※この作品はR-18です。

狩りゲー世界転生輪   作:時守 暦

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第292話

PS4月

 

 

 あ゛あ゛~~~死ぬかと思った。ったく、大騒ぎだったぜ…。と言うか、表では今も大騒ぎが続いている。

 どういう訳だか(何でそうなったか、一応分かりはするんだが)、「ぐーんしん! ぐーんしん!」なんてコールが延々と響き渡り、ミキ(通常モード)が顔を真っ赤にしてプルプルしながら称えられている(かわいい)。

 

 …人のムッスメを軍神扱いしてんじゃねーよ…。いやそれに相応しい働きだったと思うけどさ。

 助けないのかって?  (助けたらプルプルしてかわいいのが終わっちゃうから)ないです。

 

 まー真面目な話、流石に精根尽き果てたわ…。ミラボレアスではなく、人の死骸だ。ゲームでもタフだったけど、それに輪をかけて頑丈だったでやんの、ミラボレアス…。しかも撤退しないしよぉ…。

 ……それに、多分コレはミキには見せない方がよさそうだしな…。

 

 ボロボロになり、崩れていく足元の死体を見る。miガ ワだけは保たれているが、中身はそうでもないようだ。腐食臭と腐肉が焼ける臭いを、破壊された道具屋の近くに転がっていた消臭玉で散らす。

 ……?

 

 懐に紙切れが見える。既に炎に食い尽されようとしているが、辛うじて見えたのは………。………他人の空似…か? いやしかし、辻褄は……と言うより符丁は合う…な。

 

 

 

 

 …はて、どっから書いたもんか…。色々と謎が(俺の中で)解けたり、ミキが軍神扱いされたり…あ、胴上げ始まった…メゼポルタ広場が一つ半壊したり、レイラとミキがなんか友情を育んでいたり、何故か颯爽と現れた歌姫様が歌い出したり、最終的には俺・レイラ・セラブレスの連携技で動きを止めて、ミキの奇策で止めを刺した事とか…。

 

 

 ……順番に書いていくしかないか。率直に書こう。

 ミラボレアスが、メゼポルタ広場のド真ん中に突然現れた。

 

 

 メゼポルタ広場の。 ど真ん中に。

 

 

 空を飛んできたのでもない、地中から上がって来たのでもない、テレポートしたかのように、突然現れたのだ。

 

 

 …そりゃもう大騒ぎよ。誰だって慌てる、俺だって慌てる。

 最悪だったのは、嬉々として未知のモンスターを狩りに行くハンターと、とにかく慌てて距離を取ろうとするハンターが混在していた事だ。逃げようとする者と進もうとする者、ぶつかり合ってそれでどれだけの負傷者が出たか。

 …それも長くは続かなかった。何故かって?

 

 

 ミラボレアスの暴れっぷりが、あまりにも凄まじかったからだよ。あいつがハンターランクにして下位・上位・G級のどれに分類されるのか、仮にミラボレアスが複数いたとして、その中でどれくらいの力を持ってる奴なのかは分からんが、奴のブレスや尻尾、這いずりによる余波だけでも、並のG級ハンターを躊躇わせるには十分過ぎた。

 しかも、ゲームのミラボレアスと違って、とにかくアグレッシヴだった。長い体を鞭のように振り回し、まるで自分自身の体を武器…いや、凶器としか考えてない行動。

 どれだけ攻撃を受けてもお構いなしに暴れ回っていた。

 

 5分もする頃には、賑わっていたメゼポルタ広場の食堂近辺は炎と瓦礫と穴ぼこ以外、何一つ残っていなかった。あいつを狩ろうと突撃するハンターは既に居らず、死体さえ炎に消し飛ばされて残ってない。距離を取ったハンター達は、どうやら岩陰などの死角に身を隠し、ミラボレアスの様子を伺っているようだった。…何もかも放り出して逃げなかったのは、ハンターとしてのプライドの為か、それとも迂闊に背を向ける危険を感じ取っていたからか。

 

 

 …残っているのは…俺、セラブレス、そして俺達の後ろで震えているミキ。

 

 俺達が逃げない理由は単純だ。逃げられなかったからだ。セラブレスだけならワンチャンあったかもしれないが、どういう訳だか(或いは予想通りに)、ミラボレアスは俺とミキを執拗に狙い続けている。セラブレスはもののついでに…って感じだったが。

 

 

 

「おい、お前が言ってたヤバイモンスターと言うのはコレか。何なんだ一体」

 

 

 ミラボレアスっぽい何かだよ。…普通のモンスターじゃない。

 

 

「ふ、ん? …唯一の救いは、腹を満たした直後だって事かな」

 

 

 軽く言うセラブレスだが、額には汗が流れ、体は青い光に覆われている。全力戦闘で、極限まで集中しているのだろう。

 

 

 …多分、セラブレスではミラボレアスに殆ど傷をつけられないだろう。竜撃砲のような、青い力を使った砲撃なら多少は通じるだろうが、与えるダメージと、セラブレスの体力を考えれば、どうやったって先にエネルギーが尽きる。

 

 改めて対峙して分かったが……やっぱり、こいつは…少なくとも、このミラボレアスは『アラガミ』だ。ミラボレアスと言うのが元々そういう物なのか、こいつだけがそうなのかは分からないが。

 となると、攻撃が通じるとすれば、俺の神機か、ミキの………直接ブン殴るくらいか? しかない。

 

 

 そこまで考えた時、ミラボレアスが動いた。咄嗟にセラブレスが前に出て盾を構え、俺は動けないミキを抱えて後ろに下がる。

 

 

「そのままその子を運んでいけ! ッ……! クッ、短時間であれば、耐えられる!」

 

 

 頼む! ミキ、行くぞ。いいか、動けるようになったらすぐに隠れろ。どっかの穴倉か、とにかく遠い場所か、何でもいいからあいつの目に見えない場所に逃げ込んで出てくるな。

 一緒に戦おうなんて思うなよ? お前じゃまだ、あいつは手に負えん。アラガミ化して、体のスペックが上がっていてもだ。

 

