何という信頼感w
原作でも、「どうすりゃ死ぬんだこの人」ってレベルでしつこく這い出てきましたからなぁ。
さて、どうしたものか…割と本気で、今回ループでの退場を考えていたのですが、説得力を持たせるだけの死に様が必要。
ラケルてんてーを殺せるだけの状況………難題だ…。
警戒とは裏腹に、俺達はその広場にあっさりと到着した。
前回と同じ、神機兵零號機が大暴れしてもまだ余裕があるスペース。その奥に、ラケルてんてーがこれまた前回同様に居座っている。
違うのは、傍らで倒れ伏すジュリウスが、繭に包まれていない事と。
「ラケル博士! お助けにあがりましたぞ!」
…恋に燃えるクジョウ博士がここに居る事くらいか。それに、あの時よりも潜入した人数が多い。
無事だったラケルてんてーの姿に歓声を上げるクジョウ博士。頭の中では、きっと運命的な効果音や演出が鳴り響いている事だろう。
しかし、ラケルてんてーはクジョウ博士に対して何一つリアクションを取らなかった。文字通り、視線一つ寄越さない。
ただ、投げやりに……彼女にそのような感情があるかは別として、少なくともそう見えた……指をこちらに向けただけだ。
「! 来るぞ!」
「博士、下がって!」
「え? お、おわぁ!?」
クジョウ博士を後ろに放り投げ、第一チームが前を固め、第二チームが背後を固める。
どこからか飛び出してきたのは、やはり神機兵零號機。既に合体済みだ。アバドンの姿で出てくるようなら、先に狙撃で合体阻止してやろうと思ってたんだが。
背後からは、ラケルてんてーに操られている無人神機兵が迫ってくる。ここに来るまでに大分潰しておいたが、まだ残っていたか。
「お、落ち着きなさい、後ろからくる神機兵は、ラケル博士から頂いた増援、ぬぉっ!?」
ラケルてんてーが黒幕だとは思ってもいないクジョウ博士は、俺達を助ける為に神機兵を呼んだのだと思ったようだ。
そう考えるのも無理はないが、当然そんな事は無い。
銃撃してきた神機兵に、アリサ・コウタ・ロミオが反撃している。
その間に、俺達は神機兵零號機の相手。…考えてみれば、何だかんだでコイツは一度も仕留めてないんだよな。
どんな奥の手があるか分かったもんじゃないが…ま、慎重に行くとしますかね。
率直に言えば、そう警戒する程の相手ではなかった。
相手は一体、こっちは4人。しかも揃いも揃ってトップクラスの戦闘力と経験を持つメンバーだ。いくら「お人形さん」が相手だからって、手古摺る理由が無い。
まぁ、やっぱり驚きのギミックはあったけども。
破壊した部位が、再生されるんだよ。部位と言うか、片腕を切り落としたり、頭をパーン!したり、胴を前後にぶった切ったりしたんだけどな。元に戻っちゃうんだよ。
無条件に、時間と共にって訳じゃない。唐突に、どこからか沸いてきたアバドンを取り込んで回復するのだ。
あのアバドン、恐らくラケルてんてーが改造したアラガミなんだろう。元々予備のアバドンとして確保していたのか、それとも回復アイテムを作ろうとしたのかは分からないが、とりあえず鬱陶しい事この上なかった。
…アバドンが同じ空間に10体以上蠢いているとか、こんな状況じゃなければプレイヤー大歓喜だったろうになぁ。
叩き斬った部位にアバドンが自ら突撃する。阻止できればいいのだが、何体も同時に、四方八方から突っ込んでいくから処理が間に合わない。そして一匹でも損害を与えた個所に辿り着いてしまえば、そこから融合してあっという間に元通り。
完全に元通りになるんじゃなくて、形がちょっと変わってたけどね。
最初から継ぎ接ぎなのが目に見えていた神機兵零號機だが、最終的にはもっと継ぎ接ぎ感が増していた。腕があったところに頭がくっつくし、逆に頭だった場所からは足が生えるし、腹にあった砲門みたいな部位はケツの穴にしか見えなくなったし。
