凶星月二十八日目
もうすぐ練武戦だと盛り上がっている里だが、モノノフのお勤めにお休みは無い。
いや他の時だとあるんだけどね。追儺の日とか、正月元旦とか、お盆とか。そんな時でも、鬼の襲撃があれば出撃できるようにしておかないといけないんだから気が抜けない。祭りに浮かれて里が滅びました、なんて結論になるよりはマシだけども。
それを言ったら、今の異界の状態を練武戦の為に放置するのも馬鹿な話だ。奴らはまだ、縄張り争いの傷から回復しきってない。
とは言え、自分達だけお祭りに参加できないのも癪なので、狩ったら荒れそうな奴に目を付けて、そいつらだけ始末していく。
「…地図に何やら書き込んでいたと思ったら……鬼の縄張りの分布図だったんですか?」
他にも色々ね。どこでどんな鉱石が取れたとか、どんな実がなっていたかとか…。
「私にも見せてください。……うわ、何これ…。何処の鬼がどんな傷を受けているとか、どの鬼と仲が悪いとか…。どうやって調べたんですか、こんなの」
大体は目視の確認だな。視力には自信があるから、丘の上に上った時に片っ端から大型鬼を見つけて確認した。
鬼の体に残っている傷跡から、どの種類の鬼を相手に戦ったのかは大体推察できる。後は近場の鬼の分布をみて、近くに居る鬼居ない鬼、そいつらの情報を組み合わせて行けば、大体の状況は予測できる。
あくまで予測だし、鬼は獣に比べて個体差が激しいから、確実とは言えないが。
鬼の目と鷹の目、そしてハンターとしての経験があるから、こんな事も出来るようになったのだ。
と言う訳で、まずはあそこのクエヤマと、あっちのダイバタチを狩るぞ。
「? 今日はそれだけなのですか? 体力を温存しても、もう2~3体はいけると思うのですが」
狩るのは難しくないだろうけど、そこまで一気にやると鬼達が警戒して、逆に縄張り争いを始めなくなりそうだ。
モノノフの仕業だって事を気付かれない程度に、内乱を誘発するのが一番いい。
数日おいて、また縄張り争いでグチャグチャになった勢力図を更に引っ掻き回す。
これを繰り返していれば、いずれは強い鬼が向こうの方から出てくるだろうよ。
それでも頑として動こうとしない鬼が居るとすれば、そいつは何かを守っている可能性が高い。つまり、そこの結界石か、それに近い物があるって事だ。
…本当は、ハンターとしてはご法度なんだけどな、こういうやり方。生態系を進んで乱しているようなものだから、いつどんなシッペ返しが起こるか分かったものじゃない。
だけど、この里の状況じゃそうも言っていられない。滅びるのも自然の理と割り切る事はできないから、何が何でもまずは生き延びる。
「成程…。でしたら、此度の戦は、私達に任せていただけませんか? 練武戦の為の稽古の仕上げをしたいのです」
…明日奈は?
「大丈夫です。いつも貴方に頼りっぱなしじゃないんですよ。元々、二人で鬼と戦ってたんですから。…弱い相手ばかりだったけど
別段、頼られた覚えもないんだけどな…。二人がそうしたいって言うなら、止めはしない。
頑張っておいで。
…結果? 狩られた鬼にしてみれば、暗殺されたようなもんだろうなー、とだけ言っておく。
凶星月二十九日目
お祭り前夜って感じだなー。皆、思い思いに準備している。
中には、練武戦をよく観戦できる場所に陣取る為、このクッソ寒い里なのに夜通し張り込んでいる人もいるようだ。
…パチンコ屋に最初に入る為に、店の前で待ってる人の心理なのかね…。
練武戦って言っても、単体で行われる祭りではないらしい。
流れとしては、初日…三十日に里長(今は牡丹で見える人と見えない人がいるから、代理に寒雷の旦那)の挨拶から始まり、そこから先は…練武戦と言うより文化祭? 日頃から個人個人が研究していたり、趣味で行っている何かの披露。秘蔵の漬物を売り出したり、新作の甘味の発表とか…ちょっと文学的な所では、俳句やら能やらの披露とか。
ちなみに、この時点で飯も酒も解禁されているので、練武戦に参加表明しながら、飲み過ぎで二日酔いになって辞退する者が一人二人は居るらしい。
夕方になると、翌日に行われる練武戦の対戦組み合わせ表が発表される。
で、二日目には朝から晩まで練武戦。モノノフ達の総当たり戦だ。
言うまでもなく、ここが一番盛り上がる。
前回の練武戦の成績や、普段のモノノフとしての活動を加味して、各自の持ち点を決め、勝敗と独自の計算式によってそれが上下する。一定以下になってしまった者は、その場で敗退というシステム。
大体、最終戦が終わる頃には皆して酔っぱらってしまっており、野晒しで寝る事も珍しくないらしい。だから下手すると凍死するって。
そして三日目。練武戦の成績発表だ。
この日はそれ以外目立ったイベントは無く、祭りの片付けに使われる。
…と言う名目だが、二日酔いで動けない連中を看病する事の方が多いそうな。
何にせよ、俺も何か手伝った方がいいんだろうけど、勝手が分からん。ついでに言うと、初日の文化祭で何を披露するかも考えなきゃいかんし。
どうしたものかと考えながら、いつになく賑わっている里を歩いていると、声を掛けられた。
…鍛冶屋。って事は、練の姉御か。
道具の手入れをしている彼女の横には、いつぞやと同じように薬包とお茶が並んでいた。
どしたの? 仕事中じゃないの?