 

「パ、パパ………は…」

 

 

 俺? 俺はアレを狩る。俺ならやれる。そういう武器もある。あの龍は、俺と同じアラガミだからだ。

 とにかく、お前は隠れてなさい。何かを守りながら戦える程、俺は器用じゃない。

 

 さて…一丁、狩りに行きますか。帰ってきたら、白いの沢山ごちそうしてやるからな。

 

 

 

 

 …最後、微妙に死亡フラグ立ってなかった気がするが…これだけやっときゃ、フラグも無効だろ。何一つ嘘はついてないしな。

 

 

 

 と言う訳で、ミキを適当な場所に下してミラボレアスの元へ戻った。セラブレスは防御に徹していた為か、疲弊はしているようだが何とか無傷。

 ミラボレアスは……まぁ、当然のように無傷だな。そして俺を視認するなり、連続でバカスカブレスを撃ってきた。

 ジャスト回避で難なく切り抜けたが、直撃してたら死ぬな…。アラガミモードでもキツいか。

 

 

「到着! 無事か!?」

 

 

 む、レイラ? どこ行ってたんだよ、このややこしい時に!

 

 

「どこに行こうとアタシの勝手だよ。…で、こいつが件のモンスターか…。成程、ヤバい奴だな。見つける方法は任せるとは言ったが、メゼポルタ広場のド真ん中とは思わなかったぞ」

 

 

 うるせぇ、こいつがいきなり出てきただけで、俺のせいじゃないわい。

 さて、これで戦力3人か。コイツは俺を目の敵にしてるようだが…どうすっかな。

 

 

「隙を突いて何度か攻撃してみたが、私の武器では全く歯が立たん。砲撃も効いてない。私はディフェンスに回るから…レイラがアタッカー、お前はデコイ兼アタッカー、といった所か」

 

「群れるのは好きじゃないが…妥当と言えば妥当だな。足の引っ張り合い程馬鹿らしい事もないし……それで行こう」

 

 

 そういう事になった。

 神機を取り出して構えると、苛立ちに任せたかのような、凄まじい力と迫力でミラボレアスの牙が迫る。

 悪いがその程度じゃ食われてやれんよ。パリングアッパー、直撃ィ……?!

 

 確かに噛みつきは防いだ。開いた顎を、下から叩き上げるアッパーも入った。事実、ミラボレアスは仰け反った。…仰け反るだけだった。

 何ら痛痒を感じてない目が、ぎょろりと俺を捕らえる。

 

 

「余所見してんじゃねえ!」

 

 

 レイラが、ミラボレアスの首に思いっきり攻撃を叩き込む。会心の一撃だった事が伺える音が響く。しかし、当のレイラは顔を顰めて距離を取った。

 彼女が考えている事は、俺にも分かる。

 

 

 堅い。

 

 

 バカじゃねぇのと言いたくなるくらいに堅い。

 

 神機ならミラボレアスの鱗を切り裂けるんじゃないかと考えていたが、見積もりが甘かった。甘すぎた。

 レジェンドラスタであるレイラの攻撃を平然と弾き返し、セラブレスの砲撃もものともしない。コイツ、アラガミ細胞がどうとかいう以前に、単純に堅いのだ。

 いや、恐らくこれもアラガミ細胞の力ではあるんだろう。アラガミ細胞の真骨頂は、進化と学習。ただ只管に、固く堅く硬く、どんな物にも負けない無敵の装甲として進化してきた結果が、この鱗。

 

 

 さて、どうしたものかね。確かに弾き返されはしたが、全く手応えがなかった訳ではない。殴り続ければ、いつかは沈むだろう。

 感触からして、アラガミなのは外側だけで、内側はアラガミ細胞のみとなっているのではないようだ。鱗を破壊し、内部に攻撃出来れば多少は効果もあるだろう。

 

 だが…。

 

 

 

「尾だ、私が止める………いや避けろ!」

 

 

 宣言通り、振り回された尾はセラブレスがガードで受け止めた。だがそれでは終わらない。

 

 よっと! っ、回転尾で即ボディプレスとは、本当にアグレッシブだなこの黒トカゲ! うお、瓦礫飛ばしまで使いやがった!

 …どんどん動きが多彩になっていく。今この瞬間も、進化しているのだろう。下手をすると、ただでさえ無敵の装甲が、更に進化する可能性すらある。

 このままでは、何処かで集中力が切れるか、不意を打たれて沈む。アラガミ化は……悪手だ、変身が切れたらその時点で動けなくなる。

 

 だからと言って、戦い方を変える事はできない。何でもいいから、弱点を見つけ出さないと。

 

 

 

 

 それから、3人がかりで色々と試した。装甲の弱い部分は無いか、目、羽、爪の付け根など、片っ端から打ち分けてみたが、どこも硬さは大差ない。比較的マシなのが顔面。

 その辺に転がっていた爆弾なども試してみたが、焼石に水だし、そもそも目につくところにある爆弾は使い切ってしまった。

 貫通弾・貫通弓は無情にも弾かれ、歯が立たない。ゲーム同様の攻略法は通じそうにない。

 神機による捕食は多少効果があったが、ダメージで言えばブン殴ってた方がマシなくらい。アラガミバレットは強力ではあるようだったが、どうやら属性的に耐性が高いらしく、殆ど通じない。

 

 ヒデェな、このクソモンスター…。ゲームと違ってクリアさせる気がないのが嫌と言う程分かる。そりゃそうだよな、リアルでは攻略される=お陀仏なんだから。

 

 無敵に近い装甲、物理法則を無視した超火力、多彩すぎる攻撃方法…。

 これだけ揃っていれば、何も考えずに暴れるだけで、俺達3人を追い詰めるくらい楽にできるだろう。そうなってないのには、当然理由がある。

 

 獣だから、そんな簡単な理屈も分からない? 逆だ。

 

 

 

 

 『人間だから、獣のような単純な行動がとれない』のだ。

 

 

 

 …これに気付いた頃、殆ど効果が無い攻撃を、必死こいて延々と積み重ねていたんだが…正直、あんまり面白くないし思い出したくも無いし、思い出しただけで気力ガリガリ削られて欝になりそうだから省く。

 

 コイツから感じる視線…プレッシャーの軽い重いを別にすれば、ずっと感じ続けていたあの視線だった。ミラボレアスが出現する寸前に感じていた、あの寒気と視線も。

 探索中、レイラが「これ、多分人間の視線だぞ」と言っていたアレだ。

 …ああ、確かに人間の視線だったよ。少なくとも、ガワと、根っこはな。

 

 

 そうだよ、ミラボレアスは…元は人間だったんだ!

