堕陽月拾伍日目
結論から言うと、不知火の状態は思っていたより数段危険だった。彼女に加えられた改造の事を思うと、むしろよく今まで崩壊していなかったと心底思ったくらいだ。
少し話しただけで、おかしな言動が出る出る。支離滅裂で不安定。落ち着いているように見えても、視線や表情がまるで安定しない。焦点も合ってなかった。
これに気付かなかった自分を、本気でブン殴りたくなるくらいだ。内面観察術でもなんでも使って、中身まで把握しておくべきだった。
…『不知火』は他の滅鬼隊同様、改造されて待機状態にされ、そのまま封印されたものだと思っていた。男と交わるのが起動方法なのに、処女だったからな。
だけど、そうじゃなかった。彼女は今まで何度も起動し、そして『初期化』された不知火だったのだ。
滅鬼隊を起こす方法は、男だけじゃない。特定のキーワードを、霊力を伴った声で聴かせる事で目を覚ます。現に、雪風がこの方法で目を覚ましたからな。キーワードが何だったのかは未だに分からないが。
ついでに言えば、鹿之助とかは精液ぶっかけで目を覚ましたから、文字通り交わる必要がある訳ではないんだろう。何なら、尻を使うという手もある。
どうしてわかったかと言えば、浅黄が会った事がある『不知火』と同じ傷跡があったから。それも含めて改造されたのかとも考えたが…滅鬼隊を作っていた連中の趣味嗜好からして、玩具に意味も無く傷をつけるとは考えにくい。
では、その時の事を覚えていなかったのは、嘘や芝居だったのか?
…そっちの方が、余程良かった。
この『不知火』は、任務が終わる度に初期化され、次の任務に都合のいい人格を植え付けられていたのだ。
調整を施されて目を覚ましたなら、まだ良かった。しかし今回は、初期化され、そのまま目を覚ました。…初期化されずに残った記憶の断片や、植え付けられた人格の名残が幾つも幾つも重なり、自分という人格が分からなくなっていった。
殊更に最悪だったのは、彼女が人妻、雪風の母として設定されていた事だろう。
人妻…つまり既婚者。恋愛結婚した相手が居る。思慕を寄せる、心の拠り所となる愛する相手が居る。…………だが、それは設定でしかなかった。
架空の旦那に対して愛を誓い、運営主にいい様に弄ばれ、任務先で出会った異性に惹かれ…そして捨てられ拒絶される。
とにかく心の拠り所を奪い、或いは汚し、それに縋る姿を滑稽だと眺めていたんだろう。
下手をすると、『娘』の雪風に会ったのすら、今回の起動が初めてなのかもしれない。
で、どうしたかって? そりゃいつもの手段で解決したよ。
主に触れられると精神的に安定する、という滅鬼隊の特徴もあったし……要するにこの場合、依存対象を作ればよかった。依存と言うと悪い言い方に聞こえるから、心の拠り所かな。
架空の旦那から寝取って、愛上を実在の人物…俺に向けるよう仕組む。精神状態にも干渉し、強すぎる悦楽で一度何もかもを粉々にし、そこから再構築する。…イメージ的には、PCの再起動みたいなものかなぁ。ブルースクリーン画面にならなくてよかった。
何はともあれ、一晩過ぎた今となっては挙動不審もすっかり治まり、娘兼棒姉妹となった雪風に母として(歪んだ)愛情を注ぎ、その上で俺を至上とする超スキモノ熟女となってしまった。
…別にいいんだけどね。安定させるのに一番手っ取り早い手段だったから、半ば洗脳じみたやり方になるのは分かってたし。
不知火は柔らかかったなぁ。ここまで肉感的な体もそうそう無い。神夜が近いと言えば近いんだけど、熟女特有の柔らかさと言うか深みがね。代わりに、神夜には若さ故のハリがあるんだけど。
…ちなみにその不知火は、今は雪風と一緒に明日奈の物で朝ご飯の支度中。すっかり挙動も安定し、いいお母さん状態である。雪風との仲が改善されたのも、彼女が落ち着いた理由の一つだろう。
ちなみに、その時の反応や会話は下記のような感じである。詳細を書きたいのは山々なんだが、時間にも限りがあるので勘弁してほしい。
まず、夜中に不知火を呼び出し、こっそり内面観察術を使いながら、『夜伽をしろ』と命じてみた。
普通なら、この時点で激怒してもおかしくないだろう。何せ娘…ユキカゼと良い仲になっていると言うのに、恥知らずにもその母親を呼びつけ手籠めにしようとしているのだから。
確かに、その時には一瞬だが怒りの感情が見えた。が、次の瞬間にはその感情は諸々の『何か』に食いちぎられて消えていく。外見には一切変化は見られず、内面観察術を使ったからこそ見えた事だ。
