堕陽月拾溌日目
紅は恥ずかしがり屋で甘えんぼさんだった。うん、普段はキリッとしてクールな感じだけど、甘えだすとすっごい可愛くなった。
…いや、まだ抱いてないよ? 紅が恥ずかしがって、そこまで踏み込めなかったからね。
昨日の任務の話を聞かせてもらっていたんだが……まぁ、概ね問題は無し。驚いた事に、権佐の警護にも薄々勘付いていたらしい。
確証はなく、何処にいるかも分からなかったが、誰かが背後をついてきているような気がしたそうな。
それに気付いただけでも上出来だ。少なくとも雪風とかだったら、背後の事なんぞ気にせずGO GO GO AHEADした挙句に奇襲を受けるのが目に見えている。
そう言って褒めると、目を反らして頬を掻きながら、「そ、それほどでも…」と照れていた。
まぁ、全く問題が無い訳じゃないんだけどな。
任務の内容はともかく、この子はどうやら自虐的と言うか、余計な事をしょい込むと言うか、自分に対する要求が高いようだ。
鬼の群れと遭遇した時は、「戦闘は避ける筈だったのに、避けきれなかった」「鬼の反撃を許してしまい、一緒に行動していたモノノフが傷ついた」とか、そんな事いちいち気にする上に、自分の責任にしてたらキリがないぞ、って事まで気に病んでいる。
要は、自分は余力を残しているのに、戦った仲間が負傷するのを防げなかった…と言うのを負い目に感じているらしい。
そんなもん、戦いの場に出た時点でどこまで行っても本人の責任だろうに。
確かに陣形を組んで戦う以上、アタッカーやら壁役やらの責任を果たさなければならないが、危険のない戦いや無傷での戦いなどまずあり得ない。
死んだり重傷を負ったりすれば気に病むのは分かるし、余力を残しているのを負い目に感じるのも分かるけどなぁ。その余力だって要は『切り札』だろう。紅が持っている、あまり使いたくない力。
相応のデメリットがあるようなので使いどころを見極めるのは当然だし、そもそも毎回毎回全力を出せる筈もない。8割の力で勝負しろ、とは至言だよな。
…色々言葉を尽くしてみたが、それで納得できるくらいなら、最初から気にしてなかったね。
仕方ないので、最終的には肉体言語でどうにかした。…拳でもナニを使ったのでもなく、こう、頭を撫でて甘えさせるような感じで。
それがまた、紅的にはツボだったらしい。無意識にだろうけど、「お父様…」なんて呟いてたからなぁ。キリッとしているように見えて自虐的だから、自分が寄りかかれる相手が欲しかったのかな。
さて、紅の事についてももうちょっと語りたかった…特に我に返って、慌てて逃げようとするのを引き留めた時について…が、いい加減軌道修正しなければなるまい。
最近、滅鬼隊とばかり絡んでいて、ウタカタの里の連中との関わりを殆ど持てていない。
これが小説だったら、「これ討鬼伝の設定でやる必要ある?」と言われる事請け合いだ。
実際、必要あるかと言われると……まぁ、あるよな。人類が異界に追い詰められ、鬼と戦ってるんだから。俺は滅鬼隊の中でしか動き回ってなくても、任務に参加している隊員達は現在進行形で鬼と戦ってるんだし。
まー戯言はともかくとして、だ。
滅鬼隊の生活を支えるのは重要だし、あまり無責任な真似はできないが、俺の標的はクサレイヅチである事は変わっていない。
奴を引っ張り出すまでの道筋として、ウタカタの里での動乱を乗り越える必要がある。最低限、鬼達が画策しているオオマガトキ第二段を防がなければならない。
そこに至るまでの出来事を放置する事もできない。
試練という言い方は好きではないが、幾多の問題と危機を乗り越える事で絆が深まるのは間違いない。しかし、ただ乗り越えるだけでは足りないのが困り者。
最初の方のループで、とにかくイベントを形だけこなして、充分な結束が無かった為に偉い事になった…って事もあったからな。
