堕陽月拾漆日目
さて、色々あったが鹿之助のデビュー戦である。戦わないのが基本なんだけど。
俺の仕事は、俺しかできない物は昨日のうちに済ませ、残りは災禍達を初めとした数人に任せてある。アスカは実働部隊の管理役に回ってもらった。
尚、本来なら本日、俺の机の下でジュポジュポする役だった詩乃は予定変更してお休みとしている。不満そうだったので、後で埋め合わせをしなければなるまい。
そういう訳で、鹿之助を連れて、モノノフの受付所にやってきた訳だが。
おお、紅も居たか。
「若? 何故ここに…それに、確か……鹿之助、だったか」
「えっと……紅…でよかったっけ?」
…二人とも、相手の顔と名前を辛うじて一致させた。無理もないよな。普段関わらないと、同じクラスの中に居ても顔と名前が分からなくなるってよくあるよな。
いくらウチの連中が基本的に仲良しだからって、その中で関わる関わらないはどうしたって出来るし。
俺は鹿之助の付き添いだよ。諸事情あって、こいつには絶対に生還してもらわなきゃならんのでな。
「それで付き添い…と言うより、現場まで護衛に出ると言う事か? 若自身が? それこそ、誰かに任せれば済むだろうに。私達でなくても、実戦経験豊富な神夜さん達とか」
神夜はなぁ…。強敵に会うと、そのまま突撃しちゃうからなぁ…。護衛には向かないのよ。
明日奈はまだ飯作りから離れられないし。
ま、一番大きな理由は、俺も久々に体を動かしたくなったんだよ。ここの所、書類仕事ばかりで体が鈍るのなんのって…。
「まぁ、若がそれでいいと考えているなら、私は構わないが…。ウタカタの皆はどうなんだ?」
紅が振り返ると、そこそこ年を食ったモノノフが答える。確かこの人、結構なベテランだった筈…本人は才能が無く主力にはなれなかったと自虐するが、何に襲われても物凄い逃げ足で生き延びてくると言われていた人だ。ちなみに既婚者。
「儂は構わぬ。そちらの頭領と共に行くとしても、何か変わる訳ではない」
「じっさまがそう言うなら、こっちも」
「じっさま言うな。私も構わない。構わないが…」
一人のモノノフ…女性モノノフで、割とキツ目の性格だった…が鹿之助に目を向ける。
若干険の在る視線を向けられ、鹿之助が怯んだ。それを見て、益々鹿之助を見る目付が悪くなる。
「こう言ってはなんだけど、使い物になるの? 何人かあなたの所のモノノフと同じ班になったけど、それに比べるとはっきり言って弱そうなんだけど」
「な、何だとぅ!?」
思わず反論する鹿之助だが、声がちょっと裏返っている。やはり自分が弱いと思われ、黙ってはいられないか。この子も男の子よの。
まぁ、今までの連中と比べて、腕っぷしは無いのは否定できない。
が、こいつの真価はそこじゃない。俺としては、ウタカタの里にとっても最重要人物の一人になると考えている。
「わ、若……俺の事をそんなに……」
おう、自信持っていけ。今日の任が終わる頃には、お前に向けられる視線も正反対に…。
「そんなに持ち上げられると、なんだか胃が痛くなってくるんだけど」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
ああ、視線が痛い。やっぱり芯が無いのはいかんな。はやいところ、自信を付けさせないと。
まぁ、いいから早く行こう行こう。ここで問答してても意味はない。強さとは語る物ではない、示す物だよ。
「妙に深い事を言う…。よかろう。どの道、そちらの隊員を受け入れると言う事は、大和のお頭からの命令にもあったしな」
「むぅ…。納得はできませんが…じっさまがそう言うなら」
そういう訳なんで、よろしくお願いします。
紅とは別行動になるけど、そっちも気をつけて。特に、背後や地面からの奇襲にね。
「分かった。鬼達に、人の正しき道というものを教えてやる!」
「鬼なんだから人の道なんて知っても、意味ないんじゃないかな…」
「…鬼達に、人の底力と言うものを教えてやる!」
律儀に言い直す紅に、生暖かい視線が向けられた。
と言うか、正しい人の道って、俺が居るのにそれを掲げられてもな…。いや、滅鬼隊を作った連中に比べればまだマシか。
さて、そう言う訳で、出発。受付所を出て、里から唯一出入りできる道…つまり、滅鬼隊の住居を通って、里の外へ。
…別に問題と言う程問題じゃないが、これって二度手間だなぁ。滅鬼隊員からすれば、すぐ外に出られる場所に陣取っているのに、任を受けるのにわざわざ里に向かって、そのまま同じ道をとんぼ返りする必要がある。
無断で出撃する訳にもいかないし、受付所をこっちに作れないだろうか。木綿ちゃんを連れてくるのは大和のお頭が許してくれそうにないから、誰か事務役を一人置いたり…。
里から出ていく時、更に増設された見慣れない建物について聞かれたり、鬼を惑わす結界について色々聞かれたりしたが、それは置いといて。
それじゃ、ここから別行動だな。紅、気をつけて。
繰り返すけど、地中や背後、上からの奇襲には気をつけろよ。
「分かっている。戦闘は最低限にして、斥候で済ませるさ。幸い、今は行方不明者も出ていないからな」
それじゃ皆さん、うちの子をよろしくお願いします。
おう、と元気よく答えて、紅達は出発した。
さて俺達も…と思ったところで、足元からツンツンと突かれる感触。
…どうした? 行かないのか?