 

 

 な、なんだってー! ……割と真面目になんだってー、だけど。

 

 

 そもそも、ミキの話からして不自然だったんだ。ミキが何かに操られて、アラガミに変えられてフロンティアまでやって来たとして、何故メゼポルタ広場で目を覚ましたんだ? ミキを操っていた『何か』が手元から離れたからだろう。

 んで、メゼポルタ広場に居るのは何だ? 動物か? モンスターか? 人間だよ。…ハンターが純正の人間と言えるかは差し置いて、ミキの手元から離れた『何か』は、別の人間の手元に移ったんだ。

 そこからアラガミ化が進んでいき……俺の知らない所で、完全にアラガミ、ミラボレアスとなってしまった。

 

 そして俺やミキ同様、アラガミ状態であるミラボレアスと、人間の体の二つの状態を使い分け、潜んでいたのだ。

 

 

 だから人間ボディには慣れていても、ミラボレアスの体やスペックには慣れてない。人間としての恐怖心や本能が、最適な行動を圧し潰す。

 つっても、それも段々薄れてきてるみたいだけどな…。視線から感じる、人間独特の気配が薄れ、徐々に精神までモンスターになりつつあるようだ。それでも、憎悪の気配は残っている。

 

 何でこんなに憎まれてんのかね。俺一人ならまだしも、ミキは人に妬まれたり憎まれたりするような子じゃないだろうに。

 まぁ…人間の敵は人間って事か。案外、本来のミラボレアスが人間を憎んでいるって話も、そういうトコから来てるのかもしれんね。

 

 

 

 …あと、これはついでだけど…もしもいつぞやの紅玉と、今回ミラボレアスを作り出した『ナニカ』が同類であるのなら…アラガミ化が発生するのは、宿主が人間であった場合のみ…なのかもしれないな。

 あの時のモンスター達は、異様な能力を持ちはしても、アラガミ化はしてなかったから。

 

 

 

 

 

 

 ま、それはともかくとして。延々と……多分、少なくとも半日以上やりあってたと思う。夜が明ける……瞬間、間抜けな事に、顔を出した太陽による逆光によって、目が眩んだ。

 ジャンプ攻撃を仕掛けていた俺は、咄嗟に退避する事もできずに、思いっきり拳で殴り飛ばされる。

 

 …あの体でよく殴り飛ばすなんて器用な真似ができるなぁ、なんて呑気が事を考えてたが…威力は本物。叩きつけられ、瓦礫を粉砕してようやく止まり、同時に追撃のブレス。

 咄嗟に盾でガードするも、神機が明らかにヤバい音を立てるようになってしまった。

 

 続けざまにブレス。咄嗟にセラブレスが割って入ったが、ブレスの『溜め』を見て血相を変える。

 あれはヤバイ。セラブレスの盾も、オーラも無効化して全てを焼き尽くしかねない。

 レイラは限界まで連撃を加えて着地した後。どうやったって間に合わない。

 

 

「チッ……ま、色々世話になったからな。万一生きてたら、手段を問わずあの龍を仕留めろよ」

 

 

 おい馬鹿、何言ってやがる!

 わざわざ庇われなくても、俺はまだやれるぞコンチクショウ、さっさとそこを退け!

 

 

 

「もう遅いッ…!」

 

 

 セラブレスの纏うオーラが強くなり、それ以上にミラボレアスの口元の炎が燃え盛る。

 アラガミ化で間に合うか!?

 

 

 

  ズパァン!

 

 

 

「…え?」

 

 

 突然、ミラボレアスの顔が横に弾け飛ぶ。一瞬置いて落下してきたのは、槍と見紛うばかりの大矢。

 戸惑うよりも先に、俺は治癒を使って傷を癒し、セラブレスと共にすぐに離脱。

 次の瞬間、岩すら溶かすブレスが俺達が居た場所を薙ぎ払って行った。

 

 

「助かった…今のは何だ?」

 

 

 矢…バリスタの矢が飛んできた方向を見てみるが、何もいない。

 

 

「カバさんチーム、アヒルさんチーム、続けて撃って! カメさんチームはバリスタを8-Aポイントまで移動!」

 

 

 ミキの声! そして同時に聞こえる風切音。重金属同志がぶつかり合ったような音が聞こえ、また飛んできたバリスタの矢がミラボレアスに弾かれる。

 

 

「アリクイチームから報告にゃー、また隠れてたハンターさん達が協力してくれるにゃー!」

 

「バリスタ台の移動に協力を! 他は何でもいいから、弾薬を片っ端から集めて補給してもらって!」

 

 

 …そう言えば、あちこちに隠れていたらしきハンター達の気配が無い。てっきり逃げたと思っていたが、こっそり動き回っているようだ。

 また数発の矢が飛んできて、ミラボレアスに直撃する。…いい狙撃だ。

 

 

「おお…ダメージは左程でもなさそうだが、衝撃で動きが止まってるな」

 

 

 確かに。バリスタの威力もさる事ながら、重心を見極め、バランスを崩すのに最適な場所を見極めて撃つ。…何者だ?

