神呑月
ナナの事で悩みながら…正確に記すなら、何で悩まなきゃならんのか、さっさと食ってしまえばいいと欲望に傾きながら歩いていたところ、予期せぬ出会いがあった。
いや、別に会うのが珍しいって訳でもないんだけどね。一昨日も会ったし。
まぁ、その時には涙でグチャグチャになった顔だったから、あまり会いたくなかったかもしれないが。
出会ったのは、リカのおねーちゃんことミカである。久しぶりに、リカと一緒にガッツリ過ごして、色々語り合って、姉妹の溝を埋めてきたんだろう。
そして、今日は彼女達の家から、アナグラに戻って来たと言う訳だ。
その割には、何か沈んでいるが。
…リカにナニする約束しちまった(らしい)事もあって、なんか気まずいが……放っておくのも罪悪感が。
おい、どした?
「え? ………あ、えーっと、その、どうも…」
戸惑った様子。何だろうか。
…リカと何か揉めたか?
「いっ、いやっ、そういう訳じゃないし! 久しぶりにしっかり話して、ちょっと私が引け目を感じてたのは確かだけど、自分でバカだなぁって思えるくらいにはなったし! リカも、おかげで無事だったし! …って、そうだ、ちゃんとお礼してなかったっけ…」
礼は気にしなくていいよ。ある意味、こっちが巻き込んだようなもんだし。
まぁ、とにかく無事で何よりだった…。あれで、アラガミが本来怖いものだって理解してくれるといいんだけど。
「それは…期待は薄いかな。とにかく怖い物知らずな子だから…。カンはいいんだけどね」
カンで全部の危険を回避できるなら、この前の騒動にも巻き込まれてないって。
にしても、この前のミカは凄かったらしいなぁ。リカが巻き込まれたって知るや、半狂乱になって支部長やらツバキさんやらに詰め寄って、何でもするからリカを助けてくれって直談判したとか。
「そ、それは…妹の事だし。『だったら尚の事、部隊運用を乱す真似をするな』って、ツバキさんに一喝されたけどね」
それで退かなかったのは大したもんさ。ま、行為自体は無駄だったかもしれんが。
ツバキさんは鋼鉄の(処)女で、支部長は腹括ってる人種だから、ミカの勢いがどれだけ凄かったとしても、それで行動を改めるとは思えんのだよな。同情はするし尽力するが、その上限を動かす事は無いっつーか。
つまり、最初から助けられるなら助けるつもりで、そのボーダーラインの中に納まっていたと。
予想外のトラブルはあったけども。
「あ、あはははは……か、カリスマギャルの必死の声で、皆の士気が上がったって事で落としどころに…」
ま、それでよかろ。実際気合入ったヤツはかなり居るし。自分達が守ってる一般人が、頑張ってくれって必死で応援してくるんだ。そりゃ士気も上がるわな。…ゴッドイーターは扱い悪いことが多いから、猶更ね。
美人さんだしね~。
「おっ、嬉しいねぇ。でも、それで口説かれる程安くないよっと」
それは置いといて…実際問題、どうした?
リカとは俺も多少縁が出来たし、お前さんと仲違いしてるんじゃないかと思うと、あまり飯が美味くないんだが。
ナナも気にしそうだし。
うん? ナナ?
「いや………本当に、大した事じゃなくて……えっと…」
………まさかとは思うが、仲直りして添い寝を強請られたリカに、なんか色々されて妙な雰囲気になったとか…。
「……………!!!!!!!!」
まじか。
ミカのビンタ、避ける訳にはいかんよなぁ…。
「え、え~っと、その、ごめん? と謝るべき?」
いや、どっちかと言うとこっちが謝らなきゃならん。それはもう土下座どころか土下寝して。
ぶっちゃけまっすぐ倒れてるだけだけども。
「…………あの、いいかな?」
何ぞ? 色々やらかした謝罪も兼ねて、大抵の事なら無条件に聞くつもりだが。
「こっちこそ、リカを助けてもらったのに、軽口に対して…ちょっとセクハラっぽくはあったけど…ビンタなんかして、その上こんな相談するのは悪いと思ってるんだけどさ」
………真相、バラすべきかなぁ…。俺に対する好感度が下がるのはこの際仕方ないが、何か相談しようと言うならそっちが優先…か?
