※この作品はR-18です。

狩りゲー世界転生輪   作:時守 暦

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第486話

 

 

堕陽月弐拾溌日目

 

 

 囮作戦に参加していた子達も含め、滅鬼隊・ウタカタのモノノフを総動員する。

 神垣の巫女による結界が無くなった以上、別の防衛方法が必要だ。俺達の住居の近くにのみ設置していた鬼を惑わす罠を、ウタカタを囲むように設置していく。

 言うまでも無く大仕事だ。六穂なんかは、毒の作りすぎでグロッキー状態になってしまった。

 

 そもそも罠自体、まだ大規模運用が出来る程の完成度には至ってない。それでも無いよりはいいという判断で設置を進めている。

 当然ながら、和気藹々と作業できている訳じゃない。

 うちの子達は、壊された家を見て少なからずショックを受けていた。家の中にあった私物が壊れてしまった、という子も居る。……雪風が「あたしの宝物がー!」って叫んでたな。その宝物の内容は、ビー玉、蝉や蛇の抜け殻、メンコ、その他諸々……夏休みの子供みたいだ。

 

 特に険悪な空気を撒き散らしているのは、言うまでも無く桜花である。

 元々、囮作戦はともかく、千里眼を使う事には反対していたからな。いざ使ってみて、橘花が倒れたと知らされると…そりゃもう凄い取り乱しようだった。

 「それみた事か! だから私は反対したんだ!」と口には出さないが、不満を抱え込んでいるのは明白だ。その不満の矛先は、囮作戦の決定を下した大和のお頭に向いているのか、提案した橘花自身か、或いはその切っ掛けになった俺か……負担を強いる事を是として止めなかった、里自体か。多分、自分でも分かっていないだろう。ただやり場のない、行き場のない苛立ちと無力感に苛まれている。

 

 

 

 

 さて、近付く鬼を切り払いながら、罠を設置し続けている訳ですが…その間に、昨日の顛末を記すとしよう。

 時間的には昼過ぎ頃。想定していたよりも時間はかかったが、囮作戦は無事終了の報せが飛び込んできた。

 これに、一同湧きたったのは言うまでもない。

 ウタカタとしてもウチとしても、少なくない戦力を注ぎ込んでの大作戦だったからな。それに加えて故意が偶然か、手薄になった滅鬼隊住居にカウンターまで喰らったのだ。これで敗走してくるようでは目も当てられない。

 

 結果としては、囮作戦は上手く行ったと言えるだろう。

 今回のループでは策を逆手に取られて待ち伏せを受ける事もなく、一体ずつ釣れる鬼を的確に狩る事が出来た。時々、誘導にしくじって2~3匹同時に釣ってしまう事もあったが、そこは動員した人数を活かして分断し、各個撃破。

 鬼達に対して、このような計略が非常に有効な事を実証できたし、戦術的にも戦略的にも勝利。重症人も居ないしね。

 

 

 だが、大和のお頭に言わせると、最も重要なのはここからだ。鬼に対して痛手を与える事が出来たのは喜ばしいが、この囮作戦の真の狙いは敵の情報を得る事にある。

 橘花が千里眼を使う起点となる鬼の部位。そこから読み取れる情報次第なのだ。こればかりは、実際にやってみないとどうにもできない。博打の領分だ。

 

 

 その部位の到着を待つ為、俺達は橘花の元に集まり、皆の帰還を待った。…橘花は手紙について、あれも書けばよかった、これも書きたかったと懊悩していたが…まぁ、好きにさせてやろう。心配していた桜花達も無事に戻ると分かり、浮かれていたんだろう。

 

 出撃部隊が戻って来たのは夕刻。多少の傷と、顔色に疲労の影はあるが、皆誇らしげに胸を張って帰って来た。

 胸を張れるような戦果を挙げられたんだろう。運動会で優勝した子供達を見るような心持になった。

 

 

 …その誇らしさも、自分達の寝床がかなり壊れている事に気付いた途端に吹っ飛んだけどね…。

 すまない、間抜けな頭領で本当にすまない…。

 

 

 

 

