※この作品はR-18です。

狩りゲー世界転生輪   作:時守 暦

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第465話

堕陽月拾惨日目

 

 

 4人部屋は、概ね好評だった。大広間で雑魚寝状態に比べて、静かに眠れるのがいいらしい。

 まぁ…五月蠅かったもんな。誰とは言わないが、イビキや歯ぎしり、寝言がでかいのが何人か居てさ…寝相が悪いのも居たし。夜中にトイレに行く時は、大抵誰か踏んづけるし。

 一部の隊員は、大広間で寝るのがいいと零しているのも聞こえた。…寝言が五月蠅いのと同じ部屋の子だったかな…。あとは夜にトイレが近い方が便利とか、寝るならとにかく広い場所で寝たいとか、個人個人の趣向だな。

 

 ちなみにそのトイレは、相変わらず大広間にしかない。幾つか増設しておかないとな。

 

 

 

 さて、それは置いといて、早速浅黄の出番がやってきた。つまり戦闘部隊への志願者だ。

 一番槍は渡さんとばかりに、小競り合いをしながら執務室に押しかけて来たのは、紫と権佐。流石に直接手を出そうとはしなかったが、どったんばったんと中々に大騒ぎをしながらやってきた。

 最初にやるのは試験であって、実戦での一番槍じゃないんだけどなぁ。

 

 と言うか、二人とも武器は? 権佐は確か…槍で、紫は大きな戦斧だって聞いたが。

 

 

「私の武器は、昨日里の鍛冶師に頼んだらすぐに貰えました。流石にその場で作ったのではなくて、霊山に居た頃に誰かへの当てつけに作った代物だとか言っていましたが」

 

 

 そんなドラゴン殺しを作った鍛冶師じゃあるまいし。

 

 

「俺のは数打ちの槍で結構。武器の強化も含め、一歩ずつ強くなっていきますよ。幸い、ここは鉄火場には事欠かないようですからね」

 

 

 それは幸いと言うべきじゃねーけどな。とりあえず、ほれ。お望み通り、数打の槍だ。

 試験開始は正午、飯が終わってからだ。

 一口に数内と言っても…いや、だからこそ結構な差があるからな。今のうちに手に馴染ませておけよ。

 

 

「わかっております。……ふむ………数打と言いますが、良い槍ですな」

 

 

 渡した槍は、ゲームで言えば文字通り初期装備の槍…だったと思う。しかし、その作り主はたたらさんである。必要最低限の性能だけしか付与してなくても、やはり他の鍛冶師とは格が違う。…ついでに言えば、この槍の構造自体も考え抜かれた物なんだろう。各種素材で強化していけば、最終的には下手な上位武器より強くなるからなぁ。それだけ発展性と言うか拡張性が高く、そうしてもバランスがとれるだけの配慮がされているのだ。

 槍を受け取った権佐は、玩具を手にした子供…と言うには少々物騒な笑みを浮かべた。

 

 

「ところで、試験をすると言っても、一体何をするんです? 一人で異界に出て、鬼を討伐してこいとか?」

 

「まさか筆記試験とか? 頭を使うのは得意じゃないんですがね」

 

 

 それいきなり実戦に放り出してるじゃねーか。そして筆記試験は別途行う。常識のテストとかもしないと…。

 まぁ、別の里ではモノノフ認定の試験として、随伴者付で異界の浅い部分に出して、素材を集めて目標地点に…って事もやってるんだが、今回は違う。

 

 前指揮官、浅黄との一対一の勝負だ。

 

 

「何っ!?」

 

「ほぉ…」

 

 

 楽し気な権佐と、激昂する紫。

 

 

「浅黄様に試験官をやらせるとは、どういう料簡だ!?」

 

 

 逆に聞くが、何か問題でも? 浅黄はあくまで前指揮官であって、今は俺の指揮下に入る事を本人も承諾している。命を下したところで、責められる筋合いはない。お前が浅黄を神聖化するのは勝手だが、それに俺が付き合う理由は無い。

 役割としても適役だ。戦いの経験という意味では、滅鬼隊の中でも最も多いだろう…そもそも実戦経験を覚えている者が数える程しか居ないが。故に隊員達の長所と欠点をよく理解し、それらが実戦に耐えうるものか、耐えうるなら何を補佐するべきか、耐えられないなら何が悪いのか判断できる。

