魔禍月 十律日目
ゼッコーチョーである! 約一か月半ぶりに女遊びを堪能し、色々スッキリした我が剣の冴えを見るがよい!
…と言いたいところだが、相手が雑魚ばっかなんで大して変わらないなー。むしろ、明日奈の方が絶好調だ。流石に丸一日腰が立たなかったのは言うまでもないだろーが、そこから復帰してからはもう暴れまくる暴れまくる。
男が出来て浮かれている…と言うと悪い言い方になるから、心身ともに充実している…のに加えて、オカルト版真言立川流の恩恵をしっかり受けたからな。体調は万全、霊力は全開以上に漲っている。
目に見えてレベルアップしていた。
対して、神夜はというと……一見すると異常はない。相変わらずの戦狂いだし、戦い方も気分屋ながら一級品。普段の行動も、そうおかしな所はない。
……だからと言って、油断や楽観は禁物だ。今の俺達の関係が神夜に何かしらのストレスを与えているのだとしたら、鬱屈は目に見えないところでゆっくりと溜まっていくものだ。
神夜をヤンデレに目覚めさせるような事は避けたい。いやそれはそれでアリだと思うしむしろ興奮するんだけど、やっぱり神夜はほんわか笑顔の可愛い子でいてくれた方が嬉しいもの。
…その為にも、いざというときに備えて明日奈をしっかり染め上げておかねば。
ま、それはおいといて。異界探索についてだ。
今日も異界を進み、鬼を斬り、地形を調べ…と動き回っていたのだが、またしても妙な物が見つかった。
…というか、探索すると毎回毎回何か見つけてる気がするな。実際、探しているんだから見つかってもおかしくはないんだが…順調すぎる気もする。
ともあれ、今回見つかったのは人の生活跡。本人を知らないから断言はできないが、これは恐らく前お頭の生活跡だ。
しかも、以前同様に立ち去ってからあまり時間が経っていない。
「具体的に、何日くらいでしょうか? それと根拠は…」
生活跡があった家の中に、僅かに足跡が残ってる。歩幅や体重移動の癖、武装とそれを置いていた場所…非常に特徴的だ。
…トレイサーの真似事程度しかできないが、まず間違いない。
「とれいさぁの事はよく分からないけど、ここにお頭が…。前に見つけた痕跡の時も、同じような感じ…だったかしら」
まぁ、大体はね。そして慌ててここを離れて………唐突に消える。
「あの時の事を思い返してみると、愛用の茶碗と箸を放り出して突然飛び出した…という事でしたね。そして、今回も同じように飛び出し、消えた…。何かから逃げているというよりは………うーん、なんでしょう…あのお頭の事ですからねぇ…」
「…………金目の物を追いかけていて、逃げられたと思ったら発見して飛びついた?」
「それです!」
金目のもの限定なんかい。ハクですらないとは。
「金目のものじゃなければ儲け話ですね。前お頭は、ハクを金銭として扱うのは好いていませんでしたから。モノノフではない人々とも商いをやっていたそうですよ」
モノノフにしちゃ社交的というか開放的だな。
しかしそうなると、その金目の物とやらは一体何なのか。追いかけるようにして足跡が続いていき、そして消えた…って事は、移動したって事か。
「うーん…異界の中ですし…コガネムジナ?」
「確かに、モノノフ的に金目になりそうな物って言ったら、あの鬼よね…一度も見たことないけど。でも、あの前お頭がその程度で飛びつくかしら」
「ですよねー。モノノフ内でのハクにはなりそうですけど、金銭にはなりそうにありませんし。前お頭の好みとは、少し違うように思います」
ふーむ……要するに、前お頭は所謂『お宝』が好きな訳かね。それも、わかりやすい金銀財宝、或いはもっと大きく設ける好機につながる奴が。
「ええ、大体その認識で大丈夫です」
「その前お頭が、何年も里に戻らないくらいのお宝かぁ…ちょっと想像つかないなぁ」
「何かと暴走するお方でしたが、里長としての職務は投げ出しはしない方でしたものね。脇道に逸れる事は多々ありましたが、里長という地位自体が大きな商談をするのに必要な身分証になると、最低限の事だけはこなしていました」
それが戻ってこない……戻らない……。
戻れない? 鬼に捕らえられている? それにしたって、痕跡をロクに残していかないのはおかしい。ここの生活跡だって、他所から来た形跡が全く見られない。単に形跡が消えてるからそう見えるのかもしれないが、突然現れて突然消えたようだった。
これだけ自由に動けるなら、万一に備えて手掛かりを残すくらいはできるだろうに。特に、最近は異界の浄化なんて現象が2回も続いた訳だし。
あるいは……それすら知れる立場にない?
