神逝月
さて、時期的に考えれば、今度はシエルが入ってくる訳だが…その前にギルに質問された。
俺の血の力やブラッドアーツについて。
「どうも、お前は他のブラッド…と言っても、まだブラッドアーツを使えるのはジュリウスとロミオだけだが…と違って、一人で複数の技や力を使えると聞いたが、どんなもんなんだ? この前のガルム墜天種の時は、殆ど力を使ったように見えなかったんだが」
「あ、それ私も気になる。ブラッドアーツって、使う時には赤く光るんだよね? ……それらしいところは見なかったけど」
「二人とも、ちょっと訂正。最新の学説…学説? では、光るとしても赤とは限らない事になってる。3年前、俺の訓練中にレア博士がそう言ってたよ。…で、教官の力って言うと…確か治癒と、なんか波動拳みたいなのがすっ飛んでいくアレと、敵の注意を引く挑発と…後何かありましたっけ?」
攻撃無効化、火力増幅、速度上昇、敵の動きの阻害、スタミナ増幅に隠密効果、デコイの作成、力の受け渡し…パッと思い浮かぶのはこれくらいか。
「…改めて聞くと多いっすね」
この3年間で、色々芸が増えてな。その分、習熟がまだ不十分なのも否定できん。
真っ当に使いこなせてない技もあるし。
「でもそれって、血の力でしょ? ブラッドアーツは何なの?」
ブラッドアーツねぇ…。タマフリ『魂』がそれに当たるか…。
いや、意思の力を使った攻撃な訳だから…。
「教官が特に信頼している必殺技とか、無いんですか? 必殺技。奥義。奥の手。そういう男心を擽る技、教官なら絶対持ってると思うんですけど。…ああ、俺のブラッドアーツの説明はしましたっけ?」
戦ってる時に見かけたから、大体分かるぞ。(と言うか前回のループで教えてくれたし)
チャージアタックに、状態異常付与を付けたな? ランダムで状態異常になるのか、狙って効果を選べるのかまでは分からなかったが。
「へへ、正解っす。結構悩んだんで…いや俺はともかく、教官の必殺技の話です」
むぅ…必殺技ねぇ。
そういや俺、ブラッドアーツその物は目覚めてないんだよな。霊力を代用して似たような事は出来るけど、所詮はモノマネ。余程上手く使わないと、運用効率は低い。
ハンターとして考えれば、フロンティアで教わった六華閃舞や超越秘儀か。しかし、信を置ける程に使い慣れてない。
他には…強いて言うなら鬼杭千切が必殺技に当たるが、あれはどっちかと言うと道具を使った物だし、ブラッドアーツとは違うと思う。
鬼千切? ……いや、なんか使う機会少ないし。
後は……あ。
必殺技って括りとはちょっと違う気がするが、コレかな。鬼の手。意思の具現って意味でも、ブラッドアーツに近いものだ。
ホレ、具現化。
「うおっ!? …な、なんだこりゃ…。デカい手…? …触れた感触はあるが、擦り抜ける…」
驚きもそこそこに、すぐに鬼の手に触れようとするギル。…なんか好奇心強いっすね。
逆に、じっと観察しているロミオ。…ゲーム通りのお前なら、ビビッて距離を取るか、恐る恐る手を伸ばしてみるかだろうに…。もうヘタレたロミオには会えそうにない。…いや悪い事じゃないんだけども。
ナナ? ネコジャラシに会ったみたいにジャレてるよ。
「どういう事が出来るんだ? 攻撃か?」
だけじゃない。相手の体格やスピードにもよるが、突進を止めて逆に転ばせたり、敵や物を掴んでそこに飛んで行ったりできる。
とは言え、やっぱ一番の大技は攻撃だけどな。
大抵の物なら、握り潰して一発で部位破壊できるぞ。(…あれ、でもアラガミに通じるかな…。通じたとして、あいつら再生能力なんか無いから、鬼千切と同じ程度の効果しか…)
…ま、まぁ何だ、リーチもかなり長い。攻撃に使おうと思ったらある程度の溜めは必要だが、突進を受け流したりするにはほぼノータイムで発動できる。
「…それは便利だな。これは、俺達にも出来るのか? デメリットは? こうやって手が擦り抜ける訳だが、フレンドリーファイアの危険性は?」
出来るかどうかと言うと…正直、ブラッドアーツや血の力を習熟しても厳しい。同じように具現化できたとしても、思った通りに動かすのは非常に難しいな。(俺も補助器具を取り込んで、ようやくこうだもんなぁ…)」
フレンドリーファイアの危険性はほぼ無い。俺の意思によって具現化・発動・動作するものだから、『標的はコイツ』と明確に定めておけば、味方の体に直撃してもノーダメージだ。…気分は良くないだろうけど。
デメリットは、そうだなぁ…。俺の意思に従って動く物だから、ちゃんと目的意識を持って制御してないと
「入るぞ」
「失礼します」
シエルのきょぬーキター!
