魔禍月伍拾参日目
とりあえず一人連れて帰って来た。霊山で人目につかずに移動するのはちと面倒だったが、やってやれない事はない。と言うか見られるとヤバかったな。婦女誘拐と思われたかもしれん。
連れて帰って来たのは、小柄な褐色ちっぱいの少女。髪はロングで、腰元まで伸びている。特に意味があった訳ではないが、強いて言うなら単純に運びやすそうだったから。
他の人達と比べて、身長もおっぱいも一回り小さかったからね。…ちなみに、ちっぱいと言うのは周囲と比較して、である。
予測される肉体年齢と体格で考えれば、そこそこある方だ。他の女性のバストサイズが、いっそ不自然な程に大きい人が多いだけである。
いやマジにデカいもん…。神夜級、GE世界のカノンやレア並のもゴロゴロ居たぞ。
幸い、容器を壊して引っ張り出した途端にドロドロになって崩れ落ちる…なんてホラーも発生せず、その場で診断した限りでは単純に眠っているだけのようだった。
適当な偽名で宿を取り、そこに連れ帰って来た人を寝かせておいた。
白浜君も含めて全員を招集する間、適当にふんだくって来た資料に目を通す。
殆どは読めないものだったが、部分的に分かる所もある。今読んでいるのは、名簿…と言うより目録、カタログか? あそこで見た人達の容姿に合致する特徴が幾つか書かれている。
幾つかパターンはあるが、画一化されてるな。こりゃーアレだわ、『私が死んでも代わりはいるもの』状態だわ。
思い出してみれば、一か所に纏められている人達は、どこか容姿が似通っていた。恐らく、予備としてストックされていた人達なんだろう。
ようやるわ、本当に…。
目録には個体名……じゃないな。恐らくコードネーム…が記載されている。
……なんか聞き覚えがあると言うか、アカンやろコレって印象を持つ名前なんだけど……どっかで聞いたような、そうでもないような…。
首を捻っている間に、白浜君達が全員集合。決して口外無用と念を押してから、異界に隠されていた施設で見た物を伝える。
反応はそれぞれだ。
霊山に人体実験の疑いがあると、シノノメの里を出る前に聞かされていた白浜君は、それでも『まさか』という意識を捨てきれなかったんだろう。モノノフの総本山で行われていた行為に、ショックを隠せていない。
牡丹は…顔を顰めているが、どうこう言うつもりはないようだ。
「…霊山の人体実験、か…。八方斎、心当たりはあるか?」
「噂程度であれば、な。正直、当時は与太話としか思っていなかった。どう考えても、それにかかる資金が調達できんからな。……資料を持ってきたのだったな。見せてみろ」
いいけど、多分読めないぞ。ほれ。
「……………筆跡からして、少なくとも5人以上。この資料は殴り書き。こっちは時間をかけて清書したようだ。これは…横にある何かを見ながら書いたな。こちらは…」
「筆跡鑑定か。相変わらず妙な特技を持っている…」
「霊山に居た頃は、これでも顔が広くてな。色々と付き合っている間に、自然と覚えてきたのだ………む?」
変なところで活躍するデカ頭は、一枚の資料を見て動きを止めた。
横から覗き込んでみる(頭が邪魔だ)と、特に変哲も見られないページ。視線を辿ってみると、その一角にある奇妙な文字に注がれていた。俺も見た事の無い文字だが…。
「………滅鬼隊…」
? 何だ? 最近、それっぽい言葉を聞いたような気が…。
「滅鬼隊? それは何かしら、八方斎」
「伝…子さん、知らんのか? 霊山で囁かれる…噂と言うよりは、昔話だ。霊山君直属の秘密部隊。一人一人が天下無双とさえ湛えられる凄腕であり、類まれなる美男美女であり、またタマフリとも違う奇妙な術を扱ったという。奴らは昔から、不心得者のモノノフを密かに誅し、世を乱す強大な鬼を人知れず屠り、しかし名も顔も知られず残す事すらなく、ただただ霊山君の意思を顕すのだと言う。…考えてみれば、確かに霊山以外で話を聞いた事は無かったな」
子供に言い聞かせる時の昔話みたいなもんか。
いい子にしてないと、鬼がやってきて食べられてしまうよ、みたいな。
「まぁそうだな。正体不明、出所不明、真偽を問われれば殆どの人間が偽と返すだろう。それでも語り続けられる最強のモノノフ集団。それが滅鬼隊。そして、その象徴と言われているのが……まぁ、これまた信憑性は下の下だが…この紋章と言う訳だ」
指さされたのは、先程からデカ頭で睨みつけていた文字…もとい紋章。
鬼を模したようにも見えるが…それはモノノフのシンボルマークも同じか。金眼四ツ目の守り人がモノノフのマークなら、この紋章は…もうちょっとおどろおどろしく見える。単なる文字にも見えるが。
つっても、そんな集団だとするなら、それこそシンボルマークなんて流出しないよなぁ。むしろ、存在を隠す為に象徴らしい象徴なんて作らないだろう。
「いや、そうでもないぞ」
土井さん?