でもそれって具体的にどんな状況よ。
暫く周囲を探索するも、新たな手掛かりは得られず。仕方ないので今日は退散。
里に戻った後、明日奈は木綿季が宿る結界石のところに出かけて行った。…ありゃ、惚気る気だな。
逃げ場のない木綿季には悪いが、付き合ってやってくれ。オメーが明日奈を嗾けたの、しっかり聞き出してるからな。自業自得じゃ。…周囲の護衛モノノフさん達には申し訳ない事をした。というか、これで俺と明日奈がひっついたって噂が駆け巡る事になるだろう。冷やかされる覚悟はしておく。
寒雷の旦那に軽い報告をあげ、これで一日は終了かと思ったら、予想外のところから情報が舞い込んできた。
飯の準備をしようか…と思っているところに明日奈がやってきた。「晩御飯、作ってあげます!」と息巻いていたが、要するに彼女っぽい事というか通い妻っぽい事したいんだろう。
明日奈の飯は結構美味いから、全く問題はない。嬉しいくらいだ。
トントントンとリズムよく包丁の音が響く中…裸割烹着は季節的に寒いので無し…、木綿季からおかしな話を聞いた、と明日奈が切り出したのだ。
何でも、結界石に閉じ込められていた間、時々外の様子も見れたのだが、何度か異界の中に塔が立っている事があった、と。
…君ね、そういう話はちゃんと向かい合って、神夜とか寒雷の旦那も一緒にしよーぜ…。まぁ、話は聞くけど。
とはいえ、明日奈も木綿季もそれ程大した情報を持っていた訳じゃない。多分、明日奈の惚気にウンザリした木綿季が、何でもいいから話を逸らす為のネタにしたかっただけだろう。
流動の激しい異界の中なら、場違いな建物がドドンと聳え立つ事も、それがいつの間にやら姿を消している事も珍しくはないが、それにしても出現・消滅が早すぎる。目を離していた一刻程度の間に、影も形も無くなってしまったのだそうな。
また、恐らくであるが、装飾や破損度合いなどから見て同じ塔である可能性が高い。
異界の中の塔、か…。しかも複数回…。苦し紛れとはいえ、木綿季が嘘を吐くとも思えないし、何があるのかな。
その後? 勿論『本題』に入りましたよ。明日奈さんのご期待通り、朝までハッスルしてました。
魔禍月 十漆日目
なぁにぃコレぇ…。こんなデカいもの、どうして見落としてたんだ…。いや、確かに高い所から、あると思ってなければまず見つけられないような痕跡だったけども。
えーとな、まず今日は木綿季に会いに行ったんだ。明日奈が聞いた、謎の塔について詳しい話を聞く為だ。詳しい話と言っても、どっちのどの辺に立っていた、くらいしか情報は無かったが。
冷やかすような木綿季の声が鬱陶しかったが、それはまぁいい。専ら明日奈をからかって、惚気られて返り討ちになっていたようだし。
話を聞いたとは言え、大きすぎる建物等は遠近感を狂わせるから、あまりアテにはできない。教えてもらった方向にあったのは確かなので、近場の小高い丘に登り、眼下を見回した。
……何というか……今更だけど、鷹の目ってどこまで出来るようになるんだろうな。遮蔽物越しに人や物を探知するのは勿論、過去視、幻視、死ぬ寸前の相手との精神世界(?)での会話、その他諸々…。
今回発動したのは、過去視に近いか? それとも幻視との合わせ技?
何と言うか………うん、一言で言えば、塔の痕跡を見つけたと思ったら、塔が見えました。雪原の中にね、明かにおかしな痕跡が幾つかあってさ…例えば積雪の不自然な偏りとか、木々が押し退けられたような跡とか。
それを全部同時に目に入れたら、こう、ぐにゃぁ~って感じで視点が歪んで…後から思うと、塔の痕跡後等の情報から、どんな塔が立っていたのか逆算し、それをイメージとして見ていたんだと思うけど…。大丈夫かなぁ、これ…。ギアスみたいに鷹の目が暴走して、見る必要の無い物や見たくない物まで全部見ちゃうようになるとか無いよね?
未来の不安は置いといて、確かにそこに塔があったのは分かる。それが唐突に現れ、唐突に消えたのも。
「…まぁ、貴方がそう言うなら信じるし、確かにちょっとおかしな跡も見えるけど…」
「まぁ、木綿季さんが嘘を吐いたとも思えませんし」
ありがとう。もっと、ここの痕跡がこうで…って説明できるといいんだけどな。
それはそれとして、俺の考えが正しければ……塔がこうあって、恐らく入り口があっちにあるから………あの辺りを調べに行くぞ。
「調べるのはいいですけど、何かお目当てでも?」
多分、焚火の跡なり何なり、人が居た形跡があると思う。つまりは……その、前お頭の痕跡が。
逆に、一つ目の異界を浄化した後に見つけた痕跡があっただろ?
