし……この状況で、誰が誰を威圧する?
母が? 家出していた娘を?
それとも領主が? 俺を?
どちらにせよ、何故?
扉の向こうから歩み出てきたのは、長い髪の目付きの鋭い鉄面皮の女。スラッとした黒服に身を包んでいる。…これでサングラスかけて気品が無かったら、福本マンガの黒服あたりに混じってそうだ。
しかし、風格と威圧感は大したものだ。これではモブには混ざれないだろう。
こりゃ、ミキが怯えるのも無理はない。
あの人が?
(はい…私達のお母さん、ウェストライブ領の領主、シキ・ウェストライブです)
ふむ…ん、さっきの視線はこの人だな。…俺とミキの、繋がれた手に一瞬目をやった。
「お母様、ただいま帰りました」
「……か、かえって…きました」
「何故、帰って来たの」
…おいおい、第一声でソレか? 親が子にかける言葉じゃないだろ。そんなどうでもいい事のように…。
事実、ミキも傷ついて体を強張らせている。マキはミキを庇うようにジリジリと移動したが、立ち位置で言葉が防げる筈もない。
…で、俺はと言うと…ミキの手を握り返しながらも、なんか違和感を感じていた。
うーん…? なんだ…この感じ。色々な意味で行き違いがあると言うか、俺に向けられる視線がおかしいと言うか…。それ以上に、この強烈な鉄面皮と威圧から来るプレッシャーの向こうに、明らかに外見と釣り合ってない『ナニカ』があるような…。
さっきから内面観察術で色々読み取ろうとしてるんだが……どうにもうまく……行かない、のか? 感触としては上手く行ってるんだが……これが? この内心が、この人の本音と言うか中身?
ポンコツ…。いやでも領主がそんな…。見た限り、いい感じの領地を治めてたみたいだし…。しかし、能力があっても人格が伴うとは限らないし、その逆もしかり。領主としての能力が破格であっても、私人としてはヘタレである事など珍しくもないし…。
うーん………様子見…と言うより観察するしかないか。一応、この推察が当たっていた場合の事も考えて…。
「お母様! 貴方は、ミキは自分で出て行ったのだから、自分で帰ってくるものと言いました! ですが」
「黙りなさい。今はミキと話しています」
おう、取り付く島もねぇ。しかしミキと話していると言うのなら、ミキが喋ればいい。…ミキ、言いたい事があるなら、この際何でもいいから言っておけ。こんな事を言われるのは…はっきり言えば、ミキの状況が全く理解できてないからだ。
まぁ、アラガミ云々なんぞ予測しろって方が無理だが。
「うん…。お、お母さん」
「…言いたい事があるのなら言いなさい」
「私は……自分でフロンティアに行ったんじゃありません」
「ならば何故フロンティアに居たのです。その男に連れ去られたとでもいうのですか」
いきなり人を誘拐犯扱いしないでほしいな。まぁ、俺を追いかけてフロンティアに来たと言えなくもないが。
「なら、やはり自分の意思で向かったと言う事でしょう。己の立場も家も捨てて出て行ったと言う事は、それだけの覚悟があった筈。もしもその自覚すらなかったと言うなら、もう話になりません。だと言うのに、一月もしない内に泣きついて来る始末。貴方は何のために出て行ったのですか」
「それは、私の意思じゃなくて、確かにフロンティアに留まったのは私の判断だけど、でも「言い訳は結構」………」
「連れて帰って来た相手は、この期に及んで全く話そうとしない。…嫌な事を思い出させる」
…………聞く耳持たずか、聞く価値が無いと判断したのか。
それとも……ハッパをかけてるつもり…か。
…ん? ミキ?
…連れて帰って来た相手…。で、この態度って事はやっぱり…。
「……り」
ミキ、落ち着け、ちょっと気になる事が…。
「やっぱり、私は要らない子なんだ…」
「………」
鉄面皮が、少し揺れた気がした。と言うかお前はどこのサードチルドレンだ。
正直、家族の問題に口を挟むのどうかと思っていたが…これはそんな事言ってられんな。
久々に苦手な分野の人間関係の問題だが…自爆覚悟で突っ込むか。
「………私は、お母さんの子じゃないんだね…。貰われっ子だったんだ…」
「えっ」
「えっ」
えっ。
「…………え?」
「……普通に間違えようもなく、ミキもマキも私がお腹を痛めて生んだ子なんだけど…。どこからそんな話が出てきたの」
「私も初耳なんだが」
そんな、いきなり微妙に重い話を前触れもなく持ち出されても…。
…一応聞くがミキ、そう思う理由はなんだ?