 うちの子達の事は、一旦置いておく。皆を存分に労ってやりたかった…エロい意味じゃない、とにかく褒めて休ませてやりたかった…のになぁ。

 皆が持ち帰って来た鬼の部位は多岐に渡った。それだけ討伐した対象が多かったと言う事だな。

 クエヤマの角やらミフチの鎌やらヒノマガトリのトサカやら、ミズチメっぽい尻尾、キンキラの手鉤…コガネムジナかな?…とか、大きな棍棒(多分、ヤトノヌシの武装)とか…。

 

 さて、ここで問題となったのは、橘花がどの鬼の部位に千里眼の術を使うか、と言う事だ。

 千里眼の術も、そう気軽に使えるほど負担の軽い術ではない。雪華のような例外を除けば。

 術を使いましたが、有効な情報は得られず疲れただけでした…では、皆も命を張った甲斐が無い。とは言え、さっきも書いたように、どれから何が得られるかは全く未知数で。

 

 

 さてどうしたもんかと悩んでいたところ、速鳥がもう一つ報告があると言い出した。

 囮作戦が上手く行っても帰還が遅れたのは、この報告について調べていた為だ。

 

 曰く、囮作戦のさ中、遠い場所で轟音が立て続けに響いたのだそうだ。さらにその方角から、尋常ではない光が何度も天を刺した。

 一体何事なのか。囮作戦を継続すべきか、切り上げて戻るべきか、かなり揉めたが…最終的な結論は、速鳥が戦線を離れ、単騎で調査に向かう事となる。

 

 だから単騎特攻はヤメロと……まぁ速鳥にだって言い分はあるだろうけども。一切戦わず、気配を消して調査のみと言う事であれば、確かに速鳥一人の方が動きやすかろう。

 囮作戦の真っ最中で、あまり戦力を減らす訳にもいかなかっただろうし、かと言って近場で異変が起こっているなら作戦の妨げとなる可能性もある。放っておくわけにもいかない。

 

 

 しかし、そんな光だの轟音だの、気付いたか? と大和のお頭に聞いてみると、

 

 

「俺も全く覚えが無いな。しかし、その現象が発生したのは、囮作戦を行った異界の、更に奥の地区だ純粋に音や光が届かなかった可能性もあるし、領域の区切りでそれらが掻き消されてしまった可能性もある」

 

 

 との事。

 ああなる程、異界の領域端から隣接した異界を見ようとしても、全く見えないどころかその領域の景色が続いているように見えるもんな。異界の空間が歪んでるって言っても、大概にしてほしいもんだわ。

 

 話を戻して、速鳥として、調査にそう時間はかからないだろうと思っていた。奥地から音が聞こえたと言っても、同じ異界領域の中だ。辿り着くまで大した手間は必要ない。

 

 

 と思っていたら、何と異界は領域を超え、その更に向こうの領域から聞こえていた。

 隣の領域…つまり…古の領域から。

 

 

 

 

 …この辺で、俺、表情筋を意図的に殺し始めた。

 

 

 

 近付けば近付く程、速鳥の本能が危険を知らせる。光が天に立つ毎に、破砕音が響き渡る毎に叩きつけられる憤怒の波動。それは速鳥をして、その場で犬死する事を覚悟する程だったそうだ。

 

 退くか、進むか。

 

 二択を迫られた速鳥は、進む事を選んだ。もしもその波動の持ち主が、里に近付いてきたら……どうにもならない。例えウタカタの全戦力、新たに加わった援軍(つまり俺達)の力を叩きつけても里の崩壊は免れないと判断した。

 ならばこそ、速鳥は死地へ踏み込む。例え自分が死ぬのであろうと、その情報だけでも得て、持ち帰って伝えさせる為に。

 

 その判断の是非、考え方はともかくとして、結果的には速鳥は最良の選択をし、最高の結果を得たと言えるだろう。

 心臓が止まった上で自壊しそうな怒気と殺気の中、速鳥は見た。

 

 

 