怒りが食い尽された後、極彩色のような感情の動き、そして最後には淫靡な感情で埋め尽くされた不知火がそこに居た。
言うまでもないが、真っ当な心の動きではない。まるで何人もの人間が不知火の体に取り憑き、主導権を争っているようだった。………そう考えると、前に雪華が歴代神垣の巫女に取りつかれた状態のようだったな。
こらアカンと思った俺は、様子を見る為だった夜伽という要求を、治療の為に使った訳だ。ヤる事は全く変わってないんだけど。
中身がグチャグチャになっている不知火は、表面上だけは積極的で、あらゆる部位を駆使して俺に奉仕しようとした。…あんまり上手くなかったけどね。やはり刷り込みされているだけの技術では、スムーズな動きは難しいようだ。
その時の不知火の本心は……恐らくだけど、亡き夫(そもそも存在してないようだが)に操を立てながらも、その感情の行く先を作る事ができず、目の前にある人肌に縋ってしまいたい…ってところだろうか? どこまで設定されているのか知らないが、つくづく悪趣味な事だ。
まぁ、その悪趣味なのを、更に悪趣味な寝取りで埋め尽くしたのが俺なんだけど。
やり方としては、直葉にやった『烙印』と同じ。ガタガタのグチャグチャになっている精神を徹底的に服従させ、魂ごと取り込んで、強化し、整理整頓させる。
その為に必要なのは、「この人になら何をされてもいいし、少しでも喜んでもらえるなら何でもする」というレベルで好意を持たせる事。当然ながら、不知火が『夫』の事を想い続けている限り、それは出来ない。例え空想の中にしか存在しない夫だったとしても、だ。
具体的には、空想の中の『夫』と事あるごとに比較させまくりました。
「そんな、乳房を根本から鷲掴みにするなんてぇ…もっと優しくよ、若様?」
ほぉら、『旦那』はこんな事してくれたかな? 胸を触られただけで痙攣しちゃって、俺の手はそんなに気持ちいいか?
「あっ、あっ、こ、こんな事っ、あの人は、知らないっあ、そこ駄目ぇ…」
殆ど処女の敏感さだな。旦那は愛してくれなかったのか? こんな立派なものぶら下げてるのに、触りも吸いもしないなんて男じゃないね。
(存在もしない夫だから、当たり前だけど)
うーん、やはり人妻を堕とす時にはねちっこい責めが似合う。疼いて立ち上がっている乳首は放置し、根本から牛の乳を搾るようにキュッキュッと扱き上げる。
「い、いけない、いけないわ、私には夫と娘が…」
「しかも、娘は若様と、あっ、命令だなんて、そんな無体なぁ、ぁぁぁ、ぁああっ!」
「そこはっ、そこだけはっ! 最初に拒まなかったのが悪い…? わ、私には若様の命を拒む事はあひぃ!?」
「ああっ、女陰が、女陰が、疼くっ…! こんな筈ではっ…! い、いけない、それだけはいけないわ! その指を進めては………えっ?」
「い、いえ、残念なんか…期待んかしていないわ…。そっ、それより、やはりこれ以上はいけません…雪風の恋人とこんな事をするなど」
「は? 賭け…? 私が耐え切れば、もう夜伽も要求せず、雪風にもっと構う…。……言質は取ったわよ。どの道、命じられた以上、私に拒む権限はありません」
「では、時間…窓から見えるあの月が、木にかかるまでに若様が射精すれば私の勝ち、私が音を上げて抱いてほしいと懇願すれば若様の勝ちね」
「っ…! そ、そんな所から触るなんてっ…え? ま、まだまだ序の口? それよりも奉仕? …は、はい…」
「………………大きい………熱い……逞しい……」
「夫とどちらが…………き、記憶にないので、比較する事は難しいわね…」
「っ…! あっ、それっ、優しい…あ、ふっ、んん……ど、どうしたの? 突然触り方を変えるなんて…」
「………私を、奪う? あの人から? 心も体も、愛し抜いて染めあげる…?」
「それだけは…それだけは、させないわ…。体を好き勝手に嬲られたとしても、私の心はあの人のもの。例え私の記憶の中にしか居ない人だったとしてもおほおぉぉぉぉぉ!? ゆ、指っ、指ぃ! さ、触ってるだけなのにっ! いく、いくうぅぅ!」
「ぁ………は……さ、触られた、だけで………? い、いいえ、まだよ、まだ…確かに気をやってしまったけど、私は音を上げてなんか、いひっぃ!?」
「お、おおお、お、はっ、ま、また、またっ、撫でられてっ、それだけで、体ぁ、勝手にぃ!」