内容次第だな。近い内に自白するのは確定として。
とりあえず、相談なら受け付ける。(贖罪も兼ねて)
「その……つい反応しちゃったから、もう察してるかもしれないけど、リカの事なの。昨日、色々と話して……私がバカな苦手意識持ってたの、白状してさ。大泣きさせちゃったけど、あれで良かったんだと思ってる。私が思ってた以上にリカが寂しがってた事、私の仕事を邪魔しちゃいけないと思って我慢してた事、それから……リカが、どれだけ私を好きなのか、私がどれだけリカを大事にしてるのか。無茶苦茶な話し方しかできなかったけど、今までよりずっと仲良くなれたと実感できてる」
…そうか。そこだけ聞くと、いい事なんだけどな。…つまりは、さっきの軽口がドンピシャと。
「うん…」
………ちっと河岸変えるべ。通路で話す話題じゃねーわ。
「あ、だったらアンタの部屋でいい? ちょっと興味あったんだよね」
俺の部屋ぁ? …まぁ、別にいいけどさ。今はアリサ達も居ないし、掃除はちゃんとしてるし。消臭玉様様である。
「…なんか生々しいね」
そりゃ、空港で二人に抱き着かれてキスされるような関係だからな。ロマンスを現実に持ってくりゃ、そりゃ生々しくも生臭くもなるよ。
でも、その生臭さが好きなんだよ、俺は。
「……匂いフェチ?」
匂いに限定する程、心は狭くない。リアル話、異性と付き合おうと思ったら、その生々しい生活臭に慣れなきゃやっていけんぞ。
幻想と付き合ってる訳じゃないんだから。
…っと、かりすまぎゃるには釈迦に説法だったかの?
「あ、あたりまえだしー! てか、アンタ今平仮名発音で言ったでしょ! ……そ、それはそれとして、その生々しさってのを詳しく…」
男の生々しさについては、男の俺よりもそれを見て実感してるアリサやレア達に聞く事だ。
とりあえず、俺の部屋までやってきた。羊が狼の巣穴に入り込んできたよーなもんだが、狼は羊に対して負い目があるので、手は出さない。つもりだ。
で。
色々耐えられなくなったもんで、暴露しました。割とマジでブン殴られたが、コレは仕方ない。
……しかし、それはそれとして前後の事情を説明(言い訳)して納得させてしまう自分が憎い。舌戦や誠意という意味じゃ、強いどころか下から数えた方が早いだろうに、どうしてこういう所だけ通してしまうのか。
いや、ある意味不可抗力っちゃ不可抗力だったのかもしれないよ? 俺だって、リカとナナとあんな関係になるとは………ナナはまだ可能性として考えられたが……思ってなかったもの。
ある意味では事故と言えなくもない。
…加害者である俺から言い出さなければ、事故と言えなくもない…と思う。
いや実際予想外もいいトコだったのは確かだ。大抵の状態異常は無効化できるアラガミ状態の俺が、間近から不意を突かれたとは言え、ナナの誘引で魅了状態になって、完全に意識飛ばすとか。
それも事故…いや、それは荒事を生業にする者として、自分の不注意、無様として断ずるとしても、そのままナナの夢の中にリカまで引き摺り込んで、幼い頃からエロい事ばっかしまくるとかどうやって予想しろと言うのだ。
しかも、ナナもリカも、物心ついた頃から(と言う夢だが)エロい事ばっかしていた為に、寝てる間でも女体があれば、無意識に愛撫するような体質になっちまってんだぞ。俺としては見ていてとても楽しいが。眠りながらでも手コキしてくると聞いて、かなり心を動かされたが。
…いや待て、俺はまだ意識がある状態では、二人に手は出してない。眠りながらでもの部分は、二人の自己申告…相互申告? だ。
「私達に挟まれて寝たら、寝てる間に3回くらい射しちゃうよ」なんて言葉に屈したりしない! ……まだ。三回程度なら、レアやアリサに突っ込んだまま寝た時の方が多いしな。
「で…真面目な話、リカはこれからどうなると思う?」
何とも言えん…。ちゃんとした知識があればまた別かもしれんけど、幼い彼女にアブノーマルな常識が刷り込まれたからな。
正しい知識を教え込んだとしても、強く根付いた価値観を変えるのはそう簡単な事じゃない。
…確認するが、添い寝の時以外でリカに変わった事は?
