※この作品はR-18です。

狩りゲー世界転生輪   作:時守 暦

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第323話

 

神逝月

 

 

 シエルに警戒されている。…いや警戒と言うか…未知の存在過ぎて、どう接すればいいのか分からない感じ?

 …実際、自分でもよく分からないナマモノ…いやもうナマモノなのかさえ定かではなくなっている訳ですが。

 

 

 

 さて、この後どうすっかね。孤立するシエルに付け込むように篭絡する…と言うのもなんだが、実際カラダネタ以外では俺のコミュ能力は低いしなぁ。

 とりあえず、シエルは俺から伝えた事に、基本的に従っている。と言うのも、単に俺が教官という立場にあるから、言わば上司の命令としてその言葉を捉えている。このまま続ければ、なぁなぁの内にブラッドの呼吸に…慣れるようなら、こんな状態になっとらんな。

 ラケルてんてーも、どこまで仕込んでいるのやら…。

 

 

 とか考えていたら、容赦なくイベントは起こる。

 グレムのオッサン、襲来…と言うより、帰還か。前もそうだったが、このオッサン、極秘事項の筈の極東であった事を知ってるらしいんだよな。

 ゲームでは単なる凌辱用の汚ッサン2号としか考えてなかったし、記者会見シーンでも「私は被害者だぞ!」とか主張してるのを見て、「空気読めねぇ人だなぁ…」とか思っていたもんだが…。

 

 で、そのオッサン、俺の事はジロリと見ただけで、完全に放置の態勢に入ったようだ。ラケルてんてーが手を回したのか、邪魔にはならないのなら相手にするだけ無駄と考えたのか…。

 まぁ邪魔する気は満々なんですが。

 

 無論、神機兵の実験についてです。

 相変わらず幸の薄そうな……………えっと……その、無人技術担当の博士さん。ちょっと意外だったのは、博士さんをグレムのオッサンが割と真面目に相手していた事だ。

 レア博士が居ないからか? 俺が『綿密な打ち合わせ』をやってるから、有人神機兵を優先させる理由が無いって事か?

 それとも単に、商品の選択肢の問題か。現在、最も感性に近いのが、博士さんの無人機なんだろうか。

 

 

 

 …しかし、普通に考えりゃ無人機より有人機の方が簡単そうだよなぁ…。少なくとも、動作制御という点では。

 と言う事は、実はラケルてんてーの有人機は既に完成の領域まで持っていけるが、博士を利用する為にそれを隠しているって事? 

 

 …無いとは言わないが、疑い出したらキリがないな。

 

 

 

 まーとにかく、博士にどう接したものか。前回は、無人機について話を合わせ、最終チェックを怠らないように示唆したんだっけか。結局無駄だったっぽいけど…。

 

 

 

 

 

 …それにしても、この博士…。以前もそうだったが、なんかこう…マッド臭を感じるな。榊博士やラケルてんてーとは違うけど、明らかにヤバい臭が。

 思いつめるとやってしまいそうな神経質さもあるが、多分それとも別物。

 

 

 

 もっと、こう………自分が狂信的である事を自覚している、狂人の臭いがする。

 

 

 

 なんでこんな印象が? この人、結構いい人だと思うんだが。無人神機兵だって、『これが完成すれば、ゴッドイーター達を無暗に危険にさらさないで済む』とか考えて作ってる筈。

 内面観察術の精度も上がっているんだが、それでも読み切れない。心や精神の奥深く、色んな物が積み重なって見えなくなっている部分。誰であれ、無意識に目を逸らしているであろう部分。それをこの人は自覚している気がする。

 …その部分と言うのが、どんな物なのかは分からないけども。

 

 

 

 

 

 

 ところで、話は全く変わるんだが。

 

 

 

 

 珍しい物見た。

 

 

 

 皆が寝静まり、フライアも動きを止める深夜の事。フライアの人口花畑で転寝して寝すぎてしまい、部屋に帰ろうとしていた時だ。

 なんだか聞き慣れない足音に気が付いた。

 

 いや、聞き慣れないと言うのは間違いか? その人の足音は、フライアに乗ってる間はよく聞いてるんだが、明らかに普段と様子が違うと言うか。

 

 

 …有体に言ってしまうと、フラフラしているフランだった。冗談で言ったフラフラフラフランかよ。

 体調でも悪いのかと思って近づいたが…すぐに分かった。メッチャ酔っぱらっとる。

 

 …ってか、これはどっかでリバースしたか…?