 

 

「ぐっ…………あ、浅黄様に対して害意を以て挑む者が現れたら」

 

 

 その時は、浅黄自身が受けて立つだろうな。過去の過ちから来る害意なら、猶更逃げる訳にはいかん。衆目の場で仕掛ける事になるから、可能性は低いと思うけどな。

 そもそも、多少腕が立つ程度の滅鬼隊員で、浅黄をどうこうできるとでも? 一緒に討伐に行って分かったが、はっきり言って新米共とは格が違うぞ。

 

 後は…そうだな、浅黄の名誉挽回には丁度いいと思うがね。

 何のかんの言って、滅鬼隊は脳筋もとい戦う事に重点を置いている者が多い。そういう奴らにとって、強さとは最高の栄誉、身分証となり得る。

 相応の実力を示せば、浅黄への敬意も生まれてくるだろう。

 

 

「確かにそいつはありますな。隔意を持っているつもりないし実感もありませんが、一度自分達を破滅に追い込んだ指揮官、という認識は確かにある。そこそこ重要な役割で、指揮には関わらず、そして強さを如何なく示す事ができる。成程、確かにこいつは適役だ」

 

「うぐぅ……」

 

 

 ありがと、権佐。ついでに言えば、そもそも浅黄自身も了承してるんだ。異を唱えるなら、それこそ浅黄の意思に反する事になる。

 どうしてもと言うなら、浅黄を説得して自分が代わりに試験官になるんだな。その場合、充分な実力があるか俺からも確かめさせてもらうが。

 

 話はここまで。文句を垂れている暇があれば、準備運動でもしとけ。封じられ続けて鈍った戦いを見せたいか?

 

 

 

 

 

 

 さて、諸々の事を片付けながらも、昼。飯を食いながらも、普段以上に皆ざわついている。既に権佐、紫が試験に挑む事は知らされていた。と言うか俺命で時子が全体に通達した。

 近寄って声援を送る者も居れば、予想を言い合う者、賭けを行う者(賭けるのは飯のおかず一品)、自分達が挑むならと考え込む者。

 最初の試験と言う事もあり、各種の任は中断していいので、できるだけ目にしておくよう通達する。

 

 

 

 …のはいいんだが。普段見ない人がいるのは何故だろう。いや別にいいんだけどさ。

 なぁ、大和のお頭と…。

 

 

「ああ、息吹ってんだ。ウタカタ一の伊達男! よろしくな!」

 

 

 ああ、よろしく。しかし、本当によろしくしていいのかね? 目に殺気が籠っているように感じるが。

 

 

「…おいおい、物騒だな。何で俺が人間に刃を向けるんだよ」

 

 

 あと、嫉妬も籠っているように感じるが。

 伊吹はピタリと動きを止めた。そして、油を指されてないロボットのような動きで、俺の両肩を掴む。

 

 

「……………あの、なぁ」

 

 

 おう。

 

 

「羨ましいんだよ、この野郎! なんだこの美人揃いの集団! 霊山から一個小隊の援軍が送られてくるって聞いて、訳在りだとは思ってたけどよ! しかも、皆揃ってお前に好意を持ってるとか! ああ、見ればわかるよ、見ただけで分かるよ! なんでこんなかわいい子達から、一斉に好かれてんだこの野郎!」

 

 

 おう、血涙拭けよ。

 …まぁ、大なり小なり好かれてるのは確かだよなぁ。刷り込みの物であっても。

 …刷り込みではなくなった雪風と、この状態を受け入れている明日奈と神夜の存在だけでも、嫉妬マスクが誕生するくらいの反応をされそうだが。

 

 

「息吹、その辺にしておけ。言いたい事は分からんでもないが、初対面の相手にする事か」

 

「うっうっ、分かってるよ…分かってるけどさぁ、大和のお頭……分かるだろ、俺の言いたい事…」

 

「生憎俺は妻一筋なんでな」

 

 

 で、寸劇はともかくとして、結局どしたのよ、いきなりやってきて。

 この前話した練武戦は、まだ準備も整ってないだろ。

 

 

「似たような催しがあると聞いて、様子を見に来ただけだ。…そうでなくても、この数日で突然こんな物が出来上がったと聞けば、気にもなる。何処の一夜城だ」

 

 

 あーまぁ、確かに。家かと思ったら、実は鬼が入り込んでいて巣を作った…なんて話だったら洒落にならんし。

 

 

「で、俺はその護衛な。別嬪さんが居ると聞いて、会いに来たのも事実なんだけど」

 

 

 ほほう、で、その別嬪さん達に会った感想は? もう粉かけたのかね?