それに、恐らくクサレイヅチと戦うのに、強い結びつき…因果は必要不可欠だ。
奴は因果を奪う能力を持っているが、それだって無条件に片っ端からではない。結界で対抗する方法もあるし、それ以上に強い結びつきを引きはがすには時間がかかる。
多くの絆で雁字搦めにする事で、クサレイヅチに無力化されるまでの時間を稼ぐ事ができる。
ともあれ、そんじゃあ現在のウタカタの状況はと言うと……ぜーんぜんストーリーが進んでないんだよねぇ。
最初に初穂と一緒に任務に出て、その帰りについてきたミフチを倒した辺りかな。
那木と富獄の兄貴とは……うーん、カゼキリを撃退はしたから、その辺もクリアはしてるか。
やっぱり、俺がウタカタの里の中に居ないと、話が進まないんだろうか? 理屈はともかく、毎回毎回俺がウタカタにやってきてから物事が進んでいたし。
滅鬼隊の事ばかりやってないで、里に行かなきゃならんかね。
そういう訳で、とりあえず里までやってきました。
隊の仕事は、試験的に隊員達に任せている。何もかも自分でやろうとせずに頼りなさい、と言い出したアスカが纏め役だ。
ま、仕組みとしては大体形になったし、必要最低限の設備は整えたし、後は自分達でもある程度回していけるだろう。
…いけるよな? 後先考えずに資材を突っ込みまくって、カラッケツとかにならないよな?
一応、その辺は執事秘書集団に監督するよう頼んでいるが…なんか不安だ。
さて、これからどこに行くかだが……やはり、一番の不安要素に対処しておくべきだろう。
それは…那木のトラウマだ。
個人的な感情が多く入っているのは認める。滅鬼隊に手を出し放題な状況でも、那木をまた抱いて、心の底から虜にしてしまいたい、とも思う。
しかしそれを差し引いても、那木の医者としての腕を振るえないのは大きな問題だ。
回復役の重要さは、嫌と言う程身に染みている。任務で重傷を負って、それでも生きて帰った隊員達が、医者の手が足りずに死亡…なんて事は御免被る。そんな事になったら、益々もって那木のトラウマも悪化してしまうだろう。
なら何が出来る、と言われると…現状で那木自身にしてやれる事は何もない。
タマフリを使って手術せずに治療、という方法を伝える事と。
「…あの、若? ここって病院ですよね? 何で俺を連れて来たんですか?」
鹿之助を紹介するくらいかな。何でってそりゃ、ここがお前さんの能力を一番活用できる場所だからに決まってる。
重要な物資を挙げて行けばきりがないが、これ程分かりやすい物もないだろう。
不測の事態で誰かが大怪我をした時、治療の為の薬の有無は生死を分ける。
怪我だけじゃない、軽い風邪、体調不良だって鬼との闘いの中では死活問題だ。
鹿之助だって他人事じゃないだろう。極力護衛はつけるつもりだが、その怪我をするのはお前かもしれない。いざと言う時の為、薬の材料を探しておくに越したことはないと思うが?
「そりゃ理屈は分かりますし、別に文句はありませんけど…」
ちなみにここに居るモノノフには、綺麗な年上のおねーさんも居るぞ。(多分、鹿之助がどうこうする前に俺が口説き落とすけど )
「…………い、いやいやいや、そういう事じゃなくて! …あ、いやもういいです…。冷静になってきたら、自分でも何が問題なのか分からなくなってきた…」
要するに何となく不安な訳ね。人見知りを直す訓練だとでも思いなさい。
…さて、ごめんくださーい。
…残念ながら、那木は任務で居なかった。綺麗なお姉さんが居なくて残念だったな…って言おうとしたんだけど、他の女性の医者(多分、助手とかその辺の立ち位置だけど)が居たので辞めておいた。
実際、鹿之助はその中の一人に見惚れていたからね。うん、真面目な看護婦さんって感じのいい人だよ。
タスキをして髪を纏め上げて、うなじを晒したまま額の汗を拭っている所にちょっとドキッとしました。
…しかし、この時期に那木の任務か…。何かあったっけ?