 古の領域の中、荒れ狂う荒魂を。

 人とほぼ同じ程度の体躯しか持たないと言うのに、一瞬で鬼を斬り伏せ、緑の閃光で吹き飛ばし、銃のような腕から光弾を乱射する。

 腕が口のように変化し、巨大な鬼すら頭から喰らい尽す。

 邪魔する者は鬼だろうが建造物だろうが地形だろうが躊躇いなく捻り潰し、足蹴にしたツチカヅキを馬代わりに使い、用済みになれば極めて惨たらしく殺す。

 逃げようとした鬼を、同族の悲鳴で引き留めて、纏めて捕らえた後は目の前で一匹ずつ嬲り殺し。

 凄まじく鋭い感覚の持ち主らしく、術を使って隠れている鬼まで看破し、一刀の元に引きずり出し、或いは遠距離で逃げようとする鬼は長距離射撃で四肢を一つずつ吹き飛ばす。

 そして最後の最後には、天へ向けて撃ち放った光が巨大化して落下してくると同時に、鬼本体の全身から溢れ出る緑色の光が世界を満たして………

 

 

 そこで速鳥の意識は途絶えた。

 目を覚ました時には、目の前に広がるのは瘴気すら無く、鬼さえも立ち入らない正しく死した大地。気を失っていた速鳥が活動限界を迎えなかったのは、瘴気が吹き飛んでいたから。鬼の胃袋に納まらなかったのは、その鬼が逃げ出していたからだろう。

 瘴気は残っていなかったが、そこかしこに緑色の燐光が舞っており、それに触れると下手な毒よりも早く体が蝕まれてしまう。速鳥は近付くだけで嘔吐感すら覚えたようだ。

 

 屍山血河すら消え失せ、悪夢だったのかと疑うも、別の意味で悪夢のような光景を目の前にして速鳥は思う。悪鬼羅刹とはかくあるものか。

 そう述べる速鳥は、明かに体が震えていた。

 

 大和のお頭曰く、

 

 

「…これまでで最も危険な鬼だな。何よりもその残虐性と知恵が。明かに、一匹でも鬼を多く殺し、苦しめる為の計略に基づいて動いている。あまつさえ、立ち去った後に強力な毒?を残す。更に、何処から来て何処に向かったのかも分からん。里の近くに潜んでいるとすると………これは恐ろしいな」

 

 

 せやな(震え声)

 し、しかし鬼を狩る鬼とはねぇ。まるでモノノフみたいだなー。

 

 

「あれは…狩り等ではござらん…。ただただ苦しめ無に還す、処刑…いや、獄門装置。特大の伽藍の洞に、悪意と害意のみを詰め込んだ、鬼ですら恐れる魔物にござる…」

 

 

 えらい言われよう…もとい、言いようだな…。

 

 

「…貴殿も一度目にすれば理解するであろう。あれは……敵としてであろうと、関わってはならぬものだ」

 

「…速鳥、その鬼や異界消失について、誰か知っているか?」

 

「秘匿しております。幸い、合流した時には作戦も終わり、戻らない拙者を探しに来ようとしていた時でござった」

 

「心苦しいと思うが、その情報は今は伏せておけ。ただ特別危険な鬼が近くに居る、という情報だけは共有しよう。そして速鳥、お前は暫く休め。自覚はしていると思うが、今のお前は平常心で戦えん」

 

「御意。では、拙者はこれにて」

 

 

 速鳥は踵を返して立ち去った。平静を装っているが、消耗しているのは明らかだ。……天狐でも嗾けて、元気付けてやるべきか…。

 

 

「…どう思う?」

 

 

 え? あ、あぁ、えーっと、鬼について?

 

 

「それもあるが、異界消失についてもだ。速鳥が見た鬼が近くに居るとして、何故瘴気を消し飛ばすような事をする? 鬼にとっては、清浄な空気よりも瘴気に満ちた空気の方が住みやすい筈だ」

 

 

 …いきなり妙な事気にするな。そういう鬼も居るんじゃないか? 

 例えば………そ、そう、異界を喰った、とかな。

 

 話を聞いてみれば、とてつもなく強い力を持った鬼らしいじゃないか。その力の源が、異界を一つ丸ごと吸収する事だったりすれば、辻褄は合わないか?

