※この作品はR-18です。

狩りゲー世界転生輪   作:時守 暦

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前回の日記の続きです。
1日分の日記が長くなっているので、上手く分けられないんだよなぁ…。

失敗ばかりで胃が痛い。
と言うかマジで痛い。
朝から何も食ってないのに膨れている感覚があって、腹が鳴るのに何も食べたくないという人生で初めての体験をしました。

暴飲暴食が直接の原因かもしれないけど、どう考えてもストレスだよなぁ…。
呑まなきゃやってられるか、で呑んでたし。
失敗、お説教、無茶振り、後から条件出してリテイク…。
割と真面目に故郷に帰ろうかと考えている、今日この頃です。


と言うか、一回分投稿が抜けていた事に気付きました。
基本、4日ペースで続けていたのに…。
申し訳ない。
今後はまた同じペースを続けようと思います。
…書き溜めが尽きなければね。


第364話

 

 

 

 

 

 すっ飛ばして悪いが、ライブは順調に進み、カエデさんの舞台が終わった。現在は休憩中、舞台変更中。一気に変更できる装置とかあればよかったのだが、流石にそこまでのギミックを準備するのは難しかった。

 

 血の力による共鳴や、その余波による黒蛛病治療も順調だ。

 ライブの様子? …夢中になってて、日記に書いてる(通信している)余裕すらなかったんだよ。後は…妖怪じゃす〇っく対策の為、歌詞を書くのはマズいのだ。

 まぁアレだ、エロとは全く違う感動やエネルギーを得られたとだけ言っておく。

 

 特にミカのステージがね。

 いや、カエデさんのステージが、ミカに比べて劣っているとかじゃないのよ。確かにミカは、一昨日のライブで一気にレベルアップした。しかし、そのスペックを十全に扱えているとは言えない状態だ。

 キャラやスタンス、方向性の問題もあるのだろうが、今のミカはとにかく勢い任せで場を盛り上げていると言っていい。

 それに対して、カエデさんは場の状況をしっかりと見定め、今のステージに必要なものは何か、その為には何をすればいいのか、見極めて行動できている。

 一点突破のミカと、オールマイティなカエデさんといった状態だ。

 

 だったら、何でミカのステージが特にキたかと言うと……うん、ミカからの無言のアピールがね。

 ステージにしっかり集中してるんだけど、ちょいちょいこっち…観客席に視線を寄越すのよ。 俺じゃなくてリカを見てたんじゃないか? 視線が合ったと感じたのは、自意識過剰じゃないか? …と言うかアイドルがこっち見たからって、目が合ったと思うのはちょっと…。

 と言いたい所なんだが、歌の内容がね…。ラブソング。しかも自分を見てほしいからアタックする、誘惑する、絶対に堕としてモノにする、みたいな内容。何度かウィンクも飛ばしてきたよ。

 

 リカもニヤニヤしながら俺を見てるし…どう見ても、ライブついでに俺にアピール、或いは宣言してました。

 …そりゃ、ねぇ? ついでとは言え…下手するとライブの方がついでかもしれないが…俺一人の為に歌ってるようなミカと、観客や会社や、あと酒の原料の為に歌ってるカエデさん。個人的にどっちがグッと来るかと言われると、どうしても前者だよ。

 みんなに崇められるアイドルが、自分の為だけに歌ってくれるとか、光栄極まりないじゃないの。

 

 

 …正直、その声に応えてしまいたい。それをリカも期待してるようだし。…しかし、それは今じゃない。

 今やるべき事は…。

 

 

『失礼します。要望があったものの準備、整いました』

 

 

 スタッフの一人が、英語で声をかけてきた。

 ありがとう。急な変更で申し訳ないです。

 

 

『いえ、このステージには私も期待してますので…。その為であれば、多少の無茶振りなら安い物です』

 

 

 そう言って小さく笑うスタッフさんの表情に、プロ意識が垣間見える。

 

 

『しかし…こちらの方は、それ程に凄いアイドルなのですか? こう言っては失礼に当たりますが…』

 

 

 素質はあの3人を凌ぐ程だけど、まだまだ卵の段階でね。

 

 

『…繋ぎとは言え、卵の方をステージに担ぎ出すつもりですか』

 

 