「んっ!? ぁっ、こ、これはっ、何がっ!」
……このように、ついつい欲望に従って動いてしまうと言う事かな。
ジュリウスに飛び蹴り叩き込まれ、シエルに土下座しました。
一番効いたのは、ナナの穢れの無い目です。「欲望って言ってたけど、どんな欲望で胸に触るの?」 ……性的知識が無いのが、一層辛い。
のっけからシエルにセクハラかましてしまった訳ですが、「お気になさらず」と言ってくれました。……警戒されてるけどな! ジュリウスには「本気で叩き出されたいか?」と凄まれたけどな!
…言っちゃなんだが、ジュリウスに凄まれたって大した恐怖は感じないんだが…自分に非や後ろ暗い部分があると、受けるダメージもでかくなるよなぁ…。
と言うか、なまじ前回ループで、シエルのカラダを知ってるからね…。どこが弱いとか、どうすればいい反応をするとか、その辺も含めて鬼の手が勝手に動くもんだからさぁ…。
……あれ、これをうまく使えば、エッチの時に腕を一本分増やしたり、全自動で動くナニを作ったり、下手すると触手もイケるんじゃね?
即座にそんな発想に至る辺り、我ながら全く反省してないね。
しかし、ジュリウスのリミットもそろそろ近いか…? 次に何かやらかしたら、冗談抜きでフライアから放り出される気がする。
俺個人としては、アラガミの生息域のド真ん中に叩き込まれても大して苦痛は無いんだが、黒蛛病阻止の事を考えるとなぁ…。
まぁ、取り敢えず今のところ、本気で誰かに手を出す気はないけどさ。その時になって合意の上ならともかく。
「シエルの件は後でケジメを付けるとして…それは何だ?」
必殺技。
「初対面の女性の胸を揉むのがか」
それは普通に自殺技だが、暴走しただけだ。この手の力を暴走させる時点でお話にならないけども。
まーアレだ、血の力の結晶みたいなもんだと思ってくれ。俺の意思、及び本能のままに動いて、敵を掴んだり潰したり放り投げたりする。
「ほう…。…赤くない…いや、ブラッドアーツの光は紅とは限らないのだったか。俺のとロミオは赤いが。丁度いい。これからシエルも交えてミッションがある。その時に存分に見せてもらおう」
「それはいいんだけど、そっちの子は?」
「申し遅れました。シエル・アランソンです。ただいまを持って、特殊教導隊ブラッドに所属します」
「新しいメンバーか…。ギルバードだ。よろしくな」
「ナナだよ!」
「ロミオ・レオーニ。…マグノリア・コンパスで、会った事あったっけ?」
「いえ、初対面です。私は別の場所で訓練を受けていましたので。血の力の覚醒には未だ至りませんが、足手まといにならないよう死力を尽くします」
…相変わらず半眼で眠そうだなぁ。と言うか見てるこっちが眠たくなる目付きだ。まぁ、可愛いし巨乳だしご褒美ですが。
「では、早速ですが連携の練度を高める為、ミッション前のブリーフィングに入りたいと思います。フランさん、資料をお願いします」
あれ、フラフラフラフランさん居たの。
「フランと呼んでください。目的もなく彷徨っているかのような名前で呼ばれる筋合いはありません。…ジュリウス隊長とシエルさんと一緒に入ってきていました。勿論、貴方のセクハラも記録しています。映像として残っているので、出るとこ出ますよ」
勘弁してください。…後で電脳空間から破壊しとこ。
「今回のミッションは、サバイバルミッションとなります。複数のミッションを続けて行うものですが、普段のミッションと違い、道具の補給、並びに装備の変更が望めません。より効率的かつ被害の少ない戦いが求められます」