 

 普段からは想像もできない姿だ。酔っぱらうどころか、プライベートがあるのかすら怪しくなるような顔してんのに。

 …それだけなら、『そういう日もある』で済ませただろう。このご時世だ。呑まなきゃやってられない事なんて、珍しくも無い。…誰かの訃報とかな。

 

 きっと、人に言えない何かがあったんだろう…と思って、廊下で倒れ込みそうになっている所を受け止め、部屋まで連れて行った。断じていうが、送り狼するつもりはない。

 

 

 

 

 

 ていうか、つもりがあっても、あれはなぁ…。

 

 

 

 部屋がおへやだった。汚部屋だった。アリサの部屋が可愛く見えるレベルで。

 ソーマの部屋よりは…マシかな。今のアイツの部屋がどうなってるのか知らないけど。

 

 

 転がっているワイン、ウィスキー、ウォッカ、ブランデー、その他諸々の瓶、ツマミ(と言ってもジャイアントトウモロコシを適当に焼いただけのようだが)、放り出された下着…。

 その中で、仕事着がある近辺だけは、異様に綺麗に掃除されている。

 

 

 …え、ナニコレ、マジで? フラフラフラフランって、実は私生活ではダメな人?

 

 普段は職務に徹底的に従事している分、人の目が無いとはっちゃけちゃう人?

 …内面観察術で見た事は無かったが、流石にこれは予想外だわ…。

 

 

 ……。まぁ、何だ。だらしない私生活が普段通りの物だったとしても、今日何か嫌な事があったのは事実のようだ。

 酔い潰れた顔に残る涙の跡、点けっぱなしの端末に表示されている情報。

 

 とりあえず、軽く片付けだけして、そのまま寝かせておいた。

 

 

 

 

 

 

 下着を畳んでおくくらいなら、まぁいいとして………母親が見つけたエロ本を机の上に纏めておく気持ちが、ちょっと分かってしまった。

 

 

 

 

神逝月

 

 

 フラフラフラフランに物陰に引っ張り込まれた。バラしたら刺す? 別にいいけど。今更その程度じゃ死なないし。

 

 

 おい、まだバラしも企んでもいないのに、何故刺しにくる。

 

 

「死なないのでしょう? …防いだと言う事は、苦痛やダメージはあると言う事ですね。包丁は制裁に足る、と」

 

 

 マジだよこの人。掃除できない女なのをバラされるだけで人殺すとか…。え? いやそりゃ死なないけどね。

 と言うか、覚えてんの? …ほう、廊下で倒れて部屋まで連れてこられた所までは覚えていると。

 

 つーか、何であんなに飲んで…いや何でもないわ。聞いたところで、どうこう出来る事じゃないし。

 と言うか、二日酔いとか大丈夫なのか?

 

 

「問題ありません。今まで、どれだけアルコールを摂取しても、翌日の業務に支障が出た事はありません。…昨日は少々、羽目を外し過ぎましたが」

 

 

 ハンター並の肝臓してやがるな…。酒の臭いも全然残ってない。完全に分解されてるっぽい。

 と言うか、酒好きなのか?

 

 

「…ええ。フランス系なのに、ロシア人並みの肝臓だと……言われたものです」

 

 

 …そっか。(過去形…)

 んじゃ、今度は俺と飲み比べしてみるか? 俺も酒には強いタチだし、誰にも秘密にして、一人で飲むのもつまらんだろ。

 

 

「一人酒に慣れているので、無用な心配です。私と飲みたいのなら、いい品を持ってきてください」

 

 

 ほう、言ったな? 言ったな? 

