※この作品はR-18です。

狩りゲー世界転生輪   作:時守 暦

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濡れ場執筆中…なのですが、久しぶりで難しい事もあり、書けるところまで書いて、その後の話を執筆しています。
…なんて事をしていたら、濡れ場が合計3つも…。乱交も含めれば4つか。
うーむ、手を抜く事はしたくないし…どうすっかな…。


第400話

魔禍月壱日目

 

 

 

 昨日の発表会の最後はいいもの見たなぁ…なんと懐かしい。

 …ん? 毎月恒例って事は、月末になればまた見られるのか。……それまでこの里に留まりたくなってきた。

 

 それはともかく、今日は練武戦当日だ。昨日以上に朝から盛り上がっている。

 道場の入り口には試合の組み合わせとそれぞれの持ち点が貼り出され、そこへ里人達が集まって口々に騒いでいる。

 

 試合は基本的に持ち点の低い者から行われ、勝敗による特典の加減は後になればなる程大きくなる訳だが……一番最初の試合は……白浜君と、あまり話した事のない新米モノノフか。

 周囲の声を聴いてみたが、白浜君が第一試合に組まれるのはいつもの事らしい。練武戦でも全く勝てず、モノノフとしての活動もパッとしない以上、仕方ないと言えば仕方ない。

 白浜君が蔑ろにされている訳ではないのが救いだが、彼が勝つとは誰も思っていないらしい。彼と当たる事になったモノノフも、得したって顔していた。

 

 

 明日奈、神夜の試合は…序盤の後の方か。得点は神夜の方が多い…積極的に鬼を討伐していたかどうかの違いかな。明日奈は資材集めを重視する事も多いし。

 自分の出番を確認して道場に入ると、静かに殺気立った空気が伝わって来た。見回せば、完全装備で身を固めたモノノフ達がそこかしこで座禅を組んだり、イメトレっぽい事をしている。

 何と言うか、空気が重苦しいと言うか…堅いと言うか。鎧武者が何人もいるから、文字通り合戦前みたいに思えてきた。

 

 

「あ、おはようございます」

 

 

 お、神夜。おはよう。…明日奈は一緒じゃないのか?

 

 

「あはは、いつも一緒な訳ではないですよ。明日奈さんはあっちで準備運動してます。…仮にも戦う事になるかもしれない相手ですからね。あんまり距離が近いのもどうかと」

 

 

 別に問題ないと思うけどな、あくまで試合だし…まぁ気まずくなるかも、と言うのも理解できるが。

 と言うか、俺とも戦う可能性はあるが、それはいいのか。

 それにしても……神夜も明日奈も、普段の恰好のままなんだな。皆、鎧武者状態になってるのに。

 

 

「私はこれが一番戦いやすいですから。明日奈さんも同じです。こう言ってはなんですけど、まだちゃんとした鎧も作れていませんし…でしたら動きやすい方がいいじゃないですか」

 

 

 まぁな。異界探索中にそこそこの数の鬼を倒しているが、2人分の防具を作るには素材不足だ。

 『普段通りに動ける』と言う利点を捨ててまで、中途半端な防具を身に付ける必要はない。

 

 そう言えば、前に練習していた俺対策は完成したのか?

 

 

「ふふふ、秘密です。試合で当たれば、お披露目しますよ。…その前に、負けなければ…ですけど」

 

 

 戦狂いにしちゃ弱気な事を言う。

 

 

「明日奈さんとの闘いもありますが、その後に泥高丸さんとも当たるんですよねぇ。勿論負けるつもりで戦う事はありませんが、明日奈さんとは互角、泥高丸さんとは頭一つ分くらいは実力が離れてますから…。特に明日奈さん、泥高丸さんを見返してやるんだって張り切ってましたよ」

 

 

 ああ、それで明日奈が妙に気負ってる感じがするのか。

 それに、多くて2回負けたら終わり、負けた時の減点次第では1回で終わり…って言ってたな。

 武運を祈るよ。明日奈にもだけど。

 

 

「そちらこそ……あら、太鼓の音。どうやら始まるようですね」

 

 

 え、もう? 開会式とかは……ああ、俺らがこっちに引っ込んでる間に、観客の前でやっちゃった訳ね。

 開会宣言は泥高丸か。千鬼長だし、そんなにおかしな事でもない。

 

 挨拶を終えて控室に戻って来た泥高丸は、少しばかり普段と違う姿をしていた。左腕だけを赤い甲冑で覆って、同じく朱色の槍を持っている。…十字槍か。

 …あれが泥高丸の本来の戦闘スタイルなのだろうか? 以前に任務の前にすれ違った時は、普通の鎧姿だったけど。

 

 

 …ま、いいか。数時間もしない内に、奴が戦う姿を見る機会はあるだろう。その時に考察すればいいや。

 そう考えて、試合場に目を向ける。庭に拵えられた試合場では、白浜君と新人モノノフが対面して、互いに頭を下げていた。

 ちなみにこの試合場、別に外に出てしまってもペナルティは無い。モノノフの戦いは山野に分け入っての鬼との闘いだ。平地で戦える事など滅多に無い。なので、庭の中なら、池だろうが築山だろうが、どこに入り込んでも問題はない。本人同士が同意の上なら、外に出たら負け…と言うのもありだが。

 

 

 

 ………で、その白浜君、3合と保たずに負けてしまった。白浜君の持ち点は最低限しかないので、もう完全に敗北が決まってしまった訳だ。

 がっくりと肩を落として退場する白浜君に、声はかけられない。同情するような視線を送る者も居たが…毎月の事なんだろうなぁ。

 皮肉にしか聞こえないだろうけど、頑張った方だと思うよ。

 腕前は…率直に言って、白浜君も新米モノノフも大して違いはなかった。使っている武器防具の差がモロに出たって感じだった。

 

 具体的には、初太刀は互いの斬撃で弾かれ、二撃目は新人モノノフの胴薙ぎを白浜君が何とか弾く。そして、体勢を崩した新人モノノフに対して、白浜君が袈裟斬りで反撃…すると同時に、新人モノノフが体勢を崩した状態から反撃。

 ほぼ同時に攻撃が当たったが、切り裂かれたのは白浜君一人だった。そりゃそーだ、白浜君は防御力が殆ど無い胴着で、相手は仮にも鬼との闘いを想定した鎧を着てたんだから。

 たられば、もしも…を語っても仕方ないが、白浜君もちゃんとした防具を着けていれば、もう少し試合は続いていただろう。お互い、鎧を切り裂けるような技量はないんだし。

 白浜君が防具を用意できなかったのは、それが出来るだけの素材を用意できなかったから…つまりはモノノフとしての活動が出来てなかったので、そういう意味では完全に実力による負けではあるな。

 

 白浜君は道場の隅っこに移動し、落ち込みながらも練武戦の観戦をするつもりのようだ。

 

 

 