いや那木の回復薬という役割を考えると、ストーリーイベント以外にも連れ回しっぱなしになってもおかしくないか。
と言うかゲームではほぼ皆勤賞状態でした。ブラックな労働環境で謝罪いたします。
帰りに里の様子をちょっと見てきたんだが、予想外に色々と変わっていた。
滅鬼隊が里に馴染んで、様々な交流を持っているからだ。
多少の問題行動もあるようだが、美男美女と言う事で多めに見られている。…いやマジで。人間、最終的には「顔」だからなぁ。イケメンって意味もあるけど、面子と言うか人望と言うか、そんな感じの。
顔の造作が整っている事に加え、ウチの子達は良くも悪くも中身が真っ新の子供のようなもの。大人になっても、子供特有の無邪気さを備えているように見えるんだろう。
…今まで自分の執務の事ばっかり日記に書いてたけど、どうせ書くならこういう内容の方がいいかなぁ。
いや、それよりも今は里の人達の事を書くべきだろうか? ウチの子達が可愛いからそっちを書きたい(濡れ場含む)のは山々だが、目的を見失ってはいけない。
…というわけで、早速一つ里で起きた出来事を書いておきたいと思う。
桜花と橘花が盛大にケンカしたそうです。
え、ナニソレしらない。なにそれ怖い。
気まずくなるようなイベントならゲームストーリーや過去のループにもあったけど、本気で喧嘩したらしい。
本当に、何がどうしてそうなった。噂によれば、あの妹命である桜花が橘花に反撃するくらいの大喧嘩だったとか。
具体的には桜花の顔に引っかき傷が出来るくらい。
…キャットファイト? キャットファイトしたのか? そして桜花が手傷を負ったのか。姉妹で裸(或いはコスプレ)のプロレスなら見たいけど、キャットファイトはいかんな。
秋水が何か仕掛けたのかと思ったが、こういうあからさまな問題になるのはあいつの手口じゃない。
よくよく話を聞いてみれば、二人のキャットファイトが勃発したのは、橘花が俺達の元を訪ねて来た後…その帰り、らしい。
…ひょっとしなくても、俺との話で余計な事言っちゃった?
そうでなくても、護衛もつけずに一人で来てた時点で、桜花が大慌てしそうだったし。
一度、調べた方がよさそうだな。
とは思ったものの、橘花はこういう時に限って面会謝絶…と言うより、人に会う事を拒否しているらしい。それだけショックだったと言う事か。
神垣の巫女の部屋に籠り、祈祷という名目で閉じこもっている。やろうと思えば簡単に入り込めるが…流石にいきなりその方法は危険だな。
以前のようにそれなりの信用信頼を得ているならともかく、今の橘花とは少しばかり話をした事がある程度の関係だ。それを過信して無茶はできない。
となると、桜花から話を聞くべきか。モノノフ屯所に訪ねていくが、桜花は任務中で留守だった。
橘花と喧嘩をした日から、鬼気迫る迫力で任務を続けて受けているらしい。屯所のにーちゃんが言っていた。
…いやそれアカンやろ。明らかに八つ当たりか、そうでなくても何かしら精神的に不安定な状態で戦っとるやろ。
誰か止めろよ、一言言えよ…と思ったが、大和のお頭も既に止めたし言ったらしい。
しかし鬼の行動が激しくなっているので任務を受けさせない訳にもいかないとか。…ウチを頼れよ…。折角援軍に来てるんだから。
まぁいいか。とにもかくにも、滅鬼隊の居住区で待てば、帰って来た桜花と話をする事はできるだろう。
桜花を待っている間、隊の日常生活や、鬼を惑わし拒絶する為の結界を見物する。