「なかった…と思う。元々甘えん坊だし、私に引っ付きたがるのも前からだし」
…幼子相手にする質問じゃないが……他の男に妙な視線を向けたり、受けたりした事は?」
「無いよ! …あ、いや、「この人ちょっとヤバいんじゃない?」って人に心当たりはあったけど、バッタリ会ったらなんかでっかい溜息吐いて、トボトボどっかに行ったわ」
…天使なロリが汚れたのを本能で感知したのかな? それは不幸中の幸いと呼んでいいんだろうか…。
一番心配なのは、誰彼構わずって状態だが、それは大丈夫そうだ。
ナナもそうだったな。…夢の中のおかあさんに、『この人に大人にしてもらおうね』って約束してたらしいから、多分リカもナナと同じように最初の相手は俺だと思ってるんじゃなかろうか。
「お、大人……って言うか、業が深すぎる…」
夢が捻じ曲げられた結果だからな。
…知ってるか? 業ってさ、自分だけの問題じゃねーのよ。業の重さに吸い寄せられるみたいに、どんどん他人を引っ張り込むんだよ。そしてそれで更に業が深くなる。
切り離すなんてできやしない。俺のはちょっと酷すぎるにしても、業ってのは生きていく上で絶対に背負いこむ宿命だから。
「いやこんな事でそんな事悟られても。……話を戻すけど…つまり、リカの状態は?」
この際モラルは放り捨てて論じるが、エロい事が体に染みついているって事以外は、現状問題はない。
最初の相手が俺だと決めて、ナナとも約束している以上、あの子は…なんだ、相当な欲求不満になっても、他の男に手を出す…出させる? 事は無いだろう。
本来であれば、性的な欲求を自覚すらしてなさそうな年齢だしな。
「……あの子、お赤飯まだなの。私が知る限りでは、だけども」
……ま、まぁ、姉妹であっても話題にする事じゃ…あ、でも知らないのに股から血が出たら普通は大騒ぎするよな…。
ともあれ、ターゲットを俺に絞っている以上、俺を捕まえられない間は実害が出る事は無い。
「…どれくらい逃げられそう?」
…………い、いっしゅうかん?
「お前もロリコンかこの野郎!」
うっへー! ありゃロリとかペドとかそんなレベルのナマモノじゃねーよ!
下手なサキュバスよりもヤバいぞあのちびっ子! 性癖がどうこうじゃなくて、天然で理性にダイレクトアタックかけるタイプなんだよ!
お前も大人と言うかオンナになれば嫌でも分かる、お前の妹は天然物の『オンナ』だよ!
「ひ、人の妹に向かって…! ………………あれ、でもよく考えたら……昨晩のあの手付きと寝顔も…うん………うん…?」
…心当たりが出てきたか…。慌てなくていい。お前はおかしくない。
リカにまさぐられて変な気分になって、ついついそういう目線で見てしまったら、今までとは違う妹の魅力を発見しただけだ。
「それ、結局リカがヤバい子だって言ってるだけじゃん…。うぅ、知りたくなかった、妹の素質…」
もう半ば開花させちまったんだよな、俺が…。
「…一週間っていう期間が長いか短いかはともかくとして…もし捕まったらどうする気? その……リカが、『オンナ』になったとして? …身内の話が生々しくてちょっと吐きそうだけど」
生々しいか? 逆に現実感無くなったりしない? …現実からは逃げられないから無理か。
ともあれ、とっ捕まったら俺も覚悟決めるよ。少なくとも、誰彼構わず相手をするような壊れた子にはしない。…俺にベッタリになるか、俺のグループに入り浸りになると思うけど…。
「グループって……空港でキスシーンを放映した、アリサさんとレアさんと…シエルさんもだっけ。…それに入り浸りになるって、どういう事なの…」
…いっそ、ミカも入り浸ってみる? 抜け出せるかは知らんけど。
とりあえず、ビンタでこの話は終了した。
ふと気づけば、見知らぬ荒野のド真ん中に居た。はいはい、いつもの夢ね。
いい加減慌てる事も戸惑う事も少なくなっていたが、快適な状況かと言われればはっきりとノーだ。この、砂と土と荒廃した建物の匂い…。控え目に言って不愉快だな。
近くからは、ガソリンの燃える匂いもする…。
…以前にも、よく似た世界に入り込んだことがあるような気がするが……うーん、思い出せん。
こういう夢を見るようになって、最初のあの世界か? あれは初めての事だったから、割と印象に残ってる。謎の踊りを披露する連中の事ばっかりだが。
ま、何にせよ、砂しかない土地のド真ん中で突っ立ってたって仕方ない。なんでもいいから、休める場所を。少なくとも水を。
それがなければ、照り付ける太陽を避けられる影を。
いくら夢だからって、くたばるまでの苦しみからは逃げられないのである。
……お?
