※この作品はR-18です。

狩りゲー世界転生輪   作:時守 暦

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ネルギガンテ討伐ー。
ってまだ先があるんかい。
楽しみが続くのはいいことですが、そろそろ気分転換しようかな。
アサクリの隠れし者でも…。


嫌な上司がどっか行く模様。
次に収まった人は割と好きな上司です。
好き嫌いで仕事するもんじゃないとはいえ、やっぱりやりやすいなーとは思います。


追記
風邪と口内炎がマジうざい。
口内炎、塩を塗り付ければ死ぬほど痛いけどすぐ治ると聞きましたが…やめといたほうがええわ、あれは…。


第331話

 

 

神逝月

 

 

 ふぅ、何とか片付いた…。いやもう大騒ぎだったなぁ。

 会場をアラガミ防壁の外にした時点で似たような事になるとは分かってたが。全く、参加者が多すぎるってんなら、まず書類審査でもしろよ…。

 結局、しわ寄せが行くのは末端の従業員なんだから。この場合、ゴッドイーターに、オーディションの為に裏方に徹していた人々だな。

 

 ま、とにもかくにも重症人は出なかったし、ギルも血の力を習得できたみたいだし、鬼の手を使った黒蛛病治療の宣伝もできたし、オールクリア…なのかな?

 アンチョビ(頼むからドゥーチェ呼びは止めてくれと頼みこまれた)も合格した。ドゥーチェコールの一体感が決め手だったな。いつぞやアドバイスしたように、観客にチームアンツィオのメンバーを仕込んでサクラ役(本気で応援してたんだろうけど)に使ったのが良かったっぽい。最終的には会場の殆どがドゥーチェコールに参加するという異常事態に陥った。

 ちなみに、ルール的に特に問題は無かったりする。

 

 

 その他、リンやミカも無事合格。

 問題だったのは………タカネさんかなぁ。

 いや、余裕で合格できるくらいの実力はあったのよ。実際合格してたし。

 

 問題と言うのは……まぁ、トラブルでね。

 

 

 

 

 

 

 

 アラガミが乱入してきました。

 

 そりゃそーだよね! 周辺のアラガミを片っ端から掃除したからって、新しいアラガミが来ないとは限らないもの。しかも、美味しそうなエサ(主に人間)が沢山いるんだから、そりゃ危険を冒してでも殴り込んでくるわ。

 まぁ、極東ゴッドイーターは凄腕揃い(エミールやエリックさんのような、疑問符が付くのもいるが)だから、大体のアラガミは排除できていた。

 

 …ただ、空を飛んで乱入してくるのは、予想外だった。考えてみれば、極東には飛行可能なアラガミってザイゴートくらいだよな。あれも空を飛ぶって言うよりは、浮遊しているって感じだけど。

 オラクルバレットも届かない高度から、一気に会場のど真ん中に乱入してきやがったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 赤いナルガクルガがな!

 

 

 しかも、なんか肩のあたりに神機が突き刺さったままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 おい何だよコレ。この世界にナルガクルガが居る訳ねーし、前のやつらみたいなアラガミが変化した奴か?

 よくよく思い返せば、色以外にもあちこち、こう……トゲトゲしてるっつーか、鋭い感じっつーか、刃が強調されてるような感じもあった。動きも、MH世界のナルガクルガに比べ、二足歩行に近い印象もあった。

 率直に言って、本家に比べて弱かったけど。比較対象がフロンティア個体じゃなぁ…。

 

 

 まぁ何だ、簡潔に書くとだな、希代の超新星ことタカネの出番になった時、空から未確認飛行物体が飛び込んできた訳よ。タカネの目の前に着地して、自分の存在を誇示ような大咆哮。声だけでステージに罅が入って崩壊寸前までいった辺り、ティガ亜種並みの声量だったと思う。

 空までは警戒してなかったゴッドイーターも大騒ぎ。とにかく一般人と参加者の安全を確保しろ、って緊急スクランブル。

 

