人数と内訳については深く考えていません。
適当に脳内補完でお願いします。
主に登場させるキャラクターは、時守の退魔忍RPGで主力級のキャラからですかねぇ…。
どうしても登場させるというか濡れ場書きたくて、無理に持ってくるキャラも居ると思いますが。
具体的にはきらら先輩とか。お招きできなかった悔やみ、ラブネチャグチョの濡れ場にぶつけて晴らしてくれる…かなーり先になりますが。
にしても、とうとう紅がふうま君に接触しましたねぇ。
乙女になっちゃってまぁ。
さて、紅はお招きできてないけど、書きたいんでそのうち…。
堕陽月伍日目
昨晩は、滅鬼隊も白浜君達も含め、全員が隠れ場所で雑魚寝した。
退屈だの何だの文句は出たが、浅黄が命じれば素直に従う。…指揮官の地位を降りるよう要請された筈だが、文句も出ない。恐らく、指揮官の個体に逆らわないよう調整されているんだろう。
意外な事に、彼女達のリーダーシップを取っているのは雪風だ。人見知りするタチだったが、同じ滅鬼隊だから警戒心が沸かないのだろうか。
積極的に彼女達に…彼等にも…話しかけ、現在の霊山で見たアレやコレやを語っている。語り方は、完全に子供の自慢話だが…。
と言うか、雪風は完全にマスコット扱いされているようだ。
……どっかで見た構図だなぁと思ったら、まんまウタカタ住民が和穂を見守る目だよコレ。「お姉さんなんだからね!」と言いつつ、おしゃまなお嬢ちゃんとして扱われている。
まぁ、殆どの滅鬼隊員は記憶がないから、雪風の方がまだ人生経験を積んでる筈なんだけどな…。単純に雰囲気の問題か。
一方俺はと言うと、白浜君と今後どうするのか話し合っていた。
予想通り、土井さん達はシノノメの里に戻って尽力するつもり。問題は白浜君だ。
正直な話、シノノメの里に戻るだろうと思っている。
白浜君に宿っているミタマ、牡丹は何だかんだ言って里の重鎮だ。前お頭こと両さんが戻ってきても、それは変わらない。
今は外交の為に霊山にやってきているが、里を出ていく事は考え辛かった。
かといって、牡丹だけ霊山に戻っては、白浜君のミタマが居なくなってしまう。
幾ら何でも、まだタマフリ無しで戦える程、彼は強くない。だったらそれこそ、手元に置いて鍛えるべき…か?
いやいや、結局は本人の意思だ。
話をした時は、こうも唐突に選ぶ時が来るとは思っていなかったようだ。分かれるにしても、シノノメの里に報告に戻って、諸々の手続きが一段落してからだろう…と思い込んでいた。
しかし人生なんてそんなもんである。一寸先は闇、これに勝る真理は無い。
白浜君は懊悩している。牡丹にも相談しているようだが、決定的な理由は見つからないようだ。
シノノメの里に戻るか。霊山に残るか。ウタカタの里へ行くか。
どれを選んでも、多分結果は同じだ。あの時こうしていたら、と後悔して、その選択肢で得た物を大事にして、一寸先の闇を手探りで進むだけ。
答えが出るまでしっかり付き合ってやりたいところだが、どの道昼には詩乃と合流するし、出発の準備もして、遅くても明日の朝には出発する事になるだろう。その時までに答えを出すよう伝えて、俺は離れた。
昼。ハッポ斎が詩乃を連れてやってきた。
詩乃はいつもの黒髪+眼鏡ではなく、何故か青髪になっている。…ああ、これが暗殺の時の恰好か。
おう詩乃、無事だったか? 看守とか取り調べ役に乱暴されたりしてないか?
「いい加減、八方斎と呼ばんか…。どいつもこいつも人の名で遊びよってからに…」
「大した事はなかったわ。ちょっかいを出そうとしていた気配はあったけど、その前に横槍が入ったもの」
ふむ、何事もなかったようで何より………なんか機嫌よくない? ……微妙に笑顔に黒いものが混じっていますよ?
「…悪くはないわ。自由を満喫できそうだし、面白いものも見れたもの。……滅鬼隊の皆は?」
中でわちゃわちゃ食っちゃべってるよ。悪いけど、まだ外に出てもらう訳にはいかん。差し当たり、飯食って体の動きを確認してもらってる。
好きに行動してもらうにしても、せめて霊山から離れてからにしたい。
ところで、面白いものって?