風の匂いがおかしい。……人工物があるな。かなりデカい、町みたいなやつだ。
よし、あっちに行ってみるか。
…………なんぞコレ。
でっかい門の前で、何人もの人間が立ち往生している。警備員らしき人物達と、入れてくれ入れないで揉めているようだが……。
と言うか、あの人達の姿を見るに、ここってアレか? 北斗ワールドか?
以前にも、一度同じ世界にやってきたことがあったような…いや夢なんだから、世界にやってきたってのはおかしいか?
まぁ何にせよ、ここからどうしたもんかな。あの時と同じ世界だとすれば、北斗の拳名物世紀末雑魚ルック達を蹴散らせる程度の力はある。
が、前回はケンシロウを始めとした拳法家達とは一度も出会わなかったから、専門家とどれくらいの力量差があるか分からん。
分かったって、好き好んで戦いたくはないがな。命が幾つあっても足りん。
ともあれ。
「動くな!」
……カタギの衆にボウガン向けられて警戒されてちゃ、動くに動けん。いや蹴散らすだけならどうとでもなるけど、人を好んで傷つける趣味もない。
後ろで背中合わせに立ってるのが、世紀末救世主(らしき人物)であるなら猶更だ。
と言うか、見た目で言えばボウガン向けてる連中の頭の方がよっぽど悪党に見えるけどな。世紀末雑魚ルックだし。
「誰が雑魚だテメェ! いやそれはいい、動くな! 特にそっちのテメェだ!」
世紀末救世主(っぽい人)にボウガンを向ける隊長さんだが、止めた方がいいぞー。そいつ、矢を指で受け止めて投げ返すから
…で、何でこんな事になってるかっつーと、世紀末救世主(らしき人)と共闘しちゃったからなんだよね。それだけなら単なる感動っつーか、ある意味いい経験になったと思うんだが、まぁ、北斗神拳ってアレだ。どう見ても殺り方がカタギのもんじゃないからね。
殺しにカタギもクソもないとは思うが、人間を内部から爆裂四散させる拳法なんぞ、どう考えたって真っ当なもんじゃない。
だからなー、こいつらの主張も分かるんだよなぁ。今回の揉め事は、どう考えても正当防衛だ。何せ、詐欺をかけようとしていたチンピラ共を止めようとしたら、乱闘に発展して返り討ちにしただけなんだから。
近くに居た商人らしいおっちゃんも言ってたが、あの商品…エデンの入場許可証は偽物だ。鷹の目で見れば一発で分かった。
しかし、どんな理由があっても、危険人物は危険人物。触れられたら即あの世行な人間を警戒せずに、誰を警戒しろと言うのだろう。
…どうしたもんかな。俺もアサシンやってるから人殺しには違いない。お天道様に胸張って歩けるかと言われると、下半身を切り落としてから歩けと言われるような気さえする。
この世紀末雑魚ルック亜種な衛兵部隊の隊長さんの言う事は言いがかりに近いが、カタギの衆を守っている連中を虐殺するのも気分が悪い。と言うか、世紀末救世主の矛先がこっちに向けられるのは勘弁だ。
……あれ? あっさり捕まった?
