実家に帰ってから何処にも行かず、ただただアサシンクリード三昧でした。
家族旅行とか毎回行ってましたが、こういうのもいいね。
気分的にスッキリはしたと思います。
残念だったのは、執筆があまりできなかった事。
モバイルのキーボードは打ちにくい…。
ブルートゥース用のキーボードを持って帰りましたが、色々試しても繋がらず。
多分、このSSが投稿される頃には家に帰っていると思いますが、ずーっと起動してなかったPCを正常状態に戻そうと躍起になっていると思います。
凶星月二十二日
色々考えたが、やっぱり風呂屋をやってみる事にした。理由? 雪見酒したいからだよ。決して覘きなんて考えてない。この小さな里で噂でも立ったら、ムラハチどころじゃないからな。
まー実際のところ、色々と使える資源が見つかって増えてきたもんで、大量の湯を沸かすのも難しくは無くなってきたからね。
後はなー、源泉でも見つかればなぁ…。
「昔はあったそうですよ。まぁ、そこも異界に呑まれちゃったそうですけど」
あるんかい。しかし、異界の中って事は里からちょっと離れた場所だな…。水路でも掘って来ればどうにかできるか? どっちにしろ、すぐには無理だな。
とりあえず、一度だけとは言え異界浄化の実績もできたし、そこそこ強いモノノフって評価は得られただろう。定職にはつけなくても、里の外の知識を切り売りして暫く誤魔化すか。
道場のにーちゃんにも、里に伝わってない技を教える約束をしているし。
そう言えば、神夜と明日奈も教えたのって何だったっけ…。
「曲がりなりにも習得できたのは鬼人化と、派輪具亜覇ですね。どちらも使いどころが難しいです」
パリングアッパーな。GE世界のバスターブレードのアレだ。これが意外と神夜に評判がいい。考えてみれば、カウンター技はモノノフの技には少ないからな。タマフリを使わず、技術だけで敵の攻撃を捌いて、逆に切り倒す快感に目覚めたようだ。
鬼人化は……明日奈はともかく、神夜には即刻禁止令が出された。テンションが上がり過ぎるからだ。ガンガン斬るのはいいんだけど、引き際がね…。
ところで、風呂屋開店を叶える為、索敵も兼ねて元異界周辺をフラフラ歩き回っていたのだが、予想外の男にあった。泥高丸である。
里の中心であるモノノフという立場から、一躍ヒーローの座を俺達に奪われる形となった訳だが…以前もそうだが、彼は意外と冷静だった。
相変わらず嫌味ったらしい、自分の力を鼻に掛けたような口調。明日奈があからさまに嫌そうな顔をしていたが、それは置いといて。
周囲にモノノフも鬼も居ない平原でバッタリ出会い、口を開くなり出てきたのは
「借りができたな」
なんて訳の分からない一言。確かに、異界を浄化して希望を見出した事は否定しないが、なんか別の事を言われている気がする。しかし当の本人は、説明もせずに里に戻っていってしまった。もうちょっとコミュニケーション能力を身に着けようぜ。
そもそも、泥高丸は何処に行っていたんだろうか? 異界が浄化された日から、お役目を終えるなり毎日のように里の外に向かうのが目撃されている。特に隠そうともしてないので、悪事の類ではなさそうだが。
まぁいいか…。本当に、俺に対して含むモノはないようだし。
「…ねぇ、泥高丸の事よりも、ちょっと気になる事があるんだけど…」
「どうしました、明日奈さん?」
「あれ、人家じゃない?」
何? こんな所に? ここはつい先日まで、異界のド真ん中だったんだぞ。
「そりゃそうですけど、実際に見えるんだし…。異界に沈んでも、鬼に壊されたりしなければ、家自体は残ってたりしてもおかしくないんじゃ」
…そうだな。言われてみれば確かに。明日奈の指さす方向には、確かに家のような物が見える。
残っている物なんて、精々遺体とガラクタくらいだろうが…持ち帰って埋葬くらいはしてやるか。
と思っていたんだが……生活痕がある…?
鬼の罠を警戒しながら近付いたその家。やはりかなり風化しており、鬼が壊したと思しき痕跡も多数あるが、まだ辛うじて家としての役割は果たせそうだ。
中に入ってみれば、荒れ果てた部屋に一枚の茣蓙。寝床として使っていたらしい。その傍に小さな囲炉裏。
そして、明かについ最近まで使われていらしき、粗末な茶碗と箸。
…どういう事だ? 誰かがここを使った? 異界の中の、こんな家を?