自分から動く事を覚えた隊員が増えてきた為か、俺も知らない仕掛けや施設がどんどん増えているようだ。子供達が成長していく姿を見るのは、実に楽しい。
…機動力も火力も備えたガキンチョ集団と考えると、いつ何が起こるか分かったものじゃないので、同時にすっごくハラハラするけど。
いつか来る反抗期の為に、色々備えておいた方がいいだろうか。少なくとも、隊員間で揉め事が起きた時、直接的でない決着方法が必要だ。
結界の手入れにやってきた不知火に誘惑され、どうしよっかな~と焦らしていると、タイミング悪く桜花達が帰ってきてしまった。
不知火は今夜じっくり可愛がってやる(或いは雪風と二人で虐めてやる)と約束し、尻を撫でて作業に戻らせた。…ちなみに不知火と言えば乳に目が行きがちだが、性感体は雪風と同じで尻と背中が特に敏感である。
いやそれは置いといて。
よう、桜花。一緒に息吹も任務だったか。
「…首領殿か。どうした、このようなところで」
何、ちょいと聞きたい事があってね。悪いが少し時間をくれないか。
…里で起きた異変に、俺が少し関わってるかもしれんのだ。
「おいおい、構わないけど俺はいいのかい? ウタカタ一の伊達男が素通りして帰っちまったとなりゃ、お嬢さん方が泣くぜ」
ウチの子達は、諸事情あって大体俺に惚れてるから大丈夫だ。
……いや息吹も桜花もそんな顔するな。確かにどう考えても自意識過剰な己惚れ野郎の言い草だけど、本当に事情ありなんだよ。
「だとしたらもっと羨ましいんだが…まぁ、構わんよ。桜花、報告は俺がやっておくから、お前さんは首領殿と話をしてこい」
「しかし」
「いいから話くらい聞いてもらえって。…何か関係あるかもしれないって言うんだし」
伊吹はそう説得するが、何故か桜花は物凄く嫌そうだった。…俺、そこまで嫌われるような事したか? 確かに女性から見れば眉を顰めるような人間関係を築いているが、これはそれ以上に何か理由がある気がする。
と言うか、むしろ敵意すら感じる。
何でもいいから、とりあえずウチで治療くらいしていけって。
雑魚鬼達の相手だったようだが……見てて酷いもんだぞ、今の桜花は。
「…………」
自覚はあったのだろう。
大きな傷がある訳ではない。…いや、橘花に引っ掛かれたものと思われるミミズ腫れが顔にちょっとあるけど、餓鬼に噛み付かれたり、オンモラキの電撃を喰らったりと、そういった形跡はない。代わりに礫にでもあたったのか、幾つか赤く腫れている部分がある。
だが、見る人が見れば桜花の異常は明らかだ。
気が落ち着いてない。無暗に攻撃的に高ぶっている。衣服に乱れがある…と言うと如何わしい意味に聞こえるかもしれないが、極めて真面目な着眼点だ。モノノフの服は、戦いの邪魔にならないよう調整されており、本人もそれを乱さない…つまり無駄な負担がかからないような戦い方をする。強敵相手ならともかく、雑魚鬼の群れ相手では、桜花程の実力者なら着崩れが起こる筈がない。
戦い方からして荒れてるな…。相当重症だ、これ。
とりあえず、タマフリと常備している薬草(回復薬ではない)を傷に塗り…塗ろうとしたら、拒絶されて薬草だけ奪われた。
……引き留めたとは言え、治療を受ける側のする事じゃねーな…。本当にこいつらしくない。
適当な木陰に腰を下ろして手招きすると、渋々と言った感じで隣に立った。
「…何の話をしたいんだ。姉妹の事情に嘴を突っ込むのは感心せんぞ」
軽い諍い程度なら何も言う気はなかったが、結界維持に影響が出かねない程なら話は別だ。聞いたぞ、橘花が引き籠ってるってな。
一体何があった?