「ああ、今日はもう店仕舞いだよ。いきなり声をかけて悪かったね」
それはいいけど…。考えてみれば、練の姉御の世話になった事ってないな。
「そうだよ。何で一回も来ないのか、気になっててね。別に用もないのに来いって言ってる訳じゃないし、自前の道具で充分なら何も言わないけどさ…。大体、練武戦で使う武器はどうするんだい」
あー…別に、姉御を信用してないとかじゃないんだ。単純に、道具の手入れは出来る限り自分でやりたいってだけで。
(使ってる武器、MH世界の武器とか神機とかだからな…。討鬼伝世界の武器もあるけど、この里のとは性能が違い過ぎるから見せられん…。しかし明日奈達には見せてるし、今更…かなぁ)
「そりゃいい心がけだね。でも、偶には本職に見せた方がいいよ。…ま、あたしが本職を名乗るのは、ちょっと憚られるけど…」
…よく分からないが、何だか闇が深そうだ。
神夜と明日奈の家の話といい、何気に闇が多い気がする。シノノメの里の状況で何年もやってれば、そりゃ闇だって増えるだろうが。
「お前さんが来てから、里は色々と急激に変わってる。全ての切っ掛けがあんただとは言わないけど、殆どの事に大きく関わってるのには変わりない。あたしも、今まで知らなかった鉱石や、その使い方を知る事ができた。礼も含めて、一度話をしてみたかったのさ」
そりゃどうも。俺でよければ話くらいいくらでも。
じゃあついでと言っては何ですけど、明日の発表会での出し物、相談に乗ってくれません?
「発表会? …ああ、あれか。あれの参加は基本的に任意だから、思いつかないなら別に何もしなくてもいい筈だけど」
それはそれで退屈そうなんだなぁ。今から準備しても間に合うようなもので、好印象を与えるようなもの、何か無いですかね。
「我儘な…。やっぱり、この里には無い物を見せればいいんじゃないかい? あんたはこの里では唯一、他の里の事を知ってる人間だ。多分、他の皆もそれを期待しているだろうし」
この里にない物、かぁ…。鬼の手はこの前見せてしまった。武器防具の類は、色々問い詰められそうだから却下。
世界観的に見て、あまりに懸け離れたモノも後々不味い事になりそうだ。
となると、文字通り他の里にあって、この里には無い………あ。
「お、何か思いついたかい?」
ああ、お陰で何とかなりそうだ。ただ、アレだけじゃ芸が無いな…。何か曲芸的なやり方でも考えてみるか。
悪いんだけど、今日はもう行くよ。ちょっと練習しておきたい。
「こっちとしても大した話題があって引き留めた訳じゃないし、構わないよ。何をするつもりなのか知らないが、気張っていきな。練武戦もね」
討鬼伝世界登場人物表兼コメント
Q.もしも鬼との戦いが終わったらどうしたい?
討鬼伝モノノフからの登場人物
・牡丹……里長をやっているミタマの女の子。
A…ミタマとして残ってる理由もないけど……成仏ってどうやればいいんだっけ?
・寒雷…元モノノフ、現在は万事屋の店主。体格のいい、豪快なオッサン。
A…そろそろ嫁さん探すかなぁ…。
・雪華…シノノメの里に所属する神垣の巫女。
A…わかりません…。神垣の巫女でない自分など、想像すらできません。
・練…勝気で姉御肌、褐色美女の鍛冶師。
A…人と人との争いに使う武器を作るのも気分が悪いし、包丁とかに集中しようかね。
・風華…祭祀堂の巫女。
A…雪華姉さまが無気力になる気がするので、ずっとお世話します!
他作品からの登場人物
・明日奈…ソードアートオンラインより。
A…青春したい。彼氏欲しい。
・神夜…無限のフロンティアより。
A…鬼が居なくても、もっともっと強くなります!
オリキャラ(と言うよりネタバレ防止の為、バレバレだとしても引用元を黙秘するキャラ)
・白浜屋の店主…落ちこぼれのモノノフ。
A…まず身内の墓参りと、シノノメの里に限らずとにかく復興です!
・泥高丸…でいこうがん。
A…諸国漫遊でもしてみるかな…親父の故郷を目指してみてもいいかもしれん。