…………どうしよ。俺も捕まるべきかな。
…まぁ、ここでこいつら蹴散らしても、あんまり意味ないかな…。ここから逃げられたところで、周囲にあるのは砂漠と廃墟。周囲に食い物も水もないんじゃ、いくらハンターだってそう長くは保たない。
牢獄の中でも、まぁ飯くらいは出るだろうし…最悪抉じ開けて抜け出せばいいか。
はいはい、俺もギブアップですよっと。武器も渡すから勘弁してくれ。
…あ、その大剣クッソ重いから、3人くらいで運んでね。
さて、牢の中に放り込まれたものの、どうしたもんかな。やろうと思えば簡単に逃げ出せるけど、逃げてどうするって話だし…近くの牢の人に聞いた話だと、脱獄犯は賞金首にされてしまうらしい。まぁ無理もないね。
別にここで何をする必要があるって訳でもなし、放っておけばその内夢から覚めるだろうから、牢に居たって別に困る事は無い。
とは言え、正当防衛…過剰防衛があったとしても…でこのままってのも…。
なんて考えてたら、いつの間にやら隣の世紀末救世主が脱獄し、そして戻ってきていた。何やら警備の人と揉めている。
……ほう? 囚人闘技とな? それに優勝すれば、堂々と自由の身になれると。
興味深い話だな…。おーい、隊長さん隊長さん、それ、俺も見物って出来るかね。
「あぁ!? 出来る訳ねぇだろうが! てめぇ自分の立場分かってんのか! 罪人だぞ罪人!」
ですよねー。ま、仕方ないか。一か月後にまだここに居るようであれば、挑戦するとしよう。
…ん? どったの、北斗神拳伝承者サン?
「…お前は出ないのか」
アンタが出るのに? 冗談きついぜ。勝ち目のない戦いは極力避ける主義なんだよ。
牢獄の中は退屈だけど、飯も出るし雨風もしのげるし、別に無理して出る必要もないかなっと。
「…そうか」
それだけ呟いて、さっさと行ってしまった。うーむ、寡黙で何考えてるのかよく分からんな。基本鉄面皮だし。
さって、どうなる事かな。北斗現れる所乱ありって言うし、なんかデカいイベントがあるのか間違いないだろう。
ここが北斗ワールドで、どの時期で……これって漫画かな? ゲームかな? 今までの例で言えば、夢は大体何かのゲームだったようだが…北斗の拳のゲームで、牢屋に放り込まれるなんてあったのか? 昔のレトロ系でRPGのやつもあったと聞いたが、やった事がないからよく分からん。
なんて考えてたら、早速何やらあったようだ。一か月に一度だった囚人闘技が、毎晩行われるようになったとか。…囚人の数もどんどん増えてるみたいだし、見世物兼犯罪者処分かな? 囚人闘技はルール無し、ブッコロ前提のようだし、生かしておいたら飯代だってバカにならんだろう。
とりあえず、北斗神拳伝承者は出ないようなので、まぁ勝てるだろうと思って出場しました。
…デビルリバースは予想外だったわ…。なんか仮面つけてたけど。とりあえず勝ったと言うか狩ったと言いますか。羅漢仁王拳はヤバかったが、ジャイアントキリングはハンターのお家芸だ。小回りが効く分、フロンティアのラージャンの方が厄介だった。
さて、めでたく出所したのはいいが、ここで生活するにはイディアル…つまりは金が必要らしい。北斗ワールドじゃ、ケツ拭く紙にもなりゃしねぇ、なんて言われてたが……ケツ拭くくらいはできんじゃねーの?
「いや…できないよ。ちょっと硬くてさ…」
…あ、そうなの。苦労してるみたいね、にーちゃん。まぁこのリンゴ(フロンティア産)でも持ってけ。
さてどうしたものか。手持ちの物を売ってイディアルを得る事も考えたが、そう多い訳じゃないし、安定した収入源とは言い難い。やはり生活基盤はちゃんとしたものにしなければ。
何より、どうせ果物や種を使うのなら、GE世界でやったように荒廃した世界を侵食するくらいに緑に溢れさせたい。北斗ワールドの世界観がぶっ壊れるけど、それはそれで楽しそうなのでOKだ。
さーて、どうしたものか……その辺をウロウロして、絡んでくるゴロツキからカツアゲしながら考えていると、何やら近場の店から揉め事の声。
…ジャンクショップ? ちょっと覗いてみるか。
「だからさっさと金を出せよ!」
「む、無理ですよ…こんな鉄くずに100万イディアルなんて…」
「鉄くずとは何だ!」
…うわぁ、なんて分かりやすい構図。素直に強盗しないだけマシ…なのか? いやどっちにしろ有罪だな。
とりあえず、こういう場合……。
おい、モヒカンのにーちゃん。金は無いけど、代わりにいいモノがあるぜ。
「あん? なんだテメー。いい物?」
おう。まずはこの樽を見てくれ。上から覗き込むようにだ。
「何なんだよ…つまらねぇ物だったらブッコロあべしっ!?」
打ち上げ樽爆弾だ。おお、上手く気絶したな。いい夢見ろよ。クレーマー及び、勘違いした客は死すべし。強盗とか論外。
…あ、このモヒカン、カツラだ。折角だからもらっとこ。
衛兵を呼んで、気絶したまま連行してもらった。途中で目覚めそうになったので、今度は股間に向けて打ち上げ樽爆弾発射。ドン引きされたが、これでも優しい処置である。世紀末救世主にたわらば!されるよりマシだ。牢に入っても、一定期間大人しくするか、囚人闘技で優勝すれば出てこれるので、頑張ってほしい。後者の場合、デビルリバースに勝つ必要がありそうだが。
…さて、店の中でちょっと爆弾使っちゃったけど、余計な世話だったかね?