「だ、だって、私お母さんに似てないし」
「そりゃ、マキと違ってお父さん似だもの」
「お姉ちゃんみたいに、領運営の仕事もできないし」
「私は後継ぎとしての教育を受けているからだろう。将来、私は領を継ぎ、そうなるとミキは何処かに嫁に行く。教育内容に違いがあって当然だ」
「お母さんやお姉ちゃんと違って、その、あんまり大きくないし」
体の成長具合なんぞ、どう転ぶか分からんぞ。と言うか、セクハラ染みた事を言うが、ミキも平均くらいはあるだろ。
「胸じゃなくて背丈の話です! ……あ、あんまり自信ないのも反論できませんけど」
「…私は成長期に入ってから伸びたし、その前は今のミキと同じくらいだったぞ」
「お母さんやお姉ちゃんと違って気弱だし」
「それこそあの人に似たんでしょう。それに、血が繋がっていて、同じ環境で育っても、同じような人間が出来上がるとは限りません」
「………本当に、私はお母さんの子供?」
「間違いなく。…勘当がどうの、はまた別の話ですが」
「……だったら…どうして、私を探しに来てくれなかったの? お姉ちゃんは来てくれたのに」
「…それを貴方が言える立場?」
(……なんか、お母様とミキの会話が噛み合ってないような気が…)
……………あのー、前提条件として一つ確認と言うか、言っておかなきゃいけない事があるんですが。
多分、話の根本的なトコに関わる事で。
「…何です。本来、貴方が話に加わる権利はありませんが、この際です。言ってみなさい」
領主さん、あんた……。
ミキが俺と一緒に駆け落ちしたけど、生活できなくなって戻って来たとか思ってないか?
「…………違うとでも?」
一から十までマルっとちげぇよバカ野郎。
「パ、パパと駆け落ち!?」
「パパ…?」
「ミキ、話がややこしくなるから今はその呼び方は止めろ。しかし確かにこの状況、何も知らなければそう見えなくもない…。」
道理でさっきからおかしいと…。
成程、ミキを積極的に探そうとしなかったのは、ある種の親心だったか。男の為に立場を捨てるなんて、領主の娘としては許されない。勘当扱いして放逐するのも仕方ないが、そうすれば家を失う代わりに男と添い遂げられる。
だが、万一破局して戻って来たとしたら、その時は罰を与えながらも放り出すような事はしない。…なんて面倒な考えしてやがる…。
あのな、そもそもミキは自分の意思で家を出たんじゃない。俺と会ったのも、フロンティアでハンターとして活動し初めてからだ。フロンティアに留まったのは本人の意思だが、その目的は父親の情報探しだ。
「あの人の…? それで何故フロンティアに居るという結論になるのです」
「え、だってお父さんってハンターだったんじゃ」
「確かにハンターではあったけど、フロンティアでやっていけるような腕じゃなかったわ。フロンティア以外の土地でも、上位に上がれるかも怪しかったわね」
「……なん……だと…」
…なん……だと…。んじゃ何か、フロンティアで色々探し回ってたのは無駄だったんかい…。
「…話を戻しますが、自分の意思で家を出たのではない、とはどういう事ですか。少なくとも、ミキが自分で乗合馬車に乗り込んで出て行った事は、確認が取れています」
その原因は今一ハッキリしないが、誘拐されたようなものだ。証拠はあるが、ここでは見せられない。
「犯罪行為が絡んでいると?」
いや、見せられないのはそういう理由じゃないんだが…とにかく人目のつかない場所で証拠を見せる。
「それで納得すると思っているなら…」
「お母様、私にも一つ疑問があります」
眼を鋭くした領主さんの言葉を遮り、マキが口を挟んだ。このままだとヤバイと判断し、咄嗟に質問したようだが…。
それは、意図せず領主さんの急所に見事にクリーンヒットしてしまったようだった。
「何故、お母様はミキが駆け落ちしたと思われたのですか? 自分で馬車に乗り込んだのは確認できましたが、異性と共に居たという情報はありませんでした。何より、ミキは駆け落ちなどするには幼すぎます」
「………っ…」
…言われてみりゃそうだな。子供と言い切れる程子供じゃないが、色恋に騒ぐ事はあっても、本気でのめり込んだり、その為に人生をブン投げるような年齢でもない。だからこそ突っ走ってしまう可能性もあるが…。
聞けば、叱責の翌日の話だったそうだし、駆け落ちより先に家出を疑うだろう、普通。
ミキが誰か、立場上許されない男と親密なお付き合いをしていたならまだしも…。
「…影も形もありましぇん…。寂しい青春送ってます…」
「私達の年齢なら、それくらい珍しくないから大丈夫…大丈夫だ…。変な相手を許嫁にされるよりよっぽどいいと考えるんだ…」
自分に言い聞かせるようなマキ。
が、これも領主さんのウィークポイント第二段だったらしい。口元と目元がヒクついた。
ちょっとそこんとこ、詳しく聞かせてもらいましょうか。お互いの誤解を解消する為にも。ミキのコンプレックスとか、愛されてない貰われっ子疑惑を解消する為にも!