「………あいつが禁軍にしょっぴかれるところ」
…あー…。術で乗っ取った時に気絶させて、そのままにしてたっけ。
で、禁軍に行ったらそいつの情報を真っ先に喋って確保に向かわせたと。
「無様に喚き散らしていたわよ。自分が誰なのか分かっているのか、切腹させるぞ貴様ら、って。証拠もとっくに抑えられて、持っていた権力も剥ぎ取られている自覚もなし。お仲間…自分と同じように連行される連中の顔ぶれを見て、真っ赤だった顔が段々青くなっていってね。滑稽極まりなかったわ」
「それを眺めていたからと、儂まで巻き込んで影で見物していたのだ、この小娘は…」
ニヤリと笑う詩乃は、黒いって言うかむしろサディスティックだった。
…これ、長年の鬱憤が溜まっていたからだと思ってたけど、元々の素質もかなりあるな…。
まま、ええわ。他人に対してはともかく、俺に対しては虐められて悦ぶように躾けるつもりだし。
で、詩乃。例の計画、本気でやるつもりか?
「勿論。これまでの屈辱を10倍返しにしないと気が済まない」
無駄に危ない橋を渡る事になるし、正直趣味じゃないし、何より時間が勿体ないんだが……まぁ、それが協力の条件だったしな…。
こっちの荷造りとかの準備も、山本先生とかに任せてればいい。
無理に俺がここに居る必要もないか。…一応、俺が居なくなった途端に好き勝手しないよう、滅鬼隊に声をかけておく。
さて…行くか。
夕闇に紛れて霊山に戻る。朝っぱらから派手な逮捕劇があった為か、霊山全体がザワついているようだ。
詩乃も仮にも元暗殺者、隠密行動はお手の物だ。
それ以前に霊山のお偉いさんたちはかなり混乱しているらしく、入り込むのはそう難しくない。
さて、詩乃の用事に付き合う前に、ちょっと行っておくところがある。
「? 別にいいけど…。本命さえ果たしてくれれば」
大した事じゃねーよ。霊山から出る事になったから、知人に挨拶に行くだけだ。
お前が間違えて撃ち抜きそうになった子もその一人だ。
「う…。……開幕土下座でいいかしら…」
今は時間が無いから、その辺の事は黙っておけ。…完全に色ボケにしちまったから多分、おかげで俺と結ばれる事ができた…なんて言われて複雑な気分になるぞ。
狙撃手の死隠が自首した事で、狙われる危険も無くなってるしな。
道場までやってくると、そこはまだ禁軍によって閉鎖されたままだった。
狙撃犯は自首したが、まだ現場検証が終わってないのか、脱走して再襲撃されるのを警戒しているのか。
「さぁ、それはどうかしら。私は自害した事になってるし。『もう使われるのは御免』って遺書まで残したわよ」
芸が細かいな…九葉のおっさんの指示か?
まぁいいけど。さて、直葉ちゃんと桐人君は…。お、居た居た。
おーい、お二人さん。
「あれ、兄貴? えっと…入って貰ってもいいですよね? この人も、狙撃を受けた時に一緒に居た関係者ですし」
「いらっしゃい!」
入れていいかと確認を取る桐人君を他所に、飼い主が来たワンコみたいに擦り寄ってくる直葉ちゃん。
俺の顔を見るなり淫紋が光り、他の男に気付かれない角度で雌の顔を見せて媚びてくる。すぐにでも押し倒して、そのいやらしい体を衆目に晒してやりたい衝動に駆られたが、我慢我慢。今は他にやる事がある。
視線で制すると、残念そうな顔をしたが素直に普段の態度に戻った。
突然すまんな。ちょいと急ぎの用事ができたんだ。
「用事…? 任務の手伝いとかですか? 俺でよければ、出来る限り力になりますけど。………あ、あと、そっちの女性は…?」
「意外と、私に会いに来てくれたり?」
直葉ちゃん、ある意味正解…かな。色気のある話じゃないけどね。
唐突だが、俺達は霊山を離れる事になった。
「「…………は?」」
二人は俺と、何故か詩乃を交互に見た。
「「駆け落ちですか!?」」
違う。いやある意味間違ってないけど、どっちかと言うと集団夜逃げが正しい。
「いやいやいやいやいきなりどういう事ですかこのままじゃ直葉と結婚してもらって本当の義兄弟になろうという俺の完璧な計画がそれに俺達って事は兼一もですかなんでですか借金ですか刃傷沙汰ですか人妻にでも手を出しましたかそれとも横領」
「お兄ちゃん、全然気づいてないんですよねぇ…気付かれてもいいかな、って思ってたんですけど。駆け落ちだったら、私もついて行きます」
だから違うって。
うーむ、完全にパニックになっとる。桐人君だけが。直葉ちゃんはむしろ落ち着いてるなぁ。
「…何処に行っても、心は一緒ですから」
…ちょっとジーンと来そうになったけど、これの意味って淫紋刻んで魂ごと虜にしてるから、何処に行っても呼び出してセックス可能って意味だよね。
チラッと淫紋見せてるから間違いない。何より表情がクッソエロかった。これ、明日奈以上の肉食系っつーか肉欲系だよ。
心配せんでも、ウタカタに行っても好き放題に弄んでやるでぇ…。
ともかくな、ちょっと危険な揉め事に首を突っ込んでたんだが、それが目出度く解決したんだ。
「解決したならいいじゃないっすかぁ! 最近、ようやく女性恐怖症も治って来た感じがするのに!」
それ俺が居なくても関係なくね?