「いや、助かったよ。ありがとう。…礼と言っちゃなんだが、これを持って行ってくれ」
ん。……いや錆びたネジ貰っても…。まぁ、礼に文句つけるのも失礼だから、黙って貰っておくが。
「ん? アンタ……確か、この前の囚人闘技で優勝した人じゃないか?」
そうだよ。見てたの?
「ああ。俺も楽しみにしてるからな。毎回、店を閉めて見物に行ってたんだ。…今は、毎晩開催されてるから、全部見るって事はできないけどな…。しかし、あのデビルリバースをあんな方法で倒すなんてなぁ………ん? 待てよ…」
ちなみにデビルリバースの俺の攻略法は、泣きが入るまで弁慶の泣き所を殴りまくった。それでどうにかなるのだから、色々しょーもない話である。
何やらブツブツ言い始めた。自分の世界に入っちゃったようなので、周囲のガラクタを手に取って見定めてみる。
…うん、ジャンク屋の名に恥じずにジャンクばっかだな。ジャンクチップスは何か違う気がするが。
基本的にガラクタの山だが、直せる物は直して売っているようだ。そもそも何に使うのかよく分からない物も多いが、ジャンクってそーいうもんだよね。
「…なぁ、アンタ。囚人闘技で牢から出てきたばっかりって事は、イディアルが無いんじゃないか?」
ん? そうだな。絡んできた奴らからチョロまかしたものはあるが、2日も食いつなげるか怪しい程度だ。
荒野で何か拾ってきて売ればいいんだろうが、足が無いのはちと辛いし…。
「それなら、ウチでバイトするってのはどうだ? 仕事は俺が居ない時の店番と、さっきみたいなゴロツキの対処。飯はともかく、寝床も提供するぜ。給料は、そうだな……こんなもんでどうだ?」
相場が分からんから、こんなもんと言われてもな。ま、選択の余地はないけども。
お世話になります、店長!
…と言う訳で、店に厄介になる事になりました。
最初は店長をちょっと警戒してたけど…。何でって、なんとなくホモっぽい顔付だな、と思っちゃったから…。普通にそんな事は無かったんだけど、何故だろう…。アゴのヒゲのせいだろうか?