桜花、あんたは橘花の姉で、神垣の巫女になった妹を守る為、負担をかけさせない為にモノノフになったと聞いている。
それが、何をどうしたら大喧嘩なんて事に?
「…………前の…」
前の? …前の、何だ? 以前に何かあったって事か?
「お前のせいだぁぁぁ!!!!」
うぉぉぉ!? こ、拳はやめろコラ! 外交問題に発展するやないけ!
「やかましい橘花を誑かした色魔など拳どころか刃の錆びにして当然だ! 貴様、橘花に一体何を吹き込んだ!? あの橘花がああも反発した上に貴様に恋文を認めるだと…そんな事がある筈がない! ある筈がないー! ミトメタクナーイ!!!!」
なんかキャラ崩壊するレベルで激昂し、無茶苦茶に拳だ足だを飛ばしてくる桜花。心なしか、目ン玉もぐるぐる状態になっているようだ。
大人しく殴られてやる理由も無いので適当にあしらって距離を取ると、その場で仰向けになってジタバタジタバタし始めた。完全に駄々っ子そのものだ。…おい、モノノフ主力級隊長…それでええんか…。
と言うか、橘花が恋文? 俺に?
…前ループならともかく、今回は1時間くらい面と向かって話をした程度だぞ。それで惚れる程、橘花もチョロインじゃないだろ。
と言うか、今までの経験から考えるに、もしそこまで橘花が吹っ切れて突っ走る状態になっているのであれば、恋文なんて事はせずに直接迫ってきそうだし…文の内容だって、恋じゃなくてプレイ内容リクエスト…。
…って、ああ、恋文ってアレか。俺宛じゃなくて、シノノメの里の雪華宛か。それを見た桜花が、何故か俺への恋文だと思い込んだと。
でもそれだけじゃ、橘花が引き籠る程拗れるとは思えない。
泣き喚く桜花を何とか宥め、もう少し詳しく聞きこんでみる。
ふむふむほうほう…。
成程。やはりと言うべきか、切っ掛けは俺と橘花の話っぽい。
事の始まりは、橘花が結界の強化を提案した事だった。俺との話から帰ってきてすぐの事だったようだ。それと同時に、護衛も付けず、行き先も告げずに出歩いていたのが発覚し、あわや大捜索が始まる直前だった。
自分の行動の為にそこまで大騒動になってしまったのは素直に悪いと思って、橘花も色んな人に謝り倒したそうな。内心で何を思っているかはともかく、里の重役である神垣の巫女に頭を下げられて、そうそう「許しません!」なんて言える人は居ない。
桜花はその「許さん!」を言える数少ない人間だが、橘花を溺愛しているからそこまで責める事はできなかった。
それでも多少はお説教をして、いつも通り出歩くなら護衛を付けるように言って、その場は解散。
…しかし、その時の橘花の表情は、物凄く不満と言うか、言いたい事を飲み干したのが一目で分かる顔だった。叱責するべきだったのは確かだが、少し言い過ぎたかと思った桜花は、その夜に橘花の部屋を訪ねた。
そこでまず気になったのは、橘花の机の上。橘花が妙に楽し気に、机に向かって筆を執っていた。
基本的に、里の中で手紙が用いられる事はない。何だかんだで狭い里だからね。例外は形として残すべき指令や書類の類くらい。わざわざ手紙を書くとすれば、ウタカタの住人以外に対して書面を送るくらいだ。そして、橘花は里の外に知人など居ない。桜花が入ってきたら、すぐに筆を置いて文を隠したのも気にかかる。一体誰に…?