「それは…」
「あらあら、これはもう降参した方がいいのではないですか、シキ様?」
「キヨさん…」
「はい、お元気そうで何よりです、ミキ様。貴方も、どうやらミキ様に何くれと手を貸してくださったそうで…まことにありがとうございます。わたくし、メイドのキヨと申します。よしなに」
あ、これはどうもご丁寧に。むぅ、この世界で和風メイドにお目にかかれるとは…。
「…我が家のメイド長のキヨさんだ。お母様の古くからの友人でもあり、時々お母様よりヒエラルキーが上になる。あと年齢については疑問にすら思うな。物心ついてから、全く姿が変わっていない。怖くて聞いてないが、お母様の時でさえ…」
ああはいはい、そういう方。とりあえず、この場では得難い味方になりそうだ。容姿については、この業界だとあんまり珍しくないな。
して、降参とは一体?
「……………」
「シキ様?」
「………館に入りなさい…。さっき言っていた、証拠とやらも見せてもらいます」
屈したようだ。
館の大きな客間に入り、腰を据えて話をする事になった。
領主さんとしては、先に誘拐(?)の証拠を出させようとしていたのだが、キヨさんの無言の圧力で鎮圧された。どうやら、ちょっとでも自分の恥部(だと思う)を晒すのを先延ばしにしようとしているようだった。
うーむ、話に聞いていたのと大分違う性格してるな。普段は娘にこういう所を徹底して見せなかったのか、それともその一件だけがどうしようもないくらいに恥と感じているのか。
それでも往生際悪く、無駄に威圧感を出して沈黙する領主さん。娘二人は戸惑いが大きいらしく、口を開く事すらできないようだ。
「シ・キ・サ・マ? あまり粘るようでしたら、あの事とかあの事とかアレの事とかも交えて、私が色々話しちゃいますよ?」
「…うぅぅ……」
どうやら観念したらしい。歯を食いしばった後、脱力した。
「…ミキが、駆け落ちの為に家を出たと思ったのは……」
…思ったのは?
「……かつて、私も同じ事をしたからです。血筋というものを感じました」
思いっきり勘違いだったけどね。
「駆け落ち……お母様が!? し、しかし私と同じ年齢の頃から、後継ぎとして上手く領を治めていた筈…」
「能力がある事と、自覚と責任を持っているかは別物です。当時の私は、仕事をこなす事が上手いだけの、小賢しい娘でしかありませんでした。…ある日の事です。私に婚約の話が持ち上がりました。政務上、断ると非常に危険な状況になる話でしたが、その相手は私人としても公人としても、下劣と言い切れる相手です。もしも本当に婚約してしまえば、領が滅茶苦茶になってしまうのは目に見えていました。…それを理由に、私は出奔したのです。勿論、両家にとっての醜聞であり、とても許される事ではなかったのですが…少しだけ時間を稼げば、その家が潰れると予測していました。事実、その通りになりましたが」
そんな酷いのか…。知ってる奴かな…。
「いえ、その男の家は取り潰され、領地も解体されて別の領地に合併されました。もう名前も残されていないでしょう。…それだけであれば、悪縁が結ばれるのを阻止し、悪手を良手に変えたというだけで済んだのですが、出奔している間に私は一つの過ちを犯しました。それが…………」
それが?