 鬱陶しい、と叫ぶように、ミラボレアスが凄まじい咆哮を放つ。ティガレックスのように物理破壊力は無いものの、聞く者の心を圧し折ろうとするかのような、怨嗟と怒りに満ちた咆哮。

 大抵のハンターであれば、それだけで戦意が失われてしまうだろう。事実、周囲を動き回っていたハンターの気配が、恐慌に陥ろうとする。

 

 だが。

 

 

 

 太陽が陰る。曇ったのではなく、朝日を背にして人が立っている。すっくと立ち上がるその人影に、魅了されたかのように動きが止まる。俺も、ミラボレアスも。

 広がる影が、ミラボレアスを覆い隠す。

 

 

「カモさんチーム、レオポンさんチーム、放てッ! …ハンターがモンスターと戦うのは当たり前の事。モンスターが人間に反撃するのだって当然の事。だから、襲撃を受けてこんな事になっちゃっても、それは全然おかしくない事なんでしょう。でも……それでも、我儘でもエゴでも! パパに害を加えようとするなら、私は許しませんッ! ウサギさんチーム、放てッ!」

 

 

 力強い宣言、怒号とさえ言える言葉に、咆哮で怯みかけたハンター達が奮い立つのが分かる。

 と言うかミキ…何やってんだ!?

 

 

「ボサッとすんな、チャンスだ! 何でもいいから叩き込めッ!」

 

 

 お、おう!

 

 

「私も最大砲撃を…」

 

「セラブレスさん、疲労が大きすぎます! 一度下がって休んでください!」

 

「…っ!」

 

「構わん、いいから休め、後はアタシ達も交代で休む」

 

「……すまん」

 

 

 ミラボレアスの攻撃を何度も受け止めたセラブレスは、武器防具だけでなく、自身の体にも疲労が蓄積していた。俺達だってそうだが、曲がりなりにも避けていた俺達と、体を張って受け止めていたセラブレスでは、やはり後者が疲れるのも当たり前だろう。

 ジリジリと追い詰められている自覚はあったが、まさか一時退却させて完全休息させるとは…思い切った手を打つなぁ。

 セラブレスの代わりを、ミキ達の援護で埋められるからこその手だけども…。 

 

 

「こっちだ、簡易的なモンだがキャンプを作ってある!」

 

「有難い…!」

 

 

 瓦礫の中から、見知らぬハンターが手招きしている。キャンプって、そんな物まで作ったのか…。

 っておいミラボレアス、ミキの方に向くんじゃねえよ! こんにゃろう!

 

 

 横から飛んできたバリスタに合わせ、ミラボレアスの顔面をブチ殴る。多少は効いたか……!

 顔が部位破壊されたぞ! 狙うならここだ!

 

 

「よくやったァ! くらえ、龍気穿撃ッ! …っく、多少は通るが、これでも堅いか…」

 

 

 っとにヤになるなこいつ…。

 最初は俺ばっかり狙ってたのに、手当たり次第になって誘導もしにくくなっている。

 

 

 ……せめてアレだな、そこらの石ころで固定ダメージ1とか入ればなぁ…。ここに居るハンター全員で投げまくれば、何とかなりそうだなぁ…。

 

 ま、そんな戯言はともかくとして……頼もしい援軍も来てくれた事だし、回転上げてチクチク行くぞ!

 

 

 

 

 

 …で、セラブレスが戻ってレイラが抜けて、今度はレイラが戻って俺が休憩。

 ミラボレアスのターゲットは、もう手あたり次第になっていたので、俺を殊更に追いかけて来ようとはしなかった。念のため、気配を消して視覚から外れてから退避したけど。

 

 「お疲れ、水とこんがり肉ってきたぞ。他に必要な物はあるか?」という名も知らないハンターに、回復薬と投げナイフの補充を頼み、ハンター式睡眠法で速攻回復。

 体は回復しても、張り詰め続けた神経は回復してない。もう少し休むべきなんだろうが、俺にはそれよりもやる事があった。

 

 相変わらず高所に立ち、しかしパルクールでもするかのように瓦礫の上を飛び回り、ミラボレアスからの攻撃の余波を避けるミキ。…アサシンの追いかけっこを思い出すな。あれだけ距離が離れてれば、先読みされるか事故らない限り、ブレスも岩飛ばしも楽に避けられるか。……足場の悪さを考えなければ、だけど。

 

 ミキ!

 

 

「あ、パパ……っと、レオポンさんチーム、離れて補給を! カメさんチームは抜けた穴をフォロー! …よっと。お待たせ。大丈夫?」

 

 

 瓦礫の上から飛び降りてきた(パンチラ有)ミキと一緒に、適当な瓦礫の影に入る。

 大丈夫は大丈夫だし、おかげで助かったけど、こりゃ一体どうなってんだ? と言うか、隠れてろって言ったろうに…。

 

 

「だってパパ、どう考えても死にに行くような事言ってたし…」

 

 

 ああうん、そういう事言いまくって逆にフラグ折ろうとしたんだけど…。実際、ミキが来てくれなかったらまず間違いなく死んでたが。

 しかし、これは一体…具体的に言うと、移動式のバリスタとか、手を貸してくれるハンター達とかは?

 

 

「あの後、パンツァー猟団の皆と合流して、パパを助けに行きたいって言ったら、皆手を貸してくれたの。………『お姉さまの為なら!』って声がちょっと気になるけど…。移動式のバリスタは、生き残ってた職人さん達を探し出して、即興で作って木枠の上に載せてもらったの。今も後方で、アイデアはあったけど試せなかった武器とか試作品とか、何でもいいから据え付けてるよ。ハンターさん達は…混乱してたり、逃げるに逃げられない人が沢山いたから、引っ張り込んで手伝ってもらった」

 

 

 よく手伝わせられたなぁ…。

 

 

「アレに近付くんじゃなくて、隠れて援護するなら…って条件だったよ。何だかんだで、ハンターなのにモンスターにやられっぱなしなのは嫌みたい」

 

 

 それを纏め上げて、移動式砲台やら休息所やらを作り出したのか…。引っ込み思案だったミキが、よくそこまで…。

 

 

「パパの為だもん。こういうハンターの補助は、ウェストライブ家の得意分野だし。あんまり得意じゃなかったけど、そんな事言ってられないもんね。……ウサギさんチーム、煙幕を張って! カメさんチーム、狙われてるから煙に紛れて退避!」