「異界が晴れてから…ではありませんね。明らかに、一週間以上ここで生活してます。いえ、それより何より、この茶碗と箸は…」
「…間違いない事極まりないです。前お頭のお椀です」
前お頭? と言うと、牡丹がお頭になる前の、人間のお頭か。数年前に、鬼との闘いで行方不明になったと聞いたが。
「ええ。ですが、裏を返すと死を確認した者は誰一人居ません。正直な話、私もあの方が死んだとは思えないのです」
「それなら、どうして全く姿を見せないんだって事になるけど…。でも、殺されても生き返ってきそうなくらいしぶとい人って言うのは私も同感。…ここに、前お頭が…?」
生きてたとして、それまで持ち歩いていたらしき茶碗を置いて行った理由も分からんな。
…と言うか、他の人である可能性……は無いよなぁ。里はみんな顔見知りだし…。
「…いえ、ここ数年で殉職した方も多いです。その中の誰かが生きていて…という可能性はあります。だとしたら、喜ばしいこと極まりないですが」
「まぁ、ね…。………………あ、そう言えば……一人居るかも。里の人じゃなくて、異界の中を生き延びてるかもしれない人間」
「? …どなたですか? 心当たりはとんと無く…」
「ほら、あの人よあの人」
あの人言われても、里に入って一か月もしない俺にはさっぱりなんですが。
「それはそうだろうけど、私も名前を知らなくて。私達がモノノフとして認められる直前くらいに、あなたと同じように里の外からやってきた人が居たんですよ。何でも、東の異界を抜けて少し行ったところに、人に忘れ去られた小さな隠れ里があって、そこで巫女をやっていたのだとか」
隠れ里か…。あるの?
「いえ、無いです。少なくとも記録には残っていません。と言うより、東って異界はともかくとして、山を幾つか超えたらホオズキの里があった筈ですし」
ああ、歴や凛音達が居るあの里ね。
「…彼女さんですか?」
ちょっと違うけど、気にするな。しかし、山が幾つかあるなら、そこに里があってもおかしくないのでは? 隠れ里なんだから、記録になくてもおかしくは無いし。
「そうなんですけど、あまりに言う事が荒唐無稽だったもので…。物凄い武芸者だったのは確かですけど、正直それでも…」
「……ああ、あの方ですか! 私も覚えています! あれから私も腕をあげましたが、あの方には勝てる気がしません。幼い頃の憧れのひいき目、と言われると…今一自信が持てませんが」
弱かった頃の自分から見たら憧れでも、今ではどうだか分からないって事ね。
しかし荒唐無稽って…。
「その里では、鬼と人が共存…とまではいかなくても棲み分けられているとか、軽い喧嘩で物凄いタマフリの応酬がおきるとか、極楽や地獄に繋がる道があるとか…他には何があったかしら」
「神仏がその辺を歩き回っている、そこにいるモノノフは殆どが空を飛べる、『坂亜』なる蹴鞠のような競技が流行っており、その会場では地は避け天は割れ、まるでこの世の終わりのような光景が繰り広げられるも死者は無し、観客も巻き込まれはするものの結果的には無傷…」
「作り話と割り切れば、面白い法螺だったけどねぇ。結局、暫く里に滞在してたけど、皆が止めるのも聞かずに『故郷に戻る』と言って異界へ入って行き、それ以来音沙汰無しです。覚えている人も少ないと思いますが…」
………………あの、その巫女って脇丸出しの紅白の服を着て、黒くて長い髪で、神夜並の巨乳だった?
そして呑気で異常に勘が良かったり…。
「私のお乳の事はともかく、そんな方でしたね。お知り合いですか?」
いや、一方的に名前を知って……いや、先代の方だとすると名前も分からんな。
あるのか? マジであるのか、あの里が。忘れ去られた幻想が云々っつーなら、このご時世ならむしろ広がっていてもおかしくないよな。
うわすっげぇ行ってみたい。食われる危険があっても行ってみたい。エッチが無理でも行ってみたい。そして空を飛びたい。
「よく分かりませんが、あの方は無事に生きている可能性があると言う事ですね。喜ばしい事極まりないです! 今度見える事があれば、是非ともお手合わせ願いたいです!」
止めとけ、と言いたいけど俺も興味あるな。先代なのか空を飛ぶ人なのかは分からんが。
本当にあの里の住人なら、瘴気を無効化する何かを持ってても不思議じゃない。
「あなたも持ってるんですけど。……話が逸れましたけど、少なくともここに誰かが居たのは確かですね。前お頭か、あの巫女の人か…。候補は決して多くありません」
だが手掛かりはそれ以上に少ない。鷹の目で周囲を見ても、人の痕跡は見当たらない。
…まるで、突然消え去ったように痕跡が消えている…。神隠しにでもあったのか、それとも鬼が招いたか。
…ふむん?