 

 その中で、タカネは平然としてたんだけどね。鼻息がかかる距離に居ながら、リードで繋がれてキャンキャン吠えるワンコを見るような視線で平常心。スゲェ度胸だ。モンスターを目の前にしたら、ハンターだって一瞬は身を竦ませるのに。

 あのまま放っておいたら、頭を撫でるくらいはしてたかもしれん。まぁその前に、ムーブメント師匠が突っ込んでいった訳だが。

 

 「美女を守るのは男の本懐」なんて叫んでて、それについては俺も全力で同意するけど、まぁ……あいつこれ以上、犠牲を出させるなんて冗談じゃない、って話だったんだろうな。

 

 

 

 そうだよ、あの赤いナルガクルガ、多分だけどギルの恩師の仇である、赤いカリギュラ……ルフス・カリギュラだっけ? あいつの慣れの果てだよ。肩に刺さってる神機がその証拠。回収されて検分され、やっぱり該当の神機だと確認されました。

 そりゃ目撃情報も途絶えてる筈だわ。姿形が全く別者に変わってんだから。…俺がループしてくるまでの経緯が全く同じだとしたら、半月程度で変異した事になるが…アラガミ細胞の学習能力は、それくらい余裕なんだよな。どこから学習したのかはともかく。

 

 

 

 その後はテレビの前で、ムーブメント師匠と駆け付けたギルと、ブラッド隊員に極東支部メンバーの一部が大乱戦よ。

 どこの特撮映画だと言いたいが、割とガチでヤバかった。

 

 俺はタカネを引っ掴み、安全な場所へと移動したんだが………この時、また訳の分からん情報が増えてしまった。ま、これについては後で語ろう。これはあくまで俺の直感で、立証はされてないしね。

 フロンティア個体並の勢いで大暴れするナルガクルガと、それを必死こいて押し留めるゴッドイーター達。

 

 流石に腕利き揃いの極東支部に、ブラッドアーツなんて必殺技モドキを操るブラッド隊も居たし、任せちゃってもいいかな? とは思ったんだけど、なんかこう…活力を持て余してね? オーディションで聞いた歌の数々で、テンション上がってたんだろうなぁ。 

 鬼の手を具現化して、思いっきり鷲掴みにしちゃいました。そのまま、適当な壁に叩きつけて動きを封じた。

 

 ここぞとばかりに、ギル・ムーブメント師匠・ロミオの、クロノトリガーのトリプルアタックをホーフツとさせるような連携攻撃。

 ムーブメント師匠が袈裟、ロミオが逆袈裟、ギルがチャージの見事な同時攻撃だった。

 

 しかし、何だってそれで他人の神機を掴んじゃうのかねぇ。侵蝕の危険があって、マジでヤバイのよ? ギルだってその事は分かってるだろうに。

 ゲームシナリオだと、戦いの中で咄嗟に…って感じだったと思うけど、今回はルフス・カリギュラ改めルフス・ナルガクルガは鬼の手で完全に固定されているとゆーのに。ぶっちゃけ、連続攻撃しなくても、脳天狙って一突きした方が確実性は高かったくらいだ。

 

 

 何はともあれ、それでルフス・ナルガクルガの討伐は完了。ギルも、何か知らんが安定した状態で血の力には目覚めていた。やはり、恩師の神機に触れるのが切っ掛けか?

