※この作品はR-18です。

狩りゲー世界転生輪   作:時守 暦

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第446話

 道場の広間に戻ると、俺以外の面々は勢揃いしていた。直葉ちゃんは…大分落ち着いてきたようだな。命の危機があったのに1時間も経たずに落ち着くとは、意外と肝が据わっている。

 …それとも、実感がないだけだろうか? 彼女にしてみれば、突然俺が近寄って腕を振るったら、金属質の音がしたってだけなのかもしれない。

 

 

「入れてくれ! 美麻、美柚、無事なのか!? 二人とも、声だけでも聴かせてくれ!」

 

 

 …なぁ、入り口で誰か騒いでるけど。

 

 

「あれは…うちらのお父さんです。霊山新聞社社長の文美と申しやす」

 

 

 …なんだろう、物凄く苦労人の気配がする。中間管理職的な。

 娘に何かあったと聞いて、飛んできたんだろうか。

 

 

「僕も何だかそんな気が…。いやそれより、声をかけないんですか? 外に出るなと言われていますが、そこまで禁止されている訳じゃないでしょう」

 

「うっ……そうなんすけど…父さんに黙ってここまで来てるんで、何というか合わせる顔が」

 

「…? 別に悪事を働いた訳ではないですよね?(霊山新聞社の記者だと騙りました)

 家族は仲良くするに越したことはありません。(新聞の内容について、絶賛反目中)

 喧嘩別れして家出した訳でもないでしょうに。(前ループでは、ウタカタの里まで家出する程思い詰めています)

 娘に危険が及んだと知るや否や駆け付けたお父さんに、一言声をかけるくらいしてあげないんですか?(純粋な疑問と正論)」

 

 

 …あ、美麻が崩れ落ちた。美柚も頭を抑えている。

 …色々と地雷を踏み抜いたなぁ。知ってる筈もないから、責める事もできんのだが。

 実際、この状況で声をかけない、会わせないって選択肢はない。

 相手は霊山新聞社の社長だぞ。何書かれるか分かったもんじゃねえ。本人にその気が無くても、霊山から何か言われたら従わざるを得ないんだから。

 

 なぁ、雷蔵? どうすんの?

 

 

「…構わん。ただし、この件に関して可能な限りの情報収集を協力するのが条件だ」

 

「…あの、雷蔵叔父さん、それって人質とったのと同じなんじゃ」

 

「桐人、こういうのは人質とは言わん。司法取引と言うんだ」

 

「えぇ……」

 

 

 堂々と言い切る雷蔵に、マジかよって顔をしている桐人と直葉ちゃん。

 逆に、明日奈は「当然ですよね」って顔だった。…これも血筋か? 獲物を追い詰める為なら手段を問わない、猟犬の素質が垣間見えた。

 

 

「そういう事やってるから、禁軍は嫌われたり不正塗れだって言われたりするんですよ雷蔵叔父さん…」

 

「……姪からの指摘にぐうの音も出ねぇ」

 

 

 本当にな…。状況を考えれば、妙手だと思うけども。

 

 

 

 

 つぅても、あの文美なるおじさんの伝手を辿らなくても、一応追いかける方法はあるんだよなぁ…。

 倫理的かつ生理的にあまりよろしくない方法だけど。

 上手く行ったとしても、1/2の確率でホモセックスに付き合う可能性が生じるから。まぁ、無いと思うけどな…。狙撃した奴、何となくだけど女っぽかったし。

 

 

 

 とりあえず文美さんを中に入れて、気まずそうな美麻と美柚と一緒に部屋に放り込む。おっさんの泣き声が響いていた。

 …狙撃を受けたのは娘さん達じゃないんだが…随分と溺愛してんなぁ。

 

 

「で、雷蔵叔父さん、これから俺達はどうすれば? 流石にずっと道場に籠り切りなのはきついんだけど。生活もあるし、モノノフとしてのお役目もある」

 

「分かっているが、今日一日は我慢しろ。明日までには護衛を手配する。お前達もそれでいいか?」

 

 

 構わんけど、俺に護衛をつけるくらいなら、直葉ちゃんか……いや、雪風にでもつけてくれ。

 こいつも事情がある身の上なんで、この隙に乗じてよからぬ事を企む輩が出ないとも限らない。

 

 

「ん? 私? 大丈夫よ、これでも結構強いのよ。……多分」

 

「雪風さん、流石にその楽観は酷すぎです」

 