ま、とりあえず里に報告だな。
凶星月二十三日
前お頭生存の可能性は、とりあえず喜びの声を持って迎えられた。
何だかんだで心配されていたらしい。口をそろえて『死んだとはとても思えなかった』と言うあたり、信頼されているのかいないのか。殺そうと思ったら、あと五回オオマガトキを起こさなきゃまず無理、という評価は如何なものか。
…何? 起こし『ても』無理? …どんなお頭だよ、っとに…。
まぁ、信頼されているのはいい事だ、と思っておこう。もっと違う何かの気配も感じるが。
何をやらかしても可笑しくない、とは彼らが口を揃えて言うセリフだ。
どんな人なのか気になるが、皆言う事が違うねぇ。豪快、繊細、山師、借金塗れ、神算鬼謀、抜けてる、大物、子悪党、不死身、死んでも生き返って来た、ある意味救世主、世界を破滅に導く男、欲望の塊、その他諸々。こりゃ実物と会わなきゃとても把握できんわ。
…何だろうな。本当に、それら全てが事実のような気がしてる。これが当たりなら、そいつに会えれば、腹の底から、クサレイヅチへの恨みも(その時だけ)忘れて大笑いできそうな気がするよ。
写真…が無いのは時代柄仕方ないとして、肖像画が無いのは喜ばしい事と思っておこう。面に合わせてこそさ。
さて、今日は異界の調査と言うか様子見の後、道場まで赴いた。俺だけではなく、神夜と明日奈も一緒だ。
ここ暫く偵察任務を主とするので、鬼と戦う機会は少ない。おかげで神夜のフラストレーションが溜まる溜まる。暴走する前にストレス発散させようと思い、俺が手合わせを願い出た。
誘われた神夜は…何と言うか、牛みたいなおっぱいしてるのに、ワンコのようだった。散歩に喜ぶ子犬よろしく、跳ね回るようなスキップで里に戻って来た。
戻って来た時には既に日が沈んでおり、この時間に道場に残っているモノノフは居ないだろう。あまり気軽に夜更かしできるような里でもない。
…誘っておいてなんだけど、明日奈もやるのか? 乱取り形式にするつもりだから、1対1対1になる。勿論、協力するのもありだけど。
「私一人、除け者にする気ですか? 私も前から、一度は手合わせしてみたいと思っていましたし、何より神夜を止める役が居ないと大変な事になりますよ」
…まぁ、戦狂いと手合わせしたら、大体そうなるよな。
ちなみに、勝率は自分じゃどれくらいだと思ってる? 俺は負ける気がちぃともせんけど。
「…泥高丸みたいな言い方でちょっと頭に来ましたけど…少なくとも、今まで一緒に戦ってきた中で、一度も全力を出してないのは分かります。神夜と一緒に戦ったとして、良くて五分…」
五分、か。
随分高く見積もったなぁ。自分達を高く見たのか、俺を低く見たのかは微妙な所だが。
「開発者は気に入らない事ですけど、鬼纏はそれくらいの力を持ってますから。何より、これからするのは模擬戦です。勝利条件を満たせば勝ち…全力を出させなければいいだけです」
確かに。…確かにそうなんだが、悪いんだけどそれでも負ける気がしない。その程度には、隔絶した差がある。
過酷な環境で生き抜いてきた事、鬼纏の効果、そして天賦の才は称賛に値するが、それでも彼女達はまだまだ経験不足の小娘でしかない。イツクサの英雄やら三羽烏やら、あの辺のモノノフの足元にも及ばないのだ。このまま成長していけば、桜花くらいには強くなれると思うけども。
さて、道場に到着すると、予想通りに誰も残っていなかった。火を灯すかな…。
「いいえ、このまま手合わせ願います。油も貴重ですし、私には充分見えていますので」
俺も見えるけど。明日奈は?
「神夜ほど夜目は効きませんけど、戦うのに問題はありません。いつでも日の当たる場所で戦える訳でもありませんから」
真剣だねぇ…。或いは、暗いからこその秘策でもあるのか?
前線には出されなかったとは言え、長年二人で組んでいたらしいし、コンビネーション攻撃くらいありそうだ。
さて、期待させてもらおうか!
