※この作品はR-18です。

狩りゲー世界転生輪   作:時守 暦

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第481話

 

 

 

 

 

 

 さて、開始時刻だ。

 とりあえず沙耶根尾はケツ引っぱたいて叩き起こし、向こうのチームに合流させた。まだ眠そうだ。…流石にリオレウスでも2発で眠る麻酔玉だし、人間相手に使うのってやばいかな…。

 まぁいいや、死んでないし。

 

 抜け駆けした沙耶根尾に対してヘイトが集まっているよーだが、寝惚け眼で聞いてないな。

 開始の合図である鏑矢を放ち、予定通りの進路を歩き始める。

 

 さて、奴らはどう出るかな?

 

 

 

 

 …なーんて言いつつ、もう予想はついてるんだけどね。

 早速当たっちゃったよ。

 悪い方に。

 

 

 開始地点からすぐ、それこそ目視さえできる場所に、彼女は居た。

 刀を持ち、何憚る事なく、単騎で堂々と立つその姿。長いポニーテール、切れ長の目、巨乳。

 

 言うまでも無い。この騒ぎの発端である(俺? 心の棚に上げています)凜子である。

 …元々、俺が強いのか知りたいって言ってたしさぁ…小細工なしでかかってくるかな、とは思ってただけど。

 

 一人…のようだな。伏兵の気配もない。周辺に小細工した痕跡もない。

 

 

「ああ。若の腕前を知るには、これが一番いいだろう?」

 

 

 折角ここまで話が大きくなったんだから、何か工夫しろよ…。せめて凜花と一緒に来るとかさ…。

 

 

「どっちが先に戦うか、かなり揉めたぞ。元々、若への手合わせは私が発案した事だからと押し切った」

 

 

 だからどうせなら一緒に来いよ。そうでなければ、隠し玉として潜んでおくとか。本当に真正面から挑んでどーすんだよ、俺を鬼と思えって言ったじゃないか。

 …ああくそ、もういいや。

 この子達がこういう、単純かつ自分の思った通りにしか動こうとしない子だって事は分かってた。まだ子供なんだから。

 それを加味して理解させられなかったのは、頭領として落ち度だと思っておこう。

 

 …だからこそ、猶更叩き伏せる。

 そーいうトコがあかんのやぞ、と骨身に染み込むくらいに、心折に捻じ伏せる。

 

 ちなみに、この会話中も歩みは止めてない。

 

「それに…正直な事を言うと、少々頭に来たんでな」

 

 

 ん?

 

 

「いくら相手が若と言えど、雑魚扱いされて黙っていられる程、私は大人しくないぞ…!」

 

 

 刀に手をかけ、構える凜子。

 ふん、一丁前に矜持が傷ついたか。

 上等、かかってこいや。

 

 

「いくぞっ!」

 

 

 刀を抜かずに走りだす。この子の戦い方は確か、タマフリを絡めた独自の剣術だった筈。

 抜き打ちか? いや、それにしては意識している間合いが遠い。それに、このミタマスタイルは…。

 

 

 凜子の考えに見当がついた時、既に彼女は行動に移っていた。…尤も、その先の行動は悪い意味で予想外だったが。

 まだ間合いに踏み込んでないと言うのに刀を抜き放ち、目の前に円を描くように振る。軌跡に淡い光が残った。

 

 

「逸刀流奥義!」

 

 

 誰が流派名付けたんだ、という疑問はさておいて、凛子はその光の輪に飛び込んだ。

 一瞬で姿が掻き消え、一拍置いて俺の真ん前に現れた。

 

 

「はぁぁぁぁぁ…胡蝶ら」目の前でわざわざ溜め作ってんじゃねーよ。「ごふっ!?」

 

 

 伝説の16文キックが直撃。顔じゃなくて鳩尾を狙ったのは、女の顔がどうこうではなく(無いとは言わないが)呼吸を乱すのにそっちの方が効果的だからだ。

 凛子は吹っ飛ばされて、ごろごろ転がった上に木にぶつかってようやく止まった。

 ゲホゲホと咳き込み、立ち上がる事ができないようだ。割と強めに蹴ったからなぁ。

 