 

 自分で言っておいて、やっぱり?と首を傾げる雪風。

 本当にこの子、頭が残念だなぁ…。経験の無さと、調整された性格が嫌な塩梅に噛み合った結果なんだろうけど。

 

 

 

 

 さて、そういう訳で、一晩道場で過ごす事になった訳だが……直葉ちゃんは大丈夫そうだな。

 お泊り会みたいに、雪風と騒いでいる。明日奈と神夜は外を警戒しながらも、二人の相手をしていた。

 

 美麻と美柚は、まだ別室で文美さんとお話し中。一度部屋から出てきたのだが、この機会に親子の溝について徹底して話し合ってこいと、部屋にもう一度放り込んだ。

 

 白浜君と桐人君は、練武場(屋内)で手合わせしたり、新技を試し合ったり、若い武芸者らしい健康的な時間を過ごしているようだ。…色恋沙汰の話もしてるっぽいけど。

 

 そして俺はと言うと、一人縁側に腰かけてボーッとしていた。……ボッチじゃないよ、白浜君と桐人君に稽古に誘われたけど、ちょっと考えたい事があったから一人になっただけだよ。後から参加するって言ってあるし。

 

 

 

 何を考えてるかっつーと、今日一日であった事の考察だ。色々と思い返している。

 目を覚まさない滅鬼隊の指揮官。

 唐突に会いに来た、美麻と美柚。

 直葉ちゃんと桐人君の血縁、雷蔵。

 その目の前で突然の狙撃。

 

 …狙撃さえなければ、意外な人間関係を知った一日で終わっただろうに。

 

 

 さて、その狙撃についてだ。

 雷蔵には証拠にならないと言われ、俺もその通りだと思うが、やはり俺としてはあの狙撃は誤射であると確信している。

 殺気の鈍さもそうだが、やはりどう考えても直葉ちゃんが狙われる理由はない。

 

 では、一体誰が狙われたのか?

 まず第一に考えられるのは、雪風だ。彼女は記憶を失う、或いは最初から持ってないとは言え、滅鬼隊の一員だ。霊山が行っていた違法行為の証拠、そして証人でもある。関係者が見つけたら自分の元に確保するか、それが無理なら始末しようとしてもおかしくない。殆どの滅鬼隊は使い捨て同然の扱いだったようだし、始末するのにも左程躊躇はしないだろう。

 

 第二に考えられるは、白浜君。彼はシノノメの里の代表として霊山を訪れている。実際は牡丹のオマケみたいなもんだが。シノノメの里に、知られたらまずい何かがあるのか、それとも交流断絶が望みなのか。…しかし、白浜君は狙撃に対して全く無反応だったな。気を抜いていても、自分に対する害意や殺気なら感知できる程度には仕込んでるんだが…。まぁ狙撃の殺気は分かりにくいしなぁ。

 

 そして第三に考えらえるのは俺。九葉のおっさんと通じて、色々と企んでいる事は色んな所にバレているだろう。九葉のおっさんは良くも悪くも政敵が多そうだし、そこからちょっかいを出してきたとしてもおかしくない。…が、これもやっぱり考えにくい。そりゃ100%とは言い切れないが、遠方からでもじっと見つめられてれば気付く自信はある。それらしい気配は全く無かった。

 

 他には…禁軍の雷蔵に対する何らかの警告、なんて事も考えたが、どう考えても逆効果だ。

 

 

 気になるのは狙撃手の正体だけではない。こっちの方にも、ちょっと引っ掛かる行動をしていた奴が混じっている。

 狙撃を弾き、雷蔵の怒声に従って道場に避難する時の事だ。

 雪風は自分で走っていた。かなりのスピードだったが、これは体を改造された為だろう。

 直葉ちゃんは状況を把握できずに、白浜君と桐人君に抱えられて道場に入った。状況が理解できないんじゃ、こんなもんだ。

 神夜と明日奈は周囲を警戒し、左右を守りながら道場に入った。

 

 そして、美柚はすぐに動いて美麻を抱えながら道場に駆け込んだ。

 

 