凶星月二十四日
朝。うーん、人間とやり合うのは久しぶりだったから、中々楽しめた。
模擬戦自体は俺の勝ちだったが、圧勝とまでは言えない。かなり粘られた。
ガッツ、素質、勝負度胸、そして一回の策の為に10回負ける覚悟…うん、やっぱりこの子達は強くなる。
コンビネーションもいい線を行っていた。斬冠刀を自由自在に振り回してプレッシャーをかけてくる神夜、その隙をカバーして鋭い刺突を放ってくる明日奈。単純ながらもいい戦術だ。
攻撃に傾倒し過ぎているのは、今までの相手がそこまでタフではなかった事と、速攻こそ最大効率という祓円陣の特色によるものだろう。
最初こそ二人の動きを見る為に守勢に回っていたが、下手をすると追い詰められそうだったし、模擬戦なんだからこっちも動けと抗議を受けて反撃開始。
攻撃の起点となっている斬冠刀を弾き飛ばそうとしたのだが、それを予測していたかのようなパリングアッパー。斬撃は避けたものの、動きが乱れた一瞬を逃さず明日奈の4連突き、更に体勢を立て直した神夜が翻身斬による移動からの真空斬…。
一時とは言え、完全に押し込まれるとは思わなかった。
対する俺は、二人がトドメを刺しに来る瞬間を待って、その瞬間を虎穴……居合抜きで打ち返した。同時に攻撃してくるなら、その一瞬だけ対処ができればいい。敵の攻撃に合わせて、回避と攻撃を同時にやるのがこれの真骨頂だな。
そこで模擬戦の決着はついたんだが……神夜が居る時点で、たった一回戦った程度で終わる筈もなかった。元々神夜のストレス発散の為に持ち掛けた勝負なので、付き合うのは構わなかったんだが…まさか、明日奈も巻き込んで朝まで続ける事になるとは予想外だった。
明日奈、巻き込んでしまってすまん…。
と思っていたら、明日奈はそれも織り込み済みで、それを作戦に利用していた。苦労人に見えて、何気に強かだな…。
ちょくちょく休憩を挟んだり、武器や組み合わせを変えながら模擬戦を続け、夜明け前。最も闇が濃くなる時間。それが明日奈が待っていたタイミングだった。
流石に眠いし疲れ切ったから、これで最後…と言う明日奈の言葉に不承不承頷き、またしても俺対2人の形になる。それ自体は何度もやったし、彼女達の攻撃パターンも読めていた。
豪快な剣術で迫る神夜と、それをフォローする明日奈。二人の動きは、幾つか指摘した問題をすぐに解決し、またその為の試行錯誤を繰り返した為、一晩の間に結構なレベルアップを遂げていた。
しかし、その動きや変化は俺も知っているし、彼女達の癖も把握できているので、相対的にはトントンと言えるだろう。
事実、戦いの大きな流れはこれまで通りだった。違ったのは、牽制を何度か打ち合った後。
神夜の斬撃を受け流した直後の硬直を狙って、明日奈は仕掛けてきた。最初の立ち合いでも見た、4連刺突。そのパワーアップ版なのか、強い光を纏った刺突。
と見せかけた、5連続刺突。
直前で気付いて避けられたが、流石に肝が冷えた。
4連続の突き自体は、そう大した事ではない。いや技術的には高いんだけど、比較対象が悪いと言うか、練度がまだまだ低いと言うか。
そこに光が加わっていたので、何かしらのタマフリを使った、強化した奥の手だと思ったんだ。
が、その光こそが囮だった。強い光に紛れ込ませるようにして放たれた、5発目の突き。
夜明け直前まで使わなかったのは、一番闇が濃くなる時間を待っていたから。そうすれば、輝きに大きく気を取られ、密かに繰り出された最後の刺突に気付きにくくなる。
正直、気付けたのは半ば運によるものだった。
体を捻って何とか避けた俺を、今度は横薙ぎの剛撃が襲う。神夜の追撃だ。が、これがまた曲芸染みた攻撃で…完成すれば凄い事になるぞ、あれ。
まず懐に隠し持っていた(あの服でどうやって隠し持てたのか、直に調べてみたい)らしい戦輪……チャクラムのような物を投げ、俺を斬りつけると同時に跳躍、空中の戦輪を足場にして三角飛び。俺の死角に回り込み、勢いを殺さず斬りつけ、また跳躍。今度は頭上を飛び越えながら首筋を狙って斬撃。着地と同時に足払いを放ってすぐ跳躍、斬撃…。
自分で投げた物に一飛びで追いつき、しかもそれを足場に飛び上がるとか、どんなタツジンだ…。うむ、あのムチムチになるまで鍛え上げられたフトモモあってこその技だな。
完成したら、多分……そうだなぁ、鬼の体を駆け上がりながら、エリアル溜め切り連発するくらいの事ができるようになるぞ。