(行きますがね。ひょっとしなくても若様、俺達が最初に任に出た時も、後ろからこっそり尾行してました?)
ようやく気付いたか。距離が離れてるとは言え、あんまり本気で隠れてなかったから、気付くかと思ったんだが…。
いつまでも気付かないようなら、本格的に訓練が必要かと思ってたぞ。
(そりゃ…必要でしょうなぁ。当時は全く気付けなかった、つまり警戒が足りてなかったって事ですから。もし若様でなく鬼だったらと思うと、いつ壊滅してもおかしくなかった。気を入れていかなきゃいけませんな)
任が終わった後に、実は付けていたんだ…って晒すぞ。途中で気付いていたならそれも良し、気付いてないなら自分達に足りない部分を自覚させる。
さて、そろそろいいだろう。紅達の護衛は任せる。限界まで手を出すなよ。あと、自分でも土中の鬼と遭遇しないように気をつけるように。
(了解です。それでは権佐、護衛は性に合いませんが、行ってきます)
地中から気配が遠ざかっていく。
さて、俺達も行きますか。
「ああ…しかし、どうしたんだ。突然地面を見ながら何やら呟いて」
何、神仏英霊に、うちの子達が無事でありますようにと願掛けしただけだよ。物理的に護衛をする願掛けだけど。
さて…今回の任だけど、俺は暫く様子見に徹させてもらいたい。
ウタカタの皆さんには悪いんだが、俺がついてきたのは、この子がどれくらい役割を果たせるかを見極める為だ。
勿論、危ないと思ったらすぐに戦列に加わる。
「はぁ? 何よそれ。頭領だからって、それが許されるとでも? 大体、見なさいよこいつ。緊張して硬直しまくってるわ」
確かに、キツ目の女モノノフが言うように、鹿之助はとても動ける状態ではない。これで鬼に襲われた日には、体が竦んで何もできない内に喰われて終わりだろう。
が、こいつの真価は、まず鬼との闘いを避ける為のものなんだよなぁ。
ほれ、鹿之助。
「ひゃい!?」
ほれ、とりあえず例の奴をやってみろ。上手く行かなくても、まだこの辺なら俺も気配だけで何処に何が居るか分かる。
実地に試してみようぜ。
「……………………よ、よしっ、やってやる! すーっ、はーっ、すーっ、はーっ……」
深呼吸して平常心を保とうとする鹿之助。別にいいけど、深呼吸は最初に吐いてから吸うのがいいんだぞ。古くなった空気を吐き出して、新鮮な空気を吸えるからね。
もっと極めれば、ニンジャスレイヤーめいた呼吸法も出来そうだけど、それは置いといて。
鹿之助の全身から、燐光が漏れ始める。
おおっと声を漏らした同伴のモノノフ二人(一人は影が薄い)の口を塞いで、黙ってみているよう囁いた。
「…一番近くに居るのが、あっちとこっち、その一区域向こうに餓鬼。あっちの区域には、鬼火とササガニが集まってる。何かに集ってる…のかな? ああ、地形からして水辺があるんだ。うーん…ササガニが多いって事は、ひょっとしてミフチも居る…? でも反応はないなぁ…」
ふむ…地面の下は分かるか? ドリュウが何匹か潜んでる。
「…うん、あそこに2匹、あっちに……なんだか物凄く数が多くて、絡み合ってるんだけど…」
蛇の交尾みたいになってんのか? 何でそんな触手地獄みたいな…。もしかして紅に反応して、異種姦しようとしているんじゃあるまいな。もしそうなら今から消し飛ばすけど。触手遊びは俺も出来るから、他者にやらせる理由がない。
「紅達なら、正反対の道を進んで、今から山に入るところみたいだけど」
…そうか。
じゃあ、次。二人とも、今何か欲しい資材ってある? 鉄鉱石とか、そういうの。
「…私は、勇ましい埴輪とか」
…何故それを。あ、悪いけど鬼から採れる物は除外で。
「? じゃあ、僕は純魄。ほら、ハクの結晶だよ。ないなら古銭でもいいけど」
影が薄いモノノフ君、何気にハクにがめついようだ。換金アイテムやんけ。
ちょっと待て、確か実物がここに……純魄は無いから、古銭な。
ほら、鹿之助。やれるか?