 試合場には次の選手が昇り、また戦い始めている。ふむ…。やはり新米だらけだが、見るべきところがある奴も居るな。

 中には初っ端から鬼纏を使って戦う奴も居る。鬼纏同志の高速戦闘は、見ていて結構面白かった。

 

 

 暫くあまり知らないモノノフの戦いが続いていたが、ようやく明日奈の出番がやってきた。不敵な笑みを浮かべて試合場に上る。

 相手のモノノフは中堅どころのおっさんだ。一瞬だけ、『女子供が』って侮りも見えたが、それはすぐに消え去った。

 明日奈の何かを感じ取ったのか、それともその考え自体が大きな隙、慢心だと引き締め直したのか。何にせよ、本気で相手しようとするのはいい事だ。後で自分への言い訳もできないから。

 

 細剣を手にした明日奈は、切っ先を相手に向けて銅像のようにピタリと動きを止めた。

 傍目には呼吸をしているのかすら疑わしくなる姿だが、彼女が何十分もその状態を維持し続ける事が出来るのを、俺は身を以て知っている。

 ブレも隙もないその体勢を向けられるのは、相手にしてみればいつ発射するか分からない、セーフティの外れた銃を突きつけられているようなものだろう。火縄が回転しない火縄盆とか、肝練りじゃなくて普通に死刑だろ。…避けるか弾くか許されているのは、救いではないと思う。

 

 普段、鬼を相手に戦う時にはもっと激しく動き回り、どちらかと言うと野生の豹のような印象を受ける明日奈だが、人間相手だと全く逆の戦い方をするんだよなぁ。

 …にしても、先日の夜通し稽古の時よりも腕を上げたな。

 

 

「そうですね。明日奈さんも、ああまで一方的に叩きのめされてひどく悔しかったようです。密かに鍛錬していたようですよ」

 

 

 

 相手も冷や汗垂らしてる…こりゃ決着は見えたな。明日奈のプレッシャーに耐え切れず、牽制を放とうとした相手のモノノフだが。

 

 

 

「そこまでッ!」

 

 

 次の瞬間には、細剣が首元に突き付けられていた。

 この停止からトップスピードへの極端な変化は、対人戦における明日奈の最大の武器である。流石に、前兆全く無し…所謂、無拍子とは程遠いが。

 細剣という性質上、彼女の武器は斬撃よりも刺突に向いている。ただでさえ視認し辛い細剣の突きが、ほぼ前触れ無しで飛んでくるのである。

 逆に、彼女は自分がかけるプレッシャーによって、相手がどのタイミングで仕掛けてくるか、じっと観察している。中途半端な攻撃を放ってきたら、それを避けつつ、敵の刃の陰に刺突を隠して最短距離をトップスピードで突き破るのだ。

 はっきり言えば、彼女のプレッシャーに気圧されされてしまった次点で、相手の負けは7割方決まったも同じである。

 

 尚、この辺の解説は口には出してない。周囲にはこれから明日奈と戦うかもしれないモノノフが沢山いるんだしね。

 

 

 はー、相変わらず見事なもんだ。

 

 

 

「…それを平然と叩き潰した貴方が言っても、皮肉にしかならない…と、明日奈さんが視線で語っておられますが?」

 

 

 だって、逆を言えば動じなければいいだけだもの。何時間もの根気の比べ合いに付き合うんだと最初から思っておけば、そうそう焦る事はないぞ。

 そういう意味じゃ、基本的に格下、或いは同格にしか通じない戦法ではあるな。

 勿論、それが無くても不動から最高速度へ移りながらの突きは脅威だが………悪いけど、最高速度に達する前に3回は横薙ぎ出来るんだよなぁ。

 

 

「…3回程度ではないでしょう…。あの時の稽古で、私と明日奈さんの同時攻撃を避けたと思ったら、手足に胴に首に頭に、17回も掌底を受けて…つまりは、やろうと思えば34回攻撃が出来ると言う事でしょう。何の幻術かと思いましたが」

 

 

 知り合いの暗殺者から教わった、無駄を極限まで省いたキルストリーク…連続攻撃の応用だゾ。尤も、一人を相手に17回も触れてる次点で無駄だらけだけどな。

 本当なら、一人に対して急所に一撃するだけで済ませて、次の相手に向かう。

 鬼が相手だと、一度急所を刺した程度じゃ死なないから、イマイチ使いづらいんだよなぁ…。

 

 

 なんて事をブツクサ言ってるうちに、明日奈が次々に相手のモノノフを撃破している。

 本当に、腕を上げたものだ。俺との模擬戦以上に、日々の戦いこそが彼女の糧になっているのだろう。

 元々、実力はあるのに相応の場に出してもらえなかった訳だからなぁ…。そりゃ、天賦の才が許すところまでは、破竹の勢いで駆けあがるだろう。許すところまでは、ね。

 

 

 …てーかおい、神夜。剣気を抑えろ。

 

 

「…はしたないとは思いますが、ご容赦くださいませ。明日奈さんのあれ程に磨き上げられた武を見て、昂揚しております」

 

 

 なら猶更抑えろよ。お前と明日奈がやり合うのは、次の次だ。それまで余計な消耗してんじゃない。

 つぅか客席で剣気殺気を放つな。明日奈はともかく、相手の方がお前の剣気に反応してるじゃないか。ほれみろ、反応した瞬間に明日奈が一突きしちゃったよ。

 

 

「よいではありませんか。それだけ私の出番が早くなるのですし。それに、気当たりを受けているのは明日奈さんも同じ事。同じ条件なのですし、目の前の敵から注意を反らした方が負けただけです」

 

 

 戦いの事になると、ブレーキ壊れるなぁこの子。欲望に素直だな。

 酷い戦いにならなきゃいいんだが。基本的に斬り合いを好む子だけど、いざとなったら取っ組み合いでもなんでもやる。刀を放り出して、キャットファイトに突入したら…それはそれで眼福かもしれない。

 

 

「あら、出番のようですね。それでは行ってまいります」

 

 

 進行役に名を呼ばれた神夜は、相変わらずでっかい斬冠刀を担ぎ、気楽な足取りで試合場へ向かう。

 だが、朗らかな表情とは裏腹に、全身から剣気を撒き散らしまくっていた。観客達が、モノノフを含めて顔を青褪めて道を開ける程だ。『これさえなければ…』って声も聞こえた。

 

 

「さて…では、始めましょうか、明日奈さん。あの方と当たるまで、切り札は隠しておくつもりでしたが…全て使い切る必要がありそうです」

 

「こっちもよ……と言いたい所なんだけど、一ついいかしら」

 

「…何です?」

 

 

 さぁ試合開始、といった場面で待ったをかけられ、神夜は興醒め極まりない、とでも言いたげな顔をした。

 明日奈は構わず、審判に対して話しかける。

 

 

「今回の戦いは、試合場の中だけにしたいんだけど」

 

「…それは…こちらとしては問題ないが、神夜はどうなんだ?」

 

「全く問題ありません! つまらない事かと思って申し訳ないです!」

 

 

 …何のつもりだろうか? 神夜としては間近で斬り合える事が嬉しいようだが、意味もなく明日奈がこういう提案をするとは思えない。

 逃げ道を断った? 或いは、明日奈の切り札への布石か、逆に神夜の猛攻を凌ぐための布石か。

 

 それとも…?

