凶星月 十六日
結構な時間まで飲み明かし、昼まで爆睡。起き出した時に一人で居る事に違和感を感じたが、これは別に誰かに手を出したからではなく、GE世界じゃ同衾が当たり前、朝フェラも当然、早起きしたら隣の女体にイタズラしながら気だるい空気を楽しむのが当たり前だったから。うむ、我ながら爛れた生活しとったな。
勿論、そういう朝の方がずっと好みではあるんだけど、冷えた空気の嫌いではない。正午を過ぎてから起き出した為、雪で冷えながらも太陽でいい塩梅に温まった空気が頭をスッキリさせてくれる。
今日のお役目は休みなので、前から気になっていた所に行ってみる事にした。
大した効果は無い筈なのに、どういう訳だか里の人達に非常にありがたがられている場所……そう、超界石だ。
何でも世界を飛び越える力を持っていると言う話だが、具体的にどんな代物なのやら。世界を飛び越えているのは俺も同じだけど、俺自身にはそんな力はない…筈だしなぁ。
とりあえずやって来たはいいものの、目立つものと言えば石の周囲の花畑、後は昼寝している天狐しか居ない。ありゃ、祭祀堂の風華のところに居付いてる天狐だな。
…そういや、最近は天狐と話してないなー。今は昼寝中みたいだから遠慮するけど、今度話しかけてみよう。
さ、て、と……確かに何の力も感じられない石ではあるんだけど、妙な存在感はあるんだよな。
そもそも、この北の地、しかも里の中にあるとはいえ雪が降り積もるこの土地で、常春かと思うくらいに花が咲き乱れるものか。
妙に存在感がある石だし、ひょっとしたら本気で何かあるかもしれない。
…と思って調べはしたんだけど、フツーの石だものなぁ。瘴気に穢れている訳でもないし、内側に霊力の類が貯めこまれている訳でもない。
皆にありがたがられている物だから、試しに割ったり削ったりする訳にもいかない。ペタペタ触って終わりである。
結論。特に何もない………と、思う。実際何も見つからなかったんだが、その反面、俺の本能が『それは沼だ! 絶対に触れるな!』と声高に叫んでいる気がする。
何というか……本当に、終わりのない沼に沈み込んでいくような、そして精も根も注ぎ込んで何もかも捧げても、ある日ふと何もかもが無に還ってしまうような…。
…調べるのは止めよう。これは希望の無いパンドラの箱だ。人が触れてはならないものだ。
これは里の人にとって、心の拠り所なのだ。それに劇的な効果など必要ない。
『ガチャが心の拠り所な里って、崩壊確定じゃないですか。しかもサービス終了してるから何も残ってない』なんて声は聞こえていない。
さて、超界石の調査を急きょ取り止めとした訳だが、何をしたものか。一緒に遊んでくれそうな明日奈と神夜は、何やらやっておきたい事があるとの事でどこかへ行ってしまった。狭いこの里だから、探そうと思えばすぐに探せるが、そこまで二人にべったりってのもね。
貸本屋で何か面白い物でもないか…と思ったが、運の悪い事に白浜屋も休み。
真昼間から居酒屋で酒を飲むのも楽しいけど、悪い噂になりそうでもある。外様で大した戦果も挙げてないから、肩身も狭い。
フラフラとニートか徘徊老人よろしく里を歩いていると、何やら盛り上がっている声が聞こえた。
ここは…道場か。この前は泥高丸に会ったけど、実際に中には入らなかったっけな。今日は泥高丸も居ないようだし、入ってみるかな。
中を覗いてみると、まぁ珍しくも無い道場だな。変わっている事と言えば、なんか妙に庭が広い事くらいか? その庭も、数人のモノノフが型の練習やってたり、組み手やってたりであまり余裕は感じない。
靴を脱ぎ、一礼して中へ。入り口に居た、休憩中のモノノフのにーちゃんが出迎えてくれた。
「ん? ああ、新入りさんか。ようこそ道場へ。ここじゃ、基本的な訓練と……ああ、そういや新入りだからここの戦い方にも詳しくないんだよな。祓円陣の教導とか、鬼纏の指導をしてる。練武戦の受付とかもやってるぜ」
ふむ、ゲーム的に言えばチュートリアルかな。主に武器の説明的な意味で。
壁際を見れば、幾つかの武具…の模造品がかけられている。太刀、槍、弓、双刀。……あれ、ここで教えてるのってこれだけなのか?