「影に徹し、姿を隠しあう存在だからこそ、その意思を束ねる象徴は必要になる。自分達はこれの元に、一つの集団であるという認識を持たせる為にね。…もっとも、それがこの象徴とは思えないけど…」
「えぇと…? あの、牡丹様は納得されてるんですけど、僕はさっきから置いてけぼりなんですが。牡丹様が『囮』って言ってるけど、どういう事です?」
「文字通りだよ。その滅鬼隊と言うのが実在したとして、真の象徴はこれとは別のものだ。これはあくまで、耳目を集める時に使う為の囮。この陰にこそ、本当の象徴がある」
ふむ…弾圧された宗教が、あの手この手で祈りの対象を隠すようなものか。
で、その滅鬼隊の紋章が…囮のものだったとしても、ここに書かれているという事は?
「君達が見つけた施設、並びに人体実験と何らかの関わりがある、か…。霊山の人体実験に協力する為、一般人を捕縛してくる? 滅鬼隊の実力がその話の通りなら、そんな勿体ない使い方はしないだろう。なら逆に」
「人体実験の成果こそが、滅鬼隊である…と言う事ね?」
「そうなってしまうな…。人倫も慈悲も無い実験で強化されて洗脳されて変わり果て、己が身を顧みる事なく鬼の討伐、或いはそれに近い命令だけを遂行する。そして、もしも欠員が出てもすぐに予備が出る…。成程、強い訳だ。使い捨て上等、嫌でも死兵にされるんだから。予算もどれだけあるのやら…霊山も大々的にかかわっている可能性が高くなってきたな」
土井さん、そこまでそこまで。白浜君が世の中に絶望しかけとる。
まだ確証がある訳じゃないんだ。
まー確かに真っ当な目的の研究じゃないのは確かだな。あの施設にしても、見られると厄介な物を慌てて放り込んだって感じだった。
死なせないように保存するとしたら、もっと丁寧にやってるだろうさ。
差し当たり…連れ帰って来た人、どうする? 天才苦労人軍師殿。
「それ、一度だって自分で名乗った事はないんだが…。ともあれ、まずは目を覚まさなければ何もできない。それまでは、この部屋は確保して暫く交代で顔を出そう。そこら辺の偽装も上手くやるさ」
「なら、私の領分ね。変装して色々工作しておくわ。この人に変装して外出していれば、目を覚まさないのを匿っているのも分からないでしょう」
山本先生の変装術は天下一品やでぇ…。隣りの部屋に移ったと思ったら、1分もせずに褐色ちっぱいツインテール少女そっくりになって出てきた。だから、体格…いやまぁいいけどさ…。
しかし、この子が出歩いてても大丈夫かな。「あいつは異界に沈んでいる筈だ!」って事にならない?