相変わらずの涼し気な表情で、紙の資料を渡される。手袋がなんかエロい。
渡された資料を斜め読みしてみると、中型アラガミの名前が幾つか並んでいる。こいつらがメインターゲット…。目を引くのは、精々ラーヴァナくらい。組み合わせ的にもあまり厄介な物は無いし、明確な選択ミスをしなければゴリ押しでどうにかできるだろう。
シエルの参入ミッショがコレか…………あれ? そういやマルドゥークとの遭遇イベントってどうだったっけ? 前回は確か、ガルムとやり合ってる時に乱入してきて、でもその場で討伐しちゃったから、シナリオがどうだったか思い出せない。
時期的に、シエル参入の前だったか後だったか…。ひょっとして、この前のジンオウガモドキがマルドゥーク…いやでもガルム亜種だったよなぁ。
まぁいいか。その内会う事もあるだろう。別に、あのアラガミに拘る必要はない。赤いカリギュラ辺りなら、ギルと因縁があるから遭遇しなけりゃ困るだろうが。
「…ミッションの説明は以上となります。何か確認事項はありますか?」
「それじゃ一つ質問。途中で撤退する事は可能? 可能不可能に関わらず退路の確保はやっておくつもりだけど、例えば戦闘不能になったメンバーは、自力で戻らなければいけない?」
「撤退は可能です、ロミオ副隊長。ですが、当然ながら望ましい事ではありません。フライアから離れた場所にまで足を延ばす為、救護車を差し向ける事も困難です。…自力で戻れるくらいの力が残っているなら、最後まで残って戦った方が、生還率は高いと算出されています」
「或いは、一人二人護衛をつけて送還するか…か」
どっちにしろ、ミッション成功率は大きく下がるな。そこまでしなければならない程傷つくって事は、完全に回復錠の類も尽きてるだろう。
そうならないように、少なくなった道具は融通しあって立ち回れって事か…。
「ターゲットを迅速に無力化し、消耗を抑える事が必要だと考えます。幸い、遠征場所付近の情報はほぼ揃っています。無用な交戦を避け、弱点を徹底的に叩いて潰しましょう。具体的には…」
…シエルって意外と仕切り屋? でも、前のループではそんな感じはしなかったな。むしろ、誰かから…主に俺だったけど…受けた言葉や命令に従うタイプだったような気が。
淡々と話を進めるシエル。
…作戦立案能力は、流石に高い。軍事的な行動という意味では、俺よりもずっと慣れているようだ。慣れているようだが、しかし…。
…おいジュリウス?
「……何だ」
そりゃこの通りに話が進めば、ミッションは最短で終わりそうだが……これって、個人の適正とか技量とか、そういうの度外視してね? ナナは確かにショットガン使いで、最近じゃ大分マシになってきたけど、苦手意識は抜けてないぞ。殺意のままに『死ねよや』するのは出来るようになったけど、狙った場所にタイミング通りに叩き込める訳じゃないぞ。
「…シエルは今まで独りで教導を受けていたからな…。連携の取り方にしろ、人との付き合い方にしろ、経験不足なんだろう」
何考えてそんな鍛え方してんだ? 軍人だったら…いや本当の軍人じゃないけど、軍事教練だったらコミュニケーションと言うか、連携についてはガチで叩き込まれるだろうに。
…ラケルてんてーの指示?
「……………誰の意図であったにせよ、問題がある事は確かだ。とは言え、口で言って理解できる物でもないだろう」
そらそーだが、ラケルてんてーに一度問い詰めておいた方がいいんじゃねーのか。
…などとジュリウスに不信感を吹き込みつつミッション開始。
…初っ端から、狩場の反対側に居るシユウを鬼葬で瞬殺するのは間違っているだろうか?