それも気になったが、少し強張った顔の橘花と、腰を据えて話し合おうとして………そこから喧嘩に発展した。
…いやもう、売り言葉に買い言葉…だったっぽい。桜花も、勝手に出歩いた事に対する怒りが燻っていて、橘花は………単なる予測になるけど、俺との会話で感銘を受けて、その時に出来た地雷を桜花が思いっきり踏み抜いてしまったっぽい。
段々言葉がヒートアップしていき、隠した文が恋文の類だと思い込み、橘花が否定しても誤魔化しだとしか思わず…。
深夜のテンションも合間って、ドッタンバッタン大騒ぎになってしまったと。橘花の自室だったから、すぐ止められる場所に護衛が居なかったのも悪かった。
「どうして…どうしてこんな事に…。まさか、橘花が私に手を挙げるなんて……今までずっといい子で、私は何が何でもあの子を守ろうと心に誓っていたと言うのに…!」
四つん這いで地面をバンバン叩きながら、マジ泣きしている桜花。うーん、キャラ崩壊…。
それはともかく、こいつの言動からすると……大方、「お前は黙って守られていればいい」みたいな事を言ったんじゃないか?
「うぅ……うん? あぁ、言ったぞ。橘花は私が命に代えても守る。だから無茶な事や危険な事はするなと…。そうしたら、物凄い勢いで怒りだした。君達に会いに行くのは危険な事ではないとか、守られるだけなんて嫌だ、自分の道を切り開きたいとか、姉様だって戦えば怪我もするし負ける事もあるモノノフなのだから、それこそ命に変えてもなんて言ってほしくないとか…」
うーむ…見事にピンポイントで撃ち抜いておる。
モノノフなら無条件に自分で道を切り開いていける…という幻想から醒めて。
苦難の道と知りながらも、自分達で生活をよくして行こうとしている滅鬼隊員達に触れて。
新しい友人になるかもしれない相手への手紙を、何故か俺への恋文だと思い込まれて。
……それまでの橘花であれば、素直に頷き、モヤモヤしたものは胸の奥に沈めて、『良い妹』であろうとしただろう。神垣の巫女の運命を呪いながらも、その素振りを見せず、桜花は負けない、戦いに行っても必ず帰ってくると疑いもせず、不満は自分が我儘なんだと言い聞かせて。
で、それを放置しておくと、色々吹っ切れた時に反動でヤンチャになっちゃう訳ですな。特に尻に関して根性が入ってしまう。
うーん、しかしこれどうしたもんかな。
今までのループであれば、色事以外にも色々と遊び方を教えていたりしたもんだ。木登りとかね。
でもこれは気晴らしで終わる話じゃないし、終わらせるべきでもない。
切っ掛けはどうあれ、橘花、桜花の意識改変に繋がる出来事だ。さて、どうするか…どうするべきか…。
なんて考えていたら、途中から声に漏れていたらしく。
「やっぱりお前のせいかあぁぁぁぁぁぁ!!!! 妙な事を吹き込みよって!」
やっべ。
いやでも別に妙な事じゃないだろう。俺達はこういう風に立場と生活を作っているし、いくら桜花の決意が硬かろうと負ける事はある。負けたら鬼に喰われるのだって珍しくない。
それを橘花がどう受け止めて、何を考えて、桜花に反発するかまでは流石に面倒見切れんよ。
「やかましい! 私は負けん! 死なずに橘花を守る! 命に変えても!」
言ってる事が支離滅裂である。
「そして橘花が貴様に懸想しているなどみとめーーん!!!」
まだそれを引っ張るか。違う…と言いきれないのが困ったもんだが、恋文は普通に誤解なんだよなぁ…。
と言うかこれ以上話でも無駄だね、これ。完全に錯乱しとるわ。
「みと、み………・・・・・・ぃ…・・と・。・・・。。。。。」
取り敢えず張り倒して無力化させようかな? と考えていたら、急に桜花の顔付がおかしくなった。
刀に手をかけ、今にも抜刀しようとしていたのが、直立する事もできなくなって倒れ込む。
何とか意識を保とうとしていたようだが、その甲斐なく瞼が堕ちた。
…これは…六穂の仕業か。どうしたもんかと悩んでたが、助かったよ。
「別に……。若に何かあったら、私も困るし…それだけ…」
妙に気だるそうな口調で、風上にある木の陰から、滅鬼隊員が一人現れる。
彼女はの名は六穂。あらゆる毒を体内で作り出す事が出来る毒人間。
その能力を活用し、鬼を惑わす為の結界作りの一助になってもらっている。鬼にすら通じる幻覚薬等を作るのに、かなり苦労しているようだが…。
今回のコレは、睡眠薬の散布かな?