「それならそれで、向こうからの行動を逆手に取るさ。山本先生なら、変装で大抵の人は欺けるしね」
別の姿に変わってしまえばどうとでも…か。
了解、その方針でいきますか。後は、この子が目を覚ますのを待つとしよう。
とりあえず、伝子さんを見張り番として、それぞれ自由行動の時間だ。
俺は…仮にも師匠として、白浜君のケアをしておこうと思う。霊山に関わってから、モノノフの闇って奴を急に見せ付けられたからな。精神的に揺らいでいてもおかしくない。
ちょいと本格的に訓練させて、余計な事を考える余裕をなくしてやろうと思う。…ただし悲鳴が響くけども。
俺と一緒に居られないなら、と神夜は一人で出かけて行った。竹刀を持ってたから、多分道場に腕試しに行くんだろう。…道場破りにならない事を祈る。
一方、明日奈は…と言うか、木綿季はこれまた一人で…明日奈も一緒だから二人で?飛び出していった。 こっそり霊山までついてきたけど、全然出番も無かったし、自由に動けなかったからなぁ…。ようやく遊びに行けると喜んでいた。
一人で観光して楽しいか?とも思うが、一見すると一人でも、明日奈と木綿季で二人だからな。そこそこ楽しめるんだろう。
「…師匠」
喋る暇があるとは余裕だな。
「ちょっせめて聞いてへっぶ!?」
話を聞くくらいは構わんけど、それでも最低限の集中くらいは維持しとけ。で、何ぞ? あまり集中が切れるようなら、今度は爆弾が飛ぶけど。
「殺す気……いやその程度じゃ死なない気がしてきた自分が憎い…」
準ハンターだからね。仕方ないね。
「いやそれはともかく…霊山は何を考えているんでしょうか。人体実験、鬼の力を取り込もうとする悍ましい行為…。万一露呈したら、霊山の権威だって失墜するし、モノノフ全体がひどい事に…」
さぁな。が、何か重要な考えがあったとして…例えば病気の一人娘の命を長らえさせる為、或いはそうしないと人全体が滅ぶような裏事情があったとして、お前はそれで納得できるのか?
「……………それは」
事情なんざ関係ないんだよ、誰にとっても。
必要であると思ったから、可能であると思ったから、それに見合う結果を得られると思ったから、自分ならそれが許されると思ったから、やる。実際にどうなのか、なんてどうでもいい。そいつがそう思い込んだ時点でそうなるんだ。そいつの中ではな。
…いや、もっと単純な話か。
人体実験をやらかした奴らに限らず、人間の考え方なんざ単純なもんだ。
『罰される事ではない』と思うからやった。それだけさ。
それが見つからないという意味なのか、必要で間違ってない事だと思ってやったのか、その辺は本人次第だろうけども。
「それに類するだけの…嫌な意味での価値が、あの子に隠されていると?」
そうだろうな。本当にあの子が滅鬼隊の一員で、推測通りの存在であれば、人によっちゃ何が何でも手に入れようとするだろう。
何だ、随分とあの子を気に掛けるな。惚れたか?
「いえ別に。ちっぱ……ゲフンゲフン、まだ起きて言葉を交わす事すらしてないんです。外見だけ見て好きとか嫌いとか言っても、失礼じゃないですか」
お前も大概、色恋沙汰に夢見てるなぁ。それが悪いとは思わないけど、もーちょっと突っ込んだ男女のあれこれを吹き込んでおくべきか…。
まぁいいさ。大変なのはこれからだ。お前は牡丹のついでみたいな形で使者として遣わされた。
だがそれだけに、見たくもない聞きたくも無い人の本音や打算に触れる事だろう。
もう嫌だ、こんな事ならシノノメの里で落ちこぼれとして過ごしていたかった…と思う事もあるかもしれない。
そんな時の為の心得を、一つ教えておこう。
「…どうぞ」
全力で警戒しながら、耳を傾ける白浜君。うむ、学習していて何よりだ。それっぽい雰囲気を出して注意を惹きながら殴り飛ばすの、4回目だからな。
あまり警戒されてもつまらないので、簡潔に。
これは我が人生の象徴とも言える、実体験の結晶である。
すなわち。
悲嘆に溺れるくらいなら、色に溺れろ!