 言いたい事は分かる。こいつ以上の実力を持ってて、このツアーに来れなかったアイドルも居る。

 そいつらにしてみれば贔屓やコネ以外の何物でもないし、ステージに対する侮辱に感じるかもしれない。

 

 …それでも、この子を出すよ。

 この子は他のアイドル達とはちょっと違って、『みんなで育てていくアイドル』だと思ってくれ。

 

 

『我々で育てていく…?』

 

 

 或いは、皆と育っていく、かな。

 …この子のステージをみれば、分かると思うよ。今は、それで矛を収めてくれ。

 

 

『…いいでしょう。元より、私には不満を述べる権利はあっても、指図をしたり拒否したりする権利はありません』

 

 

 ま、元の立場はどうあれ、今は一介のスタッフだもんね。すまないな…。

 

 

 さて、アンチョビ。

 

 

「あ、はい? 何かあったんですか? 妙に深刻そうでしたけど」

 

 

 ああ。ちょっとトラブルだ。今朝、移動中に話してた件がもう現実になった。

 

 

「移動中って……え、あの、私が歌うってアレですか!? でも、一体何が…」

 

 

 ……タカネがラーメンに夢中になった。

 

 と言うのは冗談で、放映の為の電波が妙に乱れてる。アラガミがどっかで妨害電波みたいなのでも出してるか、ケーブルでも齧ってるのか…。

 とにかく、出来る限り万全の状態で映像を流したいから、少し時間を稼ぐ必要がある。

 

 

「…何て言うか…いえやりたくないって事じゃないですし、それしかないなら腹を括りますけど……タイミングが良過ぎません? 今朝そういう話をして、半日もしない内にその状況が起こるって」

 

 

 アレがフラグだったのかな…。

 タイミングの問題と言うよりは、想定の範囲内だと言った方が正しいな。確かに入念な下準備…一昨日のステージでは、準備が仕切れてなくてドタバタだったが…があったとは言え、マニュアルも過去のサンプルも紛失してるんだ。どっかで問題が発生するのは予想できていて、その解決の為の時間稼ぎが必要になるのも予想してた。

 正直な話、一昨日のステージで同じ事が起きなかったのが不思議なくらいだもの。

 

 …察するに、アンチョビをステージに立たせる為に、フカシこいてると思ってる?

 

 

「い、いえ、そんな事は…ちょっと思いましたけど。ともかく、もうやるしかないって事ですね。準備してきます」

 

 

 ああ、頼んだぞ。

 

 

 ……フカシこいてないとは、一言も言ってないけども。さて、チームアンツィオには既に根回し済みな訳だし、後はもう楽しませてもらいますか。

 ああ、場合によってはタカネも途中で乱入させなきゃいけないか。理由はどうあれ、段取りを一部狂わせちゃった訳だし、お詫びの品の準備もしておかないと…。

 

 はぁ、いっそ本当にアラガミによる画像の乱れとかのトラブルが出ないかね。いやこんな事考えてちゃイカンな。本当に発生したとして、それが手の届くところに居るとは限らんのだし。

 

 そんな不穏な事を考えている間にも、チームアンツィオの面々はそれぞれ一般観客席に散っていく。放っておくと何をやらかすか分からない子も居るけども、こういうアンチョビの為のチームプレイは慣れたものだ。

 ステージの換装が終わるのを待たずして、チームアンツィオはいつものドゥーチェコールの準備を終えていた。

 

 そして、ステージの上に現れるアンチョビ。…を見て、観客達は少し戸惑ったようなどよめきを上げた。

 ま、無理もない。ミカやカエデさんとは明らかに毛色が違う。何せステージ衣装は軍服だ。言っちゃなんだが、オーラも見劣りする。極上の料理の間に出された、珍しいだけで大して美味くない箸休め…に見えたかもしれない。

 

 そんな反応にアンチョビも若干怯んだようだ。…が、容赦なくステージは進む。

 新しく出てきたアイドルという事で、場内アナウンスがアンチョビの紹介を『ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!』

 

 

 …紹介をする前に響き出す、チームアンツィオのドゥーチェコール。

 相変わらず凄い勢いだな…。人数で言えば、観客席の1割どころか1分にもならない数しかいないのに、一糸乱れないコールで会場に響き渡っている。

 

 …あのさ、チームアンツィオ…曲が始まってからコールしてって、俺言ったよね。俺言ったよね? 