 文字通りこの世界では飲めないような酒を持ち出してくれる。…とは言え、上流階級が飲むような、上品な酒はあったかな…。

 …いや、そんな飲み方してねーな。痕跡を見るに、ラッパ飲みしてるっぽかったし。

 

 

「余計なお世話ですが、楽しみにしています。…再度言いますが、誰かにバラしたら後ろから刺しますので」

 

 

 

 

 

 

 …ま、美人さんとの飲みの約束が取り付けられたと思いますかね。あの部屋でコトに至るのもなんだから、エロは無いと思う……思う……思いたい。

 いやマジな話、アリサとレアに何も言わずにってのはな…。その疑惑で泣かせてしまった訳だし。言ってりゃいいのかという問題でもあるが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれ、確かフランって未成年じゃなかったっけ? 酒は…まぁ何も言わんが、あの下着は…。………ま、背伸びしたい年頃なんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな事を考えてたら、いつの間にか神機兵のテストミッションが発生してしまった。むぅ、博士に何も仕込めなかったな。

 …まぁ、話す機会だけは確保できたが。

 

 と言うか、神機兵を遠隔操作するクジョウ博士(名札って重要だね)の隣で、テストを見守っています。

 

 

 

 …まぁ、今の俺って一応部外者だからね。前回のループで、テストに同行できたのが不思議なくらいだったわ。

 グレムのオッサンが、「部外者をテストの場に立ち会わせられるか」と、ある意味真っ当な命令で俺を排したらしい。その割には、何故か中継を見る事は許可されているが。

 

 

 ともあれ、クジョウ博士。よろしくお願いします。

 

 

「こちらこそ…と言いたいところですが、生憎今は重要な動作テストになります。あまりお構いする事はできませんが」

 

 

 ま、仕方ないっすな。…気付いた事や懸念事項があったら、伝えた方がいいすかね?

 

 

「ええ、無論です。できれば、テストの後にお願いしたいですが」

 

 

 へーい。…うーむ、真剣だ。メッチャ真剣だ。本気でやってるのが伝わってくるね。

 茶々入れどころか、会話できるかすら怪しいくらいに集中しているようだ。

 

 

 …どうすっかな、コレ。この状態で何か言っても、馬耳東風、馬の耳に念仏にしかなりそうにない。

 ていうか、やる事が無い。動作テストの為の、露払いミッションも順調。細かい事は分からないが、神機兵の状態を示すメーターやら何やらも、見た感じではオールグリーンのようだ。

 

 通信で伝わってくるフランの声も、酒の名残を全く感じさせないし、戦況も終始優勢。

 

 

 

 ……こんな展開だっけ? 途中まで特にトラブルが無かったのは確かだと思うが……だったら、どうしてシエルが赤い雨の中に取り残されるような事になったんだ?

 現在、赤い雨…と言うか、それを発生させる赤い雲なんか見当たらない。

 

 うーん、日記を読み返して…………アカン、ゲーム通りの展開になった事は書いてあるが、詳細が全く記されてない。もうちょっと情報源として意識して書こうぜ、俺。

 そもそもからして、テストが行われている日付も違うし、場所も何気に違っている。…赤い雨が降らなくても不思議はないが。

 

 現地に居られれば、周囲の気配や霊力を探って何か見つけられたかもしれないが…。流石にセンサー越しだもんな…。

 

 

 

 …現地の人の声に頼るのが一番か。

 ジュリウス、ちょっといいか?

 

 

「何だ、くだらない事じゃないだろうな」

 

 

 世間話に聞こえるかもしれないが、空の様子はどうだ? ミッションも一段落したけど、曇ってきてないか? 

 

 

「空…? 能天気な奴だな…。快晴だぞ。ミッション中に………いや、心配事は赤い雨か」

 

 

 当たり。何だか知らんが、すっげぇ嫌な予感がする。

 

 

「はは、心配性だな。確かに赤い雨は脅威だが、だからこそ我々も警戒している。…特に最近は、通常の雲に赤乱雲が隠れている、なんて事があって、大きな被害が出たからな。通常の天気予報までチェックしているさ。昨今では珍しいくらいに晴れ渡っているぞ」

 

 

 ほぉ…。ゲームシナリオや前回ループでは、それが原因だったのかな。

 しかし、一切の雲無しとは、完全な俺の勘違いか? しかし、我が色々な意味でピンク色の頭脳は、根拠の分からない警報を鳴らし続けている。勘違いだった事を認めたくない…じゃないよなぁ…。

 何だろ。

 

 不思議に思っていたところ、不意に声を上げたのは…クジョウ博士だった。

 

 

「む? これは…神機兵の出力が…」

 

 

 どうしました? パワーダウン? エンスト?