 そう、美麻を一人で抱えてだ。モノノフ、そして準ハンターとして鍛えている白浜君と桐人君でさえ、直葉ちゃんを2人がかりで担ぎあげてようやく走れたんだ。

 なのに、彼女は女性の細腕で姉を軽々と担ぎ上げ、雪風に迫るような速度で走った。

 反応速度、膂力、速度…どれも一般人とは思えない。火事場の馬鹿力ってだけじゃ説明がつかない。

 一緒に居た美麻、話していた直葉ちゃんも気付かない内に姿を消したり、本気で探した訳ではないとは言え移動の痕跡が俺にも見つけられなかったり…。

 ちょいと聞いてみたが、雷蔵が見つけた時は驚く程見事な隠形を行っており、それで単なる通りすがりではないと判断して捕らえたそうだ。

 

 

 

 …考えてみれば、直葉ちゃんが狙撃されたのは、雷蔵が現れた瞬間…言い換えれば、雷蔵に捕らえられていた美柚が姿を見せた瞬間でもある訳だ。これは偶然か?

 美柚が姿を隠したのは、狙撃手の気配を感じたから。そして、自分がそいつに見つかる事が望ましくなかったから……と言うのは、流石に考えすぎだろうか?

 コジツケが過ぎる自覚はあるが、どうも引っ掛かるんだよな…。

 今度、内面観察術を試してみようかな。あんまり多用するのはよろしくないんだが…。

 

 

「うう、また負け越した…大分見切れるようになってきたけど、二刀流だと捌き斬れない…」

 

「へへ、まだまだだな。兄貴、風呂沸いたけど入る?」

 

 

 …入るけど、何で道場に風呂があんの?

 と言うか、二人が先に入って来いよ。汗だくだぞ。

 

 

「鍛錬のしすぎで汗まみれになったり、怪我をする奴も多いから、風呂とか休める場所とかも作ってあるんだよ。ま、大したもんじゃないけどさ」

 

「そういえば、ご飯どうする?」

 

「流石に台所は無いな…。何か買ってくるか」

 

 

 意外と設備整えてるなぁ。

 それなら俺が行ってくるわ。俺なら護衛もいらないし。…いや、妙な事をしないように監視はされるか。

 この辺に持ち帰りできる飯屋とかある?

 

 

「4つ曲がり角を超えた先に、評判の弁当屋があるよ。飯時には少し早いけど、早い所行かないと売り切れちまう」

 

 

 はいよ、ひとっ走り行ってくる。戻ってきたら、美麻達の話も一端中断させて、飯にしようか。

 

 

 

 飯を買いに行く事を伝えると、予想通り護衛役の一人が付いて来る事になった。

 ま、荷物持ちにもなるし、流石にこの状況で面倒事に首を突っ込む気はない(向こうから面倒事がやってこないとは言ってない)し、問題はない。

 

 えーと、俺、明日奈、神夜、雪風、白浜君、直葉ちゃん、桐人君、美麻、美柚、文尾さん、護衛数人…。

 10個以上かぁ…。売り切れ以前に、作るのにも時間がかかりそうだな。最悪、足りなくなったらこんがり肉でも出すか。

 …こんがり肉もなぁ、美味いし腹も血いいしエネルギー抜群なんだが、流石にそれだけで済ますのはなぁ。具体的に言うと、折角日本に居るんだから米が食いたい。あと日本酒。

 

 

 

 

 流石に、往復500メートル程度の距離でトラブルも何もなく、あっさり戻ってこれた。

 弁当屋さんは…うん、ちょっと大変そうだったけど。用意していた商品が、ピーク時間前に半分くらい消えたからな。これから作り直しのようだ。別に悪い事なんか何もしてないけど、ちょっと申し訳ない気分になった。アイドルタイムに集団で押しかけてしまった感じ。

 

 戻ってくると、突撃してくる犬みたいに雪風が飛びついてきた。

 

 

「ちょっとどこ行ってたのよ!? いつの間にか居なくなって、何かあったのかと思ったじゃない!」

 

 

 いや弁当買ってくるって言ったよ。オメーが直葉ちゃんとの話に夢中になって気付いてなかっただけだよ。

 そんなの知らないとばかりにキャンキャン吠え立てられるが、鬱陶しいと思わないのは揺れる尻尾が幻視されるくらいに喜んでいるからだろうか。

 

 ほれ、それよりも飯買ってきたぞ。皆呼んできて、広間で飯にしよう。

 尻尾を振りながらも不機嫌そうな雪風を宥めるべく、手を繋いで中に向かう。…腕に抱き着かれた。

 なんだ、随分大胆な事するな。体温が気持ちいい。

 

 

「別に…。明日奈が『試してみたら』って言ってたから、実際やってみただけよ」

 

 

 明日奈が? …なんか普段と違うな。あいつが軽率にその手の行動を進めるとは思えんが…。惚気で口が滑ったか?

