野郎を含めて、全員起こし終わった。なんつーか、搾精されてる気分だったな。エロい意味じゃなくて、こう機械的に子種を採取されるよーな感じで。
それでも匂いは漂ってたから、とりあえず消臭玉で消して部屋の外に出る。
「まさか、本当にこのような方法で起こすとは…。やるとしても、数日以上かかると思っていたのだがな」
何故か九葉のおっさんが居た。
その他にも、目を覚ました滅鬼隊が一斉に注目してきた。流石にこれだけの人数が一気に集中すると圧力を感じる。
幸いと言うべきか、問題に発展するような事は無かったようだ。自分達が封じられる原因となった浅黄をよく思ってない者も居ると思っていた。
そうでなくても、植え付けられた物であっても好意を持つ男が、すぐ隣室で女を文字通りとっかえひっかえしているのだ。乱入されなかったのは、思っていた以上に洗脳の効果が高いからだろうか。
ともあれ、九葉のおっさん、こんな所に居ていいのか? 霊山では今頃、大捕り物劇の時間だと思ってたが。
「逃げ場所があれば、そうだったかもしれんな。だが、脛に傷を持つ者が霊山から逃げ出したとして、何処に行く。人が暮らせる里は限られている。何より、関わっていた連中は今ではそれなりの立場に居るのだ。泡を喰って逃げ出すくらいなら、捻じ伏せ有効利用するだろうよ。そもそも、私がここに居るのも策の内だ」
「…嫌な有能さですね」
「出世する人間とはそういうものだ。白浜、貴様もシノノメの里の代表であろう。その程度の腹芸はできなければ話にならん」
「いいですよ、僕は本来、半人前のモノノフなんで。この一件が片付いたら、普通のモノノフに戻ります」
…戻れるといいね?
それはそれとして、霊山ってそんなに混乱してないのか?
「いや、混乱は始まっている。だが、まだ水面下の闘争だな。死隠についても、余計な情報を漏らすまいとあちこちから手が伸びていた。禁軍にも圧力がかかっている。恐らく、数日中に処刑されるだろうな」
「ちょっと、助けるんじゃなかったの」
「伝蔵さん、口調が伝子さんに戻ってます。あとお白い粉」
「処刑された方がよかろう。貴様らが匿ったところで、追及の手が伸びてくるだけだ。例え、ウタカタの里に向かってもな」
だから死んだ事にして、こっそり逃がそうって訳ね。少なくとも、表立った追及はそこで終わる。
エイヨー斎が居ないのもその為か。
「ふっ、妄想が得意らしいな。好きに考えろ。どの道、既に手は打ってある」
言われなくても。
ところで、お前のお目当ての滅鬼隊員は、結局見つからなかったのか。
「…いいや、見つかった。だが、使い物にならんだろう。今となっては、逃げ隠れが多少上手いだけの一般人に等しい。私の事も覚えていないだろうな。姉を探すという動機も…」
…代わりの『姉』が出来たから、それで忘れてしまったのかね。
それにしては、俺達に会いに来たりと、色々動き回っていたようだが。
「気付いていたか…」
一般人とは思えない身体能力とか、妙に上手い隠密とか、色々引っ掛かる点はあったけどな。
初めてあの施設で滅鬼隊を見つけた時、誰かが出て行ったような痕跡があった。
浅黄がさっき言っていた、妹が居ないという発言。
それに何より、詩乃…死隠が、自分と同じくらい起きて活動している滅鬼隊の生き残りを見つけた、と言っててな。
あの、美柚って子だろう?
『浅黄』の本来の妹なのかは知らないが、あんたが調査の為に送り込んだ間諜。滅鬼隊としての名は『桜』。
幼い体で改造されて、封印された。
あんたの使命を果たそうって使命感なのか、姉を助けなければいけないという衝動なのか、それとも単純に幸運か…。
一人だけ封印が解けて、施設から逃げ出した。
その後は、文美さんに拾われて美麻と姉妹になる。あの二人、似てないなーとは思ってたんだ。
「…妄想の逞しいやつだ。それだけ妄想できるなら、少しは堅実な事を考えろと言うに」
ま、確かに単なる想像だね。あの二人に、血が繋がってますかって聞くのもなんだし。
「ふん、確かめた所で今更意味は無いわ。だが、確かに貴様らは約定を果たした。異界消失を実現させ、私の裏の目的だった部下すら発見した。 借りは返さねばならぬな。シノノメの里への援助、ウタカタの里への移動、そして目を覚ました滅鬼隊への援助。間違いなく果たそう」
頼むぜ。…っと、そうそう、もう一つ聞いておく。
グウェンって名前の西洋人を知らないか?
