※この作品はR-18です。

狩りゲー世界転生輪   作:時守 暦

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そういえば最近、人物紹介やってないなぁ。
また登場人物がワチャワチャ沸いてきた事だし、そろそろ再会しないと。
…その内ね。


第444話

堕陽月弐日目

 

 

 さて、そういう訳で『浅黄』を確保して、宿に戻って来た訳ですが………雪風が興味津々です。

 眠ったまま目を覚まさない『浅黄』を、食い入るように見つめている。…時々自分の体を触って落ち込むような仕草もしてるけど、君は充分エロいから負けてはいないのよ?

 

 

「ふむ、彼女が滅鬼隊の頭領…と思われる人物か。それで、目を覚まさせる合言葉は?」

 

 

 そーれが皆目見当もつかないんだよ、土居さん。施設に残ってた資料を幾つか見繕ってきたけど、どれも外れ。どれもこれも、他の滅鬼隊の性能表ばっかりさ。

 全く、どれだけ居るのやら。

 

 

「…一応聞いておくけど、彼女を抱きたいから知らないふりをしているとか」

 

 

 疑われる心当たりは山ほどあるけど、流石に無いわ。最後の手段としてヤるつもりではあるし、時間に余裕はないけどな。

 …ただ、言っちゃなんだが、そうなってくれた方が後々やりやすくはなるな。

 大なり小なり好意的になってくれれば、他の滅鬼隊の統率もとりやすくなりそうだし。

 

 

「交わるやり方で一度起こしてしまえば、他の人達にも同じ方法をとれる…踏ん切りがつく、か。しかし私はやはり勧めないな。人の感情は、素手で触れるには複雑で繊細過ぎる。好意的になる程度ならいいが、嫉妬で刺されでもしたら…」

 

 

 射られた事ならあるし、今更その程度じゃ死なないから大丈夫。中に誰も居ませんよ、されても平然と復活できるからな! …男の体で、誰か居たらえらい話だけど。

 

 

「言ってる事がよく分からないが、まぁ君がそれでいいと言うなら止めないよ。…ところで、気付いているかい? 最近、何者かが我々の事を嗅ぎまわっているようだ」

 

 

 …ほう? 霊山の外じゃ何も感じなかった。追跡されているような気配もないが…。

 

 

「直接我々を尾けているのではなく、噂や目撃情報等を集めているようだ。それでは気配など感じる事もできないさ。元は、八方斎が持ってきた話なんだが…霊山に来てからあっという間に人脈を築き上げたな…」

 

 

 味方が優秀なのはいい事ですな。

 ふむ、しかし一体誰が…。単純に考えるなら、俺達の動向に気付いた、滅鬼隊人体実験の関係者だろうか。

 それにしては、人伝にとは言えあっさり気付かれてる。もうちょっと慎重にやりそう………いや訂正、あんだけ頭の悪いシステム作った連中だ。間抜けか阿呆か下種かに決まってら。

 

 

 

 

 

 『浅黄』の寝顔を見るのに飽きた雪風が、暇だから遊びに行きたいと騒ぐ。一応、君にとっても重要な事だと分かってる筈なんだけどね。

 まー実際、ここでああだこうだと議論していても仕方ない。雪風を連れて、いつもの道場に向かう。あそこには雪風の(精神年齢が同程度の)友達が居る。放っておいても遊んでくれるので、こっちは楽だ。

 一方、明日奈と神夜は別の用事が出来たと出掛けて行った。何でも、昔世話になった人が霊山に帰ってきているという噂を聞きつけたらしい。心配しているだろうし、ひょっとしたら浅黄達に関して力になってくれるかもしれないと言っていた。

 ナンパされるなよー、と言っておいたが…。

 

 