 

 

 

 

 

 普通に考えれば、アラガミが乱入した時点でオーディションもクソもない。むしろ、フェンリルの管理責任を問われ、その矛先を逸らす為にゴッドイーター達に責任を擦り付ける…という展開だったろう。

 が、何とオーディション続行。安全の為に一時閉会となりかけたのが、タカネの鶴の一声で続いてしまった。

 無論、タカネにそんな権限は無い。いくら注目されているとは言え、それはアイドルとしてであり、フェンリルに対して何らかの権利を持って居る訳じゃなかった。

 

 だが、タカネの続行要請を断れる空気じゃなかった。下手に却下すると、それこそ暴動でも起きそうなレベルだった。

 アラガミの乱入で混乱していた一般人達を、たった一曲の歌で鎮撫して、当然のように女王様的なポジションを確保してしまう。

 

 落ち着いた一般人達の無言の圧力を味方につけ、オーディションの続きに入る。

 

 …いやもう、本当に見事なもんだったよ。マイクも使わず、BGMも演出も無しの歌で、混乱した人達を落ち着けるんだぞ。そんな奴が、本格的なサポート付きで歌ったらどうなると思う? ……セイレーンの歌って、あんな感じかもなぁ…。

 半壊した舞台の上で、瓦礫の山を足場に踊るタカネは、それこそ本気で妖精のようだった。と言うか、普通に空飛んでなかった? 

 それ以上に気になるのは、あの歌……まるで血の力でも籠っているかのようだった。

 

 赤い光なんて見えなかった。だけど、血の力でなくても同じ事は出来る。歌に籠められた想いや、技術で同じ事が出来る…という意味ではなく。

 霊力を使えば、似たような事は出来るよなぁ。ただし、それをこの規模でやるには、とんでもない出力が必要だが。アラガミモードの俺ですら、出来るか怪しい。

 

 ああ、おかげで彼女の正体は見当がついた。と言うより、一目直接見た時から直感はしていた。

 何故こんな所でアイドルなんかやってるのかは分からんが、どうやら本当に探し人と言うのは俺だったらしい。

 

 …さて、どっかで直接会わなきゃな…。

 

 

 

 

 

 さて、タカネの後のオーディションは…言っちゃ悪いが、順当? こんだけのドタバタがあって、とんでもない実力者の後に歌う事になって、実力を出し切れる人なんかそうそう居ない。

 消化試合のように、全参加者の行程は終わっていく。辞退した人も多かったらしい。

 

 オーディションの合格者は後日発表とされ、本日は終了となった。

 

 

 

 …俺にとっては、そっからが本番だったがな。

 すっかり忘れてたけど、テレビの前で黒蛛病の治療をやれって言われてたんだった。ま、それ自体はどうって事ない。

 ジュリウスやユノみたいな特殊例ならともかく、一般人なら黒蛛病治療はそう難しくない。『大変そうにやってくれ』って言われて、演技する方が余程大変だったくらいだ。 

 

 

 その反応は……大騒ぎとまでは行かなかった。静かなざわめき、興奮…ってとこかな。

 ま、見た目的には地味だからね。透明な手が患者を包んだところでは多少悲鳴が聞こえたが。

 

 不治の病の克服とか、世紀の大発見って言っても良かろうになぁ。

 単純に信じられないのか、それともこの場に居る観客の身内には黒蛛病患者が居ないのか。どっちもありそうだな。

 実際、テレビの向こうからは結構な問い合わせが殺到していたらしい。

 

 そこらへんの裏事情はともかくとして……治療を見せた後の、支部長の演説(兼オーディション終了の挨拶)は次のようなものだった。

 

 

 

「フェンリル所属、極東支部長のシックザールだ。本日はお集まりいただき、誠に感謝申し上げる。トラブルはあったものの、これにて本日のオーディションは終了となる。合否の知らせは後日、大々的に張り出されるのでそちらを参照してほしい。さて、場違いな話で恐縮だが、ここで一つ重大な知らせがある。身構えなくても、朗報と言える知らせだ」

 

 

 …堂々としてるのはいいけど、観客に対する態度じゃねーなー。下手に出ると、言葉尻を捕まえられるってのもあるだろうけど。

 

 