なんだよその目は。マジな話だぞ。
まぁ、お相手どころか気になる相手も居ない、下手すると初恋すらまだの童て…お子様にこんな事言っても理解できるとは思わんが。
「あなたいつか殺します。と言うか、真面目に話してるんですけど!?」
だから真面目な話だっつーの。
極端な対応である事は確かだが、確かな真理でもあるぞ。
色欲と同じように、人間にそういうドス黒い部分があるのはどうやったって否定できん。自分にもそういう部分があるのを自覚して、どうしようもなく自己嫌悪に陥る事もあるし、人間に絶望する奴だっている。
人間を醜悪だと思う時は必ず来る。
成程、その時は確かに、人の醜さをよく思い知っているんだろうさ。
ならば、同じだけ人の素晴らしい点を挙げてみろ。
思いつかなかったら、その時こそ色に溺れてしまえ。異性の体は、間違いなく人にとって素晴らしいものだ。使い方を間違えなければ、だけどな。
商売だろうと打算によるものだろうと、間違いなく心を癒してくれるよ。
否定しようのない醜さや辛さを躍起になって蓋をしようとするくらいなら、いっそ飲み干し呑まれて同化してしまえばいい。
一時だろうと慰めは得られるし、まぁ人間の数を増やすのは大事だろ。こんだけ追い詰められてれば猶更。
「……受け入れがたいお話ですけど……体験談、ですか」
…ああ、そうだな。何だかんだで俺が最初に色に溺れたのも、死の恐怖で使い物にならなくなってた俺を、先輩が娼館に連れて行ってくれたからだっけ…。
あの時は随分お世話になったもんだなぁ…。
それからも、何だかんだで(デスワープする度に)女に手を出して…。
もうここまで来たら言い訳にも建前にもなっとらんけど、何だかんだで『そうでもしなけりゃやってられん』ってのも確かにあったと思うよ。
色々と、箍とか螺子とか外れたまま暴走してきた自覚はあるし。
それでも無駄じゃなかった。むしろ個人的には超幸せだ。
可愛い子とお付き合いしてるし、強くなって強い鬼を狩れるし、色々と気持ちいいし。
何かと応用の効く技術だから、これでお悩み解決にも役立ってるんだぞ。あんまり感心できない行為からでも、芽吹くものはあるんだよ。
…あの子だって、その一人かもしれないしね。
「…………やっぱり、納得できません。あの子に何か思う所があるんじゃなくて、そういう堕落した道を選んで、それを正当化するような事が。結果的に芽吹いた命や技術を否定する必要はないと思いますけど、それに自分から進んで身を浸すような事はできません」
そらそうだろうよ、普段通りなら。
…心が折れてりゃ、誰だって普段やらないような事でもやっちまうんだ。自分は絶対やらないって決意するのも抗うのも好きにしろ。ただ、もし本当にそうなっちまっても、あんまり思い詰める必要はねぇよってだけの話さね。
…ま、後になって報いは返ってくるんだけどな。
「具体的にはどのように?」
大型の鬼とやりあってる最中、浮気してた事を漏らして矢で射抜かれた。
別にどうこうしてるつもりはなかったけど、付き合ってる相手が居たのに懸想されてた相手に押し倒された。…まぁ、こっちは丸く収まったけど。
他にもまぁ、色々。頬を張られるなんざ軽いもんだ。泣かれるのが一番堪える。
「そう思うんなら、複数の人を相手にするのやめましょうよ…。モノノフだって妾とかは居ますけど、婚姻も結んでない内から複数の人と付き合うってありえません」
そんな正論が通じる時期は当の昔に逸したわ。
ほれ、今日の訓練はここまでだ。ちったぁ頭の中も晴れただろ。
元々、大して利口な頭してないんだ。休むに似た考えを堂々巡りするくらいなら、徹底的に体を動かせ。
馬鹿には馬鹿の、色狂いには色狂いの悟り方がある。
悩むのはいい事だが、適当なところにしておくように。
つか、まずは牡丹に相談しろよ。立場で言えば牡丹が上だけど、モノノフで言えばお前の相方なんだから。
「はい! ……ふぅ…とりあえず、ご飯食べてから相談します」
それがいい。腹が減ってると、まともな考え何て思い浮かばない。
…さて、久しぶりに師匠らしい事できたかな。いい事についてか、悪い事についてかは別として。
これからどうするか……明日奈…と木綿季はまだフラフラしてそうだし、神夜が居る道場に行ってみるか。
グウェンと会えるかもしれないし、それ以上に神夜が何かやらかしてないか心配だ。
ああ、この前会ったコスプレ趣味の直葉ちゃんというパターンもあるな。
もうそろそろ、道場も閉館の時間だが…。
「…あれ? 確か、あんたは…明日奈の恋人の」
そういう君はジョナサン・ジョースター。
「いや桐人だよ。誰だよそれ」
そっかー、こっちのパターンで来たか。いや別にいいんだけどさ。
……こいつ、妹さんのコスプレ趣味は知ってるんだろうか? 流石に勝手に教えるのは気が引ける。
任務帰りに、妹さんを迎えに来たのか?
「いや、今日は休暇だったんで、ちょっと体を動かしに来てただけなんだ。そっちこそ、今日は一人なのか?」
まぁね。神夜が道場巡りするって言ってたから、ここに来てるんじゃないかと思ったんだけど…見なかった?