部位を叩き壊し続ける内に段々と部位が狂っていき、腕が7本脚は9本鼻の穴は1つ目玉は沢山あって3つを除いて閉じていて『前シッポ』が背中から生えて後ろシッポは舌にしか見えずと、訳の分からない集まりになっていった。
SAN値が削れそうだったよ…どっち向いてるのか分からなくなってたし。
一番ヤバかったのはアレだな、胴を真っ二つにして上半身下半身を生き別れにしてやったら、そこからプラナリアみたいに両方が再生しようとしたの。
いくらこのスペースが広めでも、神機兵零號機を2体同時に暴れさせられる程ではない。速攻で下半身を消し炭にしたが、その間に上半身は再生されてしまった。
というか、多分神機兵零號機自身も、体の変化に困惑していたと思う。足と手が無意味に同時に動いたり、体を支えようとして虚空を蹴り上げたりと、明かに挙動がバグっていた。
狙って俺達を攻撃するのは難しかったようだが、あの巨体で訳の分からない動きで暴れ回られるのは鬱陶しかった。施設への損害も構わず暴れ回り、軌道を読めない弾幕を妙なタイミングで撃ちまくる。
…格ゲーで素人が暴れても大した脅威ではないが、使うキャラがあまりにハイスペックすぎるとやっぱり危ないんだな。ハイスペックというか大質量だけど。
こうも姿が変わり果てるまで、延々と壊し続けていると言う事でお分かりだろうが…戦況は優勢、ただし破壊しきれないという膠着状態に陥っていた。
しかし、アバドンも徐々に数が少なくなってきて、吸収される前の対処も容易になった。
更に言えば、体を構成しているアバドンを全て同時に撃破してしまえば、そこから再生できなくなるようだった。それに気付いたのは、もうそのまま撃破した方が早い終盤だったけど。
そうやって戦う間、ラケルてんてーは何やら延々と語っていた。誰一人、耳を貸してなかったが。
そもそも声が届かない。神機兵零號機の稼働音が五月蠅くて、掻き消されてしまっている。
大方、なんか『人間は愚かだと思いませんか?』的な内容で、囁き戦法するつもりだったんだろうが…間抜けな話だ。
そう、間抜けな話。だからこそ違和感があった。
ジュリウス拉致を強行した件もそうだが、何もかもが中途半端すぎて、狡猾という言葉を体現しながらも外見だけ蛍のような儚さ(クジョウ博士談)を持っていたラケルてんてーにしては、段取りが悪すぎる。
こうやって神機兵零號機を圧倒されながらも、やっているのが囁きだけ? 何だったら、さっきみたいに最初から上下に分断して、2体に分けておけばよかったのだ。そうすれば、多少は手古摺っただろうに。
程なくして、神機兵零號機は完全に破壊され(既に別の何かと成り果てていたが)、ラケルてんてーを守る壁は一つとして無くなった。
ジュリウスを人質にでもすればまだ手はあったかもしれないが、半身不随の状態ではそれも難しい。…神機兵を何処かに潜ませていると言う事も、ない。
「ラ……ラケル博士、これは一体……一体、どういう事なのですか!? あなたは、助けを求めていたのでは!?」
何があったのか認めたくない、先程とは別の意味で運命を感じているような表情(ベートーベンのアレがよく似合う)で、クジョウ博士が叫ぶ。
しかし、ラケルてんてーはそれに全く反応しない。クジョウ博士の叫びは、羽虫が羽ばたいた程度の影響すら与えられなかったようだ。
「どうもこうもありませんよ、クジョウ博士。フライアを暴走させていたのも、さっきの神機兵達を嗾けてきたのも、ラケル博士が元凶だった…それだけです」
「そ、そんな…そんな筈が…」
「いいから下がって! まだ何か潜んでる可能性もあるんすよ!」
「ロミオ君、君まで…君にとって、ラケル博士は母親も同じ…」
「…それはそれ、これはこれ!」
うむ、ロミオが色々割り切れるようになって、嬉しいような寂しいような。
断言するロミオを見るリヴィの目が非常に複雑だった。
さて…ロミオ、リヴィ。クジョウ博士を連れて、先に脱出しててくれ。