 

 

「いや…あんな事を言っておいてなんだけど、流石にここまで揃ってるとは思わなくてな…。目移りしてるよ。と言うか、女所帯で肩身が狭くないか?」

 

 

 いや別に。…でも俺はともかく、骸佐達は大丈夫かな…。

 で、二人とも見ていくのか? 伊吹…呼び捨てでいいよな? 伊吹は槍使いみたいだし、権佐の戦い方を見て助言の一つもしてくれるとありがたいんだけど。

 

 

「ああ、構わんぜ。代わりにお嬢さん達との逢瀬…と言いたい所だが、口を出すだけで見返りを求めるのも強欲か。これからモノノフとしての任につくなら、お近づきになる機会くらい幾らでもあるだろうし」

 

 

 主力部隊に行ける奴はそうそう居ないと思うけどな…。とりあえず現状、大型鬼と一対一でもやりあえるのは、俺、神夜、明日奈、詩乃か。

 役割上、斥候部隊の救助とかに人数を割くつもりだし。

 

 そう言えば、その辺の打ち合わせもまだだったな。大和のお頭、後で話をする時間、いいかい?

 

 

「うむ」

 

 

 あと人参食え。娘さんに告げ口するぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、飯も終わって、試験の時間だ。既に当事者の3人は、無言で集中力を高めているようだ。

 まず最初に手合わせするのは紫。権佐は一番槍に拘っていたが、丁半博打で負けたんだから仕方ない。

 

 円形に集まった見物人の中、大きな戦斧…いやマジででかい…を持った紫と、双刀を持つ浅黄が対峙する。

 それを見物する皆は、地面なり木の枝の上なり適当な所に陣取って、始まるのを今か今かと待っていた。ちなみに、俺の隣は神夜明日奈、背中に詩乃、あぐらをかいた足の上に雪風、さらに災禍がお茶汲みまでやってくれている。もう一回息吹が吠えたが気にしない。

 

 浅黄と紫の間に天音が立ち、司会を務める。

 

 

「それでは、試験を始める。先も説明した通り、これはあくまでモノノフの任を受ける力量があるかどうかの試験だ。勝てばよいというものでもないし、場合によっては浅黄に勝ったとしても、内容次第では失格となる。道具の使用も制限は無し、タマフリも使って構わない。周辺に気を遣う必要はない。見物人は、自分の身は自分で守るように。長引くようであれば、途中で中断する事もある。場外負けは無い。その辺りの森に入り込んで攪乱するのも有りだ。以上、質問はあるか? …無いな。では、互いに構えて」

 

 

 口上を聞いていたのかは定かではないが、浅黄と紫は目線を合わせて睨み合っている。

 …正直、紫は浅黄と手合わせするなんて畏れ多い、なんて言い出すんじゃないかと思っていたが…逆に貴重な機会だと割り切ったのかな?

 まぁ、何でもいいか。

 

 

 

「始め!」

 

 

 天音が開始の宣言をし、飛びのくと同時にドスンと鈍い音、そして立ち上る土煙。

 紫の先制攻撃だ。小細工無用とばかりに、全力で戦斧を振り下ろした。刃こそ包んでいるとは言え、その破壊力は見ての通り。威力だけで考えれば、間違いなく大型鬼に通用するだろう。粉砕された土塊が飛び散り、ちょっと悲鳴が上がった。

 対する浅黄はと言うと、サイドステップで事も無げに避け、土埃すら被ってない。反撃する余裕は充分にあった筈だが、これは試験。紫の実力を見る事が目的だからか、積極的な手出しは控えるつもりのようだ。

 