「いや、見かけてないな。道場って言っても、霊山には幾つかあるし、そっちに行ったんじゃないか? ここは本格的な鍛錬をする道場じゃなくて、どっちかと言うと公開された広場みたいなものだから」
そう言えば、女子供向けの体験修行なんて銘打ってたな。対人戦を希望している神夜には向かないか。
「あぁ…………その…明日奈は、今日は居ないのか?」
明日奈だったら、別用であちこち歩き回ってると思うけど。
…何だ、元カノ(にまで行きつかなかったらしいが)に未練でもあるのか? と思ったが、周囲を見回す様は警戒する小動物のようだ。
明らかに怯えている。
「………なぁ、ほぼ初対面の相手に、こんな事を聞くのは何だし、明日奈にも失礼だと思うけど」
うん?
「大丈夫なのか?」
…すまん、何の事を言いたいのか、イマイチ理解できん。
「あー………諸々について、としか言いようが…。付き合ってるのは、明日奈だけじゃないんだろ? 刺される、とまでは言わないにしても、問題山積みじゃないのか。俺は……そのおかげで、実を言うと今でも女性が苦手で」
確かに、初対面の相手にぶちまける悩みじゃないな。
とは言え、何を心配してるのかは把握できたが。
明日奈に猛烈な勢いで迫られた事があったんだっけ。壁際に追い詰められて、肉食獣どころか獲物を追い詰めたゴウエンマみたいな笑顔を向けられて。
ビクリと肩を震わせる桐人君。
実際にはそこまでの勢いじゃなかったんだろうが、いい雰囲気になっていた相手が突然凶悪になった上に、幼いころのトラウマとして刻み込まれた結果、それくらい恐ろしい思い出として認識してしまったんだろう。
「ああ……全部が全部明日奈のせいとは考えてないけど、あの時の事を思い出そうとしたり、連想したりすると体が震えて、力が抜ける…。おかげで正規モノノフに昇格するまで時間がかかっちまった」
ひょっとして、女モノノフに一緒に居ると…。
「…妹の直葉が相手でさえ、動けなくなる事があるんだ…」
おおぅ…。よくまともな生活送ってこれたな…。明日奈の罪は割と重い。
本当によく生きてたもんだ。ミズチメとか相手に出来るか?
「いや、流石にあそこまで行くと全く別物と言うか……思い出の中の明日奈の方が怖いし」
それ程か。蝉ドン、喰らった?
「せみどん………あー、うん、何を言ってるのか大体わかった。確かに蝉だ。そんな可愛らしいもんじゃなかったけど…喰らった……食われると本気で思った…」
…同情するよ。
とは言え、なぁ…。同情はする。同情はするが、俺の価値観や立場から行くと……言っちゃ悪いが、情けないと言わざるを得ないんだよ…。
「あん?」
怒るな…とは言えないけど、まぁ聞けよ。これはあくまで俺の価値観だが。
あのな、確かに明日奈にはそういう所がある。飢えているというか、肉食獣と言うか、貪り尽くそうとすると言うか…。
とにかく、これでもかと言う程迫ってくる。
俺とそういう関係になった時も、蝉ドンされたしなぁ。
「…だったら分かるだろ、あの恐ろしさが! そりゃ、子供の頃の事だし、多少は誇張入ってるかもしれないけどな! おまけに、相手は明日奈一人じゃないんだろ!? 嫉妬がどうの、一時近い感じになってた相手がどうの、そんな事よりも不安が募って仕方ないんだけど!?」
ああうん、言いたい事は分かる。あと、多分誇張は入ってない。あの子は生来の猟犬だから。
分かるけどな…。
なぁ桐人君よ。こんな言葉知ってるかい?