「…マキ、ミキ。予め言っておきますが、これは貴方達を授かったのが間違いだったという意味ではありません。ただ、私の人を見る目が無かっただけです。出奔している間に、私は一人のハンターと恋に落ち、深い仲となりました。それが、貴方達の父親です」
「その人が…」
「……………」
…言い方からすると、あまりよくない人だったように聞こえるが…。
「優しい男ではありました。優しさしかなかった男でもありました。ですが、それは気弱さからくるものでしかありませんでした。…思えば、領主の後継ぎという立場から一時とはいえ逃れ、舞い上がっていたのでしょう。些細な事から知り合い、行動を共にするようになり、体を許し……そして、ミキを身籠った頃に破局したのです。私はまだ幼かったマキと、大きくなり始めたお腹を抱えて、ウェストライブまで戻ってきました」
「私を…………あれ? お姉ちゃんと私の年齢差を考えると…」
「……2年以上も出奔していたと!?」
「…その通りです」
おいおいおい…それは流石にヤバいって、俺でも分かるぞ。よく領に戻ってこれたな。恥がどうのじゃなく、勘当的な意味で。
「私しか後継ぎ候補が居ませんでしたから…。そこでも当然ながら揉めましたが、結局有耶無耶にできました。既に潰れた家に、色々と汚名を押し付けましたが」
「え、それじゃ公式な私達の父親は…」
「名前ごと不名誉印を押された、とある貴族と言う事になっています。それを正面切って言われるのは、手袋を投げつけられるのと同意ですので、誰も教えなかったでしょうが。実際、縁切りの手続きは行っておきましたし」
いいのかそれで!?
「良くはありませんでしたが、私にとって色々と都合が良かったもので」
「……『私にとって』…」
「…自ら育てたとは言え、余計な部分に気付く…「シキ様?」……いえ、言わなくても推察できる程成長していて嬉しいですよ、マキ。…私にとっては都合が良かった。ですが、誰かにとっての好都合は、不都合を他の者に押し付けているだけです。当時の仕事をこなすのが上手かっただけの私は、自分の行動によってどれだけ波紋が引き起こされるのか、理解していませんでした。…娘にも、父無し子という立場を作り上げてしまう事すら気付かなかった」
「…この家の後継ぎが失踪したとしたら…軽く考えても、幾つの家に迷惑がかかるか、眩暈がするような事態が予想されるのですが…」
…ひょっとして、レジェンドラスタのエドワードさんの家って…。
「…その時の余波を被り、没落した家です」
マジか…。だから、トゥルート達の村を支援してくれって言われて断れなかったのか。
「あのー…それじゃ、本当のお父さんは…?」
「わかりません。とある村で別れて以来、話すら聞きませんでした。分かれた当時は、その気弱さに愛想を尽かしていて、その後を気に掛ける事すらありませんでした。………気弱さ故に優しい人でしたが、決して悪い人ではなかった。それだけでも充分だという事を、当時の私は知りもしませんでした。出奔して巡り合った縁に過剰な期待を寄せ、あの人に力量を顧みない幻想を押し付け…何も言われないのは問題が無いからだと思い込んで、鬱屈した思いが貯めこまれていくのに気付きもしなかった」
…耳が痛いな。俺も色々と、何も言われないのを良い事に好き勝手やってるからな…。
「ただ、私の愚かさを差し引いても、どうやってもあの人との別れは避け得なかったとも思いますね。……別に、嫌っている訳ではありません。頭が冷え、自分のおかれた環境を改めて理解してからは、自分に非があった事も理解しています。当時の私が気付かなかっただけで、いい所が沢山あった人であった事も。少なくとも彼が居れば、ミキに今までのような思いをさせる事はなかったでしょう。…ですが、復縁する訳にはいきませんでした。あの人は、人の上に立つ人間ではありません。それだけの気概も、教育も受けていなかった。領主の夫となるには、不適格すぎます」
はぁ…それで結局シングルマザー、か。
と言う事は、ミキが帰って来た時のあの態度は…。
「私と同様に、ハンターに熱を上げて出奔したものと…。そのまま添い遂げられるならミキも幸せでしょう。もしも、私と同じように破局して戻ってくるなら、受け入れるだけの準備はしてありました。ただ、マキに連れられたとは言え2か月足らずで戻って来た事には、幾らなんでも根性が無さすぎる、そんな覚悟で家を捨てたのかと…」
「…お父さんについて聞こうとしたら、毎回睨まれてたのは」
「お父様の記録が全く残ってないのは…」
「シキさんは睨んでいたんじゃなくて、昔の過ちを思い出してついついプレッシャーをかけてしまっていただけですよ。他の家に迷惑をかけたアレコレの辻褄合わせの為に、その人との繋がりを示すようなものは、ミキさん達以外全て始末しましたし」
アホかあぁぁぁぁぁぁ!!!!!