 それを理解しているのかいないのか、紫は一気呵成に責め続ける。小癪な小手先や様子見など不用とばかりに、続けざまに斧を左右に振り回し、猛烈な圧力をかけ続ける。

 強烈な破壊力と長柄の武器が合わさり、まるで台風のような勢いだ。

 

 近くでいつものように仁王立ちして見物していた大和のお頭が、小さく呻く。

 

 

「むぅ…粗削りもいいところだが、信じられん膂力だな。破壊力だけなら、強力な鬼にも通用するぞ」

 

「ですね。いやぁ、あの力で抱きしめられたらと思うと……色んな意味で震えるな。普通の使い手なら、あんなやり方は成り立たないが…力で全て反動を抑えこんでるのか」

 

 

 …まぁ、まず間違いなく前進骨折だわな。

 それはともかく、普通であれば息吹が言うように、このような戦い方は不可能に近い。どうやったって、バランスが取れないからだ。

 強い破壊力があると言う事は、それ相応の反作用が生じる。それを逆に利用するにしても、人間の腕力であんな物を軽々と振り回すなど、とてもではないが出来はしない。ハンターですら、大剣を使おうとなれば動きが鈍くなり、手数が落ちる。それに加えて、紫が使う斧は重心が先頭にあるのだ。それだけ扱いは難しくなってくる。

 それを小枝のように…いや長さから言えば竹箒のように…振り回しているのだから、息吹と大和のお頭の驚きもよく分かる。俺だって、大剣使って双剣よろしく乱舞してたら目を疑う。…アラガミ化すればできるけど。下手すると一発一発が真溜め切りくらいの乱舞ができるけど。

 

 一方で、紫はそれを軽々と避け、合間合間に反撃を織り込んでいた。横薙ぎの連撃を下がって避け、切り上げを空かすのに合わせて踏み込んで首と胴を狙う双刀。それを斧の柄を盾代わりにして防ぎ、反撃に石突を払って牽制、その勢いのまま一転して遠心力を乗せた斬り払い。

 …確かに、強い。以前の活動では失敗が多かったと聞いて、侮っていたのは俺だったかもしれない。使いどころさえ誤らなければ、彼女は思っていた以上の戦力になるだろう。一番の使いどころとしては、倒れてもがく大型鬼への追撃か。それにしたって、周囲を巻き込まないように場所取りする必要はあるが。

 

 

 土煙が立ち込める中、ヒラヒラと紫の攻撃を避けていた浅黄が動きを変える。一瞬だけ俺に目配せして許可を取った後、反撃に移った。攻めの力は充分に見た、と言う事だ。単純ながらも強力な爆発力。充分に合格ラインを超えていると言えるだろう。

 さて、そうなると今度は受けの力を見るのだが…。

 

 浅黄は受け手に回っていた時とは違い、紫の間合いの更に内側に入り込んで攪乱する。長柄の武器だからこそ、内側に入られると対応しにくい。これはどの武器でも同じだろう。

 が、紫は受け手に回ろうとしなかった。空気読め…とは言えないか。受けに回らないというやり方こそが、紫の受けの戦い方のようだ。

 圧倒的な破壊力で、常に相手を寄せ付けない。もしも今のように近づかれたら。

 

 

「失礼っ!」

 

「っ!?」

 

 

 長柄を自在に操る膂力を籠めた拳が飛んでくる。一瞬驚いた浅黄だが、慌てず体を捻って避けた。しかし、その間に紫は距離を取り、自分の間合いを維持している。

 …これが近づかれた時の対処法と言う訳だ。身体能力、特に単純な膂力は、尤も有効かつ分かりやすい武器だ。密着されようが武器を取り上げられようが、最後まで持っていられる武器。

 あれだけの力があっても、白打では鬼には通じないだろうが…逆に、反動で自分を逃がす事ならできるだろう。

 よく考えられている。脳筋極まりないけども。

 

 ふむ…浅黄、紫。見る必要があるものは見た。力も、欠点もだ。

 次で終わりにしろ。

 

 

 

「…分かったわ」

 

「……浅黄様、失礼いたします」

 

 

 戦斧を構えて、浅黄を見つめる紫。…それに対する浅黄は……ふむ、あの構えは疾駆…とはちょっと違うな。そういえば、戦闘スタイルをミックスしようとあれこれやってた時期に、似たような構えをためした覚えが………ああ、成程。浅黄も紫の欠点に気付いて(或いは最初から予想していて)、それを突く形で終わらせるつもりのようだ。