 

 

「いえ、逆です。パワーが明らかに上昇しています。これは一体…」

 

 

 …パワーアップしてるなら、いいんじゃないの?

 

 

「そんな事はありません。確かに神機兵は極力頑丈かつしなやかに設計していますが、限界はあります。これ程の出力では……神機兵のフレームが耐え切れない恐れが。もしも有人で操作していたらと思うと、肝が冷えます」

 

 

 筋力に耐えかねて、骨が折れちまうって事か。確かにそれは問題だ。

 しかし何故…?

 

 機材を操作し、原因を探るクジョウ博士。しかし、鯨飲らしい原因は不明。

 出力を調整する為の弁にも問題無し、センサーにもおかしな部分は無し。まるで、エンジン部分が勝手に力んで力を出そうとしているような……………? 

 

 

 

 あの、クジョウ博士。神機兵って、アラガミですよね? その、例えば神機と同じような。

 

 

「え? えぇまぁ、同じ物と言えなくもありませんが。それが?」

 

 

 ひょっとしなくても、バースト状態か、活性化状態になってないか?

 

 

「…! た、確かにこの症状は、アラガミの活性化状態に近い…。まさか、内部のアラガミ細胞が暴れ出そうとしていると? しかし何故…」

 

 

 ジュリウスの『統率』なんて例もある。他のアラガミを活性化状態にするアラガミ…。

 感応種だ。

 

 

 

 おいジュリウス、ヤバいのが近くにいるみたいだぞ。

 

 

「ああ、聞いていた。全員、神機兵から距離を取れ」

 

「おい! 貴様らの役割は、神機兵を守る事だ! 妙な動きをするな!」

 

「その神機兵に暴走の危険があると言っているんだ!」

 

「お、お待ちを! 確かに想定外の現象ですが、制御は可能です! 暴走の危険はありませんし、最悪、いざと言う時の為につけておいた自爆装置を」

 

 

 …何気に押したがっているように見えるのは気のせいだろうか。まぁ気のせいだよな。この博士にとって、神機兵は息子のようなもんだろうし。…本当に息子のように思ってるなら、自爆装置なんざ付けないか。

 それよりも、現場にいると思われるアラガミ…。

 

 

「周辺区域をスキャンしました。発見されたのはグボロ・グボロが多数、ウコン・バサラが4体、コクーンメイデンとザイゴート数体…。周囲のアラガミを活性化させる力を持つ感応種、マルドゥークは見つかりません」

 

 

 グボロ・グボロを集中的に探ってくれ。いつだったか、他のアラガミを活性化させる力を持ってる奴にぶつかった事がある。…いや、でもあの時は周囲のゴッドイーターまで活性化させていたような…。

 まぁいいや。普通のグボロ・グボロじゃなくて、顔面がインディアンの仮面みたいになってた奴だった。

 

 

「了解、外套区域の映像を探ります。………………? ……それらしいターゲットを発見。目標をマークします。ナナさん、そのまま進んで、突き当りを右に曲がってください。ロミオさんは、反転して建物を超えれば挟み撃ちにできます」

 

 

 おお…流石に仕事が早い。

 喧々囂々していたジュリウスとグレムのオッサンだが、原因となっているアラガミを駆逐すれば終わる話だ。多少の蟠りを残したまま、言い争いを中断してフォローに入る。

 

 

「余計な口を挟みおって…。これで神機兵が落ち着かなかったら、覚悟しておけよ。そしてクジョウ! この欠陥をすぐに改め、3日以内に改善しろ!」

 

 

 へいへい。…クジョウ博士が悲鳴をあげている。あげているが、この人やる気だな…。神機兵が欠陥品扱いになるのは耐えきれんか。

 

 そんな事を考えていたら、フランから極秘回線が飛んできた。

 

 

「失礼します。この画像を見てください。…ここを。貴方は、このアラガミらしきものに心当たりはありますか? …これも感応種でしょうか」

 

 

 

 回線で送りつけられた画像の隅っこ。倒壊したビルの向こう、空の上。………に、中型アラガミが浮かんでいる。

 それだけだったら珍しくない。サリエルとかザイゴートとか、浮遊能力を持ってるアラガミなんぞ珍しくもない。ついでに言えば、そのアラガミ自体も珍しくなかった。

 