『人生における無上の幸福は、われわれが愛されているという確信である』。
「いや、聞いた事ないな。いい言葉だとは思うけど」
どっかのお偉いさん…作家の言葉だったかな。
これが全人類に当てはまるのかはともかくとして…明日奈には間違いなくこれが当てはまる。
明日奈は飢えて、惚れた相手を求める衝動が強い。何でかってーと、単純だ。飢えているのは、満たされてないからなんだよ。
愛されているのか不安なんだ。多少は…まぁ、なんだ、性欲過剰と言うか、男に対して求めるものが多いのは生来の気質だと思うけど……あの子は実感したいんだよ。
愛されている。求められている。心まで一つに繋がれる。そういう実感が欲しいから、傍へ傍へと寄ろうとする。
加減を見失って、欲求ばかりになっちまうのはいただけないが……不安を解消してやるのが、男の甲斐性ってもんだろ。
「………げ、限度ってものが」
そこは否定せんが、単純に経験値の差だろうなぁ…。激しく求められるって言っても、俺基準で言えばまだ余裕はあるぞ。
だからな、お前が怯えてるのも、恐怖症になっちまったのも分かるし、同情する。明日奈は明らかに性急すぎたんだろう。
でも、明日奈の彼氏な俺としては……受け止めきれなかったのが…自分が好かれていると、信じさせて安心させてやれなかったのが、情けない。
満たしてやれば可愛いもんさ。下卑た感情もあるけど、撫でてほしいと擦り寄ってくる大型犬みたいにね。
愛されているという実感があるから、多少の不満は我慢できる。引っ掛かる事があっても…具体的には、他の女が居ても自分は充分に愛されているから、気にする必要も無い。
それだけ貪ってるからなぁ。色々と。
怯えて逃げようとすれば、逆にあの子はもっと不安になって、相手を気遣う余裕がなくなる。そしたら、相手はもっと怯えて逃げてしまい、愛されてないと思って更に求めての悪循環だ。…そこで受け止められなかったのが、明日奈と桐人君の亀裂になったんだな。
逆に喰らって、貪ってしまえばいいんだよ。貪られるのも悪くはないし。
愛してるんだ。愛されているという実感を伝えるだけの、ただそれだけの話さね。難しいけど、何よりも伝えたい事なんだ。苦にもならない。
そうすれば、飢えた獅子は懐で微睡む猫に変わる。
俺で満たされてくれるんだ。男名利に尽きるってもんよ。男の本懐ってもんだ。
ちょっとどころではなく一方的な理屈を語ってしまったが、桐人君は何やら凄まじい衝撃を受けたようだった。
やだ…本気でダメージ受けてるっぽい………? にしては、なんか反応がおかしいような? あっ、崩れ落ちて四つん這いになった。orz状態だ。誰も見てないからいいものの…。
「……しゃ…」
しゃ?
「舎弟に……してやってください…」
舎弟て。
ここからあんまり真に受けるな、と言うのも何だしな…。
桐人君が情けないと感じたのも事実だが、やっぱり酌量の余地はありすぎるくらいだし。それでも舎弟扱いはちょっと。
さてどうしたもんかと頭を悩ませていると、背後からドンとぶつかってくる何か。
覚えのある感触……だが、いつもと何かちょっと違うな?
「はーい、そこまで。何だか面白い事を話してるみたいだけど、明日奈がそろそろ限界っぽいから、また今度にしてね!」
「あ、明日奈!? 聞いてたのか………って、ん? 明日奈がって…え?」
うん? と首を傾げる桐人君。無理もない。飛びついてきたのは、今正に話題にしていた明日奈本人だったのだから。
…でもちょっと違うな。木綿季か。
「そういう事。あ、今は明日奈じゃなくて木綿季って事だから。久しぶりだね、桐人。シノノメの里を出て以来だっけ?」
「え? 木綿季? って、あの木綿季? 刀と言うか刃物の扱いが異様に上手くて、下手な大人よりも強かったあの木綿季? 明日奈の親友だった……でも、病で死んだんじゃ…そもそも明日奈なのに木綿季って」
木綿季、その説明じゃ意味分からんだろ…。
理解しがたいだろうけど、文字通りだよ。色々あって、木綿季は死んだけど成仏してなくて、今はミタマとして一緒に居る。明日奈が許せば体を自由に動かす事も出来るから、今日は霊山観光に行ってた筈だ。
「ますます意味がわからない」
「あははは、文字通りなんだから、そういうものだと受け止めるしかないよ? 深く考えても、頭が痛くなるだけだろうしね。ま、それはともかく、悪いけどこの人連れて行くよ。僕はこのままもうちょっと聞いててもよかったんだけど、これ以上聞かせると明日奈の頭がどうにかなっちゃいそうだからさ。舎弟云々はまた今度にしてよ。じゃあね、桐人」
そう言うと、木綿季は俺の腕を取って引っ張り始めた。体格差もあって、俺の腕に明日奈が抱き着いて歩いているようにしか見えない。
明日奈じゃなくて木綿季なんだけど…理解してない桐人君には同じ事だろう。
あー、悪いな、なんか今一俺にもよく分からんが、そういう事で。あんまり深く考えない方がいいぞ。
無理に恐怖症を治そうとして、心に負担がかかるのはよくある事だ。
引っ張られて素直に歩き出すと、腕を開放して並んで歩き始める。…密着しそうなくらいの近距離だけど。
何となく、望まれているような気がしたので腕を腰に回す。木綿季は嬉しそうに笑顔を見せて、体を預けてきた。…人肌とか愛情とか、スキンシップに飢えてるのは、この子も同じなんだよなぁ。数年間、鬼に閉じ込められて人と接する事が全く無かったんだから。よく発狂しなかったもんだ。
そう考えていると、ついつい丁度いい位置にあった木綿季の尻を鷲掴みにしてしまう。ビクリと体を震わせるが、抵抗はしない。それどころか、もっとしてほしいと言わんばかりに、雌の匂いを立ち上らせながら俺を見上げてくる。
明日奈もとい木綿季は桐人の事を振り返りもしない、気にする様子もない。
…ついついやっちゃったけど、これってアレか? 桐人君から見ると、子供の頃から気になっていた(好きだったとは言わない)女の子が、目の前で他の男のモノになったって言うのを見せ付けられてる事にならないだろうか?