「あうぅ…。きっと何か凄く深い事情があるんだと思ってたら…いやある意味深い事情だったけど」
「聞きたくなかった…。僅かながらあった、父親への幻想が…」
「あらあら、やっぱりこうなっちゃいましたね」
キヨさん、あんたここまで予想済みだったんか?
ちゅーか、あんたらもうちょっと語り合えよ! 親子そろって思い込みで行動しすぎじゃ、このポンコツ一族がッ!!
もうちょっと冷静に、根拠を探してから行動しろよ!
ミキは父親がハンターだって聞いただけで、フロンティアに来れるような凄いハンターだと思い込み!
領主さんはロクな情報収集もせずに、娘が男を追いかけて行ったと思い込み!
マキは………えぇと、特に無い。
「…反論の仕様もありません」
「うぅ、何だかとってもごめんなさい…」
「いや私だって色々と問題が……」
あああああ、何だったんだ今の今まで色々考えて、どう説得するのかとか、色々考えてたっつーのに、丸ごと徒労だった気分だよ…。
「…それは真面目に申し訳ないけど……ミキ、貴方はこれからどうするつもりなの」
「…へ? 私?」
「貴方以外に誰が居るの。私の過去の恥は置いておくけど、貴方は結局、どうしてフロンティアに行ったの? あの日の私の叱責…ではないようだけど。それに、貴方が知りたかった父親の情報は、少なくともフロンティアには無いわ」
「え……あ、そっか…。私は………」
ミキは少し考え込んだ。確かに、父親の情報はフロンティアには無いが、ミキにとっては友人が居た分、この家よりも居心地は良かっただろう。
しかし、自分は不要だから探されなかったのだ、という疑念は払拭され(思いっきり勘違いされてた訳だが)、腹を割って話した(と評していいのかは疑問だが)事によって母を見る目が変わり、今後はこの家の中での見方も色々変わってくるだろう。
まだミキは子供だ。家族一緒に居た方がいい、と言う考えも分かる。だが一緒に居なければ家族ではないのかと言われると、そうでもない。ある程度距離を置いた方が上手くいく関係というのも、確かにある。
「そもそも、自分の意思で行ったのではない、とも言ってたわね。その証拠がある、とも。今まで何も言わなかったけども、そちらのハンターにも関係があるの?」
あるっちゃあるけど、色恋関係じゃないぞ。さて、どっから話したものか…。
それ以前にミキの意思は…。
「はい、そこまでです!」
パァン、と大きな音が響く。領主さんの隣に控えていた、キヨさんの柏手だ。単なる柏手とは思えないくらいに大きな音に感じたが…意識の空白を突かれたからだろうか?
「使用人としては越権行為ですし、背景と同化してこそ一流ですが、ここは口を挟ませていただきます。今は…皆さま、色々と予想外の事ばかり話があって、混乱しておられます。こんな状態で考えても、まともな結論は出ませんよ。特にシキ様。恥ずかしい話題から逃れたいからと、結論を急いていませんか?」
「流石にそれは無いわ…。ですが、そうですね。私はともかく、マキもミキも頭が動いてそうにありませんし、本日はここまでとしましょう。話の続きは、明日聞かせてもらいます」
「はい」
「はい…」
「…こうなるだろうから、黙っておいたのに…」
それが拗れに拗れて、こうなったんやで。
「お黙りなさい。結局、貴方とミキとの関係も聞いていませんが…今夜は泊っていきなさい。賓客として遇します。キヨ、任せていいですね?」
「承りました。では、お部屋へご案内します。…お望みとあれば、館内のご案内も出来ますよ」
…はいはい、よろしくお願いします。ちなみに、ミキが家出前日にコケて壊したって所は見られますか?
「そこは倉庫でもありますので、マキ様かミキ様がご一緒でしたら入れます。ですが、まずは体を休め、清められてはどうかと」
風呂?
