さて、今日も今日とて色々と作業中。ここ最近、狩りに出てないのが悩みである。
個人的に暴れたいってだけじゃなくて、やっぱりウタカタのモノノフと信頼関係を育むなら、同じ戦場に出る事は必須だろう。
代わりに滅鬼隊の子達が戦場に立ってくれるが、それでは俺は後方での作業員にすぎない。大事なのは事実だが、やはり同じ死地を駆け抜けた仲間と言うのは格別だ。
と言うか、いくら信頼している組織の統括役だったとしても、一見さんをそうそう信用できる筈もあるまい。少なくとも、どっかで相応の力があると示しておかないと。
だがとりあえずは、ウチの子達の生活環境が先である。
えー、水洗トイレは最優先で作った。
風呂も舞華頼りだけど、初日に作ったな。
今は4人共同だけど、部屋を増設していっている。
希望者には、神夜考案のベッドも提供していた。…「こんなに簡単に作れるなら、里に居た時に実物を見せてくれても…」と文句を言われたが、流石にそれはどうしようもない。いつどんな夢を見て、何が出来るようになるのか、そもそも理屈も分かってないんだから。
明日奈の希望で台所の機能も増設したし、暇潰し用の遊具も作った。
その材料を調達する過程で、伐採により訓練場も出来上がった。雨が降った時用に、体育館も作ったな。トレーニング器具…鉄製じゃなくて木製だけど…もあるぞ。
本を読みたい、という子も居るから図書館を建てようかと思ったけど、肝心の本が無い。今は里から何冊か借りる事で誤魔化している。
その他、珍しい物としては、鹿之助専用の訓練場も作った。日記には書いてなかったけど、彼のレーダー能力を鍛える為の特訓を続けていたのだよ。そろそろデビューさせてもいい頃かな。
さて、次は何を作ろうか……と思っていたら、ちょっと珍しい意見が。『物を作る場所を作ってほしい』との事だ。
話を聞いてみれば、俺が設備を作っているのを見ている内に、物作りに興味が沸いたのだそうだ。これを言い出したのは守波理恵。………漢字だけど、どう考えても横文字の名前よね? 沙耶根尾もそんな感じだけど。
簡単な作業台を作ってみたところ、何故か守波理恵を含む数人が駆け寄ってきて拍手をしてくれた。何となくハートが集まった気がした。
ともあれ、作業台は本当に簡素なもので、ぶっちゃけ木の板を組み合わせて台にしただけだ。
だが守波理恵にはそれで充分だったらしく、そこから何かの設計図を描いたり、それを作るのに必要な道具を考案したりと実に楽しそうだ。
放置しておくと、遠からず所謂マザーマシンさえ生み出しそうだ。設計図を描く彼女に、夢の中であった口搾艦…もとい工作艦の面影を重ね合わせてしまった。
…マッドになるなとは言っても無駄だろうから、分別のついたマッドになってほしいと切に願う。
さて、それはともかく鹿之助についてだ。
あらためて記しておくと、一言で言えば生体レーダー持ちの滅鬼隊員。その外見は率直にショタ。下手をすると少女と見紛う時すらある。どう見ても、そっち向けの趣味全開で外見を弄り回されたと思われる。
なお、非処女なのかは不明。起こす時もぶっかけで起きたからな。
性格はとにかく自信が無く、実際戦闘力は滅鬼隊員の中でも最下位に近いだろう。だが逃げ隠れ避けるの動きはかなりのもので、有体に言えば逃げ足が速い。ただし泣き喚きながら逃げるクセがあるので、もし鬼を相手にしたらかえって注意を惹きながら逃げる事になるだろう。
しかして、彼の真価は戦闘能力ではなく、その察知能力にある。臆病な性格もいい方向に働いているのか、とにかく気を抜かずに周辺の気配を探り続ける。
索敵が上手いだけでなく、その能力を応用して資材の場所まで感知できる…つまり、ゲーム的に言えばレアアイテムを拾う確率が高くなる。しかもその対象を任意で指定できるとなれば、ロード孔明並みに過労死待ったなしである。
実際、訓練として「これと同じ素材を、近くの森から10個集めてこい」とかやっていたら、あっという間にこなせるようになってしまった。
地面に埋まっている鉱石の類から、一見すると見分けがつかない野草まで、実物があればそれと似たような形の物を簡単に見つけ出す事ができる。実物が無くても、形や性質がある程度分かれば、「これじゃないかな?」と場所の予測がつけられるようになった。