 こいつらを纏めるアンチョビ、本当に苦労してるよな…。

 

 とは言え、今回の先走りはグッド。怯んで萎縮しそうになっていたアンチョビがコールを聞いて明らかに表情が変わる。

 それを察したのか、それともドゥーチェコールを押し退けて紹介を続けられると思えなかったのか、早速曲が始まった。

 

 

 

 

 結論から言えば…うん、予想以上だったな。ミカが言っていたように、もうちょっとアンチョビ自身のレベルが高ければ、メインのタカネのステージを食ってしまっていたかもしれない。

 

 別に、何か特別な事があった訳じゃない。ミカの時のように、血の力に目覚めもしなかったし、急激なレベルアップもなかった。

 言っちゃ悪いが、アンチョビ自身ははまだ凡百と称せるアイドルの卵のままだ。

 

 じゃあ、何が予想外だったかと言うと。

 

 

『いやー、素晴らしいものを見せてもらいました。これは夢の中にまで響いてきますね、あのドゥーチェを称える声が。あなたが『皆と一緒に成長していくアイドル』と称した理由が、よく分かりましたよ』

 

 

 …スタッフさんが言う通り、ドゥーチェコールである。

 チームアンツィオの面々だけなら想定内。そこからある程度感染していくのも想定内。

 だが、流石に会場全部を巻き込んでのドゥーチェコールになるとは思わなかった。防音のステージを突き破って、隣町まで響いていたと言うのだから驚きだ。ちなみにアメリカの隣町と言うのは、試される大地での隣よりも更に距離がある。

 聞いた話だと、あまりのコールの凄まじさに録音機やらがぶっ壊れ、受信したテレビやラジオまでおかしくなったとか何とか。…復旧の為の時間稼ぎという建前でアンチョビをステージに出したけど、アンチョビが原因で本当に復旧が必要になるとは。

 もしもコレに血の力が乗って、先日と同じように共鳴していたら…どれ程の人や土地を癒す事が出来ただろうか。

 そう考えると、ちと惜しくもあるな。

 

 いずれにせよ、アンチョビのライブも大成功を収めたと言っていい。

 ただし、それはアンチョビ自身の実力ではなく、チームアンツィオによるサポート…予め仕込んでおいたサクラがあってこそ。そのチームアンツィオは、アンチョビあってこそなんだが。

 そしてそのサポートに乗って、ドゥーチェコールを始めた観客達あっての大成功だ。

 

 あの一体感は、ちょっと他の誰かじゃ真似できそうにないなぁ…。

 勢いとテンションのミカ、技量のカエデさん、一体感のアンチョビ、そして個人スペック最高峰のタカネ。

 うん、いいメンバーだと思う。今後のツアーでも、大きな成功を確信できるくらいには。

 

 

 …ただ…このメンバーを纏めるのが誰かって事になると…確実にアンチョビになるよな…。

 格上のアイドル3人の中心で、皆を纏め、観客を巻き込んだ一体感を作り出せるアンチョビ。アイドルとして得難い才能だと思うが………アンチョビ自身の胃が、それに耐えきれるかが問題だな。

 

 

 

 

 尚、ステージが終わってアンチョビを労いに行ったところ、ジト目で睨まれました。

 そりゃバレるよなぁ。サクラの配置もステージの換装も手際が良過ぎたし。と言うか、アンチョビが承諾する前から、アンチョビ用のステージに換装しようとしてたんだし。

 まぁ、上手く行ったからいいじゃないか。

 

 

「上手く行きすぎてるんですよ…」

 

 

 …すまん、胃薬やるから。

 と言うか、アンチョビも相当派手なデビューになっちゃったが、その後のタカネが全て薙ぎ払ったから、そこまで記憶には残らない…と…願うぞ?