「残念ながらな。昔はこれ以外の武器も教えてたそうなんだが、使い方を知ってる奴がもう残ってなくってな…。あ、ひょっとして…」
ああ、一通りの使い方なら教えられる。まーそれにしたって、重心を調整した模造品とかを作ってからになるだろうけども。
「そりゃそうだろうが、興味深いな。戦い方の幅が広がるのはいい事だ。白浜の奴にも、合った武器が見つかるかもしれないし」
白浜? 貸本屋の?
「ああ。ほれ、あっちだ」
指さされてみてみると、道場の隅っこで、教官らしき人物に怒鳴られながら、黙々と………訂正、ヒイヒイ言いながら筋トレに励む白浜の姿があった。
…うーん、改めて見ても貧弱だ。あの程度で泣きそうになるなんて。…でも、逃げたがってる割には逃げようとしないな。
「知ってるかもしれないが、あいつはモノノフとしては落ちこぼれでな。当然ながら、命懸けの戦いの場でそんな奴と組みたがる奴は居ない。だから引っ込んで大人しく貸本屋をやっていろ、と口を揃てて言うんだが…………まぁ、何だ、本気であいつを馬鹿にしてる奴は少ないよ。泣き言を喚きまくるが、根性だけはあるからな」
ふぅん…。
「でもやっぱり組みたくはないな。足を引っ張られるのが目に見えてる」
きっぱり言うね。ま、ガチで命懸けの戦場に居る以上、『頑張ってるから』とか精神論を理由にして一定以上の評価を与える訳にはいかんわな。
確かに才能や素質は著しく低そうだから、通常の訓練じゃな…。徹底的に地金を鍛えて、その上で素質が無くても開花できるような鍛え方、戦い方を考えないと。
…………根本的に不器用なんだな。直感的にやれる戦い方が必要か…。どっちにしろ、体をもっと鍛えないと話にならんよ、あれは。
体を鍛えるだけなら、MH世界のハンター方式で出来ない事もないが。
「言っちゃ悪いが、芽吹く可能性が低い眼だ。あまり気に掛けない方がいい…。それより、里には無い武具の使い方とか、教えてくれないか? まずは俺に。そうすりゃ、珍しい戦い方が出来るモノノフって事で、俺の評価もあがりやすくなるってもんよ。練武戦でも目立てるしな」
そう言いながらも、白浜を見る目は若干気の毒そうだった。手助けはしないが、成果が出るよう祈ってやるって程度だな。
と言うか、珍しい武器云々なら、明日奈が使ってる細剣とか、神夜が使う大剣はどうなんだ?
「あー……それは……だな。…………勝手に言うのも不義理だが、黙ってるのも悪いか。…武器の使い方を教えてくれる対価に、って事でどうだ?」
どうだって言われても、あまり意味が無いと思うが……まぁいいか。話せる範囲で頼む。具体的には、調べようと思えばすぐ出てくる範囲で。
「あいよ。ま、今時珍しくも無い話でな。あの二人、元は名家の出身なんだよ。詳しい事は俺も知らないが、霊山にもその名が轟いてた家らしい。だけど、オオマガトキであの二人だけが生き残っちまった。あいつら自身が何かやった訳じゃないんだが、モノノフにとって…特に名家にとって、『家』とか『姓』ってのは特別重要なものだからな」
はーん。まぁ分からんでもない。名家と呼ばれる家は、財力にせよ何らかの成果にせよ義務にせよ、相応の『何か』によってそう呼ばれるようになったのだから。
尤も、その『何か』が何だったのか、仮に義務があるのならそれを受け継ぎ続けているのかはまた別の話だけども。
「そんで、俺達にとってもその家ってのは特別なもんでさ……率直に言えば、距離を測りかねてるんだよ。重要な家だと聞いてはいるけど、具体的にどんなものかは分からない。本人達も教えられてない。気安い態度をとっても本人は気にしないだろうし…何だかんだで将来有望な美少女だから、是非とも仲良くしたいんだが、どうにも二の足を踏んじまってな」
半分以上は空気と言うか、近付いたらいかんって雰囲気が出来上がって、それに流されてる訳ね。無視して突っ走れれば、両手に華を実現できる好機かもしれんのに。
ま、おかげで俺に好機が回って来たんだから、感謝しておくべきかね。
「はははははは、もしそうなったら褒めた後に呪ってやる。俺も彼女ほしい…。二人同時とか許されぬぇ…」
ぬぇぇ…。てか妾とか珍しくなかろ、モノノフには。まぁ名家のお嬢さんを二人とか、普通に羨ましいだろうけども。
…あの二人が素直に受け入れるかは別問題だしね。
とりあえず、武器の使い方はこれから纏めるとして……俺も練武戦ってのに参加できるかい?