「前置きが長くなるが聞いてほしい。そもそも、何故フェンリルがこのようなオーディションを開いたのか、疑問に思っている者も多いだろう。規模こそ桁違いになり、社会への影響力も非常に増大したが、フェンリルは営利企業だ。率直に言ってしまえば、利益の出ない事はしない。アイドルという新たな分野に手を出す事は、経営上で言えば非常にリスクが高い。つまり、このオーディションを開いたのには、明確な理由があると言う事だ」

 

 

 …もう観客の半分は聞いてねーな。お偉いさんの挨拶なんざ、そんなもんか。

 特に支部長の言い回しは迂遠で難解だからなぁ…。

 

 ……あ、VIP席にシエルが居る。……視線の先には…ロミオの元カノ。おお、話しかけるつもりか。上手く行ってくれるといいが…。

 

 

「このオーディションの謳い文句、『第二の葦原ユノを探せ』。この言葉は、比喩でもキャッチコピーでもない。世紀の歌姫と呼ばれる彼女が一躍有名になったのは、その実力もさる事ながら、黒蛛病という不治の病の病状を軽減し、進行を遅らせる事が出来る為だ。フェンリルでもこの現象について研究を進めているが、確たる理論はまだ打ち立てられていない。だが、こうは考えられないだろうか。『葦原ユノの歌で病状を軽減できるなら、他の誰かの歌でも出来るのではないだろうか』と」

 

 

 そういや、ユノって会場に居ないな。来てたら流石にすぐにバレるから、他所の超VIPルームとかで見てんだろうか? しかし気配も感じない。サツキも居ないな。

 極東での大きめの仕事って、てっきりコレの事だと思ってたんだが。…でもオーディションにトップアイドルが参加するってのもおかしいか。ゲストとして審査員に居てもおかしくなかったが…やっぱり居ない。

 

 

「そう、このシンデレラオーディションの真の目的は、黒蛛病への対策と成り得る人材の発掘なのだ! 無論、数を揃えただけで、葦原ユノと同じ事が出来る人材が見つかるとは思っていない。…彼らをここへ」

 

 

 扉が開き、タンカで運ばれて入って来たのは…明らかに体調が悪そうな…と言うか、体中に黒蛛病の痣が現れている、一人の青年だった。しかも末期だな、あれは…。簡易ベッドに横になっているが、体を起こすのも億劫らしい。

 …へ? 支部長が手招き……って、俺もかよ。

 

 

「彼は、見ての通り黒蛛病患者…しかも 病状は、非常に深刻だ。彼の病状が和らげば、その時の参加者の歌には効果がある事が認められる。…残念ながら、今のところ、反応があった参加者は居なかったが。…ああ、一応言っておくが、彼は自ら志願してくれたのだ」

 

 

 さらっと人体実験と言うか、人をオウムかインコ扱いしとるな…。

 で、支部長? ここでやればいいので?

 

 

「うむ…。やれるな?」

 

 

 あいあい。…お兄さん、ちょっとおかしな感覚が走ってビックリするだろうけど、我慢しなよ。

 返事もできそうにないので、無視して鬼の手を具現化。しっかりとテレビに映るように、観客に見えるように。

 

 どよめく声を無視して、鬼の手で男を包む。

 ………病状は深刻だ。深刻だが……黒蛛病を抜くだけなら、問題はない。むしろ問題は、衰弱しきった体をどう立て直していくかだが…そこまでは俺にも責任は持てん。

 

 事前に厳命されていたように、さも大仕事であるように苦し気な表情をしつつ、男の体から黒蛛病の痣と元になっている力を抜き取った。

 結構数が多いな…。鬼の手に無数の蜘蛛が群がっているようにも見える。

 あまり見ていて気分のいい物でもないし、鬼の手を思いっきり縮めて凝縮し、握り潰した。

 

 後に残るのは、痣が消え、気絶している青年のみ。

 

 

「……このように、黒蛛病を治療する力は発見された。先程、アラガミを捕縛するのにも使っていた力だな。ラケル・グラディウス博士が提唱する、血の力と言う一部の人間が使う事ができる、未だ解明されていない力によるものだ。だが現状、この方法を使う事が出来る者はここに居る彼以外には居ない」