神夜の曲芸攻撃を2度避けたところで、明日奈が追撃。先程までの手数を重視した連撃とは違い、威力を向上させた突進突き。
流石にコレは避けきれないと判断し、刀と鞘を盾として使って防いだが、よく圧し折れなかったものだ。あと少し追撃されていたら、少なくとも一方は使い物にならなくなっていただろう。
そんな死地から、軽く脱出できるブシドージャスト回避が神すぎる。
『殺った!』と思った次の瞬間、手の中から飛び出すウナギのよーにカッ飛んでいく俺を、二人は目を丸くして見ていたものだ。
うん、流石に卑怯だったかな、とは思う。エリアルスタイルのジャンプとの二大回避術だもんな…。ただ、今回の場合ジャンプを使うと神夜の追撃が待っているので、そっちは悪手だったが。
ちなみに『勝った!』ではなく『殺った!』は誤字ではない。神夜もそうだが、明日奈も結構なバトルジャンキーの気質があるようだ。ムキになり過ぎていたとも言う。
俺の場合は『狩った』か、相手によっては『犯った』になる場合もあるかな。
ともあれ、それが二人の最後の切り札だったらしく、避けられた後の反撃で揃って沈んだ。
「さ、避けられた…。最後の切り札まで使って、一勝も出来ず…。自信無くすわ…」
「心躍る時間でしたが、完全に格下でしたね、私達…。一層精進せねば…」
いや真面目に強かったと思うよ。戦歴的には新米モノノフ同然なのに、よくもここまで練り上げたもんだわ。
まぁ、それでもベテランを手古摺らせるくらいの力量…としか言えないけど…。
「止めを刺されているのでしょうか…。無念極まりないです」
「実際、自分が新米程度の戦いしかしてないって忘れてたわ…。大型の鬼を何度か相手にしたけど、楽な戦いばっかりだった…。本当の強さって言うのは、やっぱり死線を潜らないと得られない!」
死線から遠ざかるのが真の強さなんだゾ(護身完成)
…やり過ぎたか? 一回くらい負けてやるべき…いやでもこいつら気付くか。ただでさえ、孤立した里で井の中の蛙状態なんだ。下手に自信つけさせるとロクな事になりそうにない。
里のエースである泥高丸でさえ、ウタカタの里で言えば下位終盤に通じるかどうかって程度なのだ。里から脱出…或いは霊山との連絡が復活した後、自信満々で鬼と戦いに行って返り討ちにされました…なんて事になるよりマシだろう。
まーとりあえずアレだ、いいからさっさと帰って風呂入って寝て、飯を食え。自信が粉砕された時の気持ちは俺も何度も味わってるから、分かる。そんな状態で対策とか考えようとしても、土壺に嵌るだけだ。
「…そうですね。流石に疲れましたし眠いですしお腹も空きました」
「言っとくけど、それもう一回もう一回って繰り返した神夜が原因だからね。それを織り込み済みだった私も何だけど」
いいから帰って寝ろ!
……とりあえず帰って行ったが、どうすっかな…。思ったよりも深く凹んでしまったようだ。神夜のストレス解消のつもりだったのに、とんだ大失敗。
うーむ……久々にブートキャンプでもやるか?
俺も帰って一眠りしようとしていたんだが、朝の散歩をしていたらしい寒雷の旦那にバッタリ会った。
「おう、元気そう……ではあるが、眠そうだな」
徹夜で稽古してたからな、3人で。
「そうか……。なぁ、お前は将棋とか碁とかできるか?」
あ? いや、将棋は駒の動きくらいしか知らないし、碁は勝利条件も分からん。花札くらいならできる。
「ふむ、ちょいと相手をしてほしかったんだがな…。教本もあるし、初めてみないか?」
それくらいしか娯楽が無いって事かね。と言うか若いモノノフ達でも誘えばよかろうに。
「若い連中は、殆どが『そんな事をしている暇があったら鍛えるか飯を食う』ばかりなんだよ。どうにも若者はせっかちと言うか血気盛んでいけねぇ」
…爺さんみたいな事言うなぁ。
素人相手でいいなら相手してもいいよ。一眠りしてからだけど。
「そうかそうか! いやぁ、牡丹と何度やっても勝てなくてなぁ! ここらでちょいと自信をつけておきたかったんだよ!」
牡丹が? そんなに強いのか…年季が違うって事かね。
と言うか寒雷の旦那、達人に勝てないからって完全な素人相手に無双して自信をつけるって…。
「言うな。心が折れそうなくらいに負けが込んでるんだ。これ以上負けたら、何をさせられるか分かったもんじゃない。ちょっとでも心を強く持たんと」
だったら猶更、素人相手にしてどうすんだよ…。下手に挑まずに逃げろよ…。まぁいいけどさ。
一眠りしてから行くよ。いつもの万事屋でいいな?