 

 

「ふむ…それは、異界を浄化できる術者としての観点の意見か」

 

 

 そう深く考えてる訳じゃないが。方法はどうあれ、俺は異界を消滅させる事ができた。他に出来る奴が居るかも、と考えた事もある。

 それが鬼だと言うのは、ちっと予想外だったが…。

 

 ただ、異様に強い力を持ってる奴ってのは、大概何かしらの下地があるもんだ。

 人間だってそうだろう? 強くてしぶとい体を持ってる奴は、何でも食えて何でも栄養に変えられて、そして腹いっぱい食える奴だ。

 鬼だって変わらない。でっかくて頑強な餌を食って、戦って、それでようやく体が強くなる。

 異界を一つ消し飛ばすような力を持っている奴が、普段何を喰ってるかって考えると…。

 

 

「これまで、その鬼が確認されなかった事についてはどう考える?」

 

 

 これも大した根拠があっての考えではないけど…単純に未確認の鬼、と言う事ではないかな。

 異界、瘴気を喰ってそこまで強くなる鬼だぞ。栄養豊富な食い物も、強力な外敵も居る環境に生息していたと思うべきだろう。つまり、人間が立ち入れないような濃い瘴気が満ちた場所…異界の奥の奥、或いは『向こう側』だ。

 何でそいつが、こんな所に迷い出てきたのかは…正直分からん。

 

 

「向こう側…鬼達が本来生息していた場所、か。確かに、それは『ある』と言われているが、その場所を確認した者は居ないからな。どこまで行っても、想像と妄想の域を出ない。…今は、これ以上考えても仕方ないか。詳細な情報は口外するなよ」

 

 

 分かってる。うちの子達、悪い子じゃないんだけど頭が軽いから、何かの拍子に漏らしそうだもんね…。

 …一番頭が軽いのはお前だって声が……これは、自責の念? …違うか、のっぺらミタマ達が無い口揃えて叫んでいるだけだ。

 

 

「ともあれ、今日の話はここまでだ。これから、橘花に千里眼の術を使ってもらう。悪いが退去してくれ。余人が居ると、その縁に阻害されて術がかかりにくい事もあるらしいのでな」

 

 

 あの術にそんな設定が。…まぁ、別にいいけどさ(さっさと逃げたいし)。

 と言うか、どの鬼の部位に術を使うのか決めたのか?

 

 

「ああ。大きな棍棒にする。武器を使うだけの知能があり、巨大な棍棒を振り回す腕力。戦闘力で考えれば、確実に上位に食い込む鬼だろう。指揮官と言わずとも、それに近い地位にある可能性は高い」

 

 

 そうか。いい情報を得られる事を祈っているよ。

 

 

 …ヤトノヌシは、確かオオマガトキを守る結界を張っている鬼の片割れだった筈。正確に言うなら、その結界を張る為の塔を守る鬼。…この時点で討たれているって事は別個体なんだろうけど、塔に関わっている可能性は充分にある。

 諸々のイベントをすっ飛ばしているのは気になるが、情報が得られるのなら、悪い展開にはならないだろう。

 

 そう考えて、俺は早足にならないよう気を付けながら、大和のお頭の前から立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 セェェェーーーーーッッッフ!!!!!

 

 

 

 大丈夫、気付かれてない!

 流石の大和のお頭も、人間が異界を消し飛ばすような鬼になると言うのは想像の埒外だったか。

 もしもバレていたら、どうなっていた事か。最悪、冗談抜きで化け物認定され、討伐対象にされていたかもしれない。いくら大和のお頭が剛毅とは言え、全力出せば里を数瞬で灰に出来るような危険物を受け入れてくれるとは思わない。

 殺そうとしてきたら全力で反撃、追放されればその辺を放浪して自棄になって何をやらかすか分からない、下手をすると迫害した連中を恨んで敵対…うん、我ながらどうしようもないね。

 うちの子達は…どうだろうなぁ。今まで色々交流して、刷り込みやエロ以外での信頼関係も築きあげてきているという自負はあるが…事が事だもの。

 

 

 はー、過去がイビルワームのように地面の下から這い出てきた時はどうなる事かと思ったが、何とか助かったな。

 ここはもう、証拠隠滅とか余計な事は考えず、大人しくしらばっくれておけばいいだろう。下手な動きは怪しまれるだけだ。

 幸い、証拠となるようなものは何も残ってないような状況だ。何もしなくても、俺に繋がるような手掛かりは残っているまい。(慢心)

 

 寝床の家屋も応急処置はできたし、今日はもう寝てしまおうと家路についた。

 

 

 

 

 

 大きく伸びをして欠伸した時、背後から扉が閉まる音。

 振り返ってみると、受付所…今まで俺達が居た場所だな…から速鳥が出てくるのが見えた。あれ、おかしいな。しばらく前に出てきていた筈だが…雪隠で唸ってたのかな?