どこから広まったのか、素材に限らず私物を無くした隊員から、物探しを頼まれる事も多いそうな。
交友関係は……専ら男連中と固まってる事が多いな。
それ以外では、里に何度か遊びに行く事もあり、子供達と仲がいいらしい。年下の子供にナメられているようだが、あのくらいのガキ共なんてそんなもんだ。生意気盛りだからな。
隊員達の中では……これは俺のせいでもあるだろうが、少々やっかみを受けているようだ。陰湿な事はされていないようだが、俺が贔屓にしているように見えるらしい。
否定しきれないよ、こればっかりは。鹿之助自身は遠慮しようとしたんだけどな。
鹿之助に素材探知能力があると知った俺は、専用の訓練場まで作り、生存確立を上げる為に防具まで用意した。俺の使っている防具は、MH世界・討鬼伝世界問わずサイズが合わないんで、新しく新調したくらいだ。
ちなみに用意したのは、限界まで強化した抜忍の装束シリーズ。防御力のみならず全属性に耐性を持ち、更に非常に軽量で動きやすい最上級の一品である。素人モノノフに渡すもんじゃねーな、我ながら。代わりの武器は初期の無強化弓なので、武器と防具の格差がえらい事になっている。………鹿之助、やっぱり今からでも『えびぞり』使わない? ちゃんと武器として使える上に、いざと言う時に食えるんだぞ。しかも何故か腐らない。海老の匂いはするけど。…嫌ですかそうですか。
…他には、趣味で用意していた(そして今までのループ中に、3界のそれぞれの技術で鍛えまくった)ひょっとこ面・おかめ面等もあったのだが、流石にそれを被って戦場に出るのは嫌すぎると断固拒否された。
猫耳飾りはギリギリで了承してもらえたんだが、こいつに付けると里のおねーさん達が妙な性癖に目覚めそうな気がしたので辞めておいた。そっち系に目覚められると、俺が口説きにくくなりそうだし。
ともかく、専用装備・専用訓練所・頭領自ら訓練(いつかのループのコウタ・ロミオとかが見れば『優しすぎて本当に教官なのか疑わしい』と言いそうな内容だが)をつけると、小心者の鹿之助にとってはとんでもない重圧だったようだ。
最初に遠慮しようとしたのも、今思うと遠慮と言うより逃げようとしてたんじゃなかろうか。だが逃がさぬ。
頭領にここまでしてもらったんだから結果を出さなきゃならない、と必死にやってたようだが、無事形になったようで何よりである。
そろそろ、実戦に出てもらおうとしよう。
「えええええ!? ちょっ、もう!? 訓練初めて、まだ…ええと…」
具体的な日数はともかく、自分の成長や能力を確かめてみたくないか? 自分がやってる事の成果が分からないんじゃ、やる気も失せてくるだろう。
心配するな、浅黄の試験は免除する。鹿之助に求めてるのは戦闘力じゃないからな。いざ敵に接近された時、自分の身を護る事はしなきゃならんけど、逃げ隠れに徹すればそうそう死ぬ事もないだろう。
最初の任は、紹介も兼ねて俺もついて行く。
「いやいやそこじゃなくて…と言うか、また贔屓されてるって言われる…」
…それもそうだな…。しかし実際、隊の中でも珍しい技能を持っていて、特別な価値を持ってる訳だからな。現状で言えば唯一の。
特別な人間を特別扱いする事は、おかしな事じゃないだろう。
実際に任について、その成果を示せばやっかみも少しは治まると思うぞ。今でも物探しでいいように使われてるんだろう? 無碍に扱われている訳じゃないようだが、その能力でこれだけの事が出来るんだぞ、ってのを示せれば、見る目も変わってくるし、自信もつくと思うぞ。
「そう…なのかな…。いやでも…うーん……危険…は若が直接守ってくれる訳だし…確かに自分がどれだけ効果を上げられるのかは気になる…。そうでなくても、モノノフである以上はいつかは戦わないといけないんだし…」
…ふむ、大分その気になって来たな。だがここで無理に押し切るのは、長期的に見れば悪手。強制されたり流されたりしたのではなく、自ら決断した…という実感が自信と根拠に繋がっていく。上手く誘導すれば不信感も出ない。
ここは敢えて、一歩…いや、半歩…引く…! 逃げる機会を追わせる事こそが…釣りッ…!