…来月かよ。
凶星月 十七日
今日も今日とて異界の調査。あんまり何度も結界石の所に行ってると、流石に鬼達にも気付かれる。今日は神夜の鬱憤晴らしも兼ねて、適当な所で暴れる事にした。
神夜だけじゃなく、明日奈も一度思いっきり戦ってみたかったようだし、渡りに船だったようだ。
俺? 雑魚相手じゃなぁ…。無双ゲー並みに沸いて来るならまだしも。フォーリナーの巨大生物並だと流石にキツい。数の暴力程侮れない物はない。例え、戦力として数えられない者の集まりだったとしても。
ちゅー訳で、これらが俺達の本日の成果となります。首実験をどーぞ、寒雷の旦那。
文字通り鬼の首を取って来たぜ。
「ミフチが6体、カゼキリが8体、ミズチが4、ツチカヅキが5、ヒノマガトリが15、ダイマエンが1…。ヒノマガトリが多いのは何でだ?」
「この人が、空から攻撃してくるのが鬱陶しいって言って、よく分からない技で片っ端から引き寄せて叩き落したもので…」
制空権は最優先で取り戻すべきだろ。…この時代に制空権なんて言っても分からないだろーから、手の届かない所から一方的に移動したり攻撃したりしてくる連中と理解してくれ。
「地上からそれを取り戻せるのがおかしいんですけどね!?」
あ、カゼキリの内3体はアマキリでした。あと2体くらい、初見の鬼が飛んでたけど握り潰したんで詳細は不明です。落下したのも遠い異界だったし。
「……何をどうすりゃそんな事できるんだ…。お、このダイマエン凄いな。他のに比べて、見事なほどに真っ二つだぞ」
岩石降らそうとして真上に来やがったので、思いっきり飛んで『届けっ! 雲耀の速さまでッ!』させてもらいました。俺に断てない物? 山のようにあるよ。代表は性欲な。
まぁ見様見真似だったけど。……いつぞやの夢で、島津のジッ様に叩き斬られたんだよなぁ…。あれを超える剣撃には、未だに巡り合えてない。無論、ギルドナイトやレジェンドラスタやモンスターを含めてだ。
「いえいえ、見事な示現の太刀でした! 同じ流派の端くれとして、感服したこと極まりないです! 色々とその、粗削りだったことは否めませんけども」
え、神夜って示現流なの?
「元祖がそうであったらしいのですが、何分家の資料も無くなっているので…。里が異界に閉ざされる前、そのように聞いた事があるだけです。示現の剣理も、伝え聞いた程度にしか」
ま、しゃーないわな。素直に褒められた事を喜んでおこう。
とりあえず、これで暫くのお役目は果たせたかな。
「戦果としては充分だな。特命を受けていると言う事で、他のお役目を免除する腹だったが…ここまでやれば、贔屓目とみられる事もないだろう。逆に、どんな詐欺を働いたと疑われるかもしれんが」
「大戦果ですもんねー…。半分以上一人で倒してましたし。祓円陣も使わずに、殆どの鬼を一刀両断。どんな腕してるんですか…」
行くとこ行けば、俺以上の狩人は珍しくないよ。世の中広いからなぁ。
詐欺云々は…いう奴が出始めてから対処するわ。久しぶりにブートキャンプするのも悪くない。戦力増加にもなって一石二鳥。
ところで話は変わるけど、例の結界石の事だが…。
「待て、その話に関しては奥で話そう。ああ、それと言っておくが……戦果を示そうとしたのは分かるが、鬼の生首を持ち込むのはやめてくれ」
…インパクトを狙ってみたんだが…アカンかったか。
奥座敷に通されて、茶を出されて。
「で、何か進展があったのか?」
いーや、何にも。色々調べてみたんだが、結界を張ってる鬼が居る気配もないし、定期的にやってくる鬼が居る訳でもない。
ちっと考え方を変えてみた方がよさそうだな。
「ふむ…俺の勘も鈍ったか…?」
いや、いい線行ってると思う。異界侵蝕の原因が、あの石像にありそうなのは確かだよ。
でもどっかで何か勘違いをしていそうなんだが…。
「あの…昨日ふと思いついたんだけど、結界石ってどうやって結界を張ってるんでしたっけ? 神垣の巫女の力で結界を張ると言うのは知ってますけど、何て言うか…雪華がずっと術を使い続けてるのか、それとも一度結界を張ったら自動でそれが継続されるのか…」