 

 

 試合場のみでの戦いに同意して、二人は向き合って構える。

 空気がヒリついてる…先日の稽古の時とは、真剣味も一味違うな。

 

 ジリジリと、少しずつ間合いを微調整しあう二人。明日奈はカウンターを狙っているようで、逆に隙あらば貫いてやろうという気概に溢れている。神夜は、明日奈とは真逆の飛び掛かる直前の獣を思わせる、上段の構え。何があろうと叩き斬る、と言わんばかり。

 

 

 …本気で向き合っている二人を見て、明日奈が戦場を試合場のみに限定した理由が、何となくわかった。

 気圧されして下がってしまわないよう、逃げ道を断ったのもある。

 お互いに逃げ道を作らず、鉄火場で正面から向き合う為なのもある。

 

 しかし本当の理由は、勝負を一撃で決め、自分達がやり過ぎるのを止める為。

 互いの手の内をよく知っている二人だ。攻撃力の高さも、それを避ける方法も、身を以て知っている。

 

 一撃受ければ、まず間違いなく場外まで飛ばされる。傷を負い、しかし致命傷ではないままで。

 そこから始まる追撃、反撃、傷を無視しての応酬。どうやったって無事じゃ済むまい。それを承知で突き進みかねないのが、この二人の怖いところ。

 

 だからこそ、明日奈は場外負けのルールを設定した。

 そうすれば、致命的な縺れ合いに雪崩れ込む前に、勝負がつくように。

 

 

 最初に動いたのは神夜。僅かに上体を逸らして勢いを付け、地を割らんばかりの唐竹割り。

 対する明日奈は僅かに身をよじらせて半身になってこれを避け、斬冠刀の峰に足を乗せて封じようとする。

 神夜は凄まじい膂力で斬冠刀の勢いを殺し、手首を捻ってこれを避ける。同時に逆袈裟に切り上げるが、一歩踏みこんだ明日奈が神夜の指に狙いをつけた突き。咄嗟に片手を放してこれを避けるものの、逆袈裟の威力は半減。体を屈めた明日奈に避けられた。

 低い体勢となっている明日奈の顔面に向けて、神夜の蹴りが放たれる。牽制の威力では治まらないソレを、明日奈は体で抱え込むようにして受け止めた。神夜の足を片手で掴み、逆の腕で片手突き。大きく体を逸らして避ける神夜。

 体勢を崩した瞬間を狙い、肩口からのタックルで神夜を吹き飛ばす。体一つ分の距離が空いて………その距離は、お互いに最も得意な攻撃の間合いだった。互いにタマフリを使う、ほんの一瞬の間。

 

 この試合で初めて、激しい金属音が響き渡る。

 全身の加速と質量とバフを乗せた、明日奈の突撃と。

 着地の為に少しだけ動作に後れを取り、それでも動じる事なく放たれた神夜の横薙ぎ。

 

 二人の攻撃の激突は、辛うじて明日奈が優勢だった。

 攻撃力だけで言えば巨大な質量を持つ斬冠刀に軍配が上がっただろうが、その火力を発揮するようになる前に明日奈の突撃がぶち当たった。

 互いに弾かれ、足を踏ん張るも勢いを殺しきれずに後退。

 

 明日奈は地面に手を突いて、辛うじて試合場に残った。

 そして、神夜は斬冠刀を地面に突き立てるも、掴まるには力が足りなかったのか、手を放して試合場の外へ………。

 

 

 

 飛ばされて、空中でジャンプして試合場に戻って来た。

 

 

 

 呆気に取られる観客に構わず、神夜は地面に突き立てた斬冠刀を逆手に引き抜き、掬いあげるように明日奈に叩きつけた。大質量に吹き飛ばされ、放物線を描いて落下する。

 ドサッ、と音がして、

 

 

 

「そこまで! 勝者、神夜!」

 

 

 …決着。司会の人も、予想外の事があって状況が理解できず、反射的に言葉を出したようだった。

 だがファインプレー。試合場の中だけの戦い、という事を忘れた神夜が、追撃をかけようとしていたからだ。宣言を聞いて、我に返ったようだ。

 

 なんともまぁ…空中ジャンプか。モノノフ的には、足場があれば出来る奴はそう珍しくはないけど、あの場面で出すとはなぁ…。

 

 

「いったぁ……ああ、負けちゃったか…。忘れてたわ、あの曲芸があったの…。まぁ、どっちにしろあの状態だと避けられなかっただろうけど…」

 

 

 神夜の空中ジャンプのカラクリ。それは単に足場を用意していたからだ。斬冠刀に仕込まれた、戦輪。俺との闘いの時でも使って見せた、投げた戦輪を足場としての跳躍。

 明日奈の突撃とぶつかり合った横薙ぎで、それを放っていたのだ。吹き飛ばされてから、その戦輪のある所に吹き飛ばされるかどうかは、運…だったのか、それとも吹き飛ばされる時に上手く調整したのか、或いはそのあたりに来ると予め予想して放っていたのか。

 

 ほれ、しっかりしろ。怪我はないな?

 

 

「あっちこっち痛いですけど、これくらいなら…」

 

 背中とお尻を擦りながら立ち上がる。痛みはあるようだが、戦闘続行は充分に可能…か。

 そうだとしても、落下際をあの勢いの神夜に追撃されて、それを凌げるかは微妙…いや、正直言って厳しいだろう。

 完全な負けではない…と言うのは、明日奈にとって救いだったろうか? …そんな筈はない。平静を装っているが、手が強張っているのは悔しさを見せまいとして堪えているのだろう。

 

 

「じゃ、私は交代ね。次は勝つわよ、神夜」

 

「いつでも来いです! まだ統計では負け越しているので、次も勝ちます! 勝ち越しても勝ちます!」

 

 

 …明日奈、勝ち越してたんだな。

 

 

「ええ、あの子って血が上りやすい上に気分屋ですから、割と隙を突きやすいんです。その分、波に乗った時の攻撃力はとんでもない事になりますけど」

 

 

 まーそれも分かるけどね。

 ところで、明日奈の出番はこれで終わりなのか?