「……了解です。ほら、博士行きますよ」
「嘘だ……これは、悪い夢だ…」
「…私が担いでいく。ロミオ、先導を頼む」
抵抗しようとするクジョウ博士を、手早く担ぎ上げるリヴィ。…男らしいなぁ。
さて、やるか。…仮にも想い人と、かつての恩師の死に様をわざわざ見せ付ける事は無い。
最後の伏せ札を警戒しながらも、無造作にラケルてんてーに近付いていく。
「…やるのか?」
ええ。リンドウさんとソーマも、先に戻っててください。ジュリウスは俺が持って帰ります。…俺じゃなきゃ、黒蛛病に感染するしな。
「…初めての事でもねぇよ。構わずさっさと済ませろ」
はいな。…目の前で、自分を殺す会話がされていても、ラケルてんてーは平然としている。ジュリウスを守ろうとする気配すらない。
…慣れたと思ったんだけどな、人を殺すの。
ラケルてんてーに近付こうとすると、不意に口を開いた。
「……疑問には思いませんでしたか? 私が、何故このような事をしたのか」
無視。
「悪手、裏目、あまりにも短絡的な暴挙。自分でも分かっています。私の今の状況は、自滅によるものでしかない。そうなると分かり切っていたのです」
。
「ですが、こうせずには居られませんでした」
神機を抜いた。
「 」
足と、腕が止まった。
…今、こいつは何と言った?
『恐ろしいのです』
…そう聞こえた、と、思うのだが?
いや、いつもの戯言だ。心も本意も全く籠っていない、ただ自分に都合よく事態を運ばせる為の誘導だ。
こいつは恐怖も喜びも感じない、ただアラガミの意思に囁かれるままに動く人形だ。
その筈なのに。
どうして、こんなに真に迫って聞こえるのか。
例え本心だったとしても、ここで殺す事には変わりないが。
「恐ろしいのです。何が、かは分かりません。ただ、私に常に囁いていた声が、騒めき続けているのです。私を導き続けた声が、狂ったように叫び続けているのです。姿も無く正体も分からない何かに追い立てられ、狂乱し続けています。恐ろしいモノがやってくるのだと、何でもいいからどうにかしろと、喚き立てる事しかしないのです。私はその声に従い、無茶だと分かっていながら行動しました。そうせざるを得なかったのです。他に何もないのであれば、どんなに最悪の手段だと理解していても、行わずにはいられなかった。…恐怖していたのは、私に囁く声だけではなく、私自身もだったのでしょう。思えば、初めて感じた感情だったかもしれません…」
…………。
そうか。なら、解き放ってやる。
じゃあな。
コロリと、抵抗もなく首は落ちた。
倒れ伏していたジュリウスを抱え上げ、ソーマとリンドウさんに護衛されて帰還。ラケルてんてーが居なくなり、残っていた神機兵は停止…はしてなかった。
搭載されていたプログラムに従って侵入者…つまり俺達…に襲い掛かってくる。放置しておいて野良アラガミ化されても困るので、これは積極的にぶっ壊しておいた。
ジュリウスは朦朧としながらも少しは意識が残っていたようで、自分がラケルてんてーに誘拐された事、黒蛛病を強制的に感染させられた事などは把握していた。
ラケルてんてーがどうなったか聞かされて、「…そうか…」で済ませる程度には、彼女を敵と認識していたようだ。
そのジュリウスは、現在集中治療中。黒蛛病ではなく、投薬され続けた影響がかなり厄介らしく、暫くはリハビリに励む事になりそうだ。
そっちは大丈夫だとは思うけどな。
問題は黒蛛病の方だ。何だかんだで、ジュリウスは特異点候補のまま。これはラケルてんてーとは関係の無い、生まれつきの素質だ。このまま黒蛛病が進めば、厄介な事になるかもしれない。
…ともかく、方々に被害を撒き散らしたラケルてんてーは、既に亡い。死んだ後用に時限式の何かを仕掛けている可能性はあるが、とりあえずは一段落…だろうか…。
モヤモヤとした想いを誰もが抱えながら、フライア鎮圧作戦は終了した。