 

 ほんの一瞬、西部劇のように風が吹き抜けて(土埃で目が痛いと言ってるのが何人か)、矢のように飛び出す紫。大上段から叩き落される戦斧に、浅黄は躊躇いなく突っ込んだ。

 斬られた!?と思ったのがどれだけ居たか。

 

 

 一瞬後には、地面に叩きつけられる寸前の斧を止められ、喉元に刃を突き付けられた紫が居た。

 

 

「そこまで!」

 

 

 半ば忘れかけて見入っていたであろう天音が、試験の終了を宣言した。

 一瞬の沈黙の後、歓声が上がる。…賭けに負けたと罵声もあがった。

 

 

 

「順当な結果、でしたかねぇ」

 

「終わってから言うのも格好悪いけど、まぁそうね。場数が違うわ。雪風、悪いけど一品貰うわよ」

 

「神夜にも明日奈にもあげなきゃいけない……このままだと、夕飯がご飯と味噌汁と漬物だけに…。ぐ、ぐぬぬぬ…ま、まだ権佐の戦いがあるわ!」

 

「どうして大穴に賭けたがるんでしょうねぇ、この子は…」

 

「だって勝ったら私の好きなおかず作ってくれるって言ったじゃない!」

 

 

 明日奈と神夜、雪風の会話である。カモられとるなぁ…。そして飯は最初から明日奈が作ってるんだから、雪風から一品貰ってもあんまり意味なかったりする。

 

 この3人を含む、俺の周りの連中は何があったのかしっかり見えていたようだ。息吹やお頭も含めてね。

 驚いているのは、詩乃と雪風だけかな。原理的には、そう難しくない技だったし。

 

 理屈は単純。踏み込みながら、タマフリの空蝉を使って攻撃を無効化しながら懐に入り込み、関節を掴んで腕を動かなくさせる。同時に刃を突き付ける。これだけだ。

 それまでタマフリを使ってなかったのは、浅黄は必要なかったからで、紫は…使い慣れてないのか、或いは忘れてたかだろう。ルールでも禁止されてなかったんだし、突然使った事には何の問題も無いな。

 

 

 

「さて、判定は?」

 

 

 ん? ああ、戦闘力自体は合格。ただ、最後の浅黄の動きに対応できなかったように、周りが見えなくなる傾向があるから、そこらへんは要訓練だ。

 戦闘には出てもらうが…良くて準主力級だな。尤も、そこが一番求められている場所でもあるんだが。

 

 

「…構わない。実力を正当に評価してもらえるなら、地力で成り上がろう」

 

 

 主力級とされなかったのが不満のようだが、それでも納得しているようだ。

 …多分、前に活動していた時にはその評価すらされてなかったんだろうなぁ。

 

 

 さて、天音。

 

 

「はっ。続けて、権佐の試験に取り掛かる。浅黄、休息は無いが、構わないな?」

 

「ええ。続けて頂戴。錆び落としも続けたいしね」

 

「ほう、俺が錆び落とし扱いか。聞き捨てならんなぁ」

 

 

 飄々としている普段の権佐とは違い、槍を手にした権佐の目付きは凶悪だった。

 だが怒りではない。殺意でもない。それらを飲み込んだ闘争心だ。…骸佐も似たような部分があったが、権佐は輪をかけて戦狂いの類らしい。それこそ、明確な実力差があるのに、神夜が僅かに笑みを浮かべる程に。

 

 

 要するに、勝つとか負けるとか生き残るとか食われるとかをマルっと後回しにできる、ヒャッハー勢の一人な訳ね。…こいつ、充分な力を持ってても実戦投入していいのかなぁ…。…いや、物は考えようだ。死地こそ喜ぶタイプなら、花の慶次みたいに負け戦や殿に置けばすんごい底力を発揮するんだと思おう。死兵になられても困るけど、そこは回りでカバーすればいい。

 まぁ、何にせよ……紫とは一風違った戦いになりそうだ。

 権佐はさっきの戦いでも、浅黄の太刀筋を見てるしな。…あれを見てると言っていいのかはよく分からんが。

 

 

 

 槍を携えた権佐が、紫に変わって進み出る。…地面がひでぇデコボコだな…。

 権佐、不要だろうけど一応聞いておく。足場はこのままでいいのか。

 

 

「ええ、構いません。平地で戦うより、荒れ地での戦いの方が多いでしょう」

 

 

 まぁそうね。浅黄もいいな?