「…よし、出来そう。この埴輪によく似たものが………あっちの高い木の根元、鬼が集ってる池の水辺、雅の領域入り口近く……うん? ちょっと感触が違うような…。古銭はこの辺りには無さそうだなぁ。同じ感触の反応が全然帰って…あ、いや待った、あの高い木の下、埴輪と同じ場所にあるっぽい。でもこれ、埋まってるのかな…」
その後も暫し燐光を撒き散らしていたが、捜索終了したのか大きく息を吐いた。それと同時に燐光も消える。
目を丸くしていた二人の口を解放したが、唖然としたままだ。
「…若、俺何か失敗した?」
鬼の捜索については、特に失敗は無かったと思う。と言うより、それを今から確認しに行くんだよな。
物資の捜索は、俺でも気配を探れないから確認しに行くしかない。
とりあえず、二人の目的の物がある、あっちの木の根元に行ってみようか。幸い、そこまでに鬼の気配は無かったしね。
「…鬼と、探している物の探知が出来るって事か…!?」
「へへっ、そういう事。実物が必要だから見た事もない物は探せないし、やったのは初めてなんで、実はちょっと自信ないけど…」
「いやいやいや、さっきまで悪かったわね! 最重要人物になるって理由がよく分かったわ! これからは仲良くして頂戴!? 任務に出る事があればいつでも呼んで頂戴、全力で駆けつけるわ!」
「いや俺の方こそ仲良くしてくれ! そんで地面に埋まった財宝を引き当てて一獲千金目指すんだ! そして金の力でミタマも装備も強化して無双する! 男だったら分かるだろ、この浪漫が!?」
全力の掌クルー。
とりあえずもう行くぞー。騒ぐのは後にしろよ。ひょっとしたら、大外れだったって可能性も無いではないんだから。
「大丈夫、その時はもう一度掌を返すだけよ!」
「…本人の俺が居る前でそれを言う…」
鹿之助、気にするだけ無駄だぞ。こういうのは世の常だ。
欲望満載なのは否定しないが、ウタカタのモノノフは人情もあるから全否定するようなものでもない。
上手く餌を操れば、主導権を握るのも難しくないしな。
そんじゃ、ちゃんと探知できたか、確認の時間と参りますかね。
さて、実際には。
「見つからなかった……失敗だったのか…」
「かーっ、期待させといてさぁ! でもまだ残りの奴があるし! 全部外れたと決まった訳じゃないし!」
「つっかえね! 鬼を前もって見つけられるのは凄い助かったけどさぁ! 最初に居るって言ってた鬼が居なかったりもしたけどさぁ! お陰ですげぇ回避が楽だったけど!!」
お前ら貶してるのか慰めてるのかどっちなんだ。いや両方なんだろうけど。
それはそれとして、埴輪と古銭見つかったぞ。土の中じゃなくて、木の内側に取り込まれてた。
「生意気な口を利いて申し訳ありませんでした鹿之助さま足をお舐め致しますのであと10個くらい探すの手伝ってくださいませ」
「やればできる子だと思ってたぜ鹿之助大明神様さぁこれから金銀財宝発掘しまくって里を発展させていこう取り分は俺が3割でいいです失礼な事いってごめんなさい五体投地します」
こいつら双子か。
「「え、双子だけど」」
…さよけ。鹿之助、大丈夫か?