「ああ、お箸とお茶碗を見つけたあの時の」
そう、それ。その近くには、塔の痕跡があると思う。
「…前お頭が、塔の中に居るって事? うーん……消えては現れる、幻の塔…。かなり大きくて立派な塔みたいだし…前お頭の好みと言えば好みかも…」
「天守閣には、さぞや立派なお宝が…と言う事ですね。仮になかったとしても、欲に目が眩んだ前お頭なら『きっと何かある!』と突撃する事極まりないです」
欲に目が眩むって、大丈夫なのか前お頭。いや行方不明になってんだから、大丈夫じゃないんだろうけど。
ともかく、これは仮定に仮定を重ねた話だが、塔はどうやら短い時間、或いは決まった時期にしか出現していないようだ。だとしたら、前お頭が塔の中に居るとして、塔が消えたらどうなると思う?
明日奈と神夜は顔を見合わせた。
「塔だけ消えて、2階から落下する…と言うのもありそうですが」
「確かにありそうだけど…もう一つの可能性は、塔と一緒にどこかに移動する…?」
俺は後者だと考えてる。そして、移動している間…つまり塔が出現していない間、中に居る前お頭は消えている事を認識できていない……。
言い方が分かりづらいか。塔が出現している間しか意識がないから、前お頭にとっては塔に入って数週間も経っていないという認識なのかもしれない。
「成程…。確かに、それなら前お頭が里に戻ってこないのも納得極まりないです。前お頭にとっては、まだ里の運営に問題が出る程の時間が経っていないのですから」
「理屈は考えても仕方ないわね。まず間違いなく鬼の仕業でしょうし、人知を超えた現象だって珍しくないわ。とりあえず、何とかして前お頭を確保………………し、したほうがいい? いいと思う?」
「わ、私に振られましても」
俺なんてもっと分からないぞ。聞いてる話だと、問題が多い人のようだが、有能ではあるようだし、見殺しにする理由もないんじゃないか。
「それはそうなんですけど、あの人が戻ってきて里がどうなるのか、一抹の不安が…。どうせ放っておいても死にそうにないし、もうちょっと事態が落ち着いてからの方がいいんじゃないかと…」
「…反論し辛いこと極まりないです。で、ですが実際のところ、塔の中に居ると言うのも憶測の域を出ませんし、当たっていたとしても肝心の塔がいつどこに出現するか分かりません。最悪、向こう十年くらい出現しないという可能性もありますし、好機があればすぐにでも助け出した方がいいのではないでしょうか」
「むぅ…。確かに…。ま、まぁ、とにもかくにも塔を見つけなくちゃ何もできないわよね」
そうだな。いつ塔が現れるのかも分からないし、入っている間に消える可能性を考えると、軽率に突入する事もできん。ちょっと入って出てきたら、外では5年くらい経っていた…って事も有り得る。
とりあえず、今まで塔が出現したと思われる場所だけ調査しておくか。
魔禍月 十溌日目
牡丹と寒雷の旦那に塔の事を相談してみたが、特に心当たりはないそうだ。うーむ、お婆ちゃんの知恵袋もとい、長く生きてる(死んでるけど)牡丹ですら心当たり無しとは…。
塔、だもんなぁ。サイズからして鬼も動き回れるくらいにデカくはあったが、好んで住み着くとも思えん。大型鬼があの塔の中に居たとして、恐らく一階につき住み付けるのは2~3体程度。その巨体が上り下りできる階段があるとするなら、もっとスペースは少なくなる。
鬼用に作られた塔でないなら、やはり人間の作だろうなぁ…。
MH世界の古塔程デカくはなかったし、渦巻いてる力も強くない…と思う。流石にそこまで強い力があるなら、モノノフ達がとっくに気付いてる。
…一番分かりやすいのは、人工の塔を利用した鬼の術、というパターンだ。結界石だって利用したのだ。塔の頂上にエサを用意して、モノノフを誘い込むくらいの事はやってのけるだろう。
とりあえず、塔については保留だ保留。実物も見つからないし、新しい情報も無い。
暫くは、異界を探索し続けるしかなさそうだ。
話は変わるが、神夜から相談を受けた。これまで、何度か里の外…異国と言う事で誤魔化して…の文化について、神夜と明日奈に何度か語っていた事がある。
その中で、特に神夜の興味を引いたものがあった。
それは…ベッドである。
戦狂いなので戦いの技術はまた別格として、神夜は里の寝具の手入れを一手に引き受けている。また、作成もしている。
床に布団を敷いて寝そべるのではなく、柔らかいクッションの上に布団を敷き、就寝専用のスペースとするという(神夜にとっては)全く新しい発想に興味が湧いたらしい。
「と言う訳で、詳しいお話をですね。特にその『くっしょん』について」
そう言われてもなぁ…。俺も詳しい訳じゃないし、多分クッション作ろうと思ったらバネっつーかスプリングが要るよな。いや、上手くやればエアクッションで行けるか?