 …真面目な話、あの二人ならいくらでも声かけられると思ってたんだけどなぁ…。特に神夜が。逆に、声をかけられる事は殆ど無いらしい。

 どうして、と首を傾げていると、伝子さんから「冷静にあの子の恰好を思い浮かべてみなさい。私だって声をかけるのを躊躇うわ」と至極尤もな一言をいただいた。

 そうね、どう見積もってもヤバいもんね、露出度が。アカン趣味持ってるようにしか見られない。

 …つまり、痴女と見なされて、誰も関わり合いになろうとしなかった訳か…。

 ………本人には黙っておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 道場に向かう途中、白浜君と桐人君が蕎麦食ってる所に遭遇した。

 

 

「あ、師匠。雪風さんと遊びに行くんですか?」

 

「お疲れ様です兄貴!」

 

 

 …桐人君てば、本気で舎弟状態になってる…。

 遊びにと言うか、いつもの道場にな。…そう言えば、今日は直葉ちゃんも居るのかね。

 

 

「日中だと、基本的にあいつは道場に居ますよ。今日は後で待ち合わせもしてますし」

 

「待ち合わせ? 買い物にでも行くの?」

 

「いや、親戚のおじさんが霊山に帰ってくるからさ。顔を見せに行くんだ。何か土産とかもらえるかもしれないしな」

 

 

 明日奈も似たような事言ってたな。ひょっとして同じ人が目当てだろうか。

 ところで、君達は遊びに行ってたのか?

 

 

「霊山案内なら、この前してもらいました。今日は稽古ですよ。負け越してるけど…」

 

「手甲があるとはいえ、武器の有無は大きいよな。俺としては、それでも勝ちを取られる事があるし、意外な戦い方を見せてくれるから、ついつい力が入っちまう」

 

 

 意外か…? 基礎とちょっとした応用しか教えてないんだけどな。単純に、手甲での戦いを見慣れてないだけじゃないの。

 ま、実力が伯仲している友人が居るのはいい事だ。切磋琢磨にも身が入る。

 

 

「あ…ところで兄貴。ちょっと伝えておきたい事があるんですけど」

 

 

 ん?

 

 

「兄貴の事を調べ回ってる人が居るみたいなんですよ。昨日の事なんですが、何処で知ったのか俺の所にやってきて、何処に行けば会えるのかって聞いてきたんです」

 

「…それ、素直に答えたの?」

 

「いや……相手が女で、つい頭がこんがらがって…。ただ、こっそり調べないといけない、みたいな事言ってて、名前も名乗れないと言ってました。流石にそれじゃ何も話せない、って言ったんだけど……考えてみれば、これって兄貴の事を知ってるって言ったようなものだな」

 

 

 向こうから接触してきたって事は、俺と桐人君が知人である事までは最初から知ってるんだろ。問題ない問題ない。

 

 …そいつは、俺に会いたいと言ってたんだな? 俺の事を聞きたい、ではなく。

 これ、大事な部分。正確に答えてくれ。

 

 

「あ、はい。見た所モノノフでもありませんし、荒事の心得も無い、普通の女の子でした」

 

 

 正面から会いに来ようとしてるのか…。密偵じゃなさそうだな。土井さんが言ってた、俺達の事を調べている奴か? と言うか、幾ら何でも手際がお粗末すぎるなぁ…。

 そいつら、これからどこに行くとか言ってた?

 

 

「いえ、何も……言ってたかもしれないけど、頭がこんがらがっちゃって」

 

「…女性恐怖症、思っていた以上に厄介だね」

 

「すまん…」

 

 

 別に責めてないよ。こればかりは仕方ない。

 ふむ……よし、道場に行ってみるか。と言うか最初からそのつもりだが。

 

 

「あ、ようやく行くの? ズルズル」

 

 

 雪風、蕎麦代はお前のお小遣いで払うように。

 

 桐人君が俺との関係者だと知ってるなら、今度はその家内に目をつけてもおかしくない。

 そして、直葉ちゃんは道場の管理者だ。

 

 

「直葉に? …危険はない…と思うけど、ちょっと強引じゃないですか?」

 