そういう訳で、ハンター式熟睡法で寝る事1時間ほど。逆に寝すぎて頭が痛いレベルだが、外の冷えた空気が頭をスッキリさせてくれる。
万事屋に行く間に、明日奈と神夜の家を通ったんだが、中で寝ているようだった。…別に入っても覗いてもいない。気配で分かるだけだ。
落ち込んでいるかは心配だが、それは起きてからでしか確認できない。
ちょっと心配しながら万事屋に行くと、奥座敷へ通されて、ちょっと高級な感じのお茶を出された。…従業員には、異界浄化の為の作戦会議か何かだと思われているらしい。
まぁ、そういう話も全くしないではないけど。
「おう、よく来たな。とりあえず今日は囲碁だ。教本もあるぞ」
小さな癖に妙にスペースを感じる奥座敷で、どっかり座り込んで向き合った。台座に血糊でも見えないかと思ったが、流石に何もない。……ホンインボー某、ミタマになってないかな。
簡単なルールだけ教わって、とりあえず石を打ってみたが……白黒のを交互に打ち合うって、どっちかと言うとオセロに見えてくるな。おかしなところに石を打って、挟まれた石をひっくり返そうとしたら「何やってんだ」って呆れられた。
…で、本気で囲碁将棋する為に呼び出したのか?
「半分は…。もう一つは、あの二人の様子を聞いてみたかった。こればっかりは、本人が居る所では聞けないだろ」
そうだな。何だかんだであの二人と行動するようになってから、寒雷の旦那と一対一で話すのは初めてだったか。
…で、隠した目的として、二人と一緒にいる俺の値踏みかい?
「それもあるな。実力は申し分なし、異界の浄化という前代未聞の大技をやってのけた、英雄と呼ぶにふさわしいモノノフだが…栄達が人を変える事はよくある」
心配せんでも、ちょいと持て囃されただけで思い上がったりはしないよ。俺より強い人にも何人も心当たりがあるし、ここの異界だけを浄化できても意味が無い。
はっきり言えば、この程度はまだ序の口、反撃の開始地点にようやく立てただけだ。ここで浮かれるようじゃ、あのクサレイヅチにせよ、極大ミラバルカンにせよ…。
「…? どこかの鬼か?」
…ああ、俺が追いかけてる鬼だよ。片一方は、その鬼を追いかけてる鬼…かな。あまり深く聞くな。
それはともかく、あの二人の様子だっけ?
「…その様子だと、少なくともお前さん自身は大丈夫そうだな」
ん、信じてくれると嬉しい。いつもいつも、何故か信用なくってなー。いや逆に全面的に信頼してくれると言うか、ある意味信仰の領域に片足突っ込んでる奴も居たんだが、何故だろう…。
やはり女癖が悪すぎるのだろうか…。
「…悪いのか、お前…」
英雄扱いされなくても、ホイホイ手籠めにしてしまうくらいには。明日奈と神夜には、法螺っぽいって笑われたけどな。
正直言うと、あの二人もそーいう対象として見ています、はい。
「…………神夜は俺の親戚でな。一応言っておくが」
手を出したら殺す、って言われても止まらないよ俺。無理強いはしないけど。
「いや、合意の上なら、俺が言うのは……腹を括って手を出せ、って事だ。明日奈もそうだが、特に神夜の方は」
お? 意外な反応…。
「真剣な話だ。…あの二人が名家の出身だって事は聞いてるか? 鬼と戦うのが役目であるモノノフの中で名家とよばれるだけあって、あそこの家には相応の役割があった。その中でも、あいつらは……何と言うか、飛び切りの素質を持ってる」
…神夜の戦狂いみたいなものか? 戦狂いって言っても、あの程度なら可愛いもんだけどな。
現段階では、戦いで昂ると言うよりは、剣を奮うのが何より楽しいって程度でしかない。鬼を切り裂けば天真爛漫な笑顔を見せるが、返り血を浴びる事を嫌っているし、攻撃を受ければ苦痛に顔が歪む。倒れた鬼を前にして勝鬨を上げるが、終わってしまったと嘆く事はない。口にする事も憚られるような、表現しがたい激情も無い。人間を相手に、真剣を使う事も……躊躇いはないが、模擬戦でもなければやろうとしない。
はっきり言えば、ちょっと血気盛んな年頃のお嬢ちゃんである。
「…お前の基準を知りたいような、知りたくないような…。神夜の家の役割はな、戦巫女だ。前線で戦うモノノフを援護し、その士気を掻き立てるのがその本質。その為、当主は常に女だった」
戦巫女…。初めて聞いたな、そんな役割。まぁゲーム的に考えれば、どんな役かは予想ができるけど。
バフ、或いはデバフを広域に振り撒き、多少の回復能力を持ち、そして刀や長刀を持って近接戦に対処する…………あれ?
