それはそれとして、次の休日は暖かく晴れてほしいなぁ。
酒作りの歴史の企画展とかあるらしいので、ツーリングも兼ねてひとっ走りしたいです。
凶星月 十日
デスワープして、最初に一晩過ごす相手がむくつけきオッサンとは…。考えたら何だか悲しくなった。いや、頼んで調べものに付き合ってもらっておいて、この言い草はどうかと思うが。
冗談はともかくとして、結界石についてだ。この石、オオマガトキで壊れたのかと思っていたら、割と最近まで残っていたっぽい。それも、効果を発揮しながら。
その結界石も、徐々に力を失い、瘴気に侵食され、何れは砕け…そして異界が迫って来たと。
現在残っているのは、里を守っているたった一つの結界石のみ。里の中心にある石なので、これが力を失う時は、恐らく周囲にモノノフが誰も残っていない状況だろう。…抵抗する事すらできなくなって。
しかし、それだけ多くの結界石があったのに、そう簡単に力が失われるものだろうか? 神垣の巫女の負担は増えるかもしれんが、それだけの結界なら鬼が侵入するのも一苦労、瘴気に至っては問答無用で浄化されてしまいそうなのに。
とりあえず、当分異界の探索を主に行っていくが、その目的は瘴気の異常な濃さの原因調査、及び力を失った結界石の探索としよう。
さて、今日も明日奈と神夜に合流し、任務を受けに行く。神夜がキラッキラの楽しそうな笑みを浮かべているが、これって惨殺への期待の笑みだよな…。
相変わらずの二人の服装を見て、寒くないの?「身刀燃焼すれば冬もまた暑しです」「慣れですよ、慣れ」なんて話をしながら歩いていたところ、任務の受付所から出てきたにーちゃんと目があった。
「げ、泥高丸…」
でいこうがん? …誰?
泥高丸と呼ばれたその男は、ガッシリとした体格のイケメンだった。自信に満ちた爽やかな笑み。…何となく、日本人よりもアメリカ人っぽい雰囲気があるな。こう、HAHAHAHAとか笑いそうな。
体付もマッチョの一言。使う得物は……槍か。
…で、結局誰。
「里のモノノフの筆頭…千鬼長です。練武戦で連続優勝を続ける、里一番の使い手で、名家の出身でもあります。ですがそれ以上に、『鬼纏』の開発者として大きな影響力を持っています」
神夜に耳打ちされるとか、なんか幸せ。
要するに、名家イケメンエリートさんって事ね。そりゃ嫌な顔にもなるわ。キャーキャー言う奴も多そうだけど。
……ていうか、練武戦とか鬼纏って言われてもよく分からないんだけど?
そんな事を考えていると、泥高丸とやらがこちらに視線を向けた。
「よう。相変わらずの見回りか。大変そうだな」
「嫌味ったらしい事言ってるんじゃないわよ。今日から異界の探索に行くの。そっちこそ、精々鬼に食べられないようにね」
「俺達はそれほど間抜けじゃないんでな。…ふん? そっちのが、里に迷い込んできたモノノフか。お前らが連れ帰ったんだって?」
はいな。暫く厄介になりますよっと。
「暫くなんて弱気な事を言わず、長く世話になってみせるんだな。あまり弱気だと、それこそ運気も逃げていくぞ」
俺の運気は、大抵肝心なところで逃げ出すから。逃げ出すどころか、不運をお友達にして帰って来たりもするけどな! ラヴィエンテとか巨大ミラバルカンとかよぉ!
「よく分からんが、同じ里になった縁だ。死なないように祈ってやるさ。何かあったら助けを呼ぶんだな、凡人らしく!」
凡人とは何ぞや(哲学)。いや元々俺って、スペック的には凡人だったけども。
何かに勝ち誇ったような顔ですたすた歩いていく泥高丸一行。ほー、同じ任務に当たってる連中も、そこそこやれる連中みたいだな。ここのエース、主力ってのは伊達じゃなさそうだ。
その仲間の一人が、去ろうとする泥高丸に耳打ちしているのが見えた。…ヤローの内緒話に興味はないね。
「ああ、待てそこの。一つ聞きたい事がある」
…まぁ、興味はないけど、質問に答えるくらいならな。何ぞ?
「まずお前、異界を通って来たんだったな。どの辺りから来た?」
里から見れば北の方だな。この二人に会うまで、異界から出たら只管南下していた。
距離は…歩いて2、3日ってとこか。
それまでは異界の中。異界は延々と続く雪景色で、退屈だったらありゃしなかったよ。
「…墓場を見なかったか」
墓場? いやいきなり墓場と言われても………あぁいや、そういやあったな。異界の中でそこだけ妙に石が集まってると思ったら。
「その墓場、何処にある! 刻まれていた銘は!?」
覚えてないよそんなの! 汚れと摩耗だらけて、殆ど読めなかったし!