 

 

「構わないわよ。そのままでも」

 

「……そうかい」

 

 

 槍を構え直す権佐。挑発、と受け取った者はどれだけ居たか。浅黄の言葉の真意も、分かった奴は居るだろうか? …そこまで考察できるだけの下地がありゃいいんだけどなぁ、本当に。

 少なくとも、天音は気づいていないようだ。まっすぐに権佐を見ている。意識は改善されたが、まだまだ経験不足よの。

 

 

「では、始めっ!」

 

 

 さっきと同じように飛びのく天音。土埃を警戒しているのか、顔を庇っていたが…無駄になった。

 今度は先程とは逆に、浅黄が先手を取る。

 どこから持ってきたのか、手裏剣を投擲。これは軽々と権佐の槍で払われた。その隙に間合いを詰めようとしていた浅黄に連突き。そこそこの速さを持った突きだったが、息吹が顔を顰めるだけだ。

 

 

「…もっと出来る奴だと思ったんだが…」

 

 

 ああ、実際できるよ。今はちょっとした仕掛けの為にああなってるだけだ。

 タマフリ使ってるんだけど、普通じゃないんだよ。それを知ってりゃ、息吹も気付きそうなもんだが。

 

 

「…ふ、ん…? もう少し期待して見てみるか」

 

 

 同じ槍使いを見る為か、息吹はちょっと目が座っている。…或いは、死地を楽しむ権佐の性格が気に入らないのだろうか?

 

 それはともかく、浅黄は責めながらも権佐の動きを制限しようとしない。攻撃と防御を完全に分けて、権佐が何かしようとしたら邪魔せずやらせてみるやり方だ。これが本気なら、突きの前に斬りつけ、薙ぎ払われる前に殺気で怯ませ、呼吸を整える前に背後に回って首を掻き斬るだろう。

 それが出来るだけの実力差がある。今の権佐とは。

 

 

 数合の打ち合いを経て、権佐が仕掛ける。封殺された状態から脱する為の、一発大勝負…と見えるだろう。実際、それは間違っていない。

 

 

「ふっ、ぬんっ、おおぉぉぉ!!!」

 

 

 左、右、一瞬のディレイを加えての烈塵突。突然早くなった突きに、大抵のモノノフなら対応できないだろう。

 だが、浅黄は大抵のモノノフではない。タマフリ『韋駄天』を遣い、移動速度を強化。バックステップで初撃を避けたかと思うと、堂々と烈塵突の中に飛び込んだ。

 

 驚異的な動体視力で全ての突きを見切り、12発目の突きに合わせて飛ぶ。空を切り、引き戻される槍に足を乗せてもう一歩加速。文字通り瞬きする間に、浅黄は権佐の背後に飛び回った。

 

 

 

 そして、躊躇う事なくその首を跳ねる。止めようとした大和のお頭と息吹を、抑えて止めた。

 

 

 

 ポーンと飛んだ首が、骸佐の前に転がる。

 

 

 

 

 

 

 

 と同時に、地面から無数の突きが着地寸前の浅黄を狙って迫った。

 

 

 戸惑いもせず、浅黄はその槍の先端に爪先を乗せ、刃に貫かれない角度で再度飛び上がった。

 

 

「やはり、この程度では通じないか…避けられない時を狙ったつもりだが」

 

「それは「ごごごご権佐さぁぁぁぁぁ!?!?! 無事え、首っ、無事ぃぃぃ!?」……」

 

「落ち着け馬鹿! 土遁とタマフリを使った分身だよ! この前、お互いタマフリの詳細を知っただろ!」

 

 

 …ものっそい勢いで慌てる鹿之助を、骸佐が手荒に宥めている。まぁ無理も無いよな。いきなり殺人シーンだもんな。

 唖然としているのは、大和のお頭と息吹も同じだ。 

 