 

 

 

 う、注目が集まった。平常心平常心。こいつらはアレだ、ナスだ。カボチャだ。さもなくば……うん、羞恥プレイしてる時の観客だと思おう。……ここ、相手が男しか居ねぇよ…。

 

 

「本人は一人でも多く黒蛛病患者を治療したいと言っているのだが、彼一人に対して患者の数が多すぎる。これからも増えていくだろう。どう考えても、彼一人では足りないのだ。故に、我々は協力できる者を探す事にした。歌で病状を和らげるという、前例があった方法で」

 

 

 あ、榊博士まで出張って来た。……極東の胡散臭いツートップが揃って話をしてどうすんだ…。むしろ疑ってくれと言ってるよーなもんじゃなかろーか。まぁ、元々胡散臭い話だけど。

 

 

「彼の協力により、黒蛛病治療の研究は進んだ。それによると、黒蛛病治療には、大きな感情の揺れが有効らしい。どんな感情でもいいのではなく、感動、共感、興奮…そう言った感情の揺れだ。先程、彼が行った方法でも出来なくはないのだが、この技術の習得難易度は非常に高い上に、あまりに何度も繰り返すと、黒蛛病の病原菌のようなものが彼の体に残留し、今度は彼が黒蛛病になってしまう。治療できる人数を絞りながらでなければ、ようやく見つかった治療手段が消えてしまうんだ」

 

「プレッシャーを与えて敬遠される事を避ける為、この目的を伏せていた事については謝罪する。もしも『自分にそのような大役は務められない』と判断し、オーディションを辞退するのなら、それも構わん。特にペナルティは無い。また、この役目を務める為に、この血の力を習得する為の訓練が課せられる。それで習得できる人材がどれ程居るのか、現状では何とも言えん。……だが、もしも『我こそは』『自分の歌で世界を救う』と豪語出来る者がいるのなら、いつでも構わん。今後も定期的に開催するオーディションに、参加するがいい。以上だ!」

 

 

 

 

 

 

 …と、こんな塩梅だったかなぁ。もっと長ったらしい話や説明、補足があったんだが、実はロミオのモトカノとシエルとの会話に神経が集中してて、半ば聞いてなかったんだ…。

 

 面倒な事になる前にさっさと引き上げたけど、後から色々と突っ込みが飛んできたらしい。ま、矛盾点とか山のようにあるだろうしな…。

 そもそも黒蛛病治療法が発見されたなら、オーディションなんぞやらずにまず医学界にでも発表しろと。…これについては、理論立てて説明できるものでもないし、そもそもサンプル例が少なすぎるので、とても発表できるようなものではない…という理由を付けていたが。

 

 

 あれから一晩明けたけど、色んな所で話が紛糾してるみたいだな。

 絶対嘘だ出鱈目だとフェンリルを攻撃する者も居るし、証拠を出せと言われてカルテを見せられ、虚偽の証拠を探そうとする者も居る。

 逆に『俺を治療しろ!』って声も上がってるし、『本当に歌や感動で病気が治るのか』という至極当然の疑念を持つ者も居る。

 

 

 そして……ブラッド隊は、なんか面倒な立ち位置になり、暫くは極東支部に留まる事になってしまったようだ。一応、ブラッドは次代ゴッドイーターの教導部隊にして、血の力の専門家でもあるからなぁ。まずは彼らがあの治療法を使えるようにならないと、面目丸つぶれになっちまう。

 これについて、ジュリウスが支部長と榊博士に抗議していたようだが…ま、相手が悪いな。

 

 

 さて、それはそれとして…あと書いておく事は、二つくらいか。

 一つはタケウチ社長との会話、もう一つはロミオのモトカノとシエルの会話についてだ。

 

 廊下を歩いていると、難しい顔(一見するといつでも難しい顔に見えるが、眉間に皺が寄っていた)のタケウチ社長と会った。

 どうも、社長。…事態、呑み込めてます?