 

 

「いえ、持ち点はまだ少しだけ残ってますから、もう一回負けるまでは戦えます。…まぁ、今は…神夜の出番ですけどね」

 

 

 暗に、自分を見るなと言っているのだろうか…。

 泣き顔を見る趣味は無いが、放置しておく気も無い。隣に座り込み、ほんのり体温を感じる距離で試合場に目を向けた。

 

 …ほんの僅かに、明日奈が身を寄せてきたのを知らないフリをした。

 

 

 それはそれとして試合場では、神夜が大暴れしている。

 いや本当に大暴れだ。チラチラ見えそうで見えない大事な部分に男モノノフ共のテンションが上がりまくっている。

 だが、当の神夜はそれ以上にハイテンション、それこそトランス状態かゾーンにでも首突っ込んでるんじゃないかと思うくらいだ。明日奈に勝利した事で、気分がノリにノッているんだろう。

 

 対峙する対戦相手達も決して弱いモノノフではない。総合力で言えば、神夜の数段上を行きそうなベテランも、準エース級と言って差し支えないモノノフも居た。

 だがスーパーハイテンション状態が持続している神夜は、容赦なく斬冠刀で吹っ飛ばす。防御を切り裂き、攻撃を逆に斬り潰し、タマフリは知らぬとばかりに蹴り倒し、鬼纏相手は流石に無傷とはいかないものの、戦輪も絡めた位置取りで追い詰めて一閃。

 …完全に凶戦士と化しておるのぅ。

 

 

「あぁ…」

 

 

 隣の明日奈が、駄目だコリャとばかりに顔を覆っている。

 …意外と元気そうだ。

 

 

「? 負けて悔しかったのは確かですけど、練武戦って毎月一回はやってるんですよ。一々悔しがって後に引いてたら、きりがありません。練武戦で戦った事も、一度や二度じゃありませんし」

 

 

 あ、そう? …で、どしたの。

 

 

「多分、次の次辺りから調子を崩してきます。楽勝すぎて、興味が無くなってくる頃です…」

 

 

 ……気分屋だなぁ、本当に。

 いや、本人の性格としては、真面目でちょっと引っ込み思案で、とってもいい子なんだけど。

 戦狂いの性質だけは、まるで後から付け加えられたように噛み合わない。逆に噛み合った時に、とんでもない戦力を叩き出しもするけども。

 

 明日奈が言うように、神夜は徐々に精彩を失っていった。

 圧倒的な質量と馬力で大暴れを続けているように見えて、腕の振りが、位置取りが、機の見極めが、段々と大雑把になっていく。

 それに気付いているのは、付き合いの長い明日奈と俺、寒雷の旦那、他には特に経験を積んでいるモノノフと…泥高丸くらいか。

 

 戦力としての評価は高いんだけど、モノノフとして今一つ安定して運用できないのは、こういう所からなんだろうなぁ…。 

 さて、どう躾けたもんか…。俺が傍に居る時なら、適当に相手してやればいいだけだが。今は近くに居ても……。

 

 

(…もうちょっと勝ち進めば、この人ともう一回戦えるんだけどなぁ…忘れてるんだろうなぁ…)

 

 

 激励すべきか? いやでも興醒めするのも本人の実力の内だしなぁ…。

 うん、黙っておこう。敗北の方が経験になる。俺に対するヒサツワザも作ってきてたみたいだが、それを披露するまでもなく負ける…。厳しいようだが、自業自得だ。

 

 明日奈の予想通り、神夜は数戦した後に敗北した。

 相手はエース級の一人、泥高丸の取り巻きの中心人物とも言える一人。ちなみに女性。

 戦い方は至極真っ当で、使っていた武器はヌヌ刀。あの武器の使い方は、ヌヌ刀と言うよりはマインゴーシュに近いか。或いはいっそ、無刀取りと言ってもいいだろうか。白羽取りとかの事じゃなくて、小太刀で手首を狙う奴。

 

 精彩を欠く神夜の剣戟は、彼女の狙いから逃げきれなかった。タイミングよく鬼纏を発動させ、不意をついたのも大きいだろう。

 とは言え、よくやれたものだ。鬼纏で行動速度が2倍になるとは言え、神夜が斬冠刀を振り下ろし始めてから鬼纏発動、下しきる前に懐に飛び込んで、手首と腹に切っ先を押し当てる…。

 タイミングをしっかり計算し、機を逃さず準備を整え、剣閃の軌道を把握して…何より、当たらない、予測が外れないと確信して、斬り降ろしの軌道に入って行ける勝負度胸。

 絶好調の神夜なら、反射的にタイミングをずらしたり、軌道を変えたりできただろうに…。

 

 ま、はっきり言えば実力負けだな。

 ……勝った方の女モノノフに、「こいつにだけは負けてなるものか」的な執念が感じられたが、気のせい……じゃないな。目線が揺れる乳に行っとる。

 72がとは言わないが、ご愁傷様だ。小さければ小さいなりの楽しみ方もあるんだけども、慰めにもなりゃしないだろうな…。

 

 

 試合場から降りた神夜は、誤魔化し笑いをしながら俺達の傍にやってきた。

 

 

「あ、あははは…負けてしまいました」

 

「しまいました、じゃないの。全く、毎回毎回あなたときたら…興味を無くして負けるのは、もう何度目? 大体ねぇ…」

 

 

 俺を挟んで説教すんなよ…。明日奈の反対側に腰を下ろした神夜は、さしてショックを受けている様子はない。

 しかし妙なもんだな。戦狂の気質からして、いくら楽な戦いだったとしても、手を抜くとは考えにくいんだけど。

 

 

「…まぁ、そうなんですけどね。これ、本人も制御できないみたいですから」

 

「私はちゃんと、真剣に戦って、本当に楽しんでいたのですけども」

 

 

 ふむ…無意識下での心の動きは、そうそう制御できるもんじゃないからなぁ…。とは言え、勝ちが続いて慢心した所に見事に逆襲喰らった訳だからな。情けないっちゃ情けない…。

 

 

「うぅ、二人が虐めます…それも無理はありませんけど…。寸止めではなく、本当の斬った張ったなら、こんな事は無かったんすけど」

 

「要するに斬り合いに緊張感が足りないって事? 確かに、鬼と戦っている時には、どれだけ倒しても慢心はしてないわね。…次の獲物、次の獲物って血に飢えてるけども」

 

「言い訳にもならないと言う事は、よーく分かっているのですが………。……? あら? あの…」

 

 

 うん?

 

 

「もうすぐ出番の筈ですけど、武器はどうなされるのですか?」

 

 

 …俺?

 武器ってそれは………………あ。

 

 手ブラで来てるよ。

 いや、持ってはいるんだ、持っては。ふくろ はいつも持ち歩いてるし、この中には3つ(+α)の世界で手に入れた色んな代物が詰め込まれている。

 今やほぼメインウェポン兼切り札となった神機は勿論、MH世界のトンデモ武器(見かけ含む)もあるし、討鬼伝世界の素材のみで作り上げた、世界観的におかしくない武器も各種ある。レベルがインフレしてる武器だけど。

 

 でも手元に出してない。

 どーすっかな…白打でもやれない事はないと思うが、相手によるし、流石に舐めていると思われる。今後の人間関係に多大な影響を与えそうなので、それは避けたい。

 今この場で取り出す……美少女二人に挟まれている事も相まって、俺にも視線が集まってる。この状況で、人目に触れずに武器を取り出すのは流石に無理。ていうか試合見ろよお前ら。

 厠で取り出す? ……長蛇の列だ。何人か股間を抑えて身悶えしてる人がいる。あまり関わりたくない。

 道場の外へ……いやダメだ、このタイミングで外に出ればやっぱり目立つ。

 