直葉ちゃん…ああ、グウェンの友人から聞いた話じゃ、何処ぞに強化合宿に行ってるそうだが。
あー、何だっけ、宝剣……なんか小難しい名前の西洋剣を持っていて、そいつが西洋竜に似た鬼を呼ぶんだが。
「ふむ、知ってはいるが?」
惚けるなよ。世話して手駒にしようと思ってるだろ。それならこっちに寄越せ。あの竜も、今となっては大して手古摺る相手じゃない。
無論、無償でとは言わん。
そうだな…虚海が持ってる触鬼の触媒の隠し場所でどうだ?
そういや、滅鬼隊が保管されてた施設の地下で、触鬼っぽいのが居たな。叩き斬ったけど。あいつもこの研究の関係者かね。
あのポンコツの目的は過去への帰還だし、人体実験やら何やらに関わる理由は薄いと思うが…。
「ふん、とんだ食わせ物だな、貴様。まぁいい。想定内だ。確かに虚海は滅鬼隊研究に関係している。奴の目的については初めて知ったが、合点がいった。滅鬼隊の素体となったのは、ただの人間以外にも居たという事だ」
…? 鬼との混血、とか? あいつも似たような状態になってるし。
「いいや。私も伝聞で聞いただけで裏を取った話ではないが、滅鬼隊の始まりは一人の記憶を失ったモノノフだったと聞いている。200年以上前にどこぞの遺跡で発見されたそのモノノフは、我々とは違う技術を持ち、異なる言語を操り、そして人とも鬼とも違う異形の体を持っていたと言う。発見された当時は、その場で討伐されかけたらしいがな。大方、捕らえられたのだろうが…そ奴は、この世界とは全く違う世界で…産む…いや、製造された、人造の人間だったらしい。そ奴は鬼と同様、人のミタマを喰らって力に変える能力を持っていたそうだ」
…どっかで聞いた話だな。しかもこの世界で。いや俺の事じゃなくて。
でも、あいつは異形の体なんて持ってないよな…。目や髪の色はともかく。
「そのモノノフは、特別な鬼を探して仕留める事を使命としていたそうだが、この辺りの事はよく知らん。霊山が奴に何を教わったかも、な。奴に協力するつもりだったのか、異界の技術に魅せられたのか…大方後者だろうが、霊山は密かにそのモノノフを研究した。それが滅鬼隊の始まりだそうだ。虚海は、異界の技術…正確には、異界から移動する技術に強い興味を持っていたようだ」
異界を移動できるなら、時間だって移動できるだろう、か…。
そんなもんかねぇ…。
「尤も、その技術は研究されていないと知るや、あっさりと見限ったようだが…。霊山が密かに捜索を行った結果、そのモノノフと同じと思われる者は何人か見つかった。その殆どが忘失していたらしい。己が何処から来たのか、何者なのかも知らず、戦う術すら忘れ、異形の体を隠して生活していた。それを拉致して研究を続けた結果、いつしか滅鬼隊製造の為に人攫いや人を使った実験、改造が許容され初め、その挙句に徒に人を弄び、欲望を満たす事だけが目的の集団と成り果てたのだ」
それで作ってるのが国営ちんぽケースじゃなぁ…。人倫以外の色々な事が酷すぎるぜ…。
で、話を戻すけどグウェンは?