近接戦の対処はともかく、神夜って回復や援護って出来たっけ? 使うタマフリは『攻』だし…。
「いや、その想像で合っている。違うのは、その『士気の上げ方』だけだ。…少し前の時代の話だが、巫女と言うのは遊女も兼ねていた…と言うのは知っているか?」
あー…聞いた事あるな。歩き巫女って奴だっけ? 女忍者、くの一として訓練された巫女が居たって。くの一とくれば、色仕掛けだよな。
「それは偏見だと思うが、この件については大体そういう認識で間違いない。……神夜の家は常に最前線で戦ってきた。特に、女当主がな。その武辺と成果、名の威光によって士気を上げた。自ら一番槍として突っ込み、強大な鬼を打倒して……己より強い者は居るかと声を張り上げる」
ほぉ。あの戦闘の才はその結晶……で、あの男の視線を引き付けるような恰好…巫女……士気高揚って…。
「そういう事だ。同じ戦場に立ち、女当主と同等かそれ以上の戦果を挙げたモノノフは、一晩その体を好きにできる。男何ぞ単純なもんだからな。あいつの母親も美人だった…目先の色に狂って突撃して、実力以上の戦果を挙げたモノノフが何人も居たもんだ。死んだモノノフは、それ以上に多かったが」
…ひょっとして神夜の父親って誰だか分からない? それか寝取られ趣味…?
「阿呆。あいつの親父は、母親に岡惚れして、他の誰にも触らせないと毎回毎回全力で暴れてた強者だったよ。…オオマガトキで、二人とも死んでしまった。まぁ…いい夫婦だったよ。戦った後は、あの二人に近付くなと言うのが暗黙の了解だったけど」
戦の昂ぶりを互いで晴らすんですね分かります。
そっかー…。そんな役割かぁ…。そりゃ本人にも隠すし、前線に持っていけない訳だわ…。
「閉じ込められたこの里で、神夜の体や恋人の座を巡って諍いが起きれば、間違いなく止められん。お前に話しておくべきかも、かなり迷ったんだが…神夜が戦場に出るようになった以上、注意はしておかなければいかん」
本人も気付いてない、色欲が戦いを切っ掛けに暴走するかも…か。
……もしそうなったら、俺は間違いなく抱くぞ。
「お前なら、まぁ構わん。…勘違いしないように言っておくが、里での揉め事が最小限に抑えられるからでしかない。…お前は、いつかこの里から去るんだろう」
…まぁな。異界の浄化が出来ると判明したから、霊山、ウタカタへ向かえる目も本格的に出てきた。
霊山との親交が復活したら、俺は本来の目的を果たしに行く。…あぁ、霊山が素直に助けを寄越すとは思ってないから、交渉の手段を幾つか考え中だぞ。
「そこまで考えてくれるのは有難いが、本来俺達の仕事だから気にしなくていい。最悪、その時に連れていってしまえば…」
……神夜を放逐する話をしてるみたいで気分が悪いが…まぁ、確かにそれなら人間関係クラッシュは避けられるか…。
そう言えば、明日奈の家の役割は?
「裏切者、或いは不心得者の捕縛と始末だ」
…これはまた、穏やかじゃないな。
「実際、穏やかな話なんぞしてないからな。表立って動く事は少なかったが、とにかくやり方が苛烈で、それ以上に執拗だったもんだ。モノノフと言えど、所詮は人間。驕り高ぶって外道に堕ちる事もある。元々、歴史の陰に隠れて鬼と戦い、外様を守る集団だ。縁も所縁も無い、むしろかつては自分達を迫害した連中を何故守らなければならないのか、って叫ぶモノノフも少なからずいた」
それは分かるな。マホロバの里でも、モノノフにひどい扱いをされたらしい外様は何人も居た。
やっぱり、オオマガトキが起こる前からもそういうのは居たのか。
「一時は、集団で暴れ回ったくらいに。鬼の事なんぞ知りもしない一般人を拉致して、慰み者にする事すらあったらしい。…そういう連中を追い回し、捕らえて始末するのが明日奈の家の役割だった。全国各地を追い回すのは当たり前、捕らえられたら楽に死ぬ事は出来ない。暗殺も拷問も朝飯前って言われてた程よ」
…鬼平みたいな話だ。おお、怖。
恐れられることで抑止力にもなろうとしてたのかな。それを明日奈は?