 おーい、皆、飯買ってきたぞー。

 

 

 待ってましたとばかりにダッシュで駆けよってくるのは白浜君と桐人君。鍛錬で疲れてるからね、仕方ないね。

 …鍛錬と言えば、神夜が二人の戦いにちょっかい出さなかったな…。強弱で言えば神夜に軍配が上がるとはいえ、興味を持たない程実力差は離れてない筈だが。

 

 

 

 んじゃ、飯はソッチで勝手に食ってくれ。俺は外を警戒しながら、屋根の上で月見飯とでも洒落込むわ。

 

 

「? 何ですか師匠、一緒に食べればいいじゃないですか」

 

「同感。兄貴と一緒の方が、直葉も安心するでしょうし」

 

 

 

 ……あのな、白浜君、桐人君。一つ真理を教えよう。

 

 

「? どうぞ」

 

「拝聴します!」

 

 

 上司、ないし目上の人間と同席で美味い飯酒食えると思うな。

 酒を美味しく飲ませてくれる上司と巡り合うのは、砂漠で砂金の粒を探すより難しいと思え。

 

 

「…い、いや流石に考えすぎだと思いますけど…。師匠自身、身分と言うか上限関係には緩い人ですし」

 

「だよな。少なくとも俺は、飯に同席させてくれるだけども光栄だけど…」

 

 

 ……さよけ。

 間に受ける訳じゃないがあんまり誇示するのもな…。

 それじゃ、遠慮なく同席させてもらいますか。

 

 

 ともあれ、腹が減ってた欠食児童共に弁当を渡して、自分も箱を開く。

 ほう、これは中々。桐人君の言う通り、評判になるのも無理はない。具材はそう高価な物ではないが、腕がいいんだろう。単なる弁当が、開いた瞬間に宝石箱にすら見えた。

 こーいうのって日本人の得意技だよなぁ。狭いスペースに詰め込んで、しかもそれを調和させるって。

 いやはや、この出汁巻き卵なんて職人技だよ。

 

 

「お、やっぱり兄貴、わかります?」

 

 

 わからいでか。いいとこ紹介してくれたなぁ。

 

 

「この煮付けも、家で再現しようとしてるんですけど、中々…。やっぱり本職は違いますね」

 

「確かに美味しいです。うーん、でもやっぱり私は明日奈さんの芋の煮転がしの方が」

 

「品と言うか味の方向性が違い過ぎるし、それで比較するのはちょっとどうかと思うわ。うーん……隠し味、なんだろ…」

 

「あ、僕これ分かります。多分、蜜を使ってます。これは……蓮華の花、かなぁ…」

 

「…蓮華の花? そんなんで変わるのか? と言うか、よく分かるな兼一」

 

「花を育てるのは好きだし、子供の頃は蜜を吸うのも好きだったからさ。でも、花びら一つじゃこうはならない…。ただ量を使っているのでもなさそうだし…」

 

「人参要らないわ!」

 

 

 好き嫌いすんな、雪風。おっぱい大きくならないぞ。

 こら飯時に蹴りはやめんか。

 

 …改めて見ると、こいつら結構家庭的だな。明日奈も神夜も独り暮らしが長かったし、直葉ちゃんは家事を一手に引き受けてるっぽいし、白浜君も自炊していた。

 男飯とかじゃなくて、揃いも揃って結構凝り性なようだ。

 雪風にも、多少は仕込んでおいてやらんとな…下手すると猫まんまを主食にしかねない。

 

 

 

 

 それにしても……なんか神夜が上機嫌だな。いや悪い事じゃないんだけど。

 ありゃイタズラを思いついた悪ガキの笑顔だぞ。普段の神夜であれば、間違っても悪い子だなんて言えない。………あれ、そうでもないか? 常日頃から穏やかでニコニコしてる子だけど、中身は戦狂いもいいところだし、強い奴を見るとチャンスを見つけて喧嘩をふっかけるし。

 …うん、エッチ大好きな可愛い子だから、悪い子じゃないな! 戦狂いであっても、殺戮を楽しむ人間じゃないし。

 

 はて、一体何を思いついたのやら。妙に浮かれているし、何かやらかすとしたら近日中だ。…軟禁状態だからこそ思いついた事なら、今日明日かもな。

 

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