何処にあるって、流動を続ける異界の中で案内しろっつー方が無理だろが!
「む………そうか、そうだな…。すまん、取り乱した。そうか…。まだ近くにあるんだな…。いい事を教わった。礼を言うぞ」
ペコリと頭を下げて、泥高丸は今度こそ歩き去っていった。
…何だったんだ?
横を向いてみれば、さっきまで舌を出して「ベーッ!」とかしそうだった明日奈が、妙に神妙な顔付になっていた。
何なんだ、本当に?
…なぁ神夜、明日奈。本当に何事だ? 明日奈はえらく嫌っていたようだが、そんなに悪い奴だったか?
確かに、妙に気取った言動とか、見下したような物言いだったが、そんなにクソッタレなヤツでもなかったと思うが…。
何だかんだで素直に頭は下げたし、言い方はともかくとして『仲よくしよう』『何かあったら助けてやるよ』って言ってたんだし。
「あー…いや、そういうんじゃなくて…単純に馬が合わないと言うか…」
「ええ、悪い方ではないのです、悪い方では。ただ、明日奈さんの勘気に触れると言いますか…私も、少なからず思う所はありますので」
ふーん…。まぁ、厭味ったらしい面を長く見せつけられればそうも思うか。
あいつも結構な実力者のようだが、この二人だって負けてない。だと言うのに、片や里の最強モノノフにしてエース級、片やまともに戦わせてすらもらえない
そりゃ鬱憤も溜まるだろう。
「まー、悪い奴じゃないのは分かってますよ。うん、本当に。家族思いの…拗らせてるけどいい奴だって事は、少なくとも知ってますし」
「里の若手にも、あの人に反発する輩は一定数居ます。取り巻きはそれ以上に居ますけど。見合うだけの力を持っているのが救いなのやら、また苛立たしいやら…」
ふぅん…。
墓場がどうの、と言ってたな。察するに、親類の墓か…。
あそこへの道ってどうなってたっけ。俺の体でも瘴気を防ぎきれなかったし、普通のモノノフじゃちとキツいか。ま、どっちにしろこの辺で結界石を探し回るつもりなんだ。ついでに墓場へ続く瘴気が薄い道を見つけたら、教えてやるか。
さて、ちょっとしたイベントもあったが、とりあえず任務である。今回は単なる見回りではなく、異界をちょっと奥まで進む。
探索をメインとしたかった俺だが、鬼斬!鬼斬!鬼斬!な神夜と、なんだかんだで戦いたかった明日奈。大物を見るなり突っ込む羽目になったよ。
まぁ、大物っつってもヒノマガトリだったけどな。下級だったし、実際その程度の力しかなかった。
「…前からちょくちょく言ってましたけど、その『下級』って何ですか? 不思議極まりないです」
何って……こう、任務の難易度であるんじゃないの? 下級、上級、場合によっては極級って。
敵の強さによって、漠然とだけど分けられてるっつーか…。
「あー……心当たりはありますけど、この里では極一部の任務にしか割り当てられませんね。主に資源を得る為の任務です」
ふむ…何処まで自分が進めるかの判断も、自分で作らなきゃならん訳ね。それが当然っちゃ当然だけども。
じゃあ今度はこっちから聞くけど、鬼纏って何ぞ?