 

 

「…どうも。…正直な話、戸惑っております。『第二の葦原ユノを探せ』と聞いてはいましたが…」

 

 

 首の後ろに手をやりながら、相変わらず内心が読みにくい口調のタケウチ社長。

 まぁ、普通は歌で病気を治そうなんて、ふざけてんのかと言われてもおかしくないよな。

 

 

「いえ、そうでもありません。音楽療法は、古来より用いられた手法です。…確かに、効果を立証するのは難しいですが。それより、驚きました。…あのような事が出来るとは」

 

 

 あのような事? ……ああ、黒蛛病の治療の事か。意外とあっさり信じましたね。巷では…と言うか、現在進行形でフェンリルに問い合わせやら嘘を吐くなの批判やら治療依頼やらが舞い込んでるようですが。

 

 

「信じがたい事ではありましたが、少なくとも出鱈目ではないと考えています。企業の公式発表に無意味な虚偽を紛れ込ませれば、信頼を損なうのは企業です。如何に天下のフェンリルと言えど、それは大きな痛手になる筈です」

 

 

 フェンリルっつーか、支部長の独断みたな所はありますが…。

 まあ、少なくとも出鱈目を言ってる訳じゃないです。俺が黒蛛病を治療できるのは事実だし、それを再現する方法として歌や踊り…率直に言えば『感動』が有効なのも事実。

 

 アイドルの歌、踊り、笑顔で文字通り命を救う…。

 

 

 

「…彼女達に、それが出来ると思いますか?」

 

 

 ? らしくない疑問ですね。まだ数回しかあってないのにこんな事を言うのもなんですが、『笑顔です』の一言で出来ると断言しそうなのに。

 

 

「私個人としては、当社のアイドル達ならば、きっと出来ると信じています。ですが、聞けば血の力とは、個人の体質や才能に大きく左右されるらしいではないですか。何より、笑顔は人が生きるのに最も重要なものではありますが、それのみで生きていける訳ではありません。良い笑顔をする者が、良い医者であるとは限りません」

 

 

 ま、そりゃそうですな。オペルームで、器具の名前も分からずニコニコ笑ってるだけの医者が居たら失敗確定だ。

 とは言え……可能不可能で言えば、俺は可能だと考えてます。ラケルてんてーは、血の力を一部の人間しか使う事ができない力と考えていますが、俺の意見は違う。これは誰もが多少なりとも持っている力です。

 多分に適正に左右されはしますが、積み重ねと対価次第である程度の……うん、ある程度の領域までは持っていけます。その『ある程度』で治療が可能かは、試してみないと何とも言えません。個人差もありますし。

 

 

「…オーディションは、それが可能な人材を発掘する為のものと聞きました。ならば、何かしらの基準を持って居るのでは?」

 

 

 そりゃありますが…基本はアイドルと同じです。外見、歌唱力、性格、笑顔、潜在能力…その他諸々、『輝く』人なのかどうか。『感動』を引き起こせるのかどうか。

 有体に言ってしまえば、審査員の印象と匙加減一つ。

 血の力の才能だって、現時点で見た程度で分かる筈がない。…まぁ、一応専門家の俺が『この子には才能がありそう』とか言ったら、多少は加点されるかもしれませんが、それで合格してもね…。アイドルとしての仕事は出来るかもしれませんが、肝心の黒蛛病治療には役に立たんでしょう。ちゃんと力を身につけられたなら別ですが。

 

 

 ……あの、どうしました? なんか顔が怖いですけど。

 

 

「…いえ、何でも」

 

 

 何でもって顔じゃないが……何かまずい事でも言ったか? ちょっと考えてみよう。

 この人が表情を険しくする理由と言ったら、アイドル達に何かあった時、何かされそうな時だよな。

 でも、この場でそんな事を言ったか? 怪し気なスキルを教え込もうとしている…と言われると反論できんが、それも含めて辞退は認められている。

 真っ当なアイドルのオーディションだと思ったら、黒蛛病治療なんて大役を押し付けられたのは腹立たしいかもしれないが、実はAV女優のオーディションだった…なんて話でもないんだから………AV女優?