 

 

 …周囲を見回すと…お、いいもの見つけた。

 

 

「そこまで! 次の挑戦者、前へ! 次は…」

 

 

 俺の名前が呼ばれ、檀上に上がるよう声をかけられる。周囲から視線が集まった。…色んな意味で注目されてたようだな。異界浄化をやった本人と言うのは、既に広まっている。

 どれだけ戦えるのか、期待半分疑い半分って所かな。

 

 さて。

 

 

「頑張ってくだ……あれ、何処へ?」

 

 

 ん、ちょっと待って。はいはい、ちょっと通してくださいなっと。

 

 観客達の間を通り、道場の隅っこへ。そこでは、白浜君が相変わらず三角座りで落ち込んだまま、それでも試合を見続けていた。

 白浜君、ちょっとこれ貸してちょーだい。

 

 

「へ? 僕の刀…ですか? いいですけど、それって一番下級の、訓練兵用の無名の量産品ですよ…。堅いだけで、竹刀と殆ど変わりありません」

 

 

 硬さと重さで言えば、竹刀よりは木刀じゃねーの?

 ま、いいから貸してよ。得物忘れてきちゃってさ。

 

 

 …はい、お待たせしました。

 壇上に上がったが、呆れたような視線が痛い。

 

 

「…モノノフが武器を忘れるとは、いったい何をやっておるのだ」

 

 

 練武戦自体が初めてだからなぁ。どういう形式なのか、今一理解してなかったんだよ。

 別に舐めてるつもりはない。

 

 

「…舐めているなら舐めているで、鼻を明かしてやろう。負けて後悔するのは貴様だ」

 

 

 …あ、やっぱりちょっと怒ってるな。

 ま、とりあえず…。

 

 

「無駄口はそこまでだ。両者、開始線に立って……初めッ!」

 

 

 終わり。

 

 

「っ…!」

 

 

 喉元に、刀の柄頭を突き付ける。やった事は単純だ。開始の合図と同時に、距離を詰めて腕を上げただけ。

 試合は相手が構える前に終わった。

 

 舐められた怒りがどうのより、連戦で集中力が切れてるぞ。

 強い弱いも大事だが、まず自分の状態を把握できるようになるこった。

 

 

「ぐ……ぬ…侮ったのは俺の方だったか…不覚…」

 

 

 奥歯を食いしばって、礼をするモノノフに応えて頭を下げる。

 盛り上がりも何もなく、一瞬で終わってしまった試合だったが、それでも観客達が…特に有力なモノノフが俺を見る目が変わったのが分かった。

 俺が相手にしたのは、里でも有名な準エース級。それが反応する事さえ許されず、一撃で負けてしまったのだ。実際に戦っている所を見た事が無かったモノノフ達も、そりゃ見る目が変わるだろう。今まで半信半疑だった俺の力の一端(異界の浄化と戦闘力は別物だしね)を目の当たりにして、認識を改めたようだ。

 

 そのまま俺の試合は続く。

 踏み込みの速度を警戒したのか、次のモノノフ(槍使い)はバックステップで距離を取り、近寄らせまいと牽制してきた。

 槍が引き戻されるのに合わせて踏み込み、石突を使った反撃は鞘で受け流し、バランスを崩したところに足を引っかけて転ばせる。鞘を突き付けて動きを封じて終了。

 

 太刀使いは初撃で決めようとしたのか、居合を使った。タイミングを見計らう必要もなく、正面から近付く。振り抜かれた刀を回避ランサーじみたサイドステップで避け、振り抜いた刃を叩き落す。一見すると、自分から辺りに行った俺が刃を擦り抜けたように見えただろう。

 

 珍しい事に、弓使いも居た。流れ弾の危険もあるし、練武戦ではあまり使われないと聞いたんだが…。

 タマフリと連携して飛ばされてくる矢を全て叩き落し、距離を取ろうとする弓使いに鬼疾風で一気に接近。弦を斬って終了。

 

 ヌヌ剣使いは、温存を考えずに最初から鬼纏を使ってきた。怒涛の連続攻撃を回避・防御し、飛び上がってからの回天…に入ろうとしたところで、空中にある足を鷲掴みにし、片手で一本背負い。地面に叩きつけたモノノフに、また鞘を突き付けて終了。

 

 続いてもう一人太刀使い。彼は前の試合で既に鬼纏を使ってしまっている為、手数やスピードよりも正確に隙を狙う事に重点を置いてきた。

 「剣は両手で握った方が強いんだぜ」とばかりに、唐竹割りで一閃。…そういや、初めて刀を抜いたな。竹刀や木刀に近いってだけあって、打撃武器と思った方がよさそうだ。

 

 

 ふむ、そろそろエース級のがちらほら出てくるかな?

 

 

 槍使いは、俺の牽制の攻撃に合わせて鷹襲突で飛び上がって奇襲してきたので、逆にそれ以上に高く飛び上がってからの踵落とし。

 

 太刀使いは防御を度外視して猛攻を仕掛けてきた。切り裂くよりも、とにかく数を当てる事を重視していた。何かと思えば、残心を使っていたようだ。当てるだけ当てて、本命は残心解放だったか。

 スタミナが尽きる直前に反撃し、態勢を崩させてやると残心は消滅した。スタミナ切れで、ろくに回避もできない状態になってしまったので、一撃入れて終了。

 

 また槍使い。こいつの烈塵突は一味違った。相当に使い込んだんだろう。

 が、幾ら早い連続突きでも、実体は一つ。一発のタイミングと軌道を見定めて、それを受け流しながら、無駄を極限まで省いたアサシン式カウンター。喉元に柄を突き付ける。

 

 次のヌヌ刀使いは、武器よりもタマフリがメインだったようだ。範囲攻撃とばかりに、火矢のようなタマフリが降り注ぐが、ブシドージャスト回避で飛び出して奇襲。危く、勢い余って真っ二つにするところだった。

 

 泥高丸と行動をよく一緒にしていた弓使いは、タマフリによる足止めからの鬼千切を狙ってきた。鞘を使ってピッチャー返しした。

 

 

 …正面から切り結べるレベルの相手が出始めた。まぁ全力にはほど遠いけど。

 

 極限の集中の為か、能面じみた表情で戦う老モノノフは戦匠だった。あの手この手で俺の行動を誘導し、罠に嵌めようとする。俺の動きを読み違えた瞬間を見計らい、抑え込んで勝利。

 

 試合場の上での戦いを望んだ若者は、武士と言うより相撲取りのようだった。事実、腰に差した刀を抜かず、回避なんぞさせんと言わんばかりの猛突進。鬼でも大きなダメージを受けそうな突撃だったが、大型モンスターの体当たりを受けてもよろめく程度で済むハンターに通じる程ではなかった。

 

 全身黒ずくめの、モノノフっつーよりニンジャみたいな奴は一味違う。逃げに徹するつもりかと思えば築山に誘い込み、障害物だらけの場所を利用して地の利を取ろうとした。最終的には互いに木に駆け上り、枝を足場に空中戦を繰り広げる事になってしまった。