「いや大丈夫かって言われても、そんなに酷い暴言…を吐かれた内に入るのかなこれ…。最初だけ貶されたけど、後は慰められてるよな…。そんな態度とらなくても…あ、ちょっ、本当に舐めようとするなよ! 俺そんな性癖ないよ!」
まぁ何だ、こうやって上げて意図的に落として、弱みを握ってからまた上がるのが基本だぞ。
しかし男の方、見事に金銭欲がダダ漏れだなぁ。金が欲しけりゃ地道に商売するのが一番だぞ。
「それだと失敗する可能性もあるじゃないか。大体、俺が欲しいのは金じゃなくてハクなんだ。俺は真剣に考えてるんだぞ。何せ、ハクの力でウタカタを守ろうとしている男だからな!」
「ハクの力で…?」
「まーた始まった。鹿之助君、相手にしないでいいよ。要は楽して儲けたいって言ってるだけだから」
「それだけじゃないけど、否定はしない」
ほう? 面白そうだ。道すがら、ちょっと語ってみろよ。
「聞きたいか? 聞きたいんだな? よし、鹿之助とその頭領の頼みだし、特別に教えてあげよう! モノノフの戦力を上げるのに、一番簡単な物って何だと思う?」
「そりゃ…特訓とか実戦とか? でも簡単かって言われると…」
「簡単じゃないし、何よりそれで実力が伸びるかは本人次第。いや、本人が真剣にやってたとしても、素質が無かったり、やってる内に大怪我、悪ければ死ぬ事だって珍しくないじゃないか。何より、そんなに大変な思いをしても、強くなれるのは訓練をした本人だけだ」
ふむ? 確かに。続けて?
「だけど、誰がやっても一定の効果を上げられる方法がある。それは装備だ。頑丈な鎧、鋭い刃、相手に適した属性…そりゃ最終的には本人の技量に大きく左右されるだろうけど、安全性は大きく増すし、鬼を倒すのは各段に楽になる筈だ。素材だって必要だけど、ハクの負担が無くなるだけでもかなり違う。
そして何より、力の結晶であるハクには、金銭にない使い道がある。何だか分かるか?」
「いつもあんたが言ってる事でしょ。ミタマの強化よ」
「そう、その通り! モノノフが戦う上で欠かす事ができないミタマ。祭祀堂でハクを注ぎ込んでもらう事で、強化できるのは言うまでもない。こればっかりは、金銭じゃできない事だ。今は装備に使うハクや、ミタマの強化に使うハクはモノノフ一人一人が自分で調達してるけど、これを全部肩代わりできたら、どうなると思う!?」
成程。ミタマは最初から最盛期かそれ以上の力を持ち、新人モノノフにも最初から一定以上の装備を用意する。
自力でコツコツ強さを積み上げていく時期をすっ飛ばすから、自分の力を見誤る奴が増えそうだが、それを差し引いても全体の生存率は上がるな。食い扶持も増えるが、働き手が減る事に比べれば収支黒字。
全体が増えれば頭角を現す奴も増えてくるだろうし、もし実現すれば鬼に対して有効な戦力が各段に増える。
「お、おう? そう、そうなんだよ。そういう事を言いたいんだよ、俺は」
「嘘吐きなさい。毎回毎回ハクが無い、装備を揃えるのが面倒、モノノフ一人一人が自分で装備を整えるのはおかしいだろって、愚痴言ってるだけじゃない。要は自分がやるのが面倒だから、誰かに強くしてほしいだけなのよ」
「余計な事言うな!」
まぁ、それでも一理あるのは確かかな。曲がりなりにも組織だった武装集団なんだし、ある程度までは道具を組織が融通するべきではある。
最初に支給される武器も、充分な出来栄えなんだけどね。
それより、そのやり方が有用なのは認めるが、ハク特有の問題は分かってるか?
「特有の問題? ……金では発生しない問題、って事か?」
ああ。いや、金でも発生はするだろうけどな。
ミタマの強化にハクを使う場合、ミタマは途端に貯金箱に化ける。しかも、割っても入れた物を取り出せない感じの。
ハクは今や金銭の代わりを担っている。言って分かるかは知らんけど、経済ってのは一か所に金が溜まり続けると淀むんだそうだ。
小難しい理屈を考えなくても、ハクをミタマに食わせるって事は、そのハクは何処へ行く?