 

 うん、かなり無理矢理な理論だね。でも瓦版屋の類はとんでもない事しでかしたり、どんな細い伝手でも辿ってくる事はある。

 ま、道場に行ってみて何もないならそれで良し、危険が及びそうなら…相応の対処をしないとな。

 

 

「…兼一」

 

「勿論、僕も行くよ。友人の妹の危機とあれば、力を尽くすさ。無駄になったのなら、笑い話で済む」

 

 

 …心配する事はないとは思うけどね。来るなら構わない。雪風の遊び相手が増えたと思っておこう。

 

 

 

 

 

 

 結論。

 

 無駄……かと思ったらそうでもなかった。かなりシャレにならん事態になった。色んな人にとって、予想外のアクシデントが重なったっぽい。

 

 

 まず、道場にやってきた時、直葉ちゃんはすぐに見つかった。門の前で話し込んでいたからだ。

 そして、その相手も問題なかった。桐人君に確認してみたが、確かに先日会いに来た女性。成程、確かにこの子には武力らしい武力は無い。そして組織だったバックアップだって無い。

 

 と言うか、知り合いだ。いつもの、関係が無くなってしまった一方的な知り合いだが…。

 彼女の名は美麻。青を基調とした服に、背中に流した長い髪。妙に口達者で、リズムよく喋る。

 以前のループで霊山に居た頃に知り合った、記者………じゃなかったな。新聞社の社長令嬢って事になるが、そんな印象は全くない。

 

 ……妹が美柚だったか。よく一緒に行動していた筈だが、ここには居ないのか?

 

 

 ともあれ、彼女が俺の事を探っている張本人だとしたら、直葉ちゃんに危険らしい危険は無いな。

 

 

「…杞憂だった、って事ですか? 知り合いですか?」

 

 

 知り合いと言うか、一方的に知ってる程度…いや名前と顔を知る切っ掛けがあっただけ、かな。

 実際、よく覚えてないんだよなぁ。ループの最初の頃だったし…。

 何かを知りたくて俺に会いに来て、知った事がショックで……んで、何故か一緒にウタカタの里へ。その後はあまり絡む事もなかったから。

 

 少なくとも、彼女の背後に何か組織があるとか、直接的な暴行を加える事も辞さないとか、そーいう話は無い。

 完全に一般人の女の子だよ。

 

 

「なんだぁ…。いや何事もないのが一番なんだけど、で、何でその子が師匠に会いに来たんでしょ?」

 

 

 …何でだっけ。前の時の事も、もう覚えてないな。

 まぁ、話してみれば分かるだろ。特に何か悪さを考えている訳でもないだろうし、仮に考えていたとしても大それた事はできそうにないし。

 匿名で調査しに来たのも……あれだ、たしかあの子の親が、霊山新聞社の社長か何かだった筈。そっちに知られたくなかったんだろう。

 

 

「霊山新聞社…? ああ、あのモノノフの活躍を報道する、って言ってる新聞社か。実際は、霊山の息がかかってて都合のいい事ばっかり書いてるんだろう、って言われてるけど」

 

「…ちなみに、他の新聞社は?」

 

「俺もあんまり詳しくないけど…どこも似たような事言われてるな。後は、明かに嘘八百を書き連ねて新聞と言うより講談扱いされてる新聞社に、飯や祭りの情報ばかり書いてる新聞社、ご近所で猫が産まれたとか長寿で有名だった爺さんがぎっくり腰になったとかの小さな話ばかりの新聞社…」

 

 

 マスコミへの評価なんて、大体そんなもんだよなぁ…。

 でかい新聞社は大体霊山が何らかの取引を持ちかけてて、相手にする程でもない新聞社ばかりが残ってるんだろう。

 

 さて…おーい、直葉ちゃんよーい。

 

 

「え? あ、丁度いい所に。お兄ちゃんに白浜さんも…」

 