基本的に、店番をするのは夜。店長が囚人闘技の見物に行くからだ。客が来ない時は、手頃なジャンクを弄って直せないか暇潰しする。
ゴロツキどもが何かと面倒を持ち込んでくるが、それも日に1回か2回程度。…充分多いが、昨今の情勢を考えりゃ少ない方か。
大して強い奴は来ないし、偶然居合わせた世紀末救世主が始末してくれる事もあるんで、気楽なもんだ。
ここ…エデンが俄かに騒がしくなっているようだが、正直あまり興味ない。伝説の熱き男達が、その内どうにかするだろう。ラオウ様に会ってみたくはあるが、下手にお目にかかると殴られそうだしなぁ…。
さて、生活基盤も出来たし、このエデンとやらを探索してみる。
特に気になるのは囚人闘技、決闘…コロセウムだが、他にも色々店はある。世紀末らしくないバーとか、『お前のようなババアがいるか』と言う発言に土下座しなきゃならんようなばーさんが経営するレストランとか。
あの婆さんとは、バーで意気投合して何かと話す仲である。ムシフライ美味い。流石、食糧難に備えて研究してきたことはある。
…それよりも気になるのは、行く先々で世紀末救世主の姿を見かける事なんだよなぁ…。
バーテンダーやってたり、ねじり鉢巻き巻いた魚屋のオッサンみたいな恰好してたり、スーパードクターKみたいな事してたり、明らかにお水系商売に関連するヤクザみたいな恰好してたり、この前なんかいつの間にか開店していたゲームセンターで遊んでるところを見た。
世紀末救世主とは一体…。
疑問はつきないが、折角北斗ワールドに来てるんだし、拳法の一つも覚えて帰りたいものである。北斗神拳を使いたいなんて贅沢は言わないから。
しかし、教えてくれと言って教えてくれそうな人なぞ居ない。強いて言うならトキくらいだろうが、北斗神拳を教えてくれる筈もない。精々基礎の基礎の基礎の初歩の初歩のほんの一部くらいか。と言うか真っ当な神経持ってりゃ、暗殺拳なんぞ人に教えない。
それでも覚えたいのであれば……見て覚えるしかなかろう。
北斗神拳奥義、水影心ではないが、戦ってれば多少は技のカラクリも見えてくるかもしれない。
そういう訳で、拳法家が集まるコロセウムに参加したんだが………なぁ、バーで一杯やってるジャグレさんよ。ちょっといいかい?
「…何となく言いたい事は分かるが、何だ」
…コロセウムでは、拳法家は仮面をつけなきゃいけないルールでもあるのかい?
「そんなもんねぇよ。…何でああなったのかは、俺にも分からん…。顔を見られるとヤバいヤツが入り込んでるんじゃないかって話はあるが」
拳法家にとって、手の内を知られるのは致命傷だから、せめて顔を隠して個人特定されないように…と考えるのも分かるけどな。パープルタンクなんか、モロにアイツだし…イチゴ味風味だったけど。
それだったら、コロセウムみたいな場所でわざわざ戦うなって話だし。
「まぁな…。しかし、いきなりコロセウムに参加し始めたと思ったら、そういう理由かよ」
目の前のバーテンダーさんが、北斗神拳を教えてくれれば一番手っ取り早いんだけどなー。
「……断る」
だろうね。一朝一夕で覚えられるよーなもんでもなし。やっぱ、コロセウムの決闘で見て盗むしかないかぁ…。
何人か、北斗神拳使ってそうなヤツも居たモンな。……別人だよな?
「……………」
流石にノーコメントか。ま、アンタも結構参加してるみたいだし、カチ合ったらお手柔らかにお願いします。
と言う訳で、闘技場で暇を見て戦う事暫し。戦歴としては中の下ってトコかな。モヒカンの群れには負けないが、やっぱ拳法家相手になると途端に負けが込む。やっぱ対人が専門のヤツは違うわ。
デビルリバース相手には全勝なんだけどなぁ。
そのデビルリバースが、襲撃で壊れたエデンの立て直しを手伝ってのは目を疑ったけどな。
超凶悪死刑囚なんじゃなかったんかい。いや、いい光景だと思ったけど。
さて、そんなこんなで名が売れてきて、何故かコメディアン扱いされる事も。負けが大いにせよ、実績を積み上げてきて、そろそろ昇格……ってトコで。
いつかはと思ってたが、アンタが相手とはなぁ。
「…安心しろ。殺しはせん」
そう願う。
とうとう、北斗神拳伝承者と正面切って戦う羽目になってしまった。幸いと言うべきか、俺は別に悪党認定されてる訳じゃないようだし、手加減ができない程実力が伯仲している訳じゃないんで、無難に済ませてくれそうではある。
…以前、ナイトクラブのお嬢さんとついついネンゴロになりかけて、かなり本気で睨まれたけど。いやいや、ヒナちゃんがセクシーになるのを応援しようとしたのは本当だよ、いつもの手段だったけど…。
でもまぁ、少年時代は夢にまで見た、世紀末救世主と本当に戦える訳だし…それなりに本気でやらなくちゃな。
ついでに言うなら、これもやっておかねばなるまい。
いつぞや奪ったモヒカンのカツラをつけて…。
みろ!!! おれさまの北斗神拳を!!!