「何処って…そりゃ、ミタマの中に」
「お馬鹿、そういう事じゃないでしょ。でもある程度は、祭祀場の樒さんにも渡すわよね」
「若が言ってるのは、渡さなかった分はどうなる、って事じゃないの? どうなるかって……あっ! ハクが無くなる!?」
そう、その通り。少なくとも、その後の取引には使えなくなる。それ以外の使い道なら、手元からハクが無くなっても、他の人の手に渡り、ハクの総量は減る事はない。
巡り巡って、自分の元に戻ってくる。…ちゃんと働いて、社会の仕組みも健全に回ってれば、だけどね。
だけどミタマを強化する場合は違う。一度注ぎ込んだらもう出てこない。鎮魂で力を最初期に戻しても、ハクが戻ってくる訳じゃない。
ついでに言えば、ミタマを強化する為のハクの必要量は、聞いただけで心に傷ができそうなくらいだ。効果が実感できるくらいに強化するなら猶更ね。
多少の額ならともく、一人一人にそれを行っていくとなると、里の財政が保つ筈がない。万一保ったところで、その後の生活を回していけるだけのハクなぞ残る筈もない。
「ハクを稼いでくるのはどうですか!? ハクって力の結晶だから、異界とか、山野の色んな所にちょくちょく落ちてるじゃないですか。そこで鹿之助君ですよ」
「いや、どう考えてもハクの量が釣り合わないな。それだけの量のハクを稼ぎ出せるなら、最初からやってるよ」
金を箪笥する、とかプールする、って言うんだけどな、こういうの。どっかの悪徳商人とかが、自分の所に徹底して金を貯めこんで、他の人達に行きわたる金が無くなるんだよ。
…すまん、なんかミタマを悪徳商人扱いしてるみたいだ。
「あー…確かにちょっと怒ってる感じはしますけど、言ってる事は理解できたんで…。あとここまで真剣に考えてくれて、ありがとうございます。正直、そんなに深い考えがあった訳じゃないんで、なんか申し訳なくなってきた…」
いや、こっちも暇潰しに聞かせてもらったようなもんだしな。
鹿之助、この二人との繋がりは大事にしとけ。お前の能力をいい感じに活かせそうだし、着眼点が面白い。
ただ、欲に釣られて暴走しないように、主導権はきっちり握っておくようにな。
その後も鹿之助が探知した物資と鬼は大当たり。最初は頼り無さそうと言われていた鹿之助の評価が天元突破した任務だった。
俺としては、戦える相手も居なくてほぼ空振りの任務だったけどな…。まぁ雅の領域に入ってもいないのに、大型鬼が出る筈もなかったんだが。
話は変わるが、里に戻ってから早々に紫を口説き落として抱いた。
…唐突すぎる、と思ったかもしれないが、逆だ。むしろ遅すぎるくらいだった。
先日の試験合格以来、紫は鈍った勘を取り戻す為と称して、連日ウタカタのモノノフ達と共に任務に当たっていた。それは別に構わなかったし、人手不足のウタカタとしても非常に助かっていたようなので、俺も何も言ってない。
が、一つ重要な事を忘れている。滅鬼隊の隊員は、主の声を聞いたり手に触れたり、そういったスキンシップが無いと、急速に精神的に不安定になっていくのだ。強い力を振るい、活発に活動すればする程、その傾向は強くなる。
それは紫も例外ではなかった。
一見すると、紫は平常だったように見えた。取り乱す事もないし、鬼に襲われた時も混乱や過剰な戦意を爆発させるような事もなく、ウタカタの人達とも仲良くやっている方だ。
が、やはり表面化してないだけで、かなり不安定化が進んでいたのだ。
『鈍った勘を取り戻そうとする』。これがその象徴だった。
確かに、最盛期に比べて動きは鈍っているんだろう。浅黄もここ数日の試験によってどんどん動きがスムーズになってきているし、同じように戦力が落ちているのもよく分かる。
それを見て、じぶんも早く元に戻らないと…と戦いを希望するのも、まぁ分からんではない。
が、それ自体が落とし穴。
復帰の為に戦えば戦う程精神的に不安定になり、小さな空回りが発生し続け、それをどうにか取り戻そうと更にムキになって戦い続ける。
結果、精神が更に不安定になり、それは刷り込みや暗示によるものではなく、元通りに動けない為の焦りだと思い込む。