皆して目が点になってた。おう、見せてもらおうっつってたから実演したんだよ。あくしろよ…もとい、あくしたよ。
「お前…いくら何でもそれはちょっと…」
オラクルバレットを弄れば、似たような効果は出せるだろ。大したもんじゃねーよ。
まぁ、狩りに携わる者として、安全地帯から致死性の一発で終わらすってのはモヤモヤするものが無いではないが、狙撃と思えばそう珍しいもんでもないし。
「…次のミッションも、それで終わらせるつもり?」
いや、流石に連発は効かないから。小型アラガミを掴んで、引き寄せるくらいなら出来るけど。…ああ、それを目的のアラガミに投げつければいいのか。何だったら、掴んで振り回して叩きつければ。
「待て、ちょっと待て。呆れる程に有効な手段なのはよく分かるが、今は止せ。このミッションの目的は…いや最重要なのはアラガミの討伐だが、互いの能力と連携を確かめる為にだな…」
その言い方だと、なんかハブられてるみたいでショボーン。実力差が開き過ぎてるとこうなるのね。
「ドヤ顔やめろよ教官…」
「ていうか教官の場合、凄いとか強いとかいう以前に、なんか世界観違わない? 文字通り別ゲーと言うか、皆がアクションやってるのに一人だけ射撃やってると言うか」
ははは、いい勘してるなナナ。…割と真面目に文字通りである。もっとも、全部狩りゲーだけど。夢も含めるとそうでもないか?
おいシエル、予想外の事が起こって混乱するのは分かるが、硬直してんじゃない。
「…お前に胸をまさぐられた記憶が蘇って、恐怖に震えてるんじゃないのか?」
切腹でいい?
「いや、空港でお前に抱き着いていた二人に連絡する」
ヤメテ! 今度は焦らされるってレベルじゃない事されちゃう! …あれ、ちょっとドキドキするよ。
まぁ、今更それで慌てるようなら、3つの世界で種馬やってない訳で……あ、やってないか。種になったのはMH世界のみだったわ。
「…いえ、情けない所をお見せしました。ですが、これは強力なブラッドアーツです。使える機会があれば、どんどん使っていくべきかと」
シエルはいい子だなぁ。俺をハブろうとしないなんて。
冗談はともかくとして、確かにコレをあまり見せびらかすのは得策じゃないな。見た者全てを始末すれば話は別だが、どこでアラガミが学習するか分からん。
「…!? アラガミが、ブラッドアーツを覚えると!?」
「いや、言われてみれば可能性があるかも…。血の力と感応種の力が同じ物だとすれば、アラガミがブラッドアーツを使ってもおかしくない! ………でも、日頃から火を吐いたり雷落としたり凍ったりしてるしなぁ」
うん、攻撃方法が増えるだけで、今と大して変わらないかもね。とは言え、アラガミの学習能力は侮れん。
似たような事をやってこられたら脅威だしな。
「でも、それを言い出したら私達の…と言ってもまだ使えないけど…ブラッドアーツだって、迂闊に使えないんじゃない?」
む、確かに。鬼の手だけ特別って訳でもないしなぁ…。
そこらは考えなくてもいいか。どうせ、フィールドで接敵したアラガミは基本的に潰すんだし。
「自分で言い出した事だろうが。…まぁいいか。よし、次のミッションポイントに向かう。経緯はどうあれ、おかげで一戦分の消耗を省く事が出来た。余裕を持って終わらせるぞ」
…そこから先は、まぁ予定調和? と言うか、前回ループの流れやらゲームのシナリオに沿うような展開だった。
ミッションは成功するが、シエルのやり方がブラッドの空気に会わず、浮いてしまうという塩梅の。俺も多少はフォローに入ろうとしたんだが……事が人間関係じゃなく、戦闘でのフォローだったからなぁ。いや人間関係か戦闘かと言われれば間違いなく戦闘の方が得意なんだが、フロンティアで成長した上にこの近辺のアラガミが貧弱な為、『フォロー』が『決定打』になってしまうから…と止められてしまった。実際、つい手を出してラーヴァナの首を落としちゃったし。
……ハンマーでハンター式スタンプ3叩き込んだら、こう…ブチンとね…。自分でやっといてなんだけど、割とグロかった。せめてブレードでやるべきだったか…。狩りしてりゃ珍しくも無いけども。