 

 

 

 俺の記憶が確かなら、空なんぞ飛べる筈もないアラガミだったが。

 

 

 

 

 

 …これ、ウコン・バサラじゃん。

 

 

 何でコイツが空飛んでんの? 解像度はよくないので、詳細は見えない。しかし、何かに支えられて飛んでいる訳ではないし、ぶっ飛ばされて強制フライアウェイでもない。

 明らかに、自分の意思で(正常かどうかはともかく)身をくねらせて空を飛んでいる。

 

 …そういや、こいつ電撃使うんだよなぁ…。磁力とかタービンの回転数とかを上手く使えば、空中浮遊くらいはできるんだろうか?

 

 

 

 

 いや、それよりも…なんだ、このスゲェ嫌な感じ…。さっきから鳴り響いていた脳内アラームが、一気に音量を跳ね上げた。

 

 

 

 

 

 

 ウコン・バサラ……。ワニ。電撃。タービン。

 ……周りにいるのは? グボロ・グボロ。カバラ・カバラ。他雑魚多数。

 

 

 

 

 

 

 ちょい待ち。空飛ぶ電撃ワニ。グボロ・グボロの攻撃方法。カバラ・カバラの特殊な能力。

 

 仮に、この3つが組み合わさって……そうだ、ちょっと考えられないくらいに活性化したとしたら? いや、前回ループでアラガミ達がそうしたように、トランス状態で力を合わせたら?

 

 

 ヤバイ!

 シエル、スナイパーライフル使って、あの浮いてるアラガミを仕留めろ! 最優先事項!

 

 

「はっ!? …ウ、ウコン・バサラが浮いている…!?」 

 

 

 

 

 

 結論。

 

 

 

「全員退避! 神機兵を傘にし、身を守れ!」

 

 

 

 嵐くらいならともかく、赤い雨と化すのは予想外だったよ。グボロ・グボロ達が集団で雨を降らせるところまでは予想できたが。

 不幸中の幸いなのは、カバラ・カバラを仕留めていた為、神機兵が暴走する危険が無くなった事くらいか。

 

 

 

 

 何なんだ、ありゃ…。空を飛ぶワニ。ワニ……龍の原型とも言われているな。空飛ぶ龍で、雨を呼ぶ…。

 まさか、ガルムがジンオウガモドキになったみたいに、ウコン・バサラがアマツマガツチモドキになったとでも? 幾らなんでも、パワーアップしすぎだ。

 

 

 ただ、シエルが見事に脳天を撃ち抜いた為か、それともやはり無理をして命を振り絞っていた為なのか、赤い雨はアッと今に止んだ。

 が、これはよく考えなくても脅威だろう。下手な範囲攻撃なんかより、余程危険な現象だ。

 

 

 

 

 

 

 

 現に。

 

 

 

「………感染…しました。これよりブラッド隊を離脱し…」

 

「待て、待てシエル! 落ち着け!」

 

「ジュリウス、触れてはいけません。落ち着いたところで、黒蛛病の患者をフライアに置いておける筈もありません。短い間でしたが、お世話になりました。お力になれず、申し訳ありません…」

 

 

 

 ……現に、ウコンマガツチ(仮名)を仕留める為、僅かながら赤い雨に打たれたシエルの手には、タトゥーのような蜘蛛の模様が現れている。

 それなりの条件が揃わなければならないとは言え、同じ現象をもう一度起こせるとしたら…。予兆もなく、黒蛛病の感染源が新たに発生する事になるのだ。

 

 シエルの黒蛛病の痔はまだ小さいが、明確に存在を主張している。下手に触れれば、感染の恐れがある為、シエルは自ら独房に籠った。

 万が一の可能性にかけ、ジュリウスの要請でラケルてんてーが診断したが…結果は黒。

 

 ショックを受けるジュリウスやロミオ、ナナを他所に、淡々と……どう見ても、そう装っているだけだが…ブラッドから離れる事を宣言するシエル。

 目に宿るのは、明らかな絶望の影。

 …そりゃそうだろうな。今までだって、希望がある人生を送っているとは全く言えないが、それでも自分にゴッドイーターとしての、戦力としての価値があると信じる事はできたろう。…自分の参入で、ブラッド隊の連携にノイズが走っていたのだとしても。