しかも、意地を張ってるのか、俺に頼るのが嫌だったのか、戦いだけ行ってその後のフォロー…俺との触れ合いも全く無かったのが最悪だ。
今後は、任に限らず活動した後のモノノフは、その後報告も兼ねて俺と少しばかり話し合わなきゃならないな。そうしていれば、紫の症状にももっと早く気付けたし、それ以前に防止策になる。
自分の症状を認めず、浅黄の命さえ拒否しかけた紫だったが、そこは口八丁で口説き落とした。
チョロロ~ン…と効果音が聞こえそうなくらい簡単に口説き落とせたが……まぁ、本人の気質もあるだろうけど、それ以上に刷り込みが仕事しやがったって事なんだろう。
後は、密かなコンプレックスと言うかトラウマと言うか、そう言うのを浄化できたのも大きい。
…昔…つまり封印される前、紫はかつて、一般人と一度だけ恋仲になった事があったらしい。
浅黄曰く、そういう例は幾つかあったが、上手く行った例は聞いた事が無い。精神的に不安定になった滅鬼隊が、耐え切れずに狂い死にしたり、きっと帰ってくると恋人に誓って運営主の元に戻って来たものの、更に強い洗脳で忘れさせられたり寝取られてしまったりとか。
紫の場合は……言ってはなんだが、そりゃそうなるよな、という話だった。
紫の滅鬼隊員としての能力は異常な程の怪力。極大の戦斧をブンブン振り回すあの怪力は、ハンターの中にもそうそう居ない。
そんな怪力で、人を…一般人を思い切り抱きしめたら、どうなるか? 控え目に言って、全身骨折。
…これは紫だけの事じゃない。ゴッドイーターやハンターと一般人の間でも、似たような問題は時々あった。俺自身もそうだな。
俺達の力は、少々強すぎる。それなり以上に頑丈な相手じゃないと、思い切り抱きしめる事すらできやしない。
そういった惨劇を起こしてしまった事もあり、紫は色事に対して忌避感を持っていた。「自分を抱いた奴は全て殺してきた」なんて言ってたが、これはその自虐みたいなものだ。
だが、だからこそ心の底で望んでいる。思い切り抱き着いて力を入れても、小揺るぎもしない強い伴侶。
自分以上の力で抱きしめ返してくれる主人。
それを示す為の行動は、強姦そのものだったけどな。
薬とか拘束具とか一切使わず、正面から力で押し倒し、抵抗しようとする紫の服を引き裂き、偶に飛んでくる拳を耐えきって、強引に挿入。突っ込まれてもジタバタ暴れるが、これまた力で抑え込む。
その後はいつも通り、腰が抜けて力が入らなくなるくらいに感じさせ、一番奥にぶちまけた。
罵声が段々喘ぎ声になっていくのが、こういう無理矢理イタす事の醍醐味だな。
一発ヤッてしまえば、紫は途端に大人しくなった。むしろ甲斐甲斐しく奉仕し始めたくらいだ。
最も頼りにしている『怪力』を小細工なしで捻じ伏せられ、男女としても格の違いを文字通り叩き込まれ、全力の抱擁も平然と受けきる。植え付けられた異常な力を鼻で笑い飛ばし、自分をか弱い乙女に変えてしまうオス。
自覚があったのかは分からないが、紫が求める伴侶…いや、ご主人様の理想像を体現してやれば、あとはもう欲望一直線だ。
ご主人様に求められるという、雌の至上の名誉を受けて、紫はあらゆる意味で俺に忠誠を誓った。
改めて抱いた好意と、洗脳による恍惚が交じり合って、それをぶち壊して染め上げる快楽に沈む。
限界まで体力を酷使して、幸福の時間を享受して、紫は気を失った。
ふむ…。紫の事はこれでいいだろう。ご主人様とのセックスに抵抗なんかある筈ないから、精神的に不安定になってきたら自分から抱いてほしいと懇願しに来るだろう。
問題は、そうなる前の紫が自分の状態を認めず、俺との行為を忌避していた点。浅黄からの命令で、ようやく俺に抱かれる気になったようだけど、それでも抵抗感全開だったからなぁ。
精神的に不安定になっとして、素直に俺の所に来る子ばかりじゃないって事か…。
差し当たり、今日が初任務だった紅の様子を見てみるか。
権佐からも報告は受けているが、当人として任務がどうだったかの報告も聞きたいしな。