「………」
あ、今ピクッってなった。…この際だからと思ってやってみたけど、挑発が過ぎたかな…まぁいいや。
くらえ!
南斗弱普通野殴!
「…北斗と言いつつ、それは南斗聖拳ですらない、単なる突きだ」
ですよねー。
狩人スタイルで挑みましたが、普通に負けました。
で、その夜。
やってきたレイと、バーで飲んでいます。隣には妹さんもいるが、既に目は見えているらしい。
「ふむ……使いこなせているとはとても言えんが、南斗聖拳の基礎は出来ているな」
マジか。南斗聖拳ってこれでええの? 南斗水鳥拳の使い手に言われるとは思わなかったけど。
「我流にしては、だがな。真っ当な師から教えを請えば、そんなレベルでは鼻で笑われる。とは言え、南斗聖拳は流派と言えないようなイロモノも多いからな…」
ああ、南斗人間砲弾だの南斗列車法だの、それ拳法じゃねぇだろってのも珍しくないとか。いっそ、料理の包丁代わりに使ってる奴もいるんじゃないかな。
目の前に、バーテンダーやって、氷をガリガリ削る北斗神拳伝承者だっているくらいだし。医者については、他の伝承者もやってるって聞いてるが。
「……ほっとけ。これはこれで奥が深いものだ」
「確かに、いい酒だ…。どうだ、アイリ。美味いか?」
「ええ、兄さん…。兄さんと一緒にお酒が飲めるなんて、夢のよう…」
ま、こんなのんびり酒飲めるなんざ、この荒廃した世界じゃね…。あー、またミーシャとバーで飲みたくなってきた…。
ナイトクラブでも行くかなぁ……でもミーシャ居ないしなぁ…。
「…お前も、恋人を…」
いや別に死んでないよ。当分、会えるとは思えないけどさ…。
話は変わるけど、南斗聖拳ってマジでこれいいのか? 確かに、素手で巻き藁くらいなら切り裂けるようになったし、武器使ってる時の鋭さは増してるけど。
「基本と言うか、根幹はな。別に手刀に拘る必要も、素手でやる必要も、切り裂く事にすら拘る必要はないんだ。結局のところ、外部から突き入れて敵を破壊する事こそが、始まりにして到達点だからな」
、
ああ、大抵の武術は、最終的には単なる突きと言うか、単純な技に回帰するって考え方ね。
しかし…そういうレベルでいいなら、北斗神拳も使えない事はないぞ。闘技場で、ある程度は真似られるようになったし。
「…ほう」
物騒な反応すんなよ…。北斗神拳の基本って、要は気脈に力を叩き込んで、体の内側からアレコレ反応をおこさせるってもんだろ?
俺も気脈については多少は分かるから、そこに力を籠めてブン殴れば……まぁ、体の中で何かが起こるな。パルプンテ張りに何が起こるか分からんけど……まぁ、ロクでもない結果になるのは確かだな。
どこまでやるかはともかくとして、ダメージを与える為だけの北斗神拳なら、そう難しくはないんじゃないか? 最大効率を求めるならまた別の話だし、中途半端に覚えて使ってるとアミバる未来しか見えないが。
「ふっ、そういうレベルの話でいいなら、拳法家なら大抵は北斗神拳が使える事になるな。一子相伝、最強の暗殺拳、北斗超えが南斗の悲願だと言うのに、それが何処の拳法家にでも使えるか。笑える冗談だ!」
…ちょっとおにーさん、酔っぱらってない? 自分で言い出しておいてなんだけど、目の前のバーテンダーさんピクピクしてんだけど…。
…最悪、コロセウムで決闘扱いにすりゃ何とかなるかな……アイリさん、そんな目で見ないでよ。これを止めるのは俺には………あ。
結論。神すら眠る麻酔玉、最強です。
オチとしてもう一個追加。アイリさんは酒癖悪かった。ライラさんとかキサナさん並みに悪かった。酒瓶で頭ド突かれたよ…。
それで気絶して夢から覚めた。
しかし、最後の最後まで分からなかったことが一つだけある。
彼は本当に、あの世紀末救世主、北斗神拳伝承者・ケンシロウだったんだろうか? どう見ても、堂島の龍こと桐生一馬だったんだけどなぁ…。
外伝 北斗が如く編