 後から知ったが、彼は偵察部隊の頭領だったらしい。成程、地形を利用しての逃げ隠れ、戦闘はお手の物と言う訳だ。暗器も使ってきたし。

 だが、こちとら藪の中でも埃一つ被らずにいられるレジェンドラスタに散々教えを請い、バースト状態であれば二段ジャンプ、三段ジャンプもなんのそのなゴッドイーターでもある身。空中戦では俺に一日の長があった。…実際、空中ステップ見せた時には目が真ん丸になってた。

 

 なんかメッチャ笑いながら斬りかかってくるオッサンも居た。ありゃ戦闘狂ってレベルじゃねぇな。もっとイカレた何かだ。まぁ正面から殴り倒したけど、上手いこと気絶させられなかったらいつまで続いたか分からない。

 

 …ここまで色々描写したけど、実際に戦ったのはもっと多い。と言うか、得点不足で脱落してないモノノフとは、ほぼ全員戦ったんじゃないだろうか?

 印象に残った奴だけしか書いてないからね。

 

 周囲の観客達も、試合場に上ってくるモノノフも、随分と態度が変わったものだ。

 モノノフは、最初は好奇心、次は反感、今は挑戦。

 観客から向けられるのは、驚き、喝采、歓喜を経て……今は、畏怖と尊敬が半々、かな…。

 

 モノノフ達が本気出して向かってくるようになったのはいいんだけどなぁ…無双しすぎたか?

 里の人達にとっては、モノノフ達は程度の差はあれ力の象徴だ。里を守ってくれる、金眼四目の護り人、鬼を狩る鬼。

 それを、外から来たモノノフがこうも蹂躙すりゃあなぁ…。

 外の世界の戦力はどうなってんだとか、今まで自分を守ってくれてた人達の力に疑問を抱いたりとか色々あるだろ。

 

 そのトドメになったのが………里のエース、泥高丸との闘いだった。

 テンション高くなった明日奈と神夜との闘いを終えて(ここらの描写は後日に回したいと思う。いつになるか分からんが)、いよいよまだ戦ってない相手が数人しかいない、って状態になった時だった。

 

 

 

「次! 千鬼長、泥高丸!」

 

 

 奴さんの名前が呼ばれて、観客もモノノフもどよめいた。

 何ぞ? と思ったが、考えてみりゃ泥高丸は里のモノノフの中でも尤も腕が立ち、鬼纏の専門家でもある最大戦力扱いだったんだよな。

 率直に言って、負ける気がしないけど………だって、比較対象がレジェンドラスタだぜ…?

 人間のまま勝とうと思ったら、某龍珠世界からでも呼んでこなけりゃ……いやアレ以上にヤバい人達ならちょくちょく居そうだけどさ。具体的には黄金の獣とかアマッカスとか一撃男とか…そういう連中にもワンチャンありそうなのがあの人達だし。…いや、流石に無いかなぁ…地力が違い過ぎるし…。

 

 ま、まぁとにかくだ!

 相変わらず片腕だけの甲冑で、槍を持った泥高丸は大した気負いもなく俺の前に立った。

 自信に満ちたその表情は、負ける事など全く考えてないように見える。…それは俺も同じか。

 

 

「やる、とは聞いていたが…正直に言おう、思った以上だ。外のモノノフも、案外侮れんな」

 

 

 俺としては全く逆の感想を答えるけどね。田舎扱いしてる訳じゃないが、僻地のモノノフがよくここまで練り上げたもんだ。

 昔の強い人が言ってたっけな、田舎の道場には怖くて行けないって。

 

 

「田舎扱いしてるじゃないか。…オオマガトキで孤立する前から、田舎だったのは確からしいが。が、快進撃もここまでだ。俺には勝てん」

 

 

 軽く槍を振って、俺に切っ先を向ける。

 

 

「お前が鬼纏を、会得してない以上はな」

 

 

 随分と鬼纏に拘ってる事。技一つ持ってるだけで勝てるなら苦労はせんよ。

 ま、いいか。俺が勝てないって言いたいなら…実証してみせな。

 

 

「応!」

 

「初め!」

 

 

 空気とタイミングを呼んで開始宣言をする審判。

 互いにまずは牽制から入る。初っ端から鬼纏を使ってくるかと思ったが、単に出し惜しんでいるのか、それとも俺の腕に興味でもあるのか。

 

 二合三合と刃を合わせ、互いの技量を確認していく。

 …成程、里一番のモノノフと呼ばれるだけの事はある。

 

 技術だけなら、途中で戦った壮年のヌヌ刀使いの方が上。

 戦巧みと言うなら、老齢のモノノフが上。

 周囲にあるモノを利用するのであれば、偵察班の頭領が上。

 

 だが、一つ一つではそれらに及ばずとも、これらを高水準で持ち、そして若さ故の体力と持久力も兼ね備えた、モノノフとして最も脂ののった時期。

 これに加えて、やはり素質も抜きんでているのだろう。かなりの動体視力と反射神経で、攻防を読み違えても咄嗟の判断でそれをカバーする。それを成し遂げるだけの地力がある。

 

 何よりも、里でエースを張って、最前線で戦い続けた実力は伊達ではないと言う事か。

 理由もなく強く、理由のある強さも持った、長ずれば非常に面倒くさい事になる奴だ。

 

 

 今こうやって刃を交えている間にも、こいつの攻撃は徐々に激しさと正確さを増している。様子見を辞めて、ギアを上げて行っている。つまりまだまだ余裕がある訳だ。

 正直、それに付き合わずに問答無用で決めてしまうという事も考えた。

 むしろ戦術的にはそうするべきだ。強い相手が全力を出すのを待つ必要はない。舐めプされているなら、そこを突いてNDKするのが当然だ。

 

 

 …それをしない辺り、俺も結構楽しんでいるらしい。

 GE世界を含めて(MH世界を含むとは言ってない)、俺を相手にここまで渡り合える人間は殆ど居なかった。リンドウさんとかソーマとかならやり合えただろうけど、人間相手に戦う人達じゃないからな、ゴッドイーターは。

 実力があって、対人間用の武術も修めている討鬼伝世界のモノノフとの闘いは、かなり楽しい。

 ゲームでPvPが人気な訳だ。同類との闘いが、結局一番白熱する。

 

 

 フェイントを織り交ぜ、誘導した先に罠を張り、直撃コースを技量で捌く。

 一見すると激しい攻防に見えるだろうが、俺と泥高丸にとっては知恵比べに近い。…苦手な分野だ。

 

 今もほら、槍を薙ぎ払った隙に接近しようとすれば、ほんの一瞬だけ泥高丸の動きが止まり、隙を見せる。

 が、この隙は罠。払った槍を逆手に持ち替え、石突を直突きで放ってくる。

 さっき一瞬だけ止まったのは、この突きを確実に命中させる為に、一歩分踏み込ませるのが目的だった。

 既に完全に間合いの中に捕らえられ、どうやったって逃げられない…普通なら。

 