「はい? …………ああ、そう言えば…泥高丸が作り出した戦術なのですから、外の里で知れている筈もありませんね」
「もう何度か見てますよ。鬼達と戦っている間に、私達の動きが早くなったのに気付きませんでしたか? そう言えば、最初に一緒にミフチと戦った時にも使いましたね。あはは、あっという間に終わっちゃったけど」
気づいたけど、誤差の範囲だと思ってた。大体、それっぽい物使う時にはいつもトドメの段階に入ってたし。
「……速度だけで言えば、倍は出ている筈なのですけども…。驚嘆極まりないです。いえ、実際平然と私達の動きに合わせていましたし、てっきり外にも同じような術があるのだと思っていましたが…」
原理はともかく、効果で言えば似たような物は山ほどあるぞ。タマフリだって似たようなものだろ。
他にも鬼人化、バースト状態、アラガミ化。自分を一時的に強化する術なんぞ、古今東西珍しくもないわ。
まぁ、見た所…自分に負担を極力かけないでやれるのは、珍しいっちゃ珍しいかな。
リンクバースト、捕食に近いか? 敵から漏れ出るエネルギーを喰らって、自分の力に変える。
敵に近ければ近い程、攻撃を当てれば当てる程、その充填率は高い。
…こうして考えると、ゲームシステムとして考えれば珍しくもないな。実現できた事には感嘆以外の何物もないが。
「凡その機構は分かっているようなので、簡潔に説明させていただきます。鬼纏は、鬼から零れ出た瘴気をモノノフの強化に使う術です。本来であれば瘴気は人間には毒にしかなりませんが、使い方次第で毒と薬は紙一重。全ての瘴気を利用する事はできませんが、ある程度濃くて大きな塊で、鬼から完全に離れている。他にも細かい条件はありますが、それを体に取り込む事で術が発動します」
ふむふむ。モノノフとしては、逆転の発想としか言いようがないな。瘴気は人にとって毒でしかない。それを攻撃に利用するならまだしも、自分への強化にする…。
よく実践しようとしたもんだ。実験するには、自分から毒の盃を呷るような真似をせにゃならんだろうに。
「実際、最初は死ぬような目にあったそうですよ。何度も繰り返したおかげで、瘴気への耐性が出来たって言ってました」
何回繰り返したんだよ…。俺も素で耐性が出来てるけどさぁ。何がそこまで駆り立てたんだか。
「話が逸れましたが、手順としては瘴気の浄化・取り込み・強化の3つです。ここで一番厄介なのは取り込みですね」
取り込みが? 浄化は鬼祓いで出来るから分かるけど、強化じゃないのか? 術の本番だろ?
「いいえ。強化はそれこそ、タマフリの応用のようなものです。難易度は高いですが、モノノフなら誰でも触れた事があるような技法ですよ。対して、取り込みは自分から行うとなると…」
「初見で鬼纏をあっさり体得した神夜の基準は当てにならないと思うけどね」
「ちょっ、明日奈さん、心外極まりないです!」
ふーむ…さっきの例で行くと、「中和剤を入れたから、毒盃を呑んでも大丈夫!」って理屈だもんな。精神的にも受け入れ辛いか。
それに、浄化された瘴気は単なる物質。不純物になってしまう。肺に埃が入り込むって大事だと思いますけどね。
「コホン、話がそれましたが、とにかくそういう事です。ちなみに、泥高丸が里一番の使い手である理由は、この鬼纏を鬼が居ない所…それこそ、練武戦の舞台でも発動させられる事ですね。詳しい仕組みは分かりませんが、取り込んだ瘴気をそのまま保存しておけるらしいのです」
ほう。ゲージを予め貯めておいて、いざと言う時にドカン、か。他の人達はゲージが溜まった時点で発動する、と。
何か知られてない秘訣でも持ってるのかね? 自分で開発したスキルである以上、公開するしないは本人の意思次第だが…。
「…ねぇ、鬼纏を知らない…確か祓円陣も知らないって言ってたし……ひょっとして、鬼千切・廻も知らない?」
廻…? 極じゃなくて?
「こっちとしては、その極っていうのこそ何なのかと聞きたいんだけど」
うーむ…技術や戦術が想像以上に隔絶しとるな。もっと早くに色々確認するべきだったか。
そう考えていると、明日奈が頭を抱えていた。…どした?
「いや…神夜が突っ走って、鬼千切・廻を使わないのはいつもの事だけど、私も一回くらいやってみたかったと思ってて…。そっかー、知らなかったからやらなかったのかぁ…」
…何ぞ?
詳しく聞いてみれば、大体は鬼千切・極と同じようなものだった。ただし、祓円陣を前提とした術。
違いとしては、発動のタイミングと条件だろうか。敵がタマハミ状態になった瞬間の隙を狙い、貯めこんでおいた力を全員で一気に放出して攻撃する。この時、放出した霊力を全員で共有・共鳴させて威力を跳ね上げる。
鬼千切・極との大きな違いは、霊力を貯め込む為に時間がかかるので、基本的に一度の戦いで一度しか使えない事。また、前述したようにタマハミ状態になった瞬間にしか使えない。代わりにまず外さないくらいの必中の一撃である。
ふーむ、力が蓄積されてれば何時でも使えて、近くに仲間が居ないと最大効率は出せなくて、外す事はあっても何度も放てる鬼千切・極み。一度しか使えないが、ほぼ確実に最大効率で直撃させる事ができる鬼千切・廻。うまく組み合わせれば、面白い事になりそうだ。
とは言え、それはまだ先の話。まずは鬼千切・廻を実際にやってみないとな。
ちなみにこの技、複数人のモノノフで力を合わせて放つ為、団結の証みたいに扱われる事も多い。心が繋がるRPG…もとい必殺技か。
それをやった事が無いのは、ある意味ボッチ扱いされてしまうそうな…。
ま、とりあえず今日は一旦帰るとしましょうか。そろそろ活動限界も近いだろ。神夜も一戦だけとは言え、デカブツを狩ってそれなりに満足できたんじゃないか?