「相談できる人が兄貴以外に居ないんすよぉ! 他のモノノフに相談したことあるけど、腑抜けを見る目で鼻で笑われるか、からかわれるばっかだったんすよぉ!
…人間関係に恵まれねーな、この子…。恵まれてたら明日奈に喰われかけとらんか。
ともかく、俺一人ならどうとでもなるし、白浜君やシノノメの里から来てる人達も、大抵の事は対処できる。
ただ、集団で面倒みないといかん奴らが出てきてな…。
真面目な話、桐人君だって今の生活を捨ててついてくるって訳にもいかんだろ。
「私は別に構いませんけど」
「直葉!? …あ、いや、別に反対してる訳じゃなくて…その、道場とかどうするんだよ」
「そこは人に任せればいいし。今だって、管理人って言っても大した事してる訳じゃないもの。お父さんやお母さん所縁の場所ではあるけど、思い出は私達の中にあるし。…お兄ちゃんは、一緒に行きたくないの?」
「いや俺だって行きたいけどさ…。色々とほら、責任とかな? モノノフとしても見直されてきて、そろそろ上位に行ける見込みが…」
ほう、それは目出度い。
が、行く先は女性比率9割9分以上の超女社会が、大丈夫なのか?
「…………(汗)」
固まってしまった。流石に無理ないよなぁ…。明日奈も居るし、直葉以上のセックスアピール増し増しのセクシー集団だもの。
女性恐怖症にはキッツいもんがあるだろう。
真面目な話、将来はともかく、今は連れて行く訳にはいかんのよ。
さっきも言ったが、面倒を見ないといけない奴らが集団で出てきた。具体的には40人以上。
「よん…小隊並みじゃないですか!? そんなに一気に孕ませるなら、直葉にも手を出して」
黙りぃや。
…ちょっと手加減ミスったけど問題ない。
とにかく、今からそいつらの面倒を見なくちゃならん。図体ばかりでかくて、見た目は桐人君より年上でも、中身は童よりも年下だ。ついでに、あの体じゃ食い意地も張ってそうだな。雪風みたいに。
正直な話、余分な人間を食わせていける程、先行きがいい訳じゃないんだ。
あまつさえ、行き先は激戦区と名高いウタカタだ。
…まぁ、上手いことやれば、逆に一旗揚げて、身内を呼び込む事もできそうだけどね。
「…俺達は、足手纏いですか」
そこまでは言わない。。戦力にはなる。その程度には力がある。どうしてほしいか伝えれば、自分で考えてその為に動けるくらいには頭もいい。
でも、鬼一匹を斬り殺すのと、人間一人に一週間飯を食わせるの、どっちが労力が必要だと思う?