 

 

「断言してくださいよ! それにそういう願われ方をしても複雑です…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、散々盛り上がって、何だかんだで4人登場のステージまでやり切って、本日は終了。北アメリカでのライブは、これで一旦終了であるな。

 広いアメリカの中で、たった2回と考えるべきか、2回もと考えるべきか。

 

 何にせよ、黒蛛病患者達の病状は、完治とまではいかないものの大幅に軽減され、また汚染されていた土地や植物が浄化された事で、食料問題解決にも弾みがついた。

 …ひっそりとこっそりとおっとりと、GKNG海外支部も出来た。

 ファンも多く獲得し、知名度も上がった。

 俺個人も、ケイという美味し…もとい、貴重な伝手を手に入れる事ができた。

 収穫としては非常に大きいと言えるだろう。

 

 代わりに、ミカは今日も完全に力を使い果たし、ホテルに戻るなりバッタリ倒れ込んで眠ってしまった。

 達成感に満ち溢れた表情をしているが、毎回コレじゃ困り物だな。血の力もそうだが、急激にレベルアップした為に、体力がついてきてないんだろう。何度も考えた事だが、やはり今のミカはアンバランスだ。『捻じれて』いるとも言える。

 いそいそとアンチョビとリカが世話を焼いていた。

 

 

 …アンチョビ、ミカの世話はリカに任せて、今日はもう休め。

 

 

「え? いやでも…。私は世話役ですし。開祖様の、ですけど…」

 

 

 子供を働かせるのに抵抗があるのは分かるが、身内だしな。リカは賢い子だから、一人じゃ無理だと思ったらすぐに助けを呼ぶよ。

 

 

「うん、お任せ! チームアンツィオの人達にも、ちょっと手伝ってもらうよ。だから、アンチョビさんはもう今日は休みなよ。お姉ちゃんに負けないくらい疲れてるでしょ」

 

「う……それは…そうだけど」

 

 

 予定になかったステージを唐突に任されて、その後は格上を纏めながらの延長ライブ。そりゃ疲れもするわ。

 

 

「騙して出場させた開祖様がそれを言いますか!?」

 

 

 はっはっは。別に騙してはいないぞー、映像や音声の乱れとかは本当にあったんだぞー…大音量のドゥーチェコールが原因だったけどな。

 とにかく、今日はもう休め。これ、開祖命令な。

 

 

「うぐ…」

 

 

 アイドルであっても、GKNGの下っ端なのには変わりない。俺に命令を出す権利はないが、運上人から言われるとあまり逆らうのも難しかろう。

 納得できていないようだったが……実に苦労性な話である……アンチョビは言葉を飲み込み、自室に向かった。

 

 

 さて、俺もミカを部屋に運んだら休むとしますかね。リカ、頼むぞ。

 

 

「うん。………ところでさ…アンチョビさんを部屋に戻らせたのって…」

 

 

 …昨日もそうだったけど、股座をグショ濡れにして眠ってるミカの世話をさせるのは、ちょっとな…。

 これもどうにかしなきゃいかんな。ライブでエクスタシーまで達するのはいいし、俺個人としてもそーいうのは大好きなんだけど、加減が必要だよ、加減が。一回ライブステージを終える度に、シモの世話が必要なくらいに疲労困憊するんじゃ話にならん。

 

 

「…イタズラ、する? しちゃう?」

 

 

 リカがワキワキと、年齢に見合わない手付きで誘いをかけてくるが、ノー。ちゃんと意識がある時にやらなきゃ面白くない。

 

 

「ちぇ…。ま、仕方ないか。ちゃんと汗も拭いてあげないと、風邪ひいちゃうもんね。…チームアンツィオの、エッチ経験済みメンバーに手伝ってもらうよ」

 

 

 もうそこまで知ってるのか…。随分仲良くなったもんだ。

 でも、真似はするんじゃないぞ。

 

 

「分かってるよ。私がそういう事するのは開祖様……『パパ』だけだもん」

 

 

 …今のはかなりグラッと来た。狙いはそのまま、ミカを巻き込んでの3Pか?

 

 

「へへ、残念。それじゃ、今日はお休みなさい」

 

 

 ああ、お休み。

 

 ミカを部屋に届け、チームアンツィオの面々が手伝いに来たのを確認して……今度はアンチョビの部屋に向かう。手土産に酒を持って。

 

 

 

 

 

 

 アンチョビ、まだ起きてるか?