 その、自分に残っている最後の価値が、黒蛛病により失われた。

 

 ブラッドから離れてどうするつもりなのかは分からない…いや、考える事もできてないだろう。

 

 

 

 

 ……と、ここまで他人事のように語っておいて何だが………はいはい、全員ちょっと落ち着け…とはとても言えないが、これを見てからにしろ。

 シエル、手を出せ。

 

 

「は…いえ、私に触れたら…」

 

 

 直接は触れる必要はない。いいから手を出せ。教官としての命令。

 強い口調で命じると、一歩下がって距離を開けながらも、躊躇いながら手を伸ばす。

 

 

 うん、では皆さま、この蜘蛛の痣にご注目。…ラケルてんてーも見てると、少々やり辛いが……ホレ。

 

 

 

「!?」

 

 

 具現化させた鬼の手(小)で、握手をするようにシエルの手を握り締める。反射的にシエルは振り払おうとしたが、無駄無駄。その程度で振り払われるようじゃ、鬼なんぞ相手に使えんわ。

 さて、そんじゃ……標的は、この痣。正確には、その奥に潜む、黒蛛病の原因となる、体を蝕む霊力。

 

 

「おっ……おっ、おおぉ……!」

 

「これは…」

 

「……………」

 

「あ、痣が!」

 

「離れる…!?」

 

「おいおい…不治の病って言われてる黒蛛病が、こうも簡単に…?」

 

 

 シエルの手の中の模様が、本物の蜘蛛のように蠢いて……肌から離れる。鬼の手の中に入り込むかのように、模様が浮き上がった。

 前回ループでも似たような事はやったもんな。あの時は鬼の手も、イメージをより強く具現化するカラクリ石の補助も無かった。それでも軽症なら浄化できたんだ。今の俺ならこんなもんよ。

 

 シエルの手に、霊力の残滓がもう残ってない事を確認し、鬼の手から解放する。信じられない物を見る目で(無理もないか)自分の手の甲をまじまじと見つめ、そして俺が鬼の手の中にある蜘蛛っぽい物に目を移した。

 

 

 ラケルてんてー、もう一回診察お願いします。まだ黒蛛病の病原菌みたいなものが、残ってる可能性もあるし。

 

 

「…分かりました。シエル、いらっしゃい」

 

「あっ、はい…」

 

 

 ラケルてんてーは相変わらずの無表情だったが、どうにも厳しい表情にも見えた。…もしもジュリウスが感染しても、治療されてしまったら?と考えているんだろう。

 …前回は無理だったが、今回はどうだろう…。こればっかりは試してみんと分からんな。と言うか、本格的にラケルてんてーの排除対象になった気がする。

 

 

「あ、あのー教官。その蜘蛛、どうするんですか?」

 

 

 …………食べる?

 

 

「食べねーよ。ナナだって流石に食べねーよ」

 

「ちょっ、ロミオなんか失礼!」

 

 

 そっか。そんじゃ……鬼葬!

 …よし、完全消滅。

 これで、初対面時に鬼の手でシエルの乳揉んだのは許されるよな?

 

 

「ギルティ。…………あぁ、あぁ……だが…よくやってくれた……。ありがとう…」

 

 

 

 おいおい、ジュリウス泣くな。あと 『叩き出さずにいて本当に良かった』ってボソッと呟くな。

 ロミオ、ナナ、ギル、ジュリウスを落ち着かせ………アカンわこりゃ。下手に突くと全員で泣き始めるわコレ。ギルは比較的落ち着いて見えるけど、鼻啜っとる。

 ナナに至っては決壊寸前……泣きつかれて鼻水塗れにされる前に逃げますかね。

 

 

 

 

 

 しかし、問題はあのウコンマガツチだよな…。コとンの位置を間違えたら大惨事なのは元の名前も同じだから置いとくとして、やっぱりMH世界のモンスターに似たアラガミが出始めているのは、偶然じゃなさそうだ。

 MH世界だけじゃない。もしかしたら、討鬼伝世界の鬼も現れるかもしれない。アンテナ張り巡らせておかないとな…。

 

 

 

 追記 シエルはちゃんと完治していた。

 血の力には目覚めなかったけど、どうすんべコレ…。

 

 

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