 望み通りに踏み込んでやったものの、脚力を全開にしてバックステップ。力技で慣性を殺して距離を取り、突きの引きに合わせて再度踏み込む。

 舌打ちする泥高丸は、お返しとばかりに放った突きを体を逸らして避け、そこから横に振るわれる刃は引き戻した槍を盾にして防いだ。

 

 こうしている間にも、動きを幾つも想定し、静動を積み重ねている。…静がどこにあると言われれば、俺達の中にあるとしか言えない。

 まだまだ、もっと早く動く事が出来る。更に素早く思考する事ができるのだから。尤も、思考領域を無駄に空けている訳ではない。相手を観察するのに使っているだけだ。

 …例えていうなら、芝居劇の殺陣の睨み合いを、超短時間でやっているようなものかな。

 

 

 それにしても、大した動体視力と反射神経だ。ここまでやれる奴は、体を強化されているゴッドイーターでも中々居ない。

 それだけ日常的に、鬼纏を使ってその速度に慣れているのだろう。

 

 しかし。まだ甘い。

 

 

 

 止まる事のない打ち合いの中、泥高丸の右後ろ脚に強い力が込められたのを察知する。

 その動きは何度も見た。烈塵突の前兆だ。

 モーションを盗まれた事を察知したようだが、泥高丸は構わずに槍を繰り出した。繰り出される連射は、単なるラッシュではない。一撃一撃をどう避けられたか、どう受けられたか見極め、確実に次の行動に反映させている。

 尤も、それはこちらも同じ事。繰り出される連射は脅威的だが、俺を追い詰める程ではない。

 むしろ。

 

 

 最後の一突きを避けると同時に踏み込んだ。泥高丸は槍を引き戻し、十字槍の突き出た部分で俺の頭を刈ろうとした。

 

 

 が、突き終わりの動きが止まる瞬間に、槍の胴を掴んで止める。同時に刀を抜き払い、槍を掴んでいる指を狙い打った。

 

 

「ぐっ!」

 

 

 鎧の上から致命傷を与えるには、ちと弱かったか…いや殺そうとしてる訳じゃないんだが。

 

 

「くっ……驚いたよ。想像以上だ…。いや、気に入らないが認めよう。地力で言えば、俺以上かもしれん。凡人という考えは、改めなければならんな」

 

 

 恐るべき突きの速さに対し、引き戻しに一瞬の停滞がある。お前さんの癖は、大体把握したよ。

 

 

「ほざけ! 調子に乗りおって…ここからが本番だ!」

 

 

 割と本気で頭に来たらしい泥高丸。体に流れている霊力が、一気に加速する。鬼纏か…。

 確かに、本番はここからだな!

 

 真正面から振るわれた胴薙ぎを弾いて防げば、次の瞬間には喉元を狙った突きが飛ぶ。鞘で叩き落して一手反撃…しようとしたが、脳天から振り下ろされる槍を体裁きで回避。逆に振り上げようとする槍を足場に回し蹴りで反撃。

 蹴りは肩の鎧で弾かれ、逆に体当たり。受け流して着地。同時にもう一度横薙ぎが飛んでくるので、バックステップで回避。しかしこれは狙い通りだったらしく、絶好の間合いとばかりに烈塵突が超高速で飛んできた。

 ただでさえ早い烈塵突が、鬼纏で2倍になると流石にキツい。横に転がって避け、それでも追尾してきたのでブシドー回避で間合いを開ける。着地と同時に走り、反撃の鬼人斬り…は泥高丸の突きとカチあって弾かれた。

 間髪入れず、足払いが飛んでくるので小ジャンプで回避、体重を乗せた兜割りに繋いで牽制、追撃を防ぐ。

 

 

「はっ、本当に感心するぜ! ここまで喰らい付くだけでも大したもんだ!」

 

 

 まだまだ余裕よ!

 

 攻撃が更に激しさを増した。突きからの薙ぎ、薙ぎからの切り上げ、石突、突進、叩き落し、振り回し…。

 呼吸を全く考えていないかのような、猛烈な攻め。嵐のように、と言ってもいいだろう。ラッシュという意味では、桜花や紅月などと言った、エース級のモノノフ以上。

 

 だがそれは、俺から見れば焦りの結果でもあった。

 確かに、俺は守勢に回っている。回らざるを得ない。圧倒的な連続攻撃を前に、手も足も出ない。傷を覚悟で反撃するならともかく、強い傷を負った時点で負けの判定をされるこの試合では、追い詰められて反撃の糸口を掴めてないように見えるだろう。

 

 ……ふむ、もうちょっとだな。

 

 しかし、実際に追い詰められているのは泥高丸である。

 俺を嬲って楽しんでいるような表情の裏に、「何故倒せない」「何故勝てない」「何故守りを抜けない」という疑問が渦巻いている。

 

 絶対の自信を持っている奥義、鬼纏を使っておきながら。もし、俺が泥高丸同様に鬼纏を発動させていれば、こうまで動揺はしなかっただろうに。

 

 そして、鬼纏の制限時間は着実に近づいている。

 …倒せない事に焦っている…と言うより、まるで鬼纏が絶対の技じゃなくなる事に怯えているように見えるが……はて、気のせいだろうか。

 

 何にせよ、いよいよ後少しで鬼纏が切れる…と言う頃合いになって、泥高丸はこれまでと違った行動に出た。

 何度目かの刃の応酬の最中、俺の袈裟斬りに合わせて跳躍する。単なるジャンプではない、槍を使った棒高跳び…鷹襲突だ。

 

 

 が、生憎とそれはカモでしかない。

 

 

 刀を構え直し、くたばれとでも言いたげに突き下ろされた槍を受け流す。そして降りてくる泥高丸に向けて、思い切り振り抜いた。

 

 

 

 鏡花の構え、参式。

 

 

 吹き飛ばされ、地面に転がる泥高丸を見ながら、太刀を下して静かに口にした。

 

 

「ぐ、がっ…! ば、馬鹿なっ…! 俺の、俺の鬼纏が…最強の奥義が…!」

 

 

 

 馬鹿はお前だ。折角の強力な術を無駄にしやがって…研究が足りてないぞ。

 鬼纏を過信しすぎなのも問題だが、それ以前の事が山ほどあるわい。

 

 驚愕に目を見開いている泥高丸は、槍を支えにしてよろよろと立ち上がる。さっきの鏡花の構えによるカウンターで、どう見ても一本だが…周囲の声が全く無い。勝ち負け以前に、里最強のモノノフがこうまであしらわれた事が受け入れられないのか。

 

 

 分かりやすい所から言うけどな、最後の鷹襲突、あれは本当にダメダメのダメ。

 今まで使ってない技を突然繰り出して奇襲をしたつもりなんだろうが、鬼纏は体の動きを早くする技だろ。空中での落下速度が変わる訳じゃない。勢いよく飛び上がれば、その分落下までの時間は長くなる。だから、わざわざ鏡花の構えなんて取る時間ができたんだ。飛び上がりながら下に向かって突いたところで、大した威力は出ないしな。