 

 

「あ、はい、どうぞ」

 

 

 ノックに答えがあったので入ってみると、質素な寝巻に着替え、ツインテールを解いた状態のアンチョビが居た。何故かマントは羽織ったままだ。

 …リカを部屋に放り込んでこっちに来るまでの間に、風呂と着替えも済ませたのか。随分急いだようだな。

 

 

「いえ、急いだと言うか……元より、あんまり長く入浴する習慣がないもんで」

 

 

 ま、チームアンツィオの事を考えるとなぁ。裸の付き合いとか言って突っ込んで来そうだし、人数が多いから長く使えばそれだけ他の人の時間が圧迫される、か。

 だからこそ、今みたいなライブツアーで、ゆっくりしてればいいものを。

 

 

「それはそうなんですけど、落ち着かなくて」

 

 

 …本当にワーカーホリックだな、この嬢ちゃん…。それとも単に心配性の苦労性なのか。…どっちも大して変わらんな。

 呆れられていると思ったのか、アンチョビの表情にバツの悪さが混じる。そういう所が、アンチョビのいい所でもあるとは思うが。

 

 …実際のところ、ツアーに来てどんな感じだ? 今日の無茶振りは悪かったと思うが、元はアンチョビの慰安の為でもある訳だけど。

 

 

「楽しんでるのは確かですよ。こう言っちゃなんですけど、極東で皆をあれこれフォローしながらレッスンするより、自分の時間は確保できます。逆に、気楽すぎて戸惑う所もありますけど」

 

 

 肩肘張るな、と言われると逆に戸惑ってカチコチになる訳ね。重石があった方が安心できるのか…。

 

 

「それよりも…開祖様、流石に今日のはちょっと酷いです。上手く行ったからいいものの、本当に心臓が止まるかと…」

 

 

 うん、それは本当に悪かったと思ってる。…上手く行きすぎて、アンチョビの注目度が更に上がったもんな。

 極東にもあの映像は放映されてる筈だから、帰ったら本気で崇拝者が増えてるかもしれん。

 

 

「そこまで予想できるのに、何であんな事するんですかぁ!? 結果的に、メリットデメリットで言えば確かにメリットの方が大きいけども…」

 

 

 今回のライブの報酬として、アンチョビ個人にも結構なギャラが支払われるからなぁ。

 血の力で土地を浄化したカエデさんやタカネ程じゃないが、一夜で稼いだ金としては破格だろ。尤も、まだ良くて小金持ち止まりだけど。

 

 

「…小金と言われても、報酬金額を見たら、体の震えが止まらなくなりました。現金を持ち歩いてる訳でもないし、そもそもまだ振り込まれてもいないのに、冷や汗が止まらなくなって、どっかで襲われるんじゃないかと思えて…。……でも、まだまだこれじゃ足りないんですよねぇ…」

 

 

 足りない…って、何に? そりゃ、一生遊んで暮らせる金額ではないし、何か事業を起こせる程の金ではないけど。

 

 

「単純に、ウチの連中を養っていくのに…って事です。何だかんだで、ウチは大所帯ですから。あいつらをちゃんと食わせて、まともな職に就かせて、やりたい事をやらせてやって、いい暮らしを…って考えると、ちょっとした大金だとしても一時的な物では…」

 

 

 確かに。しかし、それこそアンチョビ一人で考えるべきものじゃないだろう。一時的じゃない金なんて、それこそ日々の労働でしか手に入らないものだし。

 有体に言えば、あいつら自身で探させるべきものだ。アンチョビが出来るのは良くてその手伝いまであろう。

 

 と言うか、そんな生活しようと思ったら、たった一人でもどれだけ金が必要か分からんわ。率直に言って高望みしすぎだ。

 

 

「改めて口にすると、そんな気がしてきました…」

 

 

 何だな、アンチョビって意外とダメ人間製造機かもしれないな。基本的に、ダラダラしてたりするとケツ引っぱたいて働かせるけど、何かやろうとしたら至れり尽くせりで過剰にサポートすると言うか。

 

 

「そ、それより! 開祖様、何か用事があったのでは? ……それは…ビールですか?」

 

 おう。無茶振りした労いと言うか、詫びにね。

 上司みたいなものとサシで飲んでも気は休まらないかもしれないが、一人で飲んでも味気ないだろうし、何より限界が分からないだろうからな。疲れてるなら無理にとは言わないが、一杯どうだ?