「おや? そちらが噂の凄腕モノノフさんですかい? おやおや、そちらのお方も先日はどうも」

 

 

 噂になってるのかは知らないが、モノノフなのは確かだね。

 桐人君は、何も答えず軽く頭を下げた。…ちょっと怯えている。

 

 

「先日はよんどころない事情があって名乗れませんでしたが、霊山新聞社の記者、美麻と申しやす。お見知りおきを」

 

 

 はい、こちらこそよろしく。記者のお手伝いさん。…と言っても、新聞社には無断で来てるみたいだけど。

 

 

「……あ、あはは、何の事でしょう?」

 

「…直葉、何もされなかったか?」

 

「? 何もって……どういう事、お兄ちゃん?」

 

「いや、何事も無かったならいいんだ。悪い、忘れてくれ」

 

 

 ま、背後事情を聞くつもりもないけど。

 んで、結局何の用事? 取材するなら、こっちの白浜君をやってほしいな。期待の新米モノノフって事で。

 ただ、こいつも色々事情があって、故郷の里ではそれなりの立場に居る(と言うかさせられた)から、何でもかんでも答える訳にはいかないが。

 

 

「ちょっ、師匠!? 誰が期待の…あ、いやでも新聞に載るかもしれないのかぁ…へへへ」

 

「照れ笑いしてるとこ悪いけど、身の丈に合わない報道をされると後が危険だぞ。…いや、兼一が弱いって言ってるんじゃなくて」

 

 

 散々期待させといて、いざ蓋を開けてみれば三級品なんて事になったら大炎上だからな。ちなみに煽った報道者は特に責任を取りません。

 

 

「会って早々に酷い扱いをされている気がするっす! いや、最近の新聞社の姿勢はどうかと確かに思うけど! ま、まぁ、なんです、そっちの期待の新人さんはまた後で話をさせてもらうとして、ちょっと聞きたい事が………あれ? 美柚? 美柚ー?」

 

 

 周囲を見回して、連れの名前を呼び美麻。

 美柚…確か美麻の妹で、外見はあんまり似てなかったな。服は美麻の逆を行く赤を基調として、髪の毛は栗色でショート、どちらかと言うと寡黙。そして時々、サラッと毒を吐く。

 気配を消したり、山道を歩くのが妙に特異な女だった。

 …今にして思うと、あの子は本当に一般人だったんだろうか? いや、確かに荒事の心得は無いようだし、逃げ足ばっかり早かったけども。

 

 それはともかく、美柚は声をかけられても出てこない。…こいつら、基本的にセットで行動してたと思うんだが…。

 

 

「あれれ、どうしたんすかね…。会いに行きたいって言いだしたのはあの子なのに。すいやせんね、ちょいと人見知りする子でして」

 

「さっきまでは、美麻さんの後ろに居たんだけど。何時の間に居なくなったんだろ」

 

 

 別にいいけど、何の為に会うのかとか、聞いてないのか?

 

 

「それが今回に限って妙に口が堅くて。いつもなら何でも相談、とまでは言わないまでも大抵の事には素直に答えてくれるんですけどねぇ。あっしも興味はあったんで、詳しい話を聞く前によし行こう!ってな塩梅でしたし」

 

「意外と当てずっぽうと言うか、後先考えてませんね」

 

「いやお恥ずかしい。うーん、それにしても出てこないっすね。遠くに行く筈はないんすけど…。仕方ないか。先に、あっしの取材に応じていただけませんかね?」

 

「あ、でしたらもうお昼休憩ですし、中庭で話しませんか? 道場にも誰も居なくなっちゃったし…。お弁当くらいは出せますよ」

 

 

 まぁ、構わない…かな、牡丹? チラッと白浜君を見るが、むしろどうするんだと見つめ返された。…牡丹、何か言ってやれよ…。

 数秒後、ようやく牡丹から物言いが入ったらしく、小さく頷かれた。

 …すぐそこに知恵者が居るんだから、もっと相談しような…。

 