 凛子がやろうとした事は、ゲーム的に言えば所謂「空太刀」と呼ばれる戦い方だろう。

 縮地による緊急回避と、縮地に絡むスキルによる攻撃の強化。スタミナの回復で、会心率を上げて延々と攻撃するってやつだ。

 ゲームシステム的な表現はともかくとして、この戦い方、実際に出来ない訳じゃない。と言うより、割と実用性は高い。敵の攻撃を避け、隙だらけになった瞬間にバフ付きの攻撃を叩き込める訳だからな。

 

 が。

 

 

 真顔で聞くが、何だってわざわざ相手の間合内で動きを止める。

 縮地で間合いと拍子を狂わすのは、まぁ分かる。一瞬で敵の懐に潜り込む、不可解な移動方法で敵の不意を付く。普通は真正面じゃなくて死角から狙うけど、縮地は方向までは変えられないし、正面だからこそ意外性があると言うのも、一理はある。

 が、それなら相手が対処できるような間を空けるでない。

 

 何だよ、縮地→溜め→攻撃って。普通、溜め→縮地→攻撃だろ。

 安全地帯で攻撃の準備をして、敵の攻撃を回避しつつ接近、至近距離から最大威力を叩き込む。普通はこうだって…。

 理想を言えば、相手が防御できないくらいに武器を振った瞬間に縮地を使って、移動直後に刃が減り込むようにするのが最上かな。

 溜めを敵の間合内で行うなら、せめて攻撃を誘導して空振りさせる為の囮くらいは用意しろ。

 

 …ふむ、まだ立ち上がれないか。思ったより強く減り込んだしな…。

 そのままそこで休んでろ。お前達の脱落基準は無いから、動けるようになったら追いかけてきな。その時はせめて背中から襲い掛かるなり、誰かと協力するなり、もうちょっと頭使ってくれる事を祈るよ。

 

 

 

 無理に動こうとしては力尽きる凛子をそのままに、俺はまっすぐ進む。尚、解説の途中も足は止めていなかった。

 さて、次はどう出るかな?

 凛子がいの一番に待ち構えていたと言う事は、二番手として凛花も控えているだろう。戦いにもならなかった様子を見て、多少は意識を切り替えてくれるといいが。

 

 

 

 それから進む事少し。具体的には、まだ倒れている凛子が目視できるくらいだ。

 空気に妙な匂いが入り込んだ。煙の匂いだ。

 風上には何もない。毒の類を散らしている訳じゃないし、何かが燃えている気配もない。

 

 ただ不自然に、煙の匂いだけが流れて来た。…そして、この匂いに混じる人肌…女の匂い。

 …そうか、姿を隠して奇襲するくらいの事は考えてくれた訳か。

 

 背後からの風切音。迷うことなく手を伸ばすと、金属質の手応えが返って来た。掴み取って手の中を見れば、そこには手甲がある。モノノフの武器である、一般的な手甲。

 俺の手から逃れようとガチャガチャやっているので、望み道理に地面に放り、飛び上がろうとしたところを思い切り踏みつけた。

 …ちょっと地面に亀裂が入っちゃったけど、手甲は地面に減り込んで動けなくなった。

 それを放置して、また前に進む。

 

 暫くガタガタ動いていたが、諦めたのか静かになる。そして、手甲の隙間から煙が立ち上った。

 

 

「いやはや…凛子が一発であしらわれたから、想像以上だとは思ったけど…どうやって気付いたの? 煙は出来る限り薄くしていたつもりだけど」

 

 

 予想通りに凛花が現れた。彼女の特殊なタマフリは、体の一部を煙に変える事が出来る。…鬼にも見られない能力だが、滅鬼隊を作った連中はどうやってこんな能力を付け足したんだろうか。…こういう事が出来る鬼が、どこかに居るのかもしれない。

 煙だけなら、見落としたかもしれないな。薄い煙に混じって、肌の匂いがした。

 

 

「肌の…?」

 

 

 女の肌の匂いだ。煙になっても、その辺に漂っている匂いまで消える訳じゃないんだろうな。煙と一緒になって漂ってきたって訳だ。

 

 

 