「も、もう…む…っ…ま、まだ、まだよ、いくら達しても、私はっ……ち、違うっ、もっと気持ちよくって事じゃないのぉぉぉぁひぃぃぃぃぃ!?」
「た、達してるのに、達してるのにぃ、まだ気持ちよくされちゃうぅぅ! 終わらないのぉぉお!」
「あっ、あたまっ、なでるの、やめてぇぇ! 脳みそ掻き回されてぇぇ! 何も分からなくなるぅぅう!」
「そ、そまる、そまるのっ、うわがきされてぬりつぶされるのっ! あのひとのかんしょく、きえるぅぅぅ!」
「 え ゆき か ぜ?」
「み、見ないで、こんなところ見ないでっ…!? な、何で掴むの!?」
「大丈夫よ。こうなるだろうなって思ってたし、明日奈達から事情は聞いたから。これは治療、これは治療。だよね?」
「そうよ。だから雪風、思いっきりお乳掴むのは止めなさい。こう、巨乳を気持ちよくする時には、さっきも教えたように…」
「ん、こう…だっけ…『お母さん』、気持ちいい?」
「だ、だめっ、やめて、ゆるしてっ、雪風はなして! また、またあの人の感覚が、消えるっ…!」
「あの人って言われても、私はお父さんの事なんか全然覚えてないし。大体それって、洗脳されて植え付けられた記憶なんでしょ。だから頭の中が訳の分からない事になってるんだし」
「うっ」
「同じ洗脳されるなら、こいつにされた方がよっぽどいいわ。実在するし、何だかんだで大事にしてくれるし、もげちゃうかと思うくらい気持ちいいし。ほら、上書きでも何でもされちゃいなよ。ついでに、さっき神夜から教わった、女の体での遊び方の実験台になって」
「そうそう、そうやって優しく指を這わせるんです♪ 殿方の体と、女性ならではの指使いの連携が卑猥な事極まりないです♪」
「それにしても、いい塩梅に出来上がってるわね。やろうと思えば、一気に染め上げられるのに。…理性と欲望の間で葛藤させて、自分から落下させるのがそんなに好き?」
「嬲るのに一番美味しい状況は、堕ちる寸前の最後の抵抗だって言ってたわよ。つまり、今正にこの状況か…。で、どうするの?」
「しょ、勝負、勝負がっ! もう決着は!」
「ついてないわよ。だって、さっき言ってた勝ち負けの基準は、月があの木にかかるまで、でしょ? まだかかってないわよ」
「うそ…だって、どう考えても…」
「この人、卑猥な事をしている間は参加者の体感時間を操作できるんです。私達にとっては既に四刻近く感じられていても、実際には一刻も経過してないんですよ」
「と言うか、さっきの条件だと勝負がつかないわよね。時間までに射精しない、かつ不知火さんも音を上げなかったら?」
続けてもう一勝負。延々と気持ちよくなってもらいます。
「 」
「…条件設定の辞典で、ほぼ勝利の目がないわね。我がお母さんながら、何というかこう…」
「ま、いいんじゃない? これも、厄介な洗脳から解き放つ為の親孝行って事で…雪風、手伝ってあげるから、お母さんで遊んであげなさい」
「存在しないお父さんの事なんか忘れさせて、ただ気持ちよくなる事しか考えられなくなるところ…見せてください♪」
しかし、よくもまぁこんな後から付け加えたような設定で、次から次へと問題が出てくるなぁ…。
「実際にそういう扱いを受けていたんだから、仕方ないじゃない。人間、玩具に対してはどこまでも残酷になれるものよ。多分、一人一人に妙な設定を付け加えられてるでしょうね」
事実、そういう扱いをされていた詩乃が言うと説得力があるな。
しかし、それを差し引いても…詩乃もそうだが、浅黄や不知火は俺に抱かれるのに抵抗が無いな。生い立ちを考えると、どれだけ気持ちよくなれても屈辱に感じそうなものだが。
浅黄に至っては、自分が何をさせられるか聞いた時点で、嫌がるどころか道具まで持ち出してきたくらいだし。
「それを了承したの? …聞くまでもなかったわね。顔色一つ変えずに受け入れたからよ」
? どういう事?
「浅黄から聞いた話だけど、滅鬼隊はおかしな性癖を植え付けられている事が多いそうよ。その為に、任務中に誰かと恋仲になっても、それを晒すと拒絶されたり距離を置かれる事も多かったとか。…それを受け入れた上で愛されるのは初めてなんじゃない? 今まではいい様に弄ばれていただけだったんだし」
あー……性癖と心の両方を肯定されたから、か…。
気味悪がるでもなく嘲笑うでもなく、俺にとっては互いを昂らせる為の一要素に過ぎなかったもんな。植え付けられたものだとか、異常な行為だとか、余計な事考える暇があったら乱れる姿を見せてみろ、くらいにしか考えてなかった。