 

 俺が見ているのに気付くと、速鳥は軽く目礼し、そのまま立ち去ってしまった。なんだったんだろ…。

 

 

 

 

 

 

 

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追記

 

 

 思えばこの時、速鳥を問い詰めていれば、こんな事にはならなかった…いや、根本的な問題はもっと前だけど。

 別に、速鳥が悪かったって事じゃないんだよ。あいつはただ報告しただけだ。その報告の一部を忘れていて、俺が去った後に戻って来た。…タイミングが悪かったな。

 仮にその場に居合わせたとしても、何が出来たって訳じゃないと思うけども…。

 

 

 

 

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 そして、俺が家に向かって歩き、今頃大騒ぎしていそうなうちの子達をどう宥めるか考えていたら。

 

 

 

 結界が消えました。

 

 

 

 

 最初は首を傾げた。停電でもあったのかな?なんて間抜けな事を考えたくらいだ。

 数分待っても再起動せず、これは本格的にヤバいんじゃないかと思い始める。

 

 結界が消えた事に鬼達が気付けば、ここぞとばかりに押し寄せてくるだろう。

 うちの子達は常在戦場とは言えないし、何より直した家に居るのは囮作戦に行っていて、受け入れ先がまだ決まっていない子達ばっかりだ。つまり疲弊している。

 家の中で爆睡していて、結界が消えた事に気付いてないかもしれない。

 だが、鬼達はそこまで探知能力が優れている訳ではない。あっちも異界消失の余波でかなり混乱しているだろうし、今すぐ押し寄せてくる可能性は低い。

 

 

 橘花は一体どうしたんだ? 結界を張る事ができない程、千里眼の術で疲弊したのか?

 いや、確かに負担はかかるらしいが、結界を張れなくなる程ではなかった筈。精神的な余裕もあるし、色々負担をかけるイベントも回避されてきたので、まだ余裕はあった筈だ。

 しかし、実際に結界は消え、復旧する様子も無い。

 橘花に何かあった? しかしそれを確認したとして、俺に何が出来る?

 

 

 逡巡している間にも、俺の足は方向を変え、橘花の居る場所に向いていた。

 どちらを選んでも正解か分からないなら、少しでも早く済む方に向かう。そのまま鬼疾風で、里の中まで爆走した。

 

 

 

 結論から言えば、橘花は気絶していた。半狂乱になった桜花が揺さぶっているが、富獄の兄貴に羽交い絞めにされ、那木の診察の邪魔にならないように退かされた。

 

 

「お頭! これは一体どういう事だ!? 橘花に強い負担がかからないのではなかったのか!」

 

「俺にも分からん。橘花には確かに充分な余力があった。しかし千里眼の術を発動した途端、金切り声を挙げて気を失ってしまった」

 

「分からんで済むか! くっ…那木! 橘花の様態は!?」

 

「…気を失っているだけ、のようでございます。ですが、術をおかしな形で中断してしまった為か、心の臓が早鐘の如く…。このままでは…」

 

「対処法は!?」

 

「この症状のみであれば、特効薬の作り方を知っています。ですがすぐに目覚めるものでもなく、何よりも材料が足りませぬ…」

 

 

 …ひょっとしてキツネ草? だったら、ちょっと古い奴が手元にあるけど。

 

 

「いえ、確かにあれも特効薬となり得ますが、これとはまた別の症状でございます。必要な素材は、薬剤庫に二つ…三つ…せめてあと4つ必要です」

 

 

 見本が一つでもあれば、うちの鹿之助に探させる。すまん桜花、大和のお頭の家に居る筈だから、叩き起こして来てくれ。

 桜花は扉を蹴り破って出て行った。とにかく動かしてた方が気も紛れるだろう。

 

 俺は里の防衛に回る。鬼達に、結界が消えた事を気付かれるのも時間の問題だ。結界に頼らず鬼を惑わす方法も研究してたから、そいつを使って里の防備を固めよう。

 

 

「うむ、頼む。この際だから大砲や火薬を使っても構わん。他に隠し玉があっても、今回は不問としよう」

 

 

 あいよ。……ん?