「知らないし、知らされてもいない。その為の教育も…捜査の心得くらいは教え込まれてるかもしれんが、少なくとも拷問や暗殺については全く知らない筈だ。教育が始まる前に、オオマガトキが起こった」
拷問だの暗殺だのを教え込むなら、幼少時からやらせて刷り込んで、忌避感を無くさせる方が効率的だと思うが…やり方次第か。
で、明日奈がそっち方面に才能があるって?
「拷問はどうだか知らんが、猟犬としての才覚は随一だ。自覚があるのかは知らんが、敵の急所や痕跡を見つけて追い詰めるのが異常に上手いんだ。戦いでも、それ以外でも」
模擬戦でもそんな所はあったなぁ。神夜の隙を庇うように動いてたけど、ここぞと言う時には必ず勝負を仕掛けてきた。
うん、言われてしっくり来たわ。あの子は綺麗で可愛いけど、根っこは狩りをする肉食獣だ。…はは、本人に向けて言ったら、「か弱い乙女に対して何を」って怒られそうだな。
「ははは、違いない。あれで結構夢見がちだからな。…上手く付き合っているようで安心したぜ。さっきも言ったが、腹を括ってるなら、手を出しても俺は何も言わない。…この里は、あの二人には少々居心地が悪いだろう。持て余してるのは否定できない。もし本当に里の外に出ていけるのなら、連れて行ってやってくれ」
…本人次第だよ。多少居心地が悪くたって、ここはあの子達の故郷だ。
俺についてくるにせよ、外の世界を見てみたいだけにせよ……そう簡単に離れられるとは思えんよ。
討鬼伝世界登場人物表
討鬼伝モノノフからの登場人物
・牡丹……里長をやっているミタマの女の子。元は神垣の巫女らしい。
ミタマなので、見える人と見えない人がいる。
霊山に対して…里に来た頃には既に交流が途絶えていたので何とも。
・寒雷…元モノノフ、現在は万事屋の店主。体格のいい、豪快なオッサン。
霊山に対して…見捨てられたって意識は薄いが、あまり信用すべきじゃない。
・雪華…シノノメの里に所属する神垣の巫女。
一見するとクールな雰囲気だが、心優しく割とフレンドリー。
霊山に対して…修行中に滞在していた。里に比べて賑やかだったけど、疲れる事も多かった。
・練…勝気で姉御肌、褐色美女の鍛冶師。
結構なナイスバディだが、「またサラシがきつくなった」という言葉からしてまだまだ成長しているらしい。
霊山に対して…特に何も。でも扱う武器には興味がある。
・風華…祭祀堂の巫女。
修行途中に祭祀堂の主となってしまった為、修行不足。
どちらと言うと、マスコット兼甘味作成係と思われているようだ。
天狐と友達。名前は華天。
霊山に対して…もう少し修行が続いていたら、訪れる予定だった。知らない場所。
他作品からの登場人物
・明日奈…ソードアートオンラインより。
武器は細剣(レイピア)。
戦いばかりの生活に嫌気がさし、潤いがほしいと思っている。
霊山に対して…昔の知人が居る筈。生き延びていてほしいと切実に思う。
・神夜…無限のフロンティアより。
武器は斬冠刀(特注の太刀、と言うより大剣)。
戦狂いの気質がある。
霊山に対して…きっと煌びやか極まりなくて、白塗り化粧のお公家様とかが蹴鞠をしているんでしょう。
オリキャラ(と言うよりネタバレ防止の為、バレバレだとしても引用元を黙秘するキャラ)
・白浜屋の店主…落ちこぼれのモノノフ。
他の里に行ったらやってみたい事…新しい本を仕入れたい。
霊山に対して…名前は知っているけど、モノノフの総本山と言われても想像がつかない。
・泥高丸…でいこうがん。
里で一番腕が立つと評判のモノノフ。
明日奈とソリが合わないようだ。
新戦術『鬼纏』を開発した人物らしい。
霊山に対して…無理もない戦況だったらしいが、里を見捨てた事には変わりない。行きたいとは思わない。