 

 

 …いや本当にスゲェな、この戦略眼…。ダメージこそ少ないとは言え、ありものでミラボレアスに通じる設備を作り出し、烏合の衆と化していたハンター達を統率するこの手腕…。

 潜在能力覚醒ってレベルじゃないぞ。ウェストライブ家の家風に合わないって言ってたのがウソみたいだ。…ああ、あっちは後方からの援助、ミキは現場からの援助って意味では合わないか。

 

 

「…でも、正直言って手詰まり。バリスタの矢もボウガンの弾も、無茶苦茶になった広場の残骸から探し出して使ってる。ハンターが沢山いた場所だから、量は充分あるだろうけど…遠からず、見つからなくなっちゃうよ」

 

 

 それもそうか…。今でこそ攪乱も効いてるし、ハンター達も『反撃している』って意識があって士気も高まってるけど、徐々に熱は引いていくだろう。

 そうなれば、勝ち目がないと判断しての逃走。櫛の歯が欠けるように、ポロポロと人員が欠けていく。…間違った選択ではないのが、また何とも。

 

 ついでに言えば、あいつは色々学習しながら戦ってるらしい。攪乱も、いずれ効かなくなるかもしれん。

 

 

「どうすれば……。あの古龍に通じそうなもの……爆弾も駄目、バリスタも駄目、落とし穴や痺れ罠も駄目、拘束弾…は効果があったとしても、致命打に繋がる火力が無い。となると…」

 

「あるぜぃ、とっておきが! 試作品だがなぁ!」

 

 

 工房の親っさん!? ちょっ、アンタ後方援護担当だろが! ここ最前線!

 

 

「細かい事ぁいいんだよ。俺もちょいと、ここに取りに来るものがあっただけだ。…それはともかく、まだ試してない兵器が二つある。ただし、片方は試作品で運用実績は無い。成功すれば、ドンドルマに据え付けられる事になってんだがな。もう一方は実績たっぷり、ハンターからも大絶賛の兵器だが、リーチが短い」

 

「具体的には?」

 

「巨龍砲と、撃龍槍だ」

 

 

 撃龍槍! …それは確かに大絶賛。しかし、あれは壁とかに大がかりな機構を内蔵してようやく使えるものだしな…。ここまで壊れた広場だと、設置すら…。

 して、巨龍砲と言うのは?

 

 

「龍属性の力を結集して放つ、ドでかい大砲だ。ちゃんと発射はできるんだが、試作品だから何発撃てるか分からん。最悪、一発撃っただけで爆発する可能性もある。…が、威力は保証するぜ。相手が相手だから、どこまで通じるか分からんがな…」

 

 

 ふむ…。ここに、あいつとドンパチやってる間に、こっそりちょっぱって来た鱗がある。バリスタで傷が入った、顔面の一部だと思うんだが。

 

 

「貸してみろ。…………この鱗部分が一番弱いと仮定して……有効打にはなる、だろうな。だがそこまでだ」

 

「効果があるなら、やらない理由はありません。…それに、一つ策を思いつきました。不確定要素が多いですけど…」

 

 

 ふむ…。何をやる気か知らんが、俺はそろそろ戻らなきゃならん。ミキ、思いっきりやってみな。

 

 

「うん! …あ、パパって休めてないんじゃ」

 

 

 慕ってくれる可愛い娘との会話で、癒されないパパは居ない! と言う訳で、ちょっといいとこ見せに行くぜ!

 

 

 

 

 

 

 …と言う訳でまた3人揃って、援護射撃付きの戦闘になったものの……よくないな、やっぱり。

 ミラボレアスの動きは鋭くなり初め、攻撃方法も異常に増えてきた。援護射撃の残弾も、そう多くはないだろう。何より、進展のない状況に周囲のハンター達が焦り始めているのが分かる。

 ここらで一発、部位破壊でもなんでもやって、目に見える成果を出さないと、士気崩壊待ったなし。

 

 …ん? グラついた? ダウンしかけてるのか…。………誘い、じゃない。

 

 レイラ、前に言ってた未完成奥義行くぞ! 俺とセラブレスで追撃する!

 

 

「未完成だって言っただろ…! クソッ、やってやる、極ノ型…!」

 

 

 立ち上がったミラボレアスがフラついたのには気づいていたのだろう。その隙を逃さず接近していたレイラが、足や腹を殴る蹴るしながら胸のあたりまで駆け上がる。

 同時に俺はジャンプからのエリアルステップで背後に回り、尻尾を足場にしてもう一度ジャンプ。

 

 

「穿極拳舞、穿極解放、龍気穿撃…! ったく、本当なら地上でやる技なんだぞ、これ…。ただでさえ未完成だってのに…。喰らいやがれェ!」

 

「私も切り札を出すか…。ここが勝負所!」

 

 

 ミラボレアスの体すら貫通する、凄まじい衝撃。何やら、二人分のとんでもない奥義が炸裂したようだ。ただし、俺からはミラボレアスの体が遮蔽物になって見えなかったが。

 ただ、その貫通力と内部破壊力はよーく伝わってくる。何せ、俺は斜め反対側から切り札・鬼杭千切を叩き込んでいるのだが、この衝撃力と拮抗してもおかしくないくらいの反動を感じるのだ。

 レイラが、妙な笑いをあげたのが聞こえた。

 

 

「はは…アタシ自身は失敗したのに、本当に3人がかりであの奥義やっちまったよ…。侮れねぇな、こういう戦い方も」

 

 

 3点同時攻撃を受けたミラボレアスは、掠れた悲鳴を挙げて倒れ込む。広場跡のハンター達が湧き上がった。

 だが、まだ致命打には至ってない!