一応金属ではあるから、練さんに頼めば…。
「うーん…やはり素材が問題ですか。鬼の素材を使うのも、流石に躊躇われますし…」
文字通り夢枕に立たれそうだな。下手すると呪いの媒介になりそう。
もっと簡略化して考えるか。
「と言うと?」
ベッドには硬いベッドもある。具体的には、金属の骨組みに、布団を乗せるような奴。
神夜が想像してるような、乗ったら跳ねられるベッドじゃないけど、とりあえずここから始めよう。
理屈は単純。とにかく頑丈な、寝そべる事ができる大きさの台を用意する。
「ふむふむ、そこが眠る為の専用の場所と言う事ですね。それでそれで?」
その上に、布団を何重にも被せる。肉厚で柔らかめの布団がいいな。スプリング程じゃないけど、重ね合わせれば柔らかさは迫れると思う。
「単純ですが盲点でした。素材の調整は、腕の見せ所ですね。聞いたお話だと、こう…べっどの上に、天蓋があるような物もあるそうですが」
そこら辺はもう趣味の領域だしなぁ。極端な話、四隅に柱を立てて、それっぽい布を被せれば天蓋と言い張れるだろうし。
「布……蚊帳の方がよさそうですね。ふむ…機能的には、無くても問題はないと?」
そうだね。元々、寝る為の空間として周囲との区切りを作るとか、隙間風や天井から落ちてくる埃、虫を避ける為の物だったらしいから。
…そう考えると、寒い里なら意味はあるかな。
「天蓋は後に回しましょう。台座も用意するのはそう難しくありませんし…。素材に余裕さえあれば、意外と簡単にできそうです!」
その素材が問題だな。余裕が出てきたとは言え、まだまだ先行き不安だから、贅沢品にしかならんだろうなぁ…。
「個人的に作るだけだから、大丈夫です。勿論、満足いく物が出来上がったら、来月の練武戦と発表会で提案してみますけども」
おう、手伝うよ。敷布団も嫌いじゃないが、久しぶりにベッドも使いたい。
「使い心地、試してみてくださいね。私も試しますけど、他の人の意見は大事です。ええ、お手伝いしてくれているのですから、いの一番に」
お、おう? 明日奈はまた後って事ね。異界探索ついでに、使えそうな物集めていくかな。
今日あったのはこれくらい…ああそうそう、白浜君が新しいステージに進みました。別にあの世行になったとかじゃなくて、修行の成果が出てきて現状の分だと充分な効果が期待できなくなったから、もうちょっと強い負荷をかける。
「やっと慣れてきたのにぃ…」ってサメザメ泣いてたが、慣れてきたからこそ次のステップに行くのだよ。
にしても、流石ハンター式訓練法。初めて2週間程度しか経っていないのに、もう白浜君の体付は変わってきた。
本来、筋トレは最低でも半年くらいはかけないと効果が出ないと言われているが、腕は太くなってきたし、あばら骨が見えていた腹は薄っすらと割れてきて、回復力も高くなってきた。
同じ修練を必死こいてこなしていた師範も、既に終わった筈の成長期がまた訪れたような心持になっているそうだ。
その師範から聞いたのだが、近い内に寒波…と言うより吹雪が訪れそう、との事。
そう言えばそんな話もあったね。異界の中が吹雪いて、外も雪が降っていた時は、後に物凄い雪に見舞われたと。
冬籠りも元はそれに備えての話だったっけ。明日奈で遊ぶのに夢中で忘れてた。
で、もうすぐその吹雪が来るって?
「多分、な。最近、里近辺の風がおかしい。貴様も兆候くらいは感じていたんじゃないか?」
「ぼ、僕は外に出る時は体温が上がり切ってるか、力を使い果たして氷よりも冷たい悪寒を感じてばかりなので、今一つ…」
まぁ、余計な事考えてる暇があったら鍛えろとばかりに、余裕を削っていったからな。覚えてなくても無理はない。
俺としては、確かに冷気が増してると思ってたが、基準を知らんからな…。
いつ頃になりそうだ?
「断言はできんが…来月の練武戦が延期か中止になるかもしれん、とは思っている」
「ええ…鍛錬の成果を試せるかと思ったのに」
「お前は鍛えるだけ鍛えて、人より先に鬼と戦えるようになれ。練武戦はそれからだ」
ふぅむ…ベッドは早めに作っておきたいな。