ああ、虚海が持ってる触媒は、ウタカタから来たの雪原、結界石の洞窟に隠されてるぞ。自分でも持ち歩いてるだろうが、多くて2~3個ってとこだろう。
何なら、ウタカタに行った後にこっそり盗んでくるけど。代わりに子供の玩具でも埋めておくか。
「止せ。下手に動くと勘付かれて逃げられる。何より、貴様らはこれから虚海のみならず、陰陽寮にも目を付けられる事だろう。軽挙は慎む事だ」
…そうか、そりゃそうだな…。ウタカタにも陰陽寮関係者が居るし。
茅場に頼んで、なんか根回しでもしてもらおうかな。
「グウェンはモノノフとしての強化合宿に向かったのは事実だ。今のままでは、あの鬼に翻弄されて捨て駒にすらできん。使えたとしても、いつ起爆するか分からん時限爆弾程度。どのみちそろそろ終わるころだ。機を見てウタカタに向かわせよう」
…他にも、色々と打ち合わせした。凄い勢いで話が進んでいくが、積み重ねたモノが一気に堰を切って溢れ出したような感じだな。
この半日程度でも、俺が居なかった場所で色々なドラマと言うか面倒事と言うか丁々発止の遣り取りがあったんだろう。人を動かすって、こういうことなんだよなぁ…。
さて、とにもかくにもデカい山場を一つ越えた訳だ。
そうなると、どうしたって今のままではいられない。大きく変わる状況に、適応する必要がある。
ほんの少しだけの猶予の間に、滅鬼隊達の今後の身の振り方を考えさせ、詩乃と密かに合流し、行き先であるウタカタでの生活もある程度準備して…。
そして何より、白浜君達と別れるかどうかの決断をしなければならない。
白浜君は俺の弟子みたいなものだが、それ以前にシノノメの里の代表で、シノノメの里所属のモノノフで、そして一人の人間だ。
モノノフとして形になる程度には鍛えたし、俺の元から飛び出して自力で歩んでいきたいというなら、それでもいい。まだまだ鍛え足りないが、そういう時期は実力に関わらずやってくる。正式な師匠と言う訳でもなし、遠からず離れると言う事はお互いに了承して、今までやってきた。…あの子の事だから、忘れてると思うけど。
ついでに言えば、イイ感じになった女の子と一緒に居る為に霊山に残ると言うなら、それも有りだ。俺の弟子らしく欲望に忠実で、実にイイ。
このまま里に戻る選択肢もありだ。決して不義理な事ではない。
むしろ、シノノメの里はこれからが大変な時期だ。ようやく霊山との繋がりを確立して支援を受けられるようになったものの、その霊山が今から大混乱に陥ると言うか叩き落される予定だし、それを差し引いてもシノノメの里は大変な立場にある。
やっといて何だけど、異界を幾つも浄化させて…少なくとも今まで行き来を阻んでいた異界を一つ浄化させた張本人が居た場所。
何年も孤立しながら、独自の技術と宝玉という資源を用いて生き延びた場所。
超界石という謎の石が設置してある場所。
当初、シノノメの里が政争の場になるのは避けたいと思っていたが、ここまで来ると否応なしにその舞台となってしまうだろう。
それを防ぐ為、或いはそうなってしまった時の為、故郷に一人のモノノフとして帰る事を誰が責められる。
…まぁ、そうなってしまったとしても、あの里長が居る限りやられっ放しって事はまず無いと思うけども。
土井さん達は、多分里に戻るだろう。あの人たちは、その辺割り切っている人達だ。
優先すべきものを既に定め、その為に迷いながらもブレずに動く。
仮に俺と一緒にウタカタに向かうとしたら、その方がシノノメの里の益になると思う時だけだ。
俺としても、シノノメの里への義理は果たしたと思っている。
俺のお陰で霊山まで来れた…なんて恩を着せる気はないが、それを言っても許されるだけの貢献はしたと思っているし、何だかんだで援助だって引き出せた。
……まぁ、何だ、明日奈と神夜を引き抜く対価、そして雪華達を喰っといて放置している対価として考えれば、安いもんかな…。
一通りの打ち合わせを終え、九葉のおっさんは職場に戻っていった。禁軍に居る詩乃は、明日の昼までにこちらに向かわせるそうだ。
俺が九葉のおっさんと話している間に、滅鬼隊は白浜君達に色々と話を聞いて、今後の身の振り方を決めていたらしい。
全員、俺と一緒にウタカタの里に来る事を希望している。
……いや…別にいいというか、ほぼそのつもりで準備してたけどさ…。一人の例外もなく?
「例外も無く、よ。無条件にではないし、それぞれ考えはあると思うけど。率直に言えば、拒否したところで行く当てもないのよ」
俺のボヤキに浅黄が答える。まぁ、確かにその通りだわな。
封印される前は使い捨ての道具扱いされ、まともな伝手を作れていたかも怪しい。それが作られていたとして、残されているかはもっと怪しい。
で、条件って何だ? あんまり無茶振りが過ぎるようなら、同行を拒否していると見做すが。
「あなたに対する条件ではないわ。条件は一つだけ。私が指揮官の地位を降りる事よ。…封印前の事を覚えている子は殆ど居なかったけど、単純に信用できないって事でしょう。…それだけの事をしたのだから」
まぁ、なぁ…。植え付けられたものと知りながら、私情で希望的観測に縋り、皆を封印させる事態にまで追い込んだ…。
頭に据えるには、不安しかないわ。
「元々、自分でも適任とは思っていなかったし、私的には問題ないわ。ただ、代表者は私になったから」
…? どういう事だ?