 何がどうなってるかっつーと、話は簡単。骸佐も言ってたが、これも滅鬼隊特有のタマフリである。

 権佐は土遁使い。通常のタマフリと土を操る能力を組み合わせ、操る事ができる。

 

 さっきの紫と浅黄の戦いの時から、権佐は既に土で作った変わり身と入れ替わっていたのだ。始まる前のやりとりはその事だ。

 ついでに言えば、地面がグッチャグッチャになってるこの状況は、地面に潜れる権佐としては有利な条件である。そういう意味でも、このままでいいかと聞いたんだが……うん、こりゃ格が違うね。

 

 

「はははっ、いやぁ参った参った、さっきの戦いを見るのを棒に振って仕掛けてみたが、こうも綺麗に避けられるとはなぁ!」

 

「地面を移動する時の振動で分かったわよ。紫の攻撃の衝撃に紛れて動いていたようだけど、その後に狙いをつける為に動くようじゃ意味が無いわね」

 

「手厳しい…いや、俺が温いのか。幸い次がある戦いだし、教訓にさせてもらいますよ」

 

 

 そう言って、今度は正面から戦い始める。

 …奇襲をかけるよりも、こっちの方が楽しそうだな。

 

 

「おい、今のは何だ? 土竜(モグラじゃなくて鬼のドリュウな)のように地面に潜っていたように見えたが」

 

 

 見た通りですな。大和のお頭は聞いてると思うが、うちの連中はちょっと普通じゃないタマフリが使える。

 そいつを使って地面に潜り、代わりの土人形を動かしてたって訳だ。

 

 そんな事が出来る筈がない、って先入観を無くせば、二人なら気付いたと思うぞ。動きは悪くなかったけど明らかに不自然だったし、地面にも微かに不自然な隆起が出来てた。鬼と戦ってれば、何度か見た事はあるだろ? 地面を泳ぐような奴ら。

 

 

「言われてみればそうだが…いやはや、話には聞いていたが、面白いものだ。…これを全員が出来ると言うのか?」

 

 

 人による、としか言いようがないなぁ。さっきの紫なんかは、こういう事はできないけどあの膂力だし。

 …正直言って、逆に部隊編成を考え辛いな。一人一人の能力や適正が違い過ぎるから、不和や足の引っ張りあいが起きかねない。

 

 それはともかく、権佐は浅黄に猛攻撃を仕掛けている。さっきまでの動きの不自然さ…人形だったんだから当たり前だが…はなりを潜め、鋭い突きと豪快な薙ぎ払いが繰り出されている。この槍捌きには息吹もにっこり。

 特筆すべきは、権佐が土遁を使うタイミングだろう。最初の奇襲こそ見事に対処されたものの、それは大した痛手にならなかったらしい。土を操る力があると言う事は、足場を操る力があるに等しい。

 

 足元にノーモーションで落とし穴を作り、避けきれないと判断した反撃は地面に潜って避け、そして真下から槍だけ伸ばして攻撃する。ようやく飛び出してきたと思ったらそれは人形で、仕留めようと動いた浅黄の背後を取る。

 性格に見合わない、老練とすらいえる戦い方だ。粘り腰、とも言う。反撃に転じた浅黄が攻め切れないくらいだ。

 権佐独特のタマフリを、フルに使った戦い方と言えるだろう。…それは紫の怪力も同じなんだけど、随分印象が違うなぁ…。

 

 

 

 ただ、権佐が地面に潜る度、穴がボコボコ開いてんだよなぁ…。

 

 

「…ここって、里のモノノフさん達が出撃する時に通る道でしたよね?」

 

「…しっかり埋めておくように」

 

 

 了解っす、大和のお頭…。今後は試験やる場所も考えないとなぁ…。

 遠い目をしている間にも、試験は佳境に向かっているようだった。浅黄が徐々に、権佐の間合いを犯しつつある。槍の軌道を見切られ、土遁は何処から出るか先読みされ、槍の間合いを保てなってきた。

 それに対処できず、徐々に追い詰められているように見えるが……そんな素直に負ける筈がない。死地を楽しむ人種だし、少なくとも最後に何か仕掛けるつもりなのは間違いない。

 

 …少なくとも、試験は充分に合格だ。ここで止めるか?