 

 

 確認するべき事は確認した。橘花意識不明、命の危険はあるが対処は可能、外敵による昏睡ではなさそう。となれば、後は目覚めるまで待つしかない。

 踵を返し、疲れ切ってるであろううちの子達にムチ打つ覚悟を決めた時、橘花の手元からコロリと何かが零れ落ちた。

 

 

 

 それを目にした瞬間、内心で総毛だった。

 …欠片…と言うか、牙。すごく見覚えのある牙。自分から見る事はあんまりないけど、どういう物なのかはよく知っている。

 

 

 

 や、大和のお頭…速鳥…それは…。

 

 

「…貴殿も気付かれたか。この欠片が放つ、ただならぬ圧力に…。正にその通り。この欠片は、拙者が報告した例の鬼の部位と思われる」

 

「お前が帰った後、速鳥が戻ってきてな。例の場所で、一つだけ見つけたそうだ。手掛かりになるかと思って持って帰って来たそうだが…確かに、言われてみればただならぬ力を感じる」

 

 

 

 

 

 

 …俺の神機の牙だよ…。

 

 

 え、ちょっと待て、まさかコレに千里眼かけたのか!?

 

 

「いや、考えはしたが、意味が無いと思って止めた。この鬼はどう考えても、鬼達の中でも異質な鬼だ。まともな情報が得られるとは思えん。予定通りに棍棒に使ったよ。だが、何故か様子がおかしくなった橘花が、これに向かって手を伸ばし、そして気を失った」

 

「これに手を…? …失礼します。…………駄目です、分かりません。恐るべき力を感じはしますが、私も見た事がありません。どのような鬼なのか、検討も…いえ、それよりも橘花様がこれに手を伸ばしたのは、何故…」

 

 

 千里眼の術を使った途端、だったな。これに何か感じ入る物があったんだろうか?

 ……心当たり、あるなぁ。山ほどあるなぁ。

 大和のお頭もさっき言ってたが、千里眼の術は近場に強い縁を持つ者がいると、それに阻害されるだか引っ張られるだかがあるらしい。別ループとは言え、橘花とは散々体を貪り合った仲だ。縁があるという意味では、とっても強いものだと思う。

 

 つまり…俺の欠片が千里眼の術を邪魔してしまった?

 そして、橘花が見たのは…どっちだ? 前のループで色々エロエロねっちょんねっちょん、尻穴穿りまくってヒィヒィ涎塗れで悦んでいた時分の姿か? それとも怒りのあまりに異界をまとめて滅尽滅相する鬼の姿か?

 過去視にしても、近い時間から順にみていきそうだけど…………うぅむ、前者なら橘花が今回ループも色欲に目覚めるかもしれん。後者であれば、俺の存在がトラウマになりそうだ…いや、これが俺だと言うのは気付かれてないのか。

 

 

 

 そ、そいつについて調べるのは後にしよう。今は防衛が最優先だ。

 多分、前線に張り付きっぱなしになると思うから、用事があるなら状況が落ち着いてからにしてくれ。

 こっちの里で預かってもらってる、囮作戦に参加してなかった子達にも、動けるようになり次第参加するように伝言を頼む。

 じゃーね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …そして、予想通り寝惚けていたうちの子達を叩き起こし、今に至る。

 全員爆睡していたのではなかったのは、せめてもの救いか。念のためと言う事で、里で預かられていた子の一人が見張り役を買って出ていた。その子が四苦八苦しながら、眠っている子達を起こそうとしていたんだが…相当疲れてたんだろうなぁ、みーんな爆睡爆睡爆睡。

 …いや、今にして思うと、疲れていたからって一人も起きないっておかしくないか? まさか……?

 

 いや後回し後回し。取り敢えず今は罠を張り、こそこそと近付いてきた偵察と思われる鬼達を斬り伏せる。

 結界が消えた事を、それこそ人間が張った罠だと思わせるのだ。一匹も戻ってこなければ、『何かある』と思う筈…。

 まぁ細かい事はいいや、とにかく目の前の鬼を斬れ!

 

 

 ヒャッハー皆殺しだぜぇ! なんかテンション上がって来た!(自暴自棄)

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