「目覚めたばかりの子達は、右も左も分からない状態の子が多い。以前に目を覚ました事のある隊員も、任務で聞かされた以外の事は殆ど知らないわ。要は世間知らず、経験不足なの。人と接するのに気後れしている子も居る」
ああ、目覚めたばかりの雪風状態って事ね。俺以外の人には怯えるし、人込みを見て目を白黒させてたし。
成程、指揮官としては信用できなくても、外部の人間との経験を考えると、一番適任だったのがお前だったって訳か。
「そういう事ね。私からあの子達に命令する事はなくなったけど、皆の意思を纏めてあなたに伝えるのが私の役目」
…ん?
ちょっと待った。そうなると、滅鬼隊はどうなるんだ? 別にモノノフとして戦えとは言わないが、働きもせず飯が食えると思ってもらっても困る。
援助はするが、食い扶持は自分で稼いでもらわなきゃならんぞ。少なくとも、その為の努力はしてもらわんと。
「当然よ。皆だって……まぁ、多少は怠け癖のある子も居るけど、ずっと養われていられるだなんて思ってないわ。滅鬼隊としての活動は続ける。これまでのように霊山の暗部に使われるのではなく、独立した傭兵部隊としてかつどうするわ」
傭兵ねぇ…。まぁ、確かに常人よりも優れた基礎能力を持ってる奴らみたいだから、悪くはないと思うが。単純に戦うなら、多分雪風でさえそこらのモノノフより強いし。
しかし、それこそ大丈夫なのか?
傭兵に求められるのは、腕っぷし以上に世渡りの上手さだろ。世間の事を知らないどころか、まともに人と交渉した事すら無い連中が殆どだろうに、どうにかして行けるのか?
それに、団体で傭兵になるならそれこそ指揮官役が必要になると思うが。
聞かれた浅黄は、妙に綺麗な笑顔で…それこそ脳裏に嫌な予感がビンビンするような…顔で、俺の両肩に手を添えた。
「これからよろしく頼むわね、『お頭』」
ちくと待てい。
おいが頭か!? 聞いておらん!(お豊様感)
「そう? 必然だし、自然な流れだと思うけど。私達を起こす為に、お嫁にいけない体にしたでしょ。…別に責めてる訳じゃないわ。でも忘れてない? 滅鬼隊の女は、自分を起こした異性…つまりあなたに好意を抱いているのよ。右も左も分からない状態で誰に従うかと言われれば、そりゃ植え付けられた感情であっても好きな人に縋るわよ。男性隊員は…行く当てもないし、様子見のつもりかしら。そもそも、あなたは私達を連れて、ウタカタの里まで赴くつもりなんでしょう。なら、立場的にも集団の長と言えるわ」
うぐ……た、確かに…。
知能・滅鬼隊の代表格みたいな浅黄の癖に、しっかり理屈通してきやがって…。
「…否定できる立場じゃないけど、お馬鹿さんの代名詞に滅鬼隊を使うのは辞めてくれないかしら…。言い訳に思えるかもしれないけど、かつて失敗が多かったのは、半分以上は運用そのものが劣悪だったからよ」
うん、それは分かる。連携もさせない、過去の経験も共有しない、使い捨て前提の運用じゃ、育つものも育たないわな。
と言うか、明かに途中から人を弄ぶ事自体が目的になってたからな…。
しかし、過去の記憶を持っている子も居るんだろ? それこそ、また人に使われるのは御免被るんじゃないのか。
「構わないそうよ。滅鬼隊を使っていた連中と違って、私達をしっかりと運用してくれそうだからね。正直な話、以前ほど酷い雇い主でなければ、大体の事は我慢できると思うわ。それに、自分達では今後の生計を立てられるだけの見通しが無いのは自覚しているし
そりゃまぁ、戦力として換算する以上、補給や手入れを怠るつもりはないけども。
…ああ、それすらやってなかったのが、前の運用元と…。うん、改めて思うけど失敗だらけなのも無理ないわ。
はぁ…。ま、仕方ないか。封印から引っ張り出したのも俺達だし、個人的にも戦力は欲しい。戦ってくれるというなら御の字だ。
…これからは、しっかり失敗も共有して、経験を積んでいけば、強力なモノノフになるだろう。
差し当って、問題は…痴情の縺れを防止せんとな…。雪風も後で相手するって言っちゃったし。まぁ、眠気に耐えられずにもう寝てるけど…。