ウタカタの里だって、食料生産量には限界がある。今は戦力を増やすより、消費量を減らす事が重要だってだけだ。
箱…人が暮らす家すら、用意されているのか怪しいくらいだぞ。
…ま、何だ、今は連れていけないって言っても、それがずっと続く訳じゃないんだ。
手紙だって送るし、人を受け入れられるようになったら、受け入れる事だってできる。…その時までに、彼女作って一緒にやってきてくれると嬉しいね。…その頃には、超激戦区になってるだろうけど。
「むぅ…」
納得はしてないようだが、反論もできない桐人君。反面、直葉ちゃんは残念そうではあるけど、食い下がってはこなかった。
この辺は立ち位置の差だろうなぁ。
桐人君は自分も戦いたい、デカい事やるなら参加したい。
直葉ちゃんは、俺が言うなら素直に従います、寂しくても(呼び出して可愛がってくれるなら)我慢できます。
慕ってくれるのは素直に嬉しいが、反面申し訳なさ、後ろめたさもある。俺なんぞの為にそこまで…と、どうしても思ってしまう。やれやれ、こんなんじゃ桐人君に偉そうに説教できないな。
「ところで、さっきから蚊帳の外にしちゃってましたけど、こっちの人は? ひょっとして、さっき言ってた面倒を見ないといけない人の一人?」
「………どうも。詩乃、と言います」
直葉ちゃんの疑問に、ペコリと頭を下げて応じる詩乃。鉄面皮で対応しているが、そこはかとなく後ろめたそうだ。
まぁ、手違いで頭ブチ抜きかけたんだしな…。黙っておくように言っているが、本人を前にするといたたまれなくなってきたのか。
色々事情がある子なんだ。不愛想なのは勘弁してやってほしい。
そして、本当なら二人に対して真っ先にやらなきゃいけない事もあるんだけど、これまた時間の都合で後回しにさせている。やった事自体はともかくとして、そうさせているのは俺だから、後になって責めるならその辺は俺に言ってほしい。
「そう言われても、抽象的すぎて何が何だか…。まぁ、皆さんが大変な時期なのはよく分かったし、どうこう言うつもりもないけど…」
「よろしく…でいいのかな。あまり近付き過ぎない程度に…」
うん、後回しにしたのは俺だって事だけ覚えといてくれれば、後は…当人同士の問題だから。
…現状、出来るのはこの辺りまでか。ただでさえ時間が押しているのだし。
まーなんだ、とにかく俺と、世話しなきゃならん連中は明日には霊山を出る。
白浜君がどうするかは分からんが…まぁ、どうするにせよ、一度は顔を出すと思う。その時に話をしてやってくれ。
一方的に話しただけで悪いが、時間が無いからもう行くよ。向こうで落ち着いたら手紙を出すから。こんな別れ方で納得できないなら、死別するよりはマシと思っとけ。
次に会う時までに、腕上げておけよ。気になってる子に粉かけるのはいいけど、それに感けて怠けてるようなら張り倒すから。
「…兄貴、それ自分で言っててどう思います?」
心に! 棚を! 作れ! と思う。
冗談はともかく、まぁ期待してるよ。霊山で会うか、ウタカタで会うか、はたまた何処かの戦場で会うか…。それまで元気にやりな。
じゃーな!
「あ、ちょっ!」
「まぁまぁお兄ちゃん、急いでるって言ってるんだし」
「いやそうだけど、お前だって一言くらい」
「私は大丈夫からいいの」
後ろで二人がワイワイ騒いでいるのが聞こえる。色々な意味で後ろ髪を引かれるが、本当に時間が迫っている。
これからやる事は、お世辞にも大っぴらに出来る作業ではない。ついでに言うと趣味でもない。
でも、契約は契約だ。
詩乃も、居心地悪かったのもあるだろうが、『まだか?』と何度か視線を送ってきていたしな。
さて、今夜の大一番がやってきた。
舞台は罪人の居留地。率直に言ってしまえば牢屋だな。
江戸時代の牢屋っつーと、何人もの罪人が一つの部屋に閉じ込められて、そこで牢名主が居て…って想像があるんだが、霊山の牢は少し違った。
基本的に一つの牢屋に対して一人が収容され、その牢にはいくつもの術がかけられている。タマフリを使えないとか、霊力を抑え込むとか、そういう術だ。
これはモノノフ用の牢屋であって、一般人用の牢屋は、上記のようなイメージで運営されているらしい。
まぁ、牢屋を使用される事自体、そうそう無いが。
一晩拘留されるくらいならともかく、長期間牢に入れられるような大罪を犯す人間は少ない。居たとしても、大抵は短時間で裁きが下されて居なくなる。…釈放か、現世から居なくなるのかは状況によって異なるが。
ともかく、俺と詩乃はその牢屋の一角にやってきた。
無論、不法侵入である。見つかったら確実に禁軍にしょっぴかれる…いやそのままその場で牢屋に放り込まれるかもな。
尤も、俺も詩乃もそうそう気配を悟られる程間抜けではない。あっさりと入り込む事に成功した。
地図は無かったが、詩乃が構造を知っていた。もしも捕縛されてしまった時の為、脱出路を調べておいたそうだ。結局脱出路は使われる事は無かったが、今は逆にこんな事の為に使われている。
目的の場所は、詩乃に先導してもらって見つけた。牢の一角にそいつは居る。
おあつらえ向きに、周囲には見張りも居ないし、他に牢に入れられている人間も居ない。これは協力して脱走されるのを防ぐ為だろう。
詩乃、見回りの時間は?