 

 

「まだ動くぞ、畳み込め!」

 

「胸に傷が出来ています、アレを狙って! 狙えない角度に居るチームは、翼を狙って起き上がるのを阻害して!」

 

 

 ミキの一喝で、バリスタの矢が乱れ飛ぶ。

 レイラは一息ついてから、すぐに追撃に向かった。セラブレスは既に、顔面に向かって只管青いオーラを連射している。

 俺は…鬼杭千切の反動で動け……あれ? 思ったより動ける…。

 

 

 …フロンティアに来てから、体が強くなったか慣れたのかな…。まぁいいや、俺は尻尾狙おう。

 

 

 

 暫くもがいていたものの、ミラボレアスはまだ立ち上がる。顔と胸に大きな傷こそできているが、痛痒を感じている様子すらない。

 …ここまで来ると、流石に気味が悪くなってきたな…。尋常な生物はないとは思ってたが、痛覚あるのか? むしろ本当に生物なのか?

 

 

 倒れた後の総攻撃という、大チャンスがあったにも関わらず、平然としているミラボレアス。異様とすら言える姿に、不安が広がっていく。戦意高揚した直後だからこそ、それに罅が入るのも早い。

 だが、手応えはそれなりにあった。ミキの思いついた奇策も待っている。

 それまで何とか保たせたいが、士気の問題だけは…。

 

 

 

~~~♪ 

 

  ~~~~~♪

 

 

 …歌? いや、歌と言うよりは………意味は分からんが、このリズムは祝詞…に近い? いや、ある種の感応現象…? ユノの歌に近い『何か』を感じる気がする。

 この混乱の戦いの中でも高らかに響く声の主は、先程のミキ同様、高い所から登場した。

 

 恐怖や躊躇いを打ち払うような、力強い歌声。いつも聞いている声とは違うが、聞き覚えのある声の主は。

 

 

 プリズム…?

 

「…歌姫?」

 

「歌姫って、あの歌姫様か?」

 

「歌を聞いたハンターに、不思議な効果を齎すっていうあの歌姫?」

 

「間違いない、昔何度か見た事がある。あそこで歌っているのは、あの歌姫だ!」

 

「…歌姫……プリズム…?」

 

 

 …戸惑いではない、何やらヤバい声色に咄嗟に目を向けると、そこに居たのは睨みつけるような表情のレイラ。…そういや、会わせるとヤバいんじゃないかって話になってたっけ…。

 この表情を見るに、その懸念は的外れではなかったようだ。歌姫を見る目には、明らかな険がある。

 

 

「見ろ、あのモンスターの動きが鈍ってるぞ!」

 

「歌姫の歌は、古龍を退ける力を持っていたって言うが、本当だったのか…!?」

 

「行ける…行けるぞ、なんか行ける気がしてきたぞ! あの3人のハンターを、あの子の的確な指示で援護して、歌姫様の歌で抑え込めば、何とかなるんじゃないか!?」

 

 

 下がりかけてきた士気が、また盛り上がり始めている。いける、という感触だけではない。明らかにそれ以上の「何か」が、ハンター達の心に影響を及ぼしている。

 それが純粋に、歌による鼓舞なのか、それ以外の力による効果なのかは分からない。呪術的な何かで精神を弄られているというのはあまりいい気分ではないが、有効な手段には違いないし、黙って受け入れる。

 

 盛り上がるハンター達、動きを鈍らせるミラボレアスを見て苦い顔をするレイラ。

 ……しかし、誰もが思っていた。

 

 

 

 

 

「「「「でも、何で歌姫様はジャージ姿なんだ?」」」」

 

「新聞配達の途中だったからですよ言わせないでください!」

 

 

 

 し、新聞配達ってお前…確かにやってたし、最近じゃ他所のメゼポルタ広場にも出張してたのは知ってたが…。

 

 

「ここのメゼポルタ広場を担当してほしいと言われ、やって来る途中で逃げるハンターと出会って…あの人は隣のメゼポルタ広場に伝令を伝えに行きましたから、あと半日もすれば援軍が到着する筈です。私は多少でも救助活動のお手伝いが出来るのではと思い、駆け付けた次第です。まさか、こんな事になっているとは思いませんでしたが。……もう歌う事はないと決めていましたが……今回ばかりは話は別です。四の五の言っていられません。微力ながら、お手伝いさせていただきます」

 

 

 再び奏でられる歌声が、何をどうやっているのかミラボレアスの動きを抑え込む。それを跳ね除けようとするように、ミラボレアスは怒りを宿した咆哮を繰り返すが、先程までと違いそれで恐慌に陥りそうなハンターは居ない。

 おいレイラ、何か色々ややこしい背景があるんだろうが、とりあえずあっちを仕留めるのが先だ。モヤモヤするなら、全部まとめてアイツに叩き込め!

 

 

「…糞ッタレ、やってやんよ!」

 

 

 明らかに殺意と苛立ちを載せた打撃で、レイラはミラボレアスに特攻する。速度が半減しているミラボレアスの攻撃を軽々と回避し、息の続く限りのラッシュを繰り替えす。

 歌声の恩恵を受けたのか、セラブレスはセラブレスで火力が増した砲撃で、ミラボレアスを足止めし、チャンスがあればミラボレアスの傷口に直接槍を突き立て、体内で砲撃を繰り返す。

 俺も離れれば射撃、近寄れば捕食+斬撃と、片っ端から攻撃を繰り返す。

 

 歌姫の歌によって動きが抑えられている為なのか、それとも他に理由があるのか、ミラボレアスの装甲は、今までよりも柔らかく感じた。

 同じ事を感じたセラブレスが叫ぶ。

 

 

「行けるぞ! 末端を集中攻撃しろ! こいつのリーチ内に留まるなよ!」 

 

「攻撃するなら、縦斬りや直突き、攻撃範囲の狭い動きにしてください! 決して周囲に当てないように!」

 

 

 …と言うか、これってやっぱり感応現象とか血の力だよなぁ…。アラガミ細胞の動きに何かしら干渉してるし、あの歌からは霊力…血の力に近い何かを感じるし、しかし同時に神仏英霊に捧げる祈りの呪文でもあるようだし。

 