「温泉ですよ」
是非ともお願いします。…流石に一人で入るんですよね? 貴族って、風呂の中まで使用人に世話させてるイメージがあるんですが。
「貴方が本当に、ミキ様のパパになる日が来たら、誰か一緒に入るかもしれませんね?」
「ちょっ!」
「…パパではなく、義兄の場合は?」
あれ、マキって何か乗り気…?
「特別乗り気なつもりはないが、ミキと再会する前にあんな事を言われれば、多少は意識もする。…どうやら、社交辞令か、私をミキに気付かせない為の口八丁だったようだが」
そーゆー訳でもないが、今更言った所で信用はできんか。ま、好きなように解釈してくれ。
「いいえ、是が非でも詳しく聞かせていただきます。明日にはキッチリと。ミキがパパと呼んでいるのも含めて」
…キヨさん、ボスケテ。
「はいはい、ではお部屋にご案内しますね」
…さて、そういう訳で部屋に通され、事の次第を思い返しては色々な意味でgdgdになった顛末に呆れを通り越して怒りを尻に挟んで日記を掻いて左手で徒労感を漢字ながら『何だこの一族!』と叫んでいる訳ですが、特にプーギーやモスになったりはんしない。M豚になるのも時にはいいものかもしれないが、どっちかとゆーとそこまで調教するのが好きだ。女性限定で。
まぁとにもかくにも、思ったよりも穏やかに解決しそうで何より、と思っておくべきだろうか。少なくとも、ミキが母親に見捨てられて泣くシーンは見なくてもよさそうだ。
本当に厄介なのは、これからだろうけどな。アラガミ化の事を、どうやって信じさせられるか。俺の体が変化するのを間近で見せる事で、またミキが理性を失って俺に飛び掛かってくるのを見る事で、ミキとマキはそれを信じたんだが…。これ以上アラガミ化を進行させるのは、正直よろしくない。意図的に発作を起こさせるなど、以ての外である。
領主のシキさん…あのへっぽこ具合を見るにシキでいいけど、シキがどこまで信じるか…。どこまでチョロいかで話の難易度が変わってくるだろう。
しかし、私生活・母親としての威厳や能力はともかく、領主としての慎重さや明晰さは、この領地を見れば大体推察できるんだよなぁ…。経験値が違い過ぎるな、コレ。
……まぁ…一つ条件を付ければ、何とかできそうだけどな。具体的な条件を言えば…内通者がいれば。ミキやマキではない、シキが本来味方だと信じて疑わない立場の内通者が居れば。
なぁ、キヨさん?
「はい、お呼びですか?」
ふぅ、と霧が人型をとったかのように、突然現れるキヨさん。
…使用人は風景と一体化してこそ一流、でしたっけ? そら一体化もできますわな。元が風景なんだから。
「あらあら、やっぱりバレちゃいましたか。本職の方は、やっぱり違いますねぇ。いつからですか?」
初見で気付いて、昔から姿が変わってないって聞いて確信しました。
別に本職って訳でもないが…初めて見たよ。………変種のオオナズチ。
「呪いますよ」
勘弁してくだしあ。
「まぁ、現代ではそれ以上に珍しい存在なのは認めますが」
…マジな話、こんな所に付喪神が居たとは…。しかも、わざわざ自分の本体がある部屋を宛がうとは…。えらく年代物の風景画ですな。
…いや年寄り扱いしてるんじゃなくてさ。付喪神としての年齢なんぞ、見かけじゃサッパリ分からんし。
腰を据えて話をしたいみたいだな? 敵意は感じない。むしろ好意的ですらある。それが仕事と言う事を差し引いても。
「ええ…。では、膝を突き合わせて話すとしましょう。お疲れのところに申し訳ありませんが、ちゃんと癒してさしあげますからね」
音もたてずにベッドに乗って、ジリジリと間合いを詰めてくる。
……お悩み相談と、人と人外との逢瀬の話かね。…まぁ、俺が人かって言われると微妙なトコだけども。
シキ=西住しほ
キヨ=菊代さん
両者ともにガルパンからです。
ただ、菊代さんは今一イメージがつかめなかったので…ルックスは艦これの飛竜で考えています。
ただしおっぱいは蒼龍です。
尚、常にアルカイックフルスマイル。
…ごめん、現状だとナニの描写はないんだ…。