 

「それじゃ、まずは「ちょいと失礼」「………」……はい?」

 

「物陰から中を覗き込んでいたんで、捕らえたんだが……知り合いだったか?」

 

「あ、美柚! ちょっ、何で猫みたいにぶら下げられてるんすか!?」

 

「………にゃー」

 

 

 

 道場の入口から声を掛けられた。目をやると、見慣れた顔が2人と、見覚えのある顔が2人。

 要するに全員知ってる人だが。

 見慣れた顔は、明日奈と神夜。

 見覚えのある顔は、美柚。大柄な男に、片手で襟を掴まれている。そして普通に余裕そうだ。

 

 ところで、美柚を見た雪風が、突然大きく目を見開いたんだが、何事だろうか?

 

 

 で、その美袖を捕まえてる男だが………いかつい髭のオッサン。背中に背負った手甲。富獄の兄貴によく似た、紫の布を肩からかけ、右上半身は豪快に肌蹴ている。そして、明かにカタギじゃないと一発で分かる強面顔。…実際にはカタギもカタギなんだけど。

 

 

 

 

 

 雷蔵じゃねーか。 

 何でこんな所に居るんだ。そして明日奈と神夜と一緒に居るんだ。知り合いだったのか?

 

 

「「雷蔵おじさん!?」」

 

 

 そして桐人君と直葉ちゃんも知り合いか。どんな人間関係っ……!?

 

 

 雪か、いや直葉ッ!

 

 

「え」ギィン!

 

 

「小僧共、全員道場にすぐ駆け込め! すぐにだ!」

 

「「「「は、はいっ!」」」」

 

「え、ちょっ、あああ!?」

 

「………!!!!」

 

「な、なんすかぁ!?」

 

 

 元は……あっち、神機、狙撃返しッ! ……チッ、遮蔽物の背後に逃げ込んだか…。

 

 

「おい、警戒を怠るな! 何が起きてるか分からんのだぞ!」

 

 

 分かってる。とはいえ、今のは多分誤射だけどな…。

 

 雷蔵と二人で周囲を警戒する。ここに居るのは俺達だけだが、次の狙撃が飛んでこないとも限らない。

 …そう、狙撃なのだ。

 

 遠方から突如聞こえた、独特の銃の発射音。それに反応できたのは、俺と雷蔵だけだった。

 とは言え、事態を把握する前に、雷蔵の怒声に従って全員が道場の屋内に駆け込んだのはいい動きだった。

 反応できなかった直葉ちゃんは、桐人君と白浜君が。美麻は猛スピードで駆けだした美柚が。雪風は自分で走り、神夜と明日奈は彼女達の周囲を固めながら走った。

 道場の扉をブチ破るように屋内に駆け込み、それぞれ物陰に転がり込む。

 

 

 そのまま暫く周囲の気配を探る。殺気は無し、人の気配も無し、鬼の類の気配も無し。

 

 

「……逃げたか…?」

 

 

 そのようだな。とりあえずは安心…か?

 

 

「姪っ子が狙われて原因も分からないってのに、安心も糞もあるかよ。誰だか知らんが、禁軍の目の前で人を狙うなんぞ、舐めた真似をしやがって…」

 

 

 ギリギリと青筋立てる雷蔵。……と言うか、姪っ子…?

 

 

「おう。…とりあえず大丈夫そうだが、暫く出てくるな。おい、誰だか知らんが、腕の立つモノノフと見た。俺はひとっ走り禁軍を呼んでくる。悪いが、それまであいつらを頼む」

 

 

 はいよ。俺にとっても、彼女と弟子と顔見知りやら友人やらだ。放っておけん。

 

 

「あん? …ああ、お前が明日奈達の言っていた……いやその話はあとだ。すぐ戻る」

 

 

 そう言って、雷蔵は全力疾走で走り去っていった。

 …普通なら、狙撃された一般人を放置して警察官がその場を離れるなんて考えられない…いや、パニクってたり、命惜しさにって事は考えられる…が、通信手段が無いからな、この世界。