「大丈夫。さっき終わったばかりだから、当分来ないわ。音を漏らさない結界の準備もできてる」
やれやれ、可愛げないくらいに如才なく準備してくれる事。ここまで来たら、覚悟を決めますか。
廊下の端から、目的の牢の中を観察する。
薄汚れた牢の中に、一人の男が座り込んでいた。
豪奢だったと思われる服は、草臥れ擦り切れた粗末な服に変わっており、何よりも表情がヤバい。
脱力してへたりこんだ全身、口元から垂れる涎、何もかもを遠くに放り投げたような目。陶然のごとく、焦点は合っていない。
…現実逃避中かな? それなり以上の立場や資産を持っていたのが、一日も経たずに不正の証拠を抑えられてこのありさまでは、現実を受け止めきれないのもありそうな事だ。
「…結界は張ったわ。行きましょう」
はいはい。
よう、新川某。気分はどうだい?
我ながら悪趣味だと思う言葉だったが、囚われの身である新川某は全く反応しなかった。これ、意識とか奪われてないよな?と思った所、突然目がぎょろりと動いて焦点が合う。
その先は、当然俺の後ろから歩いてきた詩乃。
「あ…あ…あやめぇぇぇぇ!!!!! なにをしているぅ! なぜたすけにこなかったぁぁぁぁ!」
「うるさい。無様なものね。ようやっと分相応の位置に落ち着いたとも言うけど」
ギャアギャアと声を張り上げているが、声は結界に遮られて外には漏れない。
絶対零度、それこそ汚物よりも汚らしいものを見る目を向ける詩乃。
だが新川某は自分に向けられている視線に全く頓着せず、鉄格子に張り付き、両腕を隙間から伸ばしていた。当然届く筈もないのだが、それも理解できないのかただただ腕を伸ばして触れようとするだけ。…牢屋の中に閉じ込められたゾンビみたいだな。
実際、表情も相まって、ゾンビか獣にしか見えなかった。
「ぅおまぇは、ぉおぉまえだぁけぇはぁぁぁぁ!!!!!」
「手放さない、とでも? 冗談じゃないわ、あんたの手元に戻るくらいなら、喉でも突いて死ぬわよ」
えらく執着されてるねぇ。その割には、随分と杜撰な扱いをしていたようだが。
「そういう奴よ、こいつは。最初こそ丁重に扱っても、飽きてしまえばそれまで。便利な道具にしか思わなくなる。確か、こいつを経由して暗殺命令を出してきた奴が、何か言ってたわね…。心の病を患っているとか」
精神疾患? まぁ、確かにどう見ても正常な状態じゃないけども。これ、落ちぶれたショックじゃなくて元からなのか。
…これ、見せつけたら憤死するんじゃねーかな…。
と言うか、見せられるものを理解できるだけの理性が残ってるんだろうか。
「残ってるわ、多分。ほら、こうして触れるだけで」
詩乃が俺に擦り寄って、もたれ掛る。
その途端、新川某は全く気にかけてなかった俺に、激しい敵意を籠めて睨みつけて来た。尤も、獣の殺気に比べれば子供騙しもいいところだし、そもそも檻の中に居るので何もできないが。
「おまえ、おまえかああああ!! あやめになにをしたぁ! おれのものにぃ!」
あやめ、どころか『おれのものに』、ねぇ。せめて自分で名前の一つでもつけてやってれば、違った結末もあったかもしれんな。
「どうでもいいわ。でも、ああやっていつまでも私が自分の物だと思い込まれるのも鬱陶しい。だから…」
体を擦りつける詩乃から、じんわりと雌の香りが漂ってくる。片手が懐に入り込み、まだ力が入ってなかった男の象徴を包み込む。
むくむくと頭を擡げるソレの感触に、詩乃の体温が上がっていくのが分かる。
「だから、私が誰のものになったのか見せ付けて、しっかり思い知らせないとね。こいつの手には、もう何も残ってないんだって」