 動きが鈍い今ならいけると感じたのか、それとも単に一発くらいは自分で殴り返さないと気が済まなかったのか、隠れていたハンター達が、その辺で拾って来たらしき武器を手に手に、影から出てきて一斉に飛び掛かる。互いに攻撃が当たらないように動きを選んでいるのは、それだけ理性が残っているのか、それともミキの統率の賜物か。

 どっちにしろ、ハンターとしては掟破りの(ラヴィエンテ戦という例外もあるが)大人数戦闘である。

 しかし、事ここに居たってそんな事を言っている場合ではない。

 俺もここぞとばかりに飛び上がり、ミラボレアスの顔面付近で滞空しながら攻撃し続ける。俺を集中的に狙うのは止めていたようだが、流石に目の前を飛び回られるのは鬱陶しいらしく、鈍った動きで噛みつこうとしてくる。

 

 

 ……気のせい、ではないと思うが……さっきから、感じる憎悪が強くなっているように思う。ミキが現れた時、プリズムが歌い始めた時、そして周囲の人間から集中攻撃されるようになった時。

 気が狂ったような怒りと憎悪を感じている。それも、とても人間臭い感情を。人間らしい部分がどんどん薄れて行っていると言うのに、この部分だけは消えやしない。いや、一時消えかけてはいたが、再燃しているようだ。

 …一体何をそんなに狂っているのか分からないが…その感情が、ミラボレアスの素、原点…と言う事か。

 

 まぁ、人間の感情であるなら、考えても意味もないし、仕方のない事だ。憎悪に理屈もヘッタクレもない。単なる八つ当たりであっても、全くおかしくはないんだから。

 

 

 

 そんな感想を他所に、プリズムの歌をBGMに戦闘はクライマックスに差し掛かる。

 

 

「おう、出来たぜぇ嬢ちゃん、皆の衆! 一発限りの特別仕様、巨龍砲フルカスタムだ!」

 

 

 威勢のいい声と共に登場した、工房の親方。おお、ミキの策が発動するか!

 ……はいいんだが。アレが巨龍砲…。成程、確かにデカい。大砲なんぞメじゃないくらいにデカい。それをどうやって即興で作り上げて、瓦礫の上まで持ってきたのかも、今はいい。

 

 しかし…。

 

 

 

 しかし何故、巨龍砲は固定されておらず、何十人ものハンターが人力で担いでいるのだろうか?

 

 

 

「大勝負、行きます! 全員、後ろ足を狙ってダウンを取って!」

 

 

 この娘は無茶振りしおる。だが娘に期待されたら張り切っちゃうのが男親。本日二回目の鬼杭千切を、リクエスト通りに叩き込むと、叫びをあげてミラボレアスが倒れ込んだ。

 一斉に取付いて反撃しようとするハンター達を、ミキの一喝が止める。

 

 

「全条件クリア…。アキャマさん、出番です!」

 

「大一番であります! 争点完了、照準良し……ファイエル!」

 

 

 アキャマ殿の叫びと共に、巨龍砲に強烈なエネルギーが溜まっていく。…おいおい、それ抱えてるハンター達大丈夫なのか? 

 しかし、そんな心配を他所に、溜まったエネルギーは容赦なく放出された。視認できる程の、龍属性エネルギー…。あれに巻き込まれるとか、考えたくも無いな。

 

 初めて扱う兵器で、しかも安定性とは無縁の設置状態だったろうに、見事にエネルギー弾はミラボレアスに向かっていく。何処まで残っているのか分からない理性で、流石に直撃は危険と判断したのだろう。倒れた体を必死にジタバタ動かして、ミラボレアスは立ち上がろうとしている。

 しかし、元々動きが素早いとは言いづらいミラボレアス。立ち上がりはしたものの、回避までには至らなかった。

 

 

 --------!!!!!!

 

 

 龍属性エネルギーの爆発に、ミラボレアスの悲鳴が掻き消される。

 だが、まだ足りない。今までで一番大きなダメージにはなったが、仕留めた手応えは無い。それは、この場に居合わせたハンター全員の共通認識だったろう。それ程に、自分達が相手をしているモンスターは隔絶した力を持っていると、否が応でも身に染みていたのだ。

 

 ミキ、これで終わりなのか? 正直言って、まだ足りないぞ。

 

 

「チッ…こりゃ追撃もできないな…。あのエネルギーの嵐に突っ込めば、こっちが動けなくなっちまう」

 

 

 レイラの言う通り、迂闊に近づけない。主導権を握り続けなければ、蹂躙されてしまうのがオチだ。しかしこれでは…ダメージは与えられたが、結果的には悪手になったか…?

 

 

「今です、全員離れて!」

 

 

 は? もう既に離れ……あ、巨龍砲を支えてた人達ね。支えていたハンター達が、巨龍砲を放り出して一目散に駆けだして…おい、巨龍砲が明らかにヤバい明滅を………ああ、やっぱ爆発!

 と、同時に、何かが目にも止まらぬスピードで宙を駆ける。

 そして再び上がるミラボレアスの悲鳴。

 

 

「今のは…撃龍槍か…?」

 

 

 だよな…槍だけだったけど。見れば、ミラボレアスの胸元の傷を貫通するように、巨大な槍が突き刺さっている。しかも、槍には先程の巨龍砲の砲撃に負けず劣らずのエネルギーが絡みついていた。

 射線からして、巨龍砲の中から飛び出したように見えたが…。

 

 まさか、巨龍砲の中に撃龍槍を仕込んでいたのか? 最初の砲撃で大ダメージを与えるのと同時に、中に設置した槍にエネルギーを注ぎ込む。そして、巨龍砲が負荷に耐えきれず自爆する事すら計算に入れて(或いは最初からそうカスタムしたのか)、その自爆の圧力を射出力にする。

 とてもじゃないが、それをやろうとしたところで、撃龍槍が直撃するとは思えないが…実際、急所を見事に貫いてるんだよなぁ。

 工房の親方達の腕が良かったのか、照準を合わせたアキャマ殿の直感なのか、或いはそこまで弾道計算しきったミキの神算鬼謀か…。

 

 が、神算鬼謀は更に続いた。自爆し、支えるものが無くなった巨龍砲が、ガラゴロと瓦礫の上から転がり落ちてくる。そして、その転がり落ちる先には、ミラボレアス…の、しかも突き刺さった槍が…。

 

 

 

「あ、直撃…」

 

「胸に特大の釘を打ち込まれて、更にハンマーでブン殴られたようなもんだな」

 

 

 ……あ、巨龍砲が更に爆発…。

 

 

「………お前の娘、恐ろしいな…ここまで計算してたのか?」

 

 

 さぁ…どっちにしろ末恐ろしい子なのは否定できんが。

 つーか、これでもまだ動くとか本当にしぶといな!