 

 

 

 …さっきまでの会話、これまで何度か話した時の事を鑑みると……自分はフェンリル側の審査員になっていて……。アイドル達が合格するかどうかは、自分達の胸先三寸と言っているようなもので…。

 

 

 

 …あのタケウチ社長。ひょっとして、枕営業の要請をされているとか、思ってます?

 

 

「……いえ…。その、ような…」

 

 

 …当たらずとも遠からず、だったらしい。

 社長、それ普通に誤解っす…。仮に俺がそういう事をしようとしていても、責任者が支部長と榊博士っすよ。絶対潰されます。

 

 大体、枕営業で合格させて、そのまま『感動』を引き起こせるとは思えません。絶対に陰りが出ます。

 手っ取り早い手段ではありますが、やったら破滅する未来しか見えません。

 

 

「……失礼しました。…何分、そう言った圧力をかけられた事も、一度や二度ではなく…」

 

 

 ちゃんと撃退したんでしょうね?

 

 

「無論です。指一本触れさせません。…ところで、『手っ取り早い手段』と言っていましたが、それは?」

 

 

 ……あー……。機密事項って事で。下手をすると、それこそ枕営業どころか、患者の命を使った脅迫と思われそうです。

 …そんな顔しないでくださいよ。知らない方がいい事も、知ったら話がややこしくなる事もあるんですから。

 

 少なくとも、俺からそういう意味で彼女達に迫る気はありません。お互いに合意の上で…って事ならともかく、レアとアリサ(とシエル)と付き合ってる俺に、そういう意味でOKを出す子がそうそう居るとも思えんし。 

 

 

「二股をかけている時点で、信用度は低いのですが…今は納得しておきます。…皆と話をしなければなりませんので、今日はこれで失礼します」

 

 

 お疲れ様です。

 

 …ふぅ、なんかあの人と話すと調子狂うなぁ。悪い意味じゃなくて、この人に妙な事をしたら、別の世界からとんでもなく叩かれるような気がして…。

 

 

 

 

 

 さて、タケウチ社長との話はこんなもんだった。枕営業疑惑には焦ったなぁ…。疑惑は晴れた…のかな? 

 しかし、いつものパターン通りに、なんやかやの内に関係を持ってしまう気がしてならない。レアが因果に関する考察で言ってたように、MH世界でクサレイヅチに奪われた分の因果が流れ込んでくるのだとすると………下手をすると、MH世界以上の人数と?

 …スキャンダルにならなきゃいいが…と思ったが、嘘臭すぎて鼻で笑われるような気もするな。

 

 まぁ、とりあえず現状は自分からコナかけるつもりもないし、アリサとレアの防衛戦を抜けるツワモノがそうそう居るとは思えんから、大丈夫だと思うけども。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、もう一つの話題、シエルの友達ゲット大作戦についてですが。

 

 

 

「…あの、友達ではなく、弟子が出来てしまったんですが…」

 

 

 …うん、こっそり聞いてたから知ってる。なんて言うか……その、ごめんね?

 

 

「いえ…確かに最初は、『友達とはこういうものなのかも』と思えましたし…途中から話がおかしくなりましたが。今後も付き合いを続けていけば、友達になれるかもしれません」

 

 

 …そういう場合、『もう友達でしょ』ってオチだろうなぁ…。こっそり聞いてたロミオのモトカノの性格からして、猶更。

 いや、それよりも問題なのは。

 

 

「それで…今後も指導をしてほしい、と頼まれたのですが、どうすればいいでしょうか…」

 

 

 

 ………本当に、どうしよう。

 

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