……もし辞退されても、追わない、追わない、何も言わない………見えないように尻でも抓っておこう…。
気が済むまで考えてくれ。聞きたい事や問題があれば、その時に聞けばいい。今回の任を見送ったとしても、今後の扱いは変わらない。別に、強くなってから戦いに出たいと言うのも間違いじゃないしね(震え声)
「あ、待って若! 行くよ、今回で行く! 自分で分かってるんだ、訓練だけ続けてたって自信なんかつく筈無いし、実戦に出なきゃ本当に強くなんてなれない! それを待ってたら、いつまでも俺はここで足踏みしてるだけだ!」
……もう一回だけ聞くぞ。いいんだな?(顔がニヤけないように、剥ぎ取りナイフで尻をチクチク)
「ああ、俺だって男だ! やってやる!」
フィッシュ!
「ふぃっしゅ?」
あ、悪い、何でもない。よく決断したって歓声を上げてしまった。
ともかく、話は決まりだな。明日の斥候任務に同行する。話はこっちで通しておくから、考えられる限りの準備をしてみてくれ。
これも訓練の一環だ。実戦経験者の権佐達に話を聞いてもいいが、役割の違いだけは考慮に入れておくように。
…ふぅ。上手く行ったか。うーむ、鹿之助も横文字が分からなくて助かった。
橘花の時と言い、余計な事をつい口走るようになってるな。気を引き締めないと。
ところで話は変わるが、アスカに滅茶苦茶怒られた。隣りに居た天音がキレそうになるくらいに怒られた。が、反論の余地が全くない。
いや真面目に反省するべき事だったわ…。
俺がそれに気付くのを待とうとしていたらしいんだが、痺れを切らしてしまったらしい。
その内容とは、手隙の滅鬼隊員に仕事を振れ、と言う事。現状だと、一部の人間にしか役割らしい役割が無いし、それを差し引いても彼女達にやらせられる事はあるだろう、と。
今の彼女達には、情操教育の為と称して遊んだりする事を推奨しているが、それならば猶更仕事を振らなければならない。遊んでばかりで学校にも行かない子供が将来どうなるか、想像に難くないだろう。
具体的には、自分達の世話を自分でさせる事。自ら生活を向上させる事を考え、その手段を模索する事。それそのものが、彼女達の仕事と言う事にすればいい。
例えば今だって、建物や設備を作るのは全て俺が行っている。マイクラ能力を活用すれば、普通にやるよりも遥かに簡単に作成できるのは確かだが、逆に言えばそれがなければこれ以上の増設は不可能になる。
だったら、今から試行錯誤して、自分達で作らせればいいではないか。自分の生活に使うものなのだ。自分で確保して自分で手入れするのは当たり前だ。
この叱責がアスカから出たのは、かつて部隊を率いていた経験故だろう。
全て自分でやろうとする指揮官は下の下。それなら最初から、人を雇ったりしない方が人件費がかからないだけマシである、と。
最初に里にやってきた時も、舞華に風呂沸かしを任せたしな。
俺が直接やるのが一番効率がいい手段ではあるが、最も効率のいい方法しかとってはならないという理由はない。むしろ、そのやり方に拘った挙句、全体の効率を堕とすようでは本末転倒。
何より、子供達には成功して褒められる経験も必要だが、失敗や挫折も同じくらい必要なのだ。