 決断しようとした瞬間。

 

 

 

  カーン カーン

    カーン

 

 

 鐘の音が響き渡る。里の方からだ。

 音に反応して、仕掛けようとしていた両者が止まる。

 

 

「やれやれ、いい所で襲撃か。若、どうします?」

 

 

 どうもこうもない。撃退準備にかかれ。

 権佐と紫、まだ戦えるな? 試験は合格だ。班編成その他については後に通達するから、まずは撃退戦に加われ。

 

 不完全燃焼だろうし、権佐、先陣を切っていいぞ。

 

 

「よし来た、流石話が分かる!」

 

「それなら、俺も一緒に行かせてもらおうか。なぁに、ウタカタ一の伊達男、足は引っ張らないぜ。少なくとも、道案内は必要だろ」

 

 

 同じ槍使いとして血が騒いだのか、息吹も権佐と共に行ってくれるらしい。大和のお頭に一応お伺いを立てると、無言で頷かれた。

 ま、大体の敵なら大丈夫だろう。まだこの時期だと、出ても精々カゼキリ、ヒノマガトリくらいの筈。…妙な進化とかしてなければ。

 

 さて、何だかやる気になってる連中も多いようだし、とっとと撃退するとしますかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 今回も割とアッサリ勝利。ウタカタの里から援軍がやってくる前にカタがついた。

 最初は小型鬼の群れ。長柄の武器3人組での戦いだったから、文字通り蹴散らしてしまった。

 土竜が群れを成して出てきた時にはちょっと焦ったらしいが、権佐がタマフリを使って地中戦を繰り広げたらしい。…まぁ、見えないしな。詳細は分からんわな。

 

 一匹だけカゼキリが出張って来たんだが、高速で接近しての奇襲は息吹が対処した。狙われたのは紫だったが、息吹が庇うまで全く気付いてなかったようだ。やっぱり、ちっと問題があるな…。

 流石にカゼキリには少々手古摺っていたが、その間に他の隊員達による援護の準備が出来た。戦いながら徐々に引いて誘導し、殺し間に入た瞬間に集中砲火で仕留めた。やはり遠距離攻撃と集中攻撃は偉大である。

 

 

 コトが終わって、大和のお頭と息吹は、援軍として駆けつけてきた桜花達と共に戻っていった。

 

 

「中々いいものを見せてもらった。これ程の使い手が里で戦ってくれるなら、これほど頼もしい事は無い。話をしていた練武戦も、大いに盛り上がりそうだ。今後も厳しい戦いが続くだろうが、よろしく頼むぞ」

 

 

 だそうな。諸々課題はあるが、とりあえず実力は認めてもらえたらしい。

 『独特のタマフリ』について聞いて来る息吹も止めてくれたし、大和のお頭は相変わらず出来たお人やでぇ。

 

 それはそれとして、問題が無い訳でもない。紫が鬼の奇襲に気付かなかった事からも分かるように、やはり周囲への警戒が疎かになりがちである事。

 そして、今日の戦いに触発されたのか、試験の受験希望者がゾロゾロ出てきている事だ。

 

 浅黄自身は、まだまだ自分の動きに納得いっていないらしく、連戦は望むところ…と言っているが、立ち合い人をどうするか。

 俺だって自分の作業がある訳だし、全てを見ていられる訳でもない。明日奈達にも仕事を振っているので、そっちを中断してもらう訳にもいかない。代わりが出来る人材を育ててはいるが、まだまだ目が離せない状態だ。

 

 うーむ……せめて、書類仕事する時間をどうにかできればなぁ…。

 まぁこの書類だって、誰かからやれって言われた訳じゃなくて、今後の運営に必要だと思うから俺が纏めてるものだ。ぶっちゃけ、自分で仕事作って自分で忙しくなってるようなもんです。放り投げたって、誰かから叱責される訳じゃない。…でもやっとかないと、後でてんやわんやになりそうなんだよなぁ…。

 

 他に削れる時間と言えば、精々睡眠時間くらい。やろうと思えば、ハンター式熟睡法で5分くらい眠って、その後バリバリ働けるんだが………いや無理だな、夜は夜で女遊びして

 

 

 

 

 

 ん?

 

 

 

 

 あ、そうか、この手があったか。

 

 

 

 

 

 

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