「ううん。鎮静剤…のつもりだったけど、思ったより効果が高かった」
…薬品の過剰摂取は死に至る事もあるので気をつけましょう。と言うか、位置的に考えれば俺も巻き込まれてんだけどね。
とりあえず、桜花を担ぎ上げる。流石にこのまま放置は出来ないから、隊員の寝床で少し寝かせておこう。
「若まで寝たら、誰か呼んで連れて帰るつもりだった………恋文がどうとか、何か青春的な話をしてたみたいだからちょっと苛々した」
…そういう話じゃなかったんだけどなぁ。
「はっ、どうだか…。恋人作って嬉しそうにしてる連中なんて、まとめて死ねばいいのに」
そんなリア充爆発しろみたいな事言われても。えらくやさぐれてるな。ウチの子にしては珍しいと言うかなんというか…。
「…何他人事みたいな顔してるのさ。死ねばいいのに、の筆頭の癖に」
文字通りの意味で殺そうと思ってるんじゃない事は分かるけど、天音とかの前で下手な事を言うなよ。キレて本気で殺しに来るからな、あいつ。
にしても、そこまで言う程の事か。いや確かに俺も昔は同じような事を思ってたけど。
「同じなもんか。若みたいな人に、私の気分なんて分からないよ。一生まともな恋愛も、彼氏も、子供だって出来ない私の気持ちなんて。…普段若がやってる事を私にしたら、皆死んじゃうんだよ」
あん? …ああ、そう言えば六穂の毒って基本的に体液だったか。体中が毒を生み出す器官として改造されている。
勿論、そんな女と交われば、普通は死ぬ。六穂が体液を調整してくれれば大丈夫だろうけど、文字通りの体内…子宮までは流石にコントロールできない。当然、子供を作れる望みは無いに等しい。完全に、致死性のハニートラップ専用として調整された子だった。
「別に、子供が欲しいと思ってる訳じゃないけどさぁ…。やっぱりこう、見てると羨ましくなってくるんだよ。こっちは人に触るだけでも一苦労だったり怯えられたりするのに、毎日毎日べったりねっちょり楽しそうにして…。一服盛ってやりたくなるよ本当に」
うん? 子供はいいのか?