「…つまり、若が私の肌の匂いを………………………うん……いい、かも…」

 

 

 うぉーい。

 

 

「はっ!? い、今のは無しで…。と、とにかく一手手合わせ願うわ!」

 

 

 妙な性癖に目覚めているのは珍しくないとして、仕込は最初の奇襲だけか。

 もうちょっと工夫してくれんものかね。何だってこう、正面から堂々と挑もうとするかなぁ…。滅鬼隊って、一般人にもモノノフにも隠れて活動させられていた、隠密部隊の筈なのに。

 

 

「私達は忍びじゃなくてモノノフなんだし、隠密が性に合わないのは仕方ないんじゃないの。勝てなくても正面から…なんていうつもりはないけど、これは模擬戦。凛子だけ若と一対一で戦ったなんて、ずるいでしょう? 負けられないの、あの子には」

 

 

 そこを張りあってどうするんだよ。負けないってんなら、あいつがやらなかった他の人達との共闘でもやってみせろよ。

 

 

「そこは大丈夫。事の発端になった人間の特権として、最初に一人で挑んで、その後合流するって事で話がついてるから」

 

 

 …っとに…。強くなる為に、負けを承知で挑む気か。

 だったら猶更、勝ち筋を探して来いっての。ただ負けただけで経験を積めると思ってるなら大間違いだ。

 

 俺の愚痴は置いといて、凛花は既に構えをとっている。

 と言っても、片腕の手甲は俺の背後に転がって…いや埋まっているので、武器を備えているのは片手だけ。

 煙になった状態では、あまり力は強くないんだろうか。生身で思いっきり引っ張れば、引っこ抜ける程度にしか埋まってない筈なんだけど。

 

 

 凛花は格闘戦を仕掛けてきた。初手は手甲による打撃ではなく、モーションの大きな飛び蹴り。

 女性とは言え全体重+手甲の重さを乗せたそれは、普通の人間ならまず受け止められないだろう。でも俺は片手で余裕です。

 足を掴み取ろうとしたが、それは予想の範疇だったのか、トンボを切って逃げられる。

 俺の背後に着地して、正拳、ローキック、裏拳と連続して仕掛けてくる。

 正拳は振り返りながら掌で受け止め、ローキックは足裏で受け止め、裏拳はパリィしてカウンター。腹に一発入ったが、致命ではないな。ブラボ式内臓攻撃はまだ習得してない。

 

 反撃を受けた事で、一旦飛び退く凛花。追撃は余裕だったが……ルール上、それはできないんだよなぁ。

 

 

「…若、ひょっとして一定以上の速度を出したら負けって…」

 

 

 うん、追撃でも、高所からの飛び降りでも、移動は移動だからね。ゆっくり移動する事しかできないから、高速で逃げ回られるとどうしてもなぁ。

 ま、それでも負ける気がしないから、こんな勝負にしたんだけど。

 

 

「言ってくれるわね、本当に…! 危なくなったら、私達は逃げればいいって?」

 

 

 奥歯を食い縛り、怒りを堪える凛花。こりゃ素直に距離を取ろうとする気はないな。

 ちなみに、この間も後ろ向きで里に向かって進んでいます。足を止める気一切ナシです。

 

 俺が足を止める気がないのに気付いたのか、凛花は逆に俺の進行方向に戻った。意地でも正面からぶつかり合うつもりらしい。

 手甲攻撃を奥の手とし、素手での攻撃を仕掛けては弾かれる。

 俺が進んだ分だけ後退し、それでも挑んでくる。……何か仕掛けるつもりだな。しかし、恐らく成功しても殆ど意味は無い。…凛花の能力と戦術は、ひどく噛み合っていない。浅黄も、さっさと指摘してやればよかったのに。

 

 凛子もそうだったが、とにかくこの二人は弱くはない。弱くは無いが、自分のスペック通りの戦い方しか知らないんだな。…滅鬼隊を設計した連中、本当に机上の空論ばっかりと言うか…

 それでも下手なモノノフより強いんだからタチが悪い。とにかくこの子達の現状での強みは、ハイエンド個体一歩手前まで強化されている身体能力な訳だ。

 

 まぁ、何にせよ。

 