 

 だが、動きは読めた。すまんがサポート頼む。

 

 

「やれやれ…流石に今回は疲れた…。ま、きっちり勝って、スッキリして帰ろうか」

 

「言いたい事も聞きたい事も山のようにあるが、そろそろシメか。歌も…声が掠れてきてるな。限界が近いか」

 

 

 爆発の中から、大分ボロボロになったミラボレアスが、鈍い動きで進み出てくる。その矛先は、歌声の主とミキ。丁度同じ場所に立っている。

 自分がこうまでやられた原因であると、直感で分かったんだろうか。後先考えず、黒い祖龍が口元に炎を宿して飛び上がる。

 破れた翼で飛び上がったとは思えない程に、スムーズに宙を舞い…ブレスか、噛みつきしようとしたのかは知らないが。

 

 逃げるのが間に合わないと判断したミキは、今まで使っていなかった太刀を構えて歌姫の前に出る。勇ましい姿だったが、どうやったって勝てる筈もない。一人なら。

 

 

 

「空中戦ならアタシの独壇場だッ! 余所見してんじゃねえ!」

 

 

 横っ面から、レイラが殴り飛ばす。

 

 

「我が異能なら、ランスを使っていても遠距離戦が出来るのだ! 威力は低いが」

 

 

 セラブレスが放った青い光が、ミラボレアスの目を眩ます。

 

 

 そして。何処を狙ってるのか分かってて、それだけ注意散漫なら、いくらでも取り付けるんだよ…!

 

 瓦礫の山を駆け上がり、飛び上がったミラボレアスよりも更に高くから飛び降りた俺が、その顔面に取りついた。口元に宿ったままの炎で体力がガリガリ削られるが気にしない。

 そして3発目の……バフ全開、アラガミ化、その他諸々全のっけの……鬼杭千切!

 

 

 会心の手応えと共に、眉間から杭が撃ち込まれる。脳髄を破壊する独特の感触。

 力を失った顎が開かれ、炎が漏れ出した。

 

 

「えぇぇぇぇぇぇぃぃぃいッ!!」

 

 

 ミキの、小柄な体に似合わない裂帛の気合と共に、全力で降りぬかれる太刀は、ミキとプリズムに迫っていた炎を見事に切り裂いて見せた。

 とうとう、ミラボレアスは悲鳴すらあげず、羽ばたきを止めて落下する。

 

 

 

 

 俺ごと落下した先には、まだヤバげな明滅を残していた巨龍砲のかけらがあった。…あ、明滅が早くなって、なんか電撃が…。

 

 

 

 

 あぼん。

 

 

 

 

 

 

 

 …いや俺は死んでないけどね…。

 

 

 

 

 

 

 

 まぁ、大体こんな流れだった。

 ミラボレアスはと言うと、確かに生命活動を止めて息絶えていた。湧き上がる(元)メゼポルタ広場。俺、レイラ、セラブレスは勿論、ハンター達を統率してミラボレアスに大ダメージを与える策をやりきったミキは、完全に英雄扱いである。

 一頻もみくちゃにされた挙句、今はミキを軍神扱いしてコールしている訳である。

 

 目で助けを求められた俺はと言うと、いい経験だろうと笑って(言い訳して)、一人ハンターのサガを果たしに来た訳だ。具体的に言うと剥ぎ取り。

 …しかし、いくらか剥ぎ取った辺りで、ミラボレアスの死骸はスーッと消えてしまった。…むぅ、ミステリーと言うかオカルトチックと言うか…。何者かの念で体が作られていたとするなら、そいつが死ねば消えてしまうのも分からないではないが。

 

 

 そんな事を考えていると、丁度ミラボレアスの胸があった辺りに、一つの死骸が燃えているのに気が付いた。

 犠牲者が出たなぁと、若干欝に思いつつ近付いてみると、これがおかしい。

 明らかに、数年以上も野晒しにされていたと思しき鎧。燃えている最中ではあるが、白骨しか残っていない体。そして、その鎧に張り付いていて、炎に蝕まれていく絵。

 

 

 …一瞬しか見えなかったが……あの絵に描かれていたのは、……シキとマキじゃないか?

 まさかと思って、ついついタカの目を発動させてしまったが…………こりゃ失敗だったかな…。ああ、狩りの後のスッキリした気分が台無しになる程度には。

 

 

 

「……何事ですか、これは」

 

 

 うお、シキ!? 何故ここに!?

 

 

「何故も何も、ミキと一緒にフロンティアに来ると言っておいたではありませんか。だと言うのに、いざ到着してみればメゼポルタ広場は壊滅しているし、ミキが無事なのはいい事ですが何故か軍神扱いされて胴上げされているし…。…いえ、話はあとで聞きましょう。とにもかくにも、まずは要救助者の確認からです」

 

 

 …そうだな。ところでシキ、ここの死骸、見た?

 

 

「? …あまり気分のいいものではありませんが、見ましたが…何か?」

 

 

 いや、それならいいんだ。ちょっと気になる事があっただけだから。

 

 

「よくわかりませんが、貴方も疲労困憊の様子。後の事は私と、一緒に到着した援軍が対処しますから、ミキ達と一緒に休んでください」

 

 

 

 そうするよ。…タカの目で何が見えたのかは、また今度日記に書いておこう。

 

 

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