「…女として欠陥品だって突きつけられてる気分なんだよ。相手も居ないのに、子供を作る事なんて想定してないよ」
まぁ、そうかもな。結婚している人だって、直に子供を作る事を考えるとは限らないし。
…詰まる所、六穂が現状で一番問題に思っているのは、子供云々じゃなくてその前段階が出来ないって事か。作り方の事じゃなくて、彼氏作って甘えたり一緒に遊んだりの青春をしたいと。
「……まぁ、そうかな。…なんだよ、若が相手してくれるの? 毒で死んじゃうよ。気持ちだけの慰めなんて要らない」
気持ちだけか、慰めかは一緒に来てから判断するがいい。立場と時間の問題で、中々一緒に遊びに言ったりできないのは申し訳ないけど、気兼ねなくべったりねっちょり出来るのは証明する。
体液が毒? 生憎俺には効かないね。戦闘中ならダメージくらいは受けるかもしれないけど、睦言の最中なら全て無効化できる。媚毒くらいかな、効果があるの。それも気持ちよくなる効果だけだ。
と言う訳で、六穂の腕を引っ掴み、執務室…正確にはその隣にあるヤリ部屋まで連れ込んだ。
口先では抵抗していた六穂だったけど、やっぱり俺に逆らうつもりはないらしい。
ハニトラ用の子だけあって、そういう行為に抵抗が少なくなっているのもあるだろう。
「仕方ないなぁ…。まぁ、若なら嫌っていう程でもないし…。でも、どうなっても知らないからね」
「んっ………ほら、接吻だけでもう痺れ……あれ、効いてない? ふーん、言うだけの事はあるんだ」
「あっ……………うん……いいよ。でも、こんな毒なんて序の口だから。倒れる前に辞めなよ」
「妙に落ち着いてる? 別に経験なんてないけど…前の記憶? 無いよ。処女だったのは若が起こしたんだから知って……んっ…」
「そんな所舐めて楽しい? んっ……ぼくは…ちょっと擽ったいかな」
「僕の汗の味? ……若、そういう趣味? でも、汗も毒だから、やり過ぎると本気で死ぬよ」
「……そこも、毒だよ。今は一応、媚毒に変えてるけど、どっちにしろ強力すぎて有害には違いないから」
「そろそろ効いてきたんじゃない? 無理せずに、さっさと辞めちゃいなよ。同情なんかで抱かれても、何も感じないよ………あ、あぅっ」
「この媚毒も、結構……強力、なんだよ…。作ったら、ちょっとぼくの体にも影響するくらい…。若が衣擦れだけで我慢できなくなって、悲鳴を挙げるのが楽しみだよ」
「……あれ? ひょっとして…本当に、効いてない? ぼくの体液、あれだけ舐めたのに? 今も媚毒と痺れ毒、出し続けてるのに?」
「ちょっ、愛液はまだ大丈夫だったけど、お尻に舌は! ぼ、ぼくの体内は本気で蟲毒状態だから! 洒落になってない! 若、死ぬよ!?」
「わ、わかった、わかったから…。無理してぼくを抱こうとしてるんじゃない事は、よく分かったから…あ、ああっ、お、お尻、駄目だ…」
「あ、あうぅ……なんか恥ずかしくなってきた……愛でられてるって思うと、体が火照る…………あ、これぼくの媚毒が自分にも効いてるのか」
「だ、だってこれ使うの初めてなんだから! 気付かなくても仕方ないじゃないか! あっ、ま、また汗を舐めて…本気で体中を舐め回す気だ、この人…」
「……え? …あの、ちょっと、なに、それ…。……霊力っぽい、触手? ……鬼の手…いや鬼だってこんなうねうねした手じゃないでしょ」
「体を舐められるぼくの反応が興奮する? ……いや…そりゃ、こういう事されるとは思ってなくて……普通の人だと、舐めたら死ぬし、そういう目的でしか触らせないと思ってたから」
「………だから……一斉に、体中を舐め回す? 鬼の手改め、鬼の舌? ………その触手…と言うか舌…で? ぼくの体を? 媚毒で敏感になってるのに?」
「唇も、耳穴も、おっぱいの谷間も、脇も、へそも、指の間も、毒塗れの体内も?」
「……………………ふ、ふひっ、ふへへへへ……………ど、どうしよ……怖いけど…すっごく、興奮する…! 舐められるの、好き、みたい…」
「うん、若の好きにして。ぼくの体は、全部若のものだよ。ぼくの体も、心も、毒ごと食べてくれる人…! もう、ぼくの事離しちゃ駄目だよ…。そうなったら、絶対一服盛って監禁しちゃうからね…」
「あっ…あっ、あっ! あぁぁ~~、あひぃぃぃぃ~~~………♪」
押し倒され、触手に絡みつかれ、松葉崩しで繋がる六穂の足が、ゆっくり天井に向いて、ピンと緊張。そのまま足の指をピクピクさせて、性感に溺れていく。
何故か部屋に飾られていた椿が、ポトリと花を落とした。