「俺も詳しい事は知らされてないが、後者に近いらしいぞ。一度術を使うと結界石への力の通路が形成され、暫くは自動で結界が発動する。だが定期的に術を重ね掛けしないと、徐々に消えていってしまうらしい」
日々のメンテナンスが大事なのは、結界も同じか。…ある程度自動、ね。術の掛け直しがどれくらいの感覚で必要なのかは分からないが、これと同じ理屈だとすると当分接触してこない可能性もある訳かぁ…。
こりゃ、いっその事石像ごとぶっ壊して誘い出した方がいいかもしれんな。
「おい、結界石だぞ…と言いたい所だが、現状だと害にしかなってないからな…。本気で壊してしまったとしても、やむを得ないと考えるべきか…」
「異界化を助長するくらいならば…ですか。残念極まりないです。…何かこう、ありませんか? 里の外に伝わっている丁度いい術とか…。以前、異界を浄化する研究をしているご友人がいると仰っていたではありませんか」
…それに賭けるっきゃねーかな…。分かった、次の調査の時に試してみよう。
今日のお役目も終わり、割り当てられた家に帰って来たのだが、どうしたものか…。
異界の浄化。言葉にするだけなら簡単だが、未だに信じられない。何だかんだで色々信じられない物を見てきた俺だが、どうにもピンとくるイメージが無い。
結局、作り手の博士だって異界浄化は成功してなかったんだしな。小規模な範囲でさえも。
いやいや、こうやって疑う事こそが、成功率を低めている事に他ならない。異界浄化に限らず、鬼の手を使うのに必要なのは想像力と確信だ。出来て当然と思う事だ。餓鬼の群れを鬼千切でドカンと吹っ飛ばすようにだ。
でも実際、楽観的なだけでは成功する筈もない。成功する理屈を筋道立てて、自分を納得させて、更に微に入り細に入り想像するくらいでないと…。
うーむ……なんかこう…目先を変えないと、いいイメージが浮かびそうにないなぁ…。
討鬼伝モノノフからの登場人物
・牡丹……里長をやっているミタマの女の子。元は神垣の巫女らしい。
ミタマなので、見える人と見えない人がいる。
主人公に似合いそうな職業…猟師とかどうかな?
・寒雷…元モノノフ、現在は万事屋の店主。体格のいい、豪快なオッサン。
主人公に似合いそうな職業…似合う似合わないはともかく、異界探索に専念させたい。
・雪華…シノノメの里に所属する神垣の巫女。
一見するとクールな雰囲気だが、心優しく割とフレンドリー。
主人公に似合いそうな職業…甘味屋さんなどいかがでしょう。
・練…勝気で姉御肌、褐色美女の鍛冶師。
結構なナイスバディだが、「またサラシがきつくなった」という言葉からしてまだまだ成長しているらしい。
主人公に似合いそうな職業…知らなかった鉱物の使い方とか教えてくれたし、学者さんかねぇ?
・風華…祭祀堂の巫女。
修行途中に祭祀堂の主となってしまった為、修行不足。
どちらと言うと、マスコット兼甘味作成係と思われているようだ。
天狐と友達。
主人公に似合いそうな職業…甘味は私が作るので、逆に辛い物や酸っぱい物を作ってください。
他作品からの登場人物
・明日奈…ソードアートオンラインより。
武器は細剣(レイピア)。
戦いばかりの生活に嫌気がさし、潤いがほしいと思っている。
主人公に似合いそうな職業…外の世界の事を沢山知ってるみたいだし、語り手や作家をやってみては?
・神夜…無限のフロンティアより。
武器は斬冠刀(特注の太刀、と言うより大剣)。
戦狂いの気質がある。
主人公に似合いそうな職業…私と一緒に、寝具を取り扱いませんか? そして空いた時間に稽古を…。
オリキャラ(と言うよりネタバレ防止の為、バレバレだとしても引用元を黙秘するキャラ)
・白浜屋の店主…落ちこぼれのモノノフ。
主人公に似合いそうな職業…万事屋はどうですか? 寒雷さんの店みたいなのじゃなくて、頼まれたら何でもするっていう。
・泥高丸…でいこうがん。
里で一番腕が立つと評判のモノノフ。
明日奈とソリが合わないようだ。
新戦術『鬼纏』を開発した人物らしい。
主人公に似合いそうな職業…農民。