 誰がターゲットになっているのかも分からないのに、町中をゾロゾロ引き連れて歩くより、一時道場に籠城して、その間に禁軍の応援を呼んでくるってのも間違いではないか。狙撃を弾けるモノノフが居るからこその判断とも言える。

 

 

 …さて、狙撃手らしい気配も、同時に襲ってくる襲撃者の気配も何もないが…。

 

 

「…そっちは大丈夫ですか?」

 

 

 ああ、何も居ないな。あと神夜、タマフリで防御してるからって、頭を出すな。狙撃をまだ狙ってるとしたら、撃ち抜かれるぞ。

 直葉ちゃんの様子はどうだ?

 

 

「混乱してますね。当然と言えば当然の反応です。モノノフでもなんでもない、普通の子がいきなり命を狙われるなんて…」

 

 

 モノノフでも、いきなり人間に命を狙割れりゃ混乱するだろうしな。

 こういう場合、狙撃に失敗したとしても第二段として、逃げ込むと予測される先に何か仕込むのが常道だが…。

 

 

「そっちは今、明日奈さんが道場の中を調べています。でも、何もないみたいなんですよね」

 

 

 本当に何もないなら、それに越した事はないが…。ふぅむ、どうにも妙だな。

 狙撃仕掛けるにしたって、何でまたこんなタイミングで狙うのか。直葉ちゃんは戦闘能力なんて無いに等しい一般人だ。わざわざこんなタイミングで仕掛けなくても、謀殺する手段は山ほどあるだろうに。

 それを、わざわざ俺達が居るタイミングで仕掛ける? あまつさえ、雷蔵が居合わせたというのに。まともな狙撃手、或いは暗殺者なら、足が付かないように一時延期するだろう。

 思えば、さっき狙撃を弾いた時も、何だか手応えがおかしかった。これはあくまで感覚の話なんだけども。

 

 

 ところで、さっき一緒に居たのって、禁軍の雷蔵だよな?

 西歌、時継と一緒に西の三羽烏なんて呼ばれてる、凄腕のモノノフ。

 

 

「雷蔵さんをご存知なんですか? 里がまだ孤立していなかった頃、明日奈さんのお家に何度かご挨拶に来た方なんです。禁軍志望と言う事で、何か明日奈さんのご両親に色々教わってたらしいですよ。その時、私達も何度か稽古をつけていただきました。ちなみに、桐人さんと直葉ちゃんの叔父上でもあります」

 

 

 ほーう、意外な所で意外な人と繋がるな。

 しかし、この時期ならマホロバの里に時継と一緒に…いや、そうでもないか? 時系列が滅茶苦茶になっててよく分からん。まぁ、居るものは居るんだし、どうこう言っても仕方ない。

 少なくとも、この場に禁軍の一員が居るのはいい事だ。直葉ちゃんの警護とか、色々捗るだろうしな。

 

 

「戻ったぞ! 無事か!?」

 

 

 早いよ雷蔵。後ろに禁軍の平隊員らしき数人を引き連れ、雷蔵は戻って来た。

 昼休憩中のところを引っ張り出された為か、口元に食べかすがついてる隊員も居るが、流石にそれを責めるのは酷だろう。…寝ているのを叩き起こされたのか、顔面に拳の後が残ってる人も居るしね。

 

 あいよ、こっちは何も無し。逃げ込んだ先に罠もなく、同時に襲ってきた不埒者も居ない。どうにもおかしな感じがするね。

 

 

「その辺の事は、これから調べる事だ。悪いが、一時道場は閉鎖させてもらう。悪評が立たないように配慮はするが、安全が優先だ」

 

 

 それは俺じゃなくて直葉ちゃんか、兄の桐人に言ってくれ。まぁ、流石に否は無いと思うけどな。

 

 

 

 

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