「うーん、個人的にはまだまだ斬り足りないのですが…活動限界では仕方ありませんねぇ」
普段のおっとりとした表情はそのままに、妙に色気のある仕草で首を傾げる神夜。戦狂いなのは事実のようだ。明らかに、戦いの熱に酔っている。
明日奈に目をやれば、黙って目を瞑ったまま首を横に振られた。いつもの事らしい……いや、いつもに増して、なのか。そこそこ強い相手との闘いは久しぶりらしいし。
ちなみに、明日奈も多少は戦い足りないと思っているようだ。さっきから、獲物を探して目があちこち動いている。警戒しているのではないのは、剣…レイピアの柄にかけた手に力が籠っているので分かる。
俺も一戦と言わず、この辺の鬼が泣いて逃げ出すまでデビルメイクライしても構わないのだが、制限時間は重要だ。
何せ、帰るのが遅れると晩御飯にありつけなくなってしまう。
資源も限られた里の中、一食の配給を疎かにすれば即刻死に繋がるのである。
まぁ、結局帰り道にまた鬼……ツチカヅキと遭遇したんだけども。
流石に活動限界時間が間近だったんで、戦闘狂の神夜も焦っていたが……そこはそれ、俺の鬼千切(ノーマル)・鬼千切廻・鬼葬の3連コンボの前に10秒と経たずに沈んでしまった。
初めて鬼千切・廻を使用して脱ボッチ扱いの明日奈も、鬼葬について色々聞いてきたが、帰ってからと言う事で誤魔化した。
まぁ、鬼千切・廻を初め、祓円陣やら鬼纏やら、色々な技術を教えてもらってるんだし、こっちから教えるのも吝かではない。
ただ、鬼の手関連の技術に関しては、触媒となる道具がないとどうにもならないんだよなぁ…。俺は体に取り込んだから何も無くても使えるけど。
しかし、実際教えられっぱなし、世話になりっぱなしと言うのも今一つ座りが悪い。ここは別の技術でも教えるべきかねぇ…。
そういう訳で、部屋にまで押しかけてきて、wktkした目で俺を見つめる神夜と、頭を抱えつつも気になっているらしき明日奈を見るのだった。
討鬼伝世界登場人物表
討鬼伝モノノフからの登場人物
・牡丹……里長をやっているミタマの女の子。元は神垣の巫女らしい。
ミタマなので、見える人と見えない人がいる。
主人公からの評価…見えにくい。里長としての立場もよく分からん。
・寒雷…元モノノフ、現在は万事屋の店主。体格のいい、豪快なオッサン。
主人公からの評価…色々世話になっているし、今後も手を煩わせる気がする。
・雪華…シノノメの里に所属する神垣の巫女。
一見するとクールな雰囲気だが、心優しく割とフレンドリー。
主人公からの評価…美人さん。神垣の巫女なだけあって、色々貯めこんでいそう。
・練…勝気で姉御肌、褐色美女の鍛冶師。
結構なナイスバディだが、「またサラシがきつくなった」という言葉からしてまだまだ成長しているらしい。
主人公からの評価…健康的な色気が眩しい。けど、その色気に何だか影があるような。
・風華…祭祀堂の巫女。
修行途中に祭祀堂の主となってしまった為、修行不足。
どちらと言うと、マスコット兼甘味作成係と思われているようだ。
天狐と友達。
主人公からの評価…あまり関わってないが、甘味には興味ある。
他作品からの登場人物
・明日奈…ソードアートオンラインより。
武器は細剣(レイピア)。
戦いばかりの生活に嫌気がさし、潤いがほしいと思っている。
主人公からの評価…色んな意味で可愛い子。
・神夜…無限のフロンティアより。
武器は斬冠刀(特注の太刀、と言うより大剣)。
戦狂いの気質がある。
主人公からの評価…戦狂いと言っても、気質的には可愛い方。恰好はエロ可愛い。
オリキャラ(と言うよりネタバレ防止の為、バレバレだとしても引用元を黙秘するキャラ)
・白浜屋の店主…落ちこぼれのモノノフ。
主人公からの評価…貸本屋の少年。根が素直な子だから、つい目にかけてしまいそう。
・泥高丸…でいこうがん。
里で一番腕が立つと評判のモノノフ。
明日奈とソリが合わないようだ。
新戦術『鬼纏』を開発した人物らしい。
主人公からの評価…エリート意識と微妙に親切な言動が相まって、背伸びしている少年に見える。