そういや、桐人君と初めて会った時にも、似たような感想を持ったな。
桐人君を一顧だにせず、木綿季は俺に抱き寄せられながら、ずんずん進んでいく。なんか変な態勢だ。普通、こうやって抱き寄せてる側が連れ歩くもんじゃね?
尻を触られ揉まれてピクピク反応しながらも、木綿季は俺を引っ張って角を曲がった。
「どうも~、お疲れ様な事極まりないです」
角を曲がると、上機嫌な神夜が出迎えた。何だかいつにもましてニコニコしている。
強敵と楽しんできた…訳じゃなさそうだな。剣気の残滓もない。と言う事は…。
ひょっとして、桐人君との話、聞いてた?
「ええ。私だけでなく、明日奈さんもです。私はもう少し聞いていたかったんですけどね」
「僕達はともかく、明日奈が限界でさぁ。いいもの見たよ」
そりゃ、木綿季がここに居るんだから、聞いてただろうけど……。
途端に、木綿季にギュッと抱き着かれる。
…違う、これは木綿季じゃなくて明日奈だ。
明日奈は何も言わず、俺の胸元に頭を押し付けてグリグリしてくる。…頬が見えた。何かの病気かと思うくらい真っ赤だ。
呼びかけてみても、何も答えない。ただ、絶対離れないという強い意志…乙女心?が感じられる。
「木綿季さん、今日はこっちに来てください。二人きりにさせてあげましょう」
『いいけど、僕だって楽しみにしてたんだよ。…まぁいっか。神夜も体を貸してくれる? 前から斬冠刀をどうやって降ってるのか、興味あったんだ。褥でも、そのでっかいのを触られてどう感じるかとか」
「仕方ないですねぇ…。でしたら、私のも明日奈さんに教えた奥義、まざーずろざりおを教えてください」
『一生をかけた技なんだけど…ま、基本の基本くらいならいいよ。じゃ、明日奈。邪魔者は今は消えるから、存分に甘えてきなよ。その甘えんぼ、お願いね」
アッハイ。
…? ? ? 若干置いてけぼりである。だからと言って、明日奈を拒む理由もないんだが、こんなリアクションを取られても、状況と心境が分からんから反応に困る。
神夜と木綿季はさっさと行ってしまったので、無言で抱き着かれたままの俺と明日奈だけが残された。
どうしたもんかと、とりあえず明日奈を抱き返して頭を撫でてみる。…掴まる力が強くなった。
あくまで顔は見せずに俯いたまま、明日奈は俺を引っ張って歩き出す。抵抗せずに、行きたい方向に行かせてみる。
この方向は…。
この前行った連れ込み宿だな。
…そっか、さっきの桐人君との話を聞いてたんだ。桐人君を貶すような事を言ってしまったが、裏を返せば明日奈の行動を肯定したとも言える。
かつての行動で傷ついたのは、桐人君だけではなかった。加害者被害者で言えば間違いなく加害者であろう明日奈も、傷つき恐怖を持ったのだ。
自分は重荷となっているのではないか。近付けば怯えて離れてしまうのではないか。これまでの関係が、壊れてしまうのではないか。
…それがあるのに、俺に迫った時の方法が蝉ドンってのはどうかと思うが……過去の恐れを乗り切るために勇気を振り絞り過ぎたと思っておこう。
ともかく、明日奈は密かに抱えていた恐怖や迷いを否定され、むしろそれを受け止める事が本望だと宣言された訳だ。
『人生における無上の幸福は、われわれが愛されているという確信である』。
これを本当に実感したんだろう。感極まって、言葉が出てこず、一つになりたくて仕方がないんだ。
オーケーオーケー、桐人君のフォローとか色々考える必要はあったけど、今この時からは明日奈の事だけ考えよう。