 

「喰らいなさいっ!」

 

 

 これ以上退けないと判断した凛花が勝負に出た。手甲がついてない腕を裏拳で振るう。俺がガードしようと腕を挙げた瞬間に、拳を煙化させてスルー。フェイントに引っ掛かった俺の腹に、本命の手甲攻撃。

 膝で受け止めようとしたが、これもフェイント。こっちの腕も煙にして、手甲が明後日の方向に飛んでいく。

 

 次の瞬間、俺の死角から手甲が頭目掛けてすっ飛んできた。前からの攻撃と見せかけて、不意を突いて後頭部を狙った訳だ。

 

 ただし、二つともあっさりと掴み取ったけどな。

 そう、二つ。一つは今正に放り投げた手甲。もう一つは、さっき俺の後ろに回った時、足先だけで密かに手甲を地面から引き抜いていたのだ。

 そして最初のフェイント…裏拳と同時に煙化させた腕を伸ばし、手甲を掴んで同時攻撃と。

 

 

「ぐっ…全て読まれていたと言うの…」

 

 

 別に読んでないな。背後からの風切音で、二つ投げられたのが分かっただけだ。

 それで? まだ仕込はあるか? お前の武器はもう二つとも俺の手の中。ま、自分から武器を手放すような攻撃は、まともに考えれば悪手中の悪手。最後の博打か悪足掻きが普通だけどな…。せめて手甲に爆薬でも仕込んでれば面白かったんだが。

 徒手空拳でやるかい? 

 

 

 と言うか、こんなのに当たったところで大した意味はないぞ。いくら手甲が重いっつっても、この程度の速度じゃたん瘤くらいしか出来ないよ。

 

 自覚があるのか無いのか知らんが、その煙化能力は打撃には向いてない。

 当たり前だよなぁ? 本来なら全身を通して増幅し、伝える力の流れが、煙になった体で上手く伝わる筈もない。その状態で繰り出されるのは、手首だけで相手を殴るのと大差ない攻撃ばかり。手甲を使ってるのは、武術が得意だからと言うのもあるが、分離した体の貧弱さを補う為。それなら、投げつけるよりは振り下ろした方がまだ良かったかもね。

 

 何にせよ、人間相手ならまだしも、鬼が相手じゃこれは攻撃に使えない。火力が足りん。

 これを有効活用しようと思ったら、人間相手であれば手甲なんぞ使わず急所に一撃するか、腕から先だけで使える締め技関節技でも覚えろ。富獄の兄貴なら、その手の技も知ってるだろ。

 鬼が相手なら、こっそり近付いて小細工とか、誘い出しかな。誘い出しは本気で重要だぞ。同じ場所に大型鬼が2頭いるだけで、物凄い勢いで話がややこしくなる。それを引き剥がせると言うのは、下手な攻撃力よりよっぽど重要な…。

 

 

 って、逃がすかボケ。

 

 

 

 べらべら喋ってる間に、近くの茂み(つまり規定ルート外)に逃げ込もうとした凛花の後頭部に、手甲を思いっきり投げつけた。

 

 

 

 たん瘤作って茂みから下半身だけ出して倒れている凛花は放置。規定ルート外だからね、介護しようとしたら負けちゃうからね、仕方ないね。…鬼の手で引っ張ればいい? 許可取ってようと、単身で突撃してくるアホの子は知らんわ。

 つーか、滅鬼隊にまでも討鬼伝の悪しき伝統・単騎特攻の癖が染み込みつつあるな…………いや、染み込む以前に元々だわ。頭滅鬼隊だわ。…この表現だと、モノノフも頭滅鬼隊になるのかな。討鬼伝世界の住人全てが頭滅鬼隊…………この考えはやめよう。

 

 

 

 

 

 さて、とにもかくにも2人片付いた。また復活してくるけど。

 単騎特攻したのは発起人の特権みたいな事を言ってたから、ここから先は徒党を組んで、褒賞目指して工夫してきてくれるだろう。

 

 さぁ、あの子達はどう出るか。

 滅鬼隊じゃないモノノフ達は、どう知恵を貸してくれるか。

 実に楽しみだ。

 

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