 合わない技で奇襲を仕掛けるくらいなら、そのまま打ち合ってた方がまだよかった。

 

 

 次に、攻撃が直接攻撃ばかりだったのがいただけない。

 鬼みたいにデカい奴ばかりを相手にしているとそうなるのは理解できるが、槍には絡めとるとか引っ掛けるって使い方もあるんだぞ。対人戦で槍衾はほぼ意味ないけど…。

 人間相手は、地力と鬼纏の圧倒的な速度で叩きのめしてきたんだろうが、武の基本は相手の体勢を崩してからの攻撃だろ。それも直接攻撃の連打でやればいいと思ってたのかもしれんが、鬼纏の動きの速さが活かされるのは、むしろ相手の動きを崩した直後だ。使い手の硬直が非常に少ないから、隙だらけのところに一方的に攻撃できる。

 勿論、直接攻撃と搦め手の使い分けこそが重要な訳だが。

 

 

 でもって、自分の速度に完全について行けてない。行動自体は早いんだけど、回避した後、次の行動に移るまで若干時間が空いてるモノノフが多いな。泥高丸はそうでもなかったけど。

 もっと使って速度に慣れて、そして鬼纏が切れた瞬間の意識もしっかり切り替えないと、突然動きが失速して、いつか痛い目を見るぞ。

 

 

 最後に、俺を倒せないからって、どんどん焦り始めただろう。

 後になればなる程、攻撃の手数ばかりに気が行って、まともな打ち込みが少なくなってきていた。おかげで呼吸は読みやすいし、動きが荒くなって癖を見れば何処を狙っているのかすぐ分かった。意固地になって殴り掛かってくる子供みたいだったぞ。

 本当に鬼纏が最強の技で、自分は勝つんだと思っているなら、制限時間が迫ろうと奥義が破られようと、呼吸を乱さずかかってこんかい。

 鬼纏は確かに珍しい技だが、外の世界じゃ似たような技は幾つか伝わってる。対応策が練られてないと思うのは、世間知らずもいいところだ。

 

 里の連中を見ていてよく分かったが、あんたらにとって、鬼纏に抵抗できるのは鬼纏しかないんだろう。

 が、制限時間あり、術を自由に解く事も発動する事もできない、時間が経てば経つ程焦りが出るんじゃ、わざわざ対抗して術を使う程のもんじゃない。

 ちょっと戦い慣れた奴なら、一旦守勢に回って時間切れを待って、息切れした所にここぞとばかりに逆襲するよ。誰の言葉だったかな…「守りに徹すれば、そうそう負ける事はない」。

 自分の強さを跳ね上げる術と思っているから気付かないんだろうが、この術は良くも悪くも、彼我の戦闘力の差を広げる術だと思った方がいい。瞬間火力を跳ね上げて、勝てる相手に一瞬で勝つ。勝てない相手には補助にしかならないのが、この術の本質だ。

 泥高丸、お前が鬼纏を使って里のモノノフに負けた事が無いのは、地力が一番高いからだよ。

 

 

 大体、お前は新しい鬼纏で、制限時間を大幅に伸ばす事に成功したんだろうが。

 焦れて鷹襲突を使ったのは、今までの鬼纏と同じ制限時間だったぞ。今までの鬼纏との違いが、まだ体に染みついてないんだな。研究も練習も不足しとる。

 

 …あと、これはこの里のモノノフ、ほぼ全員に言える事だが…集中の持続時間が非常に短い。

 鬼との闘いが、湯が冷める程度の時間しか続かない為だろうが…試合が始まってから、大体同じ時間で気が抜けてくる。その分、短時間での集中力は結構なものがあるけども、連戦には向かないな。そのせいで、さっきまでの試合でも数戦戦って負け…って人が多かった。

 

 

 

 …すぐに目立つ部分と言えば、こんなもんかな。余所者が好き勝手言って悪いが、総括すると…鬼纏を妄信しすぎ。それを覚えてるだけで勝ち負けが決まるようなもんじゃない。

 

 

「ぐっ…だ、黙れ……俺は…俺は負けん…! ………親父……兄さん……」

 

 

 立ち上がった泥高丸は、最後の力を振り絞ろうとしていた。

 隙だらけのフラフラな体で、残った力を全て槍に凝縮している……鬼千切か。

 

 

 だがタマフリ・不動金縛。

 

 

 その根性は認める。…手向けに、派手にやってやる。寝てろ。

 鬼千切・極。

 

 

 立ち上った霊力の剣で吹き飛ばされ、泥高丸は今度こそ意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 …その後は、まぁ…静かな阿鼻叫喚、とでもいうのかね。要するに、俺に向けられる視線は殆どが畏怖に塗り替えられてしまった。

 里の最強のモノノフが簡単に倒され、練武戦の王者も入れ替わった。

 絶対だった筈の鬼纏という力の象徴が打ち破られ、その欠点も余所者に指摘された。

 

 どれくらいの影響があるのか今一予測できないが、里のヒエラルキーや不文律に大きな変化がある事は間違いないと思う。

 

 そんな微妙な空気の中、練武戦の優勝者って事で、雪華から今後もその力を里に役立ててください的な事を言われて解散。

 さて、明日からどうなるかねぇ。

 せめて、神夜と明日奈だけでも今まで通りでいてほしい…散々好き勝手やっといて、なんだけども。

 

 

 




討鬼伝世界登場人物表兼コメント

Q.練武戦の感想は?

討鬼伝モノノフからの登場人物
・牡丹……里長をやっているミタマの女の子。
    A…外来の人が優勝かぁ。みんなも頑張ってたけど、世界は広いね。

・寒雷…元モノノフ、現在は万事屋の店主。体格のいい、豪快なオッサン。
    A…里人の動揺を抑えないと…。

・雪華…シノノメの里に所属する神垣の巫女。
    A…猛烈な戦いでした! これなら里もきっと安泰ですね。

・練…勝気で姉御肌、褐色美女の鍛冶師。
    A…武器が無いなら貸してやるよ…。練習用の竹光で優勝されるのは複雑だった。

・風華…祭祀堂の巫女。
    A…華天をようやく見つけて確保。息も絶え絶えだった。

他作品からの登場人物
・明日奈…ソードアートオンラインより。
    A…超強い、物知り、性格も(割と)悪くない、異界の浄化…え、これって実在の人? 私の妄想じゃないわよね?

・神夜…無限のフロンティアより。
    A…また負けました…。優勝したあの方を見ていると、何だか体が熱くなります。

オリキャラ(と言うよりネタバレ防止の為、バレバレだとしても引用元を黙秘するキャラ)
・白浜屋の店主…落ちこぼれのモノノフ。
    A…強くなりたい…あの人に賭けるしかない!

・泥高丸…でいこうがん。
    A…まだ意識が戻ってない。
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