あれだけ大口叩いておいて、受け止めきれませんでしたじゃ恰好がつかない。
明日奈の猛る感情を、マルッと受け止めようじゃないか。
その日の明日奈は凄かった。各種パラメータ(体力・性欲・感度・淫乱さ・勢い・テクニック・変態性・その他諸々)に1.5倍くらいのブーストがかかった感じだ。
普段であれば躊躇いが残るような事も積極的にやったし、それでいて恥じらいは残っている。
言われれば何でもするし、言われる前からあの手この手で俺を悦ばせようとする。
何より、少しでも深く繋がろうとする執念のようなものが感じられた。
体力が付きかけても、意識が続く限りもっともっとと求めてくる。ある意味ではゾンビのようにすら思えたものだ。HPその他は0なのに、ただ只管迫ってくるんだもの。或いはククルを守ろうとするガラフ。
尤も、ガラフと違いエクスデス(俺)を倒す事はできなかった訳ですが。
ブースト1.5倍くらいじゃ、まだまだ俺には勝てませんのぅw
連れ込み宿の部屋に着くなり、服を脱ぐ暇も惜しいとばかりに抱き合って、呼吸も忘れるようなディープキス。
前戯も必要ない程濡れていたので、明日奈の希望に答えてそのまま着衣プレイで一発…いや、抜かずの3発か。この時点で、明日奈の絶頂回数は深いものだけで6回以上。
普段ならこの辺でグロッキーかそれに近い状態になり、一緒に楽しんでいる神夜や木綿季に交代するんだが、今日は違った。
交わりながらも服を剥ぎ取り、素肌と素肌を擦り合わせる。
霊力を循環させて互いの体力を回復させ、快感を増幅する事で気力を充実させる。
感情を読み取り、伝えているという実感が、愛し愛されているという感覚を与えてくれる。
体感時間操作も使っているので、夜明けまでの時間を気にする必要も無い。
制限時間無し、残弾無限、体力無限のエンドレスコース。
結果、明日奈の腹が妊婦みたいになるまで延々と注ぎ込み続けた。勿論、注いだのは赤ちゃんの為の部屋だけではない。
呼気に精液の匂いが混じっているのが明らかに分かるくらいには飲ませたし、尻からはブローバックが止まらず、後始末が大変だった。
穴だけじゃなく、肌は滑りがついてない場所はないくらいにぶっかけて汚しつくしたし、栗色の髪の毛も斑模様に見える程。
明日奈の体で、指と唇と性器が触れてない場所は一つだって残ってない。
尽きた体力を回復させ、精神力をジリジリと削り取る…いや、熱く甘く蕩けさせるような時間を過ごし、回数で言えば一般人の1年分以上の交わりを経て。とうとう明日奈は力尽きた。
実に幸せそうな顔で朽ち果てている…いや死んでないけど。
いつもだったら、微妙に不完全燃焼と言うか、申し訳なさそうな感情が僅かに漂ってたんだが…。
多分あれだな、俺はまだまだ余裕があって、自分にも余力が残っているのに、先に終わってしまって俺を受け止めきれないのが後ろめたかったんだろう。
今も、俺の全力を受けきったとは言えないが、それでも自分の全てを注ぎ込んで、指一本動けないくらいに完全燃焼した。何より、全力でぶつかっても壊れたり怯えられたしないという確信が得られた。
愛されているという実感、愛しても大丈夫なのだと実感できたのは何より大きい。
うーん、破れ鍋に綴蓋って言うのかねぇ。色情狂と肉食系。幸か不幸か、ガッチリ組み合ってしまったようだ。
まぁ、別にいいよね!
うん、色々カタが付いたら孕ませるの決定。今度こそ、クサレイヅチに手を出させない。