 

 

「……そ、それじゃちょっとだけ…。実を言うと、眼が冴えて眠れる気がしなかったんです」

 

 

 やっぱりか。寝酒にと思って持ってきて正解だったぜ。仮に明日潰れてたとしても、背負って連れていくから安心しろ。…それとも、チームアンツィオに任せた方がいいかな。

 ま、何にせよ…ほれ。

 

 

「どうも。……えーと……乾杯?」

 

 

 乾杯。そうだな、ライブツアー成功を祝って、今度の更なる発展を願って…かな。

 

 

「これ以上下手に発展すると私の胃が死ぬので、後者は程ほどにお願いします…。う、苦い…」

 

 

 チビチビ飲むと逆に苦いぞ。コーラみたいなものだと思って、グイッと行った方がいい。…しまったな、カクテルにすればよかったか。

 つーか、飲むのは初めてじゃないだろうに。

 

 

「何度かチームでの宴会で飲まされた事はあるんですが、いつも不意を突かれるか、気付かないように飲まされてたんで…」

 

 

 …あいつら、チームの頭にようやりおるわ。(裏の『お仕事』の事を気付かせない為だろうけども…)

 

 

 …ちょっとずつ要領が分かって来たのか、アンチョビが積極的に飲みだした。

 ………日頃のストレスもあるんだろうなぁ。その一端になってしまった俺が言う事じゃないが。

 

 元々、あまり酒に強い方ではないんだろう。そうでなければ、酔い潰れたら翌日の昼まで絶対起きない…なんて事にはなってないだろうし。

 段々と、普段の愚痴が零れ始めた。

 

 

 

 ………正直言って、アンチョビに真面目に同情する。

 周りに苦労を掛けられすぎだ、この子は。その半分以上が自発的なもので、『そんな事は本人にやらせろ』と言ってしまえば終わりのものだが、それをしないからこその人望でもある。

 チームアンツィオに始まって、周囲のアイドル候補達、彼女達自身だけではなくその周辺に対するフォロー…。

 案件の数が多すぎる。

 

 それだけ背負いこめば、そりゃ鬱憤も溜まるわな…。

 

 しかし、それらの案件の解決法や対処法が力圧しに偏っている傾向があるな。ちょっと考えたり、幾らか知識があれば、かなりの効率化が出来そうだ。

 …考えるのはともかく、知識や過去の事例は仕方ないか…。アンチョビだって、まともな教育を受けられてないんだから。

 

 地頭はいい、気配りもできる、コネツテもあって、人望もある。地位もそれなりのものを獲得した。

 これでちゃんとした教育を受けてれば、地区一つくらいは立て直す事ができそうだ。

 

 

 まぁ、IFの話をしても仕方がない。ただ、今はアンチョビの愚痴を黙って聞くのが上策だ。

 

 

 

 

 

 

 上策………だったのだが……どうしてこうなったんだろうか?

 

 

 いや、いつものエロじゃないんだ。18禁は無かった。

 ただ、ベッドの上で腰かけている俺は、アンチョビを膝枕して頭を撫でている。勿論、ちゃんと服は着ているし、無駄に元気な俺の愚息がいきり立っている訳でもない。…ちょっとムズムズしてるが、ここでオッキしたら流石にアンチョビも黙っていないだろうから、強引に大人しくさせている。

 

 要するに、甘えさせているのだ。アンチョビを。

 自分でも、キャラじゃないを通り越して悍ましさすら感じるが、子守歌なんか歌っちゃっている。でんでん太鼓を持ったアンチョビが、龍に乗って空を駆けるシーンが見えるようだ。………あ、ペパロニの嬢ちゃんが突撃してきて相乗りした。こら、龍を料理しようとするんじゃありません。

 てか、本当に誰だよコレ。俺かよ。こんなん俺じゃねぇよ。

 

 

 そう思いながらも、酔いの酩酊と、誰かに甘える心地よさでウトウトしているアンチョビを退かす気にもならず。

 シエルから送られてきた『猫の躾け中。帰って来た時、上手に芸ができたら褒めてあげてください』というタイトルの画像が気になりつつも、ここで欲情したら不味いとどうにか我慢しています。

 

 

 

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